シナリオ詳細
<被象の正義>白騎士は断頭台に酔う
オープニング
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「はむっ……はむっ……ん~美味し♪
こういう物を作るのはこっちの方が優秀って認めるしかないわ」
モンブランをぺろりと食べ終え、ほぅ、と白装の美女が一息を吐いた。
彼女はポケットからハンカチを取り出そうとして、そのまま取りこぼす。
「……失礼、ご婦人。落とされたようですよ」
そこへ颯爽と現れた紳士は美女のハンカチを拾い上げて彼女へと差し出した。
「あら、ごめんなさい、紳士的な方なのね♪」
美女は笑みを零し受け取ってみせる。
「……もしお時間があればご一緒できないでしょうか」
そう告げる紳士の手には既婚を示す指輪が光っている。
「――オルタンシア、貴様は何をしている」
そう声をかけたのは白装の偉丈夫だった。
「あら、異端審問官様。どうかしたのかしら?」
「――異端審問官!?」
その言葉に男性が驚いた様子を見せた。
いや、どちらかというと焦っている――という方が正しそうか。
「ふふ、ごめんなさいね、紳士様。
そういうことだから、ここで失礼するわね?」
そっと立ち上がり、美女――オルタンシアが歩き出す。
「さあ、ディオニージ様。行きましょうか」
そんなオルタンシアに合わせて偉丈夫――ディオニージも歩き出す。
呆然とした様子の紳士を置き去りにしばらく歩いてから、オルタンシアは愛おしそうに微笑を零す。
「あーあ、聖女に対するアプローチとしては最低ね。しかも既婚者が! 気持ち悪いったらないわ」
そのまま紳士から受け取ったハンカチを投げ捨てるように手放した。
刹那、ハンカチは自ずから火を吹き、あっという間に燃え尽きる。
「ところで、異端審問官様? もうそろそろ貴方も始めたら?」
「……ふん、分かっている。お前に言われずともな」
「あはっ♪ 分かってるのならいいのよ♪
貴方が『遂行者』になれたのも私のおかげなのだから、あまり私を退屈させないでほしいわ?」
足取り軽やかに数歩前に出たオルタンシアは、くるりと身を翻して満面の笑みを浮かべた。
●
『もう一つの聖都』と呼ばれるほど巨大で栄えていた都市『テセラ・ニバス』が『異言都市(リンバス・シティ)』と呼ばれ始めてしばらくの時間が経っている。
元来もう一つの聖都とまで謳われるだけあり、その内部は無数と言っても過言ではないほど多数の街区で区切られていた。
1つ1つ様々に変容してしまった無数の街区は変質の『核』ともいえる存在、ワールドイーターが存在していた。
その日、イレギュラーズが訪れた街区は――さながら巨大な処刑場のようだった。
街区の中央に存在する処刑台には、断頭台が天を衝くほど高くそびえている。
処刑台の周囲は騎士の形をした影が四方を固めている。
断頭台を中心に旋回しながら揺蕩う4体の影は大鎌を携え、さながら死神のようだ。
「みなさんあれを……『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』が列になって処刑台に向かって行ってます」
シンシアの言葉にそちらを向けば、列を為して進む『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』は祈るように、あるいは項垂れるように頭を垂れている。
ゆっくり進む足取りは重く、紡がれる異言はその意を知れずとも死を前にして『神へと祈っているよう』に感じられた。
階段を上り、処刑台の中央まで歩いた1人が跪く。
刹那、それまで揺蕩うだけだった死神が一斉に『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』へ飛び掛かっていく。
「――まぁ、待て。執行者よ。その者らよりも罪深い、真に断罪されるべき者共のお出ましだ」
制止の声は断頭台の傍らに立つ男の発したもの。
全身を白装の騎士衣装に身を包む男――その威圧感は尋常の人間のそれではない。
「我が名はディオニージ・コンティノーヴィス。
あるべき天義の光の下、あらゆる不正義を斬り落とさす者だ」
その手に握られた剣は――俗にエクセキューショナーズソードと呼ばれるモノ。
処刑人がその職務を全うするために振るう物だ。
