PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ふりかえったその先へ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●陰鬱な森の中で
 薮に隠れたまま、ラウラン・コズミタイドは弓を引き絞った。

 彼について、少々説明しておかねばなるまい。ラウランは深緑の小さな村の狩人であり、害獣から村を守る兵でもあった。だがしかしとある魔種に魅入られ、契約を交わしてしまい、その後イレギュラーズの活躍で正常な状態に戻った。片方だけ赤い瞳はそのせいだ。しかし、なぜか村へ帰らず森へ潜んでいる。

 狙う先にいるのは巨大な魔物。
 狼のような胴体に、鹿の頭がついており、ガツガツと兎を食らっている。体長は3mを超え、虎のように獰猛な雰囲気をまとっていた。魔物の周りには、護衛するかのように、人の頭ほどはある球体が飛び回っている。表面はまるで油膜のようにギラギラと光っていて、たしかに魔物の眷属であることがわかった。
 ラウランは注意深く飛距離を数える。あたりが静かになる。極度に集中している時、音は聞こえなくなるのだ。彼が矢を放つ。鋭いそれは、確実に魔物の右目から左目にかけて貫通した。
「グギイ! ギッ! ギオウ!」
 この世のものとは思えない悲鳴をあげた魔物は、頭を貫かれているにも関わらず平然とあたりを見回した。
(やべえ、来る)
 ラウランは注意深くその場を離れた。魔物が敵を探している気配がするが、もともと方向感覚に優れたラウランのこと、道なき道をたどって魔物を煙に巻いてのける。そしてようやく人心地つくと、住処へ帰った。森の中、ひっそりと建っているのは魔女の家だ。元、を付けるべきだろう。魔女本人はとうの昔に放浪の旅に出てそれっきりなので、ラウランが勝手に使わせてもらっている。家の周囲には目くらましの魔法が残っていて、害意のある存在は近づけない。ラウランにとって、安心できる場所だった。
 のだが。
「わっ!」
 後ろから肩をぽんと叩かれたので、ラウランは飛び上がらんばかりに驚いた。
 振り向くとそこに居たのは、かつて彼を助けたひとり、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)その人だった。
「キノコパーティー以来だな、ラウラン殿」
「ああ、大鍋いっぱいの具と出汁をゲーミングカラーにしてくれてありがとよ」
 肩をたたいた相手が友人だったせいか、ラウランは普段の雑駁な口調へ戻った。
「ここに居るということは、まだ村へ帰っていなかったのか」
 あきれたのか、冬越 弾正(p3p007105)は腕を組んで大げさにため息をついた。
「なんのために俺たちが骨を折ったと思っている」
 アルトゥライネル(p3p008166)も眉を寄せた。もともと無表情なので、ひどく不機嫌そうにみえる。
「いや、その、理由はまた今度……」
「聖夜のキノコパーティーの時もそう言っていたな。何がラウラン殿をそうさせるのだ?」
 口ごもるラウランへ、今度は逃さないぞとばかりにアーマデルを先頭とする三人と、あなたが詰め寄る。イレギュラーズに囲まれては、ただの幻想種であるラウランには、降参するしか選択肢はなかった。
「とりあえず中へ入ろうや。話はそこでするともさ」
 ラウランは両手をあげて白旗を振ると、あなたたちを住処へ招待した。

