シナリオ詳細
<被象の正義>黒大陽と腐り堕ちた鉄心
オープニング
●聖女と連続殺人鬼
「ふんふんふ~ん♪」
オルタンシアは軽やかなる足取りで町の中を歩いていた。
そのまま路地裏へと入り、路地裏の奥、闇に向けて愛らしく微笑する。
「そろそろ出てきていただけないかしら? か弱い乙女にストーキングだなんて、良くないわ!」
刹那、影の方からオルタンシアの首元へと刃が伸びた。
「初めましてよね、この物騒な物を下ろしてくれない?」
「黙れ。貴様が例の――遂行者という連中の1人だな」
「あはっ♪ 聞いてどうするのかしら? 私を殺すの?
たしかもう、封魔忍軍ではないのでしょう?
フリーになって、ただの暗殺者――いいえ、ただの殺人鬼でしかない貴方は!
まあ、そんなことだから傲慢の魔種になるのだけれど!」
優雅に楽しそうに挑発が響く。
「――黙れ、貴様」
「まぁ! それしか言えないのかしら! ふふ、でも――だぁめ。
貴方はもう出番じゃないのよ、エルヴィツィオ様。
私、意外と貴方の事が嫌いなのよね――だから、駄目よ?」
そう言った刹那、オルタンシアが嫣然と笑った。
「私を、捕まえてみせて? そしたら考えてあげるわ♪」
オルタンシアがカツと足元を鳴らせば爆炎が炸裂、彼女の姿はその場から消えた。
「くっ――! 貴様ッ!!」
エルヴィツィオは顔を上げ空へ――建物の屋上へ視線を向けて苛立ちを見せれば。
「あはっ♪ さぁ、帳を下ろしましょう、ワールドイーター!
舞踏会の始まりと行きましょうか♪」
どこまでも楽しそうに笑ったオルタンシアの声が響き渡り、その町へと侵食が始まった。
●
「シンシアさん、まだ貴方の意見を聞いてませんでしたね」
とある天義の町にて小金井・正純(p3p008000)はアメジストの少女へとそう問いかける。
「私の意見ですか?」
「ええ、シンシアさんは預言についてどう思われたのです?」
アドラステイア。天義への不信から成り立った都市国家。
シンシアはその場所で聖銃士を務め、紆余曲折を経てイレギュラーズとなってローレットに属した。
そんな彼女が今、どう思っているのだろうか――と。
「私には、到底受け入れられません」
そういう少女の声色は思いのほか真っすぐだ。
「それはまた、どうして?」
「あの預言の通りの世界にアドラステイアは無くとも、あそこであったことは起きていたと思うのです。
例え私が肯定されるのだとしても、そんなお話、私には受け入れるなんてできません」
静かに『異言都市(リンバス・シティ)』の方角へ視線を投げかけた少女に正純は頷き、同じように視線を向けた――その時だった。
空を影が包み、空に黒き星が輝いた。
影で出来たそれは黒く汚染された太陽のようにみえ、それは雫をこぶす。
大地へと触れたそれは燃え広がるとも違う、言うならば紙へと墨汁を落としたように染み広がっていく。
どろりと零れ落ちた雫の幾つかはその姿を影の天使へと変質させた。
「くそ、こんな時にワールドイーターによる世界浸食かよ!」
空に浮かぶ黒太陽へ声を荒げてたのはジェイク・夜乃(p3p001103)だ。
●
ただでさえ揺れている天義。
そんな中、ここ数ヶ月に亘って巷を騒がせる『連続殺人犯』の話がある。
影から姿を現し、直刀と何らかの魔術によって対象を殺す男。
犯人の動きや技から、その男をジェイクは以前に取り逃がした魔種、エルヴィツィオと読んでいた。
紛いなりにも『国をよくするため』に暗殺者として行動していた男だったが、今や『ただの連続殺人犯』に過ぎない。
(奴の行動は見境が無くなってる……)
「た、助けてっ! だ、誰か! か、刀を持った人に襲われて! ほ、ほらあの人です!」
その言葉にジェイクが顔を上げれば、そこには見覚えのある男――そしてその更に向こう側には影で出来た天使が見えた。
影の天使たちは一斉に影の槍を投擲、それらは真っすぐに男へと向かっていく。
「エルヴィツィオ!」
ジェイクはその男の名をあげ――ふと違和感を覚えた。
「……ローレットか。いますぐそこをどけ。
さもなくば貴様らごと――ちぃ、目障りな飛行種モドキの影が!」
降り注いだ影の槍を跳躍で躱したエルヴィツィオが舌打ちする。
(なんだ、あの動き……まるでエルヴィツィオからこの女性を庇うみたいな……)