「この街区を解放したいか? であれば、これを壊すがいい。
天を衝く我が断頭台は、お前たちの首を待っているぞ」
そっと隣にある処刑台に触れたディオニージより溢れだす威圧感は間違いなく魔種のそれ。
――どうやら、処刑台(ワールドイーター)を壊すためにもディオニージを退かせる必要がありそうだ。
「さて――真の歴史が為、その命を散らす覚悟は良いか」
ディオニージが静かにそう告げた瞬間、処刑台の四方を固めていた影の騎士たちが動き出した。
- <被象の正義>白騎士は断頭台に酔う完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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悠と立つ魔種は傲慢の在り方か。
空を見やれば天を衝く断頭台、白刃が陽光の輝きを映している。
死線を下げた先、少しばかりの春模様を感じさせる暖かさとは相反する冷たい戦場に処刑人は立っている。
「――罪人たちよ、天に祈るがいい。己の罪を反芻し、繰り返し問い続けよ。自らの生は間違っていたのかと」
ディオニージが言えば、それまで少しずつ歩みを進めていたゼノグラシアン達が一斉に跪いた。
祈るように膝を屈し一心不乱に何かを呟けば、意図を解さずとも救いを願う祈りの類だろうと推測できる。
「人道的・博愛主義的であっても聖性というものに疑問を得ることがありますのに。
居丈高に処刑台なぞ掲げられて……鉄帝の強者至上主義もかくや、ですね」
眉を顰めるのは『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)だ。
そのまま手を払い、構築し終えた藤桜剣が血色の斬光を刻む。
「行こう、珠緒さん! ボクが引きつけるよ!」
それに続く『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は空より飛来する執行者たちに視線を向けた。
冷たい戦場に咲き誇る満開の桜、幻影の桜吹雪が吹きつけた。
人々を魅了し、惑わす美しき淡紅の桜花に魅了されたのは執行者は止まることなく蛍へ鎌を振り下ろす。
蛍はそれを剣で弾きながら前を向いた。
『――――! ――――! ――!!!!』
同時、周囲から聞こえてきたのは意味の判別できぬ声。
けれどそれはどこか『制止』を思わせる色がある。
「酷いものだ。まるで悪夢の中に迷い込んだ様な光景だな……」
バンダナの下、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)の視線が鋭く断頭台に立つ男を見やる。
「そうだね。……いくつかリンバス・シティを見てきたけれど、ここは特に悪趣味な世界観だよ」
そんなルーキスへと応じつつ『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)も視線を男に向けた。
「ここまで濃密な死の気配をさせているのはキミの趣向かなディオニージ殿」
「――なに、そう言うわけでもない。元より此処は罪人に死を与える場だ」
ヴェルグリーズの問いに、処刑人の返答は静かなものだ。
「これは……間に合ったの? それとも、途中なの?」
「――はっ、貴様ら含め、我が断頭台の求める首に過ぎん。即ち、途中ということになろうな」
そう思わず声に漏らす『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)へ、処刑人は静かに告げる。
「『首を待っている』だと? 笑止。
貴様に差し出すほどこの首は安く無い。欲しければ力づくで奪ってみろ!」
近づいてくる執行者へ愛刀を斬り結び、そう声をあげれば。
「――罪深いな、度し難いほどに」
断頭台の前に立ち、こちらを見据えるディオニージの純黒の瞳には感情の類が感じ取れない。
「ふん、お前らの勝手な定義で断罪されるなんてお断りだね。
お前がお前の正義を語るなら、俺も俺の正義を執行させてもらう」
応じるように『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)も言えば、ディオニージはアルヴァを見た。
(異様な、光景。嫌な感じが……します。
