シナリオ詳細
<昏き紅血晶>正義の名の下に行われる暴力
オープニング
●
「まただ。また我々は苦しまなければならないのか……!」
ラサの人々の歩む、雑踏。その中で、一人の男は悔し気にうめいていた。
幻想種の男だ。その服装は何とも『普通』を体現したような、ひとに紛れて目立たなくなるかのようなかっこうだった。
だが、その瞳には、ある種『狂気的な何か』が浮かんでいる。それは、魔的なそれではなく、人の心からの狂信的なものであった。
その幻想種の男にとって、この『ラサの都』とはすなわち『悪徳の都』であった。今から数年ほど前に発生した『幻想種誘拐事件』……幻想種たちを奴隷売買に用いた『奴隷商人・ザントマン』の暗躍のころから、ラサとは幻想種たちを食い物にする、悪魔たちの都であると感じていたのだ。
その数年前の傷も癒える間もなく、ラサは再び、幻想種たちに手を出した。油断させ、仲良くしようと甘言を嘯いて、再び『幻想種たちを誘拐しだした』のだ……これを許せる男ではなかった。
許せなかったから、彼は武器を取っていたのだ。彼は『エーニュ』と呼ばれる組織の一員だった。幻想種民族主義戦線。もともとは深緑を幻想種のみによって運営される国家に変えようと闘志を燃やしていた集団は、いつしか過激な他種族排斥による暴力行為とテロ行為に傾倒していった。その怒りの矛先は、ローレット・イレギュラーズたちにも向けられていて、先の深緑での冠位魔種との戦いの際に、一部のイレギュラーズたちがその兵士たちと衝突していた。
話を戻せば、そんな彼がどうしてラサにいるのかといえば、再びに躍動し始めた『ザントマンの後継者』とでもいうべき事件から、同胞たる幻想種を救うためだった。上層部はまた違う思惑を持っているようであったが、下っ端の彼にとっては、同胞を救うという正義の悪酒に酔いしれるかの如く、ラサにて活動することを容認していた……。
「リーダー、今は抑えてください」
隣にいる幻想種の女は、また素朴というか、野暮ったいかっこうをしている。これも『普通』といえたが、なんにしても目立たないかっこうなのは確かだ。
「我々の力をぶつけるのは、この先に」
そういって、女は視線で、この雑踏の先を指示した。そこではラサの商人によるチャリティバザールが行われていた。
「姑息な手口です。自分たちは幻想種を拉致し、巨万の富を得ていながら、まるで慈善家のようにふるまうのです」
そういった女の瞳にも、狂気的なそれが浮かんでいた。女は、この『商人』が幻想種誘拐犯人の一味であると、本気で信じ込んでいた。この商人だけではない。ラサの商人という商人たちが、すべて幻想種誘拐という悪徳に一枚かんでいる、あるいは、いた、と想像しており、エーニュにとってもラサの商人などは粛清の対象に間違いなかった。
であるならば、彼らがラサを訪れた理由は明白。
商人の、テロによる暗殺。
「そうだ。そうだな。あそこにこそ、我々を苦しめる元凶がいるんだ……」
そういう男の眼は、あまりにも深い狂気に再び彩られていた。
●商人警備
「エーニュ、ですか……」
ラーシア・フェリル(p3n000012)が嘆息する。ラサのチャリティバザール会場の最奥のスペースには、イベント開催者の女性商人、レリントン氏がいて、警備の傭兵とともに、あなたたちイレギュラーズたちの姿もあった。
「フェリル氏は、エーニュのことを追っていたのですね?」
レリントン氏が言うのへ、ラーシアはうなづく。
「といっても、私も途中から捜索に参加したのです。ローレットのイレギュラーズの方と協力して。
……なんといいますか。私も根無し草のようなものですけれど、同胞の問題ですから」
苦笑するラーシアに、レリントン氏はうなづいた。
「その縁もあって、こうして勇敢なローレットの皆さんに来ていただいたと思えれば、怪我の功名ですな」
ラーシアからの話によれば、レリントン氏は全くの『シロ』である。少なくとも、あくどい商売に手を染めていることはなく、ましてや『奴隷商人・ザントマン』の事件には一切のかかわりはなかった人物だ。当然、今回の『幻想種誘拐事件』にも何の関与はないことは発覚している。
「エーニュの構成員と思わしき人物が、この街に出没しています」
と、ラーシアは言う。
「直近で彼らが標的にするようなイベントがあるとすれば、レリントン氏のイベントですから」
「ええ、それで皆さんに警護をお願いしたのです」
レリントン氏は、あなたたちイレギュラーズに向けてそういった。
「私の警護もお願いしたいのですが、彼らの手口を考えれば、お客様に被害が出ないとも考えられません。
