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シナリオ詳細

<天牢雪獄>許すべからざる戦力補充

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●戦力補充の動き
「……何と言うことだ!」
 新皇帝派の鉄帝軍大佐、エカチェリーナ・ミチェーリは驚愕の声をあげた。部隊の本拠地をイレギュラーズに急襲された際、療養中であったため一足先にスチールグラードまで逃れてきたエカチェリーナだったが、後から合流してきた戦力は四割にも満たなかった。いくら自身が指揮を執っていなかったとは言え、ここまで戦力を磨り潰されようとは!
 喪った戦力を補充するべく、エカチェリーナは新皇帝派の内部で様々な工作を行った。それが功を奏して、スチールグラードに向かってエカチェリーナ隊に合流すべしとの命が、地下道探索から引き上げてきたデミトリー・ミハイロフ中佐率いる新時代英雄隊に下された。

「いいか! これから我々は、スチールグラードに向かいエカチェリーナ大佐の指揮下に入る!」
 スチールグラードの南方、地下道の入口前で、デミトリーが部下の新時代英雄隊に告げた。そして、新時代英雄隊は北、スチールグラードの方へと進んでいく。物陰からその様子を覗く影があったが、新時代英雄隊はその影に気付くことはなかった。
(へぇ……わざわざこっちに来るってのかい)
 新時代英雄隊がいなくなった後、物陰から姿を現したのは、妖艶な雰囲気を纏った女。名を華幡 彩世(はなはた あやせ)と言う、最近ラド・バウに帰参したB級闘士だ。さらに、如何にもラド・バウの闘士風と言った男達も姿を現す。
「皆、聞いたね? この情報を、奴らより先に持って帰るよ」
 彩世達は、デミトリーの動きを偵察しに来ていたのだ。と言うのも、ラド・バウが先だって地下道探索の隊を送り込んだ際、同じく地下道の探索に来たデミトリー率いる新時代英雄隊と戦闘することになった。その時はイレギュラーズの助力もあり新時代英雄隊を壊滅させてデミトリーを撤退させたが、そう言う経緯もあってラド・バウはデミトリー率いる新時代英雄隊の動きを警戒しており、彩世達を偵察に出したのだ。
 幸い、デミトリー率いる新時代英雄隊の今後の動きはあっさりと判明した。ならば、デミトリー達より先にスチールグラードに戻り、ラド・バウに報告するまでだ。一刻でも早く情報を持ち帰れれば、それだけラド・バウは対処に余裕が得られる。
 彩世と闘士達は、瞬く間にこの場から走り去っていった。

●エカチェリーナの非道、デミトリーの非道
「何だって!? エカチェリーナ隊に合流しようとしている部隊がいる!?」
「そんなこと、させるわけにはいきません……!」
 ラド・バウでマルク・シリング(p3p001309)と水月・鏡禍(p3p008354)が声をあげた。マルクと鏡禍は、エカチェリーナ隊の本拠地を襲撃した際に逃れたエカチェリーナを追ってスチールグラードに来ていた。そして、情報収集のためにラド・バウを訪れたところで、彩世が持ち帰った情報に接したのだ。
 ラド・バウの闘士達は、その報に何故マルクと鏡禍が気色ばむのか不思議がった。だが、無辜の住民を磔にして寒気に曝し人質にするエカチェリーナ隊の非道と、それ故にマルクと鏡禍がエカチェリーナ隊の本拠地を叩いてその戦力を大きく減じさせたばかりと言う事情を聞かされると、闘士達も納得顔になった。
「――やっぱり、新皇帝派は理解出来ないねぇ」
 彩世も、呆れたように呟いた。彩世は、混沌に転移する前は戦乱の最中にある諸勢力の一つ、華幡家の姫にして将だった。当主一族としての教育も受けている彩世から、そして出身世界である天華(てんか)の常識からすれば、為政者が無為に自領の民を虐げると言う事態がそもそもあり得ない。そんな所業は勢力の衰退に繋がり、他領に対して不利となり、最悪の場合は滅亡に至るからだ。
「新皇帝派を今まで見てきた中でデミトリーが最悪だと言ってたが、そのエカチェリーナと、どっちが最悪だ?」
 彩世の傍らにいる、不動 狂歌(p3p008820)が問うた。狂歌は、先の地下道探索で彩世と共闘して以来、ここにいれば次に共闘する機会もあろうとラド・バウに滞在していたのだ。どうやら、その機会は早々にやってきたようだ。
「如何だろうねぇ……確かにエカチェリーナの方が非道に見えるけど、デミトリーがやってきたことも大概だったからねぇ……」
 非道の質で言えば、エカチェリーナの方が上かも知れない。だが、デミトリーが行ってきた苛烈な『英雄狩り』はこれまでに幾つもの街や村を巻き込んでおり、非道の量で言えばデミトリーの方が上ではないか。そう、彩世は答えた。

