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シナリオ詳細

<晶惑のアル・イスラー>ビドアの采配

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 紅血晶。
 それはラサの市場に流通しているとされる宝石だ。
 『される』と言うのは大規模に出回っている訳ではないが故に……つまり流通している量はそう多くないのだ、が。まるで人を魅了するかの如く美しいソレは確かに存在しており、一部では商人たちが躍起になって集めんとしている。
 鮮やかなルビーを思わせたかと思えば、宵闇の気配さえさせる宝石。
 誰もが手にしたいと思える魅力を宿している――
 しかし同時にソレには不穏なる噂もあった。
 その宝石を手にした者は、やがて『化け物』になり果てる――と。

「愚かな。美しさに魅了され、何ぞやの気配も感じえぬとは……」

 ラサの首都ネフェルスト――
 2月14日。グラオ・クローネに湧くラサを見下ろす様にしながら、ある一人の男は呟いた……その者の名はソル・ファ・ディール。ある部族の長にして、少し前に一族ごと失踪した人物であった。
 行方は一切知れず――しかし彼は今、ネフェルストに姿を現している。
 まるで何事もなかったかのように。どこか超然とした様子で、腕を組みながら。
 ――が、彼は一人ではない。ソルのすぐ傍には異形の精霊の姿もあって……
「仕方あるまい、人とはそういうモノだ。
 深き水底の果てまで見据える事が出来る者などそうはいない。
 ――あぁ。ピオニーならばなんと言うだろうな。人の可能性でも示唆するだろうか」
 その精霊は語るものだ。ピオニーなる人物の名と共に。
 『ピオニー』とは、かつてファルベライズ事件の折にも暗躍していた『博士』なる人物の名だ。ガルトフリートは『博士』と関わりがあるのだろうか――?
 分からぬが、しかし。確かな事は両名から『不穏なる気配』が見え隠れする事だ。ガルトフリートからはまるで呼び声の様な『圧』が見える。もしかすれば彼は魔種かもしれないと……相対する者は感じるやもしれない。一方のソルは――なんだ――?
 ガルトフリートとは異なる気配を感じ得る。
 魔種? いや何か分からないが、違う様な……
 ――ともあれ。両名はネフェルストに姿を現していた。
 その目的が何かは知れぬが、しかし。
「う、うわあああ――!! 化け物が、化け物が出たぞ――!!」
「傭兵団はどうした!? オイ、誰か連絡を――!!」
 直後。ネフェルストの一角に混乱が生じえる。
 突如として郊外部に怪物が現れたからだ――ソレは一体なんと形容すべきだろうか。まるで『竜』の様にみえなくはないが……しかし違う。よくよく見れば大まかな形が似ているだけで、実際には数多の獣を掛け合わせた『キマイラ』の如き存在であった。
 が。突然の事態に恐れおののく者にとって、斯様な真実など見極めている暇はない。
 恐怖に混乱が巻き起こる――グラオ・グローネに血が走らんとしている――
「傭兵団は?」
「既に『処置済み』だ。其方もだろう?」
「あぁ――何のことはない。脆弱なる者達ばかりだ」
 一方でソルにガルトフリートは、そんな恐慌などどこ吹く風。
 知らぬとばかり。涼し気に会話を交わせている……
 まるで。『竜』の如きその怪物の襲来を知っていたかの様に。
 まるで。自分達こそがその『竜』を放ったかの様に。
「往け。『晶竜』ベディートよ。存在を示せ。
 貴様の意義を果たし『月の女王』の望みを叶える一端となるがいい――」


 ――そして。ローレットに急報が齎された。
 ラサのネフェルストの各地で妖しげな化け物たちが暴れているという……
 今日はグラオ・クローネだというのに、とんだ日だ。
「また『紅血晶』絡みの事件か――?」
「さて。分かんねーが、依頼となりゃ放っておけねぇな。
 ……しかし傭兵団もいる筈なんだが、どうしたのかね?」
 言を紡ぐはラダ・ジグリ(p3p000271)にルナ・ファ・ディール(p3p009526)の二人。
 両名ともにラサに縁深き者達である――
 だからこそ最近この国で起こっている『紅血晶』の事には機敏であった。人を怪物に変えるという事件……二人共、ラサより出た幾つか依頼に着手してもいる。サンド・バザールを中心に出回っている宝石の騒ぎがまた関連しているのだろうかと――
「未確認だが傭兵団は何者かにより襲われ、半壊状態にあるとか……
 現場近くで動けるのは我々だけなんだろうな」
「とにかく急ぐっきゃねーか――って、んっ?」
「どうしたルナ?」
 ともあれ、と。現場に向かわんとするルナ、が何かに気付いた。
 移動の最中。視線の端に……知古たる者の姿が映った気がしたのである。あれは――
「――いや。まさか、な」
 頭を振る。行方不明になった己が兄の姿が映った気がしたが――
 見間違いかもしれないと、思えばこそ。
 駆け抜けよう。今はただ、ラサの街を。
 ……空には月が出ていた。
 どこか妖艶な。神秘な気配を感じる日であった。