●理由
「……なるほど、森へ強力な魔物が住み着いてしまったわけだな。しかもそいつはまだ村の存在に気づいていない、と」
「ああ、そうだ」
 ラウランは薪をくべながらアーマデルへ返事をした。まだまだ寒い季節だ。あなたは遠慮なく火へあたった。ぬくもりと乾いた木が燃える香りが心地よい。ラウランは大釜でキノコと鳥肉のシチューを作っている真っ最中だった。もちろん、あなたを歓迎するためにだ。
「だから倒そうと考えて付け狙っているんだが、やつめ、【必殺】がなきゃ倒れないみたいだ。俺にできるのはせいぜい追い払うのが関の山だ」
 ラウランがうなだれる。
「本当にそれだけが理由か?」
 アルトゥライネルがたんぽぽから作ったコーヒーを口にしながら問う。ラウランの瞳が一瞬揺れた。
「どういう意味だ?」
「魔種に魅了され、あげく村人まで巻きこんだ。そのことを気に病んでいるのではないか? だから、村へ帰らない、違うか?」
 アルトゥライネルは容赦のない一言を浴びせた。そして、それは図星だったようだ。
「なにもかもお見通しかよ。さすがだな」
 ラウランは乱雑に薪を投げこんだ。ぱっと火の粉が舞い散る。
「そうだよ。俺が戻っても、もうあの村には、俺の帰る場所がないんだ、きっと。だからせめて、魔物の首級をあげて手柄をとって、俺が改心したって証明をしなきゃ……」
「いや、帰ってやれよ。普通に、今すぐ。おそらく村人たちはラウラン殿を心配しているさ。それに……」
「それに?」
 弾正の言葉に、ラウランが耳を傾ける。
「魔種と契約を交わし、村人を危険へ巻きこんだのは事実だ。そりゃ多少は、ラウラン殿へ険のある視線を向けるやつも居るだろう。だったらなおのこと、誰も見ていないところで手柄を立てても、それが本当かどうか疑われるだけじゃないか」
 ラウランはぐうの音も出ないようだった。弾正の言う通りだったからだ。あなたもそれへ賛同し、ラウランへ村へ帰るよう言った。だがラウランは首を振った。
「だとしてもだ。あの魔物は倒さなきゃならない。俺は、言うなれば、囮をやっているんだ。俺がここへ居て、魔物を足止めすることで、村への被害を未然に防いでるんだ」
 もし俺が居なくなったら、餌を食い尽くした魔物は移動を始めるだろう。その先には村があって、やつは村を蹂躙するに違いない。ラウランは悲痛な面持ちでそう言った。
「いたちごっこじゃないか。ラウラン殿にあの魔物は倒せないのだろう? 延々と囮役をやらなければいけなくなる」
 アーマデルが冷静に指摘すると、そうなんだよなあと、ラウランも返した。
「結局のところ、アンタは村へ帰るのが怖いんだな。魔物のせいにして、ここを離れないつもりなんだ」
 アルトゥライネルがそう断言すると、ラウランはしかめ面をした。本心を言い当てられた者は、みんなそんな顔をするものだ。あなたにはよくわかっていた。
「……はあ、そうだよ。アルトゥライネルの言うとおりだよ。こえーんだよ。魔種の災禍に、年端もいかない兄弟たちまで、俺は巻きこんじまったんだぜ? 帰りたいわけ、ないだろ……」
 だが今のままではらちがあかないとあなたは言い添えた。
 ラウランでは魔物を倒せない。いつの日か魔物から手痛い反撃をくらうだろう。それは遠い未来かもしれないし、明日かもしれない。
 あなたがそう言うと、ラウランはしょんぼりと眉を下げた。
「わかってんよ、ジリ貧だって。でも、俺が生きているかぎり、あの魔物を村へは近づけさせるもんか」
「そうか。なら、俺たちが倒そう」
「は?」
 アーマデルの一言に、ラウランは目をむいた。
「ようするにその魔物が諸悪の根源だ、ならば、倒してしまってもかまわんのだろう?」
 畳み掛けるアーマデル。それもそうだとあなたは得心した。魔物を倒してしまえば、ラウランは囮になる必要もない。村が脅威にさらされることもない。いいことずくめだ。
「決まったな。文句はなしだ。いいな、ラウラン殿」
 弾正が任せろと言わんばかりに笑みを見せる。
「終わったら村へ顔をだすんだ。それがアンタがいま一番やるべきことだ」
 アルトゥライネルもそう言う。ラウランは無言のまま、シチューをおたまでぐるりとかきまわした。とろりとした美味しそうなホワイトシチュー。腹に響く香りが広がっている。
「……わかった。おまえらの言う通りにする。その前に腹ごしらえといこうや。腹が減ってはなんとやらって言うだろ。あ、変なもの入れるのはなしな、アーマデル!」