 ――エカチェリーナもデミトリーも非道な魔種であり、しかもそれぞれ兵力を有している。もしこの二人が、両部隊が合流すれば、より厄介な存在になることは間違いない。それが、マルク、鏡禍、狂歌、彩世、そしてラド・バウ闘士達の共通認識となった。
 ラド・バウはイレギュラーズに依頼を出しつつ闘士達を派遣し、デミトリー率いる新時代英雄隊を攻撃してエカチェリーナ隊への合流を阻止することにした。その任を受けたイレギュラーズ達と闘士達の中に、マルク、鏡禍、狂歌、そして彩世の姿もあった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は、『<咬首六天>災禍撒く部隊を追って』のAA採用と、『<クリスタル・ヴァイス>修羅姫の帰参』のその後を兼ねたシナリオをお送りします。
 『<咬首六天>災禍撒く部隊を追って』で麾下の部隊の大部分を損耗させられたエカチェリーナは、減った戦力を補充するべく新皇帝派内部で工作を行いました。その工作は実り、『<クリスタル・ヴァイス>修羅姫の帰参』で登場したデミトリー率いる新時代英雄隊がエカチェリーナの隊に合流することになりました。
 しかし、その動きはエカチェリーナ達にとっては不幸なことに、そして皆さんにとっては幸運なことに、彩世が率いるラド・バウ闘士達の隊によって察知されました。
 せっかく減らした戦力を補充させるわけにはいかないところでしょうし、魔種同士を合流させるのも避けたいところでしょう。
 合流を阻止すべくデミトリーの隊を攻撃し、デミトリーをここで討って下さい。


【概略】
●成功条件
 デミトリーの死亡

●努力目標
 新時代英雄隊の戦力を可能な限り損耗させる

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 スチールグラード近郊。時間は昼間、天候は晴天。
 環境によって戦闘に影響する要素は無いものとします。

●初期配置
 新時代英雄隊は長い隊列を組んで街道を行軍しています。
 イレギュラーズ達は、その側面を衝いてデミトリーがいる辺りを狙えるものとします
 (当然ながら、デミトリーを護衛する戦力は周囲にいます)。


【敵】
●デミトリー・ミハイロフ ✕1
 新時代英雄隊の一隊を率いる、筋骨隆々とした体格の憤怒の魔種です。新皇帝派軍人でもあり、階級は中佐。
 新皇帝派の――と言うよりも自己の利益のためなら犠牲は厭わない人物で、彼による『英雄狩り』は苛烈を極めています。
 回避は低いのですが、ただでさえ防御技術がやたらと高い上に皮膚の下に特殊装甲を埋め込んでいるため、【防無】、【弱点】、【邪道】、【乱れ】系BSは効果が半減します。

・攻撃能力など
 格闘 物至単 【邪道】
 薙ぎ払い  物至範 【邪道】
 量産型ビームカノン 神超貫 【万能】【識別】【弱点】【体勢不利】
  【識別】は、味方を巻き込まないように撃ったり、巻き込まれないよう味方が動いたりする技術を表現するものです。
 拡散ビームカノン 神近扇 【弱点】【識別】
 サイコミサイル 物/近~超/域 【多重影】【変幻】【邪道】【鬼道】【火炎】【業炎】【炎獄】【紅焔】
  思念によって誘導する複数の小型ミサイルです。軍服の下に隠しています。
 再生能力
 皮下特殊装甲 本文参照
 【封殺】耐性
 BS緩和

・【怒り】が入った場合の挙動
 デミトリーに【怒り】が入った場合、デミトリーは通常の【怒り】との挙動とは違い、出来るだけより多くの対象を巻き込んだ上でビームカノンやサイコミサイルを撃ってきます。
  
●新時代英雄隊 ✕多数
 デミトリー率いる新時代英雄隊の隊員達です。
 攻撃力、防御技術、生命力が高く、回避、反応は低い傾向にあります。
 戦闘が長引くにつれて、隊列の前後にいる者が次々と援軍として駆けつけてきます。

