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シナリオ詳細

<鉄と血と>志士ぞ今こそ散るらむ(下)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●旗の意味
「我々は北より帝都スチールグラードに突入し、新皇帝派勢力を掃討。然る後に――かの新皇帝を僭称する冠位憤怒を討ち、リッテラムへ帝国旗を掲げる。これは私に課せられた義務であり、卿らにはそのために死線を共にしてもらうことになる」
「なあに、吾(わ)は北辰連合の者として貴殿と共にあろうぞベルフラウ! ローゼンイスタフの次期当主として前に進むその姿、その瞬間をかぶりつきで鑑賞できるならこの上なき名誉よ! なあ?」
 『雷神』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は帝都スチールグラードの地図を広げ、北辰連合の面々に対し――特にその先鋒となるべき面々に説明する。『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は北辰連合に身を置き、彼女と幾度となく轡を共にしてきた仲間の一人。『美少女』なりの激励(ときのこえ)はその場にいた面々の戦意を高め、死地にあって一歩も退かぬ決意を抱かせた。
 鉄帝にて覇を唱えた『冠位憤怒』バルナバスの台頭を機に、鉄帝には六つの勢力が現れた。その全てが、鉄帝の未来を憂い。その全てが、バルナバスを皇帝として認めぬ者達。
 そのすべての勢力が今、冬の終わりが近づきつつあるこの時期を以て『帝都決戦』への下地を固め、その道へと進みつつある。
 思えば長かった戦いが、この一撃により終局へ向かうことは想像に難くない。どういった形であれ、だ。
「して、ベルフラウ。貴殿の耳に入れておきたいことがある」
「……テオドールか」
 百合子の言葉に、ベルフラウは身を固くした。
 『黄金の双頭鷲』テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ。ベルフラウの実弟であり、『ローゼンイスタフ志士隊』を操って正義を標榜し、各地の騒乱をより広げた張本人でもある。
 彼は潔癖すぎるほどに正義に固執し、しかし供回りに魔種を迎えてなお反転せぬ心根の強さを併せ持っていた。その精神力だけ見れば、なるほどローゼンイスタフの血筋として正しい姿をしているのだろう。
 だが、部下を使い捨てにする冷酷な判断と歪んだ正義観はやはり、ローゼンイスタフの持つべきものではなかった。
 百合子は帝都にテオドールが近づきつつあるということ、そして『涙と罪を分かつ』夢見 ルル家(p3p000016)からもたらされた情報などを精査した結果、彼は「守護天使」なる存在を伴っていることが明らかとなった。
 最精鋭の残り全てを焚べ、天使すらも味方につけ、彼はなおも、ここで正義を遂行するつもりなのか。ベルフラウを足止めするために。
「最早是非もなし。ローゼンイスタフの名に於いて、テオドールを討つ」

●正義の価値
「『監督』よ」
「どうしましたか、貴方が私に意見を求めるなどと」
「いや、意見は不要だ。……私は今から、姉を、ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフを討つ。私は姉の為に正義を為そうとした。だが、それでは駄目なのだ。正義の為に、姉を越えねばならないと今は思う」
「……それは、いえ。貴方の為すべきように為さればよいでしょう。あの方もそれをお求めになる」
 目の前に近づきつつあるベルフラウ達イレギュラーズ勢力を前に、テオドールは『監督』と呼ばれる守護天使へと己の決意を露わにした。
 姉を討つ。
 そう、討つのだ、殺さねばならぬのだ。
 そうしなければ、否定された正義を己で信じられぬままになってしまう。
 清らかさゆえに何者をも受け入れぬ、その身に纏う水銀の如くの正義を為さねばならない。
 そのためにも、今度は、今度こそは全てを擲ってもいい。己の命を賭けてでも、己の正義を証明せねば、きっとテオドールはどこへも行けぬまま。
「――それは私のためにも、私を討つべく剣を執る姉のためにもあってはならない。正義の価値は、命でもって贖わねば誰も認めてはくれぬのだ」

