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シナリオ詳細

<カマルへの道程>月に堕ちた金緑石

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●月の国の深紅石
 欠けること無き月の原野、鏡写しの砂漠の王国。
 遥か遠き王宮では今も煌々たる光が輝いているか。
 無限大に広がっているように錯覚する砂漠の夜の只中にぽつねんと広がるオアシスがあった。
 小さな泉とそれを囲う木々が小さく森らしきものを作る。
 湖面に月を映す砂漠のオアシス、小さな緑に寝転ぶのは大きな動物だった。
 人よりも大きなイタチのようなソレに包まれ、すやすやと眠りについているのは1人の幻想種。
 月明かりに褐色の肌と夜明けの如き橙の髪を照らされた幻想種はピクリと耳を動かし、もぞもぞとイタチへとすり寄っている。
『キャァ――』
「んんっ、んーー……ふぅ、おはよ」
 イタチが甲高い声をあげ、幻想種は目を開く。
 月明かりに照らされたルビーのような仄暗い紅の瞳が愛おし気に柔らかく細められた。
 ゆるゆると立ち上がった幻想種の両の掌には烙印の華が開いている。
 月に向き合うようにして身体を伸ばして――
「さて、お客さんがいるみたい?」
 幻想種は笑みと共に森の外に視線を向ける。
 のそりと幻想種を覆う影は彼女と共に寝転んでいたイタチのような動物だ。

●砂漠のアレキサンドライト
 今は昔、砂の都ネフェルストの外で大変麗しい少女が生まれた。
 小さなオアシス都市に生まれた少女は産声さえも愛らしかった。
 深みのかかった橙色の髪は夜明けを感じさせ、太陽の下にエメラルドに輝く瞳は人々を魅了する。
 宝石に例えられ、どこかの世界では王女を意味するザラを与えられた少女は聡明でもあり、優しくもあった。
 両親は彼女の3年後に生まれた妹と、ザラがどうしてもと願い買い取ったペットと共に大いにかわいがった。
 目に入れても痛くないという言葉がこれ以上になく似合うほどに。
 いつの頃からか、ザラを小さな田舎町で燻らせている場合ではないと誰かが言った。
 優れた師を持てばきっと名高き人物になると。
「お母様、お父様。私も行ってみたいわ。
 それで大きくなって、2人をもっと裕福に暮らせるようにしてあげたいのよ」
 そう言って笑うザラはどこまでも輝いて見えた。
 ――それがこの世で彼女を見る最後の姿になろうなんて、きっと誰も思っちゃいなかった。
 少女と彼女がどうしてもと連れて行ったペット。
 1人と1匹を含めた行商人のネフェルストへの旅路は盗賊に襲われて潰えた。
 馬車や荷台を砂に突き立てた残骸、無くなった商品の数々、夥しい血を砂漠に吸わせた亡骸達。
 酷くありふれた悲劇、ほんの――そうほんの200年ほど昔にあった出来事だ。

 ――ただ、その中にザラとペットの姿が無かったことだけが、遺族へと齎された。


「どうして今その話を?」
 情報屋のアナイスが語る御伽噺にもならぬ昔の話を聞き終えた後、当然ながらそう問いかければ。
「この話はこちらのポーラさんから教えていただいたお話なのですが」
 そう言ってアナイスは隣に立つ幻想種を紹介する。
 星灯りに満ちた夜空を思わせる深い青髪にサファイアのような紺の瞳。
 洗練された隙のない所作に彼女が傭兵であることを何となく察すれば。
「この話は、私が本当に経験した話なんですよ……姉は、ザラ姉さんは、どこかに消えました。
 でも、私の友人の傭兵が、カーマルーマで夜明けのような橙の髪をしてた女性を見たと」
「……お姉さんかもしれない、ってことか」
 誰かが言えば、ポーラはこくりと頷く。
「姉さんの遺体はありませんでした……もしも、もしも――彼女が『商品として』連れ去られたのなら……」
 先程の話では宝石に例えられる美貌だったという。
 幻想種、長命で風貌がそれほど変わらない、宝石のような美貌の少女。
 奴隷商がいれば、あるいはそうでなくとも生かして連れ去る価値はきっとあったのだろう。
「お気をつけて。もし仮にザラさんが生きていたとして……必ずしも」
 そう言うアナイスが何を言わんとするのかを感じ取り、君達は表情を険しくする。
 200年前に何処化へ消えた幻想種の少女――そんな相手が、月の王国にいる理由がどういうものなのか。
 最悪の可能性はいくつも感じ取れた。


