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シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2023>君へ届け~豊穣~

完了

参加者 : 18 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幕間 豊穣 高天京 郊外 ある屋敷にて
 まだグラオ・クローネの慣習が、地方によってばらついている豊穣で、材料を手に入れるのはなかなか難しい。
 それでも【魔法使いの弟子】リリコ (p3n000096)は情報屋のツテを頼ってそれらをかき集め、台所へ立った。
「……理論上は、可能な、はず」
 孤児院の子どもたちと『暦』に見守られながら、リリコは材料を大釜の中へ入れて『世界でただ一冊の絵本』を開いた。
「……いくとせきみをおもえれどねむるきみのえがおかわらずぼくらのおはかはこよいもまつり」
 箒の柄で大釜をぐるぐるかきまわしたら、ポン! 爽やかな音と共に幾羽もの白い鳩が飛び立った。鳩は開いたままの窓から空へ出ていった。リリコはそれを目で追いかけながらつぶやく。
「……おかしい、ザッハトルテになるはずだったのに」
「いやー、さすがに手順をぜんぶすっ飛ばしていきなり材料がザッハトルテに変身ってのは、無理があるよォ。だいたいなんで釜なのさァ」
『暦』のひとり、霜月が呆れた風に言った。リリコは若干むきになって言い返した。
「……理論上は、可能なの。理論上は。今の私なら、きっと、できる」
「リリコ、もしかして調子に乗ってる?」
「……言い方」
【孤児院最年長】ベネラー (p3n000140)の言に、リリコはかすかに眉を寄せた。大きなリボンがいらだたしげに左右へ揺れている。これで本人、まったく悪気がないと、それなりに長い付き合いの中で知っているから、リリコは口を閉ざした。言い返したところで無駄なのだから。
「やっぱり地道にやるしかないんじゃないでちか?」
 ねじくれた青い羽持つ少女、最年少のチナナがそう声をかける。そしてロロフォイの着ているひよこ色のワンピースのすそをひっぱった。
「先生、出番でちよ」
「うん、まかせて。いきなりザッハトルテは難しいから、チョコレートを使った簡単なケーキを作ろうよ。材料も少なくて済むから、経済的だし、睦月さんも喜ぶよ」
 お菓子作りが得意な黄色い男の娘は腕まくりをするとエプロンを身に着けた。今日も愛らしい。
「できたのは味見していいのかー?」
「いいのかーい?」
 わんぱくなユリックと、食べ物につられる翠髪の少年ザスが茶々を入れる。
「もー、今から準備して間に合うの? 材料だって限られてるのよ? しかたないから、あ・た・し・が、手伝ってあげなくもないわ!」
 青と緑のオッドアイの少女、ミョールがそう申し出……申し出ているのか、これは。
 はたしてチョコケーキはできるのか、リリコはそれをどうするつもりなのか。ああ、ああ、いったいどうなるのだろうか。屋敷の鬼瓦の上で、白い鳩が楽しげに鳴いている。

●豊穣! 鬼灯さんち!
「うーん。さすがに、飽きてきた、かも」
「チョコばっかだもんなー、おはぎ食べたい」
「そこの双子、文句言わずに消化しろ……まあ、なんだ、そこまで言うなら俺にくれてもいい」
 金銀双子こと葉月と文月が失敗したチョコケーキをもっもっと口へ押し込んでいる。その倍の量を、スプーンですくいとり、水無月はナナシへちょっと分けてやると、自分も食した。同じ匙から同じものを食べることで、彼と相棒の絆はより強固なものになるのだ。
「そうでございますねえ、似た味付けばかりを食する、しかもそれが甘味となると、一筋縄ではいかないものでございます」
「自分、茶しか飲んでへんやん」
 香ばしいほうじ茶を口にする神無月へ、長月がジト目を送った。彼もチョコケーキ消化大会へ参加しているのだ。誰のために? そりゃあもう当然。
「あまーいのだわー!」
 ぱああっと笑顔を振りまくのはぬくもりある人形、章姫。口の端にチョコクリームがついている。すかさず弥生がそれを拭き取り、これは俺の仕事だと言わんばかりに周囲を威圧する。
「桜餅ならいくらでも入るのに」
「……俺に今しばらく財布の猶予があれば高天京一のを用意してやるのに……」
「いや、そこまでしなくていいよ?」
 卯月と師走は平常運転。
「特異運命座標を呼ぶかあ」
「それもまたありだな。リリコ殿が買いこんだ材料がまだまだ余っている」
 如月が匙を投げ、皐月が同意し、かくして一枚の依頼書が張り出された。

