PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<被象の正義>聖母に落ちる影絵

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●神託と遂行者
 天義に降りた新たな神託――それはシェアキムや騎士団を、偽の預言者や歴史を歪めた悪魔であると糾弾するものだった。その内容を裏付けるように現れた、『ベアトリーチェ・ラ・レーテ』の暗黒の海と汚泥の兵達。致命者と呼ばれた人々。そしてまたも歴史修復を告げる、『サマエル』という遂行者が現れる。
 サマエルは天義の巨大都市――テセラ・ニバスを『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たちの住まう『異言都市(リンバス・シティ)』へと変貌させ、天義への侵攻を開始した。
 翳の軍勢とワールドイーターによって浸食される都市――それはまるで、R.O.Oでかつてパラディーゾたちが仕掛けた『陣取り合戦』そのものだった――。

 いつもと変わらぬ日常、家族が待つ変わらぬ光景がその家にはあるはずだった――。
「あ、あんた……誰だ?!」
 しかし、そこに居たのは妻とは異なる見知らぬ女性の姿だった。
「おkごjっ7hj?」
 しかも、その女性は意味不明な言語を話し、妻同然のように家事をこなしている。幼い娘や息子たちは、素性のわからぬ来訪者に脅え、部屋の隅で縮こまっていた。
 家長である男性、父親は女性を強引に追い出そうとする。だが、謎の女性は相手の攻撃的な態度に反応するように、その凶暴性を露わにする。父親が出血するほど容赦なく引っ掻き噛みつくなど、女性の途方もない力に父親は屈するしかなかった。父親は子ども2人を抱え、女性に追い立てられるように家から逃げ出した。
 異変はその家庭だけではなく、街全体に生じていた。街のあちこちに謎の言語による怒号が飛び交い、多くの人々が各家に突如現れた女性の存在に戦慄した。どの女性も尋常ではない凶暴性を見せ、会話を成立させることができない。
 多くの住民らが、一時的に街の講堂へと避難してきた。父親は子どもらの安全を確保するために無我夢中だったが、講堂周辺に集まった人々の中にその女性の姿を見つけた。
「ルナリア?!」
 父親は自身の妻の名を呼び、駆け寄っていく。
「ルナリア、心配したよ。変な女がいきなり現れて――」
 異常事態を懸命に訴える夫のことを、ルナリアはどこか怪訝そうに見つめる。そして、ルナリアからは夫が予想もしなかった言葉が飛び出す。

「あの……どちら様ですか?」

 あまりにも真剣な口調で尋ねられ、夫は困惑した。
「冗談はやめてくれよ、ルナリア! とにかく、街中に頭のおかしい女がいるそうじゃないか。君が無事でよかった――」
 ところが、妻の異様な言動に困惑する夫は、1人だけではなかった。

「私はあなたのことなんか知らないわ! ウソつかないでよ!」
「どうしたんだよ!! 悪ふざけしてる場合じゃないだろ?!」

「そんな……私には、夫も子どももいません。どなたかと勘違いしていらっしゃるわ」
「おい、まさかお前まで頭がおかしくなったのか!? 一体どうなってるんだ――」

 謎の言語を話す異様な女性たちの出現と共に、街中の母親たちが家族の記憶を失っていた。その現象は、ワールドイーターによってデータを喰らわれた、R.O.Oの住民と重なるものがあった。