皆さんには、特にお客様の警護をお願いしたいと思っています」
「それはもちろんです」
イレギュラーズの中の一人がうなづく。あなたも、力強くうなづいて見せた。
「早速ですけど、警護を始めましょう。何事もなければいいのですけれど」
そういうラーシアに、あなたもうなづく。
外に出てみれば、会場は多くの屋台と、客たちの姿があった。この中に、正義の名のもとに醸成された悪意が存在するとは、とても信じたくはないような、そんな素敵な光景だった。
- <昏き紅血晶>正義の名の下に行われる暴力完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月27日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●チャリティ・ラプソディ
「ボクはな――今日は全く、本当に、休暇で来ていたんだ」
そう、嘆くように言うのは、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)だ。
「かの有名な劇団が、今日は興行に来ているんだ。もうすぐ開演する――ほら、始まりの、いつもの曲が流れ始めた。くそっ。
あの劇団は、なかなかチケットを取るのが難しくてね。今日はそれが、大盤振る舞いで、立ち見だってOKだ。
特等席のチケット――はとれなかったが。それだって、極上の体験を齎してくれたはずなのに……」
「あはは……お疲れ様です」
忌々し気にそういうセレマに、ラーシアは苦笑しながらねぎらった。
セレマは、現地で仕事に組み込まれたタイプだ。本来は、ここには私用で訪れていた、というのは彼の言う通り。
「まぁ、いいよ。事件を放っておいては、それこそ観劇を逃した以上の損失が起こるからね」
「そうですね。テロ、ですか……」
その言葉にわずかに身震いしながら、『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)がうなづいた。どうも情報によれば、エーニュなる新緑のテロリストたちが、このチャリティイベントの主催――レリントン氏を狙っているのだという。
「レリントンさんは、その。本当に、『白』なの?」
『デザート・プリンセス』エルス・ティーネ(p3p007325)が尋ねる。白、というのは、後ろ暗いことはないのか、というような意味だ。というのも、エーニュの主張によれば、レリントン氏は、かつてザントマンの一派であり、幻想種を売りさばいで富を得ていたというが――。
「はい。そこは、調査済みとのことですよ」
ユーフォニーがほほ笑みながら言った。
「以前の事件に関与している証拠などはないそうです。逆に、当時は解決に動いていた側だったそうです」
「そう。ならいいのだけれど」
ふぅ、と胸をなでおろすエルス。やはり、ラサで起きた事件に関しては、いろいろと敏感になっているのだろうか。
「とはいえ――仮に、レリントン氏が悪党であったとしてもだ。
このように、他者を巻き込むような攻撃が許されるはずがないな」
ふむ、と唸りつついうのは、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だ。
「ここに集まっている者たちに、一切の罪はないはずだ。にもかかわらず、無差別に、ただレリントン氏をおびき出すために危害を加えるというのならば、それはザントマンのそれに匹敵するほどの悪だろう」
「そうだな。それは憎悪に憎悪を呼ぶ行為だ」
『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)が静かにうなづいた。
「……同胞を救いたい、という思想には理解を示す。
だが……その通りだ。汰磨羈のいう通り、こんなことは間違っている」
クロバが、静かに、会場に視線を向けた。老若男女、という言葉通りに、様々な人たちの笑顔がここにあった。
「守らないとな……」
「そうね。委員長として……ううん、イレギュラーズとして、皆の安全を守らないと!」
よし、と気合を入れるようにそういう『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)。その隣にいた『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は、穏やかにうなづいた。
「はい。頑張りましょう。
ええと、まず、ちゃりてぃ会場の把握ですが……」
そういって、会場地図を取り出した。仲間たちが、それを覗き込む。
