シナリオ詳細
<美しき珠の枝>幕間 ゆるしたまゆら花はらり
オープニング
●春待ちの日
それは、豊穣郷の主『霞帝』今園・賀澄(p3n000181)が鉄帝へと発つ前のこと。
そして、『刑部卿』鹿紫雲・白水(p3n000229)が物部 支佐手(p3p009422)を呼び出す少し前のこと。
梅も咲かぬある日に、白水は主上の御前で頭(こうべ)を垂れていた。
帝は四神とともに何れ発つが、白水は国に残り治安を守るが務め。戦場でお守り出来ない無念さはあるものの「そこは晴明殿が胃を痛めながら何とかするだろう」と思っている。
「委細承知した。其方の良きように計らえ」
式部省からも許可を得た奏上は、文にて先に主上へと渡し済みだ。再度目を通した上で壇上から返る声に白水は短く謝辞を口にし、主上が下がってから御前を後にする。
願い出た案件はふたつ。
ひとつは主上が豊穣へ帰還されたのち、視察にて京を少し空けること。
もうひとつは――。
「遠津に、ですか」
魔種・焔心を討伐した報せを運んだ支佐手へ、白水が告げた。遠津へ視察ついでに視察に行く、と。
支佐手は察しが悪い方ではない。その言葉が意味することをすぐに理解した。それ故に、白水の言葉を遮ってまで声が出たのだ。すぐに謝辞とともに頭を下げたが、白水は「理解が早くて助かる」程度にしか思っていない。
つまりは、『弓削・真賀根』に会う、と白水は告げたのだ。
「報せを出しておくと良い」
門前払いをされてはそれこそ『視察にしか』ならない。
弓削・真賀根という精霊種は天香を支援した咎で刑部からは除籍、故郷の遠津へ配流となった。白水が刑部卿に着任する以前の話だ。
事の顛末の報告書の全てに目を通した白水は「愚かなことだ」と思った。ただでさえ国が揺らいで人手が不足しており、未だに頭が空席の八扇も多いというのに――使える人材を僻地で眠らせるとは何事だろうか。
しかもその後、真賀根は政務を放り出して呑んだくれているとの調べもついている。国の監査が入ることを見越し、毅然とした態度であらねば復権も叶わぬであろうに「愚かなことだ」と白水は真賀根に対しても思ったものだ。
支佐手が動いていなければ、白水もそのままにしたことだろう。日々忙しく働き続ける白水は、働かない者に用はない。自ら努力し、這い上がろうとしない者に心は動かされない。
されど主の為にと身を粉にして働く者へは、報いる心を持っている。
「……一度だけだ」
一度だけ、機会を与える。
主上と式部省からの許可は取ってきた。
刑部卿が自ら出向くなど、異例なことだ。しかし支佐手にそれだけ報いても良いと思えるくらい、彼は良い働きをしたのだ。真賀根のためではなく、支佐手のために主上に頭を下げてきた。
「物部 支佐手、私は会うだけだ。自らの意思なき者など刑部にはいらぬ」
行くまでに確りと話をつけておけと、白水は命じた。
そこで腐り続けるのならば、それが真賀根の選択なのだから。
●花の雨
「刑部卿から慰安旅行……と言うか花見へのお誘いが来ていたよ」
だから一緒にどうかな、と劉・雨泽(p3n000218)が首を傾げた。
「行き先は支佐手の故郷みたいだから、旅行にぴったりだね」
今回の遠出は刑部卿からの『労い』でもあるため、なんと旅費が出るのだ。たぶんお小遣いも出ている。
現地では桜を見るための良い場所を確保してあり、そこで宴会も出来るよう手配済み。
「支佐手の祖神は蛇らしいんだよね」
向かう先にある遠津大社の神使は蛇かもしれない。
蛇にちなんだ行事もあるようだよと雨泽が案内するのは『大蛇の桜流し』だ。太めの木の枝を掘って大蛇を作り、落ちていた桜花弁をひとつ乗せ、それを願い事をしながら手水川へと流すのだそうだ。
行ったことが無いから楽しみだと雨泽が笑った。
「後はね、『報せ』をしたいところがあれば行っても大丈夫だよ」
全て片付いたことを知りたい人は知りたいだろうし、その内刑部から知らせがいくとしても自ら告げたい人も居ることだろう。
「春って旅行をしたくなるよね」
特に様々なことを成し遂げた後ならば、喜びからその思いもひとしおだろう。
何らかの理由がある人も、ない人も。
春を謳歌するかのような桜を愛でに行こう。
「だってさ、春だよ?」
理由なんて、それくらいでいい。
- <美しき珠の枝>幕間 ゆるしたまゆら花はらり完了
- GM名壱花
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年04月25日 22時06分
- 参加人数15/15人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 15 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC4人)参加者一覧(15人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●春の或る日に
「綺麗に咲きましたね、聖霊様」
「そうだな」
大丈夫ですよと穏やかに微笑む雫石の手を引いて、ともに歩んできたのは桜の大木の下。大きく腕を広げた春を告げる色彩を見上げる雫石の横顔を見て、『医神の傲慢』松元 聖霊(p3p008208)は吐息を零すように小さく笑った。
「寒くはないか」
地面や石製では脚が冷えるからと座る物にも気を配り、広げた手巾や肩掛けに「聖霊様ったら本当にお医者様なのだから」と雫石がくすくすと笑う。何か問題が? 俺は医者だぞ。
「……焔心は死んだよ」
互いの近況の話をした。聖霊の周りの神使たちは馬鹿ばかりで、雫石みたいに模範的な患者をしてくれないこと。そうした会話の最中に、落とされた静かな言葉。強い感情を籠めず、不治の病を告げる医者のように、出来るだけ平坦であることを意識して彼奴の最期を告げた。悪い患部は切除した、手術は成功です。もう恐れる必要はありません。
風が桜を揺らし、薄紅を遠くへ運んでいく。
