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シナリオ詳細

<被象の正義>聖剣の所在

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 コンフィズリーは剣を携える。
 コンフィズリーの剣は悪しきを断ち切る。

「折角、没落したのに」
 ある娘が呟いた。
「そうは言わずに」
 薔薇の花を差し出す男に「アンタ、薔薇渡せば女が靡くと思ってんの」と女が叫んだ。
「……煩いぞ」
 ティーカップを傾けていた男に娘は「何よ」と吼える。
「ねえ、ツロ、コンフィズリーはそもそも『没落しておかなくちゃならない』んでしょう?」
「……そうだね」
「アドレ、どうしてあの家がまた復興したの?」
「馬鹿な妹君が失敗したからでしょ」
 つまらなさそうに少年が言えば少女は「ふうん」と呟いた。
「でも、ま、もう一度剣を折れば良いんでしょ?」
「ああ。実に単純だろう?」
 そっと手を握りしめる男に「アンタってさあ」と少女は叫んだ。
 当たり前のように、日常を謳歌するその者達は知っている。
 錆びた聖剣。朽ちた聖剣。その対には盾が存在したという――


「動乱の際に何者かが盗み出し、その在処は未だ分からない」
 リンツァトルテ・コンフィズリーはテセラ・ニバス――『異言都市(リンバス・シティ)』の前に立ちながらそう言った。
「それって、結構困った話しなんじゃない?」
「……ああ。それで俺はその在処を探しに任務に当たることもあるのだが――
 今回はその件で此処まで来た。有り得やしない話ではあるが、聞いてくれるか?」
 勿論だと頷いたサクラ(p3p005004)は困った様子のリンツァトルテをまじまじと見詰めた。
「……剣が共鳴しているんだ。もしかすると、このリンバス・シティに……」
 それが何を意味しているのかは――まだ。

 神様。それは混沌では定義されぬ存在ではあるが天義では唯一無二なる存在素として尊ばれている。
 神託こそが全てで有り、それに反意を有する者は『不正義』だと断罪為れてきた。行き過ぎた断罪と呼ばれるのは其れが由縁でもある。
 その『断罪』により没落した貴族の家門『コンフィズリー』。その跡取り息子であったリンツァトルテも不遇な日々を送ってきていた。
 その境遇が改善したのは混沌で初めて冠位魔種と相対した恐ろしき事件である。
 行き過ぎた正義さえも許容する事が出来た絶対的信頼の的であった聖教会内部に不倶戴天の敵である魔種が多く存在したのだ。
 それ以上に、断行されてきた『正義』が誰かの意思を大いに反映した者であった可能性さえも露見し、大きく信仰が揺らぐこととなった。
 しかし、『冠位強欲』が打たれ、その討伐にも尽力したコンフィズリーは名誉の回復に努めるようにと法王による勅命を受け今日に至る。
 もう随分とコンフィズリーは不正義の代名詞ではなくなり、騎士としてリンツァトルテも着実に出世しているとサクラ――サクラ・ロウライトは感じていた。
「リンツさんは今回の件ってどう思う?」
「……神託のことか? 今までならば、屹度、大いに混乱していた気がする
『主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ』――というのは俺達こそ悪魔だと糾弾する内容だ。
 俺達が悪しき存在だというなら、誰が正しいというのだろう……と、今までなら屹度混乱していた」
 それは箝口令を敷かれてはいたが、全てを抑えきることは出来ない。
 何処からか漏れて出た噂話のように民草の不安を煽り続けて居た。
『殉教者の森』、『エル・トゥルル』――そして、一夜にして変わり果ててしまったテセラ・ニバス。

 ――白亜の都。その偽善的な正義はすべて偽りであり、その内部はシロアリに食い荒らされた虚妄の都である。
 であるならば、本来あるべき歴史のうちにある、正しき、強き、正義の都をここに顕現させよう――