「なんというか、学校の校庭、っていうくらいの広さなのね。なんだか懐かしいわ」
蛍が言う通り、たとえに近いのは学校の校庭だ。円形の広場に、多くの屋台や催し物が並んでいる。最北、つまり今イレギュラーズたちがいるところにはスタッフルームがあって、ここにレリントン氏が待機している。念のため、護衛の傭兵も待機しており、
「傭兵も、素性ははっきりしてるんだったな?」
『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)がそう尋ねるのへ、クロバがうなづく。
「ああ。こちらも念のため調査済み、だ。真っ当な傭兵部隊だよ」
「ならば、ひとまず心配はないか。そうなると、敵の数だが――」
「10人前後、とボクは見るね」
セレマが言った。
「そうなんですか?」
ユーフォニーが小首をかしげるのへ、セレマはうなづく。
「まさか20だの30だの大勢引き連れて暗殺に来るほどアホじゃぁないだろう。
まぁ、アホかもしれないが、そういうアホは外れ値なので考慮しなくていい。
それで、少なすぎても意味がない。単にイベントに嫌がらせしに来たならそれも考慮する必要があるが、今回はレリントン氏の暗殺が主目的だ」
「となると、両方を満たす必要があるわけだな。イベントの妨害と、レリントンの暗殺だ」
ふむ、とルクトとが唸る。
「会場も広いから、イベントへの攻撃にも数か所攻撃することが必要になる。
見積もって、イベントへの攻撃に……この広さなら、7~8人くらいか?
それで、レリントン氏への暗殺には、護衛がいることを考えると最低3人はほしい」
「なるほど。それで10人前後になるのね」
感心したように蛍が言う。
「そうなると、相手も徒党を組んでいる、とは考えにくいわね」
エルスが言った。
「多くの場所で騒ぎを起こさなければならない……となると、単独か、2~3人で組んで行動している、と考えるべきかしら?
だったら、こっちも2~3人で組んで行動。どう?」
「うん。いいと思う」
蛍がほほ笑んでうなづいた。
「それじゃ、どうしようかしら? 二人組組んで~、なんてのは、やだな、本当に学校みたい」
少しだけ頬を赤らめる蛍に、珠緒が笑う。
「ふふ。なんだか昔の蛍さんを見ているようでとてもうれしいのです」
そういってから、こほん、と咳払い。
「みなさん、それぞれ得意とする技能を持っているはずです。それを考慮してチーム分けをいたしましょう」
「そうですね。では、私から――」
ユーフォニーがそういって、簡単な相談と班分けが始まった。決まったのは、おおむね以下のとおりである。
クロバ、ユーフォニー、ラーシアの三名。
セレマ、汰磨羈の二名。
蛍と珠緒の二名。
ルクトとエルス。これはチームというよりは、単独での遊撃に近い。
「よし。決まったな」
汰磨羈が、うなづいて見せた。
「では、皆、気をつけてな。何かあったら、すぐに連絡を」
「ああ。すぐに駆け付ける」
クロバが言った。
「こちらもチームワークと行こう。奴らにはできないことを、やってやろうじゃないか」
クロバの言葉に、皆はうなづいた。かくして、チャリティ・イベントを、そして罪なき人々を守るため、憎悪と対峙する時が訪れようとしていた。
●守る人
彼にとって、ラサとは憎むべき地であった。エーニュというのは、ありていに言ってしまえばテロリストだが、その発生の根底には確かに、ラサの悪徳があったことは間違いない。その悪意に直接さらされた彼ら被害者が、ラサに憎しみと怒りを抱いてしまうのも仕方のないことだろうか。
とはいえ、ラサのすべての人間が悪意に満ちているかといえば、それはノーだ。でも、このチャリティイベントの光景は、悪徳を抱くラサの民が、それから目を逸らしているように、彼には思えていたものだった。
「そこのお兄さん」
と、声がかかる。美しい少年だった。屋台の店員だろうか? 酒の入ったグラスを持っている。
「喉は乾いていないかい? 今日は暑いだろうから、顔が真っ赤だ。
どうせ顔を赤くするなら、気つけに一杯どうかな?」
そういって差し出したのは、ラサ地方の蒸留酒だ。ラサのものを飲み込むのは気に入らなかったが、喉が渇いていたのは――緊張などで――事実だったし、これから大それたことを行うのだ。少しばかり、酔うのも悪くはないだろう。
「ああ」
男はうなづいた。
「いただくよ」
「オーケイ。ほら、どうぞ」
そういって差し出された冷えた酒を飲んでみれば、どうにも頭がすっきりするような気がした。
「いい飲みっぷりだね。もう一杯どうだい? 屋台の方に別の酒もある。試飲会をやっているのさ」
