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シナリオ詳細

<ラドンの罪域>竜の威光を!

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ザビアボロスという一族
『ヒトが『ラドネスチタ』の地へと向かったそうだな』
 ピュニシオンの森の奥深く。怨毒の漂うその地にて、『ザビアボロス』はそう声を上げた。
 例えるならば、石造りの神殿とでも言うべき場所。半ば朽ちたそのエリアは、『ザビアボロス』という一族が代々支配する地であり、怨毒みつる地であるがゆえに、その眷属でもなければ、竜ですら立ち入らぬ危険地帯でもある。
 ザビアボロス、とは『一族の名』である。今声を上げた『ザビアボロス』は『先代』に当たり、当主の座を今代、つまり『ザビーネ=ザビアボロス』と名乗る個体に譲ってなお、それを凌駕せんほどの強力な力と威圧感を秘めていた。
『愚かなものだ。ラドネスチタの黒霧は、我らの毒に勝るとも劣らぬ力。ヒトなどがどれだけ集ろうとも無益だというのに』
「おっしゃる通りに――」
 女が頭をたれた。厳密に言うならば、女の姿を撮った竜である。ザビーネ=ザビアボロス。つまり今代のザビアボロスだ。
『よもや貴様、何か手を出そうとは考えてはいまいな』
 ぴしゃり、と先代が言い放つ。ザビーネは静かにうなづいた。
「まさか。我々が手を出さずとも、ラドネスチタの力だけで充分人は阻めるでしょう」
『――やはり。貴様、何か思い違いをしているな』
 わずかに、怒気がこもる。
『阻める、等と遜るな。そも、ヒト如きが竜に挑戦することが不遜である。
 阻める、だと? 我々がヒト如きの動きに『応じる』必要はない。ただそこにあるだけで、ヒトなどは踏みつぶせよう』
「お言葉を」
 ザビーネが深く頭を下げた。
「誤りました。申し訳ございません」
『……まぁ、よい』
 先代が、静かに息を吐いた。
『貴様はまだ若い。ゆえに、竜としての矜持もまだ未熟かもしれぬ。
 だが、竜という存在の意義を忘れらるな。我らこそ、すべての生命の頂点に立つものであるぞ』
「重々に――」
 ザビーネが、深くうなづいた――。

 とは、いうものの、とザビーネは思う。先代の間より去り、その毒の威光がわずかに離れし場所。籐椅子に腰かけながら、ザビーネは嘆息した。
 本当に、大丈夫なのか。
 それは、竜にはあり得ぬ『不安』ないしは『期待』である。竜が、『ヒト』に何らかの可能性を見出すわけがない。その必要はない。竜とはすなわち、『すべてを超越した存在』なのだ。そこに『ヒト』が含まれることももちろんであり、竜にとってヒトとは、歯牙にもかけぬような存在でしかない。
「ですが……アウラスカルトは離反し、事実私たちは二度の『撤退』を余儀なくされた……」
 その言葉を、ほかの竜は認めぬだろう。また、クリスタラードのアルティマも手痛いダメージを負ったと聞く。となれば、『何か、不安のようなもの』を、その若き竜が抱いたとしても不思議ではあるまい。
 とはいえ、これもまだ『竜の傲慢さ』の上に成り立つ不安であった。人間基準で例えるならば、例えば『屋根裏で物音がする。アライグマでも入り込んだかな』といったものである。この場合、人間はアライグマを『対等の脅威』とは認めまい。本気を出せば容易に蹴散らせる、ただ生活圏に入り込んだ害獣にすぎない。ザビーネの『不安』というかそういったものは、人間が『害獣』に抱くものと同等であるといえた。『害虫』から『害獣』にランクアップしたのは喜ぶべきであろうか。なんともいえぬがさておき。
「……いますね? ストイシャ」
「……はい」
 そう声を上げ、暗闇より現れたのは、些か顔色の悪い青髪の少女である。背の翼、そして尾。それは『亜竜種』のようであったが、しかしそうでないということは、この地に亜竜種が気軽に入れる場所ではないということから察せられた。つまり、彼女も竜であるのだ。しかも、ヒトの姿を撮れるということは、将星種『レグルス』に属する強力な竜である。
「……お姉さまに置かれましては、ご、ご機嫌麗しゅう」
「世辞はよいです。ヒトでもあるまいし」
 ザビーネはそういった。
「事情は聴いておりますね? ラドネスチタの地に、ヒトが赴くようです」
「む、むえき、ですね」
 ストイシャが言った。
「あ、ヒト如きに、あの地は抜けられません」
「そう思いますか?」
「あ、え、ごめんなさい、違いましたか?」
 ひ、と悲鳴を上げるストイシャに、ザビーネは頭を振る。
「いいえ。あなたは竜でありながら、今一つ自信がないようですね。
 まぁ、それはよいのですが。
 もちろん、ヒト如きに、かの地は抜けられません。それは、事実。
 ですが、ヒト如きに、我らが地を荒らされるのは業腹です」
 ふ、とザビーネが息を吐いた。
「見せつけてきなさい。竜の威光を。そして、二度と、ヒトが我らが覇龍の領域で思いあがらぬよう、その恐怖を骨の髄までしみこませてきなさい」
「あ、は、はい!」
 ストイシャが勢い良く頭を下げた。それから、とたとたと走り去っていく。ザビーネは、それを見ながら、ふむ、と嘆息した。