●食らわれた記憶
 ワールドイーターらの支配下、侵食を免れた街の一角に住民らは寄り集まり、一時的に街の講堂が避難場所として利用される。
 テセラ・ニバス北側の街区は大混乱に陥り、住民らは凶暴なゼノグロシアンたちを恐れて逃げ出した。更に、ワールドイーターと同一視される終焉獣(ラグナヴァイス)による影響も深刻である。ワールドイーターは街中の母親たちの記憶を食らい、その中から家族の存在を消し去ってしまった。異常事態に直面した住民らはどうすることもできず、イレギュラーズに助けを求めた。
 講堂内の隅には、その対処に駆り出されたイレギュラーズ一同、『強欲情報屋』マギト・カーマイン(p3n000209)の姿があった。
 状況を把握しようと、半ばパニックに陥った住民らに対する聞き取り調査に奔走したマギトは、どこか疲れた表情をしている。マギトは八つ当たり気味に、目の前の机に分厚い紙の束の資料をドンと放り出した。
「どうしてこうも次々と問題が起きますかねぇ……? ラサに続いてこんな事態になるとは──」
 マギトはぶつぶつとぼやきながらも、情報屋として目の前の仕事に集中すべく切り替える。
「ゼノグロシアンに占拠された街区ですが、まだ完全に異言都市化は進んでいないようです──」
 北側の街区は完全に取り込まれる前の一歩手前、境にあると言える状態だが、一般人では狂人そのもののゼノグロシアンには到底太刀打ちできない。また、問題はゼノグロシアンだけではない。ゼノグロシアンらのボスに当たるワールドイーターを倒さなければ、多くの住民らの記憶は失われたままとなる。
 ワールドイーターに記憶を食らわれたのは、幼い子どもを持つ母親ばかり。母親たちとその家族の証言は一貫して噛み合わず、母親は自らのことを「独身である」と信じて疑わなかった。
「──このままでは家族断絶という訳です。被害者である母親は、記憶を失っているという自覚がまったくないのです」
 マギトはため息まじりに言い添えた。
 マギトは次に、偵察を務めた騎士団からの情報を説明する。
 街区を占拠したゼノグロシアンたちはその街の住民として振る舞い、あたかも平和な日常を謳歌するように過ごしている。普通の主婦のように噴水広場で井戸端会議に興じたり、普通の主婦のように家事をこなすなど──言葉が通じない以外は、一見まともそうに見える。
 ゼノグロシアンたちがその凶暴性を発揮するのは、他者からの敵意を顕著に感じ取った時のようだ。だが、凶暴化する怒りの沸点は極めて低いと言える。騎士の1人は、すれ違う際に肩が触れただけでも襲いかかられたと報告している。
 本格的な異言都市化の段階には達していないようだが、その兆候は現れ始めている。街区のあちこちに無数の不気味な色合いの物体──赤黒いキャベツと思われるものが出現しているのだ。騎士団はその内の1つの破壊を試みたが、キャベツに刃が達した瞬間にゼノグロシアンたちの凶暴化が加速し、追い込まれた騎士団は撤退を余儀なくされた。
 妙なキャベツもどきを傷つけられたゼノグロシアンの反応は尋常ではなく、何かしらの感覚を共有している可能性もあるというのが偵察班の見解であった。
 ゼノグロシアンに追い立てられる形で撤退した騎士団だったが、ワールドイーターらしき者の居場所も突き止めていた。他の女性のゼノグロシアンとは異なる存在──シスターの姿をした人物が教会にいたことも確認されている。そのシスターがワールドイーターであると断定できるだろう。
「住民の避難から一夜近く経ちましたが──」
 マギトは、どこか浮かない表情を見せて言葉を呑んだ。印をつけた資料を抜き出しながら、マギトはもう1つの懸念材料を示す。
「1人の乳幼児、サラちゃんの所在が不明のままです。恐らく、記憶を失った母親が放置したまま避難してしまったのでしょう」
 幼い命が取り残されたままになっている事実に、その場の空気は一挙に張り詰める。ただ多くの住民から、ゼノグロシアンは子ども相手には手を出さなかったという証言も数多く上がっている。また、撤退中に赤ん坊の泣き声がどこかから聞こえてきたという騎士団の裏付けも取れている。赤ん坊が無事かどうかは、ただの希望的観測とも言い切れない。
 住民たちの平穏を取り戻すため、イレギュラーズはワールドイーターらのせん滅に乗り出した――。

GMコメント

●シナリオ導入
 噴水広場に続く通りに差し掛かると、そこには確かに異様な光景があった。
 石造りの美しい街並み、景観にはそぐわない物体がそこかしこに生えている。石畳の上にまばらに生えているそれ――赤黒いキャベツは街を侵食するかのように、不気味な存在感を放っていた。
 噴水広場に近づくほどに、謎の言語による会話が明瞭さを増して聞こえてくる。広場の中央、噴水の前には主婦らしい恰好をした複数のゼノグロシアンが談笑していた。その光景だけを見ればのどかな街の様子そのものだが、女性たちの会話はなに1つ理解できない。
 住民の大半が避難したことで喧騒が失われた街には、その泣き声がよく響いた。噴水広場に踏み込む直前、イレギュラーズは確かに赤ん坊の泣き声を耳にする。甲高いその声は、西の方角から聞こえてくる。
 通りから外れた西には住居が立ち並ぶエリアがあり、東側にはワールドイーターらしきシスターが目撃された教会がある。