【急募】チョコレート菓子を作りたい、もしくは食べたい人【応相談】

●グラオ・クローネ
 愛された娘が、ひとかけらの世界を知った。それがグラオ・クローネの始まり。
 君は誰からひとかけらの世界を受け取るのだろうか。
 知人だろうか、友だろうか、それとも、愛を交わした相手だろうか。だれもいいし、もしかしたらそれは自分自身かもしれない。
 両手の中のそれは、口にすれば甘く、舌の上でとろけていく。
 受け取ろうか、君から。愛情を。
 そして贈ろうか、君へ。祝福を。

GMコメント

みどりです。ハッピーグラオ・クローネ~。なんかラサのほうがすんごいことになってますけど、戦士には休息も必要です。
というわけで友チョコ作るなり、お互いにあーんしあうなり、なんでもフリーにするといい。

●戦場? 豊穣 鬼灯邸 プレゼンティッドバイ黒影鬼灯(p3p007949)さん
 高天京郊外にある、すげえ広いお屋敷。枯山水の庭が見事です。
 ただいまチョコレート試作品と材料とがあふれかえっている。
 必要な調理器具は睦月さんが胃を痛くしつつも用意してくれます。

●EX
解放しておきます。

●NPC1
Q:さっきから『暦』『暦』って、どこの女よ!?
A:鬼灯さんの関係者です。アルバムをチェックチェック。全員男です。チョコを贈るも良しではないでしょうか。

●NPC2
Q:いきなり出てきた『孤児院の子ども』たちって誰?
A:孤児院の子どもたちはみどりのNPCです。GMページへフレーバーが載っています。息を吸って吐くぐらいしかやることがない時に御覧ください。

●しつもーん
Q:NPCって絡まなきゃいけないの?
A:あくまでPCさんが主人公であり、メインです。字数の関係でNPCは指定されないかぎり出てきません。なかよしさん同士で思う存分イチャイチャしろよ、言わせんな。


同行者指定
同行者の有無を問うものです。

【1】有
同行者がいらっしゃるPCさんは、この選択肢を利用したうえで、プレイングへ【専用タグ】を記入してください。また、NPCと絡みたい方は、描写希望NPCの名前をプレイングへお願いします。

【2】無
おひとりさまも歓迎します。NPC絡みOKの方は、該当NPCを指定、あるいは絡み希望とご記入ください。


行動
以下の選択肢の中から行動を選択して下さい。選択肢とプレイングが食い違っている場合は、プレイングを優先します。

【1】作
チョコレート菓子を作ります。材料はたくさんあります。必要な道具も睦月さんがこめかみを押さえつつ用意してくれました、せっかくなのでじゃんじゃん使いましょう。

【2】贈
チョコを贈ったりもらったりするのがメインになる行動です。最もPCさんが輝く選択肢かもしれない。場所は枯山水の庭が見える縁側かも?

【3】消
リリコたちが作った失敗チョコをぐわーっと食べて始末します。味はまあまあ、見た目が壊滅的。どうやら作り主はまだまだ不器用なようです。

  • <グラオ・クローネ2023>君へ届け~豊穣~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2023年02月24日 22時05分
  • 参加人数18/33人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 18 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(18人)

建葉・晴明(p3n000180)
中務卿
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
武器商人(p3p001107)
闇之雲
斉賀・京司(p3p004491)
雪花蝶
冬越 弾正(p3p007105)
終音
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ファニアス(p3p009405)
ハピネスデザイナー
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
神倉 五十琴姫(p3p009466)
白蛇
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