●ラドンの地
「ここがピュニシオンの出口、か」
 仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がそういう。
 黒の霧に満ちた異形の地である。うっそうと生い茂った木々は、どこかおどろおどろし気な印象を与えた。
「クソトカゲの領地にも似た感じだな。あっちの方がよっぽど気味が悪かったが」
 アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)がそういうのへ、新田 寛治(p3p005073)は、ふむ、とうなづいた。
「ザビーネ=ザビアボロスですね。彼女もまた、この地にいるのでしょうか?」
 そうつぶやいた刹那、一陣の風が走った。イレギュラーズたちが身構えた次の瞬間、上空より飛来する、5の翼。そして、一人の少女――。
「ひっ」
 現れた少女は、イレギュラーズたちの顔を見た刹那、気味悪げに悲鳴を上げた。
「ほ、ほ、ほんとにヒトだ……初めて見た……。
 こ、こ、ここ、こんなんなんだ……」
「……竜ッスね。油断しないでください」
 イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が、静かにそういった。
「しかも、あの『怨毒』の臭いがするッス……ザビアボロスの眷属ッスね?」
「ひっ、しゃ、喋った! 怖い……!」
 怯えるように言う少女に、アルヴァがわずかに気を抜く。
「……本当に大丈夫か? 人型になれるってことは、将星種『レグルス』級なんだろ……?」
「油断するなよ。ああいう手合いをかつての世界でも見てきた。ああいうのに限って、意外とやる方なんだ」
 汰磨羈がそういうのにうなづくように、少女はゴクリとつばを飲み込んだ。
「い、いいい、如何にも将星種『レグルス』、ストイシャです。
 ざ、ざざ、ザビアボロス様の眷属で、その、えっと、皆さんを駆除しにまいりました……!」
 そう声を上げた瞬間、五体の亜竜が、ストイシャと名乗ったレグルスを守る様に、イレギュラーズとの間に割りいった。
「こ、ここ、この子たちはグラウ=グラノスという亜竜で……ヒ、ヒト如きが勝てるわけがないので、ど、どっかいってください!!!」
「……なるほど、障害、ッスね」
 イルミナの瞳に、何か黒いものが燃え上がる。
「ザビアボロスの眷属というのなら容赦する気はないッス。
 邪魔をするというのなら上等。そっちこそ、怪我で済むとは思わないことッスね」
「ひぃ! だ、大丈夫かな?! 嚙みついてこないかな……!?」
「……我々を害獣か何かだと思っているようですね。そこは、さすがに竜の傲慢さというべきか」
 寛治が声を上げた。
「まぁ、いいでしょう。イルミナさんのおっしゃる通り――妨害上等。我々は、この先に行かねばならぬ理由がありますから」
「さ、ささささ、さぁ、お、お、おいでなさい! 竜の威光、みせてあげましょう!」
 いずれにしても、ここを突破しなければ、未来はない。
 イレギュラーズたちは身構えると、竜との戦闘にうつる――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ザビアボロスの眷属たちを撃退します。

●排他制限
 こちらのシナリオは、『<ラドンの罪域> 人の可能性を!』と同時に参加することができません。
 予めご確認の上ご参加ください。

●成功条件
 すべてのグラウ=グラノスを撃破し、レグルス・ストイシャを『撃退』する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●状況
 ラドンの罪域。ピュニシオンの森出口付近を、皆さんは探索しています。理由はもちろん、ピュニシオンの森の踏破の為です。
 しかし、ここで竜側からもアプローチがありました。ザビアボロスの眷属を名乗るレグルス・ストイシャという少女が現れたのです。
 少女と言えど、将星種『レグルス』を冠する竜。撃破は無理でしょう。ただ、相手はどうにも『気弱』な竜のようです。予想外の反撃を受ければ逃げ出す可能性は十分にあります。
 ですので、ここは全力で迎撃し、道をこじ開けてやりましょう。
 作戦決行タイミングは昼。ただ、周囲は薄暗く、黒い霧がかかっています。視界を確保できるようにした方がいいかもしれません。

●エネミーデータ
 亜竜・グラウ=グラノス ×5
  ザビアボロス一族の眷属である亜竜です。一見すると黒竜のようにも思えるほど強靭な外見をしています。
  グラウ=グラノスは前線での攻撃を担当する、前衛アタッカーになります。
  強烈なポイズン・ブレスと、出血を誘発するほどの鋭い爪や牙、攻撃を受けたものを吹き飛ばすほどのしっぽでの薙ぎ払いや体当たりなど、強力な攻撃を行ってくるでしょう。
  半面、動きはいささか鈍いです。回避・命中などが不得手なため、そのあたりをついてやると有利に戦えそうです。

 将星種『レグルス』・ストイシャ ×1
