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シナリオ詳細

<カマルへの道程>ヤドリギ人形。或いは、いざ光の中へ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カーマルーマ
 舞台はラサの古代遺跡。
 古宮カーマルーマ。
 歴史の本によれば、この地ではかつて『夜の祭祀』と呼ばれる死と再生を司る儀式が行なわれていたという。
 だが、それもかつての話だ。
 祭祀を行っていた一族は滅び、今や都市の大半は砂の中に埋もれている。辛うじて残った地上部分や、地下空間には行き場を無くした晶獣や晶人、モンスターがうろついている始末である。
 と、そんな危険な土地にイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)が足を運んだのにはわけがある。
 ここ最近、ラサ全域を騒がせている紅血晶の売人たちはカーマルーマの各所に設置された転移陣を経由して、砂の国へと渡って来ていることが判明したのだ。
 転移陣の特徴は“薔薇を思わす紋様が描かれていること”。
 目にすれば、きっとすぐに“それ”と分かるはずである。
「……と、そんなわけで調査を続けているわけっすけど」
 奇妙な人影を目撃した。
 そんな情報を頼りにイフタフはカーマルーマへ足を運んだ。砂中に埋もれた地下遺跡と言うわりに、その付近は奇妙なほどに明るかった。
「っていうか……」
 明るすぎる、とそう呟いて、イフタフは眉間に皺を寄せる。被っていたニット帽を瞼の上まで引き下げて眩しい光をカットするが、それでもやはり眩しさは一向に軽減できない。
 その原因は分かっている。
 そこかしこに群生している黄金色に輝く茸……ヤタラトヒカルダケのせいだ。
 ヤタラトヒカルダケは、その名の通りにやたらと眩しい光を放つ。主にダンジョンや地底湖を生息地帯としている菌糸類だが、どうやら何かの拍子にカーマルーマへ渡って、この一帯で繁殖したらしい。
「眩しすぎて【乱れ】や【ショック】の状態異常になってるっすね。あぁ、なるほど……ヤタラトヒカルダケは、こうやって外敵から身を守っているんっすか」
 眩しいだけなら何の問題も無かったのだが、状態異常まで付随するとなれば話は別である。
 近づくだけでもリスクが伴う。
「リスクが伴うっすけど……まぁ、転移陣を隠すのなら、きっとこういう場所がいいと考えるはずっすよね?」
 奇妙な人影を見たという証言もある。
 例えばそれが……紅血晶の流通に関わっているという“吸血鬼”たちのものでないとも限らないのだ。

●光の中
 イフタフが怪我をした。
 ヤタラトヒカルダケの群生する区画で“何か”の襲撃を受けたのだ。
「何か……っていうか、木製の人形みたいな風に見えたっすね。ただ、何らかの意思を持っている風でもありました」
 救護ベッドに横たわり、イフタフは腹を押さえている。
 脇腹に空いた小さな傷口からは、赤黒い蔦のようなものが伸びていた。どうやら蔦は、イフタフの血を吸いながら成長を続けているようだ。
「これを植え付けられたっす。たぶん【廃滅】と【失血】っすかね。あぁ、調査のために残しているだけっすから、この後すぐに除去してもらうんで心配なく」
 と、言うがイフタフの顔色は悪い。
 きつそうに何度か深く呼吸を繰り返し、イフタフは額を濡らす汗を拭った。
 それから彼女は、近くの紙を手に取ると、それにペンで簡単な地図らしきものを描く。
「まぁ、眩しすぎて今一正確な情報ってわけでもないっすけど。ヤタラトヒカルダケの群生地は、およそこんな風な地形だったように思うっす」
 イフタフが白紙に描いたのは、縦に長い楕円形だ。楕円形の下部に黒い点を打っているが、どうやらそこが群生地の入り口付近であるらしい。
「壁沿いに少し進んだところで、木製人形のような何かに襲われたっす。それから右も左も分からず逃げ回って、やっとのことで黒点の位置にまで戻って……まぁ、逃げ回った方向とか距離とかから考えると、おそらくあの辺の地形はこういう形かな、と」
 視界の効かない状況でのことだ。イフタフの描いた地図と実際の地形が大きく違っている可能性もあるだろう。
 だが、1つだけ確実なこともある。
「あの辺、何の障害物も無いっすよ。天井やら壁やら地面やらにヤタラトヒカルダケが生えているだけで、移動の邪魔になるものは何もなかったっす」
 ただし、ヤタラトヒカルダケの放つ眩い光が厄介だ。
 前も後ろも、右も左も光に包まれているというのは、つまり真っ暗闇の中にいるのと何の変わりもないのだ。場合によっては、ふとした瞬間に仲間たちとも逸れかねない。
「あの木製人形……ひょっとすると、偽命体(ムーンチャイルド)ってやつだったんすかね」
 なんて。
 痛みに顔を歪めながら、イフタフはそう呟いた。

