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シナリオ詳細

<被象の正義>記憶食らいに粛清を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●告げられた神託
 天義に降りた新たな神託――それはシェアキムや騎士団を、偽の預言者や歴史を歪めた悪魔であると糾弾するものだった。その内容を裏付けるように現れた、『ベアトリーチェ・ラ・レーテ』の暗黒の海と汚泥の兵達。致命者と呼ばれた人々。そしてまたも歴史修復を告げる、『サマエル』という遂行者が現れる。
 サマエルは天義の巨大都市――テセラ・ニバスを『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たちの住まう『異言都市(リンバス・シティ)』へと変貌させ、天義への侵攻を開始した。
 翳の軍勢とワールドイーターによって浸食される都市――それはまるで、R.O.Oでかつてパラディーゾたちが仕掛けた『陣取り合戦』そのものだった――。

「うわーーん!! ママああああ!!」
「ちょっと、やめてよ!!!! 乱暴しないで!!」
「何するんだ! 俺たちのツリーハウスだぞ!!」
 そこは、テセラ・ニバスの中でも比較的自然の多い街区。教会の裏手には子どもたちが遊び場とする小高い丘があり、丘の上には1本の大木がそびえていた。頑丈そうな太い枝が二股に別れ、その間には手作り感あふれるツリーハウスが掛けられていた。
 子どもたちのたまり場でもあったツリーハウスには、不穏な空気が流れる。それは見知らぬ同年代ほどの子どもたちが、ツリーハウスを占拠していたことに起因する。しかもその子どもたちは、意味不明な言語を話して抗議した子らを威圧してきた。
 ツリーハウスの主でありガキ大将、地元の子どもたちのリーダー的存在でもあるゴッティ少年は、果敢にも威圧的な態度の男児につかみかかる。しかし、相手は凄まじい腕力で12歳のゴッティを軽々と投げ飛ばした。最年長のゴッティが太刀打ちできない様を見せつけられ、幼い少年少女はますます泣き叫んだ。
 背中から地面に激突したゴッティは、歯を食い縛って起き上がろうとする。その直後、ゴッティたちの前に、更なる不穏な影が現れる。
 前触れもなく姿を見せたのは、トランペットの音色を奏でる男。だが、その姿は異様だった。全身真っ黒な肌──というよりは、黒色のマネキンが、ピエロのような格好をして歩いているように見える。不気味なピエロの姿を前にして、ゴッティと少年少女たちは硬直する。
 ゴッティは体を引きずりながらも即座に恐怖を振り払い、仲間の子たちに逃げるよう促した。しかし、ゴッティとその仲間たちも、何か言い知れぬ違和感を感じ始めていた。その違和感は、脳にもやがかかるように、あっという間に広がっていく。

 ──これで、みんな一緒だよ。もう怖くないね。

 その声によって、今まで重苦しくのしかかっていた恐怖感がウソのように消え去った。

 ──ああ、そうだ。もう怖くない。
 ──だって、みんな同じだもの。
 ──楽しいね。みんな友達だね。

 もうそこには、爪弾きにされる子どもの姿は見当たらない。そこでは誰もが仲良く、同じ言語を話していた。

●欠落した記憶
 天義──聖都フォン・ルーベルグに一時的に設けられた避難所。
「大変よ! 子どもたちが……、子どもたちがッ!!!!」
 侵略の只中にあるテセラ・ニバスの都市から避難してきた老婆の1人が、何やら慌てた様子で駆け込んできた。会議室代わりのテントの下で、情報整理に集中していた『強欲情報屋』マギト・カーマイン(p3n000209)は、パニックに近い老婆の慌てぶりに面食らう。
「あ、あのあのあなたはギルドの……? 子どもたちが、いないのよ!! 子どもたちが……!」
 マギトは冷静に老婆をなだめる。
「落ち着いてください。いないというのは、どういうことですか??」
「き、き、消えてる……! あの子たちの、両親が、何もしらないっていうのよ……!!!!」
 老婆のその一言をきっかけに、マギトはワールドイーターと同一視される終焉獣(ラグナヴァイス)の関与を察した。