『古宮カーマルーマ』の内部、ザラに似た人物の姿を確認したという付近で調査を始めて少し。
 見つけ出した転移陣を潜り抜けた先、そこは木々の広がる森だった。
 踏みしめる足場に草よりも砂が多いことも含めれば、砂漠であることは間違いあるまい。
 警戒を続けるままに奥へと進んでいけば、やがて開けた場所に出た。
 最初に目に着くのは空に浮かぶ月、次いで映るのはそれを映す湖面か。
 あるいは、人よりも大きなイタチのような獣と、それの前に佇む幻想種か。
「――こんばんは。ここだと挨拶がこれで間違いないんだから、便利だよね」
 ルビーに輝く瞳が輝いていた。
「お疲れ様。本当なら歓迎するべきなんだけど、貴方達はそうじゃないんだよね……だから」
 刹那、幻想種の後ろでイタチが雄叫びをあげた。
「――勝負だよ、貴方達がここを確保するか、僕が君達を全員、転移陣に追い返すか」
 微笑とそう言った幻想種は口元に手を寄せれば、その手に腕まで到達した烙印の華が見えた。
 かと思えば、周囲に魔法陣が構築され、姿を見せたのは大型の蠍を思わせる晶獣達。

GMコメント

そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】エネミーの撃退
【2】転移陣の確保

●フィールドデータ
 カーマルーマの転移陣を抜けた先、月の王国の一角です。
 オアシスを再現したかのような戦場です。
 戦場の中央に小さな泉が存在する他、多少なれど草花が広がっています。

●エネミーデータ
・『吸血鬼』ザラ
 ルビーのような仄暗い紅の瞳と夜明けのような橙の髪をした幻想種を思わせます。
 両の手には烙印の華が咲いており、腕にまで伸びているのが見えます。
 全身から魔力を感じます。恐らくは神秘型です。

・『サン・ブレット』ミー
 イタチを思わせる晶獣ですが、サイズ感はどちらかというと熊の類。
 獰猛かつ果敢、ザラと非常に高度な連携を取ります。
 非常にタフな事に加えて物理戦闘力にも長け、敏捷性も悪くありません。
 基本的にザラを守るタンク的な立ち位置を取ります。

・サン・スコルピョン×10
 蠍型の晶獣です。サイズが大型の猫ぐらいあります。
 前脚の鋏による【致命】、【出血】系列BSの他、
 大きな尻尾からは【毒】系列のBSを付与される可能性があります。
 反応と命中が高め。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <カマルへの道程>月に堕ちた金緑石完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年04月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サイズ(p3p000319)
妖精■■として
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
浅蔵 竜真(p3p008541)
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方