早々に、どうにかしないと……あの、断頭台を)
既に流れの出来つつある状況を見据え、『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)は走り出す。
一歩目の踏み込みの刹那、二歩目を踏み頃には1人の騎士の眼前に立っていた。
雷撃を纏う義足をもってその騎士を思いっきり蹴り飛ばす。
「命を散らす覚悟? クソ喰らえだな。
私は何時だって、『生き抜き、生かす覚悟』を貫くと決めている。
さぁ、行くぞ。今から、貴様という悪性を切除する――!」
「意気がいい。ならばこちらも貴様らという癌細胞を切除させてもらおう」
踏み込む『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の髪が霊気を帯びて風に踊る。
静かにそびえる断頭台への最短ルートを導き出せば、撃ち払った斬撃が戦場を奔る。
●
速度で先手を取ったイレギュラーズは騎士と執行者、注意を惹かれたように動き出してしまった極数名のゼノグラシアンを相手取りながら戦場を奔り続ける。
「――健気なものだな。目障りな罪人など磨り潰して進めばよかろう……
いや、そう言うところが貴様らの貴様らたる由縁か」
その様を見て、魔種はそう笑っている。
「シンシア殿、よろしく頼むわね」
「――は、はい、お任せください!」
レイリーが言えば、ディオニージを見上げて険しい顔を浮かべていたシンシアは我に返ったようにこくりと頷く。
その言葉を聞き、レイリーは走る。
「ヴァイスドラッヘ! 只今参上! 無罪の人々への執行を止めに来たわ。
いくらでもかかってきなさい!」
「無罪、無罪か――笑わせる」
影の騎士や執行者たちの只中に颯爽と走り込んだレイリーが言えばディオニージから冷たい声が返ってくる。
「クソ異端審問官が、そんなに断罪がお好きか?」
続くアルヴァはその速度を以って戦場を飛翔する。
航空猟兵が跳ねるように撃ち込んだ弾丸は槍の如く真っすぐに翔ける。
「本来は答えてやる義理などないが――これは趣味と職務を兼ねた物だ」
貫くように打ち出された弾丸は魔種の剣を以って弾かれ、けれどその注意を惹くにあまりある。
「――申し訳ないがこの首を飛ばす予定は今のところ無いんだ」
最短で断頭台を目指すヴェルグリーズへ向けて影の騎士が剣を振り抜いた。
視線を誘ったままに払われた剣を受け流して、返すように斬撃を振るい反撃の太刀と為す。
血にも似た影の粒子が騎士から溢れだす。
「――なるほど。ではこういう芸はどうだ?」
ディオニージが言うのを汰磨羈は確かに聞いた。
戦場を駆け巡る濃密な魔力を感じて、汰磨羈は空を見上げた。
空へと描かれた魔法陣から姿を見せたのは、特大の刃。
それはまるで断頭台に備え付けられた白刃のよう。
「舐められたものだな」
刹那の判断、汰磨羈は刀を振り払う。
破災の一撃が壮烈なる斬撃と化して戦場を迸る。
鮮やかに戦場を斬った斬撃がゼノグラシアン達を薙ぎ払い、ぱたり、ぱたりと倒れ伏す。
とはいえそれは不殺の斬撃、彼らが死ぬことなどあるまいが。
「ほう撃たれる前に鎮めるか――だが」
刹那、白刃が振り下ろされた。
「――こういう手を使う覚悟すら出来ていないとでも?」
跳ねるように汰磨羈は白刃へと飛び掛かる。
代わりとばかりに全身が切り刻まれていく。
「祈るならば! 人が人を殺す物に首を垂れるべきではないでしょう!
まして、貴方達を殺すことを望むような者には!」
祈るような仕草を見せるゼノグラシアンへ苛立つような表情を見せる珠緒が剣を振り抜いた。
放たれた斬撃は舞い踊る光刃と化して愛しき人へと迫る執行者たちに傷を入れる。
「少しでも早く、辿り着くんだ……!」
蛍は胸に秘めた思いを力に変えるように、声に出していた。
近づいてきた執行者の斬撃を藤桜で受け流し、桜に魅了され近づいてきたゼノグラシアンを振り払いながら前へ。
「皆、敵はボクが受け止める。だから気にせず進んで!」
あまり敵対的ではないものの、敵であることには変わらぬ彼らは、注意を惹きさえしなければ祈ることを優先している。
「ゼノグラシアンは攻撃はしてこないようですね」
ルーキスは影の騎士に双刀を入れながら呟く。
連撃を刻んだ騎士はその影の身体を大きく切り開かれながらも、影ゆえにか健在だった。