リプレイ

●消
 だって「おいしい」のだと、ニルはリリコたちへにっこり笑った。ニルは味の良し悪しを知らない。それでも、いっしょに同じものを食べる「おいしい」はよくわかっている。
「ココアは食べると『おいしくない』になりますよ。ほら、ささみのゆでたのをあげますから」
 かわいい相棒の頭を撫で、ニルはおやつを与える。
 そんなニルの前には不格好なチョコケーキ。食通は見た目も味に数えるというが、ニルはそんなの気にしない。
「リリコ様たちの想いの詰まったチョコレートなのでしょう? とってもとっても『おいしい』のですよ!」
「……とっても、ありがとう」
 はにかむリリコの姿はいっそう「おいしい」だったから、ニルは、グラオ・クローネがさらに好きになった。

 戦力が必要と聞いて、朝飯を抜いてきた弾正。そんな彼へ少々心配そうな眼差しを送るアーマデル。
「……俺は人類を病院送りにしたことがある。弾正、無理はするなよ」
「待て待て、いきなりフラグを立てるんじゃない。今日の俺は大食らいだ。任せてくれ」
「口直しにハーブバタークッキーを用意してきたぞ。だから弾正、無茶はするなよ」
「それ『ダンデリオン』のだろう。大丈夫か? いきなりゲーミングに輝いたりしないだろうな」
「たぶん」
 自信なさそうなアーマデルは、フォークの先でチョコレートを次々つついていく。
「自分のだとマーキングしているのか?」
「いやべつに」
 じつは食材適性を付与しているのである。すこしでも美味しく弾正に食べてもらいたいのである。なぜって弾正は失敗作廃棄場なんかじゃないから。そのうちやたら固いのにぶちあたった。フォークが突き刺さらない。痕すらつかない。頭にきたので。
「デッドリースカイ!」
「うわ、びっくりした!」
 アーマデルは強硬手段にでた。弾正が目を丸くする。しばらくふたりしてチョコの山をもぐもぐした。
「アーマデル、顎にチョコがついてるぞ」
「ちょこっと? チョコだけに?」
「……ははっ」
「すまない、冗談のつもりだった。反省はした」
「いい、いい、よくあることだ。そのままじっとしててくれ」
 弾正がアーマデルの顎を指でぬぐってヒョイぱくり。
「……はっ、この展開は関節チューでは!? 乙女か俺は!!」
「弾正。最近方向性が右になりつつあるような……いや、それでもついていくぞ俺は」

 支佐手はチョコケーキらしきブツを、五十琴姫へ押しやった。
「よし、琴。これはおんしにやる。3日くらい経って死なんかったら、わしも食うてみるけえ」
「は!? 何を言うておる! ぐらお・くろーねなるものは、女子が殿方にちょこれーとなるものを送る催しと聞いておるぞ! まずはそなたから食すのが筋ではないのか?」
 五十琴姫は支佐手へ皿を押し返した。
「生憎。返品制度は導入しとらんでの。琴が食え」
「支佐ぁ! そなたいい加減にせぬか! ほれ! 食べるのじゃ!」
 ふたりともチョコ初体験。なのに無惨無惨な出来なのだから、警戒するのもあたりまえ。延々とラリーは続く。支佐手から五十琴姫へ、五十琴姫から支佐手へ。
「ええい、しつこい奴じゃの。諦めて食べんさい!」
「諦めるのはそなたじゃ!」
 断固たる意思でもって、五十琴姫は支佐手へ茶色の小山を押し返した。根負けした支佐手が天を仰ぐ。
「二人でせーので食う。これでどうじゃ?」
「ふむ……二人同時にか。良かろう。それで手を打つのじゃ!」
「誤魔化しはなしじゃぞ?」
「わしはそなたと違って正々堂々じゃ! 安心するが良い!」
「「せーのっ!」」
 食べた支佐手と五十琴姫はぽかんとした。普通に、おいしい。
「うむ! 残りはわしが食うてやろう! なに、遠慮することはないのじゃ!」
「待て待て琴、それはこっちに寄越しんさい。大体、さっきまでわしに全部食わそうとしとったじゃろ」
「むむむ……仕方ないのぅ……。今回だけじゃぞ? 来月はちゃんとわしにお返しするのじゃ! 3倍返しが基本と聞いたぞ、楽しみじゃ!」