リプレイ


 ざぁ、と風が砂漠を撫でた。
 波紋が湖面の月を奪い、風に打たれた木々が揺れている。
「そんなにそわそわして、どうしたんだい?」
 目の前で紅色の瞳が細められた。
 視線を注がれたのは『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)である。
(ああ、気になる……)
 当の本人であるサイズはそんな言葉は聞こえちゃいない。
「こんな異空間が広がっていて、しかも転移陣だって……?」
 混沌世界における転移技術は超の付く高等技術。
 宮中神殿や妖精郷のそれはそれぞれ神やそれに匹敵すると自他ともに認識するあのシュペルの技術。
 イレギュラーズが単体で熟そうとすればそれは奇跡(PPP)に頼るもの――
(じゃあ、あれはなんで動いてる? ただの魔力じゃ無理がある。
 生命力……烙印押された人の涙か血の花弁か? それとも紅血晶か?)
 それは紅血晶の流通より始まる今回の騒動に殆ど興味を持ってこなかったサイズでさえも動かずにいられないもの。
 肩を竦めて「どうやら、僕の事なんか耳に入ってないみたいだね」と呟く吸血鬼の声を聞いた。
「あなたがザラ様? ポーラ様のお姉さん?」
 戦いが始まるまでもう少しはあろうか――『あたたかな声』ニル(p3p009185)は女性へとそう問いかけた。
「ポーラ……懐かしい名前だね。それに、僕の名前まで知ってるんだ。
 もしかして僕がここにいること、彼女にばれてしまったのかな」
(瞳の色、烙印……吸血鬼
 ……ザラ様が、元気に生きていて、またポーラ様に会える、なら、
 それが一番よかったのに……戦わなくていいのなら、それが一番よかったのに……)
 きゅっと杖を握る手に力を籠めて、ニルは前を向く。
「なるほど、そうなんだね……どこでバレたんだろ」
 ニルの反応から察したのか、ザラが少しばかり首をかしげる。
(連れ去られてそのまま吸血鬼に、か……。
 どんな思いでこの200年過ごしてたかなんて想像もつかないけど、
 なんで吸血鬼側につくことになったんだろ?)
 首を傾げ『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は思う。
(気持ち的にはやりづらいけど……ちゃんと戦わなきゃ)
 疑問を振り払うようにして、気持ちを入れなおせば、その仕草を不思議そうにザラが見ているのに気づいた。
(……ほんっと、何年前から活動していたんだこの吸血鬼どもは。
 安心しろ。私にあんたは助けられないが……『救う事』はできるからよ。
 だから、最期まで、付き合ってやるよ!)
 その掛け合いを聞きながら、『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)が武器を握る。
(200年も昔の出来事が、今と直接繋がってくるなんてね。
 長命種の計画が遠大なのはよくある話だけれど……月の王国、一体いつからこんな事を考えていたというの……?
 吸血鬼と月の在り方、その成り立ちも気になるところではあるけれど、今は転移陣の確保が優先ね)
 同じように時の長さに思うところがあるのは『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)もだった。
(ポーラさんの、夜の空のような深い青の髪、サファイアのような紺色の瞳、綺麗な星空のようだった)
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は依頼を受ける時に見たポーラの事を思い浮かべていた。
「橙の髪の吸血鬼……夜明け色の髪はそのままでも……エメラルドのような瞳はもうないんだね」
「そう、だね。懐かしいな」
 ヨゾラの呟きにザラが零すように呟いて少しばかり微笑に郷愁を混ぜた。
(月の王国、ここに来て何時間経過したのかな。
 なんだか……いつまで経っても朝が来ないような気がします。
 きれいな場所だけど、きっとわたしはここには居続けられない。
 きっとさみしくなるだろうから)
 胸の奥に感じる何かを言葉にする『嘶く矜持』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は駆けだしたサイズに続くように動き出す。
「ポーラさん……妹さんのところには戻らないのですか?」
「君達があの子から言われて僕を探しに来たのなら、僕がどうして奴隷になったのか、聞いてないかい?」
 戦いが始まってしまう前に、ココロが問えば、逆にそんな問いかけが返ってきた。
「僕は盗賊どもに攫われた。その後、僕はとある奴隷商に売られたんだ。
 ……そろそろ、良いかな?