GMコメント

●依頼達成条件
 敵勢力の撃退。

●フィールド
 ラサ、ネフェルスト郊外に存在する市街地です。
 化け物が現れ暴れています――皆さんはその撃退を依頼されました。時刻は夜ですが月も出ていますし、ネフェルストの街並みは夜でも明るいので視界に問題はないでしょう。近くには逃げ遅れている一般人もいる様です。
 彼らの生死自体は依頼の成否に関係ありませんが、可能であれば避難誘導してあげてください。

 なお。近くには傭兵団もいた……のですが何故か訪れません。『何者か』によって襲撃されたらしく半壊状態との事です――イレギュラーズ達だけが頼りです。

●敵勢力?
●ソル・ファ・ディール
 タウロスの一族。その長であった人物です。
 『力のある男が長』とする一族で長だっただけはあり卓越した戦闘力を宿しています……が。ある日一族は彼を含めて全て失踪しました。その原因は未だに不明ですが、激しい戦闘の痕もあったとか……
 今回、ガルトフリートと共にネフェルストへと姿を現しました。現在、彼がどのような思惑を持っているかは不明です。が、意味深に晶竜らの行動を観察している様に見え不穏な気配が見受けられます……

 シナリオ開始当初は戦線に参加する様子は見られません。
 が、最後まで全く動かないかは不明です。

●ガルトフリート
 ラダ・ジグリさんの故郷『ヴァズ』に祀られていた大精霊『ギバムント』の守護者にして守人――であった人物です。ギバムントとは疫病を齎す精霊と伝えられる存在であり、本来ガルトフリートはギバムントの遺跡を管理、封じ続けていました。
 しかしある日、遺跡は完全破壊されガルトフリートも失踪。
 その後は長らく行方が分かっていませんでしたが、ソル・ファ・ディールと共にネフェルストに姿を現しました。現在の目的は不明ですが、晶竜らの行動を観察している様に見えます。

 シナリオ開始当初は戦線に参加する様子は見られません。
 が、最後まで全く動かないかは不明です。

●敵勢力
・『晶竜』ベディート×1
 晶竜(キレスアッライル)と呼ばれる存在です。
 なんとなく形は竜種を司っている様な気もしますが、竜ではありません。むしろ様々な獣が合わさったキマイラの如き存在です……一応翼らしきモノも持っているのですが、飛べたりしません。実に歪な存在です。

 しかし巨体を活かした攻撃は侮れません。多少の壁など容易く粉砕しうる突撃などで建造物ごと皆さんを押しつぶさんとしてくる事でしょう。
 更に体の各部でそれぞれ別の行動を(つまり複数回の攻撃を)行う事がある様です。
 ベディート本体とは別に『左の翼』『右の翼』『尻尾』が攻撃を行ってくる事があります。

『左の翼』は多くのBSを撒き散らす風を。
『右の翼』は『防技・抵抗・反応・命中・回避』を一つずつランダムに下げる(特殊なBS扱い)特殊な風を。
『尻尾』は高攻撃力の薙ぎ払いを行ってきます。

 ただし『左の翼』『右の翼』『尻尾』にはそれぞれ別個のHPが存在しHPを0にするとその部位は動かなくなります。また、各部位のHPが残っていてもベディート本体が先に倒されれば各部位も同時に動かなくなります。