GMコメント

みどりです。おまたせしました。ラウランさん帰郷シナです。
その前に彼へ心の整理をつけさせるためにも、魔物を倒しちゃいましょう。

やること
1)魔物・バイツァネルゴおよびバイツァダストを倒す
A)村人を説得し、ラウランの帰郷の手助けをする ※これは本当にオプションなので書かなくても問題ありません

●エネミー
バイツァネルゴ 1体
 狼の胴体に鹿の頭がついた3mほどの巨体を持つ魔物です。肉食で、悪食。人の肉の味を覚えたなら、村中の人を食い殺すことでしょう。悲劇は未然に防がねばなりません。
 EXF復讐型。FBは0。つまり、【必殺】がないと何度でも復活します。
 A 突進 物超貫 移 飛 万能 復讐・大
 A 咆哮 神自域 飛 復讐・中
 A 暴れまわり 物自範 飛 防無 復讐・特大
 非戦 温度視覚

バイツァダスト 3体
 ギラギラと油膜のように光る球体。魂を食らう悪玉の精霊です。バイツァネルゴのおこぼれに預かっています。生かしておいても災いしか呼びませんので、倒してしまってかまいません。
 EXF復讐型。FBは0。
 A 突撃 神中単 移 麻痺 失血 混乱 復讐・小
 P 反

●戦場
 人の手が入っていない、深い森の奥です。枝が重なり合うように茂っており、飛行はできません。
 足元は木の根と草だらけですべりやすく、回避に-10、FB+3のペナルティがかかります。武器を振り回して戦うのに、十分なスペースはあります。

●友軍NPC
ラウラン・コズミタイド
 アーマデルさんの関係者です くわしいことは「ふりかえって~」シリーズに経緯が載っていますが、読む必要はありません。シンプルに、彼は魔種と契約して、生まれ故郷の村人へ、どえりゃあ迷惑をかけた、というところさえ押さえておけば大丈夫です。ラウラン本人はとっくに改心していますが、自分が故郷から受け入れられるかと考えると「やっぱりちょっと怖い」そうです。
 毒・麻痺・回復の矢をつかいこなします。本人曰く「じつは血が嫌い」。特に指示がなければ単体回復を優先し、手が空けば毒・麻痺を入れてくれます。まあまあ期待していい強さです。
 非戦・超方向感覚。

●EX 開放しておきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ふりかえったその先へ完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
冬越 弾正(p3p007105)
終音
エリス(p3p007830)
呪い師
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ


 春にしては冷たい風が吹いていた。
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は本体である鎌をすこしだけ、擬態である肉体へ近づけた。ぬくもりが伝わってきて、いつのまにか冷えていた自分自身を温めてくれる。
(……春がまじかなのに……なんで俺は寒いんだろうな……)
 どうしてなのかは、本人が一番よく知っている。よく、知っているから。
(妖精達に隠し事は苦手だけど……これだけは隠さないとな……辛いな……)
 いのちよりも大事といえる妖精たちへ、隠し事をする。それはサイズにとって身を切られるよりもつらい。それでも、気持ちを押し込め、サイズは前を向いた。
(今は……やるべきことを……)
 いっそ悲痛なまでの覚悟を決める。
(なんやかんやここまでズルズル付き合ってしまったんだ……もののついでだ……まあ、最後までつきあってやるか……)
 ふっと笑みを浮かべて肩の力を抜く。サイズは仲間の元へと戻った。