髪を少し押さえた雫石は、桜花を追ったまま「そうですか」と応えた。
其れ以上の反応は雫石から無くて、聖霊は嗚呼と温かな世界にいる彼女の姿に思う。
――矢張り、雫石は強い。
真っ直ぐな背で、顔を上げ、前だけを見ている。
女ひとりで生きて行くのは難しいこともあるだろう。けれども地獄の中でも諦めなかった彼女は神使に救われて、その先を生き抜くことがきっと叶う。
世は、まさに春一色。雫石の着物にも春の花が咲いている。
そうしてほら、またひとつ。
「なぁ、雫石。お前のとこにも、やっと本当の春が来たな」
「聖霊様の元にも、春は来ましたか?」
「あぁ。だが、穏やかではないな。何せ俺の患者は馬鹿ばかりで……」
美しいかんばせに、春が灯る。
「蒼太様、また大きくなられていそうですね」
子どもの一年は早い。すぐに背も追い抜かされそうだと笑った『その想い焔が如く』澄恋(p3p009412)は、着いてきてくれた『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)に微笑みかけた。以前もこうしてともに会いに行ったことが、何だか少し懐かしい。今日も彼は見守ってくれている。
――因みに、鉄帝で再び目覚めた時、澄恋は様々な人にこっぴどく怒られた。流石に雨泽にも「君ねぇ」と小言を言われたけれど、「刑部卿から預かってきたよ」と遺書も返してもらった。
(蒼太様に届かなくて良かったです)
届いていたらきっと、今日のこの笑顔は無かったことだろう。
「お姉ちゃん!」
澄恋が顔を覗かせれば、パッと青空のように明るい笑みを少年は浮かべた。初めて会った日の悲壮さはそこになく、澄恋の心にも春が訪れたかのような穏やかな温かさで満ちていく。
今日この日まで、沢山のことがあった。沢山の仲間たちとの触れ合いや、困難。心を燃やして、死さえも覚悟してその身を投げ売った。……少し話せない下りもあるけれど、困難にめげず討ち取ったことを伝えた。
「すべて、蒼太様のお陰です」
あの日あの時、蒼太を救えたことで澄恋の世界が少し変わった。未来ある少年は元気に生きようとし、こんなにも晴れやかな笑顔を浮かべてくれている。
(あなたの笑顔が、わたしの生涯の誇りです)
自分が思っているよりも沢山の人が案じてくれていることも知った。
(不完全なわたしでも、良いのですね)
大切な人たちは皆泣いて、怒って、無事を喜んで、抱きしめてくれた。澄恋は澄恋というひとつの命をもっと大事にするべきだと、澄恋のためだけに泣いてくれたのだ。
(わたしは豊穣一の幸せ者ですね)
「蒼太様」
「うん」
「元気に生きていてくださって、ありがとうございます」
「? お姉ちゃんもありがとう、生きていてくれて」
出会ってくれて、そうして救ってくれて。
「お姉ちゃん、大好き!」
蒼太が笑う。今日のような晴れやかな笑顔で。
澄恋の胸にしあわせが灯る。
嬉しくて泣けてしまいそうな『春』が此処に在る。
ああ、ああ。心に吹いた春風が、桜吹雪を舞い起こす。
これからを生きる鬼の子たちに、どうか幸多からんことを!
人里離れた山の中にも、春は平等に訪れる。
「……春、だなァ」
何度も足を運んだ山道は、目印が無くとも歩けるようになっていた。天蓋が如く枝を広げて薄紅を降らす桜花を見上げながら歩いたって、『瞑目の墓守』日向寺 三毒(p3p008777)は迷わず隠れ里へたどり着ける。
「桜、とっても綺麗に咲いているわね」
三毒の傍らで、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)も目を細めて見遣る。きっとこれまでの春よりも里人たちが穏やかに桜を楽しめる春なのだと思えば、胸を満たすものがあった。
「花見に誘おうと思ってるんだが」
「アラ、アタシもよ」
スコーンを持ってきたのよとジルーシャが柔和に微笑めば、そいつは喜ぶだろうなと三毒は頷いた。大陸の菓子は珍しさが勝る。初めて口にする味に目を丸くするかもしれないな、なんて話ながら山道を進めば隠れ里へと辿り着いた。
門は、綺麗に直っている。双眸を細めて見遣りながら通り抜ける。
ふたりはそこで一度別れ――るかと思いきや、行き先が同じだった。
「ハァイ、久しぶりね。皆元気にしていたかしら?」
顔見知りの里人に声を掛けられながら里を歩み、向かう先は花壇。
「ああ、ふたりとも」
顔に泥をつけた満春が顔を上げて笑う。
花壇には春の花がたくさん気持ちよさそうに揺れている。彼の名にも似合う春が来た。世話をしていた他の里人も嬉しそうに笑って花を見つめていた。その姿を見守るジルーシャの表情も柔らかい。
「今日は報告があるんだ」
三毒の言葉に、少しだけ満春が身構える。
悪い報告か、良い報告か。
けれども三毒とジルーシャの様子に、後者であることが知れたのだろう。肩の力を抜き、里長の元へ行こうとふたりを誘った。
「最期、見届けて来たゼ」
「焔心はもう居ないわ」
「……そう、ですか」
里長も満春も、表情は微妙だ。涙を堪えているようにも見えたため、ふたりはひとりにさせてあげようと静かに顔を見合わせ腰を上げた。
「そうだ。皆で花見でもしないか?」
「花見、ですか?」
里長の瞳が丸くなる。
隠れ里で食べられるものは、毎日代わり映えしないものだろう。
だから京で色々と惣菜や菓子を買ってきたと三毒が示し、ジルーシャも美味しいお菓子を持ってきたのよと微笑んだ。
「良いですね……、里の者にも声を掛けておきますね」
そうして里長の家を出て、ふたりは別行動を取ることにした。
(いつか、里の皆が心から安心して暮らせる未来が来たら――)
風に乗る花の香り。今はまだ小さな笑い声、ぎこちない皆の笑顔。
きっと其れ等が増々よくなる未来が来る。その時が来たら、この里のイメージした香りを作ろうと、ジルーシャは想った。香料に使うのは、里の近辺で採れる草花や花壇で咲かせられる花が良いかもしれない。
(喜んでくれるかしら?)
