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シナリオ詳細

<咬首六天>鋼鉄探偵ヴィクトリアと金融犯罪の街

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「おうおうおう! カブってやつを売ってる店ってのは、ここでいいのかよ?」
 軍服を着た屈強な男が、店先で声を張り上げた。
 胸元には新皇帝派の徽章が煌めいている。
「へ、へい。野菜ならなんでも取り扱っておりますが、カブは生憎と品切れでして」
 そこは街の八百屋であった。
 普段ならば赤カブ(ビーツ)だって取り扱っているはずなのに。
「だったらよ。買い取りとかってのは、あんのか?」
「え、ええ、鮮度にもよりますが。最近仕入れが滞ってまして、助かります」
 鉄帝国はフローズヴィトニルという未曾有の寒波に見舞われていた。農作物は貴重品だ。
「よしきた。いいカブがあるぜ」
 男はしゃがみこむと、額に青筋を立てながら力んだ。
「ンンーッ! ッショイヤ! オラァ!」
 持ち上げたのは、一抱えもある大きな木箱だ。
 二メートルは越えようかという大男だが、重そうに一歩一歩、ゆっくりとカウンターへ向かう。
 商店の主はそんな様子をはらはらと見守った。
 エルゴノミクス的に心配な動作だったから。
「おっし! 契約成立だな! このカブ、買い取ってくれや!」
 男がカウンターに乗せた木箱を、勢い良く開ける。
「……?」
 しかし――店主は箱の中を覗き込み、頭をぶるぶると振った。
 中に何もないのである。

「そんじゃ買い取ってくれや」
 男はもう一度そういった。
「い、いや、しかし、一体これは」
 だから、何もないのである。
「なんども言わせんな。分かるよな。こいつを――カブを買い取れと言ったんだ、オレは」
 それでも木箱の中には、何もないのである。

「い、いえ、その、箱の中、空っ――」
「ああ!? 聞こえねえのか!」
 突如激昂した軍人が、店主の胸ぐらを掴んで高く捻り上げた。
「オレはよ、練達の賢いケーザイ学者さんの本を読んで、カブの売り方ってのを知ってんだぜ」
「か、かかか、買いますう!」
 店主が空中で足をばたばたさせながら叫ぶ。
 軍人の男は手を離し、店主が床に尻餅をついた。
 ついでに箱を覗いたが、やっぱり何もないのである。

「お、おいくらで!?」
 店主はやけくそで叫んだ。
「二十万ゴールドだな」
「に、にじゅ……!? わかりました……」
「ヒュー! あんたいい買い物をしたぜ」
 金を受け取った新皇帝派の軍人は、踵を返して手をふると、そのまま店を立ち去った。
 店主は何もない木箱の中身を、おっかなびっくり何度も確かめてみる。
 けれど結局、そこには何もなかったのだった。
 一体全体、木箱はまったくの『からっぽ』だったのだ。

 そう。木箱には、なぁーんにもなかったのである。


「諸君、由々しき金融犯罪が発生しているようだ」
 ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)が一同へパイプを突き出した。
「ふっふっふ。つまり私と諸君の頭脳が必要とされているということだ」
 彼女は事件のあらましを説明し、こう結ぶ。
「これは『空売り(からうり)』だね」
「……?」
「難解な経済用語だから知らないのも無理はないが……つまるところ、こういうことだよ」
 ヴィクトリアは、どや顔で腰に手をあてた。
「いや、そもそもちょっと違――」
「ともかく推理と行こうじゃないか」
 被せ気味にイレギュラーズの言葉を遮ったヴィクトリアは説明を続ける。
「つまり街中で新皇帝派の軍人を、片っ端から捜査することになるね」
「ええ、捜査や調査といえばコレですわ」
 空の酒瓶で力強く素振りしたヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に、ヴィクトリアは神妙な表情で頷いた。
「ご名答、さすがは助手。冴えているね」
「光栄でございますわ~!」