その答えは、直ぐだ。
「――あはっ♪ ローレットの方って素晴らしいわ。
私みたいな『遂行者』も助けてくれるなんて、素敵だわ。
今日はお別れだけれど、また会いましょうね?」
耳元で囁くような声がして――刹那の内に気配が消える。
「邪魔立てするのなら貴様らを磨り潰し、その後であの女を追う。
覚悟は良いな? 我は形振りなど構わん」
ジェイクの宣言にエルヴィツィオが殺気を露わにする。
「……あの日、言ったことは覚えていますか」
正純は弓を構えた。
「貴方は確かにこう言った。『恨むなら我らにせよ』と。
――えぇ、恨みます。私がお前を」
合わせ、胡乱な狂気が正純を向いた。
- <被象の正義>黒大陽と腐り堕ちた鉄心完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月17日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
黒太陽より零れ堕ちた雫は世界を侵す。
熱を持たぬ、けれどそこにある黒炎は少しずつ世界を侵している。
「な、なんだ何が起こってるんだよ!」
「天罰だとでもいうの!? そんな、そんなはずはないわ!」
空に浮かぶ異変に人々が混乱を口にし始め――どこからか意図の解せぬ言葉が聞こえ始める。
「やっと、見つけたぜ……エルヴィツィオ。俺はこの日をどんなに待ちわびたことか……な」
愛銃を抜き放ち臨戦態勢の『荒くれ共の統率者』ジェイク・夜乃(p3p001103)は鋭い視線のままに魔種を見る。
「――とはいえ、この状況はちとまずすぎるか。ふ~……はー……」
銃口を魔種から少しだけ降ろして、深呼吸を繰り返す。
(ああ、分かってる。私情は後回しだ……)
仕事と切り替えるように、意識的に太陽を見上げた。
太陽を落とす――そう宣言するように、真っすぐに銃口を『それ』へ。
「えぇ……本当はここで今すぐ倒してしまいたいところですが、貴方の相手は後回しです」
ジェイクに頷くのはエルヴィツィオから視線を向けられる『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)だ。
(エルヴィツィオ、今はただ、その狂った正義が共通の敵に向いているだけ。
罪のない人達に、あの時のように子供たちに向かないとも限らない)
弓を手に、正純もまた一つ深呼吸して。
「シンシアさんにはゼノグラシアンを抑えていただけますか?」
「はい……出来る限りの人に明日が望めるように頑張ります」
真剣な瞳でシンシアが頷く。
「では行きましょう!」
まだ正気の住民には避難を呼びかけながら正純は射程圏内まで駆け抜ける。
「……おお、空が面妖な事に。
実は何が何やらよく分かっていないのですが、アレがよくないモノなのは分かりました」
空に浮かぶ黒太陽を見上げ『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)はそういうものだ。
「住民の皆さんの迷惑にもなりますし、早急に破壊してしまいましょうか。
シンシア殿、今回も抑えの方、ありがとうございます。お気をつけて!」
「はいっ! 迅さんも、お気をつけて!」
シンシアが言うのに頷いて迅は爆発的な速度で飛び出した。
空に浮かぶ黒き大陽めがけて身を跳ね上げれば、そのまま拳打を叩きつける。
どろりとした何かが全身を侵すような感覚を受けながらも拳は確かに『何か』に当たった感覚がある。
(黒い太陽……なんだか不吉な様子だけどすぐに堕としてやるんだ、関係ないさな)
黒太陽を見上げていた『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は愛刀を抜きながら思う。
「太陽が墜ちるとこなんて滅多に見られないからわくわくしちゃうね」
「そうです、ね。あまりに見たくはないですが……」
シキの言う言葉にシンシアが驚きつつも小さく笑う。
「シンシアも無理をしすぎないようにね」
「はい、黒太陽はお任せします!」
そういう少女に頷いて、シキは一気に駆けだした。
「あいつ、ボク達に敵押し付けてちゃっかり逃げるなんて、ふざけてるよねー! いつか絶対とっちめてやるんだから!」