そういう少年に、男はうなづいた。どうにも、誘い込まれたような感じではあるが、男はそれに気付かなかった。少年の誘われるがままに屋台に赴く。いくつかの酒があるのが分かった。
「これは忠告だけどね。内心の自由は保障されるべきだけど、そうもあちこちに憎悪をぶつけているならば、そりゃあ喉は乾くだろうさ」
少年が肩をすくめる――同時、男の体が背後から拘束されていることに気付いた。
「それに、明らかに挙動不審だ。バレバレだぞ?」
背後――汰磨羈は男の腕を固めながら、わずかに力を込めた。
「き、貴様ら……ローレットか!?」
痛みにこらえながら男が言うのへ、汰磨羈が、ふん、と鼻を鳴らした。
「いかにも、だ。さて、御主らの悪だくみ、全部はいてもらおうか。
特に、人数と――攻撃の手段をな」
「誰が――」
そう叫ぶと当時に、さらに汰磨羈は力を籠める。折れるか折れないか、ぎりぎりの激痛が、男の腕を走った。
「まぁ、そうだよな。だが、こちらにもいろいろと手段はある。セレマ、頼むぞ」
「はいはい」
そういうと、少年――セレマの魔眼が怪しく輝いた――。
「敵は、全員で13人だそうです! セレマさんと汰磨羈さんが一人目を捕まえました……!」
ユーフォニーがそういうのへ、クロバがうなづく。
「よし。リーちゃんに引き続き頑張ってもらってくれ。ラーシアは無理をしなくていい。ユーフォニーの援護を」
「はい!」
クロバの言葉に、ラーシアはうなづく。敵の数は割れた。となれば、あとは素早さ勝負になるだろう。如何に敵を見つけ、制圧するか、だ。
「こんなお祭りの日に、怒りだの憎悪だのは……!」
クロバが意識を集中する。周辺の感情を覗き込んでみれば、大なり小なり突発的な怒りなどを浮かべるものは確かにいたが、それを長きにわたって持続させているとなると、あまりにも怪しいものだ。
「義憤とか、そういう風に感じてるんだろうけどな。お前らのやってることは正義じゃない……!」
クロバが、ユーフォニーに視線を送る。クロバが感知した怒りや憎悪の源は、二人組。男性と女性のペアは、何かあたりを探るような様子を見せていた。
「リーディングします。気づかれてしまいますから、合図をしたらすぐに」
「任せろ」
ユーフォニーが、その視線を二人組に送った。読む。心の内を。ユーフォニーの頭の中に流れ込んできたのは、憎悪と、怒りと、正義という安酒による酔い。
「間違いないです!」
「抑える!」
クロバが走りだした。すでに相手も、リーディングに気付いている! とっさ抜き放つ。拳銃。ぱん、と乾いた音が響いた。クロバは剣を抜き放って、それを弾いた。跳弾が誰かを傷つけてはまずい。地面に突き刺さるように、調節した。
「正義の名の下に動くのは気持ちがいいか?
……だろうな、全てその戯言(ひとこと)で”正当化”できるんだからな!」
こちらに意識を向けさせるように、叫ぶ。同時に、一気に飛び込んで、その刃の腹で思いっきり男を殴りつけた。ぐ、と悲鳴を上げて、男が倒れる――とっさに女の方が、クロバに銃を向けた瞬間、ユーフォニーがその手を祈る様に組むや、神聖なる光が女を貫いた。神の慈悲が、女の命ではなく意識を刈り取る。
「ごめんなさい、ローレットです!」
ユーフォニーが叫んだ。
「お騒がせしました! 不審人物の確保です!」
周囲の人間に不安感を与えぬよう、声を上げる。取り押さえられた男が、叫んだ。
「クロバ・フユツキか! 貴様の名声は聞き及んでいるが……ならば真に深緑のためになる行動をするべきだ!」
「それが、こんなことか?」
クロバがにらみつけるように、視線を向けて言った。
「同胞を救えるのは自分たちだけだと思ったか? ……思い上がるな。
……だが、幻想種たちを、深緑を救いたいのは俺だって同じだ。だから、手始めにまずお前らを救った。
俺はお前らから奪わない、そして奪わせない。森を開くと決断した”彼女”の選択を過ちにはさせない」
「ぐっ……!」
男が憎々し気にクロバを見た。まだ、言葉は通じないかもしれない。だが。
「この人たちは、爆弾は持っていません」
ラーシアが言った。
「ほかの人たちが持っているのかも――」
ユーフォニーが、慌ててほかのチームへと連絡を取り始めた――。
「爆弾の数はいくつなのですか?」
珠緒が尋ねる。その答えはすぐに帰ってきた。
「二つ。二つなのですね?」
聞こえるように、珠緒がいう。蛍が目配せして、うなづいた。
「またエルスさんとルクトさんがエーニュの人を捕まえたみたいだけど」
蛍が言う。
「爆弾は持ってなかったみたい!
