PandoraPartyProject

シナリオ詳細

bar“badmoon”。或いは、騒がしい夜の出来事…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●bar・badmoon
 砂漠の夜はひどく静かだ。
 乾いた砂が風に運ばれる微かな音が耳にうるさいほどである。
 明かりといえば、空に散らばる星々の小さな光ばかり。月は雲に覆われていて、見渡す限り砂漠は闇だ。
 かと思えば、闇の中にポツンと灯る橙色。それは火の光である。
 bar・badmoon。
 知る者ぞ知る砂漠の酒場だ。
 
 響く銃声。
 乾いた木材の爆ぜる音。
 オンボロbarの粗末な壁を銃弾が打ち砕いたのである。
「騒がしくて悪ぃな。こんな砂漠の酒場なもんで、街じゃオチオチ酒も飲めないような荒くればかりが来るんだ」
 布巾でグラスを磨きながら、店主らしき男は言った。カウボーイハットを被った老爺……マスター・Mと名乗る彼にとっては、酔っぱらいの荒くれが、何かの拍子に鉛弾を壁や天井に撃ち込む程度は日常茶飯事なのだろう。
 その証拠に、よくよく見れば店内各所は銃痕だらけだ。
 なお、マスター・Mというのは偽名だ。本当の名前はとっくの昔に捨てたらしい。
「まぁ、連中のことは気にしないでくれ。酒飲んで暴れるしか脳のない悪党の落ちこぼれさ……まぁ、気になるってんなら叩き出してくれてもいいが」
 心配そうな“あなた”に向かって、マスター・Mはニヒルな笑みを返した。彼は無言で、自分の腰を叩く。そこに下げられているのは、使い込まれた拳銃である。
 荒事には慣れている……マスター・Mは言葉に出さずにそれを示した。
「それより、何か飲まないか? ゴロツキを叩き出しても金にならないが、あんたが酒を飲んでくれりゃ、俺の腹が膨れるんでな」

GMコメント

砂漠での、ある騒がしい夜の出来事です。

●ミッション
bar“bad・moon”での一夜を楽しむ

●登場人物
・マスター・M
砂漠のbar“badmoon”の店主。
カウボーイらしき恰好をした老爺であり、荒事にも慣れている。
口は悪いが、それなりに面倒見がいい性格……のようだ。

・ゴロツキたち×10名前後
酔っ払いのグループです。
テンションがあがって店内で銃を抜きました。
人に向けて撃つまでは今のところしていませんが、追い出されても仕方のない迷惑な客です。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】顔なじみの店主に会いに来た
あなたとマスター・Mは知り合いです。これまで何度か、bad・moonに足を運んだことがあります。

【2】砂漠で道に迷って偶然辿り着いた
あなたは砂漠で道に迷っていたところ、偶然に明かりを見つけbad・moonに辿り着きました。今日が初来店です。

【3】鉄火場の臭いを嗅ぎつけて足を運んだ
血と硝煙の臭いを嗅ぎつけ、bad・moonを訪れました。なんとなく暴れたい日もあるのです。


騒がしい夜の過ごし方
bad・moonでどのように過ごすかのおおまかな方針となります。以下のうちからお選びください。

【1】飲み物を注文し、騒ぎを見守るor煽る
お好きな飲み物をご注文ください。あなたは静かに、或いは声をあげながら騒がしい夜を楽しみます。
※未成年のアルコール類注文はお控えください。

【2】飲み物を注文し、店主と会話する
お好きな飲み物をご注文ください。あなたと店主は騒ぎを横目に、何らかの会話を楽しみます。
※未成年のアルコール類注文はお控えください。

【3】酔っ払いに喧嘩を売る
店内で発砲したゴロツキたちを注意し、武力行使で追い出します。
得物を抜くのも良し、拳や蹴りで戦うもよし。店が多少傷つく程度は許容範囲内ですが、全壊させると怒られます。

  • bar“badmoon”。或いは、騒がしい夜の出来事…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月11日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ

●Let's roll
 砂漠の夜に、下卑た笑い声が響いた。
 ラサ、とある砂漠の外れにポツンと建っている、寂れた酒場の扉を潜り『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は顔をしかめた。
 厳めしい顔の眉間に寄った深い皺を、さらに一層、深くして彼は小さな舌打ちを零した。
「おいおい、なんだこりゃ?」
 義弘の頬を掠めて、背後の壁に撃ち込まれたのは1発の鉛弾だった。
 銃弾を撃ったのは、酒場中央のテーブル3つを占拠するいかにもならず者といった風体をした男たちの1人である。
 どうやら彼ら、酒に酔ってカードに興じ、負けた腹いせか景気づけかで腰に下げた拳銃を抜いてしまったらしい。
 周囲の迷惑そうな視線を気にもせず、あわや義弘に鉛弾を叩き込みかけたことにさえ気づくこともなく、げらげら笑って酒のボトルを傾ける。
 テーブルの上には食い散らかした肉やチーズの皿がある。各々の手には琥珀色の安酒が注がれたグラスが握られている。テーブル、足元を問わず空のボトルが転がっていた。
 どこかで“ひと仕事”終えた帰りか、それともギャンブルか何かで勝ったか、とにもかくにも今日の彼らは少々羽振りがいいらしい。
 腹が満ちて、酒が入って、ついでに気の合う仲間たちとカードゲームに興じたのなら、気分が高揚するのも仕方ないだろう。
「……悪い酒だな。ったく、素人さんに迷惑かけてんじゃねぇよ」
 頬を伝う血を拭い、義弘はひとつ溜め息を零した。
 それから、店内をぐるりと見渡し……肩を竦める店主らしき老爺と視線が交差した。

 コトリ、と置かれたグラスの中身はメロンソーダだ。
「ふふ、今日は随分と騒がしいな」
 ソーダに浮いたチェリーを指で摘まみ上げ、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)はくっくと静かな笑みを零した。
「あぁ、悪ぃな。どうにも今日は日が良くねぇ……とはいえ、こんな場所にある酒場なもんでな、あぁいう手合いが良く来るもんで、一々相手もしてらんねぇのよ」
 なにしろ砂漠の真ん中にある寂れたbarだ。街では飲めない脛に傷を持つ輩が多く来るのだと、店主……マスター・Mは呆れたように肩を竦めて見せた。
「あぁ、なるほど……確かにそういう風だな」
 なんて。
 沙耶は店内を見回して、いかにも悪辣な笑みを浮かべる。
 沙耶をはじめ、店内には何人かイレギュラーズの姿があった。普通、銃声が響けば一般人は怯えるものだが、イレギュラーズの面々は慣れた様子で大して気にも留めていない。
 否、イレギュラーズのみならず、他の客も同様だ。
 だが、慣れているからといって、迷惑でないというわけではない。例えば、たった今、店内に入って来た義弘なんかは、酔って迷惑をかけるならず者たちへ、獣のように凶悪な目を向けているではないか。
「おぉ、怖い」
 ちっとも怖がってなんかいない口調で、沙耶はそんな風に嘯いた。

 カウンターの隅の方、薄暗い店内においてひと際暗い位置に2人の人影がある。
「怖い、だそうですよ。一瞬ですが、こちらに視線を向けたような気もします」
 囁くような声音でそう呟いたのは“平々凡々”という言葉の似合うスーツの男だ。中肉中背に、彫の浅い顔立ち、黒い髪……どこにでもいそうな、けれど“決してどこにもいない”類の男で、名を『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)という。
 砂漠でスーツという時点でそもそも少々不可思議ではあるが、彼の纏う“影”のような雰囲気は、誰にもそれを気にさせない。
 なぜなら“影”の存在を、一々、気に留める者などいないからである。
「いい勘をしていると言わざるを得ないな」
 ホーに言葉を返したのは、鳥の頭蓋を模した仮面を被った白い怪人である。
 “怪人”という言葉がこれほど似合う者もいないだろう。髪も、仮面も、肌も、衣服も、すべてが白い異様な姿だ。ホーがその“平凡”さから「街で見かけても声をかけられない」類の者だとすれば、白い怪人……『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は、その異様さから「声をかけられない」類の人物だと言えよう。
「血の匂いだ。人が死ぬ姿を見られるかもしれない」
 赤い酒の注がれたグラスをゆるりと揺らして、ルブラットは言葉を零す。それから彼は、仮面の奥できっと瞳を細くした。
 その目が向いた先にいたのは、カウンターの近くの席で酒を煽っている『夢幻の如く』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)であった。マスター・Mと話をしながら、ウルズは肘で酒の瓶を突いているようにも見える。
「仕掛けるか?」
「えぇ、きっとそろそろ」
 今日はきっといい夜になる。
 ルブラットとホーは、どちらともなくグラスを掲げ、カツンと小さく打ち鳴らす。