既に行方をくらました遂行者の事を振り返り『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)に視線と共に声をかければ。
「そうね……あちらも気になるけど、まずはあの忍者崩れ」
ヒィロに応じた美咲は胡乱な瞳を向ける魔種へ視線を向ける。
「大雑把な事情は聞いたけど……無様ね」
「……それは我に対する妄言か?」
「えぇ、そうよ。狂気という都合の良い言い訳を振りかざした八つ当たりは楽しい?」
ひたと見据えた美咲の魔眼がエルヴィツィオの瞳とかち合った。
「やっちゃお、美咲さん!」
刹那、ヒィロがその身に神秘を遮断する結界を張り巡らせれば。
「油断はできないわ、気を付けて――」
「もちろん! それにこそこそと弱者の戦いしかできない魔種になんか負けるもんか!」
ヒィロの挑発に合わせ、美咲は美しき虹色の輝きでもって魔種を見る。
「――見敵必滅、斬り伏せてくれる」
「下手なことはさせない」
エルヴィツィオの鋭い殺意がヒィロに向けられた刹那、美咲は魔眼に映る柔らかく悍ましき『いのちのかたち』を斬りつける。
「大仕事になりそうですねぇ」
仲間達を見やり、『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は呟けばその視線を影の天使たちへと向ける。
既に心惹かれる甘い香りに気付いたらしい影の天使たちが一斉にベークに近づきつつあった。
「さて僕一人でどこまでやれますかね……」
影で出来た槍がベークめがけて落ちて行く。
「あらあら、オルタンシアおねーさんとは行き違いになっちゃったかしら? ざーんねん」
散り付く炎の残り火を感じ取る『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が一息ついて視線を空に。
「黒い太陽、禍々しくて綺麗ね」
その背に炎の翼を抱きフルールは舞い上がる。
天に向かい舞い上がったフルールは気づけば黒太陽よりも高く飛んでいた。
「空に浮かんでいるように見えたのだけど……」
炎の槍を振り落としながら首を傾げた。
●
黒太陽は空に輝いている。
銛のような形状をした黒炎がイレギュラーズの攻勢への反撃とばかりに襲い掛かってくる。
広範囲を焼き払う黒炎は強かに戦場を侵していく。
戦線を引っ張る迅は圧倒的な速度と手数を以って散り付く黒炎を受け止めなお拳を叩きつける。
全身にこびり付く炎に熱はなく、寧ろ足止めでも狙っているかのようだった。
「面妖な攻撃ですが……こんなものでは僕を止めることはできません!」
一歩踏み込んで、跳ねるように打ち出す拳は空へと駆け抜けて黒太陽を撃ち抜いていく。
「巨大な黒い太陽、不気味極まりない。星の一撃を持って、その邪悪を払います」
宣誓と共に正純は弓を引く。
流星を抱き、空へと向けて引き絞れば、一条の星が空に瞬いた。
モザイクを斬り裂くように駆ける流星が黒太陽の更に上へ。
瞬く輝きが炸裂し、今度は一斉に降り注いでいく。
「ここだ! ぶち抜いてやる!」
ジェイクは二丁の愛銃に籠められた弾丸を一斉にばらまいた。
二匹の狼が獲物を目指して戦場を駆け巡る。
跳ねまわり食らいつくす弾丸は獲物を見定め食らいつくす狼のよう。
それは黒太陽のみならず、影の天使たちを、エルヴィツィオさえも巻き込んで死の演奏を描く。
影の天使たちが怯んだように身動きを止めた。
「――見えた! さあ、くらいつくせ! 黒顎魔王!」
シキは連撃の終わりに瑞刀を振り払う。
渾身の魔力を込めた斬撃は戦場を駆け抜けて黒太陽へと飛翔する。
美しき斬撃は膨張し、顎を思わせる形状を取っていく。
それは宛ら獲物を丸呑みにする獣の如く、斬撃が黒太陽を包み込む。
「ただ炎を垂れ流すだけなら、脅威ではないですが……オルタンシアおねーさんが足止めとして置いていくだけあって、やはり相応の能力はあるようね」
フルールは黒太陽の反撃に頷いてみせる。
「ますます落としたいわ……」
黒太陽の様子を確かめながら、フルールはその手に炎を集めて行く。
美しき真の焔は静かに揺らめき、苛烈なる蒼を抱く。
肉薄して叩きつけた焔は黒炎と絡み合い、やがて塗り替えるように燃え盛る。
「この程度でボクを捕まえられるわけないよ!
