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シナリオ詳細

<鉄と血と>滾る血は雪をも溶かして

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスの即位からしばらくが経つ。
 鉄帝は6つの派閥に分かれ、それぞれの思惑に沿って立ち回る。
 先帝ヴェルスの治世に戻さんとする帝政派。
 南部戦線の英雄ザーバ将軍率いるザーバ派(南部戦線方面軍)。
 我関せずと政治不干渉を貫くラド・バウ独立区。
 ギア・バシリカを中心に民の救済を願う革命派。
 ノーザンキングスに抗する戦力を持つポラリス・ユニオン(北辰連合)。
 空浮かぶアーカーシュに拠点を持つ、独立島アーカーシュ。
 そんな鉄帝の状況において、いずれの派閥もこの状況を打開する為の準備を進めていた。

 鉄帝の首都スチールグラード、大闘技場ラド・バウ近くの通り。
 季節が春に差し掛かろうとしているのに、今だ冬の装いが続くのは、フローズヴィトニルの影響が非常に強い。
「決戦の時が来ました」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は周囲で戦いの準備を進める闘士達にも聞こえるよう呼びかける。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
 一斉に吠える闘士達。
 周囲に積もったままの雪も溶けそうな熱気だ。
 彼らもここまでずっと耐え忍ぶ戦いを強いられており、相当に鬱憤が溜まっているに違いない。
「来るなら早く来てほしいものだな」
「流石ですね」
 闘志を燃え上がらせる【炎槌】アリス・メイルに、鬼桜 雪之丞(p3p002312)が感嘆してしまう。
 元々、血気盛んな者達の多い場所だが、国中を巻き込む戦乱とあれば一層昂るはず。何せ、自分の力を示すまたとない機会なのだから。
「ただ、この商店街を狙われると、闘士の方々の力は半減……いや、ほとんど力を発揮できなくなる可能性すらあります」
 アクアベルがメンバー達へと周囲を見るように促す。
 ここは、闘士ご用達の店が立ち並ぶ。
 鍛冶場やアクセサリー工房なども多数存在し、ここを利用しない闘士はほとんど存在しない。
 アリスもまた鍛冶師。彼女もまた自身の戦槌はもちろん、多数の闘士の整備を請け負っている。
「だからこそ、私達はここを守らねばならない」
 新皇帝派は、現皇帝バルナバスの思想に従い、強い者が全てと考えている。現体制を維持する為には、ラド・バウが邪魔なのだろう。
「以前、この商店街が犯罪者の一団に襲われたことがありましたが、ヴェルクルス中佐が黒幕だと判明しています」
 そして、今回、中佐は自身の部隊を動かすだけに留まらず、フローズヴィトニルが作り出した冬の精霊や冬狼も従え、本気でこの商店街を潰しにかかりにくるようだ。
「ヴェルクルス中佐……ここで決着をつけないとな」
 イズマ・トーティス(p3p009471)もここまで中佐が派遣した部隊と幾度も交戦している。
 魔種となり果てた中佐自らが前線に出てくるというなら、商店街の為にも、闘士達の為にも、何よりイレギュラーズとして混沌の為にも撃破せねばならない。
「戦いに適した場所とは言い難いがね。奴らが商店街を潰すというなら徹底抗戦するしかないだろう?」
「そうですね」
 アリスの言葉に、雪之丞が相槌を打つ。
 商店街は一直線に続く道の両脇に多数の店や鍛冶場、工房などが軒を連ねる。
 敵は闘士だけでなく、それらも破壊しようとしてくる。
 相手の戦力も多く、守るべき物も多いというかなり厳しい戦いを強いられる。
「準備する時間はあまり残されてはいませんが、最善を尽くしていただきますよう願います」
「もちろんだ!」
 アクアベルはこの場のイレギュラーズ、闘士達全員に頭を下げる。
「血が滾るぜ!!」
「俺達の居場所は俺達で守るぞ!!」
 それに呼応するように、闘士達が銘々に決意を口にする。
 イレギュラーズ達もそれぞれ意義込みを語り、間近に迫った戦いに備えるのだった。


 スチールグラード某所。
 ザッザッザッザッ……。
 雪を踏みしめて進軍する鉄帝軍人の一隊。
 緊張の面持ちをした隊員達を率いるのは、右目と左腕が機械となった男性将校。
「ようやく、準備が整いましたね。ククク……」
 含み笑いするヴェルクルス中佐の瞳が怪しく光ると、隊員達はもちろん、大尉や中尉ら直属の部下達ですらも表情をこわばらせる。
 なにせ、この間、雪だるまに負けた女性が曹長降格させられたばかり。下手を打てば明日は我が身どころか、今日自らに降りかかりかねないのだ。
「さあ、貴方達。直に着きますよ」
 ようやく、表立った成果を出すことができそうだ。
 ヴェルクルスは遠くにラド・バウを仰ぎつつ、口元を吊り上げる。
 彼に付き従う冬の精霊に、冬狼達がざわめく。
 何とも言えぬ寒気を覚える隊員達は気を引き締め、これからの戦いに臨むのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <鉄と血と>のシナリオをお届けします。
 今回は鬼桜 雪之丞(p3p002312)さんの関係者依頼、イズマ・トーティス(p3p009471)さんのアフターアクションも兼ねております。
 新皇帝の為あちらこちらで策を講じていたヴェルクルス中佐と決着をつけていただきますよう願います。
 