・『晶人』(キレスドゥムヤ)×10
 紅血晶を有していた者の転じて至る存在です。
 完全に異形に転じており、最早意思の疎通も不可能な怪物です。辛うじて人間の姿には見えますが全身が粘着性のある血液の様なモノで覆われています……近くにいる人間などに殴りかかる様子を見せています。
 『晶竜』と共に暴れています――撃退してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオでは『何らかの肉体への影響』を及ばす『状態変化』が付与される可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <晶惑のアル・イスラー>ビドアの采配完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月06日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 ――『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は、見た。
 ラサのサンド・バザールで暴の嵐を吹かす『ソレ』を。
 竜。いや、竜ではない……これは。
「紅血晶。求めたものを変容させるこの結晶は……
 ここまでの異様にして異形を生み出してしまうものなのですね。
 欲望の末路。強欲の果て……こんなものが存在するなど……」
「――そして。こんな事態が生じていても傭兵団も来れていないとは。
 偶然とは思えません。何か、感じますね……泥の様な妖しげな気配が」
 同時。現場へと駆けつけた『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)も一度周囲を見回すものだ――市民が恐慌に陥っているというのにラサに常駐しているはずの傭兵団が訪れないのは妙である、と。
 竜の如き模倣存在の襲来。傭兵の気配がない事。
 なんぞやの陰謀を感じ得る。何らかの介入がなければここまで被害が大きくなる筈が……
 だが如何なる思惑が潜んでいようとも、放っておくわけにはいかない。
 この事態、早急に解決しなければ――故に。
「こっちだ! 怪物共は私達に任せておけ、今は逃げる事だけを考えるんだ!」
「やれやれ。竜に似た威容、しかし確かに竜ではない異形が相手とは……
 紅血晶はあんなものまで生み出せる……と。中々に面倒な代物ですね。
 可能な限り引き付けます。ラダさん、民間人の避難はお任せします――」
 『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はまず声を張り上げて、混乱する民の避難誘導を行わんとするものだ。追撃せんとしてくる敵があらば『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が前へと出でて押し留めようか。
 それでも至らんとする晶人がいればラダの射撃が降り注ごう。
 こんな危険地帯からは一刻も早く避難させなければ……
 故にシフォリィも動き出す。彼女は前線へと跳躍し晶人らを相手取るのだ。邪悪のみを払う光を敵陣へと叩き込めば――動きに鈍りが見られる。そこへマリエッタの紡ぐ熱砂の嵐が一閃。纏まっている連中をこの機に叩かんとし……
「……この臭いは……いや、しかしそんな筈は……」
 ――直後。『何か』を感じえているのは『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だ。先程刹那に映った、目立つタウロスの体躯に――古い記憶の中で覚えのある、嗅ぎなれたモノが嗅覚に捉えられた、のだが。
 何かが違う。どこかが違う。
 分からないが違和感がある――なぜ、族長のあいつが一人で?
「くそ、今は目の前をどうにかすんのが先、か。
 ラダ! 俺ぁこいつらを引っ張ってく! 誘導頼んだぞ!」
「ああ任せてくれ。連中の餌食になど誰もさせんよ! っと、すまん、この人を頼む!」
 が。迷っている暇はなさそうだとルナはラダに一声かけつつ、避難誘導の援護に回るものだ。彼の卓越した機動力に掛かれば、人を戦域外にまで運ぶのも容易い――そして戻ってくるのも、だ。
 巻き込ませる訳にはいかない。最悪の場合、連中の影響で晶人が増えぬとも限らぬのだから。
「晶竜が来るぞ――此処で押し留める他ないな」
「とりあえず色んな生き物集めました、みたいなすごい見た目してるのですよ! えーい! こんなのルシアに任せるのでしてー! ちょちょいのちょちょちょちょいと吹っ飛ばしてみせるのでして――!」
 が。やはり懸念は中央で暴れ回っている晶竜の方かと、奴から届く暴風の如き勢いを『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は凌ぎながら、反撃の一手を紡ぐものだ。こんな程度で泥が揺らぐかと――奴の注意を引き付けんと大立ち回り。
 然らばマッダラーが引き付けた一瞬の隙を『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は見逃さない。凶悪にして狂暴なる面をしている晶竜だが……だからこそ倒しやすいとも思えばこそ。
 彼女の全霊たる魔砲が紡がれるのだ。
 殲滅の意思を伴う一撃は人域に在らぬが如き輝きを秘めている――
 ついでに奴の近くにいる晶人共も巻き込めるだけ巻き込んでやろう。
 ただの魔砲といえども! 極めているのがルシアなのでしてー!
「悪趣味な色合いの化け物に趣味の悪い竜擬き、どちらも食欲はそそりませんね。
 ……というかむしろあんな色をしているのが癪に障ります。
 只の紛い物風情が何を気取っているつもりなのか――」
「ラサはこういう輩に縁があるねぇ。ま、何にせよ、私としては遺跡調査の拠点に使っているこの街を荒らされるのは困るものだ。さっさとお帰り願うとしようか――或いは灰にでもなってもらおうか」
 更にルシアに続く形で『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)に『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)も戦線へと介入の動きを見せるものだ。両名とも、まずは竜の姿をした者よりも晶人を先に排除せんとする――
 近くにいた個体をクリムが強襲する様に斬撃を振るえば、更にゼフィラが薙ぐ様に。
 召喚したミニペリオンの群れが敵へと襲い掛かろうか。そして。
「――見ているわね。ずっと、こっちを」
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は気付くものだ。
 彼女は周囲に精霊が在らば協力を頼んだ。傭兵が来ないという不審さから、更なる敵の戦力が潜んでいるのではないかと……然らば晶竜側を観察している様に見据えている二人組を見つけたのだ。
 なんだ、あの二人は? 今の所その者達に動く様子は見られない、が。
 ラダやルナ達が声を掛けている民間人の様な混乱は一切見られない。
 只者でないのだけは確か。であれば……
「……こっちに何かしようとしてたら教えて。お願いね」
「ふむ。なんぞやの気配があるのなら、私も使い魔を飛ばしておきましょうか。
 しかし……見ているだけならばまだしも、無粋な真似は控えて頂きたいものですが」
 オデットはそのまま精霊達に彼らを見る事を頼んでおくものだ。同時にアッシュもファミリアーの使い魔を上空へと飛ばし、空から様子を視させておく――動かないのならそれで良し。動くのならば、邪魔をするならばいつでもブン殴れるように。
 吐息一つ。眼前の晶人らを見据え、熱砂を伴う砂嵐で――敵を薙いでいこうか。