「い、いや、ええと……」
 イレギュラーズが遠慮がちに挙手した。
「よし、意見があるなら述べたまえ」
 ヴィクトリアが真剣な表情で視線を合わせる。
「手持ちの株を売ることを現物売りと言うことに対して、手元にない株を信用取引などを利用し、借りて売ることを空売りと呼び、高い株価がこれから下がると予想された際に空売りを行い、下落した所で買い戻して差分を利益として得ることで、社会的な意見は多方面からあれど、必ずしも良いとか悪いとかそういう――」
「ふむ。正しい見識だ。だが経済は難しい。多くの人に詳細な理解を求めるのは酷というものだ」
 頷いたヴィクトリアが、ゆっくりと一同を見回した。
「だからここは、もう少しスマートに考えてみようじゃないか」
 ヴィクトリアは不敵に微笑み、「私達『頭脳派』が得意とする『ココ』をつかってね」と、自身のこめかみを人差し指で二度つつきながら片目を閉じる。
「つまり新皇帝派の軍人を見つけては、片っ端からボコ……おほん。推理捜査すればいいのですわ!」
「うん、そうだね!」
 ヴァレーリアとマリアが神妙な表情で頷いた。

「けれど新皇帝派の軍人が空売りをしていなかった場合は……」
 一瞬考え込んだマリア・レイシス(p3p006685)が、何か閃いたように、手のひらを拳の底で軽く打つ。
「そうだね。新皇帝派なら、そうでなくとも悪いことはしているからね」
「再びご名答、君達の怜悧な頭脳に敬意を。これは一石二鳥の作戦だ」
 マリアの名推理にヴィクトリアが帽子を外して一礼した。
 つまりイレギュラーズは街の新皇帝派軍人を片っ端からどつきまわし、空売りをしている軍人もろともボコボコのボコにしてやることになる。
 新皇帝派はどうせ悪いことをしているから、ボコボコにしても問題ない。
 うん? なら空売りとか別に関係な――
「それじゃあ早速、行こうじゃないか!」
 前提が崩れかける前に、出口のほうをパイプでビシッと指したヴィクトリアへ一同が頷いた。

 ――金融犯罪を正し、市場と市民の平和と安全を守るための戦いが始まる。


GMコメント

 資本主義の豚に鉄槌を下す。これは革命ですね。
 桜田ポーチュラカです。
 新皇帝派の金融犯罪を止めましょう。

■依頼達成条件
 街で新皇帝派の軍人を見つけたらボコにしましょう。

 じつはこの街の新皇帝派の軍人は、全員が刑期を終える前に、新皇帝の総軍鏖殺の法によって釈放された犯罪者です。
 あちこちで再び犯罪を犯していますので、殴っても大丈夫です。
 殴り倒すと、当局の皆さんが連れて行ってくれます。

■フィールド
 鉄帝国の街です。
 飲食店や商店が建ち並ぶ繁華街です。

■敵
 金融犯罪など、街で様々な悪さをしている新皇帝派の軍人達です。
 こう「空売り?」とか? そういう難しい悪いことをして街の人を困らせたりしています。
 ついでに言えば、皆さんを倒して賞金を得ようとか、せこい考えも持っています。
 皆さんはボコにするなどの推理や捜査を披露し、敵を倒しましょう。
 あちこちに居ますので、片っ端からやってしまいましょう。

■同行NPC
『鋼鉄探偵』ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)
 近接格闘術とピストルで戦うことが出来ます。
「ふっふっふ。この私の頭脳が、必要とされているようだね」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 鉄帝国だからです。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>鋼鉄探偵ヴィクトリアと金融犯罪の街完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護

サポートNPC一覧(1人)

ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)
鋼鉄探偵

リプレイ


 ガヤガヤと街のざわめきが聞こえてくる。
 遠くでは何かをカンカンと打つ音がしていた。至る所から蒸気が吹き上げ、鉄帝という国特有の鉄の匂いが漂う。『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は「ふむ」と『鋼鉄探偵』ヴィクトリア・ラズベリーベル(p3n000219)の言葉を繰り返す。
「成程、推理(物理)だな。悪くない新皇帝派は離脱した新皇帝派だけ、了解」
 理論はどうあれ実質的に押し売り詐欺みたいなものだとアーマデルは「理解」した。
 動乱の中でも無事に探偵をやっていて安心したと『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)はヴィクトリアの前に歩み寄る。
「改めてワシはオウェード! 直接会うのは初めてじゃな……宜しくじゃよ! ヴィクトリア殿!」
「うむ、よろしくお願いするよ!」
 元気な声で返事をしたヴィクトリアへと挨拶しにきたのは『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)と『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)だ。
「はじめまして」
「ご機嫌麗しゅう、ヴィクトリアさん。そして皆様」
 金融犯罪とは大変だと史之はメガネを光らせる。
「フィッシングとかインサイダーとか、なんかそのへんの巨悪がはびこっているに違いない!」
「そうさ! カブだね!」
「カブ……ですか。ええ、あれは恐ろしいものです。世間ではさも健全な資産運用であるかのように謳われておりますが、ようするに丁半博打です。賭け事は嫌いではありませんが、全財産溶かしたとなると笑えませんね。そのような方がでないように……」
 うんうんと頷きながら睦月と史之が箱の中を覗く。
「え、カブ?」
 箱の中にはカブが入っていた。おじいさんやおばあさんが引っこ抜こうとしている話しが有名なあのカブである。あのカブは引っこ抜こうとしているおじいさんが足で踏ん張っているから中々抜けないというそんなジョークがあるが。
「ああ、そっちのカブ」
 ええと、と史之と睦月は顔を見合わせる。
「よくわかりませんがわかりました。悪事には悪事で対抗せよ、そういうことですね。かしこまりました」
「とりあえず新皇帝派の軍人をボコればいいんだね? いこうか、カンちゃん」
「はい」
 仲睦まじく史之と睦月は街中へ向かう。

「あーあーあーあー、良いんだよ、面倒くせえ事はよ。知らねえ知らねえ、いちいち考えて悪党殴るのは面倒だ。悪党なんか問答無用でぶん殴ればいいんだよ、ぶん殴ればよ?」
『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は格好よくファイティングポーズを取る。空気を切る貴道の拳の軌道がとても美しい。
「ほぅ……。空売りとな……」
「それにしても奇遇ですわね。丁度、私も練達の経済学者さんの本を読んで一儲けしようと……こほん、いえ、金融犯罪を防ごうと努力していたところでしたの」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)と『鋼鉄探偵の助手』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がカブ入り木箱を持っていた。
「ちょうどヴァリューシャとそれで大儲けしようと思っていたところさ! まぁあれだよ! ヴィクトリア君は大船に乗ったつもりでいてくれたまえよ! ふふ! 私達の頭脳の冴えを見せてあげようじゃないか! 金融犯罪も完璧に取り締まってみせるよ!」
「頼もしいじゃないか、助手の相棒くん!」
 マリアが胸を張ってヴィクトリアへ高らかに宣言する。
「……って、おい、これ株じゃなくて、カブじゃねえのか?」
 貴道の声にヴァレーリヤはそっと瞳を閉じた。
「きっとこれは、悪を懲らしめよという主の思し召しなのでしょう」
 そのままヴァレーリヤはマリアに耳打ちをする。
「……マリィ、これは次の機会にしましょう」
「そうだね! ヴァリューシャ! それはまたの機会に!」
 この騒ぎが無ければ売り出そうとしていたカブ入り木箱をそっと荷物に仕舞うヴァレーリヤとマリア。大丈夫誰にも二人の思惑は気付かれていない。
「依頼受けた時と話が違うぞ、空売りじゃなくて押し売り……いや、空箱売り? ほんっとに、鉄帝って国は全く……」
 盛大な溜息を吐いた貴道は見慣れぬ少年が輪の中に入っているのを見つける。
「なるほど! 何か悪い事してるやつがいて、しかもそいつら何か頭がいいんだな?」
 この雰囲気どこかで……と貴道は思っているが。何処で見たのかを思い出せない。
「なら、話は簡単だな! こっちも頭の良い作戦を用意すれば良いんだ!」
『プリン・ガーディアン』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)はくるりと愛らしい笑顔で振り返った。


