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シナリオ詳細

<天使の梯子>神の国は桜雲にあり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 小さな溜息がローレット内で溢れた。
「どうしたの、ジルーシャ」
 元気がないねと問いかける劉・雨泽(p3n000218)は言葉だけ。ちらりとジルーシャ・グレイ(p3p002246)へ視線を一度向けただけで、すぐに手元の資料へと視線を落とす。忙しいのだろう。
「いえね、アスワドは今頃どうしているのかしら、って」
 ――アスワド。先月『帳』の下りた村の孤児院で助けた黒翼の子。
 白を象徴とする天義において黒は不吉な存在であったため、大人にたらい回しにされたあげく、入った孤児院では子どもたちに距離を置かれていた子どもだ。けれども彼は自分だけが飛べるからとひとりで助けを求めに行こうとし――そうしてワールドイーターに痛めつけられたのだ。
「ああ、あの子。大丈夫だよ」
「そうなの?」
「うん」
 文字を追っているせいもあって、雨泽からの言葉はそっけない。
 しかし、ジルーシャは彼が案外真面目なことを知っていた。
 初めて会ったのは二年前の春。事件を終えた後も彼はひとりで一年アフターケアに回り、翌年の藤まつりに誘った。
 夏、練達の事件ではジルーシャが気にかけた時には既に『カイナギさま』へのアフターケアを終えていた。
 そんな彼が『大丈夫』と言うのだ。大丈夫なのだろう。
「天義騎士団の新しい制服、見た?」
「黒いの? ピシッとしてストイックで素敵よね」
「うん。騎士団に入りたいんだって」
「アラ、応援したくなっちゃう」
「でしょ」
 小さく笑った雨泽がトンと指先で机を叩いた。懸念することは幾つもあるだろう。孤児が騎士団に入ることが容易では無いことを知っている。出来れば後ろ盾は欲しいし、剣を始めとした武芸の師匠も欲しい。本人の志だけではどうしようもないことなぞ、この世にはごまんとあるのだから。
「よし。じゃあ、お仕事の話をしようか!」
 手にした資料の読み込みを終えた雨泽が、トンと紙束の角を揃えた。

 ――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。
   我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

 天義に降った神託は箝口令の敷かれたが――波紋を呼んだ。
 ある日、遂行者と名乗る仮面の男がこう嘯いた。
 ――『正しき』天義。厳格なる神への、決して揺るがぬ忠誠と信仰とともに、絶対正義と汚れなき『白』の都――『絶対正義圏(オリジナル・ジャスティス)』をここに顕現させる、と。
 そうしてその日、天義の巨大都市――テセラ・ニバスに、『帳』が下りた。

「此処までが先日までのこと」
 と、区切るのは『新しい出来事』が起きたということだ。
「リンバス・シティの調査を行ったところ、不可思議な新たな領域を見つけたんだ」
「不可思議な領域?」
 首を傾げるあなたへ、えーっとねと雨泽が順を追って説明する。
 リンバス・シティと呼ばれるものは『帳』が定着してしまった場所で、新たな領域――『神の国』と呼ばれる場所は、『まだ現実に定着していない』領域なのだ。時間を掛けて定着することにより、それは第二・第三のリンバス・シティと成り得るのだ。
「調査によって『核』の存在が確認されているよ」
「つまり、それを?」
 答えは出ていることにあなたが問いかけるのは、それを『回収』だったら困るから。
「勿論。探し出して破壊してきて」
 猫のように目を細めて笑った雨泽は、できるよねとあなたたちへ首を傾げてみせたのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 舞台は、天義は神の国。ずずいと調査に参りましょう!

●目的
 聖遺物の破壊

●シナリオについて
 出現している『神の国』には梯(道)が存在します。そこからしか出入りは出来ません。
 神の国の調査をし、聖遺物を見つけ出して破壊することが目的となります。
 神の国では普通に暮らしている感じの人間に遭遇しますが、彼等の生死は問いません。放っておいても回収されない限り(神の国の核を破壊されれば)神の国とともにその内消滅することでしょう。
 遂行者が作っているようなので、邪魔をしちゃいましょう!