・攻撃能力など
 剣 物至単 【出血】
 量産型ビームカノン 神超貫 【万能】【識別】【弱点】【体勢不利】
  【識別】については、デミトリーのビームカノンと同じです。

・【怒り】が入った場合の挙動
 新時代英雄隊に【怒り】が入った場合、新時代英雄隊は通常の【怒り】との挙動とは違い、出来るだけより多くの対象を巻き込んだ上でビームカノンを撃ってきます。


【味方】
●華幡 彩世 ✕1
 不動 狂歌さんの関係者です。
 ラド・バウのB級闘士でしたが、新皇帝のバルナバスの勅令が発せられてから程なくして、行方を晦ませました。しかし、新皇帝派の所業に呆れ、『<クリスタル・ヴァイス>修羅姫の帰参』でラド・バウの地下道探索に参加したことを禊として、ラド・バウに帰参しました。
 今回は、隊長としてラド・バウ闘士達を率いています。元の世界では一軍の将だったこともあり、統率力は高いので、ラド・バウ闘士達は基本的には彼女に任せておけば大丈夫でしょう。
 攻防共に隙がなく、さらに高いCTで多数相手でも割と何とかしてしまうのが特徴です。しかしながら、愛用の太刀を『<総軍鏖殺>修羅姫の企み』で狂歌さんに折られ、それが修理されていない分その当時よりは弱体化しています。
 その他詳細については、こちらの設定委託『修羅姫アヤセ』(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/4010)をご覧下さい。

・攻撃能力など
 刀 物至単
 薙ぎ払い 物至範
 衝撃波 物遠単

●ラド・バウ闘士達 ✕20
 今回の作戦に彩世と共に参加している、ラド・バウの闘士達です。平均してC級相当の実力は持っています。
 攻撃手段については、得物の別はあれど大体彩世と同じような手段を持っていると考えて下さい。

※彩世とラド・バウ闘士達は、今回は一つの隊として動きます。
 そのため、ラド・バウ闘士達の隊にして欲しいことがあれば、プレイングで彩世に指示を出して下さい。
 指示が特になければ、GM判断で適当に動かします。
 なお、今回はイレギュラーズがラド・バウ闘士達に対して統率系のスキルを使うのは、意味が無いどころかむしろ邪魔になる(指揮が混乱する)ので非推奨です。


●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
・エカチェリーナ側
 『 <総軍鏖殺>雪の街に立つ、無数の柱』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8438
 『<総軍鏖殺>マキーホ平原会戦<トリグラフ作戦>』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8563
 『<大乱のヴィルベルヴィント>氷雪の魔種 白き武装を纏いて』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8752
 『<大乱のヴィルベルヴィント>空駆ける武装要塞』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8766
 『<咬首六天>雪夜の雪原に並び立つ十字架』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8929
 『<咬首六天>災禍撒く部隊を追って』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9047

・デミトリー側
 『<クリスタル・ヴァイス>修羅姫の帰参』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9034


 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • <天牢雪獄>許すべからざる戦力補充Lv:30以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年02月17日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●魔種の合流、許すまじ
「非道と非道を掛け合わせる――そんな最低極まりないコラボはお断りだ」
 新皇帝派大佐エカチェリーナ・ミチェーリの隊と、同じく新皇帝派のデミトリー・ミハイロフ中佐が合流しようとしている――その報を耳にした『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、きっぱりとそう言い放った。普段は冷静沈着である汰磨羈の語調がやや荒く感じられるのは、両者とも非道な所業を繰り返してきた魔種であるからだろう。
「エカチェリーナはどうやら、非道な連中には人望があるらしいね。いや、この場合は『類は友を呼ぶ』か」
 『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)が、南――エカチェリーナ隊と合流しようとする新時代英雄隊のいる方に視線を向けながら言う。これまで、エカチェリーナを「猟犬のように追い詰める」として追ってきたマルクは、エカチェリーナ隊本隊を急襲してその戦力を大いに削ったばかりであった。
 デミトリー率いる新時代英雄隊の合流は、エカチェリーナによる新皇帝派内部での工作の結果だ。故に、マルクの分析で言えば『類は友を呼ぶ』の方が当たっている。が、マルクからすればそんな事情よりも、合流を阻止するこの方が重要だ。
「ええ。せっかく削った戦力、補充されるわけにはいきません」
 鉄帝の敵を厭い、新皇帝派即位以降は鉄帝各地を転戦してきた『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)もまた、南を見据えながら言った。オリーブも、マルクと共にエカチェリーナ隊本隊を急襲している。それを無駄にはされたくないところだ。
「最低最悪のコラボなんて、情け容赦なく徹底的に叩き潰してくれる!」
 汰磨羈が、そう意気込み叫ぶ。マルクとオリーブは、深く頷いて同意を示した。