●情報屋からの挨拶
「どうも、マギト・カーマインです。
 ワールドイーターが記憶を食らう対象……何やら意味深ではありますが、ワールドイーターの趣味嗜好には個体差があるようですからね。何にせよ、ワールドイーターをどうにかしない限り奪われた記憶は戻りません。住民のためにも、皆さんの力添えをお願いしますよ」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●成功条件
 メイン条件:ワールドイーターの討伐。
 サブ条件:サラ(乳幼児)の救出。
 メイン条件を満たせば成功です。

●敵について
●ゼノグロシアンについて
 50人のゼノグロシアンが普通の主婦のように生活している。
 敵意を向けない限り攻撃してくることはないが、基本的に凶暴。
 対象が子どもの姿(特に10歳未満の見た目)をしている場合は友好的だが、攻撃には攻撃で応じる。
 戦力は大したものではないが、ワールドイーターとの戦闘を妨害される恐れがある。
 不気味なキャベツを攻撃すると、異常な執着を見せて襲いかかる。

●ワールドイーターについて
 ゼノグロシアンを生み出した親玉。ワールドイーターを倒せば、ゼノグロシアンも消滅する。
 イレギュラーズからの攻撃を受ければ、自ずと街区全体のゼノグロシアンを招集するだろう。また、ワールドイーターは影の天使を4体呼び出す。
 それぞれ【物近単】の攻撃を行う。それに加え、ワールドイーターは体の一部を浮遊する槍(神遠単【万能】【足止め】)に変化させ、対象を追尾させる。

●街区の情報について
 その他の情報は、選択肢の内容を参照してください。


行動選択
 以下の選択肢の中から、最初に行動する場所を選択して下さい。
 別の場所に移動する際は、機動力が高いほど有利になるとします。
 行動範囲は、噴水広場を中心としておよそ400メートル圏内になります。
 ※選択ミスによって、選択肢とプレイング内容が矛盾した場合は、プレイングを優先します。判定が不利になることはありません。

【1】噴水広場
 主婦然としたゼノグロシアンたちが、噴水の前でのどかに井戸端会議をしている。無暗に接触しなければ、攻撃されることはない。
 広場に向かったあなたは、噴水広場にも多くのキャベツが生えている光景を目にする。その中には、鼻歌混じりにキャベツに水やりをするゼノグロシアンを見つけることもできる。

【2】西の住宅街
 石造りの住宅が並ぶ通り。
 あなたはそこで乳母車を押して歩くゼノグロシアンの姿を見つける。赤ん坊の声は、間違いなく乳母車から聞こえてくる。
 他のゼノグロシアンの姿は見当たらないが、騒ぎを起こせば駆けつけてくる恐れもあるだろう。

【3】東の教会
 他のゼノグロシアンとは異なるシスターの姿が目撃されている場所。
 教会の目の前までくると、子守歌のように穏やかで、聖歌のように清らかな響きを持った歌声を耳にする。
 正面の扉は施錠されていない。そこから教会に踏み入る者に対し背中を向けるシスターは、ただ1人歌い続けている。

  • <被象の正義>聖母に落ちる影絵完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと
トール=アシェンプテル(p3p010816)
男の矜持