●状況
 雪積もる鉄帝の街中、場所は闘技場に参加する闘士達ご用達の武器屋、鍛冶屋等が立ち並ぶ通り。
 「<総軍鏖殺>思うままに破壊を」で交戦したのと同じ場所です。
 ただ、今回は犯罪者などよりも格上の軍人、『フローズヴィトニル』の作り出した幻、何より魔種である中佐と強敵揃いです。
 心して戦いに臨んでくださいませ。

●敵:新皇帝派軍人
○ヴェルクルス
 右目と左腕が機械となった元鉄騎種、憤怒の魔種。新皇帝派。
 力で従えた冬の精霊、冬狼を引き連れ、部下と共にラド・バウの闘士の力を削ごうとしてきます。
 片手斧と冷気、雷の術式を得意としています。
 これまでその本領をほとんど見せていないのが不気味なところです。

〇冬の精霊×4体
 全長1m程度。ゆらゆらと揺れる氷や雪を思わせる精霊です。
 非常に強い力を持ち、氷のブレスやつぶてを浴びせかけてくる他、氷の刃を生成しての切りかかり、投擲も行います。

〇冬狼×3体
 全長3m程度。凍った毛並みが特徴的で、通常の狼のごとく飛び掛かり、爪での引き裂き、牙での食らいつきを行う他、氷のブレスを吐き、全身に凍気を放つことも。

〇ヴェルクルス部隊将校×3体
 全員が鉄騎種。直接、ヴェルクルスの援護に動きます。

・男性大尉、
 両腕が機械化。力を活かして槍を振りかざしてきます。

・女性中尉
 両足が機械化。素早さを活かして槍を振りかざします。

・男性中尉
 両肩から胸部が機械化。
 後方からレーザー砲、バズーカ砲を使い分けつつ、支援回復もこなします。

〇その他隊員
 男女少尉が多数の隊員を指揮しています。
 その数は70程度。近接武器に銃砲を合わせて装備し、どんな相手にも対応できるよう訓練を積み、幾多の実戦も経験しています。

●NPC
○【炎槌】アリス・メイル
 鬼桜 雪之丞(p3p002312)さんの関係者です。
 20歳前後の見た目をした赤髪ツインテールの旅人女性。既婚者。
 実年齢はすでに100を超えている火竜で、ラド・バウにも時折出場する闘士です。
 また、普段は鍛冶師も営んでおり、闘士用の武具の制作、整備も行っているようですが、扱いに困るような武器を作る迷工としても知られます。
 ラド・バウ独立区に参加した彼女は所属員の武器を整備しつつ新皇帝派の排除に力を貸してくれます。
 基本はイレギュラーズと共闘してくれますが、要望があれば臨機応変に対応します。

〇闘士×多数
 数は30人程。肉体派の鉄騎種多めですが、各地からやってきた剣士や術士、能力者などの姿も。
 ヴェルクルス部隊の隊員を相手にしてくれます。
 劣勢ですが、後れは取りません。このままの状況なら、ですが……。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <鉄と血と>滾る血は雪をも溶かして完了
  • GM名なちゅい
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月21日 22時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