「両親から子どもの存在、記憶を消し去るとは……まったくふざけたことしてやがる──くれますよねぇ」
 素の口調になるほど苛つきながらも、召集されたイレギュラーズを前にしたマギトは仕切り直して続ける。
 12名の子どもたちの所在が、不明になっている事態が判明した。それは同じ街区から避難した住民との会話が噛み合わないことに気づき、テレサという老婆がマギトに相談を持ち掛けたことで発覚した。
「計8組の親御さん、近所住民から聞き取りを行った結果、確かにその両親は存在したはずの子どもらの記憶を失っていました──」
 例によって、両親には記憶が欠落している自覚がない。ワールドイーターに記憶を食われている疑いが濃厚である。
 次に、マギトは街区の偵察に臨んだ騎士団からの調査報告を明かす。ワールドイーターによる浸食が進んでいる街は、異様な変貌を遂げていた。偵察班は、ツリーハウスがある丘を包囲するようにして、イバラの生垣が迷路状に生い茂っている光景を目にする。
 生垣の向こうからは、楽しげにはしゃぐ子どもたちの笑い声が頻繁に聞こえてきた。いずれも子どもたちの言語は意味不明なもので、ゼノグロシアンと思われる。
 生垣の迷路内以外の場所に他の子どもたちの姿は見当たらず、行方知れずの12名もゼノグロシアン化している恐れがある。
 騎士団は迷路内への侵入を試みた。生垣の間を通って丘の方へ進もうとするが、子どもたちは殺傷力の高いパチンコを用いて進行の妨害を始めた。悪質なイタズラを繰り返す子どもたちに対処しようにも、イバラの生垣は意思を持っているかのようにコースを変化させ、子どもたちの姿を遮ってしまう。更には、騎士団は何度となく迷路の外に誘導され、丘のそばまでたどり着くことはできなかった。また、迷路内に踏み入った瞬間から出るまでの間、丘の方からトランペットの音色が鳴り響いていたらしい。
「変化する迷路、トランペットの音……何か関係があるのでしょうか?」
 そうつぶやいたマギトは、しばらく考え込むような仕草を見せた。いずれにせよ、迷路の攻略方法を探る必要がある。迷路を越えた先、ツリーハウスの丘にはワールドイーターらしき存在がいることも確認できている。
 子どもたちの命運を託されたイレギュラーズは、ワールドイーターの討伐に乗り出した――。

GMコメント

●情報屋からの挨拶
「どうも、マギト・カーマインです。
 これまた偏った趣味のワールドイーターですね……子どもたちを支配下に置くとは、いい趣味してるじゃないですか。本気で子どもを相手にできるほど、皆さんもそこまで非道にはなれないでしょうし……何にせよ、ワールドイーターさえ倒せばひとまず解決です。皆さんの力添えに期待していますよ」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●成功条件
 ワールドイーターの討伐。

●イバラの迷路について
 ゼノグロシアンである子どもたちの遊び場と化している。ツリーハウスの丘まで続いているようだが、迷路は常に変形して進路を阻む。迷路の変形とトランペットの音色の因果関係が怪しまれる。
 迷路の生垣を攻撃した場合、【反動】の効果が発動するが、破壊できない訳ではない。突破された生垣はすぐに修復が始まる。
 植物なら燃えやすそうではあるが、他の者を巻き込まない保証はない。有利不利に働くかは未知数である。
 高さもある生垣は、飛行状態にならなければ飛び越えられない。迷路の上空を進もうとした場合、ワールドイーターの配下である影の天使が迎撃に向かう。敵の攻撃を掻い潜り、ワールドイーターを射程内に捉えることができれば狙撃も可能。

●敵について
●ゼノグロシアンについて
 子どものゼノグロシアン、30人。救出対象の12名に加え、ワールドイーターが生み出したゼノグロシアンも含まれているが、見た目から判別するのは難しい。戦闘不能(不殺)状態に留めれば救出可能。
 子どもたちは迷路に立ち入った対象を、まるでゲームの標的のように狙い打つ。殺傷力の高いパチンコ(通常レンジ3)を所持している。生垣の隙間などからイレギュラーズを狙うため、接触には手こずるだろう。
 気性はかなり凶暴で、捕まえた場合は激しく抵抗する。集中的に攻撃される恐れもある。