「デミトリー……前に撃退した相手……? エカチェリーナは……自軍を置いて逃げた人……だったかな……。
 どっちも魔種って聞いたから……合流させたらダメ、だね……」
 スチールグラードから南に延びる街道を歩きながら、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)がつぶやいた。
 レインは、ラド・バウによる地下道探索の際、デミトリーと遭遇、交戦している。また、マルク達によるエカチェリーナ隊本隊急襲の際、スチールグラード方面に逃走するエカチェリーナを視認してもいた。
 そもそも、イレギュラーズと魔種は不倶戴天の敵と言える。敵同士の合流、と考えれば、レインがそれを容認し得ないのは当然と言えよう。
「ここに来て、新皇帝派も活発化して来たねぇ」
 整った顔立ちに、闘志に満ちたある意味攻撃的とも言える笑みを、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は浮かべている。
「英雄狩りなんてロクでもないこともしてくれてる相手だし、ここでカタを付けてやらなきゃね!」
 イグナートは、パン! と掌に拳を叩き付けて、さらに唇の端を吊り上げてニッと笑った。その表情には、獲物を狙う肉食獣の趣があった。
「あのデミトリー達が、よりによってエカチェリーナ隊と合流ですか……」
 溜息交じりに漏らしたのは、『鏡地獄の』水月・鏡禍(p3p008354)だ。
 鏡禍もまた、エカチェリーナ隊の非道を許すまじとして、エカチェリーナ隊本隊急襲に参加していた。そして、鉄帝地下道でデミトリーらとも交戦している。当然、その両者の合流など許せるはずがない。
「――とは言え、あの時はちょっとずるい手も使ったので、今度こそしっかりと正面から渡り合ってみせましょうか」
 鏡禍は、鉄帝地下道で冬狼や冬の精霊と新時代英雄隊との挟撃状態に陥った際に、冬の精霊の敵意を煽りつつ新時代英雄隊の方へと誘引し、自分もろとも新時代英雄隊を攻撃させると言う挙に出た。それが功を奏して、新時代英雄隊は早々に壊滅、デミトリーは撤退を余儀なくされた。鏡禍の言う「ずるい手」とは、その事を指している。もっとも、今回は誘引してぶつける相手もいないため、真っ向から渡り合うしかないのだが。
「んー、撤退させたと思ったら今度は別所と合流したいと。
 まま、人肌恋しい季節かもしれませんがねぇ、ぬくぬくと温め合う機会を簡単に与えるつもりも此方にはねぇからな」
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が、皮肉っぽく笑う。実際にはデミトリーは合流を命じられたわけだが、それはさておき。
 魔種同士を「温め合わせる」趣味はカイトにはなかった。デミトリーには、凍えるような氷雨に打たれながら死んでもらうつもりだ。
「あの時の逃がした魔種が別の魔種と合流するとは、面倒だな。
 逃げた相手をこうやって追い討ちするのは、追い剥ぎみたいで気が進まないが――」
「何言ってるんだい? 戦争なら、追撃は当たり前だろ。
 それで追い剥ぎだ何だと文句を垂れるなら、そもそも戦場に出てこなければいいのさ」
 『鬼斬り快女』不動 狂歌(p3p008820)もまた、鉄帝地下道でデミトリーらと交戦した一人だ。追撃となる新時代英雄隊への攻撃には気乗りしない様子の狂歌に、同行しているラド・バウ闘士達の隊長である華幡 彩世(はなはた あやせ)がむしろ当然のことだと被せた。狂歌と彩世は豊穣にいた時から、あるいは敵、あるいは味方として戦った腐れ縁だ。もっとも、彩世がそれを故意に狙ったことを、狂歌は識らないのだが。
 彩世は、混沌に転移する前は戦乱の最中にある勢力の将であった。それ故に、撤退して行軍中の敵を攻撃することに躊躇はない。彩世からすれば、鉄帝は各勢力と新皇帝派が戦争しているも同然だ。であれば、行軍中であろうが攻撃出来る敵を攻撃するのは当然の作戦だし、その攻撃で部隊が壊滅するなら、それは将が隊長として力量不足だったと言うだけの話だ。
「――それも、そうか」
 狂歌は、彩世ほどに割り切った考え方は出来ない。が、彩世の言い分に理を認め、成程と頷いた。そもそも、魔種同士を合流させられない以上、ここで倒しておくしかないのだ。そう納得した狂歌は、この後の戦闘を戦い抜くことだけに意識を向けた。