GMコメント

●勝利条件
 テオドールの死亡
 守護天使『監督』の消滅

●敗北条件
 ベルフラウの死亡

●『黄金の双頭鷲』テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフ
 ベルフラウさんの実弟で、次代当主になる『はず』だった人物です。
 ローゼンイスタフ志士隊を率い、正義の二文字の為にあらゆる不徳を信念で塗りつぶしてきたタイプの人物。前回のベルフラウや北辰連合の面々との戦闘で、彼の正義に対するメッキも剥がれつつあります。
 ですが、そのうえで自らの信念を確固たるものとするべく命懸けでベルフラウを討つことを決意しました。前回と違って、腰を据えて挑んできます。撤退の二文字はありえないでしょう。
 防御面を特殊装甲(水銀)に頼り切りのためHARDボスとして素の防御は高くありませんが、回避、CT、そしてFBの低さが特筆すべき値となっています。
・指揮統制能力が極めて高く、居るだけで自分からレンジ3圏内に強烈なバフがかかります(EXF爆増、FB減(中)など)
・剣技を多数備えています。『剣技は』レンジ3までの技が主体。装甲に用いている水銀によって射程が可変で、常時【毒系列】が伴います。一部剣技には【攻勢BS回復】が伴います。
・水銀自動防御を備え、神秘に耐性、ダメージ発生系BSに対する【緩和1】と【棘】を有します。前回その正体を暴かれたことで神秘性が薄れ、一部性能が劣化しています。
・戦闘中一度きり、『EX 我が栄光』を使用可能。広範囲の味方に【復讐(中)】を戦闘中永続で付与し、【背水】属性を持つ集団攻撃(物近単、志士隊複数名の連携攻撃、詳細不明)を解禁します。

●守護天使『監督』
 テオドールに付き従う守護天使。PL情報ですが、セフィロト教祖『無限光』アイン・ソフ・オウルによって召喚されたもので、彼さえ無事なら消滅してもインターバルを経て再召喚されます(シナリオ中での再召喚はありません)。
 治癒技術に対しては比類なき力を有していると噂され、かなりの精度を持つものと考えられます。
 また、「浄光(神遠範:無、ブレイク、呪殺)」などの攻勢にでることも。
 耐久力がかなり高く、常時低空飛行をしています。

●ローゼンイスタフ志士隊最精鋭×20
 テオドールの指揮するローゼンイスタフ志士隊の精鋭陣。基本的に銃剣と、天義聖職者然とした者達は神秘術式を駆使します。
 精鋭というだけあって攻撃には多彩さが生まれ、【飛】や【移】で戦場をかき回す者、至近からの攻撃特化のため、【怒り】を食らっても戦闘において不利とならない者、【必殺】持ち等様々。
 彼らは命を捨てることをなんとも思っておらず、「我が栄光」を付与されたあとはそれがより顕著になると考えられます。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <鉄と血と>志士ぞ今こそ散るらむ(下)完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月21日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
観音打 至東(p3p008495)
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ


「姉上……否、ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ卿。私は正義を貫くために貴女という言い訳を求めておりました。申し訳ありません、甘えが過ぎたのです。私は自分を信じきれぬ余りに、貴女を言い訳にした。私は今日、私の正義のために『ローゼンイスタフの未来』を断つ。この穢れて腐り堕ちた国を変える為に、貴女を討ち通る」
「テオドール、我が愛しき弟よ。お前は付いていく者を間違えた。正義とは正しき事、しかしそれは絶対の善ではない……正しさを通す事ならば誰でも出来るのだ。肝要なのは善き日を過ごし続ける事だ……終わらせよう、全てを」
 『雷神』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)にとって、弟たるテオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフは人生に於いて不可分な存在だった、といえよう。立派に育った彼は、何れ家督を継ぐのだろうと思われていた。だが現実は、こうして殺し合わねばならぬ立場となった。どちらも正しい。だが、テオドールの語る正義はどこか虚ろでもあったのだ。
「ベルフラウ殿の弟御ですか。何というか……真面目というか、思い込みが強い方ですね。命を賭けて正義を証明しても、その正義を実行する者が残らねば意味はありますまいに」
「姉君の為に正義を成すというのであればそれは献身であろう。だが、己が正義を肯定する為に姉を倒すというのであれば……それはもう自己保身よ。吾にもベルフラウ殿にも救えぬものだ」
 『涙と罪を分かつ』夢見 ルル家(p3p000016)も『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)も、ベルフラウとは相応に付き合いが長い。それ故に彼女の肉親を手に掛ける選択肢には諸手を挙げて賛成とはいかないが、その信念が『まっすぐ歪んでいる』以上は他の選択肢がないことも知っていた。百合子は特に、以前彼を追い詰めた身としてその心がより歪んだ方向に突き進んだこと、姉弟で命を奪い合う展開となった事実に複雑な感情を持ち合わせている。享楽や殺すことが目的ではなく、殺さねばならぬ、という義務の先にある殺害。胸の奥に生まれた人らしさが、この状況に否を叫ぼうとした。必至で押し殺した選択は、間違っていない。
「私の正義は力無き人達を守る為のもの。だから他者に犠牲を強いるやり方は認めないよ」
「大変だねぇ、ローゼンイスタフ家のお家騒動。随分とまァ、『正義』に固執している様だけど。そんなに『正義』を成して、いったい何がしたかったのだろうねぇ? ヒヒヒ」
「弟の求める正義に卿らを巻き込んだこと、恥じ入る限りだ。だがスティアの言う通り、正義はただ自分の為に為すべきことではない。人々を導くため、先頭を切ってそのあり方を見せられぬテオドールに、この旗を託す事はできない」
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はその癒やしの力と堅牢な肉体を、ひたすらに『守るため』に求め続けた結果だ。正義のあり方を、身ひとつで体現した結果だ。彼女の姿勢はベルフラウも関心を寄せるところであり、『闇之雲』武器商人(p3p001107)の疑問にはただ、テオドールのあり方がたまたまそうだった、としか言いようがない。よもや姉(じぶん)を想う余りに道を外したなどと、認めたくはないものだ。