●ワールドイーター『トランぺッター』について
 ゼノグロシアンを束ねる迷路の支配者。トランペットの音色を奏でることで、迷路を自在に変形させていると考えられる。
 ワールドイーターを守ろうとする影の天使6体は、飛行状態で迷路の上空、丘の周辺を監視している。弓矢(神超列【識別】【致命】)を放ち、上空から丘に向かう者を妨害する。
 丘にたどり着いた者が現れた場合、ワールドイーターは【物近単】の攻撃以外にも、曲芸師のように手裏剣(物遠単【連】【足止め】)を投げ飛ばして攻撃を行う。


行動選択
 ツリーハウスの丘を中心に、800メートルほどの範囲までイバラの生垣が生い茂っている。生垣で仕切られた迷路の出入り口は四方八方にあるが、どこが丘に通じているかは不明。

 迷路の攻略方法を選択してください。ワールドイーターの下にたどり着くまでに、どれだけHPやパンドラを温存できているか、選択肢とプレイング内容から判断します。
(※選択ミスによって、選択肢とプレイング内容が矛盾した場合は、プレイングを優先します。判定が不利になることはありません)

【1】飛行状態で丘へ向かう
 影の天使6体が妨害に乗り出す。ワールドイーターを狙撃するには、天使の妨害を掻い潜る必要がある。

【2】地道に迷路の踏破を目指す
 子どもたちの動き、迷路が変形するタイミングなど、何かしらの法則、攻略法が存在するかもしれない……。

【3】強引に迷路を破壊して進む
 とにかく突き進む。迷路がいくら変形したとしても、イバラのトゲで傷を負ったとしても、とにかく進む。

  • <被象の正義>記憶食らいに粛清を完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月01日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 ツリーハウスのある丘を中心にして、広範囲に出現したイバラの生垣。そびえ立つ生垣は幾重にも入り組み、巨大な迷路となってイレギュラーズ一行の前に立ち塞がる。
 ――ったく、面倒くさそうな地形に逃げ込んでくれたもんだぜ。
 特殊な装置で上空へと飛翔し、迷路全体を見渡す『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は心中でぼやいた。
 上空から見渡せば、ワールドイーターは飛行による接近も警戒していることがわかる。天使のようなシルエットを持つ複数の黒い影が飛行し、迷路内やその周辺を見張るために巡回していることが確認できる。
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)もカラスの使い魔――ファミリアー2体を駆使し、上空の天使の様子を把握した。ファミリアーと視界を共有し、迷路の把握に努めるウェールは、率先して迷路内を進んでいく。
 イレギュラーズは、各々の能力を生かして迷路の踏破に挑む。隊列を組み、アルヴァ以外の7人は地上から迷路の奥へと進んでいく。
 『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)は、隣りを歩くウェールの横顔をふと見上げる。ウェールのその表情は、どこか思い詰めたものにも見えた。メリッサ自身も「もしも私についての記憶が父さん母さんから奪われたらって、考えただけでも悲しくなってしまいます!」と
ワールドイーターに対して憤りを感じていた。