リプレイ


 ザッザッザッザッ……。
 スチールグラードの鍛冶屋、工房が並ぶ商店街に雪を踏みしめる音がかすかに聞こえてくる。
 大闘技場ラド・バウの闘士達ご用達の店が軒を連ねているこの通りへと、新皇帝派の部隊が近づいていたのだ
 それらが進軍してくる足音は、イレギュラーズの耳にも届く。
「このタイミングでまたこの商店街を襲って来るなんて!」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が呆れと怒りを入り混じらせながらも叫ぶ。
 この通りは、今の戦いだけでなく、平和になってからも必要な場所。
「ラド・バウの闘士の人達や商店街の人達のためにもまた守り抜くよ!」
 そんな焔の主張に、闘士達は賛同の声を上げて。
「「当たり前だ!!」」
「「通りはオレ等の手で守るぞ!!」」
 積もる雪すらも溶かしかねない程の熱気を放つ闘士達は割れんばかりの咆哮を上げる。その中には、決起に参じていた【炎槌】アリス・メイルの姿もある。
「奴らに私達の居場所を壊させるものか」
「「うおおおおおおおおおおお!!」」
 これだけの音量だ。間違いなく、こちらが臨戦態勢にあることを敵も察していることだろう。
「ふむ……こんな事を言う場合では無いですが、懐かしいものですねえ」
 『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)が思い返すのは、混沌に来て間もない頃のこと。
 同じく、アリスと共にこの通りを防衛する依頼だった。なお、その時のメンバーが今チームの半数を占めている。
 ただ、ルトヴィリアはほぼ赤子みたいな状態での参戦。思うように戦えなかったと悔やむ気持ちもあったのだろう。
「……あの時とは違うところ、見せるとしましょうか」
 そこで、ルトヴィリアは思い出したように、周囲の建物を最低限でも保護できるようにと保護結界を展開する。
 焔もまた神域展開を行い、自分達の攻撃によって建造物が壊れてしまうのを気にしなくてよいようにと対処していた。
 また、同時にルトヴィリアは広域俯瞰によってこの商店街を俯瞰し、ファミリアーの鴉に住民らを避難誘導させて。
 前回もこの蒼眼の鴉を目にしていた住民も多く、鴉に続いて続々と人々が通りから離れていく。大闘技場内や、シェルターなどへと向かう者が多かったようだ。
「商店街を守るために皆さんの力を貸してほしい! 新皇帝派になど負けないと、俺達の力を見せてやるんだ!」
 陣地構築によって雪でバリケードを作り、イズマは闘士らと防衛準備を整える。
 加えて、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が精霊ノームに手伝ってもらい、通りに罠を設置する。
 敢えて壊されてもかまわないような障害物……ここでも主に雪製だが、一部石製や土製のものも織り交ぜていた。
「しゃあああ、腕が鳴るぜ!」
「闘士の力を見せてやるよ!」」
「イレギュラーズばかりに任せるな。お前らの居場所は自分で守りな!」
 イズマの助言で所定の位置につき、銘々に掛け声を上げる闘士達に、アリスが喝を入れる。
 だが、それらの声が消されるかのように向かってくる足音が大きくなってくる。
 その先頭を凍てつくような、それでいてピリつくような空気を纏う男が行く。
 彼の名は、新皇帝派のヴェルクルス中佐。
 力で皇帝の座を手にしたバルナバスを信望し、彼の為にこの数ヶ月様々なことを画策し、魔種となってまで尽くす男である。
 中佐は目の前の邪魔なバリケードを、再度に従える冬の精霊や冬狼に破壊させていく。
 どうやら、持前の力で冬の王の手勢を一部従えたようだ。
「ふむ、やはり、知名度の高い実力者も多い……」
 イレギュラーズにしろ、闘士にしろ、名の知れた者がこの場に集う。
 中佐としては、他所でも繰り広げられる戦いにイレギュラーズや闘士の中でも強者をこの場で留められるのは僥倖という考えがあるはずだ。
「とはいえ、今回は現皇帝に不要なモノを潰すことが最大の目的ですがね。ククク……」
 その笑いに、部隊員が一斉に硬直する。
 自分達の処遇はこの一戦次第。場合によっては路頭に迷いかねないどころか、極刑すら……。
 部下の胸中などまるでに気にせず含み笑いするヴェルクルス中佐は、自らも片手斧を振るってバリケードを粉砕していく。
 ともあれ、指揮官が街を破壊しようとするならば、黙ってはいられない。
「「魔法騎士セララ&マリー参上!」」
 揃って格好よく決めポーズをとったのは、『魔法騎士』セララ(p3p000273)と『キミと、手を繋ぐ』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)の2人だ。
「鉄帝の平和はボク達が守る!」
 小さな体で大きな主張をして見せるセララもまた、通りの防衛は2度目である。
「鉄帝軍人ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク。鉄帝のために頑張りましょう」
 こちらも小柄なハイデマリーだが、地元を守る為にと相棒と共に馳せ参じている。
「あれがヴェルクルス……」
「やっと出てきたな、ヴェルクルス」
 『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、この通りを守る新たな戦いに身を置く。
 昴はその時犯罪者を主導していたガルボラがこの商店街へと差し向けられたこと、そして、囚人を使って地下通路を封鎖するなどといった一連の事件の影にヴェルクルス中佐がいたという情報を聞き、敵意を漲らせる。
「これ以上は好きにはさせん。この場で確実に仕留める……!」
「お前の部隊を潰し続けて掴んだチャンス、逃しはしない!」
 昴に続き、イズマも呼びかけても、中佐は笑みを崩さず。
「本気で私を倒せるとでも?」
 自信に満ちたその態度は実力があってこそ。
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)も肌で直に魔種となった中佐の強さが格別である事を実感するが。
「とはいえ、秩序と無辜の民の安寧の為にも、腹を括って対処しなきゃならないんでしょう」
 こんなところで、好きに暴れさせておく訳にはいかない。
 なにせ、相手は本気で大闘技場の破壊すらも企てている連中なのだ。
「さあ、時は来ました」
 侵攻を始めた新皇帝派。ヴェルクルス中佐もこれまで準備してきたモノをすべてぶつけてくるはずだ。
 ただ、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)の主観は一部異なる。
「その時が来たとか言っときながら、今までどーんだけの駒を切り捨てたんだろうな」
 これまで、囚人、犯罪者、部下などを多数、ヴェルクルス中佐は切り捨ててきたはず。
 切り捨てた分強くなっているならば兎も角、それ『だけ』なら、何か変わるわけはないのだ。
「クク、試してみますか?」
 機械の右目が怪しく輝き、ヴェルクルスは全身から寒気と電気が入り混じったようなオーラを解き放つ。
 まるで、私には必要なモノさえあればいいと言わんばかりに。
「貴殿らも鉄帝軍人であることに違いはないのが悲しいでありますが」
 ハイデマリーはふわりと浮かび上がって、白銀のライフルを敵陣へと向ける。
「私は貴殿らを倒してみせましょう!」
「もうアンタたちの好きにはさせないわ!」
 ハイデマリーに続き、ジルーシャもまた力強く叫ぶ。
 強い者が全てと、ヴェルクルスが主張してくるのなら……。
「証明してあげようじゃない――勝つのはアタシたちよ!」
「「おおおおおおおおおおおお!!」」
 ジルーシャの声に応じて喝采を上げる闘士達。
 かくして、イレギュラーズ&闘士 vs 新皇帝派の場外バトルの火火蓋が切って落とされたのだった。