  竜の威光を示す、と現れたレグルス級ドラゴンです。見た目は幼い少女で、たどたどしい喋り方と陰キャっぽい感じ、自身のなさげな様子を見せますが、皆さんなら、それに騙されることなく、その強烈な力を感じ取っているものと思います。
  何せ純粋な『竜』ですので、『撃破は無理』です。特に、強力な亜竜とセットですので、今回は『追い払う』ことを考えてください。
  幸い、チキンな性格をしているので、手痛い反撃を食らうと逃げ出す可能性はあります。
  ほら、皆さんも、舐めてかかって野良犬に噛まれたらびっくりして逃げ出すでしょう? そういうノリです。
  タイプとしては、後衛アタッカーになります。グラウ=グラノスを前に出して、自分は後衛から強烈な神秘攻撃である竜言語魔法を乱発してくるでしょう。
  ザビアボロスの眷属だけあって、毒や痺れ、呪殺などを大量に積んでいます。BS回復手段を多めに持ち込んでいくとよさそうです。
  半面、近接攻撃はチキンなため不得手。接近して一気にダメージを重ねる……というのもありですが、竜なので、見た目以上にタフなのは覚悟しておいてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <ラドンの罪域>竜の威光を!完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月25日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
武器商人(p3p001107)
闇之雲
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

リプレイ

●青のレグルス
「ひ、ほ、ほんとに人間って喋るんだ……!」
 と、言うのは、青髪の給仕服の少女である。いささかおどおどとしたその様子と、背中に生えた青い翼としっぽから、一見すれば、亜竜種の少女が迷い込んだのか? という印象すら与えるだろう。
 だが、そもそも『並みの亜竜種の少女が、ラドンの罪域と呼ばれる此処に迷い込む』ということ自体が『絶対に』ありえないことなのだ。となれば、彼女はその風貌に似合わぬ実力者であるか、あるいは、超常のものである。そして今回は、彼女は後者であった。
「ヒトになれる竜……将星種『レグルス』、ですね」
 ふむ、とそう声を上げる『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が、見定めるように声を上げる。
「は、はひ、ストイシャです……ひえ……怖い……見ないでほしい……」
 ぶつぶつとつぶやく、レグルス・ストイシャ。おどおどとした様子からは竜の威光とやらは見受けられないが、しかし寛治は彼女の放つ『超常の気配』とでも言うべきものを、しっかりと感じ取っていた。
「油断はされぬよう」
「ああ。わかっている。だが」
 『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)が、警戒しつつも、困惑した様子を見せる。
「……戦いに向いていないタイプだろう、あれは」
「そうだがな。だが、竜であることに変わりはない」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、警戒を解かずに言う。
「戦闘タイプでないにしても、我々を相手取って余裕のあるタイプと見える。
 そこは、やはり竜なのだろう……御主も、彼の気配を感じ取れぬわけではもちろんあるまい」
「それは、そうだ」
 ミーナがうなづく。前述したとおり、寛治も感じ取ったそれは、『超常の気配』である。あるいは、『蛇に相対したカエルの気持ち』か。いずれにしても、相手が頂点捕食者であり、我々は被食者にすぎない、ということは事実だ――もちろん、カエルのようにただ黙って食われてやるつもりはないが。
「うう……た、確かに、あんまり戦いは好きではないです。お姉さまに言われなければ、見に来る気もありませんでした。
 ああ、お家に帰って読みかけのご本を読みたい……」
「本」
 ぴく、と『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の耳が動いた。
「どんな本ですか? 竜も本を読むのですか?」
 若干食い気味でいうのへ、ストイシャが、ぴぃ、と鳴く。
「ぴえ、た、食べる気だ! 本を!」
「私は紙魚か何かではありません! 読み、収集し、管理するのです! 本は!」
「その様子を見ると、ヘスペリデス、という場所が本当に気になるねぇ」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)が興味深げに笑ってみせた。
「竜にも文化があるのかねぇ……興味深いものだ。
 そうなると、なおのこと、ここは押し通らなきゃねぇ?」
 そういって笑う武器商人へ、ストイシャが、ぴえ、と鳴いた。
「そ、そうでした! だだだ、だめです! 此処は踏破はさせません!」
 ぴゃ、と身構えるストイシャに、
「硬そうなヤツがひーふーみーと、5体にレグルスが1体!