●フィールド『神の国』
 視界の殆どが桜雲に染まっています。
 どことなく豊穣郷を思わせる街並みに、至るところに美しく桜が枝を広げています。町ひとつ分程の広めのフィールドとなります。
 調査が上手く行った場合、藤色の桜があることに気付けます。明らかにおかしいので、そこに聖遺物があると思うことでしょう。ですが、調査がおざなりであった場合、藤色の桜までたどり着くことはできません。
 この地は遂行者達の為の場所でもあるため、外で出てくる時よりも敵が強くなっています。

●エネミー『影の天使』 ?体(倒して暫く経つとリポップ)
 祈る仕草の形の影で出来た天使たちです。外で出てくる時よりもかなり強化されています。
 神の国の中をウロウロしています。多分巡回をしているのでしょう。しっかりと調査をすれば順路がわかります。影の天使に見つかった場合、2Tごとに天使たちが召喚されてきます。
 見つかった後でしたら天使間で遭遇した人物の情報が共有されて敵性存在だと認められるため、エネミーサーチが有効になります。
 また、聖遺物に接近した際も破壊阻止のために出現します。聖遺物への接近時は破壊を急いだほうが良いでしょう。

●聖遺物
 神の国の核となっているものです。
 それは天義から奪われた物かもしれませんし、遂行者がなにかしらの事情で持っていた物かもしれません。
 形状不明。ですが、神の国には必ずあります。

●住人
 地の国(現実世界)に居る人の姿をした住人たち。あなたの知っている人の姿もあるかもしれませんが、それは本物ではありません。彼等は地の国を参照し、コピーされた存在です。(ROOのNPCのような)
 少しお話が出来ます。丁寧な対応で対話を望むと「先生」「神殿が」「あなたも信者ですか」等の単語が出ます。
 時間をかけて定着する事によって、無抵抗な異言使いとなります。

●『先生』
 人々が『先生』と呼ぶ存在。既に居ないようです。
 他の神の国を作りに行っているのかもしれませんね。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <天使の梯子>神の国は桜雲にあり完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ

リプレイ

●桜雲の国
 美しい桜色が広がっている。遠くから、もしくは高い山などから見れば、きっとそれは桜色の雲のように見え、幻想的に映ることだろう。
「ほぉ、随分と風流な神の国だこと」
「ここが『神の国』……」
「『神の国』って、どこもこんなに素敵な景色が広がっているのかしら」
 神の国へと続く梯を通って足を踏み入れたイレギュラーズたちもまた、ほうと溜息をつくほどに。
「件の聖遺物とやらと……地理の把握もした方がいいな」
「ニルもファミリアーを呼びますね」
 拙者もと『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が鳥を、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は烏と猫、『あたたかな声』ニル(p3p009185)は二羽の鳥ファミリアーを呼び出し、いっておいでと送り出す。
 ひとつの視界が広がるだけでも脳は疲弊するというのに、みっつの視界に超視力と透視……それはどれほど脳に負荷を与えるものだろうか。そのためウェールと――それからニルは、安全そうな場所に身を潜めて探索を行った。
 ふたりの姿が視界に入る位置で『闇之雲』武器商人(p3p001107)も広域俯瞰で神の国を見下ろした。『神の国』というだけのこともある程に美しく、観光にはもってこいの景色。――けれども、桜というものは儚く散るのがさだめである。
(リンバスなんちゃらだの帳だの神の国だのよくわかんねえけど、鉄帝国の敵って事でいいね)
 広域探索に意識を集中させる仲間を守るためにも、幾人かが周囲の警戒に当たっている。
『何やら順路があるようでござるな』
 祈る人の影をした怪物(モンスター)『影の天使』が通り過ぎるのを物陰に隠れてやり過ごして動向を伺う『おチビの理解者』ヨハン=レーム(p3p001117)に、咲耶がハイテレパスで声を掛けた。
 近くには『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の姿もある。作られた世界だからか精霊の気配がひとつも無く、眉を寄せていた。
 探索を少しすれば、イレギュラーズたちは異変さに気がつくだろう。
『おかしいね』
 ハイテレパス持ちが話しかけねば念話は始まらない。武器商人がニルとウェールへ順番に話しかけると、同意が返ってくる。
 ――おかしい。
 おかしいのだ。
 それは桜であふれていることに対しての思いではない。
「――ッ、ぐ!」
「ウェールさ――ああッ」
 突如、ウェールとニルから悲鳴が上がった。
 ちょうど身を潜めながら歩き回って探索をしていた『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)と『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)が戻ってきた頃のことだった。ぐらついたウェールとニルの身体を、ふたりは素早く支えた。
「何が……」
「大丈夫か?」
 ヴェルグリーズと獅門が声を掛ける。
 周囲は武器商人が見ている。近くに影の天使の姿はない。
「…………っ、ファミリアーが」
「……影の天使に殺された」
 ニルの頬に透明な雫が伝った。繋がっていたために共有された死に値する痛みよりも、鳥が死んでしまったことが悲しくて。
 おかしさに、気付きだした頃だった。
 ――この世界は、生命の気配がない。
 住人以外の動物が存在していないのだ。桜は咲いているのに、蜜に集うハチもいない。
 そのため、空飛ぶファミリアーは影の天使から『異物』に見えたことだろう。見つかり次第、すぐに排除されたのだった。
 遠くまで足を運んでいた獅門とヴェルグリーズが戻ってきたため、ファミリアーを殺されたふたりの休息も兼ね、一行は一度集まることとし、そうして持ち寄った情報を共有した。
 まず、影の天使には決められたルートがあり巡回していること。そしてそのルートから外れた場所に潜んでいる場合は、見つからない。つまり、今いるこの場は大きな音を立てねば見つからない。
 次に、大きな建物があること。その建物は透視できなかったこと。
「……住人たちの出入りのある、目立つ建物だ」
「我(アタシ)も確認したよ」
 頭を押さえながらウェールが告げれば、いくつかの頷きが返ってくる。
「影の天使の巡回コースになっていたよね」
「どちらかというと起点というか……」
「そうね、守っている感じだったわ」
 それ以外は桜雲一色で、怪しいものはない。
「中に入り込むしかなさそうだな」
「ニルは住人の方のお話も聞きたいです」
 もう大丈夫なのかと問う咲耶に、ニルがしっかりと頷き返す。
「そうね、接触してみましょう」
 けれども全員では接触前に影の天使に見つかるだろうし、住人を怖がらせるかもしれない。そのためイレギュラーズたちは半数ずつに別れ、住人たちに接触してみることにした。