GMコメント

●ミッション
転移陣の発見および奪取の妨げとなる脅威の排除

●ターゲット
・木製人形×?
転移陣を守っているらしい木製人形。
イフタフの予想では、人形ではなく樹木に似た体を持つ偽命体(ムーンチャイルド)かもしれないとのこと。
光の中に身を潜め、侵入者を襲う。
木製人形によって種を植え付けられると継続的なダメージおよび【廃滅】【失血】の状態異常を付与される。

●フィールド
ラサの古代遺跡。
古宮カーマルーマ。
地下空間の片隅にある、やたらと眩しく光っているエリア。
天井や壁、床に群生している“ヤタラトヒカルダケ”という菌糸類が光源。非常に眩しく、肉眼では少し前の景色さえはっきりとは見ることが出来ないだろう。
イフタフの調査によれば、縦に長い楕円形のような地形をしており、障害物らしきものは存在しないらしい。
また、エリア内のどこかに転移陣があることが予想されている。
木製人形を排除し、転移陣を奪取することが今回の目的となる。
ヤタラトヒカルダケの光によって【乱れ】や【ショック】の状態異常が付与される。サングラスなどで光を弱められれば回避できるかもしれない。


●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <カマルへの道程>ヤドリギ人形。或いは、いざ光の中へ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月29日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)
心に寄り添う
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
百合草 源之丞 忠継(p3p010950)
その生を実感している限り、人なのだ

リプレイ

●ただひたすら
 そこはひたすらに白かった。
 地面に、壁に、天井に、無数に生えた光るキノコが原因だ。
「うわ、目がっ! 目を瞑ってても貫通してくる眩しさじゃないか!」
 ラサの古代遺跡。
 古宮カーマルーマのとある区画に1歩、足を踏み入れるなり『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が悲鳴をあげた。
 目を閉じていても、瞼を貫き眼球を刺す眩い光がイズマを苦しめているのである。
「いやちょっとこれは眩しすぎて……こんなこともあろうかと!」
 チャチャーン♪ とBGMを背負って『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)が懐へ手を突っ込んだ。
 暫くごそごそとやっていたかと思えば、取り出したのはサングラス。
「サングラスを持ってきて正解でしたね! ね! マリエッタ様♡」
 光には光で対抗とばかりに、後光を背負っていた『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)へサングラスを手渡して、妙見子は笑った。
「……ええ、はい、よく持ってきてましたね、サングラス。助かります」
 受け取ったサングラスを耳にかけ、マリエッタは眉間に深い皺を寄せた。確かに多少、マシにはなったが相も変わらず視界は悪い。サングラスでは対応できないぐらいにヤタラトヒカルダケの光は強いのだ。
 なお、頭のサイズに対してサングラスは大きめだった。
「確かに厄介ですが、視界が一切利かないという程ではないのなら、然程問題にはならないでしょう」
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が手にした槍型魔動器で地面を叩いた。音の反響を利用して、敵性体の位置を探ろうとしているのだろう。
「……近くにそれらしいものはいなさそうだな」
 黒い体の怪生物がそう呟いた。
 音と臭いを頼りに周囲の様子を確認しているのだ。『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)は試しに数メートルほど前へと進む。
「その辺りで戻ってくれ。見えなくなる……目くらましというならば、これ程効果のある物はあるまいな」
光に飲まれて消えていく愛無の背を『名も無き忍』百合草 源之丞 忠継(p3p010950)が呼び止めた。
「……泥臭くいこう。全員でまとまって、少しずつ捜索範囲を広げていくべきだ」
 サングラスに黒い帽子、さらには顔面を墨で黒く塗りつぶしている『心に寄り添う』グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)が、腰の刀へと手を伸ばす。
 一見すれば奇妙奇天烈な出で立ちであるが、顔や目の下を黒く塗るのは強い光から網膜を守る方法として古くから伝わる知恵である。
「行こう。僕自身、今回は個人的事情で敵をぶん殴りたい位だし、転移陣も木製人形も早めに見つけて、木製人形は全部倒すよ!」
 サングラスの位置を整え、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の準備は万端だ。
 かくして一行は、1歩ずつ、そしてゆっくりと光の中を進んで行った。