 死を恐れぬことと、なんとも思わないことは、似ているようで大きな隔たりがあります。
 生きていれば三人殺せる、死ねば二人殺せる。
 単純な算数ですよネ。隊伍を組む意味を、もう少し考えてもらいたかった――。
「――などと、頭の中で講釈をたれてもしょうがありませんネ」
「貴女のような禍々しい者を、テオドール様の障害には出来ません。ゆめお覚悟願います」
「あらら、酷い言われようですネ。それでは無理やりにでも、道を作りましょうや」
 『悪縁斬り』観音打 至東(p3p008495)の考えは、それこそ命を捨ててでも道を作る者のそれ。死にたくはないが、その前に目一杯殺してみせようと天に意思と刃を掲げるそのあり方は、『監督』の警戒心をも刺激した。であれば天使も悪魔も切って捨てようとぎらついた目を向ける至東の姿は、飄々とした態度にひた隠しにした狂気を垣間見せた。
「最精鋭と監督は、おねーさんと武器商人くんちゃんとで抑えるわー! 至東ちゃんは遠慮なく斬ってまわっていいのよ!」
「戦乱ならばこそ、信念を以て違えた道はもはや交わる術もありません。仕方の無い事、ですが……避ける事は、もうできないですね」
「最早是非も無し。片っ端から斬って未来を舗装するしかないですネー」
 それぞれが殺気と決意を露わにする姿に、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は戸惑いを覚えつつも覚悟を決める。『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)と至東のやり取りはその体格差も相まってほのぼのした雰囲気を覚えなくもないが、内容が余りに殺伐としすぎている。
「長々と立ち話もなんだ。我(アタシ)達は殺し合うしかないんだ」
「そうね、これ以上おねーさん達がとやかく言うところじゃないわ! だから……『おねーさんが、愛してあげるわ』!」
 武器商人とガイアドニスはベルフラウとテオドールのにらみ合いを敢えて打ち切るかのように声を張り、殺し合うならきっちりとやろう、そう言わんばかりの空気を作り出した。
 ガイアドニスの語る『愛』はたちまちのうちに最精鋭たる志士数名の耳目を集め、殺(あい)さねばという感情を強く持たせるに至る。
 テオドールがすかさず剣を抜くが、既に射線上を遮る形でスティアが入り、先に進ませまいと立ちはだかる。振るわれた異形の刃はしかし、スティアではなくベルフラウの鎧に阻まれ、手元へと戻る。
「鋼鉄よりも堅牢だと噂のヴァークライトの令嬢に護衛は不要かとも思われるかも知れんが……ここでは手を取らせて頂く!」
「鋼鉄……ってそんなことないよ! でもありがとう、ベルフラウさん。頼りにさせてもらうね!」
 ベルフラウの軽口、それに応じるスティアのやり取りは幾度となく轡を並べた者の信頼を感じさせた。
 彼女は、ローレットの人々は、テオドールの知らない彼女を知っている。使命や正義とは別のところにある、ベルフラウ(あね)の思いを。それは知らず、テオドールの胸を締め上げる。