「ハァイ、こんにちは。今日はとってもいい天気ね」
 影の天使の姿が見えなくなった隙を見計らい、ジルーシャたちは住人へと近寄った。何人かへ声を掛けてみたが、ぼんやりとした顔で歩き回るだけの人形のような反応のない者が殆どだった。きっとまだ『定着』が進んでいないのだろう。
 しかし、此度声を掛けた住人は違った。住人は、ジルーシャの言葉に瞳をぱちくりとさせた。人間味があり、普通の人間と何ら変わらない反応。どうやらこの神の国はいつでも『いい天気』ならしく、反応が少し遅れたような表情をしている。
「もし、そこのお方。少し道を訪ねても宜しいか? この町へは来たばかり故、よく知らないのだが……礼拝をする場所への道を教えて頂いても宜しいでござろうか」
「ああ、巡礼者の方ですか。ようこそ、皆さんを歓迎します」
 咲耶の言葉に得心したように笑む。
「巡礼者。ああ、そうとも言うのかな」
 断言はしない。けれども話を合わせた武器商人の言葉を住人が『そう』と受け取れば、『そう』なるのだ。後に言った言わないの問答をするわけではないだろうから。
 笑みを向けた住人は「では神殿に案内しましょう」と歩き出し、案内を断るのも不自然になるとイレギュラーズたちは顔を見合わせてからついていくことにした。
「残念なことに、今は『先生』はいないのですが……」
「先生?」
 ジルーシャが首を傾げるが、住人は「ご存知でしょう?」と微笑むだけだ。礼拝場所を尋ね『巡礼者』であると話を合わせた以上、『先生を知らない訳がない』のだから。
「待て」
 ファミリアーで警戒を続けていたウェールが短く静止の声をあげる。
『うん、来ているね』
『影の天使が近付いてきている』
 武器商人の視界とウェールの視界に、影の天使が入った。情報は武器商人と咲耶を介してその場に居る四名へ共有される。
 ――逃げるべきか、戦うべきか。
「どうかなさいましたか?」
 先導していた住人が、不思議そうにイレギュラーズたちを振り返る。
 身体を横にずらしてウェール等の視線の先を見、それからああと頷く。
「『異教徒』から私達を守るための護衛の天使様ですか?」
 けれど、それが何か? 他の神殿や先生の側にも控えていたでしょう?
「いや……」
『いざとなれば我(アタシ)が引き受けるよ』
 言いよどむウェールの前に、武器商人が進み出る。咲耶もいつでも動けるよう、密かに武具へと指を滑らせた。
 住人と話している最中に影の天使と遭遇した際の行動を考えていた者はいない。どうすべきかの判断がつかなかったが、倒しても逃げても住人から『異教徒』と思われるのは必然だろう。
 さあ、どうするか――。

 一方、別の場所。
「よう、こんにちは。いい天気だな」
 獅門が他の住人へと接触を試みた。
「はじめまして、ニルです。ここはきれいなところですね」
「こんにちは、初めまして。巡礼者の方ですか?」
 続いてニルもぺこりと頭を下げて挨拶すると、住人は穏やかに挨拶を返した。
「巡礼者? すまない、迷い込んでしまったのだが……」
「いや、旅の者だ。ここは綺麗なところだな。桜も見事だ」
 ヴェリグリーズが嘘と本当を半分混ぜ、腹芸が得意な方ではない獅門は思った通りに伝える。ニルもうんうんと大きく頷いて、綺麗なところだというのに同意を示した。
(この手のヤツは何か間違った事を言うとろくな事にならない気がするし、皆に任せておこう)
 ヨハンは静観の構えだ。嘘と見破られた時、無害そうな人が怪物に変じる――なんて昔話や伝説、怪談なんてものはこの世にごまんと溢れている。
 自分たちの住まう場所が綺麗だと褒められれば悪い気はしない。住人は柔らかな笑みを浮かべながら頷いて、イレギュラーズたちへ応じる。
「そうなのですね。でしたら、尋ねたいことがあれば私たちに気軽に尋ねて下さい」
 答えられる範囲になりますが、お答えしますよ。
 そう言って微笑む住人は、とても親切だ。
(普通の人間と変わらないな……)
 地の国を参照してコピーされた存在だと知らなければ、普通の血肉の通った人間だ。しかもちゃんと感情も自律性もあるように思えた。人と、変わらない。そしてこの人たちは、神の国の消滅とともに消える存在だ。あまり感情移入はしない方が良いのかもしれない。
「ここに来たばかりなので、ニルは何を教えてもらえばいいのかわかりません」
「さっき巡礼者って言っていたけれど、ここに住んでいる人たちとは違うのかい?」
「私は元よりこの地におりますが、巡礼者は外から来た信者をさします」
「信者さん、ですか?」
「俺たちみたいに外から来る人は結構いるのか?」
 ヴェルグリーズの言葉に住人が答え、ニルと獅門が素直に首を傾げる。
「私たちは神の使徒たる『先生』の教えに共鳴を受けた者。ひとつの神殿に居る者もおれば、教えを広めながら神殿間の移動する者も居ります。……ここは新しい神殿なので、お客様は皆様が初めてです」
 淀みなく答えるその住人は定着率が高いのだろう。
「先生……?」
 神の国と称しているのだから、神殿で崇める神を祀っていてもおかしくはない。けれど、『先生』とは何なのだろう。話の感じ的には先生と言うよりも――
「先生は奥ゆかしい方で、教祖と呼ばれると恥ずかしいとのことなのです」
 ですから私たちは先生とお呼びしています。
 微笑む住人に、なるほどと獅門が顎を引く。
「先生には、どこに行ったら会えますか?」
「今は留守にされていますよ。他の神殿へ足を運んでいるのでしょう」
 一介の信者では、教祖の動きを知りはしない。住人の推測にすぎない話だ。
「神殿か。こんな見事な所にいるならきっと素晴らしい神様なんだろうな」
 何処に在るんだ、見てみたい。言葉遣いを丁寧にしなくとも、嘘をつこうとしなかったり貶めようとしている気持ちが無ければ、住人も穏やかで丁寧だ。「よければご案内しましょう」と先導を買って出てくれ、四人は素直にその背に従った。