人々の笑顔を思い描き、ジルーシャは足取り軽く里を廻った。
「花を貰ってもいいか?」
花壇の世話をしていた里人に断りを入れ、快諾を得て花を手に、里外れの共同墓地へと三毒は向かった。
狭い里だ、沢山の墓を拵えることもできない。けれども狭い空間は綺麗に手入れされ、枯れていない花を供されている。雑草ひとつないことから、毎日誰かが世話おしていることが解る。
「次に生まれて来る頃にゃ、きっとこの国も幾分マシになってる……だから安心して眠って良いゼ」
そうなるよう、三毒も努めるつもりだ。
三毒は静かに花を供え、手を合わせた。
柔らかな風が頬を何故、供えたばかりの花を巻き上げる。
きっと誰かが持っていったのかもしれないなと目で追った。
春は、来た。
里長と満春の声がけで、里人たちも花見の席に顔を出すだろう。
供される酒が祝杯だろうと献杯だろうと、舐める程度なら付き合おう。
山も祝うように、薄紅に染まっているのだから――。
――もし人に会ったら、逃げるから。
敷地内へ入る前にそう告げた雨泽は、無言で『白き灯り』チック・シュテル(p3p000932)の前を歩いている。この区画全てが敷地だと告げられた時は驚いたが、入ってみればその広さにも納得がいった。
(……寂しい、ような)
目的地が決まっていて、そして早めに済ませたい雨泽は振り返らない。いつもなら隣に並ぶし、沢山話しかけてくれるのに、今日はそれがない。
「ついたよ」
雨泽が告げている。物思いに耽ってしまったから、宝篋印塔に気付けなかった。
手を組まずに合わせ、祈る。
(……『彼』と繋がりが深かったの、かな)
一族の者は成人するまで外の世界を知らずに育つと雨泽が言っていた。つまり、この敷地内でともに暮らしていた相手だろう。どんな人だったのかと思いを馳せながら伏していた睫毛を揺らせば、「もう大丈夫?」と雨泽が首を傾げる。彼は祈らずに、祈るチックの横顔を眺めていたようだ。
うんと頷こうとした、時だった。
「――――?」
聞こえてきた誰かの声に、雨泽が息を呑んだ。
「走って」
反応するや否や、雨泽がチックの手を引いた。残る片手で被衣を押さえての、全力疾走。あっという間に敷地内から飛び出して、チックの視界の端に桜色が流れていく。
雨泽の背を見て、繋いだ手を見る。少し前から、彼が手を引くようになった。一緒に連れて行ってくれようとしている。
「……射ってはこなかったか」
物騒な言葉を零して止まるのは、人気のない桜の木の下。
「ごめんね、大丈夫?」
「うん……」
開放された手を胸に置いて、深呼吸。息を整えながら顔を上げると、「義兄上め……」と眉を寄せる横顔がいつもより幼い。
――今日は横顔か背中ばかり。
何故だか今、変な気持ちがした。モヤッというか、楽しくない、そんな感じ。
被り物をしているからかなと思ったら、自然と手が伸びていた。他の人にはこんなこと、しないのに。
「あっ、ちょっと」
角に被せていた被衣が落ちる感覚に、驚いた顔で雨泽がチックを見た。
(ありのままの君が、好き)
丸い灰色にチックだけが映っていて、心がふわりと軽くなる。あれ? っと思ったけれど、その気持ちに向き合ういとまはない。「花霞だからいいか」と口にした雨泽がチックの髪についた花弁へ指を伸ばしていて、そちらに意識が向いたから。
「お花見していこう、チック」
「うん、……雨泽」
花の雨が、はらりはらり。
春めいた想いもはらり、穏やかに降り積もっていく。
●春麗らか咲良日和
立派な桜の木が腕を広げ、春色の天蓋から祝福の如き花弁が降り注ぐ。
世はまさしく春一色で、花見を楽しむ人々の顔には笑顔が咲いている。
――はあぁぁあ。
だというのに、胡乱な瞳をした『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)は腹の底から溜息を吐いた。
右を見る。付き合いたての恋人たちだろうか? 頬をツンとかしあっている。
左を見る。桜を見上げて座っている男女の手が、探るようにそろりと重なった。
(なんでじゃ? なんで儂に春が来んのじゃ?)