「よぉ、そろそろ酔いも回って来ただろ? いい加減、ペースを落としちゃどうだ?」
 マスター・Mはウルズへ向かってそう言った。
「え? なに? マスターも飲みたいっすか? よっしゃ、1杯奢るっすよ! なに飲むッすか? ジン? ウォッカ? テキーラ? バーボン? カルバドス? ピスコ? コルン? キャンティ? ベルモット? ラム?」
「ったく、しょうがねぇな。俺ぁ生まれた時からミルク一筋だってのによ」
 客の奢りを断っていては、barの店主は務まらない。ウルズに礼を述べ、Mは棚からスピリタスの瓶を取り出した。
 ショットグラスに酒を注いで、マスター・Mは瓶をウルズの手元へと置く。ウルズとマスター・Mはコツンとグラスを打ち合わせて鳴らし……それから背後を、ならず者たちの方へ近づいていく義弘を一瞥した。
「その酒ぁ、俺からの奢りだ。連中に振舞ってやってくれ」
「うぃー、了解っす」
 なんて。
 軽い口調で答えを返して、ウルズは肘でテーブル上の空の酒瓶を肘で突いた。
 コツ、コツ、コツ、とカウントを刻むように何度も。
 酒瓶がテーブルの端へ寄っていくにつれ、ウルズの口元には抑えきれない狂暴な笑みが浮かび始めた。
 そしてついに。
 コトン、と倒れた酒瓶がテーブル上から床へと落ちて砕け散る。
 ガラスの割れる耳障りな音が鳴り響き……その音が合図となったのだろう。ならず者の1人が再び銃の引き金を引く。

 災害とは避けられぬものだ。
 地震、台風、津波、雪崩、砂嵐……数え上げればキリは無いが、どれも共通して人の身では到底抗えないという特徴がある。
『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)もその一つだ。ラサのとある地域では、ルシアが歩いた後には草木の1本さえも残らない、という言葉が伝わっているとか、いないとか。
「……今日は誰にとっての厄日だ? 酔っ払いのならず者か? それとも、まさか俺か?」
 ショットグラスの縁ギリギリまで注いだスピリタスをぐいっと一息に煽り、マスター・Mは酒精混じりの熱い溜め息を零す。
 風に揺れるスウィングドア。その向こうに見える果て無き、夜の砂漠を歩いて来るのは金の髪をした小柄な少女。不似合いなほどに厳つい狙撃銃を背負ったその姿を見れば、彼女こそが風の噂に耳にするルシア本人であるとすぐにわかった。
 各地で魔砲をぶっ放しては、大規模な損害と上々の戦果を出していることもあり、ラサの一部では局地災害指定を受けているとか、そんな話もあったはずだ。
 ついたあだ名は『少女台風(リトル・タイフーン)』。
 店の前に立ったルシアが、背負っていた狙撃銃を降ろす。赤いコートに丸サングラス……口元に笑みを浮かべた彼女は、あっさりと引き金に指をかけ……。
「Let's rollでして!」
 ズドン、と1発。
 開幕の狼煙をあげるのだ。

●ロックンロールが鳴りやまない
「同情するよ。何なら神に祈ってやってもいいぐらいだ」
 空のグラスをカウンターへと置きながら、ルブラットはそう呟いた。
 視線の先では、男が1人、殴られて宙を舞っている。
「神なら留守にしてんじゃねぇか? きっと今は休暇とってバカンス中だ」
 空のグラスに赤い酒を注ぎ足しながら、マスター・Mは肩を竦める。
「見てみろよ、この惨状を。ったく、ただでさえボロだってのに」
 なんて、口ではそんな風に言うが、その顔には確かな愉悦が浮いていた。荒事に慣れているだろう、ならず者たちの身勝手に彼も辟易していたのだろう、だからきっと、彼は今、とても楽しいのだろう。
「ま、騒がしくしちまった詫びってわけでもねぇんだが」
 コトン、とテーブルに皿を置く。
 綺麗に並べられていたのは、切ったばかりの瑞々しい林檎だ。
「良けりゃ喰ってくれ」
「……毒、ではないよな?」
 思わず、といった様子でルブラットは問うた。マスター・Mは一瞬きょとんとした顔をして、口元に苦い笑みを浮かべる。
「毒林檎は食えねぇだろうよ。アンタ、冗談がへたくそだな?」
「……あぁ、そうだな」