「おかえり。火にあたっていくといい」
「ああ、ただいま」
『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)へ、サイズはゆっくりとうなずいた。
 皆は魔女の家で、ラウランと共に作戦会議中だ。
 難しい顔をしているのは、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)だ。
「死者が0人なら言葉がいくつか浮かぶんだが……子供なのがな。いくら謝罪されても失われた者が帰ってくる事は無い。俺も二児の父として自身の子が永遠の眠りについたと考えると実行犯じゃなかろうと、魅了で正常な判断ができなかったとしても許す事はできない……」
 でも、と続ける。
「洗脳で正気じゃなかった時に罪を犯した身としては力になりたい。人の心は理屈ではどうにもできないことも多いし、俺の思いの丈を聴いてもらわなきゃな」
 ラウランは黙ったままでいる。いまだ故郷へ帰ることに不安があるのだろう。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)はそんな彼へ一定の理解を示した。
「合わせる顔がない、という気持ちも理解はできるけどね。心配しているものがいるのもきっと事実だろう。最低限、そのコたちに顔を見せてやってもいいんじゃないかな」
「……うーん、でも」
「でもでもだってちゃんはみんなから嫌われるよぉ?」
「うぐ」
 それだけ言うなり、ラウランは黙って大鍋のシチューをかき回す作業へ戻った。
「ラウラン殿が帰りたくない理由、痛いほどよく分かるぞ」
『残秋』冬越 弾正(p3p007105)の言に、ラウランは息を呑む。
「俺は郷の頭首だった双子の弟と、その側近22人を戦闘に巻き込んで亡くしてしまったからな。あの時はアーマデルが心配で気丈に振る舞っていたが、郷へ報告に向かう日は道中何度か吐いたものだ」
 そういうと彼は隣の席へすわるアーマデルをハグした。
「……まぁ、今となってはその郷の頭首を俺が代理で務めている。誠意をもって接すれば、きっと村の人達との蟠りも溶ける」
「そうかな、そういうものか」
 ラウランが傾いたところを見計らい、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も口を開く。
「……俺は故郷でも周囲に馴染めなくてな。『家族』と仲がいいラウラン殿が眩しく見えた」
 きょとんとしているラウランを相手に言葉を紡ぐ。
「『家』とは『帰る』場所なのだろう? 待つ者が居るのだろう? 弟妹は黙って帰ってこない事をこそ怒るのではないか? ……時間が経てば経つ程に縁は捩れ、縺れていくものだ」
「……」
 黙り込んでしまったラウランに、『努々隙無く』アルトゥライネル(p3p008166)は咳払いをした。
「さて、言い訳を終わらせるために、さっさと魔物とやらを倒してしまおうか」
 彼は未だ故郷へは帰っていない。だが、捨てるとまで考えて帰らないことを決めた彼と、帰りたいのにぐずぐずしているラウランとでは、話が違ってくる。
「アンタは帰るべきだ。自分が守った、守ろうとした、今もそう思っている場所をその目で見ろ」
「……うう」
「煮えきらなさすぎだろう」
「うう、おまえらの言うとおりだよ! 人の言いにくいところ、ズバズバつきやがって! ありがとさん!」
『呪い師』エリス(p3p007830)がそれを聞き、にやりとにぱあのまんなかくらいの笑みを見せた。
「私とて深緑に領地を持つ身、強力な魔物を放っておくわけにはいきませんし、ラウランさんが村に帰れるように頑張るしかないですね! ね!?」
「そ、そっすね」
 こいつ押しに弱いな。アルトゥライネルはそう思った。
「それでは行きましょう!」
「……シチュー食べ尽くしてからにしねえ?」
 エリスが促すもまだラウランはぐずぐず言っている。ので。アーマデルは一計を案じた。
「ところでここに特製スパイスがある」
「……うそつけ」
「大丈夫だ変なものではない」
「わかったよ! 行くよ、行きゃいいんだろ!!!」