美咲さんの索敵とボクの守り……独りで狂気と魔に堕ちたお前に崩せるものか!」
エルヴィツィオの放った忍刀を星天ではじき返し、そのまま軽やかに躱して見せたヒィロが挑発すれば。
「そこまでいうのなら――試してみるか、狐娘」
正気を失った魔種の瞳がヒィロを見据えている。
「私たちも遂行者もその先も殺して……貴方はどこへ行くの?」
美咲は問う。
(正気での論理が破綻したからこその狂気なら、それを解体して自己矛盾を再認識させてやる)
エルヴィツィオから刹那の隙を探るべく真っすぐに見据えた魔眼に映るのは揺るがぬ傲慢。
「寝ぼけたことを。その時は我を殺すのみ。それこそが影よ」
「そんなもの、自己満足でしかない。そのために何人を犠牲にするの?」
「――仕方のないことだ。結局、戦争とはそういうことだ」
傲慢なる男は全くの揺るぎもせずそう返す。
「あいかわらず何を言ってるのかよくわかりませんね……」
影の天使たちと一緒に釣り出されたゼノグラシアンの言葉を聞き流しながらベークはぽつりと呟く。
「ところで……貴方達は言葉通じるんですか?」
そのまま視線をあげて、影の天使へと問いかければ――返事はない。
振り下ろされた影の槍を受け止めれば微かに焼けるような熱を感じた。
(うーん。皆さんがワールドイーターを突破するくらいの時間はせめて稼ぎたいところですね……)
銃弾により身動きが取れなくなっている影の天使が2体いるのを見ながらもベークはぼんやりと考えていた。
●
ヒィロと美咲の2人は魔種との対峙を続けている。
2人の連携の下に高い反応速度で繰り出す連携はやはり一級品だった。
「多くの人を巻き込むことも辞さないのなら、ここで殺すわ――顛朦界壊」
美咲が虹色の瞳で覗くは見えざるもの。握りしめた包丁でエルヴィツィオの周囲に遍在する数多の事象を切り刻む。
世界へと齎された極小の傷痕が刃となって魔種へと注ぎ込まれていく。
「敵ながら素晴らしい連携だ――狐娘、約束通り見せてやる」
そう言うや、魔種は一気に後退して影の中に消えていく。
「……美咲さん、何処か分かる?」
ヒィロは小さく美咲へと問いかければ、否定の意思が感じ取れる。
(ボクは大丈夫だけど、美咲さんが狙われると困る!)