●ヤドリギ人形
 コツン、コツンと地面を叩く音がする。
 アリシスが槍型魔動器で地面を叩く音を頼りに、イレギュラーズは光の中を歩いていた。今回の主な目的は、転移陣の発見と、光の中に潜んでいる敵性体の撃破となる。
 目撃情報によれば、敵性体は木製の人形らしき“何か”のようだ。襲われたイフタフは寄生木を植え付けられて重傷を負っている。
「敵に動きがあれば、何処に居るのか距離や方角の凡その判断は出来る筈」
 音を鳴らして、耳を澄ます。
 問題が無ければ先へと進む。
 そんなことを繰り返しながら、区画の半ばほどまで辿り着いた。
 そろそろ、イフタフが調べた地図の範囲から外に出る。ここから先の地形は不確定だ。もっとも、これほどに眩しいとなると地形なんて気にしても仕方が無いのだが。
「木製人形という事は、動く際にきしむ音が出るはずだが」
 刀を手にした忠継が言う。
 とにかく周囲が明るすぎるのだ。数メートルも離れれば、仲間の姿や容姿を視認することさえも難しくなるほどに。
「どうでしょう。軽い木で出来ているとなればそんなに音も出ないかもしれません」
「どこから敵が出てくるかがわからないのが厄介ですよねぇ……」
 隊列の半ばほどに待機しながら、マリエッタと妙見子が言葉を交わす。こうも索敵が難しいとなると、いっそのこと奇襲を仕掛けてくれれば話は早いとさえ思ってしまう。

 しばらくの間、沈黙が続いた。
 沈黙を破ったのは、おそるおそると言った様子で発されたイズマの言葉だ。
「その……聞きにくいんだが、顔を黒く塗っているのは効果があったかい?」
「……サングラスほどではないかな。うまくいったら自慢してやろうと思っていたんだが」
 グリゼルダの表情が曇る。
 わざわざ墨で顔全体を黒に塗ったにもかかわらず、思ったほどに高い効果を得られなかったためである。
「まぁ、できる事をしっかりこなすとするよ」
「そうか。俺も……っ!?」
 ピタリ、とイズマの言葉が止まった。
 イズマの耳は、すぐ背後を駆け抜けていった微かな足音を聞き取ったのだ。
「何かいるぞ。血の臭いがしている」
 先頭から最後尾へと移動しながら、愛無が四肢を地面へ着いた。牙を剥き出しにした愛無が、敵の襲撃に備えるが……それっきり、足音はちっともしない。
「去った……か?」
「いや。敵の気配はしているよ。姿が見えないだけだろうね」
 警戒心も顕わにしたまま、ヨゾラが視線を左右へ巡らした。
 いかに光が強いとは言え、近くで何かが動けば分かる。
「急ぎましょう。イフタフ様も早めに治療しないといけませんし……」
 そっと妙見子が、ヨゾラの背へと手を触れる。
 しばらくの間、目を閉じていたヨゾラだが……。
「そっちか!」
 カッ、と目を見開いたと思うと、足元へ向け渾身の殴打を振り下ろす。