リプレイ

「石造りの綺麗な街なのに、不気味なものがあちこちにあるです……」
 他のイレギュラーズと共に街区に踏み込んだ『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は、その街並みを見渡してつぶやいた。
 イレギュラーズ一同は、通りの向こうに見える噴水広場の様子を遠目に眺め、ゼノグロシアンたちの様子を観察する。ここに来るまでの間にも、何人かのゼノグロシアンともすれ違った。不気味なキャベツらしき物体に水やりをする者もいれば、ホウキを手にして鼻歌混じりに路地を掃除する者もいる。それは一見、平和な街の光景そのものに感じられ、メイは心中でつぶやく。
 ――まるで、メイたちの常識が間違っているような錯覚を覚えるですよ。
 実際に住民と化しているゼノグロシアンを目の当たりにした『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)も、「ますますわからねぇな、こいつらはよ……」とすれ違った1人を見送りながらつぶやいた。
 閑散とした通りの端に生えそろう赤黒いキャベツを眺めながら、『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)は言った。
「理想の世界を作んのは結構だが、なんでわざわざ地上を塗り替えてくんだか」
 ――それこそ天上にでも作ってくれりゃ、すみ分けできて助かるんだけどな。
 東側の教会との分かれ道に差し掛かったとき、一行は赤ん坊の泣き声を耳にする。
「取り残されている赤ちゃんかな……?」
 そうつぶやいた『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、確かに泣き声が聞こえてくる西の方角を見つめた。
 即座に「助けてあげないと!」と反応するメイを制して、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は西側の捜索に名乗りを上げた。
「私が安全を確保しにいく」
 サクラ自身にも、すべての者を救いたいという強い気持ちがあった。両脚共に特殊な義足を身につけている『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)も、赤ん坊の捜索に積極的な態度を示す。
「取り残されている子のことはまかせて」
 また『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は、子猫の使い魔──ファミリアーを捜索班2人の供として預けることにした。メイも小型犬のファミリアーを使役し、別方向にある噴水広場の偵察に向かわせる。
 噴水広場は街区の中でも比較的にぎやかで、意味不明な言語で談笑する声が複数あった。そして、広場にも例のキャベツがまばらにいくつも生えているのがわかる。自身のファミリアーと視界を共有するメイは、教会に向かうのと同時に、広場に不審な動きがないか探り続けた。
 教会の建物の前まで来ると、中から歌声が漏れ聞こえてくる。騎士団の報告にあった通りの歌声に耳を澄ませて見るが、歌詞の意味を理解することはできない。
 イレギュラーズの6人は、半開きになっている教会の扉の前へと、静かに距離を詰めていく。最後尾の『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は、教会の周辺にも群生する不気味なキャベツを一瞥する。
 ──キャベツ……なんだか引っかかるんですよね。……コウノトリが、キャベツ畑から赤ん坊を連れてくる……それになぞらえて守っているのか。それとも……そっちこそが本物のワールドイーターか。
 あらゆる予測を立てるマリエッタは、不測の事態を避けられるように行動することを忘れない。多くのゼノグロシアンが教会に殺到することを危惧し、マリエッタはすすんで教会周辺を見張ることに傾注する。
 他の5人は、開いた両開きの扉の隙間から教会内の様子を窺う。
 木造の長椅子が並ぶ先にある演説台、陽光を反射するステンドグラスの窓など──教会の作り自体は変わったところはない。朗々と響く歌声を反響させるシスターの後ろ姿だけが見えていた。
 清らかな響きを持つシスターの歌声にも、スティアはどこか不気味なものを感じていた。
 ──何か目的があるはずなのに、それがわからないのがもどかしいね。
 そう感じていたスティアだったが、不意にミーナと互いを見交わす。ミーナは透視能力によって教会全体の様子を確認し終えたところで、その合図を送るかのようにスティアを見つめて頷いた。5人はそれぞれ、突入のタイミングを見計らって頷き返す。
 教会の大きな扉は、激しく軋む音を立ててシスターの歌声を遮る。教会内に踏み入る者の存在を感知したであろうシスターは、歌うことを止めて棒立ちになっている様子だった。
 まだシスターがワールドイーターであるとは断定できない。5人は未だ振り返ることのないシスターの背中を見つめ、ゆっくりと距離を詰めていく。
 シスターを取り囲むようにして、各々左右、真後ろからシスターへ詰め寄ろうとする。しかし、音もなく現れたその存在が、5人の動きを止めた。
 シスターの両脇から浮かび上がるように現れたのは、黒い影のように揺らめく天使のシルエット。その天使たちが剣と盾を構える輪郭に変化し、臨戦態勢を見せたとき、シスターにも明らかな変化が見られた。まるで全身を痙攣(けいれん)させるような不気味な動きを見せるシスターは、遂にその本性を露わにする。
 シスターの皮や服を裂くようにして、中身の何かが姿を現そうとしていた。複数の裂け目の下から歪に膨れ上がる黒い物体は、完全にシスターだった部分を引き剥がし、漆黒の獣の姿を見せた。
 イレギュラーズの前に現れたワールドイーター──獣の力強い咆哮は、教会全体の窓ガラスをビリビリと揺らすほどだった。