あっちにもこっちにも『春』が来ているというのに!
勿論清舟だって何もしなかった訳じゃない。百人くらい可愛い女子に声を掛けた。でも何故か今、ひとりでここに座っている。なんで?
(しゃーねぇ、雨泽でも……って、女? 女が儂のとこへ向かってきちょらんか!?)
「飲んでおるかぁ?」
(ははははははは話しかけられ!? ぎゃ、逆ナンっちゅうやつか!?)
「のののののの飲んどりますなぁ」
まともに相手の顔も見れないくらい舞い上がっていた清舟はカチコチに固まりながらも、チラリと声を掛けてきた相手――『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)を見上げた。
(ん?)
同業者(イレギュラーズ)だ。その顔を知っている。でもこの人って確か――。
「なんじゃその顔は」
「いや、年増……あっ、なんでもねぇです」
「ほー。まあ、飲め」
「あ、はい。頂きます……」
ずずいと瑞鬼が酒をついでくる。しかも何故か盃が大きいものと交換されている。もしかしてこれって……アルハラってやつ? でも大丈夫。そんな横文字言葉、豊穣にはありませんからね!
「うむ、美味じゃ。ほれ、わしにも酒を注がんか」
「あ、はい……」
(あれ? 何で儂が酌してんの? しかもはえーよ、呑む速度が!)
瑞鬼は注いだ端からパカパカと酒を空けていく。
「ほれ、手が止まっとるぞ」
明らかに清舟とは呑む速度が違う上に、清舟がゆっくり味わう間もなく瑞鬼の盃を満たさねばならなくなる。
そうやってパカパカと酒を空ければ、用意されていた酒もすぐに底を尽きる。
「ん? なんじゃ、もう無くなったのか?」
そりゃあアレだけ飲めば……と思うが、清舟はお口チャック。酔っ払いに絡まれるのは御免だ。
「河岸を変えて呑むとするか。奢ってやるから付き合え、清舟」
「奢りならまあ……」
「安くていい肴を出す店があるぞ?」
「姐さんのおすすめなら期待が持てそ……って、ちけぇ! ちけぇよ姐さん!」
「ほーれほれ役得、役得じゃ! うれしかろう?」
「嬉しくねぇよ、酒くせぇ!」
女性に肩を組まれたら普段の清舟ならば瀕死の小魚の如くなってしまうのだが……こんなに嬉しくない肩組みが今まであっただろうか?
キャンキャンと騒がしく喚き合いながらも向かった瑞鬼お薦めの店は、桜を望める屋台の良い店だった。酒も美味いし、飯も美味い。そして美しい桜を間近で見られる。
「……儂ももっと強くなりたいのう」
この不幸と隣合わせの世界で、家族を護れるぐらいには。
「そう思える心があれば大丈夫じゃろう」
「酔っぱらいに言われてものぅ」
「は? 酔っておらんが? わしがこの程度の酒で酔うわけなかろう」
酒飲みはみんなそう言うんだ。
桜を見上げたふたりは普段よりもへらりとした顔で笑って、乾杯を。
春の日なのだ、腑抜けてるくらいでちょうどいい。
「山がかみさま、なのですか?」
「……きっと御山そのものが蛇の神さま、なのですね」
まぁるい瞳がぱちくりとよっつ。
桜色に染まる大きな御山は鳥居の向こう。
メイメイ・ルー(p3p004460)と『あたたかな声』ニル(p3p009185)は、揃ってお行儀よくぺこんと御山へご挨拶。ちゃんと手も合わせて、心を届けることも忘れない。これまで出会ってくれた人々が教えてくれた作法だ。
「ふふ、わたしも今日は視察です」
隣にいつものぬくもりが無いのは寂しいけれど、今日は遠津のことを知って、大好きな人にお土産話をたくさんするのだ。京から離れた地のことを知ることができるのは、きっとあの御方も喜んでくれるはず。
「みたらし団子、良い焼き加減……あっ、あそこに桜の琥珀糖が?」
琥珀糖は日持ちたすると教えてもらったから、お土産はあれに。
「雨泽さん、こんにちは。先日は作戦お疲れ様でした」
「やあルーキス」
大きな怪我がなくて幸いだと『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)へ雨泽が笑いかける。
「雨泽さんは今から……」
どこへ向かう予定か尋ねきる前に、雨泽が菓子屋を指さした。
琥珀糖に練り切り、花見団子にみたらし団子、桜餅。
菓子たちも桜色一色で、お供しますとルーキスはついていく。
「雨泽様、どれも春のお菓子ですか?」
ぴょこりとニルも菓子屋に顔を覗かせた。可愛い色の菓子がいっぱいで、どれも可愛い。
「そうだよ」
「このお花は食べられるお花ですか?」
「ああ、うん。塩漬けの桜は食べられるよ」
そういえば以前、食べられるお花の話もしたよねと雨泽が笑った。
「……っと、なんだ皆、ここに居たのか」
「やあ獅門。……随分とたくさんだね」
桜を愉しみながら参道を歩いてきた『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)が、和菓子屋の前に集っている神使等に気が付いた。
手が空く度に次々と屋台の食べ物を買っている彼の手に今あるのは、蛇の飴細工。あまりにも立派だったから暫く眺めたくて、そのまま手に持ちながら歩いていた。
「蛇……?」
「の、飴だね」
「蛇の形のお菓子、他にもありますか?」
「おう。向こうの方にまんじゅうがあったぜ」
「ニル、買いに行ってきます!」