 銃声が鳴り響く。
 ルシアの魔砲が、ならず者の1人を飲み込み焼き焦がす。
「おっ喧嘩? 喧嘩っすか?」
 開幕の銃声は鳴り響いた。
 酒に酔ったウルズの頭の奥の方で、脳髄を痺れさせるほどに大音量が鳴り響く。
 ロックンロールだ。
 ロックンロールが鳴りやまないのだ。
 となれば、転がる他はない。ロックの音色に耳を傾け、身を預け、坂を転がり落ちる石のように動きはじめる他ない。
「ぷはぁ、あたしも入れろーい!」
 だから、ウルズは駆けだした。
 グラスに残った酒をひと息に飲み干して、テーブルを跳び越え手近な男に殴り掛かった。
 まずは一撃、不意打ち気味に背中を蹴った。
 怒りと驚きも顕わに、振り返ったところを顔面目掛けて前蹴りを1発。
「酒瓶喰らえオラァ!」
 よろけたところへ、スピリタスの酒瓶を叩きつけて気絶させると、次の獲物へ狙いを定めて跳びかかる。
 握った拳を顔面めがけて叩き込み、反動を利用して次の獲物へ跳びかかる。
 まるで野犬か、猿のようだ。
 銃弾を回避し、床を這うように低い姿勢で疾駆して、アッパーカットをならず者の顎へと見舞う。
 だが、ならず者もやられっぱなしじゃいられない。至近距離では役に立たない銃を投げ捨て、近くにあった灰皿でウルズの頭部を殴打した。
 割れた額から滴る鮮血を舌で舐めとり、ウルズは歯を剥き出しにして笑う。
 殴って、殴って、殴られて……喧嘩の時間だ。

 魔力の砲が壁に大きな穴を穿った。
「サーチ&デストロイでしてー!」
 腰を抜かして、床にへたりこんだ男の眼前に銃口を突きつけルシアは言った。
 少女らしく愛らしい笑み。
 少女が持つには不似合いな、無骨な狙撃銃が硝煙を燻らせている。
「ち、ちくしょう! 馬鹿野郎! バカスカ撃ちやがってこの野郎!」
「今時、聖人君子でも銃で武装するものでして!」
「こんちくしょうめ!」
 座り込んでいても無意味と悟ったのか。
 ならず者は震える足に鞭打ち立って、踵を返して逃げ出した。銃を投げ捨て、仲間をその場に置き去りにして、壁に空いた穴から砂漠へ駆けていく。
 その背を見送り、ルシアは次の獲物を探して店内をぐるりと見まわした。カウンターにいた沙耶が、指で店の入り口付近を指している。
 そちらへ視線を向けて見れば、そこには3人、テーブルを影に銃を構えるならず者の姿があった。安全な場所を確保して、義弘やウルズ、ルシアたちを蜂の巣にしようという魂胆か。
 ルシアは口の端に薄い笑みを浮かべて、狙撃銃の側面についたレバーを引いた。
 ガチャコン、と次の弾丸が装填されて、空の薬莢を弾き出す。
 カラン、コロン……空薬莢が床を転がる。
 空薬莢を踏みつけて、ルシアは狙撃銃の底を肩へ押し付けた。
「アーメン・ハレルヤ・ピーナツバターなのでして!」
 ズドン!
 本日、何度目かの銃声と、マスター・Mの文字に起こすには耐えない悪態が響き渡った。

 背後で銃声が鳴っていた。
 静観を決め込むルブラットやホーを横目で見やって、沙耶はメロンソーダで舌を湿らせた。舌と喉が潤えば、口も幾らか軽く回るようになるものだ。
「随分と荒っぽいお客が多いけど、いつもこんな風なのかい?」
 沙耶の問いを受けた店主は、ふむ、と口の中で少しだけ言葉を転がし、グラスを磨く手を止めた。
「ここ最近は特に、って感じだな。いつもはもっと客も少ねぇ。言ってて悲しくなるけどな」
「そうかい。あのならず者たち、羽振りが良かった風だけど? 今日だけ偶々、なのかな?」
 声を潜めて、探るように問いを重ねる。
 日常会話の延長だ。けれど、沙耶の目は細く鋭く……マスター・Mの一挙手一投足さえも見逃さないつもりなのだろう。
 そんな風な、どこか剣呑な視線に気づかぬふりをしながらマスター・Mはこう言った。
「なんでもいいシノギが見つかったんだと。なんつったか……“紅血晶”とかいう宝石が、高く売れるとかなんとか」
 ならず者のシノギにしては稼ぎが大きい。
 件の“紅血晶”とやらは、きっとさぞ良い品なのだろう。
 そんなことを語るマスター・Mの声に耳を傾け、沙耶は内心で首を傾げた。
(……高価な宝石をならず者が売り捌く、か。どこかで商隊でも襲ったかな?)

