PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<蠢く蠍>いまは退こう。また住めるように
<蠢く蠍>いまは退こう。また住めるように

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 村が、燃えている。悲鳴と怒号が村の中をひしめいて、おぞけが走るような笑い声がそれに答えていた。
「――なんだぁ? 陳腐な村だとしても物が無さすぎじゃねえか?」
 空。空。空。空。空。蔵という蔵、家という家、挙句の果てには畑という畑。その全てにおいて、あるべきはずの財産の一切がない。
 自分達以外の誰かが先に奪ったのか。そう最初こそ思ったがどうもそうじゃない。
 行く町行く村、この近隣においてはそこ悉くがこの有様。
 あほな領主が過剰に徴収した結果かと思えば、少なくとも捕らえた村人がこちら側にくるような気配もない。
 頬に蠍の刺繍を付けた男が舌打ちしつつ、眼下に跪く翁を睨みつけながら言う。
「物もねぇ、人もいねぇ……こりゃあどうなってんだぁ? あぁ!?」
 手に持つ銃の引き金を引けば、翁の頭近くを掠めて弾丸が地にめり込んだ。
 しかし、翁は決して答えない。
 それは誰も、そう誰もそこまでは命じてないながらも、彼が最後に決めた矜持だから。
「しけてんな……次に行くか……つまらねぇが、ここにいる全員も根絶やしにしてくか」
 翁に唾を吐き捨てて、男は踵を返す。
 その背を見据える翁の瞳には、長く共をした小さな村の最後が、静かに灯されていた。
 これでいい。これで。きっと。
 生きていれば、報復できる。生きていれ
ば、立て直せる。だから――きっと。

「ベリエス様」
 焼き払えと指示を出しながら町の中を闊歩していた銃を持つ男――ベリエスはそう声をかけられ振り返る。
「ぁあん?」
「これを……」
 腰に剣を下げた男が一枚の紙を差し出す。
「……へぇ、こいつぁ……」
 ベリエスの表情が、にやりと笑みを浮かべる。
「クルト、これなら追いつけんだろ。せいぜい奪ってこい」
「承知いたしました」

 ずらり、ずらり。
 人が蛇のように長い列を作り、まっすぐに一方へと歩き続けている。
 それらは軍と呼ぶ統率こそとれていないものの、誰もそこから外れようとはしていない。
 ただ――絶対に後ろを振り向かない。誰もが覚悟を決めた悲愴な表情を浮かべていた。
『急げとは言いません。皆様はただの人。飛脚でもなければ鳥でもなく、軍人や兵士でもない。急いでもあまり意味はないのです。もちろんそこを離れるのも不安でしょう。ただ、いつか生きてここに帰ってくるために。どうか私の下へ来てください』
 ラサの傭兵連合による討伐を逃げ延びたキング・スコルピオが幻想に潜んでいる。その噂はもはや噂の域を脱し、公然たる事実として幻想を食い破ろうと始めていた。
雌伏の時を過ごしたキングと幹部たちは、やがて幻想内部のアウトロー勢力を吸収、糾合しながら急速な成長を遂げつつあった。
 もちろん、それは貴族達にとっても看過できる問題ではない。多くの貴族達は大都市圏を中心に防衛に防備を固めている。
 結果、がら空きとなった辺境の町や村は砂蠍の毒牙に苛まれ、その勢力拡大に利用され続けている。
 それはこの小さな町を中心とする小さな貴族領でも変わらない。
 『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)が苦肉の策で考えた非常手段に徹するしかなかった。
 自前の戦力は乏しく、例えローレットに頼もうと辺境の隅々まで家族を守ることなどできない。これが例えば、もっと大勢力であったのなら、きっと迎撃ですませるのだろう。
 少数の精鋭に任せて動かせるのだろう。けれど、そんなことをする余裕は、ない。
「――えぇ、ですので私は逆のことをするしかないと、そう考えたわけです。もちろん、これをすることを愚かと罵られるかもしれません。でも――命があってこそですから。しかたがないと、決めました」
 まるで自分を侮蔑するように吐き捨てるテレーゼは、イレギュラーズの事を見つめている。
「今回、皆様には、このブラウベルク城まで民衆を護衛していただきたいのです。近隣の村の多くは既にブラウベルク城とその近郊、最大でも10分圏内で届く場所まで集住させています。あとは一番遠いの村の何個か。そこからくる村人たちを生きてこの町に連れてきてください」
 分散して護り切れる戦力がない以上、一か所にまとめるしかない。故郷が燃えることも、故郷を荒らされることも、故郷を離れることも、絶望的に不安だろうことは分かっている。しかし、領土圏内を守るためには、こうするしかなかった。
「道自体は平坦な平原ですが、村人の皆さんはただの人です。多くの家財や食料、年齢層もバラバラ、それに加えて故郷を離れる不安もあるはず。民衆の脚は遅いでしょう。もちろん、そろそろ砂蠍の連中も気づくでしょうから、恐らく背後から狙われます。なので、皆様にどうかご協力をお願いしたいのです」
 自前の戦力は、集まってきた民衆と、まだあるいくつかの村からの護衛に使っている。民衆の護衛に使えるのは、実質ローレットの支援だけということになる。
「どうか――どうかお願いいたします。私の家族を、そうなっていたかもしれない人たちを、助けてください」
 そう頭を下げる少女の声は、処世術という名の仮面の上からでもわかるほどに今にも泣きそうで――同時にどこまでも深い怒りと憎悪に満ち満ちていた。