ニルが猫のココアと駆けていく。また後でと皆でその背を見送った。
「雨泽の旦那のお薦めは何かあるのか?」
「僕はね、桜餅と琥珀糖」
「琥珀糖って宝石みたいで、見ているだけでも楽しい気持ちになるんですよね」
雨泽が指を指すとルーキスがそう言った。
「食感もシャリシャリして面白いよね」
「へえ。それなら俺も食べてみようかねぇ」
早速獅門は店主に注文して口にしてみた。なるほど、不思議な触感だ。日持ちもするとのことだから、土産用にも購入した。
「雨泽さんは道明寺派、ですか?」
「そう聞くってことは、ルーキスは長命寺なんだね」
「はい。違うのがあることも、今知りました」
雨泽が桜餅と指した先にあったのはもちもちの道明寺桜餅。
対するルーキスが思い浮かべたのは薄皮を巻いた長命寺桜餅。
どう違うんだと首を傾げた獅門は両方食べてみることにした。
「どっちも美味ぇ」
「花の種類が違っても美しいように、菓子も種類が違っても美味しいんだよ」
「旦那の言うことは解るような解らないような」
そうかなと雨泽は獅門に首を傾げた。
「そういえば刑部の旦那は仕事なんだっけか?」
「そうだね、スカウトが主だけれど」
「すかうと」
「勧誘、かな。後から合流するだろうし、お疲れ様ってお土産あげるのはどう?」
「お、いいねぇ」
それならばと、獅門は食べてきた屋台をもう一度周りに行く。お好み焼きも焼き鳥も、どれも美味しかったから。
花より団子。されど花を一層愛でるのなら、団子も欠かせまい。
大社に満ちる賑わいは弓削邸までは届かない。
静けさ満ちるその邸で、誰よりも緊張していたのは『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)であろう。前方には主たる弓削・真賀根が、すぐ斜め後ろには幼なじみである『白蛇』神倉 五十琴姫(p3p009466)が、自身を含めてみな同様に頭を垂れている。『刑部卿』到着の報せが会ったため、彼が直にこの場へ訪うからだ。
微かな衣擦れの音ともに、刑部卿――鹿紫雲・白水が上座についた。「面を上げよ」の声にも三名は伏したままであった。
白水の静かな声は、真賀根の記憶にあるものと変わらない。彼と初めて会ったのは未だ獄人排斥の色が濃い時代で、真賀根と白水は政敵――白水自身にその気持ちは無かろうと――であった。
「弓削・真賀根」
「は」
「物部 支佐手から聞いておるな」
「……はい」
帰郷した支佐手の言葉をも、最初は疑った。――今も、信じきれてはいない。
けれども支佐手が真っ直ぐな瞳で、幼い頃か変わらぬ瞳で、訴えたのだ。どうか会うて下さい、と。一緒に京へ戻りましょう、と。
部下たちに苦労を掛けさせて来た自覚があった。
このままにしておいては駄目なことも、ずっと知っていた。
「政務の滞りについては謝罪を申し上げます」
全ては己の不徳の致すところであり、謀反の準備をしていた訳では無い。支佐手と五十琴姫も同意を示すように更に僅かに頭を垂れる。上司たちの会話に、差し出口は挟めない。主がどうなるかが不安なのだろう。事前に刑部卿の意向を聞いていても、ふたりの身体は緊張で固くなっていた。
その釈明に、解っていると短な言葉が返った。
「……私は、貴殿ならば直ぐに戻ってくると思っていた」
真賀根が顔を上げた。瞳に驚愕の色を映して。
やっと此方を見たなと、白水が僅かに笑う。
真っ直ぐな瞳も姿勢も、あの時から何ひとつ変わっていない。
白水は真賀根にそれだけの能力があるのだと認めていたのだ。
(白水殿は本当に)
彼の一族、『雲の一族』は帝至上主義だ。時の執権がどうあろうと、帝に尽くすよう育てられる。帝が獄人を嫌って排するならば表舞台から姿を消し、それでも陰ながら帝に仕え続ける。
しかしながら他の家も『そう』でないことを知っている。時に権力に飲まれることも、時にどう思っていようとも抗えないことも。故に天香が獄人を排すよう命を下し、真賀根等がそれに従ったことに対して思うところはない。
「……何をしても、帝がお許しにならないのではと」
真賀根は過去の亡霊だ。
「私が無駄な事を厭うのは貴殿も知っているはずだが」
「お気持ちは大変有り難く。ですが――」
我が身可愛さにこれまでに犠牲になった者達を裏切るような真似は出来ない、と口にする真賀根。
白水が短に嘆息する。
「物部 支佐手」
「は」
白水に呼ばれた支佐手が動く。白水の元まで向かい、彼が手にした書状を受け取るのだ。
(支佐は本当にお堅い男じゃなぁ……そういうところが好……ではなく損をする性格なのじゃ……)
五十琴姫は始終見守りに徹する。
支佐手の初恋も、不器用さも、誠実さも、全て知っている。ずっと側で見てきたのだ。一途なその視線に気付いてくれなくていい。苦しむ彼が少しでも楽になることを祈って、傍らで見守り続けた。これからもきっと、ずっと。
支佐手が真賀根へと書状を差し出す。
「帝と式部の許可は既に私が取っている。それは正式な任命書だ」
書面の最後には帝の署名も入っているものだ。
本来、式部省のみで足りるものを、流刑と捉え続けているであろう真賀根のために十分すぎる手続きを行ったのだ。
「……貴殿を支える者たちを慮れる気持ちがあるならば、受けよ」
帝からの任命は君命だ。しかし断ったとしても、自分の見る目がなかったのだとその責は白水が負うと告げている。