 義弘の拳が、ならず者の頬を打つ。
 酔ってすっかり足元がおぼつかない男は、拳1発で簡単に床を転がった。拍子に丸いテーブルが1つ、ひっくり返って、乗せられていた空の瓶や皿が男の顔面めがけて降り注ぐ。
「てめぇ、いきなり何しやがんだ!」
 最初に銃を抜いたのは自分たちの方だというのに、何とも身勝手な言いぐさだ。
「悪いが、ゆっくり飲みたい気分なんでな」
 悪びれる様子もなく、そもそも悪く思う理由もないので、義弘は平然とそう返した。銃の怖さは知っている。決して油断しているわけでもない。
 だが、引き金の軽い銃に、覚悟の乗らない引き金に、何を臆する必要があるというのだろうか。
「堅気……には見えねえが。店の人に迷惑がかかる、表に出ろよ」
 倒れた男の襟首を掴んで引き摺り起こすと、店の外へ向かって片手で放り投げた。
 糸の切れた人形みたいに、受け身も取れず大の男が夜の砂漠に転がった。死んではいないが、鼻の骨ぐらいは折れただろうか。
「マスター、うまい酒の準備をしておいてくれよ!」
 ちょっと片して来るからよ。
 そう言い残して、義弘はならず者の真ん中を、肩で風を切って店の外へと向かう。
 呼び止めることもできず、銃の引き金を引くことも忘れ、ならず者たちは義弘の背を見送った。義弘の後にウルズとルシアも続いていくが、ならず者は誰も何も言えないでいる。
 遠慮がちに視線を交わし……やがて、1人、2人と、足音を殺すようにして義弘の後を追いかけた。

●聖人君子も銃で武装する時代
「もうじき、冬が終わりますね」
 チョコレートリキュールをミルクで割って、薔薇の香りのするシロップを数滴垂らす……『キス・オブ・デス(死の接吻)』という名のカクテルを傾けながら、ホーはそんなことを言う。
 店の外から、絶えず鳴り響く銃声と、人が地面を転がる音。それも次第に小さく、少なくなっている。もうじき、戦闘が終わるだろう。
 ならず者程度であれば、義弘やウルズ、ルシアの勝ちに揺るぎはない。
「冬が終われば、活発に動きはじめるものもいるはずです。誰だって頭痛の種を暑い夏にまで持ち越したくはないですからね」
 頭痛の種には、2種類がある。
 “偶発的に発生し、何かの因果で被害が拡大したもの”と、“どこかの誰かが裏でコソコソと仕込みをして、小さな火種に風を送って燃え広がらせたもの”の2つだ。
 例えば、今宵の一幕は……“bar・badmoon”での騒がしい一夜の出来事は、前者の方に当たるだろう。
 では、最近になってラサで流行り始めた“紅血晶”という宝石については……。
 なんて、胸中で思いを巡らせ、けれどホーは結論を出すことはしない。
 なるようになるのだ。
 そこに誰の意図が介在しようとも、結局のところすべてはなるようにしかならないのである。
「……おや?」
 いつの間にか、外の騒音が止んでいた。
 ルブラットが、酒の代金をカウンターに置いて席を立った。
「少し様子を見て来よう。マスターも店の前に死体が転がっているというのは、あまりいい気がしないだろうしね」
 軽く手を挙げ、ホーはルブラットを見送った。
 いつの間にか、沙耶の姿も消えている。
 少しだけ名残り惜しいが、騒がしい夜もそろそろ終わりが近いらしい。仕方が無い。そんなものだ。上がった幕は、いつか降りるものなのだ。
「どうだっていいさ。俺の店が潰れずここにあり続けて、どこかの誰かが偶然に立ち寄って酒を飲んで帰って行って……そんな日が続けば、何の不満もありゃしねぇのさ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
badmoonの騒がしい夜は、このようにして過ぎていきました。

この度はご参加、ありがとうございます。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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