 異世界に残してきた大切な存在に、ウェールはわずかな間思いをはせる。ウェールは子を持つ親として、ワールドイーターから子どもたちの記憶、ひいては未来を取り戻そうと強く決心していた。
「トランペットの音は……聞こえないな」
 そうつぶやいた『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)を始めとし、慎重に迷路を進む面々は、静けさに包まれる迷路内を警戒する。
 先行するモカの後ろに『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)を挟む形で『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は歩みを進めていたが、わずかな間足を止めた。その直後――。
「狙われてるよ! 伏せて――」
 咲良は叫ぶように言った。目の前を歩いていたメイに覆い被さるようにして、咲良は反射的にメイを屈ませる。ほぼ同時に、他の者も敵の気配を察知し、生垣の壁の向こうを意識した。
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も、同様に態勢を低くして攻撃に備えた。スティアは周辺の精霊の協力を得ることで、生垣の向こうにいる子どもたちの大よその位置を把握することができた。
 超人的な視野の広さを発揮するメリッサは、生垣の向こうからパチンコを構える十数人の子どもたちの姿を確かに捉えた。
「はやく!! こっちに来て!」
 メリッサは十字路の角の向こうへと、後ろをついてきた者らを誘導する。最後尾の『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が駆け出した直後、生垣の隙間から飛び出した小石が地面をばちばちと弾いた。
 ウィルドは、生垣の向こうの子どもらを睨むようにして振り返る。すると、無邪気に笑う複数の声と足音が遠ざかっていく。
 ――やれやれ、子どもを使うとは……随分と趣味の悪いことを。
 そう言えた義理ではない程度の『悪人』であることを自覚するウィルドは、「くくっ」と笑い声を漏らした。
 「まだあそこにいるな」とつぶやくウェールは、上空からのファミリアーの目も活用し、生垣の隙間を覗く子どもの姿を把握する。こちらを狙う子どもたちの前に先回りしようと、ウェールは飛行装備を活用して飛び立つ。上空を旋回して一気に加速したウェールは、そのまま生垣を突っ切るようにして通路との間のショートカットを図った。生垣の向こうから飛び込むようにして現れたウェールに驚き、パチンコを構えていた子どもたちは走り去っていく。
 生垣を突き破るようにして強引に向こう側に飛び込んだウェールは、腕などに走る痛みに気づいた。生垣のイバラによって傷を負ったが、ウェールはかすり傷程度に構うことなく迷路のルートを逐一把握する。優れた視力、記憶力を鋭敏に働かせるウェールは、カラスのファミリアーの視界から得られた情報を存分に活用し、迷路の踏破を目指そうとしていた。
 一時的に単独行動を取ったウェールは、即座に道を引き返して皆の下へ戻ろうとした。その瞬間、トランペットの音が高らかに響き渡る。静けさをつんざくように響いた一音に続いて、演奏が始まる。トランペットの演奏は、時折何かの合図のように発されるロングトーンによって乱される。それが迷路の生垣が変形するタイミングと重なることは、すぐに察しがついた。