「実に愚かしい言葉だとは思って居る」
「お、愚か?」
「ああ、正しさなんて神が定義する者ではないだろうに」
 天義という国で生まれ育った青年らしからぬ発言にサクラはぱちくりと瞬いた。
 遂行者と名乗る者が己の信じる正義のために天義の巨大都市であるテセラ・ニバスを『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たちの住まう『異言都市(リンバス・シティ)』へと変貌させたのだ。
 イレギュラーズに言わせれば『ROOにて発生した、ワールドイーターの世界食らいにもよく似た現象』である。
 R.O.O自身が混沌の観測をするために作成された箱庭で有り、それがエラーを発生させたことで独自発展を遂げたものだ。
 本来の歴史にこれが存在していたというならば生命を愚弄しているとしか思えない。
「……これを解決するのも聖騎士の役目だと思う。でも、それ以上に気になるんだ。聖剣は何に共鳴しているのか……。
 今回全てを詳らかに出来るなんて思ってない。騎士としての役目を全うすることが第一だ」
 リンツァトルテはそれに、と付け加えた。
「父の旧友――オリオール卿もリンバス・シティの任務に当たっている。俺もその助けになろうと思う」
 セレスタン・オリオール卿の助太刀のためにも街区の切除に尽力したいのだとリンツァトルテは告げた。

GMコメント

●目的
 街区の切除(ワールドイーターの撃破)

●フィールドデータ
 リンバス・シティ内の街区のひとつ、商業地区でも知られる『ヴェルヴェーヌ地区』です。
 商業地区らしく商店が建ち並んでいますが、ワールドイーターの影響か外観が変化してしまっています。
 街中にはノイズが奔っており、水のようなものが街全体を飲み込んでいるような幻惑を見せます。
 本当の水ではありませんが、認識を阻害しているのか常時判定を繰り返しながら『BS窒息』を与えてくるようです。
 街の中の何処かにワールドイーターと天使、ゼノグロシアンが存在しているようです。

●エネミーデータ
 ・異言を話すもの(ゼノグロシアン)
 元々はヴェルヴェーヌ地区に住んでいた者が狂気に陥った姿です。
 戦闘能力もまちまちです。やけに強い者や回復に長けた者など様々です。不殺スキルで止めを刺すことで救うことも可能です。
 街中にわらわらと存在しており正確な数は分かりません。殺すのも心が痛みますし、厄介な敵ですね。

 ・影の天使 10体
 人間や動物などの形をとった影で出来た天使たちです。倒す事で消滅します。
 何かに祈り続けており、ワールドイーターを護衛しています

 ・ワールドイーター
 頭に大輪の花が咲いているような奇妙な形のワールドイーターです。真っ黒な華がゆらゆらと揺れています。
 お金が大好きです。お金が大好きなので商業地区を食べました。おいしい。
 非常に腹を空かせており、手当たり次第のものを貪り喰らいます。
 非常に威力の高い近接攻撃技を繰り出します。また高い治癒能力を有している様子も窺えます。

●同行NPC『リンツァトルテ・コンフィズリー』
 聖騎士。没落貴族コンフィズリー家の当主。現在は名誉を回復し、ある程度の地位にあります。
 聖剣の使い手で知られ、騎士としての実力も高く(過去は不名誉な存在であるとして敢て一般騎士の座に甘んじていました)信頼に足る人物です。
 イレギュラーズに対しては冠位強欲戦での関わりがあった事から非常に好意的です。
 剣での前線での戦闘が可能。指示があればお願いします。
(また、彼が父の旧知だと読んだ『オリオール卿』とは洗井GMのシナリオ『<被象の正義>異言都市、顕現す』の同行NPCです)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <被象の正義>聖剣の所在完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
コロナ(p3p006487)
ホワイトウィドウ
一条 夢心地(p3p008344)
殿
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手