●作
「今回は来てくれてありがとうアントワーヌ。友人宅が会場だから、誘いやすくてねぇ」
「ご挨拶しておかないと。わくわくしちゃうね」
「それがいいな。ここは肩肘張らなくていい」
 ふたりはエプロンを身に着けた。
「俺たちも何か作ろう。なぁに俺も君も作れるし……手伝ってくれる人もいるからね」
 意地の悪い笑みを浮かべた行人は、奥へ声をかけた。
「母上、手伝ってくれないかなァ。頼むよォ」
「なんだい、その口真似。霜月さん力貸してあげないよォ?」
 アントワーヌはきょとんとした。母上と呼ばれているのは、長身の、どう見ても男の忍だ。
「あだ名だよ。皆そう呼んでいるんだ」
「そうなんだね、私も母上って呼んでいいかな、可愛らしい人。私はラクロス・サン・アントワーヌ。よろしく頼むよ!」
「噂に聞いた行人ちゃんの王子様かァ。なるほどねェ」
 霜月がニンマリ笑った。よせやいと行人が唇を尖らせる。
「チョコレートだけだと少し芸がないから、俺はチョコケーキを作りたいんだが」
 アントワーヌを前に行人は苦笑した。
「そこまで手の込んだ物はずっと作ったことがなくてね。レシピを教えてほしいんだ、母上」
「行人ちゃんの頼みならはりきっちゃおうかなァ」
 霜月が手取り足取りするも、行人は四苦八苦。アントワーヌは鼻歌交じり。
「実家のメイド達を手伝ってつまみ食いとかしてたっけ……なつかしいなあ」
 ガトーショコラを済ませた彼女は、片手間にトリュフを作りつつフォンダンショコラ作成中。
「行人君は苦戦中だね」
「……手伝ってくれるか?」
「いいとも、プリンセス、何をお望みかな?」

 リコリスさんとチョコレートを作りに来まし……え、作るの? 食べる方じゃなくて?
「うん、お師匠と一緒にチョコを作るよっ!」
 元気良く言われて、認識が誤っていないことを知る。
「だってイヌ科の動物にとってチョコは劇薬なんだって、残念……」
 我々はブルーブラッドだから問題ないのでは? リーディアは訝しんだ。
「作るのはね、やっぱりかわいくて美味しい( ‘ᾥ’ )トリュフチョコかなっ!」
「リコリスさん、よく聞き取れなかったんだけれど……何型のトリュフだって?」
「( ‘ᾥ’ )だよ!」
「なんて?」
「だから( ‘ᾥ’ )だよっ!」
 黙示録の獣たるリーディアでさえ、正確に聞き取れない。リーディアはさらに訝しんだ。
「第四の壁的なナニカが作用してるんちゃうか」
「あ、長月さんお久しぶり! 変質者キワ・ドィーンを撃退した時ぶりだね」
「……なんだって?」
 リーディアの声が3オクターブくらい低くなる。リコリスはにこにこと無邪気に長月を指差す。
「だからあ、防犯訓練中に本物の変質者が出てきたの! OPではロングスカーフだったのに、記録ではストールになってたポカミスを誰かさんがやらかした事件だよ。その時に一緒だったのが長月さん」
「ほう……愛弟子がお世話になったね」
「い、いや、大したことはしてへんで。鉄板でヤバい部分は行人っちがフォローしてくれたし……」
「鉄板でヤバいとはどういう意味かね?」
 リーディアの圧に負けた長月は全部話した。砕け散るカカオ。鉄仮面並みに無表情のリーディア。
「すごーい! お師匠、素手でカカオマス作ってる! あっ! 長月さんそんな真っ青な顔でどこ行くの? 長月さーん!」