 共に行動するサクラとヴィリスは、赤ん坊の泣き声を頼りに西の住宅街を目指した。2人は徐々に目標に近づいていることを確信し、差し掛かった十字路を左に曲がる。その視線の先には、乳母車を押して歩く女性、ゼノグロシアンの姿があった。
 赤ん坊を乳母車に乗せて散歩するゼノグロシアンは、すこぶる上機嫌な様子に見えた。顔を真っ赤にして泣き喚く赤ん坊の声は、まるで気にしていないようであった。そんな2人の前に、サクラは立ち塞がる。進路を塞ぐサクラの存在に対し、目の前のゼノグロシアンは敵意をむき出しにする。
 ――このゼノグロシアンも今は正気を失ってるけど、子どもを大事に思ってるんだろうね。
 わずかな間ゼノグロシアンと赤ん坊のサラを見比べたサクラだったが、複雑な気持ちはひとまず振り払う。サラが傷つけられる事態を防ぐためにも、サクラは瞬時に行動に移した。
「ちょっとこっちに来てくれるかな!」
 そう言い放つサクラが刀を構えた瞬間、眩い光が発散される。その光に照らされたゼノグロシアンは、怒り狂ったように何事かを怒鳴り散らす。
 ゼノグロシアンはサラが乗った乳母車を見境なく突き飛ばし、サクラに向けて激突させようとした。サクラは咄嗟に乳母車をかわし、衝突を避ける。その動きを見通したかのように、進路上に回り込んでいたヴィリスは乳母車を受け止めた。ヴィリスは乳母車のサラの無事を確認し、即座に抱き上げる。
「赤ちゃんって小さいけれど重いのね……初めて抱っこしたわ」
 涙目のサラは、きょとんとした表情でヴィリスを見つめ、その一言を聞いていた。
 サラを抱えるヴィリスに気づいたゼノグロシアンは、金切り声をあげて突撃しようとした。しかし、ゼノグロシアンが一歩踏み出した瞬間に、サクラは足を掛けることで相手を転倒させた。
 ゼノグロシアンが騒いだことで、他のゼノグロシアンも集まってくる恐れもある。サクラは手はず通りに行くようヴィリスを促した。
「ここは私に任せて、ヴィリスさんも教会へ行って!」
 ヴィリスは、サラを抱いた状態で走り出す。それを止めようとするゼノグロシアンは、サクラには構わず夢中で駆け出した。だが、無防備な背中を見せたことによって、ゼノグロシアンはサクラの一太刀を受けて斬り捨てられる。直後に周囲を見渡したサクラは、ゼノグロシアンの3人がその場に接近してきていることに気づく。
 遠目にサクラたちの様子を見ていたらしいゼノグロシアンたちは、サクラに対し血眼の形相で迫ってくる。
「ヴィリスさんが充分離れるまでの間は、時間を稼がないとね」
 そう言って刀を構え、ゼノグロシアンらを迎え撃とうとするサクラは、一層冷徹な空気をまとった。