そう思ったその時、首筋辺りにちりりとした感覚。
身体を無理矢理に横へと傾け、前に向けて跳躍した刹那、地面に突き刺さった苦無が1本。
瞬きの刹那、ナイフがある場所にエルヴィツィオがいた。
「――! 美咲さん! 避けて!!」
ヒィロが思わず叫ぶのと同時、魔種が苦無を投擲する。
鋭く伸びた切っ先が美咲の魔眼めがけて飛翔すれば、ぎりぎりで躱し――けれど頬に線が走る。
「この程度では終わらせん――」
明確なる敵意は2人へと向いていた。
混乱が混乱を呼び、狂気が狂気を呼ぶ。
異言を口にし始めたゼノグラシアン達は戦場に確実に増えていきつつあった。
それらの多くはシンシアの方へと引き寄せられていくが、それだけでは対処しきれまい。
「あちらはあちらで大変そうですね……」
そんな様子を眺めながら、ベークは自らの再生力を更に強化していく。
一方、目の前にいる5体の影の天使たちはベークに向けて影の槍を振り下ろしてくる。
叩きつけられる猛攻の多くはベーク・シー・ドリームの真骨頂たるその再生力でもって受け止めきれている。
同時、その有様に影の天使たちも警戒しているような雰囲気もあった。
「任せてくれ!」
ジェイクはそれを見るや愛銃に弾丸を籠めた。
空に向けて放たれた弾丸は放物線を描いて飛翔し炸裂する。
炸裂した弾丸の中から現れた投網がゼノグラシアン達の真上からのしかかっていく。
電流の流れる網が音を立て、ゼノグラシアン達の身動きを妨げて行く。
「半分くらい受け持つよ」
シキはシンシアへと声をかければ。
「ありがとうございます……!」
襲い掛かってくるゼノグラシアンを受け流しながら少女が安堵の息を漏らす。
「そういうことだから、私が相手だ!」
ガンブレード・レインメーカーの振動音を意図的に鳴らして注意を惹きつければ、迫ってきた1人目めがけて瑞刀を振り下ろす。
峰打ちの斬撃が強かに1人目を突き崩した。
黒炎を吹く太陽がもつ炎は精神を侵し、迫るものの足を止めるものか。
圧倒的な速度で駆ける迅にそのどちらも意味などなさぬ。
「あまり時間は掛けられませんね! 皆さん、行きましょう!」
その様子を横目見た迅は一気に速度を跳ね上げる。
限界点を越えて放たれる拳は壮絶極まる一撃となり空を描く。
叩きつける拳を2度、壮絶たる連撃に黒太陽に『罅』が入る。
「どうやら確実に削れているようですが……」
正純はその様子を訝しみつつも矢を引き絞った。
瞬く星の光が戦場を駆け抜ける。
入りつつある罅を更に押し開き、追撃の魔弾は再び混沌の泥を黒太陽に叩きこんでいく。
「……この程度で終わりなのね」
フルールはその眼に罅の入った黒太陽を見据えて小さく呟き、全身の焔の出力をあげて行く。
一斉に放たれた紅の蕀が黒太陽へと絡みつき締め上げて行く。
続けざまに打ち出された鮮やかにして苛烈なる真の焔が罅に叩きつけられれば――パリィンと硝子でも砕けるような音がした。
●
黒き太陽がほころびを見せた。
罅が入り硝子が割れるような音と共に砕け散った。
それと同時に世界がこちら側に戻ってくる。
「……これは」
エルヴィツィオが周囲を見渡して、忌々し気に舌打ちする。
「太陽は落ちました。エルヴィツィオおにーさんはオルタンシアおねーさんを追いたいのでしょう?
オルタンシアおねーさんに会ったらよろしく伝えてくださいね?」
「此度は貴様らに礼を言うべきだな。
――これであの女を追うことができる。邪魔はしてくれるなよ」
フルールが言えば、エルヴィツィオがそう言って忍刀を鞘に納めた。
「エルヴィツィオ、今回は見逃さざる負えません。
ですがいつか、貴方の妄執は正義ではないと突きつけましょう」
言いつつ、正純は影の天使たちへと魔弾を撃ち込んだ。
凶兆の星の下に天命は穢れていく。
「次にあった時は奴の頭に鉛弾を撃ち込んでやる。だがその前にお前らだ!」
続けたジェイクもまた銃声を戦場に轟かせた。
非情にして大胆なる獣の蹂躙が戦場を駆け巡って影の天使たちを撃ち抜いていく。
(彼も彼なりの信念がまだ残っているのだろうか……)
魔種の駆け抜けて行った先を顧みたシキは静かに思う。
(遂行者のこともまだよくわからないし追ってみようか……その前にまずは)
再び振り返り、向かう先は影の天使たち。
それらはエルヴィツィオを追わんとでもするかのように動き出す。
「思っていた通り、大変な仕事になりましたね……もうひと踏ん張りしましょうか」
影の天使の槍を受け止めていたベークは一つ呼吸を入れた。
全身に刻まれた傷の幾つかは既に再生を終えている。
それでも4対1では最後に受ける痛撃はいかんともしがたい部分があり――そう言った傷を一気に修復していった。