リプレイ


 ――夜をも霧散させる剣。
 黎明の如き一閃、その剣の所有者こそが没落した『不正義』のコンフィズリーの青年で会った事を共に聖剣を握りしめ戦った『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)はよく知っていた。
 今はロウライトの孫娘として――ただのサクラではなく、サクラ・ロウライトとしてリンツァトルテの隣に立っている彼女は「聖剣の共鳴……」と呟いた。
『聖剣』、それが意味する所を深き眠りについていた『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)は知らない。天義を襲ったあの昏き闇、黄泉還りの禁忌にも触れたあの事件のことをグリーフは詳細に知らないが唯一分かることがある。
「ですが、少なくとも今この天義で起こっている、死者を、生者を歪める一連の件を、その在り方や未来を塗り替え、奪い、おしつける誰かを、私は受け入れることはできません」
 一夜にして帳に包まれたテセラ・ニバスの変化。それにより、この場所に只ならぬ危機が迫っていることは明らかだ。
 天義の各地で起きる遂行者や致命者のことを考えて見ても平時では有り得やしない現象が頻発しているのだ。
「ここがリンバスシティ――話には聞いていたけどROOに発生してた現象が現実にも起こるなんて……。
 ……今起こっている異常もワールドイーターを何とかすれば元に戻るんだよね?」
 ヴェルヴェーヌ地区を見据えた『堅牢彩華』笹木 花丸(p3p008689)はそっと手を差し伸べる。区域ごとに様々な顔を見せるテセラ・ニバスではあったが、現状は区域ごとに大きな異変が無数に存在していたのだ。
「それにしても、聖剣の共鳴か……。対になる盾が近くにあるのかな?
 アレが無くなったのってベアトリーチェの時だっけ? 何かの目的に使おうとして盗み出したんだろうな……」
 所在だけでも確認しておかなくてと決意を固めるサクラにリンツァトルテも大きく頷いた。コンフィズリー家は聖剣を有している。その剣が何かに共鳴し、このテセラ・ニバス周辺を指しているのだ。今から向かうヴェルヴェーヌ地区に存在しないかも知れないが何かのヒントが得られる可能性はある。
「聖剣が共鳴しておる……そしてまた麿の髷も共鳴しておる……。
 間違いなくここにはあるのじゃよ、聖剣、そして麿の髷に縁のあるものがの……」
 ごくりと息を呑んだのは『殿』一条 夢心地(p3p008344)であった。殿の髷も聖剣なのかはさて置いて――
「ほう、コンフィズリーの盾の在り処がわかりそうなのですか。このタイミングで縁があるとは、これこそ運命ですね」
 穏やかに呟く『ホワイトウィドウ』コロナ(p3p006487)は目標であるワールドイーターの切除とゼノグロシアンや影の天使達の対処に関して再度確認する。
(……何れだけ徹底していたとて、今回は『罠』であるでしょう――)
 恐らくは、異言による神託が降ろされたときに聖剣はリンバスシティに有るべしと語られるか、それとも、『なまくらであれ』と告げられるか。
 何方であるかは分からないが聖剣を折る事が目的であると騙られたならばコロナは納得できる。
「呼応する何か、それが盾だと言うなら興味深いな。……まあ、この先に何があるかも攻略してみないと分からないか」
『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)は変容したテセラ・ニバスを見回すように振り返った。一歩でもヴェルヴェーヌに踏み入れたならばその内部はまるで立体プールか水槽の有様なのだ。認識を阻害し、対象の呼気をも邪魔をするというのだから有害である事は変わりない。
「そうでござるな、考え倦ねても答えは出ない。まずは地区の開放からでござる」
 街の異変解決が為に『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はヴェルヴェーヌ地区へと踏み入れた。存在していないはずの水が肺を満たし、呼吸をも害する圧迫感がある。
 じっくりと探索するにも不向きだと夢心地が呻けば、呼吸を必要としないグリーフは初めての『呼吸困難』の感覚に瞬いた。
「こういう幻覚で苦しめるって、莫迦みたいじゃない?」
 本当は存在しない水に溺れる死の幻影。『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)の友人達には覚えのある者も居るだろうか。
 マリカにとって聖剣は正直の所どうでもいい。騎士は騎士らしくノブレスオブリージュを発揮することが役目だろう――けれど、それこそ興味は無いのだ。
 ただ、悦楽と享楽の傍らに立っていたハーモニアの娘は死者の軍団と共に変容した街を行く。