『ゴ、ガ、ァ、ぁ、ア――』
「流石にこんな外見の相手の血は飲んでみたいとは思いませんね。
 気色の悪い。触れただけでなんぞやの病を貰ってしまいそうですよ」
「ルシアもようやく温まってきました――これからが本番なのでして!」
 最早、言語を介する事も出来ぬ晶人。その喉からは低い唸り声しか聞こえぬ。
 全身に纏わりついている粘着性の血――の様なモノをクリムは見れば、舌打ち一つ紡ぐものだ。彼女は血を喰らう一族の者として血液に縁もあるのだが、しかしこのような雑多なモノなど口にしたくもない。
 ――連中の一撃が紡がれる。拳を振り上げ、クリムらへと襲い掛かってくるのだ。
 故に吹き飛ばす。奥にも巻き込めそうな個体があらば魔砲の一撃を振るおうか。
 直後には調子の挙がってきたルシアも敵陣へと魔力を紡ぎて。
「彼らも被害者であるのでしょう。しかし、こうなっている以上もう加減も救いも出来ません……弔う間もなく申し訳ありません……が。此れ以上同じ異形を生み出す訳にはいかないのです」
「まるで、強すぎる力に耐え切れなかった者の末路、ですね……
 紅血晶は人々の目を眩ますものだけでなく、人々をこうまでするとは……」
 続けてアッシュも地を這う雷撃によって晶人らを狙い穿とうか。連中の身を痺れさせ動きが鈍る個体が出てくれば、続けざまに気糸の斬撃によって――その身を両断せんとする。マリエッタの熱砂の一撃もまた飛来すれば効率よく敵へと撃を叩き込んでいけようか。
 しかし、マリエッタは同時に想うものだ。
 紅血晶。もしもこれらが、与えた力が『強すぎる』が故の原因であれば。
 受け止め切れる者が持つのであれば――
(……いいえ、いけません。正にこの感覚こそ『黄金に目が眩む』と言う事。私は私として――)
 やる事があるんですから。
 マリエッタは脳裏に過った誘いを掻き消す様に頭を振り、再び眼前を見据えよう。
 まだ晶人らは健在。その上で、最も厄介と思わしき晶竜もいるのだ――今は犠牲者たちの為にも、せめて……この紅血晶からその血と魂を奪い、未来へと送らせていただきます。
「ホント。近くで見るとよりとんでもないデカブツね。
 でも幸いと言うべきかここはラサ――熱砂の精たちも喜んで暴れてくれるわ。
 その身をもってして味わってもらいましょうか。この国の熱を」
「さぁ唄え。月明かりの下で、我らは我らの意思を高々と掲げるのだ――」
 そして。その晶竜を押し留めんとするのがオデットにマッダラーであった。
 オデットは竜を中心に狙いつつ、更に近くにいる晶人も引き続き狙っていく。
 こんな余計な生き物をいつまでも暴れさせてやる道理などないのだから。
 同時――マッダラーは謳うものだ。