 影の天使は住人に無害だと思われながら接してる間は襲ってこないのか、ウェールたちへ襲いかかってくることはなかった。
 咲耶等は住人へ案内され、神殿へと向かう。
 思った通り、上空からの透視では見られなかった場所だ。
「お。旦那たち?」
「アラ?」
 静寂が下りた神殿内で掛かった声に、一行は同じ場所へ辿り着き、合流が叶った事を知った。
 素早く咲耶と武器商人がハイテレパスでヴェルグリーズ等と情報を交わそうしたが――叶わなかった。神殿は先生と呼ばれる『遂行者』が建てたものであろうから、敵対存在への何らかの対策が為されているのだろう。
 しかし、視線を交わすだけで伝わるものがある。
 何らかの対策をするほどに大事な場所。即ち、聖遺物は此処にあるのだろう。
「お知り合いですか?」
「ええ。梯で会って」
 仲間だとは口にしない。片方は旅人、片方は巡礼者なのだから。
「祈りの間へとご案内しようと思いますが、ご一緒でも大丈夫しょうか?」
 ニルたち旅人側の案内をしてきた住人が、ウェールたちに問う。
「構わない」
 ジルーシャ、武器商人、咲耶も頷き返し、住人が頭を下げた。
「では、こちらが祈りの場です」
 住人は奥へ奥へと向かっていく。
 廊下を進むと、急に視界が開けた。
 室内でありながら、緑が広がっている。この神殿の殆どの面積が使われているのだろう。とても広い空間だった。
 春を凝縮したように桜花の園が広がり、中央には桜の大木が鎮座していた。その桜の色は――
「……なんて美しいのかしら」
 アタシと同じ色。
 ジルーシャの声が僅かに震えていた。この直感は、確信に近い。
 次々にイレギュラーズたちが感嘆の声を上げたから、住人たちも笑顔だ。
「祭壇の奥へは行かないでくださいね」
 住人が見守る中、イレギュラーズ等は祭壇へと近づき――目配せをし合う。
 誰もが『此処に聖遺物がある』と感じていた。
(不味いな……)
 聖遺物を破壊したら逃げる算段をしていたウェールだが、室内となれば話は別だ。警備的な観点からいっても、出入り口は今くぐった扉ひとつだろう。
 影の天使が駆けつけたら倒していかねば道は拓かれない。
 それでも――イレギュラーズたちは、祭壇を乗り越える。
「!? 何を……!」
「天使様、異教徒がここに!」
 住人たちが高い声を上げた。同時に、影の天使たちが室内に召喚される。
「俺は聖遺物を……!」
 咲耶とヴェルグリーズ、ニルは振り返ること無く紫の桜へと駆けていく。
「我(アタシ)たちが抑えるよ」
「アンタたちにとっては大事なものでしょうけど……ごめんなさいね」
 他のイレギュラーズたちは影の天使たちの相手だ。身体を反転し、探索の邪魔にならないように、またこの閉鎖された空間に影の天使が増えすぎないように殲滅していかねばならない。
「はあ。やっと暴れていいわけだ。オーケー、始めよう」
 回復は任せてくれていい。
 ヨハンの手の上で『魔極寓喩偽典ヤルダバオト滅IV』の頁がバタバタと捲られていく。