 6本足の巨大な獣の姿をさらしたワールドイーターは、4体の影の天使らと共に荒々しく攻めかかる。
 咆哮を発しながら突進するワールドイーターは、長椅子の列を突き飛ばして迫ってきた。その勢いによって吹き飛んできた椅子の残骸を、ミーナは一太刀で寸断してみせた。
 一気にワールドイーターへ迫ろうとするミーナは冴え渡る剣技を駆使し、次々と刃を翻す影の天使たちを圧倒する。トールは正面から挑むミーナに加勢しようと、炎の力を発揮する。トールの周囲を巡るように発現した炎の渦は、トールの意思によって自在に燃え広がる。その炎は対象を、天使たちだけを猛火によって焼き尽くそうと、教会の中を這い回った。
 一瞬天使たちの意識がトールの炎にそらされたことで、サンディはわずかな間に猛攻を開始する。風の力を引き出すサンディは、その手の平の中に凝縮された球状の旋風を操る。それを投げつけられたワールドイーターは、一瞬の内に宙へと回転する体を床へと叩きつけられた。自在に聖光の力を操るスティアも加わり、ワールドイーターらは瞬く閃光に翻弄される。
 攻勢を強め、勢いに乗ろうとするイレギュラーズを食い止めようと、ワールドイーターらも反撃の手を緩めない。ぎらついた獣の目を持つ漆黒の影そのもののワールドイーターは、不意に脚の内の1本をもぎ取った。その脚は鋭い投げ槍へと瞬時に形状を変え、イレギュラーズをどこまでも追尾する凶器となって放たれる。
「さあ、あなたたちの相手は私ですよ!」
 ミーナやサンディがワールドイーターに傾注できるように、トールは自ら進んで天使らを引きつける。放たれた槍は変則的な動きを見せ、トールの思惑を潰そうとするようにしつこく攻撃を繰り返した。トールを包囲しようとする天使らの動きにも屈することなく、トールは果敢に立ち回る。
 トールの敢然とした身のこなしには目を見張るものがあったが、消耗が激しくなることは避け難い。皆のサポートに従事するメイは治癒の魔力を発散させ、トールを始めとする者らの傷を癒していく。
 戦闘が激しさを増していく中、天使の内の1体はスティアが放った閃光によって消失した。その直後、サンディは言い知れない不穏な気配を感じ取る。それは確かな敵意であり、サンディの直感は多くのゼノグロシアンが教会に向かっていることを示していた。距離を詰めようとするワールドイーターをかわし、「こいつは大所帯だな……」とつぶやくサンディは、皆に警戒を促した。

 ――ワールドイーターがイレギュラーズに挑む少し前。
 赤ん坊のサラを抱え、西の住宅街を駆け抜けるヴィリスの姿があった。まだ乳飲み子に状況を理解させるのは到底不可能であり、サラは不安に駆られたように泣き出してしまう。その声を聞きつけたように、複数のゼノグロシアンがヴィリスの進路を塞ごうと迫ってくる。
 教会へと続く一本道で、ヴィリスを挟み撃ちにするように現れたゼノグロシアン。ヴィリスはサラの安全を考え、すり抜けるタイミングを窺っていたが、救い主となる予期せぬ存在が現れる。
 塀の影から飛び出したサタディ・ガスタは、背中を見せるゼノグロシアンらに二丁の銃口を向けた。それを見たヴィリスは、サラをかばうように反射的に家屋の壁際に体を寄せた。
 サタディ――アドラステイアのかつての聖銃士は、ゼノグロシアンらの脚を撃ち抜き、自らに注意を向けさせた。
「ローレットの人間か? とりあえず、細かいことはいいからはやく逃げな」
 サタディ自身のように、アドラステイアの子どもたちのように、犠牲になる子どもを出さないためにも――。そんな思いからか、サタディは偶然通りかかったこの地で、サラという泣き声の存在を気にかけていたようだ。
 ヴィリスはひとまず退避することを優先し、味方らしいサタディにゼノグロシアンの相手を託した。
 ヴィリスに同行していたトールのファミリアーは、建物の間や屋根の上を進んで先行する。トールは子猫のファミリアーを通して、ヴィリスの進路上に集まるゼノグロシアンらの姿を確認した。同様に小型犬のファミリアーを操り、偵察に向かわせていたメイにもトールは協力を求めた。
 トールはある仮説を実証しようと、ファミリアーにある行動を取らせた。子猫は路地の一角に生えているキャベツのところまで向かうと、キャベツに爪を立てて爪とぎを始める。メイのファミリアーも、前足などで噴水広場にあるキャベツを傷つけ始めた。それに気づいた各所のゼノグロシアンは怒号を響かせ、ファミリアーを捕まえようと群がってくる。ヴィリスの進路上にいたゼノグロシアンも、キャベツの損壊に引き寄せられるように路地から外れていく。