GMコメント

こんにちはこんばんは初めまして。
春野紅葉にございます。

砂蠍の軍勢が各地で騒動を起こし始めたようです。

以下詳細情報になります

【依頼達成条件】
ブラウベルクを目指して道を歩く人々を護衛し、無事にブラウベルクへ送り届ける。

【失敗条件】
人々や人々の運んでいる財産の類を盗賊団に奪い取られる

【戦場】
平坦な道の続く草原。見晴らしは良く、敵味方共に接近はすぐに気づくと思われます。

敵の数は多いですが、今回みなさまと衝突するのはおそらく、先行している騎兵隊になります。

敵と遭遇して長時間が経つと敵の本隊も追いつくため、大変危険です。

【敵戦力】
この盗賊団の総兵力はいまのところ不明です。
先行してくる騎兵は10人ほどと思われます。

・『焼葬』ベリエス
銃使いの盗賊。
襲ったところでは全てを焼き葬り去る残忍さで名を鳴らしました。
対人戦闘能力に秀でています。
基本スペックが総じて高く、反応とCTがその中でも群を抜いています。
強敵ですが、今回は本隊と一緒に来るため、遭遇するかは皆様次第です。
ここで倒さなくとも失敗にはなりません。

・『双剣』クルト
両手に剣を持った男です。騎兵と率いて民衆を追ってきています。
高い命中率と物理攻撃力を持っています。

その他盗賊
各地で集められたの盗賊。
最初はクルトに伴われてい来る騎兵10人前後。
本隊の人数は不明ですが、最低でも先行している騎兵の2倍以上と思われます。

騎兵10人は槍や長刀などの長柄武器を持ち、本隊の者達は剣から銃、魔法までありとあらゆるものがあります。

あくまで護衛依頼になります。欲張りすぎないことが肝要です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <蠢く蠍>いまは退こう。また住めるように完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月26日 21時35分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
白綾の音色
マルク・シリング(p3p001309)
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
黒杣・牛王(p3p001351)
月下黒牛
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
天之空・ミーナ(p3p005003)
ディザスター
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