 まるで水底の街だった。天まで伸び上がった青に、周辺に罅割れたように走るノイズ。
 クロバが俯瞰したその場所は大きな水槽と呼ぶべきだろうか。「どうだ」と声を掛ければ飛行をしていた夢心地が「おおお」と声を上げる。
「中々、混み合っておるようじゃのう」
 異言を話す者達は所狭しと存在しているようにも見えた。流石は商業地区だ。人出の多さは街そのものの発展にも由来しているのだから褒めるべきなのだろうが、此度ばかりは褒めることは出来ないか。
 グリーフの指先から飛んでいった2匹の鳥は少しばかり苦しげな様子にも見えた。流石は『ワールドイーターの作る幻影』か。幻惑の水はファミリアー達にも大きな孵化を掛けているようだった。
「一先ずは前進しましょうか。大通りは避けた方が良さそうですね」
「そうじゃのう。一先ず麿は建物の影に隠れてすにーきんぐ・みっしょんじゃ!」
 天晴れ、夢心地が己を扇で仰げば花丸は「オーケー!」と上空に手を振った。案内に従いながらも地上でその感覚を研ぎ澄ませる花丸を支援するグリーフは息を潜める。
「ワールドイーターの居場所か……情報から察するに貴金属や宝石を取り扱ってる店、もしくは銀行とかが近くにあればそっちに行ってたりしないか?  金が好きだというならそういうところを回っている可能性が高く感じる」
「そうだね。お金のいっぱい集まりそうなところってどこだろうネ。銀行とか? こういうのは決まって大通りにあるものじゃない?」
 マリカの言う通り、そうした店は大通りに密集しているだろう。出来る限り人目を避け、敵を避けて『目的地』を探すならば索敵の眼が必要だろうか。
「マリカちゃんは敵(ザコ)が出て来たらやっつけてあげるよ♪」
「……俺も索敵では役に立たないが護衛なら任せてくれ」
 緊張を滲ませたリンツァトルテにコロナはくすりと笑みを浮かべた。リンツァトルテの誠実で真面目な所は好感が持てる。
「さて、久方ぶりの共闘ですね。リンツ様。巷で聞く不吉な事態、なかなか細工の多い謀略のようで」
「ああ、久しぶり。コロナ。……何だか、成長を見て貰う気がして些か気恥ずかしいな」
 肩を竦めるリンツァトルテは周辺警戒に当たっていた咲耶に「サポートに当たらせてほしい」と声を掛けた。
 頷く咲耶も身を屈めれば感じられた息苦しさが何とも言葉にし難い感覚だったのだろう。僅かに表情を歪めたが――「よし!」と声を上げたロウライトの孫娘はイレギュラーズの少女に似た女神像を手にしていた。
「サクラ、それは?」
「これは御守だよ。船乗りさん達がよく使うらしいんだ」
 にこりと微笑んだサクラは出来る限り敵を避けて動く事を念頭に入れてから、ふと、聖剣を腰から下げて居るリンツァトルテをまじまじと眺めた。
「ワールドイーターは聖遺物を核にするっていう話もあるし、リンツさんの聖剣が共鳴してる対象の方角がわかるならそっちを目指してみない?」
「成程……?」
 聖遺物が何らかの影響をワールドイーターに及ぼしている可能性はある。ならば、リンツァトルテの聖剣に従い方角を定めつつ、銀行などを探すのも良い指針だろう。
「なら、其方に進んでみようか」
 貴金属店や銀行を探しながらもクロバはリンツァトルテの不安そうな横顔を眺めていた。
「聖剣さんは『対がいる』と言っているようですね。何となくですが……はっきりと声が聞こえないのはこの空間だからでしょうか」
 グリーフは聖剣の声が聞けないかと対話を行って居た。この空間は『呼吸が出来ない』という認識阻害が働いているためか妙に、全てがちぐはぐだ。
 それこそがワールドイーターの腹の中、なのだろうか。内部に居るワールドイーターは更に腹を満たすために喰らい続けて居るのだからマトリョーシカのように全てが細かく刻まれて、消失してしまうと思えば恐ろしい。
「……彼方にあるのは貴金属店でしょうか」
 コロナが物陰から覗き込み指差した場所は閑散としていた。だが、ゼノグロシアン達の数が少ないことがある意味で目を引く。
「チャリチャリ音がするね」
「ちゃりちゃり……何か居るのかもしれない。言ってみようか」
 花丸が耳を欹て、サクラは一堂を促した。辿り着いた貴金属店の中では大輪の花がふわふわと揺らいでいた。