真賀根は支佐手を見た。感情を押し殺そうとしている瞳が揺れていた。
(あの小さかった子供が……時は、流れるものだ)
筋を曲げられぬと突っ張ることの方が我が侭なのではなかろうか。
支えてくれる者の思いに気付け無いのなら、そのまま燻るしか道はない。
「白水殿、伏してお願い申し上げます」
声が震えた。君命を受ける、と。
帝も眼前の男も、支佐手も五十琴姫も、真賀根を見限っていなかった。
ここで応えねば、何とあろうか。
「ご命令とあらば、何であろうとも成し遂げる覚悟です」
「真賀根殿。その言葉、我が主へ確と伝えましょう。……思うところはありましょう。全てを流せとも申しませぬ。貴殿のこれからの姿で志を示してくださることを願うばかりであります。私は貴殿よりも若輩の身、先達としてどうぞお力添えを」
そうして豊穣の安寧のために尽力を。
心よりお頼み申すと、白水も真賀根へと頭を垂れて返した。
国はひとりでは動かせない。ひとりでは守ることもできない。
頭となる者が居て、みなで支え合って成り立っている。
「私が不甲斐ないばかりに、これまで苦労をかけた。すまなかったな」
どこか晴れやかが顔で真賀根が支佐手と五十琴姫に告げる。
――嗚呼、遠津にも、宮様にも、春風が。
「……勿体ないお言葉です」
支佐手が表情を隠すように頭を下げ、見守る五十琴姫も美しく平伏した。
庭の桜木が、はらり。微笑むように花弁を零していた。
ふわりと桜が舞った。
美しい桜を見遣ったシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は、手のひらに落ちてきた花弁へ満足そうに目を細めた。
少し不格好な木彫りの大蛇は、味があっていい。花弁をそっと載せ、シキは願う。
(私の大切な人たちが、私の愛するこの世界が。どうかいつまでも自由に、幸せにいられますように)
桜よ、どうか届けておくれ。
(――種族差別無き豊穣の未来を)
川へと木枝を流したルーキスは、眼裏に愉しげに笑う鬼人種の男の顔を思い浮かべた。
差別は簡単にはなくならない根深いものだ。だからこそ願い、祈り――それだけでなくルーキスは己で出来ることもするつもりだ。
(俺が勝手にした約束だ。鼻で嗤われそうだな……)
けれども、願うことをやめらねない。
「雨泽様は、何をお祈りするのですか?」
「僕は豊穣の人々の幸せかな。ニルは?」
「ニルは……いつかまた会えますように、と」
「それならとびきり綺麗な花弁を選ぼう」
大蛇も大きくして、会いたい人の数だけ載せてしまおう。
「ニル号はきっと遠くまでいくよ」
「旅の仲間もたくさんで、楽しそうですね」
出会いがあれば別れがあって、少し寂しい。
「会いに来てくれなかったら、会いにいこうよ」
探すの付き合うよと雨泽が笑って、ニルは瞳をまぁるくしてから微笑んだ。
今でなくてもいつかまた、きっと会える。
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)と『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)の手から離れた木彫りの大蛇が川を下っていく。
離れていくのが寂しいのか、ルミエールは切なげな顔で繋いだままのクウハの手をぎゅっと握った。すぐに握り返してくれるその手が愛おしい。
愛おしさと同時に、『もし置いていかれたら』なんて気持ちも湧き上がる。
「花弁が落ちちまっても気にする事ねェよ」
「ねぇ、紫苑の月。……ぎゅっとして?」
甘えん坊なルミエールに小さく笑い、クウハは抱きしめてやる。
籠めた願いは『ずっと一緒にいられますように』。
「ずっと一緒にいような、ルミエール」
同じ気持ちを抱いている限り、離れることはないのだから。
「どう、夏子さん。わたしにしては結構……って、えー! なんでなんで! 夏子さんどうしてそんなに上手なの?」
「まーこーゆーのは器用にヤれちゃうのよね」
木を彫るのって思っていたより難しいと悪戦苦闘して何とかそれっぽい形にした『この手を貴女に』タイム(p3p007854)に対し、『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)の大蛇は細かな鱗まで作られていて立派なものだった。
ちょっと前に『ただいま』のやり取りをしたしんみりとした空気を吹き飛ばすくらいに衝撃的だった。
(でも、夏子さんが心配してくれたの、嬉しかったな……)
ちゃんと帰ってきたのにどうして怒ってるの、なんて悲しくなったけれど、続いたあの言葉。
『いやまあ今更 無理するなとは言わないよ? 言わないけどタイムちゃん 言いたい事分かるよねぇ……?』
ちゃんと心配してくれていて……心配してくれているってことは少なからず大事に思ってくれているということだ。嬉しい言葉を思い出せば、大蛇の出来も気にならないくらいに頬が緩む。
「タイムちゃんも鱗彫ってみたら?」
「……それっぽくなるかな?」
「ツチノコからは ランクアップ するかも?」
「ツチノコじゃないもん! 怪我もあるし本調子じゃないだけだからっ」
夏子はそうだねって笑って、彫り方を教えてくれる。
「ねぇ夏子さ、」
ちょっと様になってきていない?