 バリケードを破壊しながら迫りくる新皇帝派の軍人達。
「「突撃いいいいいい!!」」
 進軍してくる敵もかなりの数だが、イレギュラーズと闘士達もまたかなりの数に上る。
 イレギュラーズとしては、指揮官であるヴェルクルス中佐はもちろん、中佐を補佐する3人の将校を相手にしたいところだが。
「こんなにいっぱい敵がいたら、なかなか狙えないよね」 
 焔はまず、冬の精霊、冬狼を倒して道を作ることを提案する。 
 メンバー達もその排除に注力するが、ヴェルクルス部隊が妨げとなる。
「おおおおおおおおお!」
 統率する少尉を含め、向かい来る軍人らはなりふり構わずといった状態。
 大幅に降格させられた同僚、あるいは上司の話は明日は我が身。 部隊長であるヴェルクルスの命令は絶対。ならば、死力を尽くして戦うのみ。
「「うおおおおおおおおおおおお!!」」
 それらを吠えるラド・バウ闘士達が出迎える。
 闘士達もまた、自分達の居場所を守る為に全力だ。
 前述の通り、闘士達にとって、この通りは生活に密接した場所だ。
 主に大闘技場での試合で利用する武器の手入れをこの通りに店を構える職人らに任せている。
 商店街もそうだが、この後方にあるラド・バウまで本気で破壊を企てているというならば、彼らもまたこの戦いにこれからの生活、人生までも賭けねばならぬ状況なのだ。
「ここは皆さんにとってホームにも近しい。立地を生かして戦うんだ」
 イズマのそんな呼びかけもあり、ある闘士は屋根の上から狙撃し、ある闘士は気配を消してからの奇襲に専念する。
「アリス君は劣勢な場所の支援を願いたい」
「ああ、任せな」
 『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)が直接依頼すると、アリスは豪快に笑って愛用の戦槌を軍人達へと叩きつける。
 軍人らの中では男女少尉が格上で、闘士達をも圧している。
 アリスは闘士と協力してそれらを相手し、牽制していた。
『向かって左手側、闘士が少なくて劣勢だ』
 愛無の広域俯瞰による情報を受け、イズマがハイテレパスを働かせて闘士達へと伝える。
「……悪い、こちらは手いっぱいよ」
「おう、俺に任せろ!」
 闘技場におけるランクの差こそあれ、闘士達も個々の実力は申し分ない。
 ただ、数対数の戦いとなれば、個の実力は数で押しつぶされかねない。そこを、2人がしばらくフォローする形だ。
 愛無自身もまた片刃剣で広範囲に斬撃を敵のみに浴びせかけていき、闘士達を支援して早期撃破を目指す。
「闘士連中だけに任せるにはあんまりにも大規模すぎるしな、連中の数……」
 カイトは思った以上に猛り、荒ぶる軍人らの戦いぶりを注視する。
 単純な数で言えば、軍人の数は闘士の倍だ。カイトがそう思うのも無理はない。
「命令を遂行は絶対。我らは勝利せねばならぬのだ!」
「させぬ。日々、ラド・バウで培った俺の一撃を受けるがいい!!」
 互いの血が滾り、積もっていた雪をも溶かす勢いであったのだが、徐々に戦線の温度が下がっていく。
「それだけの熱量を無駄に吐かれるくらいならばな」
 カイトはそれを鎮めすぎるほどに詰めたい雨、そして鉄帝を覆う風雪の如き氷を使い、全てを閉ざそうとする。
 ただ、敵陣の奥から現れた存在が、一層戦場の温度を下げることになる。
 …………。
 グルルルルル……。
 ふわふわと浮かぶ冬の精霊達。
 そして、凍てつく毛並みに覆われた冬狼らだ。
 冬の王の手勢であったはずのこれらの個体は、ヴェルクルスに屈して従っているのだ。
 …………。
 広範囲に氷のつぶてを飛ばし、ブレスを吐きかけてくる精霊。
 それだけで、浴びたものは凍り付き、幾多のつぶてに傷を負い、血を迸らせてしまう。
 身を震わせる焔だが、父より授けられた炎の槍……加具土命を放ち、それらの体を溶かそうとする。
 効果はかなりあるようだが、その体は簡単に溶けるわけではなさそうで、焔は軍人達も巻き込むように冬の王の手勢を攻めていく。
 そんな戦いの最中にあって、ジルーシャは心を痛めてしまっていて。
「あの子たちは敵だって、頭ではわかっているけれど……」
 彼は人と精霊が共に生きる世界の出身。
 それ故に、冬の精霊に対して攻撃することも躊躇してしまうが、この場はやむをえない。
 樹木で作られた竪琴を爪弾き、ジルーシャは敵対する存在とは別の精霊をこの場に呼び出す。
「力を貸して、アタシの可愛いお隣さんたち!」
 応じてくれたのは、氷、風といった精霊達だ。
「目覚めたならば祝祭だ。我らが主に喝采を、乗らぬ者には厄災を」
 近くで交戦する軍人らも巻き込み、ジルーシャが見定めた敵だけに息吹を吹きかける。
 異なる力をぶつけられることにより、冬の精霊の体が掠れかけたのに、ジルーシャは心を痛めてしまう。
「……やっぱり、精霊を傷つけるのはいい気分じゃないわね」
 今は、それらを惑わすヴェルクルス中佐の打倒を目指すのみだ。
 だが、今は精霊、氷狼の過半数を処分せねばならないとルトヴィリアが断言して。
「何せ寒い。……とかではなく、連中の凍気は厄介ですからね」
 それらが繰り出す攻撃は、広範囲を巻き込んで凍り付かせるものも多い。
 イレギュラーズだけならまだ対処のしようもあるだろうが、闘士らにまで及ぶと戦線が壊滅しかねない。
 やや前方へと出たルトヴィリアは冬の王の手勢や軍人らをできる限り捕捉し、紫色の帳を下ろす。
 一度不吉を呼び込めば、敵陣の動きが若干鈍る。
 少しずつ戦線を崩すことができればと、ルトヴィリアは次なる一撃に備える。
 逆に、相手から大きく距離をとっていたのはハイデマリーだ。
 全てを見通す摂理の視。
 狙撃にはうってつけの強化を自らに施すハイデマリーは、冬狼を中心に鋼の驟雨を降らせ、態勢を乱す。
 『セラフィム』のカードをインストールし、もぐもぐとポン・デ・リングを食べ終えたセララはその中で冬狼へと接敵し、聖剣で切りかかって道を切り開こうとする。
 メイデンハートで自らの神秘力、回復力を高めたルチアもまた冬の王の手勢へと雷を迸らせる。
「怒りの日、かの日は世界が灰燼に帰す日なり。そはダビデとシビュラが預言せり」
 それはまさに神の裁き。
 怒りの雷霆が敵陣へと走り、ついに精霊1体が消し飛んでしまっていた。
 だが、命中力に心もとなさを感じていたルチアはなおも雷撃を走らせようとすれば、彼女に怒る冬狼が鋭い牙を突き立てようとする。
 それ以上、自由に立ち回らせぬようにと、カイトが敵陣へと雨を降らす。
 氷と雨の織り成す極寒の災禍。
 いくら冬の王の手勢とはいえ、纏わりつく雨に力を封じされて闘気を放つこともままならない。
 すかさず、愛無が片刃剣「明鏡雪鋼覇IV」で乱撃を刻み込み、纏めて攻撃する中、2体目の精霊も体の維持が難しくなっていたのか、存在が掠れかけてきていた。