(守りが堅くてタフだ……)
「あるいは、こういう芸も面白いか?」
そう言ったディオニージの声が聞こえたのはその時だ。
瞬間、目の前にいた影の騎士が近くのゼノグラシアンへ剣を向ける。
「――させない!」
速度を跳ね上げ、ルーキスが再び斬撃を見舞ったその終わり、影の騎士が霧散する。
●
「あいたたた、やってくれたな。だが――」
その身へ大量の傷を刻み、アルヴァは自らを奮い立たせながらそれでも余裕を見せる。
懐から取り出した霊薬の小瓶の口を開けてそれを飲み干せば、受けた傷も消耗した体力も瞬く間に癒えて行く。
「――まだ、ここからだ」
「――はっ、良く吼える子犬だ。だが感謝しておこう。
貴様に2度死ぬほどの痛みを喰らわせてやれることをな」
「気持ち悪いな」
凄絶に笑うディオニージに思わず全身の毛が逆立つような感覚を覚えたその時だ。
そこへふわりと兎耳が跳ねる。
「少しの間……わたくしと、遊んでくださいな」
入れ替わるようにして入ったのはネーヴェである。
薙ぎ払うような脚撃はディオニージの剣によって防がれるが、それで構わなかった。
柔らかく笑って見せたネーヴェに処刑人の目が向いた。
「兎め――良かろう、自ら死ぬ順を早めるとはな!」
そのまま振り下ろされた斬撃を巧みな足捌きで躱しきれば、ディオニージが少しばかり驚きに目を瞠る。
「兎は軽やかに跳ね踊るもの、ですよ」
ネーヴェの挑発は更なる時間を稼ぐため。
珠緒はその瞬間に戦場の奥へと飛び込んでいく。
「――藤波の 咲き行く見れば 霍公鳥 鳴くべき時に 近づきにけり」
紡いだ誓いの鮮烈なる春雷の響き。
瞬く間に斬り結んだ広域の斬撃が雷鳴を轟かす。
「行きましょう、蛍さん」
あと少し、もう少しで辿り着くと、珠緒は愛しき藤の花へ語り掛ければ。
「いこう、珠緒さん!」
戦いが中盤に差し掛かった頃合い、執行者がイレギュラーズからその標的をゼノグラシアンへと変えつつあった。
それはまるで、消え去るよりも前に可能な限りの命を刈り取らんとするかのようだった。
「僕が彼らを引き付けるよ」
応じた蛍が斬撃を払う。
それはさながら桜吹雪のように業火の斬撃は咲き乱れる。
(……まだだ、まだ)
ルーキスは影の騎士へと双刀を振り抜いて切り刻みながら、視線をあげる。
こちらを見ることなく蛍へ攻めかかる騎士はルーキスの考えに気付いてないだろう。
何度目かになる斬撃を見舞いながら、その視線は真っすぐに断頭台を向いていた。
「神は何も貴方達に死ねと一切言っていないわ!」
2人の影の騎士の攻撃を受けながらレイリーはゼノグラシアン達へと叫ぶ。
「はっ、愚かなことだ。貴様がその者達の何を知っている。罪深い、罪深い連中だ。
――神が望まなくともその者らに死ねと思っている連中はいるのだから!」
レイリーの言葉に嘲るような魔種の声が響いた。
押し込むような騎士たちの剣を受けながら、思わずキッとそちらを見やる。
「この太刀で届く――」
確信をもって、汰磨羈は斬撃を振り払う。
先を行く仲間達への最後のつゆ払い、不殺の心を以って撃ち抜かれた根源の斬撃が壮絶なる一太刀となって戦場を駆け抜けた。
無極の斬撃は戦場を照らし、影の騎士、その間で祈るゼノグラシアンを斬り開く。
「……ようやく足元まで辿り着いたようだね、このまま行かせてもらうよ」
ヴェルグリーズは踏み込むと共に剣を払う。
走り抜け様に打ち合った剣閃が鮮やかに影の騎士の身体を真っ二つに断ち割れば、文字通り影の如く霧散する。
視線をあげ、改めて望む断頭台の不遜なる高さがそこにはあった。
●
断頭台への道筋は開いた。
後はもう、天高くそびえるソレを打ち壊すだけ。
「珠緒さん、皆、つゆ払いは任せて」
そう言ったのは蛍である。
ただ1体、影の騎士へと視線を合わせて蛍は踏み込んだ。
横一閃、舞い散る桜吹雪の幻影を纏う一陣の風が騎士を吹き飛ばす。
「壊してみせよと仰るならば。かくあれかしと果たしてみせましょう」
そう呟く珠緒は術式刀に複数の術式を展開していく。
「貴方がおっしゃったことですから――後悔なさらぬよう」
いつもよりも全身の血が熱を帯びたような熱さを感じながら、普段以上の冷静支え感じる太刀筋を以って珠緒は斬撃を払う。
プラズマカッターと化した斬撃が鋭く断頭台に壮絶なる傷を入れる。
(敵より僅かでも早く、速く……!)