 これって竜種からしたらなかなかのカンゲイなんじゃない?」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が声を上げる。
「お、おねえさまが、念のため連れて行け、と!」
「おねえさま……ザビーネ=ザビアボロスだね? なるほど随分とオレたちをヒョウカしてくれてるみたいだ」
 楽しげに笑うイグナートへ、しかしストイシャは頭を振る。
「そ、そんな……私が頼りないだけです。わ、私だって頑張れば人間如き!」
 いささか気弱でも、やはりそこは竜の驕りがあるといえた。人間で例えるならば、「外で鳴いてるカラスなんて、頑張れば追っ払えます!」といったところだろうか。とはいえ、彼女が人間であったなら、カラスに舐められて逆襲されそうな気配ではあるが、しかし現実に彼女を舐めるカラスなどはいないだろう。
「糞蜥蜴の眷属って言ったな?
 なるほど、自分が直接手を下すまでもねえ、そういう事だな?」
 ぎり、と『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が奥歯を噛みしめるのへ、
「えぇ……なんか怒ってる……」
 ストイシャが亜竜の影に隠れた。
「それは……そうですよ……。
 あなたたちごとき、お姉さまのお手を煩わせるほどではないといいますか……」
「ザビアボロス……いえ、ザビーネさんとお呼びした方が良いですかね。
 彼女は随分と慎重なお人なようだ。
 おっと、人ではありませんでしたね。
 けれど、羽虫や害虫相手に部下を派遣する慎重さは、『まるで人間のよう』です」
 探るように言う寛治に、しかしストイシャは、露骨な不機嫌さを隠そうともしなかった。
「……褒めてるつもりなのだとしたら、間違いですよ」
 わかりやすくむっとした彼女に、寛治はあえて慇懃に言ってのける。
「失礼いたしました。こちらとしては、最大限の誉め言葉のつもりだったのですがね?」
 羽虫や害虫、と認識している相手が、「貴方ってとっても我々らしいですね」といったところで、それは誉め言葉にはならない。そのことは寛治もしっかりと理解していて、つまりこれは駆け引きのようなものである。見た限りではあるが、ストイシャというレグルスは、幼い。おそらくは、生まれて間もない――といっても、人間のスケールで測ってよいものではないが――個体であると考えられた。ザビーネ=ザビアボロスは自らを『若輩』というが、そのザビーネよりもずっと若いのだろう。ザビーネ=ザビアボロスが、この少女を傍仕えとしておいている理由は不明だが、ただ、寛治が察したところに、ザビーネ=ザビアボロスは、このストイシャというレグルスにとっては、悪くない上司である、ということだろう。となれば、ある種子供のあこがれにも似た感情を、ストイシャはザビーネに抱いている可能性は大いにあって、そこをつついてやったわけだが、見事大当たり、という所だ。
(……さて、偉大なる竜種と言えど、思考系統は人と変わりないのかもしれませんが――)
 そのことは黙っておいた。これを言ってしまえば、ストイシャと言えどかんしゃくを起こす(マジギレ)だろう。この辺で見極めとしよう。
「さて――では、我々としても、一応伝えておきます。
 我々は、ここを踏破し、ヘスペリデスへと至りたい。理由は、そこにいる存在との接触」
「だ、だめです。あそこは竜のための場所です。人が立ち入って居場所ではありません」
「まぁ、そういうでしょうね。ブランシュも、同じ立場ならそういうと思います」
 『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が、静かにそう告げた。
「ですが、そのうえで言わせてもらいます。
 此処を、通ります。
 力を見せろというのならば、そうします」
「ぴえ……」
 ストイシャが、おびえた様子を見せるのへ、ぎり、とかみつくように言ったのは、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)だ。
「ヒトを見くびりながら、ヒトの真似事を……気に入らないッスね」
「い、いえ、むしろ人の方が竜の真似事っていうか」
「黙って聞いていれば、ヒトのことをよく知りもしないくせに! ヒト如きと、驕る……!