 対話を続けても良いんだけど、ただそうしていられる時間も多くはないんだ」
 ココロへと答えた吸血鬼が動く。
 一部のレギュラーズが様子見を窺う隙を衝いて、ザラは手をこちらに向けた。
 夜明けを告げるような強烈な光を放ち、閃光が戦場を駆け抜ける。
 直線的に放たれた閃光は最も近くにいたサイズを焼きつける。
「転移陣を調査するのに邪魔なんだよ、吸血鬼!」
 攻撃を受けたサイズが苛立つように叫べば、吸血鬼が「それはごめんね」と謝ってくる。
 血色の鎌を振るえば、その斬撃は血色の閃光となって戦場を走る。
「ミーちゃん、無理は駄目だよ」
 血色の顎を形成した斬撃は戦場を駆け抜け、ザラの前へ躍り出た『ミーちゃん』ことイタチのような晶獣とぶつかった。
「消息を断ってから200年、帰ろうと思えば帰れたんじゃないのか?
 今のお前にはこれだけの力があるんだから」
 ザラへと飛び込んで浅蔵 竜真(p3p008541)もまた問うものだ。
 振り払った覇竜穿撃はザラの魔力障壁に大きな罅を入れていく。
「聞かせてみろよ。歓迎できませんお帰りくださいじゃあ、俺たちも不満だ。
 お前の妹から頼まれた者として、その権利くらいあるだろ」
「たしかにそれもそうだね。
 昔もこんな力があったのなら、良かっただろうけど。
 でも僕が吸血鬼になったのはつい最近だ。
 奴隷なんてやるのを止めてからは……何年だっけ? 30年ぐらい?」
 首を傾げ、ザラは続けた。
「盗賊に攫われたんだったな……だがそのままということもないだろ。
 奴隷になった後、何があった?」
 竜真の言葉に、ザラは微笑する。
「時の流れっていうのは、残酷だよね」
「どういう意味だ?」
「だって――そうだろう? 僕を買い取った奴が、事業に失敗したり。
 代が変わってそいつらの好みに合わなくて売り飛ばされたり、さ。
 奇跡があるのだとしたら、僕を買い取った連中が『いつまでも金になる』と思ってくれたこと、なのかもね」
 竜真の斬撃を受け止め、微笑と共に軽口のように告げる内容は声色に合わず重い。
「ニルは、かなしいのはいやです。
 でも……これ以上かなしいことが増えるのも、いやです。
 だから、全力で吸血鬼は、止めなくちゃ、いけないのです」
 ニルはその言葉を証明するように魔力を束ねていく。
 浮かび上がる魔法陣が呼び起こすはこの世界を構成する何か。
 それは蠍型の晶獣たちに絡みつき、その精神性を侵していく。
「そうだね……本当に、そう思うよ」
 ニルの言葉が聞こえたのか、ザラがそう呟いたのが分かった。
 表情は笑み、内心を悟らせぬ。
 そんなニルの攻撃を受けた蠍たちが泥を振り払うようにして動き出した。
 その鋏が、尻尾が複数のイレギュラーズへと振るわれた。
「――怒りの日、かの日は世界が灰燼に帰す日なり。そはダビデとシビュラが預言せり」
 ルチアは静かに手を組み、祈るようにして句を紡ぐ。
 振り祖ログは雷霆、それこそは神の裁きにして怒りの雷霆。
 神罰を思わせる雷の断罪が月の王国を鮮烈に照らし付け、多数の蠍たちを打ち据えて行く。
 照らし付ける雷光に導かれるように蠍たちの動きがルチアを標的を定める頃、咲良は動いた。
「その腕の……考えたくなかったけど、そういうこと、だね」
「ふふ、気持ち悪いかな? 綺麗だと思ってもらえるのも複雑な気持ちだけどね」
 咲良が言えば、ザラは笑う。
「お友達も一緒のところ悪いけど、アタシ達も守らなきゃいけないものがある。
 共通項ある中で敵対してるのも複雑な気持ちだけど、さ」
「そうかい? それは良かった。僕にも為さないといけないことがあるんだ」
 振り抜いた足を障壁に阻まれながら咲良が言えば、応じる吸血鬼もまたそう笑う。
「大きさは猫くらいか……猫が晶獣にされてないだけましだけど、ね!」
 蠍のような姿をした晶獣を見下ろすようにしてヨゾラは『本体』たる魔術紋を励起させる。
 淡い輝きを放つ魔術紋から齎される魔力を充実させ、魔導書へと注ぎ込んで見せれば。
 魔力の奔流は流星のように空へと翔ける。
 戦場にて瞬いた星々の輝きは空間を押し広げ、混沌の泥を降り注ぐ。
「200年、か。私の5分の1だけど……永い時間だよなぁ」
 ミーナは死神の大鎌を一閃しつつ自然と言葉に漏らしていた。
 事実上の不老不死、かつてはそうであった――そうなってしまった身体で流れた時はあまりにも永かった。
 それに比べれば、という気持ちと、それでも長いのだという気持ちが同居して、声は漏れる。
「ここで終わりたいか? それとも、生きて帰って……妹さんに会いたいか?」
「それも、いいかもね。でも――少なくとも、今はまだ会う気はさらさらないんだ」
 蠍たちへと神秘性の斬撃の連鎖を描くミーナはその返答を確かに耳にする。