 ――お前の攻撃はそんなものか、俺はまだ生きているぞ。

 竜の攻撃が至ろうとも痛みなどないが如く。
 謳う。歌う。唄う。月明かりに乗せて、月に馴染ありし音色を響かせて。
 自らが率いる協奏馬たちと共に立ち回るのだ――無論、協奏馬たちは戦いの代物ではない故に晶竜へ抗う事は叶わぬ。奴が暴風を放てば吹き飛んでしまいそうである。が、それでも意地は見せんとするものだ。
 例え彼奴に抗えねども魂は折れぬと。泥は決して崩れる事はないと――
 嫦娥奔月。泥人形も不老不死も、然して差はあるまい。
 食い止める。せめて、民間人の避難が完了するまでは、と。
 晶竜の喉奥から絞り出される獣の唸り声を全身で受け止めつつ、マッダラーは――
「――すまない、遅くなったな! 民間人たちはもういない。後は遠慮せずに戦える!」
「さぁってと。あんまり時間かけては居られなさそうだよ、な。
 ……ちっとばかし嫌な予感もしやがる。全力でぶち込ませてもらうぜ?」
 と、その時だ。遂に避難誘導が完了したラダとルナが戦線へと舞い戻った。
 ラサで名高きラダに従う者は多く、その上でルナの運搬も加われば民間人の方に被害が出る前に目的は完遂する事叶った。後は暴れているあの化け物共だ――と。ラダは連射を敵陣へと行い、その場を制圧せんと試みよう。
 同時にルナは晶竜を見据える――その瞳で奴の解析をも行いながら、だ。
 歪な存在。歪な気配。
 その根底には何があるのかと……自らに数多の撃を遮断する術を掛けながら、往こう。
(……なんだ? 何か、見覚えがある様な)
 しかし、解析の術を使った際に過った――懐かしい感覚は、なんだろうか?
 何か。いけない気がする。『これ以上、自分がこれを調べる』のは。
 ルナの胸中が――ざわつくのだ。
『ガ、ァァ……ギィィィィィ……ッ!!』
「――晶人らを押し込もう! 怯んでいるぞ!」
「人にして、もう人でない存在……成れの果ての儘苦しむのは本意ではないでしょう。
 このままにしておく方が酷です。せめて――痛み少ない内に、終わらせてあげます」
 同時。晶人側の戦況はひとまず優勢であった。
 避難誘導に当たっていたラダ達が戻って来たのもあるが、初手より対応に当たっていたゼフィラやシフォリィの活動が大きい。ゼフィラは敵に撃を与えつつ、晶竜の暴風などが舞い込みて負が齎されればすぐさまに態勢を立て直す号令を下す。
 そうして万全な状態であれば――シフォリィの一撃が輝くのだ。
 再び、敵のみを払う光によって敵を打ちのめしていく。
 トドメは後でも良いし、近くにいれば今でも良い。
 倒れ伏す個体。剣撃打ち立てれば数も徐々に減っていくものだ――
「よぉーし! 後はあの竜なのでしてー!
 残ったのと一緒に吹っ飛ばしてやるのです! ルシアの力……見るのでしてー!」
『――――!!』
 であればと、ルシアの全霊が竜の方へと注がれ始める。
 晶竜はイレギュラーズに抗する様に風を幾度も振るうものだが、しかし。斯様な風はルシアには一切通じぬものだ。痛みはあるが故に無敵とはいかないが――それでもマトモに受けてしまう者よりは楽であるには違いない。
 故に正面へと。当たる事なんて最初から許容していれば――問題ないのでしてー!!
「これが全力全開! ルシアの魔砲ですよ――!!」
 だから振るう。ルシアは魔力を紡ぎ、竜へと。
 例え当て勘が鈍っても! その大きな図体に当てることなんて何ともないのでして!!
 超収束させた一閃が――戦場へと瞬いた。

「ほう。随分と『やる』奴らがいるものだ」
「――では。そろそろ?」
「うむ。だがもう一時見据えよう。連中に余力がある状態では予期せぬ反撃があるやもしれん。晶竜が勝つのであればそれはそれでも構わんし、な」

 ――同時。その光景を見ていた『二人』は何やら会話を始めるものだ。
 イレギュラーズ達の奮戦を見据え、値踏みする様な視線も向けながら。
 一体なんぞやの思惑があるのか。
 オデットに頼まれ彼らを観察していた精霊がもう少し近くでその話を聞かんとした――瞬間。
「虫けらめ。先程からちょろちょろと、煩わしいぞ」
 ガルトフリートの視線が、向く。精霊を捉える様に。
 直後。圧の如き力によって――精霊が、打ち消された。