●急襲
 イレギュラーズ達は、スチールグラードからの街道の脇に隠れ、新時代英雄隊を待った。やがて、長い列を為して新時代英雄隊が姿を見せ、街道を北上する。その半ばにいるデミトリーの姿を確認したところで、カイトが動いた。
「ついこないだぶりな気もするけど、もう一度冷たい世界を味わっとくかい?」
「何ッ!?」
 突然街道の脇から飛び出してきた――少なくとも、デミトリーにはそう見えた――カイトに、デミトリーは驚愕した。そのデミトリーと、護衛の新時代英雄隊に、カイトは凍てつく氷雨を降らせていく。
「うぐっ……!」
 延々と降り続く氷雨に、護衛の新時代英雄隊は身体を凍り付かされ、身動きもままならなくなった。さすがに、デミトリーはそれで動けなくなることはなかったが、それでも身体の動きは明らかに鈍っている。
「邪魔です。道を開けて下さい」
「エカチェリーナと合流させるわけには、行かないからね」
「ぐあっ……!」
 カイトに続いて、オリーブとマルクが仕掛けた。オリーブはクロスボウで掃討射撃を行い、マルクはデミトリーらの周囲を揺蕩う根源たる力を穢れた泥へと換え、デミトリーと護衛の新時代英雄隊を攻撃する。クロスボウの矢を幾本も受け、運命を漆黒に塗りつぶされた新時代英雄隊は、突き刺さる矢からと穢れた泥による生命力の侵食からの苦痛に悶え苦しむ。
「行くか――退いてもらおう」
「何の、光ィ――ッ!?」
 汰磨羈は、妖刀『愛染童子餓慈郎』の刀身に和魂と荒魂を注入し、疑似的な太極を構築する。そして、陰と陽の気が充満した愛染童子餓慈郎の刀身を、大上段に振りかぶってから勢いよく振り下ろした。すると、刀身に満ち満ちる陰と陽の狭間から、根源たる光がデミトリーに向かって、真っ直ぐ迸る。
 光は、汰磨羈とデミトリーの間にいる新時代英雄隊を次々と薙ぎ倒し、デミトリーに命中した。その間に、汰磨羈は光の後を追うかのようにデミトリーへと迫る。
「なるほど、随分と頑丈な体にしたものだ――」
 デミトリーのすぐ側まで近寄った汰磨羈は、火行と金行の魔力を身体中に満たすことによって、肉体的な限界を超越した一閃を放つ。三日月が如き光跡が、デミトリーが皮下に埋め込んでいる装甲をも斬り裂いて、その胸板を斬った。鮮血が、デミトリーの胸から噴き出していく。
 さらに汰磨羈は、超高速で刀を返し、愛染童子餓慈郎の刀身をデミトリーに叩き付けた。その一閃が、瞬時にデミトリーの身体を炎で包む。
「ぐおおおおっ!?」
「スキあり! 獲らせてもらうよ!」
「ぐぶうっ!」
 デミトリーが身を包む炎に驚愕している間に、イグナートもまたデミトリーに迫っていた。呪腕たる右腕が、竜の一撃が如き威力で、デミトリーの鳩尾に突き刺さる。特殊装甲越しとは言えその衝撃は、デミトリーを呻かせ身体をくの字に折り曲げさせるに十分だった。