ルーキスは僅かな隙間を縫うように戦場を駆け抜けた。
後ろより此方へと纏わりつかんとする執行者など知った事か。
(この一撃は外さない!)
凄まじい速度で駆け抜けた先、断頭台めがけて双刀を振るう。
慣性事撃ち抜く斬撃は数度に及ぶ連撃となって断頭台を削っていく。
削り落ちる幾つもの破片が降り注ぐことなど知った事ではなかった。
「ネーヴェ殿、後は私に任せて」
レイリーはディオニージの眼前へと割り込み告げる。
「……分かりました」
それにこくりと頷き、ネーヴェは視線を断頭台へ向けた。
『――――!!』
『――!? ――! ――!!』
兎の耳を打つ、彼らの絶叫は、あぁ、きっと『やめてくれ』だとか、そう言う事なのだろう。
「……ごめんなさい」
小さなネーヴェの声は、きっと彼らには届かないだろうけれど。
「恨んでくれて良い。それでも……あれを壊さなければ、誰も救われない。
出来るだけの命を、取りこぼさないように。わたくしは、あれを壊すわ」
跳ねるように跳躍して、兎は空を走る。
空まで舞い上がったネーヴェはくるりと身を翻して断頭台めがけて蹴りつけた。
「白騎士が白騎士を止めに来た、果たしてどちらが正義かしら?」
それを見届けながら、レイリーはディオニージへと槍を突きつける。
「私は正義よりも少しでも誰かを助けたいだけだけど貴方は?」
「助けたい、か。不正義者のいうことは理解に苦しむ」
傲慢なる騎士が振り抜いた斬撃をレイリーは真っすぐに受け止めた。
盾を軋ませる斬撃の重さは確かなもの――だが。
「さぁ、私を倒せるかしら? 白騎士さん?」
自らを奮い立たせるように力を入れ、挑発するように視線を向けた。
「さぁ、もうすぐお前の断頭台が崩れるぜ。壊れるところを特等席で見せてやるよ!」
続くようにアルヴァが愛銃に神聖を纏い。
「――最後まで小賢しい犬がっ!」
合わされた剣を掻い潜り、銃床を振り抜いた。
美しい輝きと共に壮絶なる打撃が魔種へと叩きつけられる。
「――そういうわけで、処刑台諸共、お引き取り願おうか」
ヴェルグリーズは愛剣を振り払う。
写しなれど青とも黒ともいえる美しき剣より放たれた斬撃は剣と同質の斬光を放つ軌跡を描く。
圧倒的なる手数の下に紡がれる剣閃は幾重にも渡って断頭台の支えを削っていく。
「邪魔をさせるとでも?」
辿り着いた断頭台、汰磨羈は戦場を振り返るようにして視線を向ける。
迫り来た執行者、たった1人と化したそれへ、斬り上げるように斬撃を払う。
向かい来る敵へ払う無影刋月、三日月の如き軌跡の終息点、そのまま返すように太刀を振り下ろした。
●
「へへ、俺をすぐ倒せなかったテメーの負けだ。ったくざまぁねえぜ」
砕け散る断頭台の破片がアルヴァとディオニージの間に突き立った。
「負け? 負けといったか? はっ、笑わせる。百譲ろう――負けではなく引き分けだ」
刹那、アルヴァは自分が吹き飛ばされたのを感じた。
身体が地面へ叩きつけられ、激痛が襲う。
「――どこにもいかせないわ!」
合わせるようにレイリーは盾を構えた。
堅牢なる鎧が幾つも罅が入っている。
それでも倒れてなどいない――倒れない限り、皆を護れるのだ。
「――なに。元よりどこにも行く気はない」
「……どういう意味?」
警戒を露わにするレイリーに傲慢の魔種は『らしく』笑う。
「――そもそも此度は貴様らがどう動くのかを知るための余興に過ぎん」
そのまま数歩後ろへ下がっていく。
「やはり、貴様らは罪深い。この場で首を討つのも良かったが……
あのアジサイの良いようにされるのは癪だ。それは別の機会とする」
ディオニージは跳躍すれば、そのままどこかへと後退していった。
「これで……元に戻るのです、よね?」
ネーヴェの言う通り、帳は上がり、祈りを捧げていたゼノグロシアンは崩れ落ちて行く。
それはまるで垂らされた糸の切れた人形のようだった。
「……あぁ、良かった。……です、が、あまり長く此処にいるのも拙いでしょう、か」
春の麗らかなる陽気が辺りを包めども、重さは左程に変わらない。
「……元からでした、か」
朽ち果てた絞首台に吊るされたロープが風に踊っていた。
「ディオニージ・コンティノーヴィス……彼の素性は調べた方がいいかもしれないね。