 その態度、本当に……!」
「な、なな、なんで怒ってるの……!?」
 混乱した様子で、ストイシャが後方へと飛びずさった。それを守る様に、5体の亜竜が、『威嚇』するように咆哮を上げた。
「グラウ=グラノス! 寄せ付けないで!」
「……どうやら、この亜竜が前衛のようですね。たぶん、戦術などを気にしたわけではなさそうですが、結果的に、前に出たくないストイシャの盾になっているわけですか」
 ドラマが身構えつつそう言う。五体の亜竜は、強靭な外見の黒竜、といったところだろうか。無論、竜ではなく、亜竜、なのだが、しかしみためどおり、タフな怪物と言えよう。
「亜竜なら……何とかなるにしても」
 『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)が言った。
「あの竜は……?」
「撃破は無理だろう」
 汰磨羈が言った。
「おそらく、我々が万全の状態で相対して――それでも勝てるかは怪しい。竜とは、そういうやつだ。あれが、如何に気弱な少女に見えようともな」
「……それに関してはうなづく。ザビアボロスも、一見すればどこぞのお嬢様だ」
 アルヴァがうなづいた。ヒトの形態をとったザビーネは、確かに喪服の令嬢(ブラック・ウィドウ)といったところか。まぁ、アルヴァはその本性たる『怨毒地竜』の姿とも遭遇しているわけだが、そのことはあえて頭から切り離した。
「やりづらいったらないな……いろんな意味で、だ」
 ミーナが構える。
「さて、どうする? オーソドックスに行くならば、ストイシャを抑えつつ、亜竜をたたく、だ」
「その線で行こうか」
 武器商人がうなづく。
「ただ、ストイシャの抑えにも、相当力が必要だよ?」
「そこは、策があります」
 寛治が言った。
「天帝種アウラスカルトに向けられた戦術、その劣化コピーですが……将星種に通るかどうか、興味深い検証です」
「頼りにしてますよ」
 ブランシュが言った。
「それを言うなら、ブランシュさんも」
 イルミナが、続ける。
「うちの閃光は、竜よりはやい。それを見せてやってほしいっス」
「お任せを」
 ブランシュが、にぃ、と笑った。
「方針は決まりましたね」
 ドラマがそういうのへ、仲間たちはうなづいた。
「じゃあ、ドラゴン狩りを始めようか!」
 イグナートが、ばしっ、と拳を打ち付けた。
 始まる。
「竜のイコウとやら、見せてもらおう! それを、オレたちは突破して見せる!」
 イグナートの言葉を、共通の決意として――。
 イレギュラーズたちの激闘が、始まる!

●竜との戦い
「いって、グラノスたち!」
 ストイシャが号令をかける。亜竜たちが、剛、声を上げる中、しかしほとばしったのは、閃光の乙女――!
「遅い――ッ!」
 ブランシュだ! その名のごとく、輝きの乙女は、昏き森を、仲間を導き最速で突っ走る!
「如何にその力が優れていても――出せなければ意味がない。
 ブランシュの速度についてこられますか?」
「う、うそ!? は、はわわ、はやい!?」
 さすがのストイシャも、これには面食らったようだ。この反応速度には、流石のストイシャも追いつけなかったらしい。
「散開です! 隊長、ザビアボロスの前の前哨戦なんですから! 此処でへばってねーでくださいよ!」
「まかせろ!」
 低空を飛んで、アルヴァがストイシャの背後へ。
「おい、こっちだ。駆除してみろよ、俺らが害獣なら」
 言葉とともに、銃弾を撃ち込む! 鋭いそれは、必殺の射撃! だが、ストイシャは、慌てた様子でその手を振り払うと、氷の一枚壁が現れて、その銃弾を受け止める!
「氷壁――竜言語魔術か!?」
「わ、わわ、私は氷竜の血も入ってますから! 氷術だって! それから、お姉さま仕込みの毒術も!」
 ストイシャが指をパチンと鳴らすと、氷壁が瞬く間に毒々しい黒へと染まった。それは、ヘドロのように溶けて、粘性のある毒弾としてアルヴァに迫る!
「ちっ!」
 舌打ちひとつ、転げて回避する。バシャバシャと舞い散るそれは、ザビアボロスの毒の足元にも及ばないとはいえ、しかし生物を殺すには十分な毒素であることを、アルヴァは理解していた。
「寛治! お得意の戦法ってやつを頼む!」
「了解」
 寛治は手にした拳銃を、ストイシャの心臓にポイントした。
「殺す気で行って、ようやく足止め、でしょうか」
 つぶやきつつ、放つ――銃弾は、しかしストイシャの心臓を貫くことはない。予測通り。ストイシャは、その体を丸めるように、自らの翼を使って寛治の拳銃を受け止めて見せた。ちゅいん、と甲高い音を立てて、銃弾が弾き飛ばされる。
「……! こ、ここ、小石がはねたくらいですから!」
 自分に言い聞かせるように言うストイシャ。実際小石ですらないだろう。が、寛治の銃弾は、銃弾そのものではなく、込められた呪にこそある。
「あ、あれ……う、うごきが、うまく……!?」
 慌てたように、ストイシャが体を動かす。鈍い。動きが。封殺の呪が、その体を蝕んでいる手ごたえを、寛治は自覚していた。
「さて――とはいえ、すべてを封じたわけではないですよ、アルヴァさん」
「わかってる……あとは、仲間が来るのを信じて耐えるしかねぇ……!」
 イェーガーが構える。
 エージェントが構える。
 二つの銃。
 形も、運用方法も違えど。
 今は共通の目的のもとに、その銃口を向ける。
 竜を、偉大なる敵を、一秒でも、コンマ一秒でも長く、ここに縫い付ける!
「……! ひ、ひえ……!」
 竜はおびえた様子を見せるが、イレギュラーズたちは、しかしまだ全く、その命には遠いことを、理解している。
 理解しているからこそ、全力を叩き込む。
「やるぜ……見せてやるよ!」
「我々の、可能性を……!」
 イェーガーが、エージェントが、その意志を銃弾にのせ、銃声を上げた。

 一方、亜竜とイレギュラーズたちの戦いも続いていた。黒竜が如き剛腕は、まるで千年樹のように太く、分厚く、強大であった。
 それが、亜竜の膂力で振り下ろされる。するとどうなるか。シンプルな爆発的な破砕力が、イレギュラーズたちに叩き込まれる、という構図となる――!