「そうですね、ここは僕の美貌を利用して、美人局なんかがいいのではないでしょうか。顔には若干自信がありますよ! 特異運命座標は美男美女が揃っていますからね。そのうちのひとりが僕です!」
 黒いスーツを身に纏った史之は鉄帝のファッションを参考にし、水商売風の派手めなメイクもした睦月の姿を見て「美人だ」と目を輝かせる。
「夜花を利用して艶やかに参りましょう。しーちゃん、僕のことせいぜい高く売りつけてね。命令だから、これ」
「任せてよ」
 史之は歓楽街を歩いて来る軍人の前に歩み出た。
「へっへっへ、旦那。うちの店、一度いかがですか」
 本当なら妻である睦月を売るような真似はしたくない。
 しかし、当の本人である睦月がやれと命令するのだ。彼女からの命令に拒否権はない。
「おおう? こんなに可愛い子……ここいらじゃ見かけねえなあ!」
「おにいさんおにいさん、おともだち連れてきてね、うちの店で楽しんでいって。それじゃ、案内するからついてきておにいさん」
「今なら開店記念で高級酒ドンペリが飲み放題。どうです旦那、お仲間を連れてきては……」
 高級な酒を目の前に取りだした史之。軍人の目の色が変わる。
「へえ、気前が良い店もあるんだな! よし仲間を連れて来よう」
 良い店があると仲間を呼びに行く軍人。
(うん、俺のギフト、まさかこんなところで使うはめになるとは思わなかったね)
 いつも晩酌に使っている高級な酒は史之にとって慣れた味である。しかし、一般的には違うのだ。
 酒と女がまとめて来たら、犯罪者崩れは食いつくという史之の予想は的中した。

 なにはともあれ。仲間を連れて戻って来た軍人を物陰に誘い込む史之と睦月。
「へへ、何処に良い店があんだ?」
「人の妻さんへ手を出そうたあ、ふてえ野郎どもだ」
「な、騙したな!?」
 荒事は任せたとハンカチを降る睦月に頷いて、史之は軍人共を挑発する。
「はあ? 売ってるのは俺だって? いいんだよ細かいことは!」
 史之の拳が軍人の腹に一発叩き込まれた。崩れる仲間に怯んだ軍人を次々に仕留める史之。
 気絶した軍人の懐に手を突っ込んで、小銭を巻き上げるのは睦月だ。
「ローレットを通じて、カブ取引の被害にあった方へ配布いたしましょう」
 金は天下の回りものだと言う強かな妻に史之は頼もしいと微笑んだ。

 アーマデルはその辺りに居る霊に「一般人に迷惑かけてるヤツを見なかったか」と尋ねる。
 酒蔵の聖女も捜索の手伝いを頼んだが、対価は後払いで出来高だ。何故と問う聖女の声。
「……先に払うとあんた浮かれて仕事しないだろ」
 ジト目で聖女を見たアーマデルは無害で善良そうなモブ一般人を装い怪しい軍人の元へ近づく。
 この会話の中にさり気なく混ざり込んでいるモブっぽいアーマデルを絶好のカモだと思った軍人は「そこのお兄さん!」と声を掛ける。
「ちょうど良かった。お兄さん。この箱に入ったカブ。そうカブだよ。良いカブなんだ。え? 空っぽに見える? 本当かい? そんなことは無いだろう。よく見てみよう。ほおら、良い物だよ?」
「話はとりあえず三行くらいまでは聞いてやってもいい。完結に纏めてくれ」
「え? 三行? 纏まってたような気がするけど」
「成程、つまるところは金を巻き上げようという腹だな、有罪(ギルティ)」
「おいいいい!?」
 問答無用の攻撃がアーマデルから繰り出される。
「……懺悔するようなことをやらかしていたら言うがいい、聞き流してやるぞ?」
 相手は物凄いワルである。推理(物理)をしてボコすのが一番良い。
 とはいえアーマデルは戦士でも騎士でもない。正面からまともに殴り合うのは得意ではない。
 そう! 相手はモノスゴイワルである。アーマデルの攻撃が!
「ギャア!」
 ビシバシと。軍人の身体を打つ。
「何て強さだ! このモブ一般人……ただ者では無い!」
「そこはダメだ!」
 鉄騎種の弱い部分を集中的に攻撃するアーマデル。
「くそう! こんなにも屈辱を受けるなんて!」
 バシバシとやって、一般人を巻き込まないように物陰へ追い込む。
 箱を投げ出して両手をついた軍人をアーマデルは面白いポーズで拘束した。
「よし……」
 一仕事終えたあとのジュースは格別だとアーマデルは頷いた。