 続けてイグナートは、掌打を繰り出した。それも、ただの掌打ではない。指を虎の爪の如く曲げ、掌打と同時にその指をデミトリーの体内へと抉り込ませていく。指先には練り込まれた気が込められており、デミトリーの体内で爆ぜた。
「ぐあああっ!」
 体内で肉が爆ぜる苦痛に、デミトリーが絶叫をあげた。
「お久しぶりですね、デミトリーさんとその隊の皆さん。冬の精霊の味はおいしかったですか?」
「きっ、貴様はっ!」
 そのデミトリーに、鏡禍が声をかけた。デミトリー以外の新時代英雄隊は、鏡禍と顔を合わせるのは初めてであったため、鏡禍の言には「?」と言う疑問符を頭に浮かべている。だが、デミトリーにとっては、鏡禍は忘れられるはずがない相手であった。冬の精霊の味は、鉄帝地下道の探索と言うデミトリーの任務を失敗に導いた、苦渋に満ちた味だったからだ。
 デミトリーは鏡禍に対して激昂したが、鏡禍とそれ以上関わることは出来なかった。鏡禍がデミトリー以外の新時代英雄隊への対処に回ったことに加え、デミトリー自身は自分を攻撃してくるイレギュラーズ五人の相手で精一杯だったからだ。
 鏡禍は、妖力の証である薄紫の霧をその身に纏うと、新時代英雄隊の中に飛び込んでいき、目に付く者から手当たり次第に殴りつけた。鏡禍の拳を受けた新時代英雄隊は、次々と流れ出る血に染まる。
「皆……頑張ってくれたら、好きな食べ物……奢ってあげるね……。
 ゼリーとかプリンとか……皆なら、肉の方がいいのかな……?」
 ラド・バウ闘士達の士気を高揚させようとそう訴えかけたレインは、鏡禍の後ろへと行き、背中に光の翼を生やした。そして、ばさり、と大きく羽ばたかせる。翼からは無数の羽根が舞い、羽根は光の刃となって、新時代英雄隊を斬り刻む。新時代英雄隊は鏡禍にボコボコに殴られていたこともあり、これで次々と力尽き倒れていった。
「ありがとうよ、お嬢ちゃん」
(男達は、馬鹿だねえ)
 長髪かつ虚ろで儚げ、しかも小柄で痩身のレインは、女性的な印象を与える。しかも、最初に奢ると言ったのが甘味であるのがまた可愛らしい。彩世はレインを男と認識していたが、闘士達の士気は上がっているようなので、敢えてその誤解は解かないことにした。 
「こんなに早く、また共闘とはな。長く会わなかった割には、最近縁があるよな。
 今回は勝負は無しと言うか、前回と同じじゃつまんないから、落ち着いたら手合わせしようぜ」
 狂歌と彩世は、鉄帝地下道でデミトリー率いる新時代英雄隊を相手に共闘したばかりだ。その直後にまたこうして共闘できることが、狂歌にとっても彩世にとっても嬉しい。
「確かにねえ。それじゃ、早くこの内乱を片付けないと、だね」
 狂歌に答えた彩世は、闘志達と共に新時代英雄隊へと斬り込んでいった。狂歌もまた彩世と共に新時代英雄隊へと斬り込むと、斬馬刀・砕門を大きく振りかぶり、渾身の力を込めて振り下ろす。城さえも斬る、と言われる武技が、新時代英雄隊の一人をそのビームカノン諸共に叩き斬った。斬られた新時代英雄隊は、深手を負い昏倒する。