「……ッ!? 皆、警戒して! 『二人』が動き出すかもしれないわ……!」
「こちらの使い魔も潰されましたね。碌な事が起こりそうな気配ではありません……」
 精霊の気配が途絶えた――その事にオデットはすぐさま気付いた。同様にファミリアーの使い魔を飛ばしていたアッシュの方も、だ。魔力か、それとも別の何ぞやの攻撃か……知らぬが使い魔との共有が出来なくなったのだ。
 が。其方へ対応の為に歩を進める余裕はない。なにせまだ晶竜は健在だ。
 奴の身は全身が武器とも言うべき存在。
 左の翼、右の翼、尾に加えて本体もいるのであれば、やはり容易くはいかぬものだ。奴の振るう暴風が依然としてイレギュラーズ達を襲い続ける――近付かんとすれば尾の薙ぎ払いや、本体の牙が至ろうとしようか。
 家の壁すら砕かんとする程の一撃。マトモに受ければタダでは済まぬ。
『――――!!』
「金切り声が高いな……奴の突進には気を付けろ。踏みつぶされれば厄介だぞ」
「あぁ。だが、任せたまえ。この身、泥人形の身であれば――潰されても問題はない」
 故に、ゼフィラは状況に応じて治癒の力を振るう。
 傷ついた者を中心に治癒し態勢の維持に努めるのだ――そして最前線ではマッダラーが奮戦する。潰されても何度でも立ち上がろう。伊達や酔狂でこの身体をしている訳ではない……あぁ。例え敵が竜の如き姿を成した紛い物であろうとも。
「月が沈むまで相手をしてやる。望むのならば永久でも――泥が朽ち果てると思うべからず」
『ギィィィ――ッ!!』
「攻撃を絶やさぬ様に攻め立てましょうッ! 左翼を潰し風を封じます――!」
「ええ。まずは奴の風を叩き潰すのが先決ですね」
 然らばマッダラーに気を取られた隙をシフォリィとアッシュが突くものだ。
 気力を奪うが如き波動を身に宿す彼女の動きはまるで神速が如く。そうして狙うは、イレギュラーズらの動きを乱さんとする力を宿す左翼だ――花吹雪が如き極小の炎乱にて幾度も穿とう。歪なりし体の隙間に入り込ませる様に。何度も、何度も。
 直後にはアッシュも、竜の身を這う雷撃をもってして左翼から右翼へと撃を放つ。
 先に狙うのは左翼だが、纏めて狙い穿てればそれに越したことはないのだから――
「まだまだ尻尾や右翼もありますからね……っと! 意外に素早く動きますね……!」
「この戦い、こちらが崩されてしまえば負けになります。
 確実に……着実に……一つ一つ潰していきましょう。
 晶人らが倒れた以上、数の上ではこちらが上です……! 優位を活かせます!」
 直後。斯様なシフォリィを煩わしく思ったのか竜は尾で彼女を狙うものだ――薙ぐ一閃が紡がれれば、シフォリィは咄嗟に屈んで回避する、も。背後にあったテントなどはまるで塵屑の如く撃ち払われる。
 ――直撃していればどうなっていた事か。
 やはり油断はできぬとマリエッタは魔力を収束させながら紡ぐものだ。
 熱砂の嵐や、血の魔術を振るいて。竜の周囲に展開させた血の杭が――奴めを襲う。
 囲い、圧縮し、串刺しとし。
 竜の身を穿たんと超越の一閃を幾度も紡ごうか。奴が倒れ伏すまで……!
「無理はされませんように。体が重い時は、距離を取るのも手です」
「ええ。でも、竜にもまだまだ余力がありそうだわ……! 攻め立てないとまずいかもね」
「ああそれに――これ以上暴れさせていれば、街の復興費も嵩むしな!
 えぇい。ラサを襲ってくる連中はこれだから困る!
 ラサだって無限に金が巡る訳ではないんだぞ!」
 同時。マリエッタは味方の動き、敵の風によって鈍っていると判断出来れば、負を祓う援護に注力するものだ――さすればオデットの熱砂の一撃が竜を包むように攻め立て、直後にはラダの一斉射撃も降り注ぐ。
 竜が巨大なのもあるが、奴が動く度にあぁ周囲の建物に傷が!