「おっと!」
 武器商人が、それをまともに受け止めながら、笑みを浮かべる。
「これはすごいねぇ。何回『死ぬ』かなぁ?」
 武器商人は、その性質上そうそう斃れることはない。死の淵を覗いたとしても即座に立ち上がるだろう。その回数を一度、死ぬ、と定義したのならば、戦闘開始から数十秒、既に2度の死を、武器商人は経験していた。
「あんまり無理するんじゃねーですよ!」
 ブランシュが雄たけびを上げながら、亜竜へと突撃。
「セイッ!! ハアアアアァァッ!!」
 もう一度言うが、雄たけびとともに、突撃! その跳び蹴りはまさにシンプルな跳び蹴りであるが、ブランシュほどの高速度から放たれるそれは、もはや運動エネルギー弾と同義である。歩く質量兵器、いや、走り駆ける閃光が、強烈な一撃を、亜竜の横っ腹に叩きつけた! これにはさすがの亜竜もたまらない。ごう、と悲鳴をあげながら横転する!
「ぴえええ! な、なんなんですかあれ! こわい! なんか! こわい!
 はやいし! なんかさけぶし! こわい!」
 ストイシャが涙目で叫ぶ。怖い。
「そりゃどーも! でも、隊長と新田さんを相手にして、こっちを見てる余裕があるなんて……!」
 わずかに歯噛みをする。アルヴァと寛治を相手に、ストイシャは確かにその動きを封殺されていたが、それでも「すべてを止められたわけではない」。結局、ストイシャからの手痛い攻撃はまき散らされることとなる。無論、フリーにしておくよりはずっとましであり、この場合この作戦は正解であるといえる。
「イグナートさん! 敵の足を止めます! 合わせて、ええと、『ぶん殴って』ください!」
 ドラマがその刃を構えた。リトル・ブルー。昏き森に輝く未来の蒼。ドラマはそれを振りかざすと、亜竜へ向けて一足飛びに接近! 蒼の輝きとともに放つ、一閃!
 亜竜の、巨木のように太い脚を、リトル・ブルーが切り裂いた。その打撃の反動を受け止めながら、ドラマがわずかに痛みに顔をしかめる。
「任せて! オーダー通り、『ぶんなぐる』!」
 叫び、イグナートは跳躍した。そのまま足を高く掲げる。かかと落としの体勢。そのまま、落下の速度をのせた一撃を、亜竜に叩き込んだ! 足を、刃に見立てた一撃。竜を滅す、一閃――それはまさに、バルムンクの一撃だ。竜殺しの斬閃を受けた亜竜は、そのままぼぎり、と骨を粉砕された。ぎいあ、と断末魔をあげながら、亜竜のうち一体が地に倒れ伏す。
「ごめん、ドラマ! つい蹴っちゃった!」
「やっつけられたならどっちでもいいです!」
 叫ぶドラマに、残る別の亜竜がとびかかってきた。シンプルなタックルは、それだけで巨山が崩落したかのような錯覚を覚える。ドラマが跳躍してそれを回避すると、入れ替わる様にミーナが飛び込み、
「確かに竜の胆力は脅威だ。だったら、それを利用すればいい!」
 青空のような青の刃を、亜竜に叩きつけた! その刃には、クリムゾンの衝撃が術式となって纏い、その衝撃が亜竜の体を駆け巡る。魅了されたかのように惑乱した亜竜が、雄たけびを上げてストイシャに突撃!