そう言って見せようと思ったのに、そこにあったのはいつもと違う真剣な横顔。
ざあざあと鳴る桜吹雪の音が遠くなる。
時が解らなくなるくらい、見つめてしまう。
「ふぅ ……あ ゴメン ほったらかしちゃったかな? 何時もより男前の顔しちゃってたでしょ失敬失敬~」
「……ふふ、案外凝り性なのね」
ずっと見つめていた、だなんて。言えやしない。
「おっ タイムちゃんも…… 蛇って手 あったっけ?」
「う・ろ・こ、です!」
ごめんごめんと笑う夏子とともに川へと向かう。
川へ向かうと視界が開け、少しひんやりとした気持ちの良い風が柔らかく頬を撫ぜた。
「願い事かぁ…… こういうの結構してるけど 土地土地の神様とかにお願いしてる感じなのかな?」
「願掛けも数打てば当たるみたいなとこあるかも? ない?」
たくさんのお願いをすれば、運が良ければ拾ってもらえるかも、くらいかな。どうなのだろう?
(美味しいもの沢山食べたい色んな場所に出かけたいそれからそれから)
のんびりと流れていく大蛇を見守る夏子の隣で、タイムはいっぱいお願い事をする。
「あ」
「あ!」
びゅうと吹いた悪戯な風がふたりの大蛇をごつんとぶつからせた。
「ワぉ 花落ちちゃったか う~ん残念」
「ああ~……」
「でもま願いは 何時だって自力で叶えるモンだし 問題ないよね」
「そうね、わたしはもう叶ってるようなものだし」
「そうなの?」
「そうよ」
願い事は何かなんて、互いに聞きはしない。
「それじゃあ僕らも飲みに行こっか」
「さんせ~!」
お手をどうぞなんて言われなくても、ぴょんっと夏子の腕にくっついて。
腕を組みながら桜を見上げ、タイムはああなんて幸せなのだろうと笑う。
――この先もずっと一緒にいられたらいいなぁ。
――――
――
弓削邸の庭で真賀根と静かに夜桜を眺めていた白水の元へ、真賀根が席を外したタイミングを見計らい、塀を乗り越えて邸に入った雨泽が訪ねて来た。
「義兄上」
詰るような響きと、拗ねたような響きが声に混じっている。
「……わざとですよね」
「何のことだ」
知っていての物言いに雨泽が咎めるように双眸を平たくするだけで、知っているくせにと言う言葉は零さない。
「姉上が居る日を指定したのでしょう」
問いではない断定に、白水は言葉を返さない。――それが答え。
白水は刑部省では有名な愛妻家である。
従弟でもある義弟と最愛の妻を天秤に掛けた時、どちらに傾くか。
よくよく考えなくとも答えなど解りきっている。
「伝えてはいない」
生きているとも、会ったとも。
それに日にちは指定したが、時間までは指定していない。
運が白水の最愛へ傾けば出会うし、雨泽へ傾けば出会わない。
――けれども、運は雨泽には傾かなかった。それだけのことだ。
「…………姉上に会った」
敬語を伴わなかったのは、せめてもの意趣返しなのだろう。
「だいたい義兄上はさ、姉上に甘すぎるんですよ。昔っから。だから姉上が――」
「――雨泽殿」
「あれ、支佐手だ」
「おんし、何をして……」
縁側の白水へ庭から絡む雨泽の姿を見つけた支佐手が近寄ってきて、雨泽が目を瞬かせる。支佐手からすれば真賀根と白水が花見をしている筈の場に雨泽が居ることの方が驚きだ。しかもなんか絡んでいるし。
近寄りすぎる前に足を止めて白水へと支佐手が頭を下げれば、雨泽は白水への用は済んだと言わんばかりにふらりと縁側から離れた。
「支佐手、桜を愛でながらお酒飲もうよ。あのお姫さんも一緒にどう? 彼女って呑めるのかな。あ、支佐手が彼女との約束があるのなら僕のことは気にしないで。ひとりでお花見するから。……そういえば彼女って君の好いひと?」
「雨泽殿……」
「私のことは気にせずとも良い。呑みたい気分なのだろう。良ければ付き合ってやってほしい」
「……保護者面しないでほしいんですけど」
拗ねたように極々小さく呟いた雨泽と、涼しい顔で縁側に座したままの白水。両者を見比べた支佐手の頭には疑問符が浮かぶ。仕事関係よりも親しい間柄なのだろうか。
「ああ、雨泽殿。勝手に歩きまわらんといてください……!」
確りと白水に頭を下げ、支佐手は勝手に弓削邸内を歩き出した雨泽を追いかけた。
「……良き世になりそうですね」
いつの間にか戻ってきていた真賀根が、賑やかに去っていく獄人と八百万の青年たちの背を見送っていた。
自分たちの若い頃には終ぞ見られなかった光景だ。
「ああ」
これからの世は、きっとこうした世になっていく。そんな未来の姿のように思えた。
顎を引いた白水は、傍らへと戻ってきた真賀根へ果実水が注がれた盃を掲げた。
「新しき世のため、貴殿の働きに期待している」
「貴殿の期待に添う働きをご覧にいれましょう」
返しの酒盃が掲げられ、ひらり桜花が舞い落ちる。
決意とともに飲み干した酒は苦く、そして一等甘かった。
春は、来た。
世界に、豊穣に、遠津にも。
想いは、実る。
誰かがそれに応えようと思うのならば。
――さくら、さく。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
春の佳き日に。
これにて<美しき珠の枝>は本当の幕引きとなります。
心に残るお話となっておりましたら幸いです。
それではまた、別のお話でお会いしましょう。
GMコメント
アフターシナリオもイベシナも、全部やりたい!