「ええい、前座が時間を取らせるな! どうせ俺たちの存在は丸わかりだ! 真正面からぶつかるぞ、アーマデル、皆!」
 叫ぶ弾正。その声は音圧となって魔物どもをおそう。それぞれにそれぞれの答えを返し、イレギュラーズは戦場へ躍りでる。
 武器商人がひとひら、甘い声音を吐く。
「さァ、おいで……」
 それは甘い蜜毒。触れればたからざるをえない、その美しい肢体へ。それが何者をも侵さざる絶対であることすら気づかず。それは、誘惑の呼び声。聴けば向かわざるをえない、その初々しいまでの原初へ。それがすべてを呑みこむ慈愛であり強欲であるとは気づけずに。
「よし、いくぞアーマデル合体攻撃だ! FB0? べつに増やしてしまっても構わんのだろう?」
「一気に押すぞ弾正。復讐持ちは厄介だ。削り切る。ではようこそ、FB大幅アップの世界へ」
 ふたりの攻撃が着弾し、ネルゴは悲鳴をあげた。
「ふむ、こちらが死角か、やはりラウラン殿が両目を射抜いただけあって、まだ慣れていないようだな。弾正、皆、こちらへ、多少は命中率がましになる」
「人の帰郷を邪魔するやつは! 蛇に締められ地獄へ落ちろ!」
 アーマデルにサポートされ、弾正の鮮やかな技が決まる。
 ウェールの驟雨のごとき魔力がネルゴの心臓を撃ち抜いた。
「反が痛いが……これから心を傷つけられるかもしれないのに先へ進もうと頑張る人がいるんだ。焚きつけた一人として、せめて肉体への傷は減らしてみせる!」
 暴れだしたネルゴはバイツァダストを傷つけ始める。同士討ちが始まった。
「まだまだ!」
 ウェールの追撃が決まる。そこからさらに銀の弾丸が雨のように降り注ぐ。銀時雨に打たれた魔物どもが呻く。
「今だな」
 冷徹なまでの冷静が頭上から聞こえる。ギフトでオコジョから本来の姿へ変じたアルトゥライネルが、枝から飛び降りる。
 呼び出された毒蛇の式は、ダストへ不調を植えつける。ダストのひとつが土へ還った。
「いくぞ」
 這茨の儚いまでの花弁を散らし、アルトゥライネルはネルゴへドロップキックを決める。奇襲を受けたネルゴがぐらりと傾く。
「果てにても幸いあれ、熾天使よ、その美粧よ。その微笑よ。喜びを我は歌う。共に歌い上げ給え」
 死にものぐるいの魔物の反撃。けれども、エリスが癒やしてしまう。エリスはまさに天使のようだった。戦場へ遣わされた、一輪の花だ。
「呪いの矢を受けてみますか?」
 打って変わって冷酷な一撃を、エリスはダストへ送る。またひとつ灰になる。次は魂を食らう悪玉ではなく、やさしい生命に生まれてくるといい。エリスはそう願った。
「ネルゴにダストか。能力はたしかに厄介、だがそれがどうしたというのだ? 私たちの前には無意味だと知らせてやろう」
 モカが瞬時に百手を叩き込む。残影すら生じるそれを受けて、最後のダストが崩れた。
「キミにはこちらがおにあいかな?」
 最後に残ったネルゴに対して、モカは雀蜂乱舞脚。スズメバチのごとき素早さ、そして四肢をもがんばかりの衝撃。FBまみれにされたネルゴが苦悶の声を上げる。
「立ち上がれ矜持よ。ここへ姿を見せん。莫大なる魔は、今やただの砲へと成り下がる。そは我が権能。ひれ伏せ!」
 黄金残響でもって無敵に近いほど己の力を引き上げたサイズが魔砲を放つ。
「ネルゴは相当追い込まれているね、ヒヒ」
「共闘といくか……」
「やぶさかではないよ」
 菫紫の魔眼でもってネルゴの状況を見抜いた武器商人、最後の反撃の予兆を読み取ってみせる。いっそ余裕すら浮かべて、武器商人はきれいな笑みを浮かべる。
「あれは痛いね。だから、ここで終わらせよう?」
「ああ……これでおしまいだ、バイツァネルゴ。……キミに罪はなかったのかもしれないな。だが……キミは負けたんだ。生存競争に……。……強きをもって弱きを蹂躙するならば……その弱きに噛みつかれることも、頭へ入れておくべきだったんだ……ここへ至れアギトよ、黒き善よ、邪にして聖なる牙よ、やつの息の根を止めろ、命令だ!」
「罪は罰へ変わる。罰とはすなわち許されること。いいコたちだったね、よくがんばった。だからここでおやすみ。魔物へ生まれてくることは悪ではないともさァ。でも次はもう少し、長生きできるといいね」
 魔王のアギトと、万力の美徳が、ネルゴの意識を刈り取った。