「ヒヒヒ、天使などと大層な名前だけれども、感情はあるんだろう?」
「…………」
 武器商人の虚ろな目は、『監督』の視界を埋めるかのような幻覚を映し出す。さながら衒罪の呼び声としか呼称しようもない悪意の発露は、癒やし手の軸である守護天使の役割を一手にて奪い取る。
「危険な相手は、一体ずつ仕留める……でしたね」
「で、あれば。そこな剣士! 私の刃の錆となるがいいのですヨ!」
 リースリットは精霊剣を叩き込む相手を慎重に見定める。一人ずつ、確実に。中途半端に命を削るのではなく、消し飛ばす勢いで叩き込む。そのためには、より危険な相手を狙うべきだ。至東はその点、鋭い嗅覚でひとりの剣士を見定め、するりと間合いに踏み込んでいく。確実に殺す、という決意を込めた斬撃を肩に受けながら、彼女は返す刀で三度の斬撃にて切り刻む。それでも最後の一歩を踏みとどまった志士の姿に、「見事」と笑みを見せるが……次の瞬間、その志士はリースリットの精霊剣をまともに受けて絶命する。
「テオドールの足が止まった分、距離が離れた者から叩くのが道理よな!」
「百合子殿が手を付けた相手なら、斬り伏せるのも用意でありましょう……ご覚悟!」
 百合子による三所突き、からの星見の一撃は、最精鋭と目された志士であっても大きく蹈鞴を踏む威力、そして敵意の現れだった。一手受け、重さに慄き。そこに飛び込んできたルル家の美しき鋒で、胴を裂かれる。それでもなお踏みとどまろうとした意思や大したものだが、ルル家のそれは立ち上がることすら許さぬもの。仮にテオドールの庇護下にあれど、厳しい連撃だったことは否めない。
 ガイアドニスが惹きつけた者らは何れも強力な手合いであったが、何しろ初手でテオドールの足止めをされたのが不味かった。
 強力な、感覚すら麻痺させうる指揮統率も、十全に届かねば意味がない。賢しく、気力の保つ者はテオドールから距離を取りすぎずに対処したが、さりとて強烈な一撃を持つイレギュラーズを並べて、十秒生き延びれる者がいようはずがない。手足を縛られて戦っているようなものだ。『監督』とて無能ではないがゆえに、武器商人の挑発的な呼び声から逃れ、その不調を癒やしにかかるが……それでもなお遅い。否、イレギュラーズの攻勢が早すぎるのだ。
 或いは死に等しい十秒をやり過ごした者の強烈な反撃はあったが、傷こそ与えども致命を齎すには、遅い。
「あなたを前に進めるわけにはいかないよ。私が止める、私が癒やす」
「然るに、卿の力の程も理解しているのだテオドール」
 スティアの治癒は、ローレット・イレギュラーズにおいても上位のそれだ。志士の猛攻があれど、軽々に運命を削らせるわけがない。
 当のスティアを守るのは誰あろうベルフラウだ。軽率に貫くことは能わず。
 そして、イレギュラーズは志士達を……十名、落した。
「降伏する気はありませんか? 貴方とて姉上を害するのは本望ではないように見受けられますが」
「断る。本望かどうかは、信念を曲げる理由にはならない」
「……貴殿、魔種の呼び声をはねつけられる精神力を持ちながら何故此方で戦わなんだ」
「精神力だけでは、英雄にはなれない。それは、卿らも知っているのではないか」
 ルル家の降伏勧告、そして百合子の乱打につぐ乱打とともに浴びせられる言葉に、テオドールは冷たくかえす。もう、戻れぬところまできた。もう、抗えぬ魅力を見た。
 己の突き出す剣と共に、栄光があらんと望んだ。だからもう、彼は志士達に『死ね』と命ずることしかできない。
 ベルフラウもまた、それを心得た。最早テオドール討つべしと前進した仲間とともに、腰に吊ったそれを握る。