「え、えええ!? なんでこっちに来るんですか!?」
 ストイシャは躊躇なく、突撃を敢行した亜竜をぶんなぐった。先ほどのブランシュのそれもかくや、という勢いのそれが叩き込まれるや、亜竜が吹っ飛ばされ、瞬く間に正気に戻る。
「うそだろ! それだけの力を隠し持ってるのかよ!」
 ミーナが思わず歯噛みをするのへ、ストイシャがむっとした様子を向けた。
「わ、私だって、弟(ムラデン)ほどじゃないですけど、パンチするとすごいんですからね!」
「ムラデンってのは誰だか分からんが、一緒にいなくてよかったよ!」
 ミーナは吐き捨てつつ、正気に戻った亜竜に再度刃を叩きつける。ストイシャの一撃を食らってグロッキーになっていたのだろう。僅かに荷動きを鈍くした亜竜は、ミーナの斬撃にその肉を切り裂かれた。
「汰磨羈! 吹っ飛ばせ!」
「応! これこそは『花劉圏』が一つ――狂い咲け! 爛爍牡丹!」
 轟! 流れるように放たれる、それは汰磨羈の一撃! 流麗にして轟烈なる火炎、それは一つの牡丹の花を描く、破邪の焔! 黒の眷属亜竜は、この鮮やかなる牡丹に抗うことすらかなわず! 狂い咲く牡丹に飲まれるように、その体を消滅させていった――。
「……!」
 だが、汰磨羈の表情は、決して得意げや誇らしげなそれではなかった。理解しているのだ。『追い詰められつつあること』を。
「まずいな……撃破ペースが遅い……」
 歯噛みする。確かに、亜竜とイレギュラーズたち、それ単体で見れば、イレギュラーズたちの優勢であるともいえた。だが、これは「竜+亜竜」とイレギュラーズたちの戦いだった。畢竟、亜竜とは前座にすぎない。速やかに撃破し、竜を抑える二人の英雄が斃れる前に、竜への攻撃を開始しなければならないはずだったのだ。
 確かに、寛治の策はなり、実際にストイシャはその動きを抑えられている。が、何度も言うが、『完全に抑えられたわけではない』。寛治の策は、あくまでも『劣化版』であり、万全の竜に相対するには、少し、足りないといえる。
 だが、問題なく亜竜を撃破していけば、寛治とアルヴァが斃れる前に、仲間たちは合流し、乾坤一擲の一撃を以って、ストイシャを追い払うことは可能だっただろう。だが、遅い。亜竜を撃破する速度が。それは、僅かであっても、ほんの僅かであっても、時間がたつにつれて、大きな『ずれ』となっていくのだ。
「……」
 汰磨羈の脳裏に、『撤退』の二文字が浮かび始めた。おそらく(そして実際のところほぼ同時に)寛治もまた、撤退を想定しているだろう。この二人だけではなく、それを現実的な選択肢として選ばなければならない、と理解しだしたものも、もちろんいるはずだ。
「……けど……ッ!」
 イルミナが、悔し気に叫んだ。エネルギーブレードが、それでも果敢に叫んだ。進みたい、と。進みたい、と。イルミナのブレードが、亜竜を切り裂く。が、殺すに、届かない。届かない。僅かに。その「僅か」が、ひと振り、二振り、増えるごとに、遠くなる。
 ずっとずっと、遠くなる。離れていく。この手から。
「ちくしょう……!」
 イルミナが、呻いた。悔しかった……あの日、この手からこぼれた人の命を覚えている。虫けらのように散った命。「たかが人間」。「戦えない、価値のない命」。「違う」。「たとえ、あったばかりの人であったとしても」。「たとえ、報告書に、死亡者として文字が躍るだけの人だったとしても」。「そこにこれまで築いてきた人生があった」。「これから進むべき道があった」。
 ザビアボロスが言った。どうせ死ぬのであれば、苦痛なき死を。それは正解か? あきらめてしまえば、どうせ死ぬのなら命を差し出してしまえば、それでいいのか? それが、矮小なる人が、到達するべき救済か?
「ふざけるな」
 イルミナがつぶやいた。
「ふざけるな! 絶対に! あきらめるもんか!
 教えてやる! あの時、お前が奪ったのは、暖かいものなんだと! 絶対に――」
 決意は高く、篤けれど。
 されど、残酷な審判の時は、訪れようとしていた――。

●退路
 体中に激痛が走っている。
 毒の痛みか。あるいは、氷によって切り裂かれた痛みか。
 ストイシャ――彼のレグルスを相手取り、アルヴァと寛治は最善を尽くしたといえるだろう。それは、間違いない。
 だが、限界というものは、訪れるものだ。
「ひ、ひぃ……も、もういい加減、どっか行って……!」
 おびえるように言う少女のそれすら、悪魔の嘲笑に見える。遠い。この手が、銃が、狙う先が、あまりにも、遠かった。
「こんなにも……遠いってのか……俺は……あの、ザビアボロスに……」
 手すら、届かない、のか?
 アルヴァの胸中に、恐ろしいものが巻き起ころうとしていた。それは、恐怖とか、畏怖とか、そういうものに間違いなかった。
「……飲まれてはいけませんよ」
 寛治が言った。
「……ですが、さすがに、今日は限界ですね……!」
 寛治が、ぐ、と血を吐き、膝をついた。幾筋もの傷口が、ジェントルマンの服を裂いて、その決して傷つかぬと思わせる肉を裂いていた。
「え、えっと、それ以上やっちゃうと死んじゃうんで……あ、あきらめてどっか行ってください……!」
 慈悲ではないことを、自覚していた。
 例えるなら――虫を潰すのは気持ち悪いし、死体を片付けるのも気持ち悪いから、知らないところで死んでてほしい。
 そういうもの。
「畜生……」
 アルヴァが、その狙撃銃を杖にするように、立ち上がった。
「……ぎりぎりの体力を残しておいてください。これからは、撤退戦です」
 冷静に、しかしどこか悔し気に寛治が言うのを、アルヴァは頷いていた。
 此処からは、命を拾うことを最優先に考えなくてはいけなかった。
「駄目か……!」
 ニーナが避けぶ。その瞳には、フリーになったストイシャの姿うつっていた。
「え、えっと、あっちのこわい眼鏡と、お姉さまが水色って言ったのは、もう、だめなので……!」
 ストイシャが、その両手を掲げる。氷と毒を混ぜ合わせたような、青くもまがまがしい弾丸が、空中に巻き起こる。
「ど、どっか知らないところで死んでください!!」
 放たれる――抹殺の毒氷。強烈なそれが、イレギュラーズたちを叩いた。激痛が、体を駆け巡る。
「亜竜の方はどうだい?」
 さしもの武器商人も、一度は死の淵を覗き、可能性を代償に立ち上がっている。これ以上は無理だ。そのうえで尋ねたわけだが、亜竜もまだ、2匹が健在であった。
「倒しきれなかった……これじゃあ……!」
 ドラマが悔しげにうめく。だが、嘆いている場合ではない。
「撤退するぞ……ドラマ! 御主、まだ動けるな!? 私と一緒に、ぎりぎりまでストイシャを足止めするぞ!