 トールやメイがファミリアーを通して働きかけたことによって、
教会に向かっていたゼノグロシアンたちの多くが進路を変える結果となった。
 ゼノグロシアンが教会に殺到する事態は避けられたが、十数人が向かってくる姿をマリエッタは認めた。教会の前で警戒を続けていたマリエッタは、群がる敵を一掃しようと身構える。鬼のような形相を見せるゼノグロシアンは、一心不乱にマリエッタの下に突撃していく。
 マリエッタの指先から滴り落ちた一筋の鮮血は、分裂を繰り返して増殖するように瞬時に変化し、無数の刃となってゼノグロシアンを貫いた。全身が針山と化した状態で倒れ込む1人目を見届け、マリエッタは容赦ない攻勢で迎撃を続けた。
 教会の外にも集中するゼノグロシアンの金切り声に気づいたスティアは、マリエッタに加勢しようと動き出す。スティアがマリエッタの下に駆けつけたとき、マリエッタの前にはすでに2人目のゼノグロシアンが倒れ伏していた。
 ゼノグロシアンらの周囲に自在に砂嵐を発生させるマリエッタの攻撃に合わせ、スティアも攻撃を畳みかけた。前触れもなく発生した無数の炎の花びらが、スティアを中心にして舞い上がる。燃え盛る花吹雪は3人目のゼノグロシアンを覆い尽くし、その姿は炎の渦の向こうにかき消えた。
 教会前でしばらくゼノグロシアンらの相手をしていたスティアとマリエッタは、赤ん坊の泣き声を耳にする。甲高い泣き声――サラの声は、ゼノグロシアンらの注意も引きつけた。
 未だ泣き止まないサラを抱えたヴィリスが教会前にたどり着くと、ゼノグロシアンらの視線がヴィリスへと集まった。ゼノグロシアンの1人がヴィリスを指差し、何事かを非難するような言葉と共にヴィリスをにらむ。
 ヴィリスとの距離を縮めようとするゼノグロシアンだったが、スティアとマリエッタはサラの安全を確保しようと、ゼノグロシアンの一掃に注力する。
「もう泣かなくていいわ。絶対にあなたはここから連れて行ってあげるから」
 ヴィリスはそうサラに声を掛けたが、ワールドイーターが教会の窓を突き破る轟音が響き渡り、サラはますます泣き叫ぶ。すると、そこへ丁度ゼノグロシアンを巻いて追いついたサクラも姿を見せた。ヴィリスは流れるような身のこなしでサクラにサラを預けると、教会から這い出て来たワールドイーター諸共ゼノグロシアンを葬ろうと立ち向かう。
 刃と一体化した義足を巧みに扱うヴィリスは、踊るように華麗なターンを見せつける。義足によってゼノグロシアンを切り裂くと共に、ヴィリスは呪力を帯びた波動を発生させた。
 ヴィリスからの影響を受けて、ワールドイーターの動きは鈍る。今まで皆の攻撃を後押しするために治療に専念していたメイも、「絶対に、赤ちゃんは守ります!」と宣言し、ワールドイーターへ攻撃を畳みかける。閃光を放つメイの攻撃に乗じて、サンディとミーナは怒涛の攻撃を繰り出す。怯んだ状態に付け込まれたことで、ワールドイーターは無防備な状態を2人の前にさらした。
 疾風を操るサンディによって、ワールドイーターはその体を浮かせるほどの衝撃を叩き込まれる。即座に追撃の構えを見せたミーナは、ワールドイーターの懐に飛び込み剣を突き立てた。その瞬間、ワールドイーターの絶叫と共に、皆の視界は白黒に明滅する。苦痛に悶えるように身を仰け反らせたワールドイーターは、激しい明滅と共に消失した。
 元に戻った視界は、街がワールドイーターの支配から解き放たれたことを意味しているように思えた。現にゼノグロシアンや不気味なキャベツの存在は、もうどこにも見当たらない。サクラの腕の中で泣くサラの声だけが、変わらず響いていた。
 なかなか泣き止む気配がないサラに対し、サクラは焦りを募らせる。その様子を見兼ねたミーナは、サクラからサラを預かる。
 ミーナが慈愛に満ちた歌声を披露すると、ミーナの腕の中で揺られるサラは、その歌声に耳を傾けるように泣き止んだ。ミーナは自身を取り巻く視線に気づいたようで、「これでも何百年か昔には、孫くらいまではいたんだよ」と幼い10代の見た目らしからぬ貫禄を感じさせた。
 イレギュラーズの活躍により、閑静な街の姿と幼い命は取り戻された。

成否

成功

MVP

トール=アシェンプテル(p3p010816)
男の矜持

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。保護された赤ん坊は、無事両親の下に帰ることができました。

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