どういう人物だったのか把握しておくことで何か分かることもあるかもしれない」
ヴェルグリーズは絞首台に視線をやり、呟くように言う。
またいずれ、戦場で相まみえることになる――それはほぼ確信に近い。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速始めましょう。
●オーダー
【1】ワールドイーターの撃破
【2】『冷厳なる』ディオニージ・コンティノーヴィスの撃退
【3】『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』の可能な限りの生存(努力目標)
●フィールドデータ
リンバス・シティに存在する街区の1つ。
街区が丸々1つ処刑台として構築され、天を衝くほど高くそびえる断頭台が存在します。
当然、それはノイズでもかかっているかのように崩れてもいます。
またここにいる『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たちは自らが罪人であるとでもいうかのように頭を垂れ、自ら処刑台へ向かって歩いています。
戦場としては全体的にただっぴろい平地となるでしょう。
●エネミーデータ
・『冷厳なる』ディオニージ・コンティノーヴィス
非情、過酷、傲慢、冷徹を地で行く男です。
魔種であり『遂行者』の1人。
古き天義こそを良しとする異端審問官であり聖騎士でした。
獲物はエクセキューショナーズソードの一種。
大きさは寧ろ長大剣の類という方が近そうです。
敵として遭遇したのは初見のため戦闘能力は不明です。
ここで倒しきるのは難しいかもしれません。
ワールドイーターが破壊されれば撤退します。
・影の騎士×4
ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士にそっくりな存在です。
いわゆる影の天使たちですが、ディオニージの影響を受けているのか聖騎士風の姿を取っています。
取り巻きとしてタンクのような動きを行なう他、迫る皆さんを抑え込むような動きをみせます。
・影の執行者×4
ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士にそっくりな存在です。
いわゆる影の天使たちですが、ローブに身を包み大鎌を持つ姿は死神を思わせます。
処刑を中断させた皆さんを討ち取らんと積極的に攻めかかってきます。
・ワールドイーター〔断頭台〕
R.O.Oで観測されたモンスター。
現実では終焉獣(ラグナヴァイス)と呼ばれています。
滅びのアークから作り出された塊そのもの。
今回の『核』であり、天高くそびえる断頭台とでも呼ぶべき何かです。
攻撃及び防御など能力はありません。辿り着いて攻撃さえすれば破壊できます。
とはいえ、破壊されるわけにはいかないのでエネミー勢が『かばう』などしてくるでしょう。
攻撃を通すためにもある程度のエネミー撃破は必須です。
・『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』×???
元々住んでいた人々が狂気に侵され、異言を話すようになった存在。
神に祈るように異言を呟きながら、頭を垂れて処刑台へ進むさまは罪人であるかのようです。
戦闘開始後は歩みを止めてその場に跪き天に祈りを捧げ始めます。
珍しくこちらへの敵意なども感じられず、ただ邪魔なだけにも見えます。
最悪の場合、人質に取られたりなども考えておいた方が良いかもしれません。
●友軍データ
・『紫水の誠剣』シンシア
アドラステイアの聖銃士を出身とするイレギュラーズです。
皆さんより若干ながら力量不足ではありますが、戦力としては充分信頼できます。
怒り付与が可能な反タンク、抵抗型or防技型へスイッチできます。
上手く使ってあげましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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