(いっそのこと木ごと攻撃してもいいんだが……)
 ウェールは影の天使を相手取りながらチラと考える。何らかの術で大木が守られていて通らない可能性もある上に、大木の周囲に居るヴェルグリーズたちに退いて貰わねばならない。
「あったか?」
「いいえ、ありません……!」
 ヴェルグリーズの声に、土まみれの手でニルが汗を拭う。背後からは戦闘音。ヨハンが全員を倒れないようにと奮闘し、武器商人が引き付け、ウェールとジルーシャ、獅門が戦ってくれている。
 早く聖遺物を見つけて破壊しなくてはならないのに、桜の木の周囲をぐるっと廻ってみても、地面を掘ってみても、それらしきものが見つからない。咲耶がジッと見ても木に何かあるのは確かだという気持ちは浮かぶものの、それ以上がない。
 されど、こんな大きな木である。人の手の届く場所に大切なものを隠すだろうか? 
「拙者は登ってみるでござる!」
 ヒョイと身軽に咲耶が大木に登った。滑らかな幹は生き生きとし、生命力を感じる。
(しかし『命』を感じぬのよな)
 外は美しい桜雲の国。白い建物ばかりで美しく、人々に飢えは存在しない。
 けれども、それだけだ。鳥もいない、虫もいない。コピーされた人しか作られていない。
 美しいだけの、まやかしの国。
(――ん)
 洞(うろ)を見つけた。大木は生き生きとしているからか、酷く不自然だった。
 手を突っ込んでみようとし、穴が小さいことに気付く。
「ニル殿!」
「はい!」
「手をお貸し願いたい」
 素早く飛び降り、ニルを抱えてまた登る。
「ニル殿、その樹洞に手は入るでござるか?」
「ん……。はい、いけそうです」
「何かありそうか?」
 ん、と眉を寄せて難しい顔をしたニルが、パッと表情を明るくする。
「あっ、硬いものが……掴めました!」
「では!」
 何かを掴んだニルの体ごと、咲耶が持ち上げる。
 ニルは自身の手が樹洞から抜き出ると同時に、手にした硬質なものを木の下で『神々廻剱・写し』をスラリと抜いたヴェルグリーズへと投げた。
 ――一閃。……に見える、目にも留まらぬ多段斬り。
 キンと甲高い音とともに、聖遺物――紫の宝石が嵌ったゴブレットは両断された。
「聖遺物の破壊、成功です!」
「っし!」
「後は此処が崩れるまで持てばいいな……!」
「我(アタシ)はまだまだいけるよ」
「ふふ、心強い言葉ね!」
 恒よりも強化されている影の天使たちであったが、武器商人は幾度も膝を付きながらも立ち上がっていた。
「セーイブツ様は簡単にぶっ壊れてくれたんだ?」
 やっぱりありがたい壺だのうさんくさい像だのの類だったんだ。範囲攻撃に巻き込まれる仲間たちの傷を癒やしながらも、大したことないねとヨハンが笑った。
「すまない、待たせた」
 ヴェルグリーズ等が駆け寄れば、これより先は桜雲の神の国が消え去るのを待ちながら立ち回るのみだ。
「遅めの花見ができたのだけは良かったぜ」
 地の国(現実世界)――獅門の故郷では既に桜は散っているから。
 視界から淡紅色が薄れていくのを感じながら、獅門は豪快に大太刀を振り回す。
 桜の季節の終わりを告げるように。

成否

成功

MVP

幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

状態異常

なし

あとがき

藤色の桜がどこにあるかを敢えて伏せたマスコメでした。
住人たちは神の国とともに消滅し、皆さんは神の国消滅とともに入る前に居た場所へと帰還しました。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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