「箱が目印だと言うが、箱じゃなくても空売ってくる可能性もあると言う感じじゃな……」
 オウェードは一緒に行動しているヴィクトリアへ視線を落す。
「練達で少しだけ経済の本を読んでいたからのう……」
「なるほど! オウェードは賢い。頼りになるな!」
 オウェードの視界には怪しそうな軍人の姿が見えた。
「むむ、あの軍人は怪しい!」
「どれどれ……確かに何やら箱を売りつけようとしているな。流石オウェード! 早速突撃だ!」
 ヴィクトリアの後を追いかけてオウェードは軍人達の前に立ちはだかる。
「悪いが少しワシらの調査に協力してもらおうかね……」
「な、なんだぁ!?」
 まずは彼らへ一発お見舞いするオウェード。
「ぐわあ!? こいつ、ただ者じゃねえ!」
 軍人達が驚いている隙に、もう一発攻撃を繰り出す。
 その間にも、オウェードは推理を欠かさない。
「ワシの推理は頼りないと思うものの考えてみた…空売りの別名は「信用売り」じゃな……しかし店主は信用できなくなって中断した……それにも関わらずに犯人は契約を中断を許さなかった事……これでは「不信用売り」じゃな……」
 オウェードの推理にヴィクトリアは感心したように頷く。
「また犯人は天井を知らなかったと見える……これで青天井で損失かね……しかも今は滅多に見ない寒波で青とは言い切れぬが……」
(何故だか知らぬが、ワシは脳筋の筈なのに久々に脳筋らしい事を言ったような……)
「練達では空売りの規制もあるらしい」
「ぐわあああ!?」
 オウェードの推理に軍人達が悲鳴を上げて去って行く。
「お疲れ様じゃなヴィクトリア殿……見事な推理じゃった」
「ふふん、やるじゃないか君もやるじゃないか。むむ……向こうで私の頭脳を必要としている人が居る。ではあとは任せよう!」
 また何かあれば協力しようとオウェードは走り去って行くヴィクトリアを見つめた。

「どうやら連中、ヴィクトリアと同じで相当のアホと見た。犯人は現場に戻ってくる……じゃないが、味を占めて同じような事するんじゃないか?」
 貴道は八百屋の主人に交渉して奥の座敷で待たせて貰う事にした。
「用心棒の先生ってところだな、HAHAHA!」
 そんな貴道の笑い声を聞きながら、プリンは隣のヴァレーリヤへ振り返る。
「流石何か考えて……うん? ヴァレーリヤ、何か思いついたのか?」
 目をキラリと光らせるヴァレーリヤはプリン(秘宝種)を箱に詰め込んだ。
「さあさあ、寄って来なさい見て行きなさい! これを逃すと後悔しましてよ!」
 ヴァレーリヤの大きな声が八百屋の辺りに響き渡る。
「えっと、こもでぃてぃ? すーぱーさいくる? に乗るなら、今! 値上がり間違い無しの秘宝種が、なんと50万Goldからの大売り出しでございますわ~!」
 バンバンとメイスを木箱に叩きつけるヴァレーリヤ。振動がプリンの柔らかな頬を揺らす。
 極まった秘宝種はそれだけでお宝ということだ。
「ここ(※箱の中)でプリンを美味しそうに食べてるだけでおびき寄せられる……?」
 なるほどと感心する秘宝種の少年プリン。
「確かにプリンは万能だものな! つい自分も食べたくなって寄ってくるわけか! 頭良いな!!
 ついでに檻の中なら、プリンタイムを咄嗟に邪魔されたりもしない! 気遣いも完璧だ!」
 美味しそうにプリンを頬張るプリン。むぐむぐ食べている可愛い。可愛いと人々が寄ってくる。
「うん! プリンは今日も美味しい!」
「へい! らっしゃい! カブといえばレインボータイガー社! レインボータイガー社だよ! 空売りも大歓迎さ! ついでに隣のヴァリューシャの店で買い物をしていくといいよ!」
 ヴァレーリヤの隣ではマリアがとらぁ君を従えカブを買い取る業者を演じていた。
 これは秘宝種(プリン)の叩き売りをして荒稼ぎすることで、縄張りを荒らしたと思わせて誘き出す作戦である!

「――なんだぁ!? てめえら!」
 ガンとバケツを蹴りつける音が八百屋の前に響き渡る。
「ひぇ!?」
 プルプルと震える八百屋の主人の肩に手を置いた貴道は奥の座敷から店先へ出た。
「聞く耳を持ってるとは思わないが、一応戦う前に聞いてやる。降伏して命の危険なく捕まるか、それとも戦って死ぬ目に遭って捕まるか……選んでいいぜ?」
 拳をバキバキ鳴らしながら貴道が眼光を鋭くさせる。