 アルトゥライネルのパカダクラにバイツァネルゴをくくりつけて、一同はラウランの故郷へ凱旋した。
 ラウラン? ラウランではないか? あの魔物は何だ?
 村の入り口に、ハーモニアの村人たちが集まってきた。驚きと若干の恐れを込めた視線でラウランを射抜く。
「ひ、ひさしぶり。はは、村がトリーシャに襲われて以来だな」
 一気に空気が盛り下がる。村人はなんともいい難い目のままラウランを見ている。
「……なんでそこから話を始めるんだ。バカタレ」
 思わず弾正はつぶやいてしまった。
「俺も何を話せばいいのかわからなくて……」
「日和るのもいいかげんにしろ。俺は諦めが悪い。アンタならわかるだろう?」
 アルトゥライネルが怒気を含んだまなざしをラウランへ送り、小さくため息をついて、村人へ向き直った。
「…あまり悪く言う意図は無いんだが」
 その言葉はラウランを思ってのものだった。彼なりの優しさを、ラウランはきちんと受け止めている。
「始まりはトリーシャだ。魔種の誘惑に打ち勝つのが容易なら混沌はこうも乱されていない」
 ちがうか? と村人へ反語で問いかける。村人は当惑している様子だ。
「村を守るために脅迫に従ったなら、何を恥じるところがある? 自分が助かりたいだけなら村を犠牲にする道だってあっただろう」
 そして、と彼は顔を伏せた。
「魔種の策謀を暴けず、子供を守りきれなかった俺にも咎はある、ただ……」
 凛と顔をあげ、アルトゥライネルは言いきった。
「あの未曾有の危機の中で誰もが必死にやれることをやった、それだけのことだ」
 村人は考え込んでいる。ラウランを再度迎え入れるか悩んでいるのだろう。ラウランは緊張した面持ちのままつったっている。
 力強い咆哮が響いた。村人がそちらへ気を取られる。そして、その人心すら掌握するカリスマに我を忘れた。ウェールは一歩前に出る。
「俺には二人の子がいる。血は繋がってないけどとても大切な子達が。だからラウランさんを許せなくてもいい」
 犠牲になった子どもたちを悼む言。そこからさらに。
「俺だって自身の子が巻き込まれていたら絶対に許せない。でもラウランさんがこの村に、故郷に帰ってくる事を否定しないでくれ」
 重々しい声。やさしさを含んだ心地よい声に、しだいに村人はときほぐされていく。
「怒りや憎悪を忘れられないだろうけど、それを力や言葉の暴力へと変えるのは抑えてくれ。子供が見たら悲しんだり怖がるだろうから」
 村人たちがはっとする。ウェールはすこし笑ってみせた。
「部外者が何言ってんだと思うだろうけど貴方達の子供も復讐を望むような子じゃないだろう……!? 少なくとも俺の子供は、梨尾は家族や他者の怪我を見たら泣く優しい子だったから……」
 こんな立派な方にも、深い愛情を注いだ相手が居るのだと、村人は感じ入った様子だった。
「魔物、それもこのような災害レベルの魔物が……」
 武器商人はバイツァネルゴの死体へ手を置く。
「村の周囲をうろついていたこと、知っていたかい?」
 村人たちは首を振る。それを当然と受け止め、武器商人は説得を続けた。ものやわらな声で、淡々と、しかし強調すべきところは強調して。
「ラウランの旦那が囮となってひきつけていたんだ。だからこの村まではやってこなかった」
 村人たちがざわつきだした。いったん手を前へ述べてそれを制し、武器商人は微笑んでみせる。害意がないことのアピールだ。