 アルヴァは上空から迷路の変形を確認しつつも、接近を開始した影の天使らの動きに備える。
「っと、来やがったか。いいぜ、軽く相手してやるよ」
 そう言って、アルヴァは狙撃銃を構えた。
 ウェールが生垣を突っ切ったまま姿を見せないことを気にかけ、メイは生垣の上を走る自身のファミリアーに意識を向けた。メイはネズミのファミリアーの視界を通して、ウェールの様子を探ろうとする。しかし、その視界は突然暗転した。アルヴァに向けて放たれた天使の矢が、流れ矢となってファミリアーを射抜いたのだ。次々と斉射された矢は、ドスドスと生垣を揺らした。同時に、天使との打ち合いを続けるアルヴァは銃声を響かせる。
 天使の注意を引きつけるアルヴァに促され、地上を進む者らはひたすらに丘を目指した。
 狙撃銃の狙いを定めるアルヴァは、記憶を奪うことで人々を弄ぶワールドイーターに憤りを感じていた。両親は子どもたちの記憶を取り戻すことができるのかどうかが気がかりではあったが、その懸念はひとまず頭の片隅に追いやる。アルヴァは、天使を撃退することに傾注した。
 迷路が変形を始めたことで、ウェールは仲間と合流するまでに遠回りを強いられる。ファミリアーを経由して互いの位置取りを確認しつつ、ウェールは確かなルートをたどっていく。
 抜群の記憶力と視力を誇るウェールは、固まって行動する6人を誘導することにも長けた。6人が進む先には似たような十字路のルートが続いたが、優れた方向感覚を発揮するウィルドは、迷うことなくウェールが示すルートをたどることができた。
 トランペットの音色は絶えず鳴り響き、その音に合わせて変形する迷路はウェールとの合流を阻み続ける。モカと咲良はこちらを狙う子どもたちの気配を敏感に察知する。生垣に遮られた状態でも、ある程度の攻撃を予測することができた。
 ガサガサとうごめくイバラは、幾度となく新たな生垣を築くことでイレギュラーズの進路を遮ってきた。別のルートに誘導する動きはあるものの、閉じ込められる気配はない。トランペットのロングトーンのタイミングと、生垣の動きは連動しているのではないか――しばらく生垣の変化を観察していたモカは、
「ウェール、生垣は連動してるんじゃないのか?」
 最も迷路の動静を把握しているウェールに意見を求めた。ファミリアーを経由してモカの声を聞き、ウェールは改めてトランペットの音に注意深く耳を傾ける。
 ウェールはロングトーンの異なる音階、4種類の音を感覚的に聞き分ける。今まで上空側から見てきた迷路の変化とも照らし合わせ、ウェールはある結論を導き出す。
「4種類の音階によって、変形する生垣が決まっているんだ──」
 丘がある北側を前として、変形する生垣は4つの音階によって前後左右に分かれていることが予想される。
「このまま進むと、北側が閉鎖されるかもしれないから、え~っと……西側に回り込んで――」
 どの音階がルートの開閉を決めるのか、メリッサは唸りながらメモを取り、確実なルートを導き出そうとする。
 周囲一帯を俯瞰できるほどのメリッサの視野は、生垣を隔てたすぐ近くにウェールの姿も捉えていた。その進路上に子どもたちの集団がいることもわかり、メリッサはウェールと合流を果たす手段を思い付く。
「ウェールさん、私に考えがあります」
 メリッサはウェールに対し、あることを伝える。その直後、メリッサは生垣の向こうにドローンを飛ばした。ドローンは子どもたち5人の下へと進み、ウェールの進路上から引き離すために注意を引きつける。標的を見つけた子どもたちは、ドローンを撃ち落とそうと夢中で追いかけ始めた。メリッサのドローンは、ある場所へと子どもたちを誘導していた。
 子どもたちの視線の先には、行き止まりの場所で生垣の間を右往左往しているドローンがいた。子どもたちが一斉にパチンコを引き絞ると、ドローンの向こうの生垣は瞬時に道を開く。メリッサとドローンを隔てていた生垣が引き払われた瞬間、子どもたちはメリッサごとドローンを狙おうと、冷淡な笑みを浮かべた。しかし、子どもたちはドローンを追いかけることに夢中になるあまり、背後に忍び寄る気配に注意を払うことはなかった。
 子どもたちの後をひそかに追ってきたウェールは、その背後へと迫る。パチンコを構えた状態の子どもたちは、眩い閃光に視界を包まれた。子どもたちは振り返る間もなく閃く雷光に包まれ、ウェールの能力によって昏倒させられる。
 子どもたちを誘導する作戦が功を奏し、ウェールとも合流を果たすことができた。倒れ込んだままの子どもたちに対し、ウィルドはつぶやく。
「まったく、コケにしてくれましたねぇ……精々あとを楽しみにしておきなさい」
 ウィルドは身動きが取れないようにと、念を入れて子どもたちを拘束しておいた。