 どれぐらいの修繕費が掛かってしまうかと、ラダは普段の商人としての性もあるのか計算が頭を巡ってしまうものだ。一刻も早くこいつを倒さねば(復興費が)まずいと――! 故に彼女も左翼に射撃を集中させる。
 連射。連撃。引き金を引き絞り続ければ、左翼から大量の血が舞い散るものだ。
 流石の晶竜と言えど一点集中させれば限界が近いという証か――ならば。
「ラダ、突っ込む。援護してくれ――
 なんだか嫌な気配が近付いて来てる気がしやがるんだ……!」
「――分かった。だが、無茶はするなよ!」
 ルナが往くものだ。その身を超速の彼方に。雷撃と共に――一閃する。負の要素はともあれ、物理も神秘も遮断しうる術を施している今の彼であれば、剥されぬ限り深い傷を負う事はない。故に穿つのだ。ラダに声を掛け、彼女の銃撃の援護もあれば成せる。
 ――左翼が落ちる。まるで腐り落ちるかのような悪臭をも、撒き散らしながら。
『ギィ――ィィィィィ! アアア――!!』
「煩いものだ。これだけ暴れておきながら自分には何も被害が出ないとでも思っていたか? ――むっ! 突っ込んでくるつもりか!!?」
 直後。晶竜から想像を絶する様な声が――天に咆哮されるものだ。
 見据えるは馬が如き生き物たるグラニに騎乗していたクリムである。味方の撃に巻き込まれぬ様に注意しながら、己も魔力を収束させつつ各所の部位を貫く強大なる一撃を放っていた――のだが。瞬間。晶竜が一気に彼女の方面へと跳躍するが如く動いた。
 その巨大なる身を投じ数多を踏みつぶさんとしてきたのだ。
 ――あまりの圧に衝撃波が発生する。クリムの身が、飛ばされんとする程だ。
「クッ――! しかし、この程度でッ!」
 彼女は踏みとどまらんとする。あぁ、敵の中でもこの竜は一番気に入らぬのだ。
 似非とはいえ竜の姿をしているというのが実に腹立たしい。
 お前のようなモノが竜を模倣するなどあってはならぬのだと――全身に痛みが生じながらも返しの一撃を紡ぐ。倒れ伏すものかと怒りを奥歯で噛みしめながら。
 が。その一瞬、わずかに崩れた陣形を晶竜も見逃さなかった。
 尾でゼフィラを薙がんとする。治癒役に徹している彼女を厄介と判断するだけの知能はどこかにあったのだろうか――彼女へと尾を向け、その横腹に衝撃を叩き込んでやるのだ。ゼフィラの身が大きく吹き飛ばされようとする――
「ッ! だが、まだ、だ。言ったろう? この街を荒らされるのは困るんだ」
 だから。街を破壊しようとする輩に屈する訳にはいかない。
 ――ゼフィラは力を振り絞る。治癒の力を投じ、味方の身を最後まで癒すのだ。
 例え自分が倒れようとも誰かが打ち倒せるのであれば良い――!
 クリムやゼフィラが襲われやや崩れる陣形。されど、まだ終わらない。
 晶竜の前に立つのは――ルシアだ。
「させないのでして……!」
 彼女は只管に晶竜を阻み続ける。奴から風を受けようとも、常に。常に。
 晶竜より齎される数多の負を凌ぎ続ける事が出来る彼女の動きは、戦いにおいて大きな意味を占めていた。一発で終わるなんて、誰が言ったのです? ルシアか、竜か。どっちかが倒れるまでは――
「何度でも立ち上がって何度でもずどーんするのですよ!
 根競べなのです! そして根競べなら……ルシアはぜったい負けないのです!
 ルシアが今までずっとずっと修練してきたものを……見せてやるのでして――!!」
 直後。彼女から全霊たる魔砲の一撃が――放たれる。
 ルシアはずっとずっとソレを鍛え続けてきたのだ。
 痛みを復讐心の糧とし。術に乗せれば痛烈無比なる至高が紡がれ。
 ――晶竜ベディートの体が揺らぐ。
 彼女の圧倒的な攻勢に貫かれもう一度攻め立てんとした体に揺らぎが生じたのだ。
 まだだ。まだ終わらない。こんな程度で負けてやるものか、でして――!!
 ここからだ勝負は!