 ヨゾラの拳が閃光を放つ。
 衝撃、轟音、そして妙見子の視界が白に染まった。
 サングラスの黒を貫く真白に、妙見子の目は焼かれたのである。
「ぬぁー! 目がぁ! 目がぁー!?」
「だ、大丈夫ですか、妙見子さん!?」
 顔を押さえてのたうつ妙見子を、マリエッタが引き摺って行った。
 と、そんな妙見子とマリエッタがそんなやり取りをしている間に、残る6人はヨゾラの元へ近づいていく。
 眩しさに目を細めながら、ヨゾラの足元へ視線を落とせば、そこには砕けた人形があった。大きさはおよそ50センチほどの小さい。砕けた樹木の体に、乾ききった人間の……それも、おそらくは赤子の頭部がくっついた歪な怪物がそこにいた。
「……偽命体(ムーンチャイルド)、なのか? なんてもんを造りやがる」
 偽命体(ムーンチャイルド)。
『博士』が作りだそうとした人造生命体……その失敗作の名だ。
 遺体と呼ぶべきか、残骸と呼ぶべきかも定かではないそれを検分しながら、忠継は唇を噛み締めた。
 “忍”として悲惨な遺体も、惨い死に様も、極悪非道という言葉さえも甘く感じるような所業も多く目にしたし、時には己の手を血に染めることもあった。
 だが、それにしたって、目の前のこれはあまりに醜悪。悪趣味と言う言葉がこれほどに似合うものもない。
「一から作成したホムンクルスベースのキメラか、或いは人間を素体にしたキメラの類か……大部分は植物のようですが」
「解析は後回しだな。まだ、近くに何体かいるみたいだ」
 アリシスの肩に手を置いて、愛無が首を巡らせた。
 光の中に、時々、何かの影が蠢く。
 その影の正体は、おそらく木製人形である。

 マリエッタの耳に、或いは脳に何かの声が囁いた。
 奥へ。
 さらに奥へ。
 それは、この場で命を落とした霊の声に他ならない。白い光に包まれて、右も左も分からぬままに彷徨い続けている霊だ。きっと、自分の遺体がどこに転がっているかも、もはや理解できていないのだ。
 それでも、霊たちはマリエッタへ道を伝えた。
 光の中をうろついている木製人形たちが、どこから来て、どこへ帰るのか、それを伝えた。
「ありがとうございます。皆さんの遺体は、いずれ、必ず……」
 光に包まれながら、霊たちの遺体を探すことは難しい。
 マリエッタは口の中で呟くように礼を述べると、妙見子の手を引き霊の示す方へ向かって駆けだした。

 キシ、と微かな音がした。
 刹那、イズマが腰に佩いた鞘の内から、細剣を引き抜き一閃させる。
「俺には"聴こえてる"んだよ、隠れたつもりでいるなよ!」
 空気を切り裂く音が鳴る。
 乾いた小枝がへし折れるような音が鳴って、イズマの足元に何かが落ちた。
 人の形をした、人ではない何か。
 樹木の体に巻き付いた血色の蔦が、意思を持つかのように蠢いているのが見える。
 片足と片腕を失いながらも、人形は跳んだ。ごっそりと空間ごと抉られたかのような断面からは、血色の樹液が滴っている。
 残ったもう片方の手には種らしきものが握られていた。
 イズマの体にヤドリギを植え付けるつもりだろう。
 けれど、しかし……。
「来ると分かっているのなら……如何様にも対応できる」
 間に割り込む忠継の腕が、木製人形の攻撃を防いだ。
 イズマの腹へ植え付けられるはずの種が、忠継の腕に根を伸ばす。けれど、腕に根が張ることは終ぞ無かった。
 骨だ。
 差し込まれた忠継の右腕は、肉も筋も血管さえも失った骨であったのだ。
「後の先、取るべし」
 一閃。
 忠継の斬撃が、木製人形の首を断ち切った。