「むむ、これは何という大食漢! これは暴食、いや強欲でござるか?」
 座り込み貴金属類を頬張っていた巨大な花が咲耶の声に反応する。その様子は一見チープな光景でもあった。
 ワールドイーターは話す事はないがちゃりん、ちゃりん、とコインの弾む音をさせて立ち上がる。まじまじとイレギュラーズを眺めた後、はっとしたようにリンツァトルテを見据えた。
「やっぱりリンツァトルテさんを狙うんだ、この食いしん坊さん!?」
 花丸は直ぐにワールドイーターの元へと踏み込んだ。傷等だけの拳を固め、瞬時に間合いを詰めた花丸の髪がふわりと揺らぐ。
「ねえ、気になってたんだけど聖剣の共鳴の反応、この食いしん坊さんから出てたりはしない……よね?」
「いや、違う……筈だ」
 そうでは無い筈だとリンツァトルテは首を振るが、認識が歪むこの空間では其れ等全てを理解することは出来やしない。
 ワールドイーターはコンフィズリーの聖剣ばかりを狙っている様子であるのが気に掛かる。まるでそれを喰えば腹が満たされるとでも言わんばかりの求めようである。
「聖奠聖騎士、サクラ・ロウライト。参る!」
 堂々と名乗り上げたサクラがロウライト家伝来の刀を引き抜けばワールドイーターがぷるぷると震えた。どうやら、『おいしさ』を考えて居るようである。
「食べ過ぎたら、お腹から破裂しちゃうよ?」
 蠱惑的に笑ったマリカは『お友達』に獲物を預ける。死者を従えるネクロマンサーは『踏み潰すように』して周辺の天使達を退けた。
 ぐちゃり、と腐った果実にそうするように、淀みなく叩きつけられる一撃に天使達は影と化し消え失せる。
 背後から迫り来るのは騒ぎを聞きつけたゼノグロシアン達か。「仕方がありません」と静かに目を伏せたグリーフは店舗の入り口でゼノグロシアンを引き寄せる。自律する盾はあらゆる攻撃を遮断し、敵へと嘲笑を送り続ける。
「その頭に咲いている花――椿の如く、落としてやろう!」
 オプスキュリテが風を切る。形無しの斬舞がワールドイーターへと叩きつけられた。
 鮮やかな花。黄金色にも見えたそれは柔らかな動きと共に揺らぐ。
「リンツさん!」
「ああ、任せてくれ。サクラ、合せていく!」
 まるで『あの日』のように。共に同じ相手へと狙いを定める。影の天使を切り裂くサクラの剣技は天空の竜をも堕とすが如く。
「こうして剣を並べるのは久々だね。頼りにしてるよ!」
「……サクラには置いて行かれた気もしているけれどな」
 ぼやくリンツァトルテはイレギュラーズの旅路に僅かな憧憬を抱いているかのようだった。あの伝説の竜と相対する彼等と轡を並べている等とは宣うことも出来ないと真面目な青年は剣を翻す。
「チョエエエエエイ!」
 髷の共鳴を感じながら夢心地は叫んだ。殺さずの剣は即ち殿の慈悲である。ワールドイーターを護衛せんとしたゼノグロシアンを退け、師の名を冠する太刀を握る掌に力を込めた。汗が滲んだその掌で感触を確かめる。殺す為ではなく生かすために放った攻撃とは別の確殺自負の殺人剣を披露する。
 ちゃりん、と音を立ててワールドイーターが跳ねた。
「逃がッ――さないよ!」
 慌てて振り向く花丸が勢い良くワールドイーターを殴りつけた。軽かったのだろうか、その暴食ぶりからは想像つかぬ軽さでワールドイーターが壁と叩きつけられる。
「聖剣さんを食べさせるわけにはいきません」
 静かに告げるグリーフは己を見たワールドイーターが『おいしそう』とその眼で語っていることに気付いた。本能的に感じた被食者としての感覚はこの空間特有のものなのであろう。
「笹木さん、どうやら私がワールドイーターの食事のようです」
「宝石も、聖剣も、お金も何もかも食べるって……キラキラしたものが好きなのかな?」
 ぼやいた花丸とグリーフが立ち位置を後退する。美味しい『食べ物』がやって来たと飛び込んでくるワールドイーターは隙だらけだ。
「美味しく頂かれる訳には行かないんだ――!」
 大地を踏み締めてサクラは鋭く一閃を投ずる。身を翻し、一刀に続く追撃。柄を押し込んだサクラは体重全てを掛けワールドイーターを地へと叩きつける。
 食事にばかり目を取られていたワールドイーターがちゃりん、ちゃりんと音を立て抗議するように蠢いた。貪欲さは評価できるが、それだけでは生き残るには適さない。
 ただ、ただ、腹を空かせたそれを前にして分解(わけ)る刃を振り下ろしたクロバは花の根元に刃を食い込ませた。固い、まるで金属に擦れるような音が立つ。
「グッ――!」
 押し込まんとするクロバに続きリンツァトルテが聖剣を振り下ろした。
 眩く火花が散る。
「ここまで為れても聖剣を食べる気か、コイツは」
 思わず呆れた声を出したリンツァトルテに夢心地が「それだけ腹を空かせて居るなら立派じゃのう!」と手を叩き笑う。
「食べさせるわけには行かぬでござるがな」
「ええ。コンフィズリーの聖剣は即ち天義にとっては秘宝にも該当します」
 咲耶へと頷くコロナはスゥと目を見開いた。強化されていた聴覚も、音の反響も、全ては必要は無い。閉ざした眸で真っ直ぐに見詰めたワールドイーターは『音』と違わぬ強欲さだ。
 ちゃりん、と音を立てせめてグリーフの『コア』だけでも喰らわんとするワールドイーターは一つでも多く、とそれしか頭に存在していなかったのだろう。ただ、『何かを喰らう為だけに産み出された』歪な生物でしかない。
「神は貴方が喰らうことを赦さぬでしょう――」
 巡礼者の娘は淡々と告げ、彼女の宣言と共に飛翔する咲耶の鋭き一撃がその命脈を絶った。
 ワールドイーターの花がぽとり、と堕とされた途端に唐突に身体が浮上して行く感覚が襲う。
「ぷあ」
 花丸が思わず息を吐出せば先程まで感じていた息苦しさが遠離り――周辺が罅割れ、『R.O.O』の如きノイズが遠離って行く。