「我(アタシ)たちは、ラウランの旦那と縁があってね。彼とは話し合いを重ねている。彼の人となりもよく知っている。ラウランの旦那はね、これでもしっかり反省しているんだよ。思うところがあるかもしれないが、受け入れてやってはくれないかね? 少なくとも我(アタシ)はそうあれかしと考えているよ」
 村人のざわつきが大きくなる。魔種の契約者が……だが反省を……囮にまでなってくれて……。漏れ聞こえてくる会話に、ラウランは緊張気味だ。
「大丈夫だラウラン殿。首級も上げたし手土産は充分だ」
「ありがとよ。……なんか、顔色悪くないか、おまえ」
「気のせいだろう。どんな大変な事があっても、俺はアーマデルと一緒なら一歩を踏み出せる」
 そう言って弾正は恋しいアーマデルと腕を組んだ。アーマデルはされるがままになっている。相変わらず表情に乏しいやつだな、などとラウランは思った。
「ラウラン殿はどうだ? アーマデルにアルトゥライネル殿……共に戦ってくれた特異運命座標の皆も、君の幸せを願っている。俺達の奇跡はきっと君と共にある」
「俺は……おまえらがいなかったら、今ここに立ってやしねえ」
 ぶっきらぼうな感謝に、弾正は笑みを返した。
 弾正は語りかける。いまや遠くへ行ってしまった、大事な弟へ向けて。
(長頼。頭首だったお前が、もし俺と同じ立場になったら、ラウラン殿をどう支える?)
 脳裏で弟が微笑む、もはやなんの憂いもない、幼い頃のような清らかな笑顔で。
(……嗚呼、そうだな。想いは言葉にしなければ……音にしなければ伝わらないよな。ほんの少し勇気をおくれ)
 弾正が村人へ声をかける。
「ラウラン殿は不器用な男だ。それと同時に、誠実な人物でもある。それは付き合いの長い貴方達なら俺より分かっている事だろう? どうか彼を許してやってくれないか。今すぐに許すのが無理だとしても、許すべきか見定める時間をくれないだろうか……頼む」
 バン! サイズが勢いよくラウランの背を叩いた。
「いつまでうじうじしているんだ……やらかしてしまったんなら己の気が済むまで、こそこそとじゃなくてひたすら堂々と贖罪として村の為に働き続けるしかなんじゃないのか……? 少なくとも俺は、妖精郷でそうするつもりだ……」
 サイズの言葉は重く、ゆえに場は静まり返る。
「妖精女王がもつ危険な術の存在を知っていたのに、止められなくて……止められなかった事への挽回の為に足掻いても……結果は俺から見たら最悪、歪んだ奇跡を願った責任は全部自分が背負おうとしていたのに……そのつもりはなかったのに、本来負う必要がなかった、その地に縛り付けるような責務を他の妖精に押し付けてしまった……そんな妖精武器失格の妖精道具としてな……。俺はこれからも妖精郷のために尽くすつもりだ。」
 サイズは伏せていた顔をあげた。
「とりあえずバイツァネルゴを解体して料理なり、なめし革作るなりして村人たりへの心配かけた迷惑の詫びの品でも用意するか? やり方とかわからなければ教えるぞ、教導ならまかせろ……」
 村人が目を丸くする。……あれが食えるのか……たしかに魔物を食する術はあるらしいが……。
 モカが進み出て太った女の手をとる。
「検分してみたところ、鹿肉とほぼ変わらない。調理法を工夫すれば、臭みもないしあっさりしたいいジビエになる。お嬢さん、台所を借りてよろしいかな?」
 女はイケメンボイスに顔を真赤にし、もちろんです、とうなずいた。
 エリスがネルゴの角へ触れた。
「この頭部は剥製にすればすばらしい壁飾りになりますよ。肉はさっきモカさんがおっしゃったとおりですし。……ラウランさんなりにがんばってたんです。どうかそこを勘案してあげてくださいな」