改めて慄く影の天使との戦いは――最早、相手にもなるまい。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
忍者からただの殺人鬼に堕ちてしまった男を殺してあげましょう。
●オーダー
【1】ワールドイーターの撃破
【2】エルヴィツィオの撃退
●フィールドデータ
天義に存在するとある町。
ワールドイーターによる浸食が始まったことで異常な空間と普通な白亜の都市が交じり合った姿をしています。
その中でも特徴的なのは空にある黒い太陽ないし真っ黒な穴でしょう。
真っ黒な炎を零れ落として徐々に浸食しているようです。
突如として町の住民たちは混乱をきたしています。
空に穴ないし黒い太陽が浮かび、そこから炎が零れ落ちるという状況を考えれば仕方ない事といえましょう。
混乱はやがて狂気を呼び、『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』が加速度的に増えていきます。
●エネミーデータ
・『夜の運び屋』エルヴィツィオ
封魔忍軍の部隊長だった魔種。傲慢の気配を持つ胡乱な男。
澱んだ瞳とロウライトへの強烈な忠誠心を抱いた狂人――でした。
どうやら封魔忍軍から離れフリーの暗殺者になり、世を騒がせる『遂行者』の存在を追跡していたようです。
狂気が進行したのか帰属組織への忠誠心は薄れ、『国のための掃除と銘打ち殺人を繰り返すシリアルキラー』でしかありません。
既に皆さんを敵と見定めております。
ワールドイーターを破壊すると現場を離脱、再びオルタンシアの追撃を試みます。
武器は暗器類と徒手に加え、何らかの忍術(神秘攻撃)を行ないます。
隠密、暗殺に活用できる非戦スキルのエキスパートです。
忍びという立場から想像しやすい手数や敏捷性に長けたタイプ。
また、奇襲攻撃時に能力が上昇する特徴があります。
姿を見失うと危険です。
暗器類は【毒】系列、【痺れ】系列、【麻痺】などのBSを起こします。
また、片刃の忍刀を振るう攻撃には【邪道】、【弱点】の効果を持ちます。
・ワールドイーター〔黒太陽〕
モザイク空間の空に浮かぶ黒い太陽ないし真っ黒な穴とでもいうべきもの。
零れ落ちる炎が燃え広がるように世界を侵食していきます。
今回の空間の核、攻撃することで破壊できます。
太陽ということで天高くに存在しているように見えますが、ぶん殴れば近接攻撃も当たります。
それもまた、ROOでのバグを思わせます。
・影の天使×6
ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士にも似た存在。
この個体も『影で出来た天使』の姿をして居ます。
ベアトリーチェの断片ではないため不滅でもなく、倒す事で消滅をするようです。
オープニング中はオルタンシアをエルヴィツィオから守るような動きを見せていました。
リプレイ開始後はイレギュラーズへと攻めかかってきます。
影で出来た槍を携えており、それを分裂させて振り下ろす中~遠距離範囲攻撃を行います。
もちろん、近づけば普通に槍を近接武器として交戦してきます。
炎の要素でもあるのか【火炎】系列のBSを扱う他、範囲攻撃は【足止め】系列の効果も持ちます。
・『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』×???
狂気に陥り『異言(ゼノグロシア)』を離すようになってしまった町の人々。
皆さんやエルヴィツィオを敵と判断して攻撃してきます。
戦場の性質上、長引けば長引くほど増えて行くでしょう。
不殺属性の攻撃で正気に戻すことができます。
皆さんはともかく、魔種であるエルヴィツィオは邪魔だと判断すれば容赦なく殺すでしょう。
放っておくのは難しいかもしれません。
●友軍データ
・『紫水の誠剣』シンシア
アドラステイアの聖銃士を出身とするイレギュラーズです。
皆さんより若干ながら力量不足ではありますが、戦力としては充分信頼できます。
怒り付与が可能な反タンク、抵抗型or防技型へスイッチできます。
上手く使ってあげましょう。
●NPCデータ
・『熾燎の聖女』オルタンシア
遂行者の1人。
皆さんにエルヴィツィオを押し付けて既に行方を眩ませました。
リプレイでは遭遇しません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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