 ブランシュ! 御主の足で、残る仲間を引っ張って、動けぬものを回収! 生存を最優先だ!」
「……ッ! わかりました!」
 ブランシュがはしりだす――仲間を連れて。
「イグナートさん、武器商人さん! 皆さんを回収、お願いします!」
「任せて! こうなったら、意地でも生きて帰るよ!」
 イグナートが叫び、イルミナを抱えた。イルミナは、悔し気に奥歯を噛みしめた。
「届かないんッスか……!? イルミナは……全然、竜に……!」
「ヒトリじゃ届かないよ。それは確かだ。皆で、手を伸ばそう。
 そして、生きてれば、何度でも手を伸ばせるはずだから!」
 イグナートがそういうのへ、イルミナは悔し気に、しかし決意したように頷いた。激痛に苛まれた体を押して、立ち上がる。
「必ず、イルミナは、イルミナは……必ず……!」
 言葉にならぬ思いを口に、イルミナはイグナートの手を借りて、撤退を開始する。一方、ストイシャに接近戦を挑む、ドラマと汰磨羈は、その強烈な攻撃を一身に受けながらも、ストイシャ、そして迫る亜竜の攻撃を捌き続けていた。
「これは、想像以上に重い仕事ですね……!」
 ドラマがぴょん、と飛び跳ねる。その間髪入れずに、その後を亜竜のタックルが通り過ぎていった。ドラマは軽快に、ステップを踏むと、亜竜に青の斬撃を叩きつける。ぎお、と亜竜が吠える。
「まったく、本当に、ハードな仕事だな!」
 汰磨羈がストイシャに足止めの斬撃を加えた。足止めと言えど、必殺の牡丹の華だ。だが、その苛烈な炎さえ、ストイシャが構えた氷壁をわずかに溶かすにとどまっていた。
「……ストイシャ。これでは負け惜しみのように聞こえるかもしれんが」
 汰磨羈が言った。
「よく覚えておけ、ストイシャ。ヒトの力は個で測るべからずだ。
 ヒトの力は、掛け合わせる事で膨れ上がる。その事を、いずれ思い知ることになる」
「え、ええ……ま、また来るんですか……? もうあきらめて……!」
 ばじゅん、と強烈な音を立てて、氷壁が爆発した。汰磨羈の体を、激痛がほとばしる。倒れそうになるのを必死にこらえて、着地した。
「汰磨羈、撤退準備OKだ!」
 ミーナが叫んだ。
「アルヴァと新田も回収! 動けるやつは自力で動いてる!
 あとはアンタとドラマだけだ!」
「きつい仕事を助かるよ! 我(アタシ)もぎりぎりでね……!」
 わずかに悔しさをにじませる武器商人に、ドラマは微笑んだ。
「いいえ、むしろここまで全線で耐えてくださったのは、あなたですから」
 蒼の剣をけん制にふるい、ドラマは後ずさる。
「……申し訳ありませんが、ここまでです、ストイシャさん。
 次は、大好きな本の話ができるといいのですが」
「た、食べないでくださいよ、本は……!?」
 あわわ、というストイシャに、ドラマは油断なく構えながら、汰磨羈に視線を送った。
「殿は私が」
「頼む」
 言うや、汰磨羈は仲間たちを先導して走りだした。ドラマも、その後を警戒しつつおう。
「……また、届かなかったですか……!」
 ブランシュは、激痛走る体を押しながら、走り続けた。届かなかった。竜には。まだ……。
 だが、生き延びればチャンスはある。必ず、次へとつなげられる。
 今は痛みと悔しさに塗れていたとしても、必ず、必ず、反撃のチャンスはあるのだ。
 その時を覚悟しながら、しかし今は確実な撤退を優先する、イレギュラーズたちだった。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 竜の力は、やはり偉大でしたが――。
 しかし、あきらめない限り、反撃の時は必ずやってくるはずです。

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