「我が栄光、我が正義、その手にある限り! 我が戦友に無限の戦意を! 無尽の戦功を! 共に辺獄まで、全てを巻き込んで突き進め!」
「テオドール、お前が飽く迄もその正義を己が信条とするならば。私もそれに応えよう」
 テオドールが、不利に至った精鋭達へと叫ぶ。死地にあるものをさらなる死へと誘う魔性の号令。正義という名で糊塗された、悪意を。ベルフラウはその心情を貫く弟のあり方を間違っていると感じながら、それを止められぬ不甲斐なさに目を伏せた。氷のような正義を手に取った弟に、雪解けの大地の如き世界の開闢を見せるのだ。
「この広大なるヴィーザルに根ざす雷神の音を聞け!」
 仲間達に迫るあまたの刃を、己の身ひとつで受け止める。命あらばこそ、魂が燃え盛る。信念のために命を投げ捨てた彼等に、魂なぞあろうものか。決意とともに抜き放たれた眩き光の剣――クラウソラスは、受け止めた全ての痛み、全ての敵意すら抱きしめるが如き輝きを放つ。あたかも、ベルフラウの背に翼を為すが如く。
「身内一人も救えぬ姉を許せ……さらばだ、愛しい弟よ!」
「させませっ――」
「だーめ。君はおねーさんと一緒にここで釘付け、逃さないわ!」
 光の束が振り下ろされる刹那、『監督』はテオドールを庇うべく身を乗り出した。だが遅い。ガイアドニスをすり抜けられるほどの突破力は、少なくともその天使には備わっていなかった。ガイアドニスは、無視しかねる脅威、避け得ぬ壁であったのだ。
「眩しいですね、姉上。これが――」
「――ああ。これが、卿への餞。そして、『ローゼンイスタフ』の輝きだ」
 光が収束した先に、テオドールの姿は残されていなかった。ベルフラウの身を包む運命の加護をも用いて放たれた一撃は、狙い過たずその運命ごと光に包み込み、消し飛ばしたのだ。だが、最後に見たテオドールの表情は何よりも穏やかだったように想う。
「……残されたのはあなたがただけです。降伏の意思は、ありませんか」
「させません! テオドール様の仇、この場で討つか討たれるか……」
 眼の前で、肉親同士で果たし合う。
 それはルル家にとっても、耐え難い痛みを想起させた。最精鋭など持て囃されても、目の前の者たちには家族がいる。恋人も、いたかもしれない。心なき人形でないならば、もう戦う理由もないならば、彼等を殺さぬ選択肢だってあるはずだ。降伏勧告には、そんな悲しみも混じっていた。それをさせまいと、セフィロトの信念を体現し声を荒らげた『監督』はしかし、その胸に大穴を開け、声を断った。すでに大きな消耗を経ていたがゆえか、使い手の感情がゆえか。
「それ以上は言わせません。家族の命、肉親殺しの業。そんなものを背負わせてまで、この戦いは必要な事だったのですか」
 精霊剣を生み出し、投げつけた姿勢のままリースリットは問う。『監督』は当然、と返すだろうが、リースリットのそれは反語だ。最初から否定したかったことだ。……しかし、志士達はもう止まる術を持っていなかった。
 止まる切掛を未来永劫、失ってしまった。
「貴殿等は無駄死にだ、故にこそ情けは要るまい。構えよ、主人と同じ所に送ってやる」
「散らさねば映えぬ花なれば、私の殺人剣こそ餞になりましょう」
 百合子は最早、彼等を生かして帰す気はなかった。
 至東は彼等の首が、最早椿かなにかにしか見えていなかった。
 綺麗なままで、綺麗事を吐いて、主人を失って、そのままの帰り道など何処にもない。
 死出の道に踏み込んだ以上、全滅しか道はなかった。

「バカですよ。貴方も、ベルフラウ殿も。もっと自分にも他人にも甘くしたって良いのに」
「ならぬのだ、ルル家。その気持ちは何より尊いものだが、私も、テオドールも。父がそうであるように、誰かに厳しくを求めるなら己にも厳しくなくてはならなかった」
 ルル家の言葉に、ベルフラウはただ立ち尽くし、毅然と述べた。
 その目には一粒の涙も溜めてはいない。それを吐き出すのは、今ではないから。

成否

成功

MVP

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

状態異常

なし

あとがき

 良き旅路を。

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