「麿の髷はまだ何かに共鳴しておる(気がする)」
 夢心地が鋭い視線(?)を投げ掛ければマリカは「良く分からないけど、見つかってないんだ?」と崩れ去っていく『水槽』を眺めていた。
 栓が抜かれたように水が渦を巻き地へと消え去って行く。天より日常が帰ってくる様子は神による恵みの如く、だ。
「聖剣は何と共鳴していたんだろう? 探してみようか」
 手を上空に差し伸べても濡れることはない。あの苦しさも遠離り、聞き及んでいた普段通りのヴェルヴェーヌ地区が見えれば肩の荷も下りたかと花丸はぐんと背伸びをした。
 しかし……残る問題と言えばリンツァトルテの聖剣が未だに何かと共鳴し『対』を探していることである。
 これにはリンツァトルテとて困惑していた。認識を阻害するワールドイーターの影響が失せた今も、聖剣は何かを探し求めているのだから。
(聖剣の所持者さんも、聖剣さん自身も、私にとっては保護対象です……そして、聖剣さんが求めるどなたかも。
 しかし、まだ見つかっていないのならば――聖剣さんは誰を、求めていたのでしょうか)
 グリーフは不思議そうにまじまじと見詰めていた。聖剣は確かに『対』を探している。周辺系顔うぃしていたコロナは認識阻害された『外』の何かと共鳴しているのだろうかと閉じた瞼越しに外界を確認していたが――
「……オリオール卿……?」
 聖剣の共鳴を感じながらリンツァトルテはぽつりと呟いた。
「リンツァトルテ? 何か見付けたのか?」
 呼び掛けるクロバにリンツァトルテは合点がいかぬと言った様子で不安げな表情を見せる。幼い少年のような表情は、不正義と謳われた時の彼を思い出させてサクラは些か不審そうに彼を見遣った。
「どうかしたの? リンツさん。盾の所在が分かった、とか?」
「いや……違う、んだが……」
 聖剣を眺めるリンツァトルテに咲耶は彼の視線の先を眺める。
 テセラ・ニバス――否、『異言都市』の探索に挑むセレスタン・オリオールの姿が見えて咲耶はただ、ただ、違和感ばかりを覚えて居た。
「……オリオール卿だったでござるか? 彼が何か?」
「いや、違う……。その、オリオール卿は亡き父の――イェルハルド・フェレス・コンフィズリーの旧友だったんだ。
 だから……何か知っているのではないかと思っただけで、多分……何も、ないさ。すまない、今日はヒントはなかったみたいだ、な……?」
 首を振るリンツァトルテは口が裂けても言えやしなかった。聖剣が示した先が彼かもしれない、だなんて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 セレスタン・オリオール卿、一体何者なんだ!

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