●デミトリーの最期
 周囲の護衛を殲滅されたデミトリーは、カイト、汰磨羈、イグナート、オリーブを相手に、その生命力を着実に削られていった。マルクの号令が、四人の気力を支える。特に汰磨羈、イグナート、オリーブは気力の消耗が激しい技を連発していたから、その分速いペースでデミトリーの生命力を削っていたとは言え、マルクがいなければ早々に気力が尽きていたことだろう。それでも、時折気力の回復が追いつかない局面はあったが。
 一方、汰磨羈、イグナート、オリーブ、マルクもまた、距離を取ってからデミトリーが放ってくる思念誘導の小型ミサイル群を受け、深手を負った。
 隊列の前後にいる新時代英雄隊はデミトリーの救援に回ろうとするが、その試みは鏡禍、レイン、狂歌、そして彩世ら闘士達によって阻まれた。

「ダメですよ、あなたたちの相手は僕らなんですから」
「くそっ! こいつ、邪魔だ!」
 鏡禍が、またしても壁となってデミトリーを救援せんとする新時代英雄隊を阻む。鏡禍自身は小柄であるのに、新時代英雄隊にとっては巨大な壁を相手にしているようであった。
 鏡禍に足止めされた新時代英雄隊は、薄紫の霧を纏った拳によって、次々と血に染まっていった。
「そう……デミトリー、には……行かせない……」
「こいつもーっ!」
 レインもまた、ある時は前に出て、ある時は後ろに下がって、新時代英雄隊に対する壁となっていた。ただその一方で、多数を相手にしすぎたことから、相応の深手は負っている。
 鏡禍に殴打された新時代英雄隊を追撃するため、レインは背中に光の翼を生やし、大きく羽ばたかせた。翼から舞い散る無数の羽根が、光の刃となって新時代英雄隊を斬り刻む。そして、狙いどおりに鏡禍に殴打された新時代英雄隊を倒していった。
 鏡禍とレインを新時代英雄隊に対する壁とするなら、狂歌は新時代英雄隊に突き出された槍と言うべきだろう。狂歌もまた深手を負っていたが、狂歌の場合は、そこからが本領発揮でもあった。
「悪いけど、アンタ達を逃がす気はないよ」
「ぐあーっ!」
 紅き猟犬が次々と獲物を狩るが如く、狂歌は殺意を露わにして砕門を振るい、新時代英雄隊を次々と斬り伏せる。砕門の一閃は、狂歌が傷つけば傷つくほどに威力を増しており、新時代英雄隊はその一閃さえも耐えることは出来ない。
「くそっ、貴様ら……!」
「のうのうと行軍出来ると思ったら大間違いなのはお互い様、だろ? 何より、そっちの主義の意趣返しとも言えるな。
 ラド・バウ的には、『文句があるなら実力でねじ伏せてみろ』……だっけ? ま、そーいうこったよ」
 救援を遮られたデミトリーは、全身を血に染めほぼ虫の息となっていた。その表情は、行軍中への攻撃を卑怯だと言わんばかりの憤懣に満ちている。だが、カイトはデミトリーの憤りを気にもかけず、白い雨を降らせていく。
 白い雨は、神聖さすら感じさせる優しいものだ。だが、過度の浄化は呪いの裏返しでしかない。白い雨に濡れたデミトリーの身体が、所々石へと変じていった。
「ゼシュテル鉄帝国はここに生きる民のタメにある国だ!
 民のタメに国があることが理解出来ないヤツ等に、この国はくれてはやれないね!!」
「ぐぼっ!」
 身体の一部が石と化したために動きの鈍ったデミトリーに、イグナートが左右の腕でワンツーのストレートを放つ。その腕に込められているのは、鉄帝の民の盾たらんとする、そのためなら鉄帝を恣にする魔に抗わんとする、覚悟と勇気。胸板に二発の拳を受けたデミトリーは、大きく後ろに仰け反った。
「因果応報だ。堕ちた外道は速やかに逝くがいい!」
「ぐぬうっ!」
 デミトリーの背後に回り込んでいる汰磨羈が、その背中を立て続けに斬りつけた。まず、三日月のような剣閃の跡が縦に大きく刻まれ、そこからさらに血を噴き出させていく。そして、返す刀で下から上へと斬り上げた。その傷口から、炎がデミトリーの全身に拡がっていく。血と肉が焼ける臭いが、辺りに漂った。
 さらに汰磨羈は、もう一度同じ攻撃をデミトリーへと繰り出し、その生命力をさらに削り取る。最早、デミトリーは立っているのがやっとだ。
「――これで、終わりです」
「その守りごと、切り裂いて見せる!」
 オリーブが横から、マルクが前から、デミトリーに止めを刺すべく仕掛けた。
 殺人剣の一閃が、デミトリーの腕を肩の近くから斬り飛ばす。がら空きになった脇腹に、オリーブはロングソードを深々と突き立てた。
 同時に、マルクが自身の魔力を収束して創り出した剣で、デミトリーの胸を貫く。
 前と横から二本の剣に貫かれたデミトリーは、大量に吐血。そして瞳からは光が喪われ、その場にどうと倒れ伏した。

 将であるデミトリーを斃された新時代英雄隊は、士気を喪失し我先にと逃亡を図ったが、それを易々と許すイレギュラーズや闘士達ではない。新時代英雄隊は追撃を受け、少なくない数が倒され、さらに損害を被った。

成否

成功

MVP

マルク・シリング(p3p001309)
軍師

状態異常

マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)[重傷]
陰陽式
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
不動 狂歌(p3p008820)[重傷]
斬竜刀
レイン・レイン(p3p010586)[重傷]
玉響

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によりデミトリーは撃破され、新時代英雄隊もその多くが倒されました。
 MVPは、クェーサーアナライズでデミトリー側のアタッカーの気力を支えたとして、マルクさんにお贈りします。

 それでは、お疲れ様でした。

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