 戦いの中、ルチアは迫りくる蠍の群れと向き合っている。
(これなら耐えきれる……はずね)
 紡がれる鋏の斬撃も、その身穿つ蠍の毒針も、持ち前の多種多様な堅牢さを以って抑え込みながらルチアは目の前の1匹に視線を向ける。
「――来たれ、禍の凶爪よ」
 祈りを捧ぐようにして言の葉を紡いだ刹那、その1匹の足元へ陣が浮かぶ。
 対処する間もなく開いた扉が蠍を呑みこんで、代わって開いた魔法陣から姿を見せた頃にはその蠍の動きは無気力その物。
「今はもう自由、なんですよね? 帰れたのではないですか」
 ザラの前に立とうとするミーちゃんと呼ばれた晶獣を見据えつつココロが言えば、ザラはその笑みに少しばかりの悲哀を浮かべて。
「僕は奴隷ではなくなったけど、自由ではないよ。
 それに、『僕は自分の故郷がどこにあるのか分からない』んだ。
 奴隷になって転々としたし、そもそも誘拐されるまで故郷を出たことがなかったからね」
 砂漠の中の小さなオアシス都市。ラサにある、ぐらいならばわかるだろう。
 そこから先、広大な砂漠の中から故郷を探し出す―― 一体どれだけの時間が必要になるのか。
「『今は』……か。
 私は、私たちは、あんたの妹さんに会ってる。
 ……会いたいなら、一緒に、生きる道を探そうぜ!」
 ザラへと肉薄するミーナは言葉を紡ぐ。
「一緒に、か。そんな道が残っていればいいんだけどね」
 小さく笑み、ザラは魔力を高めていく。
 ミーナが振り抜いた斬撃は重い連撃となってザラに注がれていく。
 それらの殆どは守りを固めんとするザラに防がれていた。
 その刹那、ミーナが振るうは紅の閃光。
 鮮やかな軌跡は張り巡らされた障壁を穿ち、ザラの身体を斬り裂いた。
 鮮血が花弁となって砂漠に散った。
「それに、この問いに答えて貰っていないだろう。
 結局、帰れない、それとも帰りたくないのか」
 続けるように竜真も斬撃を払う。
 連撃刻む猪鹿蝶、三連撃を紡ぐ惨劇の軌跡を2度にわたって斬り伏せれば。
「どっちもだよ。まだ帰れないし、帰りたくもない。
 ――だって、そんなことをしたら僕は、きっと『止まらない』から」
 ザラは微笑を残してそう呟いた。
「これが僕の……星の色だ!」
 ヨゾラは充実する魔力を拳の一点に集束していく。
 激しく瞬く背中の魔術紋が星灯りを照らし付ければ、循環する魔力の尽くを集めて行くものだ。
 それは星の誕生をも予感させる爆発的な一撃、星のように輝く魔力を籠めて穿つ『夜の星の破撃』――
 零距離で叩きつける極撃は夜空に輝く星の瞬きだった。
 凄絶たる一撃はザラの守りを越えて大きくその身を焼きつける。
「攫われてきたのであればこういう形でアタシ達と敵対することもないはず。
 それに、自由でもないって……それはどうして?」
 咲良はザラの動きをつぶさに観察しながら蹴撃を叩き込む。
 障壁の守りごと空へと打ち上げんばかりの蹴り飛ばしは、たしかにザラの障壁を削っている。
「今、僕の身体は女王陛下の物だ。そういうことになってるから。
 僕が君達を抑え込んでるのもそう言う理由だよ」
「女王陛下の物、か……」
 小さく呟いて、咲良は次の句を抑え込む。
(それじゃあ、まだ貴方は奴隷のままみたいだよ)
「奴隷みたい、だろ? ホントにね――」
 心でも読まれたように、ザラが言う。
 その表情はどこか覚悟を決めているように見えた。