リプレイ


 長蛇の列となってゆっくりと進む人々の前に姿を現わした『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)人々に声をかけていく。
「私達はローレットです。皆様を護るために参りました。誰かが来ても焦らず、落ち着いて真っすぐにブラウベルクに向かってください。周囲の人達と助け合ってください」
 人々を扇動するように語るヘルモルトはセミロングの長髪を風に遊ばせながら一つ呼吸を整える。
 馬上の人となり、やや視線を下げて人々を眺めながら、その様子をじっと見る。
 その表情はどこか辛そうではあるが、自分達が来た分だけ、少しだけ希望をもってくれ始めているように思える。
「その意思を持ち続けてくれれば良いのですが……その方が護り易いですしね」
 聞こえないよう小さく呟いてから、更に次の人々へと声をかけていく。
「最後尾の僕らを無視して皆さんの方に向かう者がいても、その対応も準備があるので、慌てず隊列を崩さず進んでください」
 マルク・シリング(p3p001309)もヘルモルトと同じように、民衆に対しての説得を行なっていた。
「もし敵が追ってきても、必ず防ぎます。だから、僕らを信じて、テレーゼ様の所へ進み続けてください」
 空を見上げると、晴れ渡る快晴で、周囲には雲もない。天気予報がなくとも今日も明日もこの辺りは晴れだろう。足場の心配はしなくてよさそうだ。
 『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は自ら望んで旅をはじめ、それを続けてきた身だ。故郷への郷愁、哀愁に類する感情も恐らくはないと考えていた。
 けれど、そんな彼女とて、いまこの列を行く人々の感情で理解できるものがある。
 知る土地を離れる不安。自らの身を守ることもできない状況でのそれは、耐えがたい。少しでも安心に変えられたらいい、そう思いながら列の後ろを歩む。

 『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)は商人に扮して最後尾から人々の歩みに従っていた。混沌からすれば異界より訪れた巨躯の青年は、それも相まって、故郷を離れる人々の気持ちは痛いほど良く分かった。
 予め調教を施してある猫のおはぎと、犬に匂いを覚えさせて周囲を散策させていたが、二匹も今は戻ってきている。
「いつぞやの砦攻めの依頼主のご令嬢か。中々に情が深いと見えるわい」
 顔の半分を覆わんばかりの豊かな髭に包まれた顎を撫でながら言うのは『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)だ。そう言いながら少し前の戦いを思い出す。 それが施政者として吉と出るか凶と出るか、それはまだ分からない。
「じゃが、この仕事くらいは吉と出してやらねばの」
 そう言いながらも今は武人らしい姿を悟られぬよう、牛王の下男を装っている。
「甘いと断ずるは易し。しかし、“守る”覚悟というのは、きっとそんな簡単な言葉で片付けられるものではないのであります」
「うむ、テレーゼ殿の想い、しかと受け取った。死力を尽くして応えねば」
 それに答えるように告げたのはマントで装備を覆い、砂埃など顔に纏った『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)とボロ布に身を包んだ『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)だ。
「それに無辜の民を暴力で脅かす外道共の好きにさせておくわけにはいかぬでござる」
 蛙の姿をした武士(もののふ)は、義侠心に燃えながら、ちょくちょく民衆に気をかけて声をかけている。
「盗賊団とはなぁ……どこの世界でもいるもんだ。で、毎度それをなんとかする羽目になるんだよな……やれやれ」
 そんなことを漏らすのは『プリティ★まじっくないと』天之空・ミーナ(p3p005003)である。言いながらも鷹である飛炎に馬車の上空を飛ばせていた。馬車につないでいるパカダクラの【砂駆】は、いつものように元気がいい。


 金髪碧眼の幻想種――『妖精使い』エリーナ(p3p005250)も避難民の姿を装いながら最後尾でファミリアー弟子役した動物からの視覚共有を受けてその様子を確かめていた。
 そして、ふと気づく。それは11の影。三角形に陣形を作り、真っすぐにこちらへと向かってきている。
 顔を上げ、近くにいたミーナを見る。一方のミーナも同じように振り返った。それに続くようにして他の面々も騎影に気づく。
 ばれないようにほんの少し振り返れば、騎影が三つに分かれていく。三人ずつ、左に一つ、右に一つ、残りの四人が先頭の一人と共に駆けてくる。
「人数を集めるだけならともかく、纏まった数の騎兵なんて勢力を盛り返そうとしている段の盗賊が簡単に維持できるものとは思えない。誰からか支援でも受けている……という所かしら」
 相手の様子を確かめて、ぽつりと呟いた『特異運命座標』久住・舞花(p3p005056)は斬馬刀を抜く準備を整える。
 接敵の前、両翼と化した賊兵に向けて、事前の相談通りの面々が向かう。まず動いたのはミーナだ。
「そっちには絶対に行かさねぇよ!」
 絶大な魔力を破壊力に変えて、ズドンと一発。その一撃は、中央を離れ、こちらから見て左手に向かって突っ込んでいく賊兵へとぶつかっていく。
「エッダ殿、あちらは任せるでござるよ!」
「えぇ――分かっておりますとも」
 