 一色触発の状況に駆けつけたヴィクトリアがヴァレーリヤに頷く。
 理性的な探偵助手として平和的な解決を試みるというわけだ。
 どさくさに紛れて自分の酒代が欲しいだけではないかという貴道の視線に「おほほほ」と笑顔を見せるヴァレーリヤ。
「貴方が空売りしたカブ、買い戻してもらいに来ましたわ」
 ヴァレーリヤが空売りの箱にカバーをごそごそと被せる。
「それはまさか、そうか。これで奴はカブを買い戻さねばならない!」
 ヴィクトリアが息を飲む。
「ご明察でしてよ、ヴィクトリア。そう、これこそが私の秘密兵器・ショートカバー!」
「いやまてショートカバーは株の値下がりを期待し、空売りなど売りの持ち高を取っていた金融資産をあえて買い戻すことで――」
「ぐわああああああ!」
 解説しようとした貴通の言葉に被せるように、敵が悲鳴をあげた。
「さあ、商人さんから取ったお金を戻しなさい! ついでに私にショバ代も納めなさい! さもなくば、このカバー付き木箱が貴方の顔にめり込むことになりましてよ!」
「こしゃくな!」
 ヴァレーリヤの推理にもんどり打つ軍人は腰に下げたサーベルを抜いた。
「払えないというのであれば、仕方ありませんわね。持っている分を根こそぎ取り立てて、後は労働で支払ってもらいましょう! 革命派のパシリとして、死ぬほどお皿洗いをしたり、お昼休みに3分以内に焼きそばパンを買って来たりする労働に従事すると良いですわ~!」
「お客さん……。これはいけないねぇ……。空売りっていうのはねカブ価が下がるほど利益が上がるんだ。でもね。カブ価が上がるとどうなると思う? カブの売り主に身ぐるみを剥がされるのさ!!! 有り金全部置いていけぇ!」
「…うん? 悪いヤツ来たのか! 説得から入るなんて、流石優しい……え、しょばだい? えっとつまり、ヴァレーリヤにお金払わないといけなかったのに、払ってなかったのか!?」
 マリアとプリンが「まかせろ!」と一斉に敵へと襲いかかる。
「オレがけちょんけちょんにしてやる!」
「とらぁ君! 逃がすな! やってしまえ!」
「とらぁ……」
 マリアの指差す方向へとらぁ君は走り出す。その前にはプリンも居る!
 とらぁ君は暴虐の獣。気分で狩りをするのだ。
「ふははは! どこへ行こうと言うのかね? 空を支配する私からは逃れられない! 大人しく有り金全部置いてお縄に付きたまえ! さぁ! とらぁ君! 哀れな新皇帝派の連中にファイナルとらぁバスターだ!」
 そんなとらぁ君をじっと見つめるのはヴィクトリア。気に入ったのかもしれない。
 とらぁ君の問答無用の攻撃に軍人はブチ倒され、ついでにマリアもめちゃくちゃにされる!
「どうして???」




「抵抗は自由だぜ?」
 貴道の前にはイレギュラーズによってめちゃくちゃにされた軍人達が並んでいた。
「ま、結果としてこの世から消え去ってもミーは構わないと思ってるがな、HAHAHA! 活人拳ってのはな、悪党を殺して多くの善人を生かしてやるって道理なんだぜ?」
 目の前でボキボキと拳を鳴らす貴道。
「はい、ジャンプ。最後の1Goldまでちゃんと出しなさい!」
 軍人達はヴァレーリヤによってジャンプさせられ、ポケットの中の小銭まで毟り取られる。
「何とか無事に解決しましたわね。ところでヴィクトリア」
「何だね助手くん!」
「『空売り』って、結局どういう意味なんですの?」
「ふっふっふそれはだね」と腰に手を当てたヴィクトリアの目の前にプリンが振り返った。カメラアングルで丁度ヴィクトリアの顔が隠れる。
「それにしても、『空売り』かぁ。空って事は、何も入ってないって事だよな? せっかく入れ物があるのに勿体ない! 次からはプリンを入れて配った方が良いぞ! 『プリン売り』だ!」
「……れているという訳だよ! 覚えて帰ってくれたまえ!」
 重要な部分が聞こえなかったが、事件は一件落着した。

 今日も鋼鉄探偵は高らかに笑い声を上げるのだ――


成否

成功

MVP

マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一

状態異常

なし

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 MVPは身体を張った方へお送りしています。
 称号は伝説の投資家のような投資術を披露した方へ。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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