「まったくだ」
 アーマデルが口を開く。
「相手が魔種であった事も考慮すれば、最終的には結果オーライで、そうなったのはラウラン殿のハートの熱さあってのものだと思う。魔種を知っているか、その大部分は問答無用だ。……あの子もそうだったんだ。蓋を開けてみればは、寂しがり屋の不憫な子だった。魔種の有り様が変わったのは間違いなくラウラン殿の影響だろう」
 イシュミル、とアーマデルは技官の名を呼んだ。
「村人の経過や回復具合を診てくれ。魔種にあやつられていたくらいだ。……心配ではある」
「既に診たよ。私は仕事ができるからね。何も問題はない。必要なのは話し合いだ。まずは腰を落ち着けて、お茶でも飲むといい」
 あたたかい飲み物は精神を落ち着ける。イシュミルなりの気遣いだった。
 そのとき、ドタバタと子どもたちが走ってきた。みなそろってラウランと同じ肌の色をしている。
「うわあああ! にいちゃーん! おかえりにいちゃーん!」
「帰ってこないかと思ってたよおおお! おかえり! おかえりいいい!」
 ラウランを囲み、わんわん泣き出す子どもたち。それを見た村人たちも態度を軟化させた。……おかえり、ラウラン。
「……ごめんな、ただいま」
「一件落着、だな」
 弾正はアーマデルと視線をあわせ、深くうなずきあった。
 よかったなとモカは満足顔。
「ラウランさん、無事に帰ることができたんですね。なんだか私まで肩の荷が下りた気分です」
 エリスは目元をハンカチでおさえた。感涙があふれでてきたから。
「……肩の荷が下りた、か。そのとおりだな。ふん、よかったじゃないか。清々した。これからは、村や家族のために、がんばれよ、ラウラン」
 ぼそりとアルトゥライネルがこぼす。
「ラウランさんや」
「なんだ?」
「まずは回復矢ありがとう。あなたの活躍は見ていた。一生懸命だったな。俺たちを慮ってくれて、感謝する」
「いや、俺なんて」
「卑下はいい。これからが勝負どころだ。がんばれよ。そしていつでも、ローレットを、俺たちを、頼ってくれ」
 ウェールの言葉に、ラウランはくしゃりと笑った。
「あんがとよ。がんばるわ」
 サイズはほんのすこしだけ、唇の端を持ち上げた。なにもかもがうまくいった。すこしばかり妬けてしまう。きっと彼は輝かしい道を歩むだろう。妖精道具を名乗る身としては、うらやましく思わなくもなかった。だがそれ以上に、今はラウランが受け入れられた事実を噛み締めたかった。
「無理したってさァ、意地はったってさァ、なァんにもいいことないよねぇ。心は広く、大きくね。それが長生きの秘訣なんじゃないかね」
 武器商人が喉を鳴らす。
 爽やかな風。今日はこれから、あたたかくなりそうだ。

成否

成功

MVP

アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

この夜はネルゴの肉を使った大宴会で、ラウランさんの無事の帰郷が喜ばれ、皆さんもそれに参加しました。
オプション部分が長くなりましたが、仕方ないですね。皆さんが熱いプレを送ってくださいましたからね!
ラウランさんはしばらく村の警備員としてがんばることになりました。
MVPは熱い心情をついつい鉄面皮で隠しがちなあなたへ。

本当にお疲れさまです。お付き合いありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。

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