 上空で飛行を続けるアルヴァから見ても、ウェールと合流を果たした一行は確実に丘へと近づいていた。地上を進む者らを気にかけるアルヴァも、一層気を引き締めて天使らの迎撃に臨む。
 天使の内の1体は、アルヴァの射撃をまともに食らう。神聖な力が込められた一撃によって、その天使の姿は焼き尽くされるように消滅した。
 迷路内に潜む子どもたちの妨害も幾度となく掻い潜ってきた一行は、最後まで気を抜くことなく行動する。最後の2つの曲がり角を曲がった先には、丘へと通じるルートを塞ぐように6人の子どもたちが待ち構えていた。
 飛行種であるメリッサは、背中の両翼で宙へとはばたく。子どもたちの注意を頭上に向けさせるためであった。生垣の向こうから上半身を覗かせたメリッサと、子どもたちの視線が交わる。その瞬間に、スティアは一挙に子どもたちとの距離を詰めた。スティアは閃光となって放たれる聖なる力を発揮し、即座に子どもたちを制圧した。しかし、スティアたちは息つく間もなく攻撃にさらされる。
 天使らの斉射が突如として迷路内のイレギュラーズを襲った。上空の天使らは、出口にたどり着こうとしている一行に気づいたように攻撃を開始する。矢の雨が降り注ぐ頭上を見上げる間もなく、続け様に銃声とアルヴァの声が響き渡る。
「そのまま進め! 行くんだ!」
 目前のゴールに向かうことだけを考え、迷路を進む者らは天使らの斉射にも怯むことなく駆け抜ける。
 最後に放たれた矢が最後尾のメリッサの背に向かったが、急降下したアルヴァはそれを受け止める。迷路の外に踏み出そうとしたメリッサは、アルヴァに押し込められるようにしてなだれ込んだ。
「アルヴァさん?!」
 声を上げたメイは、咄嗟に傷を負ったアルヴァのそばに駆けつける。
 アルヴァは取り乱す様子もなく、丘にいるワールドイーターに合流しようとする天使らを顧みる。標的から視線を外そうとしないアルヴァの眼差しに畏怖の感情を抱きつつも、メイは即座に治癒の能力を発揮する。その全身を潜らせるようにして、メイが発現させた光輪はアルヴァの傷を癒すために降り注いだ。「助かるよ」と短く言葉を返したアルヴァは、共にツリーハウスのある丘へと進撃していく。
 丘を背にした天使らは、ワールドイーターを守るように攻撃を開始する。ようやく迷路を抜け出すことができ、咲良は真っ先に丘の上のワールドイーターの下まで突撃した。ピエロの服を着た黒いマネキン、トランペットを構えた異様な姿を見つけた咲良は、
「やっと見つけたよ! これ以上好き勝手するのは許さないよ!!」
 子どもたちを利用するワールドイーターに対する憤りを隠さず、全力で向かっていく。
 ツリーハウスの前で待ち構えるようにしていたワールドイーターは、咲良からの飛び蹴りを正面から受け止める。体を浮かせるほどの衝撃が加わり、ワールドイーターの体は大木の幹に激突した。
 ワールドイーターは初めから攻撃を誘っていた。着地した直後の咲良を狙うように、ワールドイーターは連続で手裏剣を投げ飛ばす。その動きに瞬時に気づき、後方へ飛び退いた咲良は巧みに身をそらすことで致命傷を避ける。
 反撃の流れに乗ろうとする相手の動きを阻もうと、メリッサはまず天使らを狙う。熱砂の嵐を自在に発生させるメリッサは、弓を構える天使らを妨害しようと砂嵐を仕向けた。砂嵐によって苦戦を強いられる天使らに対し、スティアは攻撃を畳みかける。
「子どもたちは全員連れ戻す……思い通りにはさせないよ!!」
 すべての天使らを打ち払おうとするスティアは、強固な意志を示すように言い放った。それと同時に、スティアは神聖な力を帯びた閃光を繰り返し発散させる。天使らに向けられた閃光は神聖な力を帯び、邪悪な存在を焼き尽くすように天使らの身を焦がす。その内の1体、煙を上げ続ける天使の体はくずおれ、煙に飲み込まれるように消滅した。
 ウェールは瞬時に特殊なカードから実体化させた銃を手に取り、残る2体の天使に対し銃口を向けた。
「絶対に記憶を取り戻す――」
 そうつぶやくウェールは引き金を引き、天使らを追い詰めていく。もしも一時的にでも子どもの存在を忘れ去ってしまったことに気づいたら――ウェールは記憶を奪われた親たちのことを不憫に感じていた。
 ――俺なら心に傷が絶対残るし、忘れてしまった不甲斐ない自身を殺したくなるだろう。