 乱戦模様となっていたが、メンバーの中には実力者の動きを牽制する者もいて。
 昴などは早くから、将校の姿を探していた。
 破砕と混合の闘気を練り上げ、臨戦態勢をとりつつ、昴は戦場を移動し、ある男を捜す。
 軍服につけていた大尉の階級章。
 四面鉄歌高らかに勝利を歌う昴は闘志を全開にして、そいつに迫る。
「貴様の相手は私だ」
「来たか……」
 昴が近づいてきたのを受け、男性大尉が機械化した腕を鳴らし、肩慣らしにと重そうな槍を振りかざし、近場の雪製、石製のバリケードを続けて破壊してみせる。
「どうやらパワーには自信があるようだが、それはこちらも同じ」
 なおも振るわれる大尉の槍を昴は正面から受け止め、そのまま柄をつかんで直接力比べを始めていた。
 ここまで闘士達を支援していたイズマもまた、男性中尉を捕捉して。
 自ら幻想の加護を得たイズマは魔導武器より冷たい一撃を男性中尉へと叩き込む。
 相手がつられて近づき、砲撃を発してくるならイズマの思惑通り。
「イズマ・トーティスだ」
 彼はさらに名乗りを上げ、冬の王の手勢、そして、女性中尉の注意を引く。
「我らを愚弄するか」
「中佐の邪魔はさせない」
 部隊員と合わせ、引き付けられた女性中尉も大尉よりは軽めの槍を幾度も突き出してくる。
 後方から飛んでくる男性中尉の砲撃も避けつつ、イズマは更なる攻撃を仕掛ける。
 そして――。
 仲間の多くが敵を抑えてくれている。
 セララは冬の王の手勢を仲間と排除に注力しながらも、まだ表立った動きを見せないヴェルクルス中佐の方へと視線を向けるのだった。