「――そこの二刀使い、貴方が指揮官のようね。悪いけれど、ここから先へは行かせない」
 舞花は斬馬刀を抜くと、堂々と双剣を握る男へ突き付けた。
「ただの商人かと思えば、物騒な物をお持ちですね。身なりやら風貌を察するに自警団だの傭兵だのではなさそうですね……」
 冷ややかで知性的な双眸を向けた男。細身だが、あれで手に握っている二つの剣を振るっているのだから、柔でないことは確実か。
 同時、ゲンリーも躍り出て、敵の騎兵に向け立ちふさがり、豪気喝を放つ。兵馬が動揺し、暴れる馬から振り落とされそうになる。
 必死にすがる賊兵に対して、敵の大将格は落ち着いて対応して見せ、舞花を無視して迂回する動きを見せる。
「私達を無視できると思っているのなら、ただの痛手では済まない事を教えて差し上げましょう」
 静かに、飄々とさえ感じるような鈴らかな表情で舞花が告げると、敵の大将がその貌に笑みを刻む。
「私の名はクルト。それでは、お相手頂きましょうか」
 穏やかな声で、しかしその身から確かな闘志をたぎらせ、クルトは舞花へ突貫、舞花は水面に映る月のような静かな心のまま、その赴くように鞘を敵の双剣に当て、斬馬刀を振り下ろす。しかし、そちらはそちらで相手の剣に防がれてしまう。
 Lumiliaは白銀のフルートを吹いて神の剣の英雄のバラッドを奏でていく。勇壮なる英雄の詩曲は、共に戦う者達へ力を分けていく。
「力がみなぎってくるわい!!」
 目に戦士としての誇りを滾らせ、ゲンリーは騎兵の一人へと渾身の一撃を見舞う。
 馬から引き倒された騎兵にゲンリーはさらなる突撃を仕掛けていく。
 ヘルモルトは一人に向けてメイド魔法(物理)を用いて多段牽制を行なって攻め立てている。組みつき、相手を馬から引きずり落としては一撃を打ち込んでいく。


 マルクは人々に振り向かず、真っすぐに進むよう指示を出してから、敵の騎兵に対して向き直る。エネミースキャンで騎兵の練度を見通すと、それを味方に告げていく。
「無事に、送り届ける……」
 覚悟を決めて、深呼吸。攻撃に意識を集中し、描き出した遠距離術式で一撃を騎兵――その馬に向けて撃つこむ。怯んだ馬が竿立ちになり、騎兵が、こちらへと視線を向ける。
「弱い者いじめしか能が無いのでござるか、この木っ端共! 我こそは『井之中流』河津 下呂左衛門! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!」
 大海に出た蛙は、鎧武者の如き姿を形成して、揚々と名乗り口上を上げる。
 常に露を纏い、血を洗い流すという名刀、雫丸を振るい、カッとその大きな目を見開いて威を込める。
 ギンっと殺意をこめた目で敵兵が近づいてくる。振りかざされた槍を両手持ちした雫丸で防ぎ、お返しとばかりに振り下ろす。ギンっと金属同士の撃ち合う音が平原に微かに響く。
 殺到してきそうな敵を見つめながら、防御態勢を整え、跳躍と共に二人目と刃を交える。
 びょうと、不意に冷たい風が戦場に通った。
 独特の声ともつかぬ何かと共に、その妖精はいつの間にかそこにいた。
 エリーナが身振り手振りで妖精に指示を出すと、彼女はやや天を見上げるようなしぐさをしたかと思うと、狙いすまされた二人の賊兵に無数の氷柱が降り注いでいく。
 血で色を染め上げた氷柱は賊兵の腕と腹部を貫いて、その後、直ぐに消えた。
 下呂左衛門が注意を引いたことで出来た隙、マルクはもう一度強く集中する。遠距離術式を再構築し、全力を込めてもう一度、撃ち抜いた。
 それは綺麗に走り、一人の騎兵の心臓をズドンと撃ち抜いていった。
 一人目が倒れたのに動揺した賊兵を見て、エリーナは静かにそちらに視線を向け、妖精を召喚すると、攻撃を放つ。隙だらけだった騎兵がその気配に気づいて振り返った時にはもう遅い。
 妖精ネリーは真っすぐに賊兵へと突撃し、対象を打倒していった。 
「これで終わりでござるよ! 外道!」
 ひゅんと閃いた下呂左衛門の刀身は、最後に残った騎兵の首を、胴体とおさらばさせた。ぼとりと落ちた賊兵の首には驚愕で見開かれている。