ごきげんよう、強欲の魔種・壱花です。
●シナリオについて
このシナリオが出発する頃の時間軸となります。
シリーズに関わっていない方も是非どうぞ。通常参加は文字量の多いイベシナ、サポート参加はイベシナ、です。
支佐手さんの故郷・遠津へお花見に行きましょう。
●プレイングについて
一行目:行き先【1】~【5】
二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)
一緒に行動したい同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。
例)一行目:【1】
二行目:【桜好き!3】※3人行動
三行目:仲良しトリオで屋台巡りをするよ。
「相談掲示板で同行者募集が不得手……でも誰かと過ごしたい」な方は、お気軽に弊NPC雨泽にお声がけください。お相手いたします。
【1~4】ふたつ選んでも大丈夫です。が、行動は絞ったほうがその場面での描写が濃くなります。(サポートは【1・2】どちらかのみ)
【5】は【5】のみになります。
【1】花見散策
遠津大社から続く参道をのんびりとお花見散歩が出来ます。
遠津大社の拝殿よりも後ろには大きな御山があり、そことは三ツ鳥居で区切られており立ち入ることは出来ません。本殿はない、山を拝するという原初の神祀りスタイルです。
参道には、焼き鳥、焼きそば、焼きもろこし、お好み焼き、団子、りんご飴……と言った、縁日で食べられそうな食べ物の屋台がお店を出しています。
雨泽は透明な琥珀糖の中に桜花の塩漬けが入った『桜の琥珀糖』が気になっています。他は蛇にちなんだ菓子等があるようです。
【2】大蛇の桜流し
太めの木の枝を掘って大蛇を作り、落ちていた桜花弁をひとつ乗せ、それを願い事をしながら手水川へと流します。視界からなくなる間に桜花弁が落ちなければ願いが叶うと言われています。
【3】花見宴会
昼間、参道から続いた先にある庭園で宴会が出来ます。
大きな桜の木の下に場所取りがしてあるので、屋台で買ったものや持ち込んだお弁当を桜を愛でながらゆっくりと味わえます。
お疲れ様な慰安旅行も兼ねているため、酒や果実酒等は刑部側で手配してあります。
【4】夜桜散策
時間帯は夜。【1】と同様のことが可能ですが、提灯や月明かりに照らされた桜を楽しめます。
こちらのみ白水が何処かに居るので、少しだけご一緒できます。
【5】その他
その他の場所でやりたいことがある人用。これまで<美しき珠の枝>で出てきた人に会いに行くことや、何か働きかけをすることが出来ます。
場所は『ひとつ』のみでお願いします。同じ場所でしたら数名の指名も可能ですが、その場の描写+NPCが動くたびにあなたの文字数がゴリっと無くなるため……応えられる範囲が他所よりも少ないです。
・近況『隠れ里』
山桜が美しく咲いています。春になり、作った花壇では花が揺れております。
里の一角に墓があります。里長の妹等、被害にあった関係者たちは亡骸がなくともそこに弔われています。
焔心打破の報せはまだ届いていません。刑部が知らせてもいいし、皆さんが知らせてもいいです。
・雲の一族の墓参り ※チックさん宛
「君の望みは、刑部卿から許可が下りたよ」
例の角の人のお墓参りが出来ます。
京の広い一区画を塀で囲んだ『雲の一族』の敷地内にあるので、裏手から行きます。敷地内には幾つもの家が建っています。雨泽が誰とも顔を合わせたくないので、こっそり案内します。し、一族外の人が敷地内へ入ること自体が異例なことです。
宝篋印塔になります。故人がそこに眠っているわけではありませんが、毎日一族の誰かが交代で清めています。
時間帯は昼間、雨泽は笠か被衣を被っています。長居したくない雨泽は「早く済ませて花見でもしようよ」とせっつくでしょう。
・弓削邸 ※支佐手さん宛
刑部卿が会いに行きます。異例なことです。
宮様のプレイングに注力して下さっても大丈夫です。
刑部卿とお話をしましょう。断っても大丈夫です。
ふたりっきりにして五十琴姫さんとお祭りにいってもいいですし、ふたりとも同席しても大丈夫です。
(お花見に行くのなら五十琴姫さん側のプレイングに添う形に描写されます)
刑部卿は、
・顔見知り(どこまでの仲かはご自由に)
・優秀な人材が地方で眠っているのが許せない
(正直、「何を腑抜けておる」と殴りたいレベル)
その他は、
・帝と式部省(人事)の許可は取ってある
・戻る場合、刑部省所属になる
(過去程大きく配下は持てないかもしれませんが、刑部卿直属の管轄になります)
●NPC
御用がございましたらお気軽にお声がけください。
・鹿紫雲・白水(p3n000229)
【4】に居ます。昼間はお仕事や話に行っていて居ません。
夜は落ち着ける場所で桜を愛でていることでしょう。お酒は飲めません。
話が上手く纏まれば弓削邸でともに桜も見ることもあることでしょう。
・劉・雨泽(p3n000218)
【1~4】に居ます。お酒や花が好きです。
いつも通り気ままにウロウロします。
桜餅は道明寺派。
●サポート
【1・2】のみに参加することが出来ます。イベシナ感覚でどうぞ。
同行者さんがいる場合は、お互いに【お相手の名前+ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。
●EXプレイング
開放してあります。
文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
可能な範囲でお応えいたします。
●ご注意
公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。
それでは、穏やかなひとときとなりますように。
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