ボクたちが押さえた3人組も、持ってなかった……どこに仕掛けるつもりなんだろう!?」
少しだけ焦って蛍が言う。どうも、時間が無いような気がした。
「蛍さん。こう、嫌な想像ですけれど。
もし、爆弾を二つ。仕掛けるとしたら、珠緒たちならどうすると思います?」
「ほんとに嫌な想像だけど――」
蛍がむむ、と唸る。まったく、嫌なプロファイリングだ。だが、今は敵の行動を理解し、トレースしなければならない。個人個人を制圧するだけならば、簡単だ。だが、爆弾が出てくるとなると、これは厄介になる。
「んーと……まず、一つ目で注意を引く……」
「そうなのです。珠緒も同意します。注意を引くならどこがいいでしょうか……?」
地図を見ながら、蛍は指さした。
「ここ! 入り口! まずここで爆発させて、逃げ道をふさいで注意を引いて――」
「本命は、多くの人を巻き込むと思うのです。だとするならば、大きな舞台は――」
同時に、二人は指さした。
『劇団の公演!』
そう、今現在、最も人が集まっているのは、セレマも言っていた『彼の劇団』の公演会場だ。そこで効率よくけが人を発生させ、対応に追われ混乱する会場でレリントン氏達を暗殺する……!
「エルスさん、ルクトさん、動けますか!?」
『問題ない! 私の方が会場に近い!』
ルクトが叫び、
『なら、私は入口の方に向かうわ!』
エルスが叫んだ。
『お願いします! 珠緒たちは、引き続き皆さんの中継を行います!』
「おねがい!」
エルスがファミリア―にコンタクトして、走りだす。はたして会場入り口には、帰る人、これから入場する人でごった返していた。
「まったく、オーダーの多い仕事ね……!
でも、わかってる。エーニュの構成員を放ってはおけない……!」
つぶやきつつ、あたりを見た。幻想種の観光客も、決して存在しないわけではないから、ぱっと構成員を探すのは難しかった。
『大きな荷物を持っているはずだ!』
汰磨羈が言った。
『それを目印に!』
エルスがうなづく。ふと、門扉近くにいた女性と目が合った。バックを抱いているような、その姿。それは直感的なものだった。
「あなた……!」
叫びに、女は慌てた様子で逃げ出した。エルスはその手に大鎌を構えると、一気に駆け出す!
「私は意外と好戦的でね、手加減をするのが苦手なわけだけれど……!
大丈夫、殺さないようには務めるわ!」
接敵! 大鎌の柄の部分で、エルスは女性を叩きつけた。あっ、と悲鳴を上げて、女性が倒れ伏す。カバンの中から、得体のしれない、粘度のようなものが転がり落ちた。起爆信管を突き刺す前の、爆弾だった。
「えっと……これって大丈夫!?」
『情報通りなら、魔術信管が刺さってないなら大丈夫のはずだ』
セレマが言う。
『ルクト! 貴重な舞台を破壊してくれるなよ!?』
叫ぶセレマに、一方、舞台に向かっていたルクトがうなづく――。
「任せろ! もし爆弾を仕掛けるなら――」
ルクトが飛翔する。空中から、眼下の舞台を見下ろす。怪しいもの。もし、爆弾を仕掛けるなら――?