 ――が。

「流石はイレギュラーズ。英雄と謳われる事があるだけはあるな――
 しかし。見えたぞ、お前達の隙が」
 その、瞬間だ。戦場に介入する二つの影があった。その、一つは。
 ルナの知り合い。いや――『兄』であるソル・ファ・ディールだ。
「よぅソル。いや、族長様と呼んだ方がいいか? 散歩にしちゃずいぶん身軽だな」
「ルナか。久しいな。先の戦い振り、見せてもらった……
 中々に成長しているようではないか。しかしまだまだ一歩足りんな」
「――何のつもりだ? いや、それより……部族の連中はどうしたよ?」
「何を言う。そこにいるだろう」
「はっ?」
「同胞の気配を忘れたのか? 薄情な奴め」
 指をさす。族長が。

 晶竜を。

 はっ? おい、ちょっと待て。
 何を言っている?
 困惑。疑惑。まさか、という思いが彼の歩みを微かに淀め――
 同時。晶竜に相対するイレギュラーズの背後を突くような形で介入するソル、が狙ったのはラダだ。何故? 思う暇もなくしかし、ルナはもう最初から定めていた。何があっても彼女は守ってみせると。故に動揺の心を振り払い己が脚力にて駆けつけんと――した、刹那。
 その動きを止めんと至ったのはガルトフリートであった。
「ッ! 観戦は楽しめたかね――金とるぞ。それとも別用か?」
「ジグリの小娘か。あぁ別用と言えば別用だが――さて。
 こちらの弟の方だが。ふむ。止めてよいか?」
「結構。後は此方で成す」
 ラダを強襲するソル。その動きを迎撃する様に、ラダは引き金を絞り上げる。
 が、ソルを止めるには至らない。銃身を掴まれ射線を切られれば二度目は放てぬ――直後。
「ぐ、ぁ――ッ!?」
「ラダさん! くっ、竜が邪魔で……! 退きなさい!」
「なんたる事を――何のつもりですか、お二方は。無粋にして野暮な……!」
 その喉に、噛みつかれた。
 ルナはガルトフリートに阻まれ、そして声を挙げたシフォリィやアッシュは晶竜が邪魔で往けぬ。振るう剣撃。紡ぐ赫々とした雷撃。されど晶竜を倒すにはまだあと一歩足りず……
 ――連中はこの機を狙ったのか。
 ある程度疲弊し、しかしある程度晶竜の身が残っており。
 イレギュラーズを害する事が出来る、その刹那を。
 或いは、例えば戦況がイレギュラーズ側にもっと優位であったのならば彼らは介入する気はなかったかもしれぬ。隙が見えなければリスクを冒す事はしなかったと……しかし陣形が崩れた一寸から見えた間隙があったからこそ彼らは実行に移したのだ。
 彼らの『目的』を。それは――
「うっ、なんだ、これは……!? 喉が、渇……!?」
「――貴様には烙印の紋が刻まれたのだ。抗わぬ事だな」
「貴方達は一体何を……離れなさい!」
「小娘。貴様も、あの竜を見て胡乱だ瞳を紡いでいたな」
 では。貴様にも刻んでくれようか――ソルが即座に動いたのはマリエッタへとだ。
 彼女にも何ぞやの素質があると感じたか、ソルは彼女にも――牙を突き立てる。
 それは命を奪う事が目的のモノではない。
 むしろ。何かの『力』を送り込むことが目的の様な……
「ルナ! こいつら――纏めてブン殴っていいわよね!」
「あぁ、だが無茶はするなよ!」
 ――いずれにせよ味方に被害を出してきたのなら放置してはおけぬ。
 オデットはルナに伺いも立てながら撃を紡ぐものだ――
 飛翔しつつ破滅の魔眼を開き続ける。全霊の魔力を投じ、敵を祓おう。
 だが、ソルやガルトフリートの介入によって戦線は完全に崩れた。
 晶竜が暴れ回る。マッダラーは味方の守護も行っていたが――最早限界か。敵を侵食する撃を紡ぎながらも抑え込まんとするが、どうにも数手足りぬ。
「むぅ……! せめて、人気のない方角へと進ませようか――
 構わん、俺ごと撃て! コレを街の中心部に行かせる訳にはいくまい――!」
「ルシアに任せるのでして! 外の方向に追いやってやるのです!」
 直後。ルシアの更なる魔力の輝きが晶竜を襲う。
 さすれば奴の身が徐々に外の方へと押し返されるか――? しかし撃退とは言い難い。ソルやガルトフリートも中心とし『目的』を達したから引き上げると言った様子が窺える……ならば。
「くっ――! 族長、いやソルッ!」
 なにをしているのだとルナは声を荒げた。
 冷静さを失わぬつもりだった。身の程を忘れるなと己が心に刻んでいた。
 が。手を掛けられれば話は別だ。胸中から渦巻く何かが溢れんとしている。
 やめろ、なぜ手を出すのだ。何かするならば俺に手を出せ。
 彼女は、今の俺にとっちゃ唯一の。
「だからだ」
「――何?」
「ルナ。一族に戻ってこい。その為にあの女は邪魔であろう。
 ――我が一族は『力』だ。絶対的な力を持つ者が『長』であるのだ。
 ならば。俺を超える『力』を持つ者が現れたのならば、それに従うのが筋だろう」
 刹那。ルナは、感じた。
 違う。こいつは、何かが違う。
 決して仲が良かった訳ではなく、悪かった訳でもないが……確信しているのだ。
 獣の本能が騒ぐ――眼前にいるのはルナも知るソルに間違いない、が。
 ソルだがソルではない。
 その瞳の色が、魂の色が、濁っている。
「全てはリリスティーネの為に。お前も尽くせ」
 ソルが見せた歯には、牙のようなモノがあった。
 まるでアレは、そう。

 ――吸血鬼の如く。

 太陽の名を冠する者は、月夜の化身に降ったのだ。


 ――うぅ、ぐ。
 熱い。ソルに噛まれた箇所が、まるで灼ける様に。
 ラダとマリエッタの意識は昏睡するかの如く陥っていた。
 ……やがて二人の意識は戻る。
 その頃には完全に戦闘は終了し、晶竜の姿もなかった――が。
「マリエッタ。眼の端から、涙が……いや、これは……?」
「え――なんでしょうかこれは、水晶……?」
 オデットが見た。マリエッタの眼の端から、何かが零れたと。
 初めは涙かと思ったが、違う。
 それは水晶だ。小さな欠片だが、間違いない――
「それに傷口から――なんでしょうかこれは。花弁……?」
「……これも紅血晶の一端なのでしょうか? それとも全く別の……?
 調査が必要な様に感じますね。
 いずれにせよ……あまり良い兆候ではなさそうです」
 更にシフォリィやアッシュの視界にも映ったのは、ラダやマリエッタの傷口から零れ出でる血に『花弁』が混じっている事であった。それは赤色の花弁。いや……外界に晒された血が変容しているのか……?
「……ソルは烙印って言ってたな」
「――なんの、烙印、だろうな」
 ルナはラダを支えながら、兄が言っていた言葉を繰り返すものだ。
 ラダは息も絶え絶えな状態ながら己が体を見据える。
 出でる血は花弁に変じ。涙は水晶へと変じ、そして――
「ん、どうしたラダ?」
 ――その喉は、渇いていた。

 誰ぞの血が飲みたい衝動に――駆られていた。

成否

失敗

MVP

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

状態異常

クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)[重傷]
血吸い蜥蜴
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)[重傷]
開幕を告げる星
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。

※ラダ・ジグリ(p3p000271)さん、マリエッタ・エーレイン(p3p010534)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。

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