 アリシスの腹部に激痛が走る。
 吐血し、アリシスはその場に膝を突いた。
「吸血樹……ヤドリギ、ミスルトゥ……か」
 皮膚の下を根が這い廻る不快感。
 急速に血液を吸い取られる喪失感。
 視界が揺らぐ。
 その間にも、アリシスの眼前には新たな木製人形が現れた。その数は3体。
「くっ……」
 傷口に手を触れ、アリシスは呻く。
 その手には淡い燐光。傷を癒し、ヤドリギを枯らすにはもう少しだけ時間がかかる。
 対応が間に合わない。
 そんなアリシスの窮地に駆け付けたのは、黒い体の怪生物だ。
「放れるか、伏せるかしていろ。周囲の茸を吹き飛ばす」
 木製人形に跳びかかると同時に、歪に細く長い腕を振り抜いた。
 愛無の爪に引き裂かれ、1体の木製人形が地面に転がる。残る2体は咄嗟に攻撃を回避して、光の中へ後退していく。
 多少のダメージは与えたはずだが、どうにも手応えが軽い。
「……やりづらい」
「逃がすのは悪手だが、深追いするのもな。奇襲が怖い」
 愛無の横へグリゼルダが並ぶ。
 下段に構えた刀で、転がっていた木製人形にトドメの一撃。そんなグリゼルダの横をヨゾラが駆け抜けていった。
 逃げた2体の木製人形を追いかけようというのだろう。
「あ、待て! 追っては駄目だ!」
 光の海では、1度逸れてしまえば合流が難しい。
 グリゼルダがヨゾラの手首を掴んで止めた。
 握ったヨゾラの手は怒りで震えている。
「気持ちは分かるが、今は……な」
 そんな言葉をかけることしか、今のグリゼルダには出来ない。

 2度に渡る襲撃は、多少の被害で乗り切った。
 既に道程の半ばほどまで至っただろうか。
「先へ進みましょう。それと、ちょっとだけ全員の防技をあげておきますね♡」
 妙見子が柏手を打つと、周囲にふわりと燐光が散る。
「万が一、味方を巻き込んでもアレだし、次は俺が先頭を進むよ」
 アリシスを後ろへ下がらせると、イズマが先頭を買って出る。イズマを先頭にマリエッタ、妙見子、ヨゾラ、アリシス、後方に忠継と愛無が続く形だ。

 区画を奥へ進むにつれて、光は徐々に弱くなる。
 ヤタラトヒカルダケの数が減っているのだ。
「そういえばいつかの報告書でこれ食べてたな。後で試してみるか?」
「食用に適しているようには見えないが……まぁ、これが終わったら一つ収穫してみるか」
 数が減れば、ヤタラトヒカルダケの形も視認できるようになった。
 見たところ、やたらと眩しく光っている以外は普通のキノコのようである。ただひたすらに光っているが、大きすぎることも無いし、小さすぎることもない。毒があるような色もしていない。
 試しに1つ収獲して見るか、とそんなことを考えたのか。
 イズマと忠継が壁に生えたキノコへ向かって手を伸ばし……。
「収獲は後にしてください。ほら、来ましたよ」
 そう言ってアリシスは、頭上へ魔導器を持ち上げる。
 ごう、と魔力が渦を巻き、周囲一帯に汚泥が溢れた。