「おりゃああああああ!」
「せえええええいい!!」
 通りに響く軍人や闘士達の声。
 この戦いの様子は通りの住民、職人達の見守るところ。
「負けるな~!」
「私達の生活はあなた達にかかっているわ!」
 ラド・バウのスタッフなどもイレギュラーズや闘士の勝利を信じて声援を送ってくれていた。
 残念ながら、倒れる闘士も出始めていたが、戦闘不能となった軍人はその倍はいる。
 その戦いと並行し、イレギュラーズもヴォルクルス中佐が連れていた冬の王の手勢を追い詰める。
 すでに、カイトが降らせる雨によって、満足に攻撃できなくなっていた精霊に狼。
 中尉2人を引き付けたままのイズマが消えかけた精霊を中心に数体を捉え、空間ごと敵数体を粉砕する。
 そこから冬の精霊や冬狼らは傷つきながらも逃れるものの、弱った精霊は抜け出すことすら叶わず、異空間の中で消え去ってしまう。
 消耗していた冬の精霊は不意にブレスを吐き出すが、戦いが始まった時の勢いはもうなくなっていた。
 それでも、念入りにルチアが破邪の結界を展開する。
「どれだけ高い火力でも、無効にすればこちらのもの」
 冬の精霊は氷や凍気を中心に使っており、神秘の力がなければ大幅に弱体化する。
 それら精霊に、ルトヴィリアが再度帳を下ろす。
 ワールドエンド・ルナティック。
 ルトヴィリアのもたらす終焉は、冬の精霊を2体纏めて消し去ってしまった。
 ガルルルル……。
 思うように力を発揮できない冬狼は直接食らいついて力を取り戻そうとしていたようだが、カイトがなおも雨を浴びせて凍気を使わせすらさせない。
 躍りかかろうとする冬狼を制するように、焔が再度炎の槍を突き入れる。
 その一撃に体を貫かれた冬狼が地面へと墜ち、後方の軍人達も倒れていく。
 残る冬狼をルチアが誘導したところで、敵陣が開けたこのタイミングを、セララは逃さない。
 タイミングを見て、彼女は一気にヴェルクルス中佐へと迫る。
「ヴェルクルス、ボクと勝負だ! まさか逃げたりしないよね?」
「魔法騎士セララ……いいでしょう」
 ようやく、動き出すヴェルクルス中佐は片手斧に凍気を纏わせ、真横に一閃させる。
 刹那空中が凍り付き、空間が寸断されたような感覚。
 それに耐えたセララは魔力を解放し、聖剣に雷を落とす。
 彼女はそれを敵陣へと振るい敵陣へと雷撃を走らせた。
 街に駆け巡る閃光。
 それが止むと、雷撃を浴びて卒倒する軍人がいる中、左腕に雷を纏わせて耐えきったヴォルクルス中佐が踏みとどまっていた。
「こんなものじゃないよね?」
 まだ力を隠していそうだと感じていたセララは注意して戦いに臨む。
 そのセララの補佐へとカイトが向かう。
 多くを巻き込み、雨を降らせ続けるカイトだが、さすがに魔種となり果てたヴェルクルス中佐の力を封じることは難しい。
 仲間を巻き込む可能性も高まったこともあり、カイトは黒き雨を降らせる。
 これにも中佐はさほど気にする素振りを見せぬが、彼の部下である将校達は表情を陰らせていた。
「ククク……」
 含み笑いしながらヴェルクルス中佐は雷撃を纏わせた斧を振り下ろす。
 強化した一撃は掠っただけでも致命傷……だが、セララは怯まない。
 イレギュラーズの力を値踏みするように頷く中佐だったが、前方の戦いは納得いかぬ状況だったらしい。
「おや……、これは降格確定ですかね……?」
「「ひっ……」」
 その声に、またも部下達が全身を硬直させる。
 ここまで将校らは善戦していたようだったが、部隊員は相当傷ついており、闘士の拳で、武器で1人ずつ叩き伏せられていた。
 傍らでは、冬狼へとアリスが戦槌を打ち込んでいて。
「はああっ!」
 凍り付いた毛皮に覆われた狼の横っ面をアリスは渾身の力で殴りつけ、顔面の骨ごと砕いて撃破する。
 もう1体は闘士達が主となって追い込んでいたが、最後まで冬の王の手勢と対していたジルーシャが香術を使う。
 香りに誘われて呼び出された精霊は冬の狼に優しき息吹を吹き込む。
 アオオオォォォ……。
 瞳から光を失った冬狼は力尽き、その死骸は溶けてなくなってしまった。
 それを確認したジルーシャは闘士達へと陽光、風光によって発する慈愛の息吹で包み込む。
「こっちはお願いね! 思いっ切りやっちゃって頂戴な!」
「ああ、そっちは頼んだよ!」
「「うおおおおおおおお!!」」
 癒しを受けたアリスや闘士達は力を漲らせ、残る部隊員の掃討に当たる。
 これには、残っていた男女少尉は苦々しい顔で武器を握りなおしていたようだ。