 想定以上の激戦を強いられてこそいるが、イレギュラーズは戦いを続けていた。
 その理由の多くは晶獣に邪魔されたザラへの攻撃があまり通らない事だ。
(でも、それ以前に……彼女、『勝つ気がない』ような気がするわね……)
 戦線維持の為に天使の宝冠を導くルチアはその一方でそんな感想を抱いた。
 そう、勝つ気がない――正確に言うのなら、やる気がない、とでもいうべきか。
「最後にもう1つ、教えてください。いままで人の血を吸って生きてきましたか?」
 晶獣越しに齎される攻撃を癒しながらココロは問うた。
 もしも彼女が害をなすタイプの吸血鬼であれば――容赦は出来ない。
 生きている誰かを助けて守っていくのが『医術士』なのだから。
「まだ人の血を吸った事はないはずだよ。
 まあ、寝てる間に吸わされてたこととかあったら分からないけど」
「ニルも聞きたいことがあるのです」
 愛杖に魔力を束ねながら、ニルは言う。
「その子は……誰なのですか?」
 そう言う視線の先には、ザラを守るように立つ晶獣がいる。
「もしかして、ザラ様と一緒に行方不明になったという……」
「そうだよ。この子はボクのペット、名前はミーちゃん……もちろん、あの時にいた子と同じではないけどね」
 そう言ってザラは慈愛に満ちた笑みで晶獣を撫でた。
「……そう、なのですね。良かった……」
「良かったって?」
「だって……ザラ様は、ひとりぼっちでなかったということですよね?」
 ニルの言葉にザラが目を瞠る。
「――そう、だね。ふふ、きみの名前は?」
「ニルはニルなのです」
「そうか、ニルくん……くんでいいのかは分からないんだけど、まあいいや――ありがとう。
 きっと、この子もその言葉は嬉しいだろうから」
「ポーラさんを吸血鬼化する気なら怒るよ。
 星空のような紺色の瞳を、吸血鬼化なんかで変えてしまう……僕の我儘だけど、そんなのは嫌だ」
 魔力を束ね、ヨゾラはザラへ向けて真っすぐに己の意志を告げる。
「ふふ、大丈夫、僕にもそんなつもりはないからね――その為にも此処にいるんだし。
 これ以上の戦いは互いに傷が深くなりすぎるだろうね……僕はそろそろ退くことにするよ」
 そう言ってザラが一気に跳躍し、それに合わせて晶獣も後退していく。
「あぁ……でも。その前にこれは君達の誰かにあげておいた方がいいのかな。
 だってほら、これがある人がいた方が城に辿り着けるだろうから」
 ――かと思えば微笑を浮かべ、ザラが一気に跳ぶ。
「あの言葉、本気だったかい?」
 肉薄されたミーナは耳元でそんな声を聞いた。
「あぁ、本気のつもりだよ!」
 咄嗟に答えれば、ザラが微笑した気がして――
「証明してもらうよ」
 腹部に感じたじんわりとした熱、烙印の花が浮かび上がる。
「帰ろうか、ミーちゃん。仕事は終わりだ」
 衝撃と共に吹き飛ばされた刹那、ミーナはそんな声を聞いて顔を上げる。
 気づけばザラはミーちゃんと呼ばれた晶獣に跨っていた。
「すぐに会えるだろうけど、また会おう」
 微笑を浮かべてザラが晶獣の毛並みを撫でれば、それを合図に晶獣が走り出してどこかへ去っていく。
「やっと転移陣を調べられる!」
 そう言うサイズは早速、転移陣の下へと戻ってきていた。
 持ち前の鑑定力を駆使して試みるその眼は真剣そのもの。
(原理や理論が未知でも、既存の技術に近くても……)
 ――それは、少しでも桃源郷に近づくための試みだ。
 同じように調査を試みるココロも同じように転移陣の調査を続けていく。
 沈黙するオアシスの中を月が照らす様を背に乗せて。

成否

成功

MVP

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務

状態異常

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
高貴な責務
浅蔵 竜真(p3p008541)[重傷]
皿倉 咲良(p3p009816)[重傷]
正義の味方

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
少しばかり手こずった部分もあったようですが、勝利です。

●運営による追記
※天之空・ミーナ(p3p005003)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています

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