『客席です!』
珠緒が叫んだ。ルクトが一点を見た。大きな荷物。あたりを警戒する幻想種の男。
「見つけた!」
ルクトが眼下に向かって一直線に飛び降りる! 気づいた男が、拳銃を構え、こちらに打ち放ってきた。ルクトは体さばきでそれをよけて見せると、そのまま落下するように着地! 男を殴りつける――男は呻き――同時に、何かのスイッチを入れた。
ぞわり、とルクトの体に緊張感が走った。
「スイッチを入れられた!」
叫ぶ。
「爆弾の!」
解除方法は、わからない。ほかに、安全な場所はない。万事休すか――!? いや、まだあった。安全な場所が!
ルクトはカバンを持ち上げると、そのまま一直線に飛び上がった。空へ。なるべくたかくへ――!
「これくらいならば!」
そのまま、ルクトはカバンを空高く放り投げた――間髪入れず、上空で強烈な爆発が鳴り響いた! それが、エーニュの仕掛けていた爆弾が爆発した音なのだと気づくと、ルクトは安堵の息を吐いた。
ふと気が付けば、足元でざわざわと、人々が騒いでいる。
「あー……」
ルクトが頭をかいた。さて、どうしたものだろうか。
「花火――花火だ。サプライズの。
あー、お客さんも、劇団の人も……気にせず、続きをどうぞ」
肩をすくめる。
少々の騒ぎはあったものの、イレギュラーズたちはテロリストたちの攻撃を未然に阻止することができた。
レリントン氏の安全はもちろん、人々の安寧も、イレギュラーズたちは守り切ったのであった――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
捕縛されたエーニュの構成員たちは、現在取り調べを受けている模様です――。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
幻想種誘拐事件、それに伴い活動を開始した『テロリスト』エーニュ。
彼らの行動を阻止してください。
●成功条件
レリントン氏が生存している状態で、被害を可能な限り最小限にしつつ、エーニュ構成員すべてを無力化する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
レリントンと名乗る商人が主催する、チャリティバザールイベントが、大きな公園で行われています。
この商人は間違いなく善人であるのですが、エーニュ、というテロリストたちには、幻想種を誘拐した悪徳商人の一味と断じ、どうやら命を狙っているようなのです。
皆さんは、そんなエーニュから、レリントン氏、そしてイベント会場を守るために、依頼を受けました。
会場は、数百メートルほどの、円形の広場だと思ってください。学校の校庭をイメージすると、だいたいそれくらいの広さです。そこに、大小の屋台やイベント広場があり、多くの人でにぎわっています。
この中に、エーニュの工作員がいるようです。エーニュの工作員は、一目見れば目立たないかっこうをしていますが、何か剣呑な雰囲気を持っていたりしますし、素直に思考や感情を読んだりすると発見できたりすると思います。知識があれば、例えば『爆弾を爆発させると効率的に混乱をもたらせる場所』などに何かを仕掛けている、なんてのがわかるかもしれません。
レリントン氏は、会場最北のスタッフルームにおり、一応、数名の傭兵による警護がついています。彼女も狙われていますので、気に留めておいてください。傭兵がいるため、即座に殺されるようなことはないと思いますが……。
メタ的な情報になりますが、エーニュの工作員は、全部で13名、会場に紛れ込んでいます。これがわかっているものとしてプレイングをかけてくださって構いません。
●エネミーデータ
エーニュ工作員 ×13
エーニュの工作員です。全員が拳銃のようなもので武装しています。また、『爆弾のようなもの』を所持しています。これは現実的に言ってしまえば『プラスチック爆薬』のようなもので、様々なところにたやすく設置でき、強烈な爆発を引き起こすマジックアイテムです。
戦闘に使うかもしれませんし、どこかに設置している可能性もあります。
遭遇した場合でも、13名と同時に戦うことにはならないでしょう。むしろ、こちらも分散して各個撃破や確保を狙い、会場での被害を最小限に抑えた方がいいでしょう。個々の戦闘能力は大したことはないですから、たやすく鎮圧できるはずです(タイマンなら)。
●味方NPC
ラーシア・フェリル
幻想種のローレットの情報屋です。皆さんのサポートを行いますし、指示していただければその通りに行動します。
戦闘能力もそこそこなので、工作員ともタイマンなら負けることはないでしょう。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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