 それ以上に苦しい表情をしていたのは、ヴェルクルス中佐お付きの将校3名だろう。
 男性大尉は、昴が力比べを繰り返していた。
「どちらが先に倒れるかな」
 殴られ、殴り倒されを繰り返していた両者。この場は昴が大尉を投げ飛ばす。
 それだけではなく、昴は竜撃を与えて態勢を大きく崩す。
 相手に身を起させはしない。起き上がった大尉は機械の両腕で太い槍を薙ぎ払ってくるはず。
 昴はその前に、渾身の拳を繰り出す。
 腹へと完全に入った昴の一打。大きく目を見開いた大尉はうなだれるように意識を失った。
 戦いの鼓動を高める焔が近づいたのは、男性中尉だ。
 支援を行うよう立ち回る男性中尉だが、数人のイレギュラーズ相手では分が悪いと察する。
 それでも、そいつはイズマに気を取られ、彼を振り払うかのようにバズーカ砲を叩き込む。
 距離を取ろうとする男性中尉へ、戦いの鼓動を高める焔が近づく。
 うまくイズマが他の敵から引き離していたが、焔も敵側に立つことで男性中尉を孤立させようとする。
 このまま倒せる。ハイデマリーは戦いで熱くなっても、ギフトによって冷静な思考で状況判断。
 一気呵成に男性中尉の全身へとハイデマリーが死神の狙撃を撃ち込むとの同時に、ジルーシャが自らの影より呼び出したチャーチグリム……リドルをけしかける。
 そいつはいつの間にか男性中尉の背後へと飛び掛かり、その首元に牙を突き立てる。
 非常に鋭く、それでいて酷く冷たい牙。
 男性中尉はリドルを引きはがそうとするが、手に籠もる力はすぐになくなり、よろけて雪の上にその身を横たえた。
 将校も残る1体、女性中尉に攻撃が集まる。
 すでに、愛無が引き付けに当たっていた。
「魔種の能力は不明瞭。連携は可能な限り断つ」
 愛無は冬の王の手勢が減ってきた地点で女性中尉の抑えへと回り、ここまで交戦を続けていたのだ。
「くっ……!」
 愛無が魔眼で睨みつけていた女性中尉はいつの間にか体が非常に強い毒に侵されていた。
 気づけば、ヴェルクルスを守るはずの男性2人は地を這っている。
 ただ、彼らを不甲斐ないとは女性中尉も一切思わない。
 それだけの実力を持つ相手であり、彼女も負けるだろうと察していたからだ。
「だが、中佐の前で不甲斐ない戦いなどできぬ!」
 女性中尉の持ち脚は機械の脚を活かした素早さ。
 強く雪を踏みしめ、高く跳躍するだけでなく、勢いをつけて槍を突き出す。
 甘んじてそれを受けた愛無だが、さほど痛手を負ったようには見えず。
「『刃』とは叩かれば叩かれるほど強くなる。折れず曲がらず貫くのみ」
 広域俯瞰すれば、すでに仲間達が敵を着実に倒している。
 愛無は心置きなく女性中尉の対処に集中していれば、仲間達が参じてくる。
 傍で交戦するヴェルクルス中佐を巻き込むように愛無が片刃剣で切りかかれば、体力の尽きた女性中尉は膝から崩れ落ちた。
 どうやら、その時、部隊員を率いていた少尉2人も、アリスが燃え上がる槌で男性を、闘士数名が立て続けに攻撃を叩き込んでノックアウトしていた。