●転移陣
 汚泥が地面のキノコを飲み込む。
 数が急激に減ったことで、周囲を包む白い光が一段と弱まった。
「うわっ……これは、ちょっと」
 辺りの様子を窺っていた妙見子が、口角を引き攣らせて後退る。そこらに生えたキノコの間から、次々と木製人形が姿を現したからだ。
 1体、2体、3体……その数は10体。干からびた赤子の頭部に、木製の体。眼球に当たる部分からは、ヤドリギが目を伸ばしている。
「引き寄せる。後は頼めるか?」
「もちろん。数が多いので、気を引き締めなければな」
 前へ出たのは愛無だ。
 そのすぐ後ろにグリゼルダが続く。

 微かな足音を立てながら、木製人形が駆け出した。
 地面に四肢を突いた姿勢で愛無が咆哮をあげる。
 愛無の雄叫びに惹かれるように、木製人形が軌道を変えた。愛無に向かって行ったのは7体ほど。
「確実に1体ずつ……だな」
 姿勢を低くし、滑るようにグリゼルダが駆け出した。
 刀を肩に担ぐように、白い髪を振り乱し、その口元には笑みを浮かべて。
 灰の瞳が爛々とした光を放つ。
「あまり賢くはないようだ」
 すれ違いざまに、刀をまっすぐ振り下ろす。
 斬、と。
 突出していた1体を、一刀のもとに斬り伏せた。

 愛無が引き寄せられないでいる3体を、迎え討つべく駆け出したのはマリエッタだ。
 木製人形の動きは速い。
 正面へ1体、左右へ2体が散開し、時間差を付けながら連続してその細い腕を振り回す。
「っ……!」
 木の枝で叩かれたような鋭い痛み。
 腕が、腹部が、背中が裂かれて血が滲む。
 直接的なダメージは大きくない。
 だが、植え付けられたヤドリギが厄介だ。
「治療はー……あ、まだ大丈夫そうですか?」
 妙見子が問いかける。
「えぇ、都合がいいです。血刃で無理矢理仕掛けますから、フォローを」
 植え付けられたヤドリギが、マリエッタの皮膚の下を蠢いた。
 成長した根が皮膚を破り、白い肌を血で濡らす。
 痛みに顔をしかめながら、マリエッタは頭上へと手を翳した。まるで指揮するかのように、両の腕を虚空に泳がす。
 それに呼応するように、零れた血が蠢いた。
 形成されるは血の刃。
 まずは1体。
 顔面を断ち割るようにして、木製人形を2つに別けた。
 
 汚泥が人形を飲み込んだ。
 額から血を流し、右腕に根を張るヤドリギをむしり取りながらヨゾラはきつく歯を噛み締めた。
 ギリ、と奥歯の軋む音。
 口の端から血を流しながら、汚泥に沈んでいく人形の……赤子の顔へ言葉を零した。
「僕に叶えられるのは……倒して今の状態から解放する事だよ」
 それ以上は叶えられない。
 なんて。
 最後の言葉を聞いたのか。
 赤子の顔が笑った気がした。

 10体。
 木製人形は、それっきり現れることはない。
 そうして、8人は区画の最奥部へと辿り着いた。そこにあった転移陣を覗き込み、アリシスと妙見子は首を傾げる。
「見たところ、魔術的な仕掛けに間違いはなさそうですが」
「使えたら便利だとは思いましたが……うぅ~ん? 実際に使ってないのでどこにどう繋がっているのかがわからないのが怖いですねぇ~」
 転移陣は発見した。
 脅威となる木製人形も排除した。
 転移陣周辺のヤタラトヒカルダケは、イズマと忠継が現在収獲中である。持ち帰ってどうするつもりかは分からないが、きっと食べるのだろう。
 事実、愛無は既に何本かを食べている。
「隠し通路のようなものも無いようだし、調査はこんなところでいいんじゃないか? 後は、導線を引きながら帰還しよう」
 どこかから、ロープの束を取り出しながらグリゼルダはそう言った。

成否

成功

MVP

水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

状態異常

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女

あとがき

お疲れ様です。
木製人形の掃討および転移陣の発見が完了しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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