「フラウ・ブラウベルクの気持ちが自分には少しだけわかるのであります。善ではない、独善とわかっていても、それが人間らしいよすがとなるものと信じている。故に、お覚悟なさいませ。自分は己の満足の為に貴様らの頭蓋を叩き砕く者であります」
 エッダは真っすぐに敵を見つめ、名乗りを上げた。
 右手側面、エッダは突っ込んできた敵に対して反撃の一撃を叩きこみながら、防御態勢を整え続けていく。
 ゼシュテル軍人として、収奪の価値を知らないわけではない。だが――いや、だからこそ、エッダは無為の略奪を、必要以上のそれを看過するほど、独善を捨てていない。
 全身を拳として己の誇りと共に殴りつけていく。
「お前たちに恨みはねぇが……仕事なんでな! いっちょ派手にいくぜ!」
 ミーナはそういうと共に、狙いすましたナッシングネスを打ち込んで対象を虚無に包み込んでいく。
「これ以上荒くれ者と与するのであれば『馬刺し』になるかもしれません」
 牛王がそう語りかけたのは賊兵ではなく、それに使役されている馬の方だ。脅しをかけ、矢を振り絞り全力で打ち込み、馬が怯んだのを見てとると、今度は賊兵に向けて精密射撃を打ち込んでいく。
 エッダが注意を引き、牛王とミーナが各々の遠距離攻撃で賊兵を撃ち抜いていく。
 人々から切り離すように、徐々に徐々に人々の隊列から離れながら、賊兵に挑み続けていく。
 名乗り口上とディフェンドオーダーによる壁役となったエッダは、ゼシュテル軍人としての誇りをかけて、あの賊兵などと同じになることなどできなかった。
 一人の賊兵がこちらに向けて斧を振り下ろしてくる。真っすぐにソレを見据えながら防御体勢を取る。ガンっとガイスター・ファウストに確かに感じる手ごたえ。その直後、その重み、は一瞬で消し飛んだ。
 ミーナの一撃を受けた兵士は、虚無に包まれて呆然とし、そのまま牛王の矢に射抜かれてこと切れたのである。
 次の敵、既にミーナとの距離はほど近い。ミーナは剣を抜くと、魔力を込めて叩き込む。一瞬の均衡の後、賊兵が持っていた槍は穂先からぽっきりと折れ、吸い込まれるようにしてミーナの剣は彼を脳天から斬り下ろした。
 狙いすまされた牛王の矢は、幾度となくその賊兵を窮地に追いやっていながらも、決定打と放っていないように見えた。
 だが、それは違う。その賊兵が牛王の思惑に気づいたころには遅すぎた。鎧の裂け目裂け目を打ち抜くようにして狙われた矢により、身動きが取れなくなった賊兵は、最後の一撃を何の抵抗も出来ずに受け入れざるを得なくなっていたのだ。


 裂ぱくの気合と共に、前へ前へと進み続けるゲンリーは、『暴れまわる者』の異名をとる大斧を振るい続けていた。
 敵の持つ槍と、大斧による捌きあいの一瞬、ゲンリーは不意に一歩、さらに前へ踏み込んだ。
 同時にグンと手で大斧を握り、振り上げる。その刃が、相手の心臓を捉えたのを、確かに感じる。
 賊兵から、最後の小さな声を聞きながら、ドワーフの戦士は静かに斧を振り抜いた。べちゃりと、大地を敵から受けた血が濡らした。

 幾度目かの投げを打ち込んだヘルモルトは、頭を振りながら立ち上がった男に向かって、もう一度立ち向かう。
 ぎょっとした様子でこちらを見る賊兵の顔に飛びかかると、そのまま太ももで敵の顔を挟み――そのまま思いっきり身体を跳ねさせる。
 そのまま、男は頭から草原へと落ちていった。ゴギリという、人体――特に首からなってはいけない音が、男からきこえた。