「リリコ殿が努力家で研究熱心なのは良い事だが……」
 屋敷の主、鬼灯は材料の山を前に唸った。神無月の言う通りだ。彼奴、茶しか飲んでなかったが。
「よし、大量消費だ。かまわんな、睦月」
「歓迎しますよ」
 帳簿とにらめっこしていた睦月はほへっとしている。章姫がトコトコ歩く。
「睦月さんごきげんよう! ホットチョコレートはいかがかしら! お肩もトントンするのだわ!」
「ああ奥方~!」
 全力でハート飛ばしてる睦月に、鬼灯は苦笑いしつつ休憩を命じた。部下の管理責任の重要性は心得ている。章姫セラピーを受けている睦月を横に、鬼灯は割烹着を着た。
「まずは焼き菓子だな。日持ちがする。チョコクロワッサンも朝食にいい。オランジェットでさっぱりいただくのも……」
「頭領」
「弥生、章殿は今だけ睦月専属だ。……目が怖いよ貴殿」

●贈
「これはこれはリリコさん! 変わらずお美し……ああ待って逃げないで! 実は俺にも恋人ができたんです!」
 冥夜の叫びにリリコは足を止めた。興味深そうだ。
「実は一度振られて迷走した時期もありましたが、改めてOKをいただけたんです……ね、京ちゃん」
 京司はチェシャの笑み。
「そういうことでよろしく。チョコは食べ飽きてるみたいだから、甘さ控えめのジンジャークッキー持ってきたよ。他にもあるからみんなを呼んでおいで」
 京司はシスターと暦へ日本酒ボンボンを。男の子へはシルクハットを。ロロフォイ含む女子へはトークハットをプレゼントした。洒落たあるいは愛らしいデザインに子どもたちは夢中だ。
「サヨナキドリが孤児院の子どもたちを大切にしていると聞いていたが、京ちゃんはこんなに丁寧に世話をやいていたんだな。好きな人の新しい一面を知ることができるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ」
 クッキーを頬張る子どもたちを前に、京司はやわらかな面差しでいる。その顔を見ているだけで、冥夜は胸がいっぱいになった。
「さて渡すもの渡したし……おいでよ冥夜」
 庭へ出た京司は松の木の陰で冥夜へ寄りかかった。そっと腕を絡ませ、小箱を渡す。
「これは? ひょっとして、俺に?」
「違うってんなら違うんだろ」
「す、すげー嬉しい! 開けていいか!?」
 中身は、黒の本皮ベルトに、漆黒の文字盤の上を踊る金の腕時計。
「仕事中に良ければとね。宝石魔術とは相性悪い僕だから、君を割らないよう気をつけて選んだつもりなんだが」
「超大切にする!」
 冥夜は涙目だった。

「ファニーでっす! 京司ちゃんのお願いで、みんなのお洋服仕立てるわよん★ イザベラちゃん、スタイルいいわねえ※ ファニーの工房でモデルしない?」
「うふふ、第二の人生で」
 わっと子どもたちが群がった。ざっくり寸法を測りファニアスは言う。
「1番大事なのは、どんなデザインがいいか、なの◎ それをいっぱいファニーに教えて彡」
 ユリックはパーカーにスキニー。ザスは翠色のシャツとサスペンダー。ミョールはフィッシュテールスカートにショートパンツ。ロロフォイはもらったトークハットに似合いの桃色ワンピ。チナナはホワイトセパレート。リリコは大事な魔術礼装を、どこか自慢気。ベネラーときたら「すみません、希望はないです」
「セレーデちゃんのも考えて▲ 京司ちゃんてば律儀よね▽」
 色んな案が出て、ファニアスはデザイン画を何枚も書いた。