 残るヴェルクルス中佐はセララが抑え、カイトがアシストを続ける。
 さすがに相手は魔種。セララだけでは非常に厳しい状況だったのは間違いない。
 常に全力。セララは光輝かせる斬撃でヴェルクルスを攻め立てるが、相手は氷と雷を操り、加えて片手斧を鮮やかに操って攻撃の挙動を定めさせない。
 そこに一人ずつ加わるイレギュラーズ。
 まずはルトヴィリアが体のあちこちを凍らせたセララに号令をかけて態勢を整え、さらに自らも高位火炎術式を発動し、中佐へと灼熱の獄炎を浴びせかけていく。
 カイトが幾度か氷戒凍葬によっていくつか雨を降らすが、中佐はそれらを厭う様子はほぼ見られない。
「数人がかりでこれですか? ……おや?」
 順調に攻め立てていると考えていたヴェルクルスだったが、ここにきて部下や精霊、狼に抑えさせていたイレギュラーズが続々とこちらに近づいてくる。
 ほとんど成果を上げられなかったヴェルクルス部隊。
 これには部隊長であるヴェルクルス中佐も呆れと怒りを入り混じらせて。
「あれだけ手間をかけて、このザマですか」
 小さく首を振っていたヴェルクルスだが、すぐに凍てつくようなオーラを全身から発する。
(相手は魔種。呼び声でこちらの闘士達を反転させようとしてくるかもしれない)
 ヴェルクルス部隊はほぼ壊滅状態。
 それもあって、闘士達もこちらの戦いを観戦している状況だったが、不甲斐ない部下を見限り、闘士を味方に引き入れる恐れもある。
「ククク……」
 笑いを浮かべる中佐に、危険を感じたセララは声を張り上げて。
「ボク達はどんな不利な戦いでも逆転勝利してきた!」
 傷つくセララを含め、ルチアが聖体頌歌を響かせて態勢を立て直すと、セララは高らかに叫ぶ。
「今回の鉄帝の危機だって、皆で力を合わせれば絶対に乗り越えられる!」
 すでに、自身は眼中になしかと感じたのか、ヴェルクルス中佐が初めて顔を歪める。
「ほう、バルナバス様を倒すと」
 セララはもちろんとばかりに微笑んで。
「さあ、皆で勝ちに行こう!」
「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」
 鼓舞された闘士達の咆哮。
 それによってイレギュラーズも気力を漲らせるが、ヴェルクルスが再度凍気を纏わせた片手斧で戦線を大きく切り裂く。
 近づいてきていたメンバー達だけでなく、闘士達の一部もその一撃を受けてしまい、数人が体を裂かれてしまう。
 前線で人々を鼓舞していたセララも、体を裂かれるような衝撃を受け、パンドラを砕いてその身を繋ぎとめる。
「甘く見られたものですね」
 凍てつくような右目の視線が後方を見やると、雪上にはさらに冬の精霊や冬狼が現れる。
 また倒すべき敵が現れたと察したルチアがそちらの対処に向かおうとする。
 携行品「終焉のレーヴァテイン」を使えば、一気に火力を使って冬の王の手勢を倒せるはずと考えるルチアだが、その背後から中佐が雷撃を纏わせた斧を振り下ろし、彼女を瞬時に叩き伏せる。
 ルチアも当然そのまま倒れることは是とせず、零れるパンドラに活路を見出した。
 幸い、冬の精霊や冬狼がこちらへと近づいてくるにはまだ距離があり、それらが戦いに参じるには少しばかりの時間を要するはず。
「――ソステヌート」
 再び幻想を纏ったイズマが冷たい一撃を細剣で浴びせかけて。
「お前の憤怒も暗躍もここで終わりだ、ヴェルクルス」
 続けて、昴やジルーシャも再度から仕掛ける。
 ジルーシャが呪鎖を伸ばして敵の体を縛り上げたところで、昴が仕掛ける。
「貴様はここで仕留める!」
 全身に漲らせた力を雷へと変換し、昴が強力な一撃で殴り掛かり、さらに、覇竜穿撃で追撃をかけた。
 ヴェルクルスにこれ以上攻撃させれば、被害が大きくなるのは必至。
「数による圧殺が最適解だ」
 愛無が呼びかけると、残像を展開した焔が相手を翻弄しつつ速力で切りかかる。
 それに、ヴォルフヴベーカリーのパンをかじる愛無も併せて斬撃を見舞う。
「地の利は此方にある。失われた街は取り返せても命は取り返せん。約束もあるのでな」
 まだ手数が足りなりと踏んだルトヴィリアも続く。
「諦めの悪さは感心しますがね。何度来ようが門前払いですよ」
 ヴェルクルス中佐の猛攻で体力をかなり使っていたルトヴィリアは零れ落ちる己の血を身を焦がす罪過の火と変えて。
「寒いでしょう、暖まっていきなさい─魂ごとね!」
 黒い炎がヴェルクルスの体を包む……が、次の瞬間、空中に氷の斧が形作られる。
 ヴェルクルスは雷で自らの左腕とそれを繋ぎ留め、周囲を大きく薙ぎ払う。
 不意をつかれたルトヴィリアとハイデマリーがその一撃で一気に体力を奪われ、運命の力で倒れることを拒絶した。
「生憎、鉄帝はこのまま冬に閉ざされても構わないのですよ、私は」
 氷の斧を霧散させたヴェルクルス。
 さすがは鉄帝の中佐。戦い慣れしたこの男は意表を突いた戦い方も心得ているということだろう。
 撤退もやむなしかという考えがメンバーによぎるが、昴がすぐにそれを否定して。
「貴様はここで仕留める!」
 いずれにせよ、自身にできることは殴ることのみ。
 昴は手足の動く限り鉄帝の武技を繰り出し、ヴェルクルスを殴って殴って殴り続ける。
 その間に、仲間達が柔軟に対応してくれると昴は信じていたのだ。
 仲間を合わせるべく、カイトがやむなく至近から致命の刃を刻み込めば、焔も華やかなる閃劇で敵の体深くに槍を埋め込む。
「これでトドメだ!!」
「トドメよ!」
 イズマとジルーシャがタイミングを合わせ、刃を一閃させ、けしかけたチャーチグリムに牙を突き立たせる。
 だが、ヴェルクルスは倒れない。
 迫ってくる冬の精霊や冬狼はまだ戦える闘士らが食い止めていて。
「まだ暴れたりないだろ、お前達!」
「「うおおおおおおおおおおお!!」」
 立て直したルチアもまた神の裁きを思わせる雷を放ち、精霊や狼を焼き払おうとしており、闘士と共に微笑む。
 その闘士らの態度に、ヴェルクルスは忌々しそうに声を上げて。
「弱いくせに、纏まればよく吠える……!」
 顔を機械の左手で覆うヴェルクルス。
 全身から放電すると共に、全てを凍り付かせんとするオーラを解き放つ。
 この一撃は、商店街を破壊しかねない。
 ハイデマリーはそこでセララと息を合わせ、ヴェルクルスの脳天目掛けて狙撃する。
 飛んでいく弾丸と共に跳躍するセララは雷撃を纏わせた聖剣で、その体を大きく切り裂いた。
「…………」
 刹那、その場にいた全員が凍り付く。
 ポタリ、ポタリ……。
 ヴェルクルスの体から迸る大量のどす黒い血に、勝負あったと誰もが悟ったのだった。


「首都を目の敵にするのは何故だ。復讐か? 故郷でも潰されたのか?」
 倒れるヴェルクルスへとイズマが最後に聞かせてほしいと問えば、彼は小さく笑って。
「ええ、ヴィーザルの出ですからね。スチールグラードが憎くてしかたなかったですよ」
 新皇帝なら、現在の鉄帝を新たに作り変えてくれる。
 中佐はそれを信じて忠臣となることを誓ったのだ。
「できるなら、バルナバス様と共に……」
 体が崩れる中佐へとカイトが残念だと告げる。
「此処がお前の最期の栄進の場所だ」
 もっとも、もう人間として彼を栄進する者はいなくなる。
 なぜなら、この場のメンバーが、あるいはイレギュラーズの誰かがバルナバスを打倒するからだ。
「バルナバス様。お許しを……」
 一言を残し、氷と雷を操る中佐は塵も残さず消えていった。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
 再び巻き起こる叫び。
 思った以上に戦える者は多かったようで、闘士達は瞬く間に冬の精霊も冬狼も倒してしまう。
 これなら、後片付けもあっさりと済みそうだと、ジルーシャはアリスと共に肩を竦めるのだった。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)[重傷]
瀉血する灼血の魔女

あとがき

 リプレイ、公開です。
 いくつも策をめぐらしていた魔種の中佐でしたが、ここで退場と相成りました。
 MVPは中佐を討伐したあなたへ。
 今回はご参加、ありがとうございました。

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