 天使たちは、イレギュラーズの猛攻によって総崩れとなる。そこへ更に追い討ちをかける者を横目に、モカはワールドイーターのけん制に注力する。
 残像を見せるほどの速さで接近したモカは、ワールドイーター目掛けて次々と蹴撃を放った。瞬時に距離を詰められたワールドイーターは、モカの脚さばきに翻弄されるばかりに見えた。
 打ち込まれるワールドイーターの体は、その場から微動だにしない。ワールドイーターは手にしていたトランペットの先端を、剣のように鋭利な刃へと瞬時に変形させた。その刃を振り向けられたモカは、透かさず身をそらす。
 イレギュラーズは隙のない攻勢を展開し、ワールドイーターに攻撃を畳みかける。一気に押し込まれるワールドイーターだったが、トランペットと一体化した刃を掲げる動きが乱れることはなかった。ワールドイーターはイレギュラーズの攻勢をものともしない攻防を繰り広げる。
 接近戦を仕掛けるモカや咲良、ウィルドを中心として、ワールドイーターに食い下がる面々は切れ目のない攻撃で対抗する。スティアとメイは協力し合い、攻撃を担う皆を支援する態勢を維持する。治癒の力を引き出す2人のサポートもあり、攻め手に徹する者らは、ワールドイーターの守りを崩そうと果敢に仕掛けていく。
 モカは不意に、ワールドイーターが背にしているツリーハウスの影に見え隠れする存在に気づく。それはツリーハウスの裏側に回り込んできた子どもたちの姿だった。
 モカが他の者にも注意を促した直後、モカの頬を鋭い痛みがかすめる。パチンコから飛ばされた小石が次々と地面を弾き、ウィルドは子どもたちを無力化しようと即座に距離を詰めた。
「やれやれ……遊びの時間は、もう終わりですよ?」
 そう言って鉄拳制裁を加えようとするウィルドにおののき、子どもたちはツリーハウスの上へと逃げ隠れする。ウィルドが逃げ遅れた1人の首筋に鋭く直撃させた手刀は、その意識を刈り取った。
 ツリーハウスの上からもパチンコの狙撃は続いたが、怒りに満ちたギラついた眼差しをワールドイーターに向けるモカは、怯むことなく対象の間合に踏み込んだ。
 フェイントを織り交ぜたモカの動きに翻弄されたワールドイーターは、一瞬の隙に付け込まれる。モカの足払いをまともに食らったワールドイーターの体は大きく傾く。咄嗟に地面に刃を突き立てたワールドイーターは、その顔面をモカの蹴りによって強打された。マネキンのようにつるりとした顔の表面には、大きなヒビが刻まれる。ワールドイーターはよろめきながらも後退し、モカから距離を取る。
 モカの強烈な一撃によって明らかに戦意を喪失しているワールドイーターに対し、
「記憶を奪い、親子の絆を奪うお前のような外道に、私たちが負けるものか」
 モカは挑戦的な態度で更に攻撃に臨む。
 ワールドイーターは勢いを加速させるイレギュラーズに圧倒されているように見えたが、最後まで抵抗を続けた。次第にワールドイーターは獣のような獰猛さを見せつけ、イレギュラーズを寄せつけないほどの苛烈さで立ち回る。しかし、それもアルヴァの一撃によって終息する。
 アルヴァの射撃がワールドイーターの額部分を撃ち抜いた瞬間、その弾痕からあふれた眩い光は、視界を白黒に明滅させる。わずかな間強烈な光に包まれ、正常な視界を取り戻したイレギュラーズは周囲の変化に気づいた。
 丘を取り囲んでいたはずの広大な迷路は消え失せ、そこには元通りの街の景観があった。ツリーハウスの上には、気を失っている状態で横たわる複数の子どもたちの姿もあった。
 誰もがワールドイーターから街を解放したことを確信したところで、メイは改めてツリーハウスを眺める。
「ツリーハウス、メイ、いちど訪ねてみたいと思っていたです!」
 「こんな状況じゃなければよかったな、なのです」と言い添えつつも、メイは見た目通りの子どもらしい反応を見せて表情を輝かせる。無邪気なメイに息子の姿を重ねたウェールは、今はまだ記憶の中でしか会えない息子への思いを募らせた。
 ワールドイーターを倒したことにより、子どもたちはその支配から解かれ、両親は子どもたちに関する記憶を無事取り戻した。

成否

成功

MVP

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。

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