 枯山水の庭は、妙見子の心を安らがせた。
「お屋敷の主、晴明様のお知り合いだったのですね」
「ああ、神使の一人だから俺もよく知っている」
 この景色を見ると、我が故郷も美しいのだなと思わずには居られない。晴明はそう語った。妙見子は紅がさした顔を伏せる。
「えっとその、今日は来て頂いてありがとうございました……」
「此方こそ、誘いに感謝を」
「あの、じつは……」
 妙見子はそっと簪を取り出した。福寿草が咲き誇っている。菓子を作るのは得意ではないことも、殿方へ贈るものではないだろうことも、妙見子は正直に打ち明けた。やさしくまっすぐなその心根を、晴明は好ましく思っている。
「俺は簪は不慣れでな、良ければ髪に飾ってはくれないだろうか」
「は、はい……!」
 妙見子はきれいにすきあげられた晴明の髷へ簪を飾り付けた。
「ああやはり、おぐしに似合います。晴明様、どうぞ幾久しく健やかに……貴方に幸福が訪れますように」
「俺こそ貴殿には同じ気持ちで居るのだ」
「晴明様……」
 でしたら、と妙見子は小指を差し出した。
「暖かくなったら一緒に桜を見に行きませんか? お嫌でなければ……妙見子と指切りしてくださいな」
「もちろんだとも」
 晴明は微笑んだ。
「久方ぶりに童心へ返った。ああ、約束をしよう。花見には高天御所もとても良い。主上も桜を好まれている」
 妙見子を覗き込み、晴明は笑みを深くする。
「事情があって主上に謁見することが好ましくないのは分かって居る。だがもしも良ければ御所にも来て欲しい。無理にとは、言わないが」
 ひとひら、梅が舞った。

「最近の型抜きってすごいね、小鳥?」
「そうだね紫月…。顔もついてくるなんてね…。」
 番は今日も仲が良い。姿を見かけ、子どもたちが寄ってくる。
「やあ久しぶり……あなたに幸福を、灰色の王冠を…さ、皆どうぞ。」
「今回は顔はついていないけど、今度は別のクッキーでみんなに顔つきのやつをあげたいなァ」
 ヨタカと武器商人から動物型クッキーを貰った子どもたちは大はしゃぎ。心底楽しげに中身を見せびらかしあっている。味はナッツとチョコ。食感にも心を留め置いたのは、繊細で感受性豊かな小鳥と、大胆かつ目の届く武器商人ならでは。
 ヨタカはリリコへ羽ペンを贈った。
「……紫月の魔術、習うんでしょ…? 筆記用具は必要だしね。俺も魔術…勉強始めるから、一緒に頑張ろ、ね…。」
「……あなたもなの? 優しい小鳥。あなたは、きっともっとすてきになるわ」
 リリコがまぶしげにヨタカを見上げる。そのひそやかな瞳に、溢れんばかりの慈愛を見て取り、ヨタカも微笑した。
「我(アタシ)からもあるよ。ガトーショコラだ。これも小鳥と一緒に作ったやつ。付属の生クリームには保存の魔法をかけてあるけど、一度器から出したら早めにお食べね」
「……とっても、うれしい。ありがとう、私の銀の月」
「……それで? 我(アタシ)には何もないのかな、可愛い弟子?」
 リリコはもじもじしながらリボンで飾られた箱を武器商人へ差し出した。中を「視る」と、大振りなチョコケーキがあった。
「どうしてこれにしたんだい?」
「……だって、ケーキなら、小鳥やラスや、眷属のみんなと、分け合えるでしょう?」
 武器商人は破顔すると、頑張った弟子の頭を撫でてやった。

●遠
「あ、けーちゃーん!」
 慧の姿を見るなり、百華は手をぶんぶん振った。
「主さん……」
 満面の笑みを目にするだけで、慧の胸に熱いものがこみ上げてくる。
 喜んでくれるだろうか。初めて作った絞り出しチョコクッキーは、我ながら会心の出来。でもそれをどう評価するかは、あげた人にかかっている。そして、慧が知るかぎり、百華は全力で喜ぶタイプだ。でもやっぱり、ちょっとだけ、かまえてしまう。
「じつは……」
 恥ずかしながらと話を切り出し、クッキーを百華へ捧げる。
「手作り? けーちゃんの?」
 うなずくと、百華は目を輝かせた。
「嬉しいっ! ねえねえ、一緒に食べよ。はんぶんこしよう?」
「いいっすね」
 土産話はたくさんあるのだ。クッキー作りは楽しかった。出会った人々は温かかった。ぜんぶぜんぶ伝えたい。慧は目を細めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでした!

いろんなカタチのグラクロ、楽しませていただきました。

またのご利用をお待ちしております。

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