 ギン、ギン、ガン――と、戦場に刃の触れ合う音が響く。人々から遠く引き離され、計画通りに足止めを行なってからどれぐらい経ったか。舞花は心赴くままに剣を閃かせ続けていたが、ふと気にかかることがあった。
「貴方、本気でやってないわね」
 振りほどくためにも、ガンと大きく剣を飛ばして、近づけすぎた間合いを少しだけ広げる。
「おや、どうしてでしょう?」
「それがこちらが聞きたいわね……何を見てる……いえ、違う。待ってるのね?」
「最初から気づいてましたか」
 乱れを感じさせぬ仕草で笑ってそういうと、敵が周囲を見る。
「やれやれ、多少鍛えたとはいえ、所詮は拾い物の烏合の衆ですか」
 気配を感じて、敵から視線を外さないようにしながら周囲を横目で見ると、クルトと共にいた騎兵と戦っていたヘルモルトとゲンリーがクルトに対して戦意を向けている。
「……この人数は流石に厳しいですね。勝負は分けておきましょう。今回は申し訳ありません、水面の如き人。次に会う時は、全力でお相手いたしましょう」
 いうや否や、クルトは馬を返す。事前に決めていた通り、舞花はそこで剣を止める。
 振り返れば、他の賊兵を倒したのか、両翼へと別れていった戦友たちがこちらに向かって走ってきていた。どうやら、さっき彼が言っていたのは、後方で詩曲を奏で続けてくれたLumiliaを含む四人ではなく、賊兵を倒してこちらへと近づいてくる戦友を含む十人全員のことのようだ。
「人々のところに戻ろう」
 ミーナの言葉に頷いて、イレギュラーズ達は民衆の方へと駆けていく。


 その町はまだ戦火に揺れていなかった。
 民衆を追って追いついたころには、もうブラウベルク城だった。
 どうやら、民衆は無事に辿り着いていたらしい。
「ありがとうございました皆様」
 そう言って、微笑んだ依頼主からその分の報酬をもらったイレギュラーズ達は各々のやりたいことを始めていた。
 ゲンリーのギフト、ドワーフの細工物は、疲れ果てた民衆にとってはある種のマジックショーのように見えてその場で作り上げられる新しい作品に驚嘆を以って迎えられた。
「そうじゃの……お主のそのブローチも直してやろうか?」
 少しの汚れと真新しい折れあとのあるブローチをした青年を近くへ寄らせ、それを受け取ると、瞬く間に修繕して見せる。
 牛王は依頼主に提案して作ったシチューを民衆に振舞っていた。手持ちのお菓子と共に、それは子供達や疲れはててお腹を空かせている人々にとっては救いのように思えた。
 特に、牛王の連れているおはぎと犬は子供はもちろん、老若男女を問わず小動物特有の癒しの力を人々に振りまいている。
 マルクは人々の話を聞いていた。不安や恐怖といった感情がほんの少しでも和らげばよいと思いながら。そんな青年の思いは、人々にも伝わるのか、やがて人々の表情には優しいものが浮かんでいく。
 エリーナは妖精たちを呼び出していた。不思議な精達の姿は、人々にとっては珍しいのか、子供達は威力を最大限にまで落とした精霊達の技にきゃっきゃっと声をあげている。
 声こそ出せない物の、エリーナは自然とその様子を見ながら笑みを浮かべてていた。
 下呂左衛門が鎧武者姿に転じて見せれば、それだけで少年達は格好いいと憧れの眼差しで彼を見る。子供達に危なくないよう離れたところで跳んでみせて、演武を披露すれば、拍手がその場に沸き起こった。

「夕暮れも近くなりますし、そろそろ火を焚いた方がいいかもしれませんね」
 そんなことを言って領主自ら薪を運び出したのに付きそうのはミーナ、ヘルモルト、エッダ、舞花の四人。
 仕事は仕事と割り切っている者達は、焚火の一つで情報を整理していく。
 各々が各々の一日の終わりを告げる中、夕暮れ時の秋空を、Lumiliaのフルートが奏でる演奏が、穏やかに流していく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
皆様ご無事で何よりです。

PAGETOPPAGEBOTTOM