シナリオ詳細
再現性東京202X:綾敷なじみは計算できない<灯狂レトゥム・別譚>
オープニング
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――綾敷・なじみ (p3n000168)の帰還から暫くの時がたった。
静羅川立神教の集会が行なわれる日程は後程、八方 美都から連絡が来るらしい。
それまでは暫くの日常を楽しみ、怪異には呑まれないように日常を楽しんでおくべきだというのは澄原 晴陽 (p3n000216)の談である。
彼女の傍では『デスマシーンじろうくん』と名付けられた奇妙な人形が何故か鎮座している。
曰く、動くそうだ。夜妖の気配を察知して動くため良いボディーガード代わりらしい。
「それで、今回皆さんをお呼び立てした理由なのですが……」
いつもの通りの澄原病院の応接間でデスマシーンじろうくんと『いぬさん』と共に座っていた晴陽は机に突っ伏しているなじみを指差した。
「一般試験を前にして、心が折れているようです」
綾敷 なじみは突如として姿を消していたが受験生である。
イレギュラーズ達と同じ希望ヶ浜学園でのキャンパスライフを目指し、勉強の毎日だ。
だが、そんな彼女も最後の追い込みで妙に躓きがちだ。気が漫ろと言うべきか、数式を全てど忘れしたのか、それとも――
「助けて欲しいらしいんだ」
「どうしているのですか、夜善」
にんまりと微笑んだのは草薙 夜善。晴陽の元許嫁であり、幼馴染みでもある。
佐伯製作所での連絡役を担っており、静羅川立神教の関連でも調査に赴いている。そんな彼は最近、澄原病院に入り浸っているらしい。
因みに、サクラ(p3p005004)曰くは晴陽からの脈は全く無さそうだとの事である。現に邪険にされている。
「夜善さんは調査報告に来たんだ?」
「そうだよ。次の集会の前に、蟲の被害はわりとあるからね。……まあ、相変わらずかな」
蟲――その言葉に肩を揺らしたのはアーリア・スピリッツ(p3p004400)とカフカ(p3p010280)であった。
カフカに憑いて遣ってきた蟲は夜妖と分類される、が、『正確には夜妖』ではないだろうと晴陽は考えて居た。
夜妖のプロフェッショナルからしてもそれは解きようのない縁であり、他の真性怪異レベルの何かが噛んでいるのだろう。
「蟲は、どうなのかしら」
アーリアの問いに夜善は言葉を選ぶように少し悩ましげに首を捻ってから。
「餌を探しているね」とだけ言った。どうやら夜妖を喰う。それを糧にして、育っていく。
「……人は喰わへんねんな?」
「そうだね。人間には体調不良や眠気を与える程度で害はないかも知れないけれど――アーリアさん、夜妖を見てお腹空かないかい?」
「え?」
憑いているからね、と夜善が笑いかければ突如として晴陽がデスマシーンじろうくんを振りかぶった。
夜善の頭に落ちてくるデスマシーンじろうくんが動いた気がしたのは……気のせいだ。
「余計なことを。
……言われてしまいましたが、蟲は夜妖を喰います。
ですから、宿主となったアーリアさんにもそうした飢餓の感情が生まれる可能性があるのではないかと」
そうなると決まったわけではないが、可能性は高い。同様に、元から蟲が引っ付いていたカフカにとってもその様な変化がもたらされる可能性はある。
「……何にせよ、様子見をするしかありませんね、今は」
晴陽が嘆息すれば越智内 定(p3p009033)は心配そうにアーリアを眺め遣った。
今は、少しずつ自体を紐解いていくしかない――が、本題は別だ。
「で? なじみ嬢の勉強を見れば良いのか」
國定 天川(p3p010201)は机に突っ伏しているなじみを一瞥した。
静羅川への対策を話し合うのも良し。彼女の勉強を見てやるのも良い。
それから――
「はい。ついでになじみさんも帰ってきたので二度と勝手に居なくならないようにお灸を添えてから、昼食にしましょう」
日常を今は楽しんでおくのも良い。
この先、静羅川に潜入することになれば更なる危険が待ち受けて居るであろうから。
- 再現性東京202X:綾敷なじみは計算できない<灯狂レトゥム・別譚>完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC8人)参加者一覧(8人)
リプレイ
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「何か余所余所しくない?」
参考書などを用意してやってきた『綾敷さんのお友達』越智内 定(p3p009033)は目の前でぎっくりと肩を跳ねさせた綾敷・なじみ (p3n000168)をまじまじと見詰める。
「まるで借りて来た猫みたいだぜ、なじみさん」
「お、怒ってないかなあって……」
もじもじとしている彼女達の様子を遠巻きに眺めるのは『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)と音呂木・ひよの(p3n000167)であった。
「怒ってないのかって? ……何に?
勝手に静羅川に行っちゃった話ならそりゃあ、何も誕生日のデ……お祝いの後にしなくてもとは思ったけれど。
それもこれも僕や花丸ちゃんやアーリアせんせを巻き込まない様にって思ってだって分かってるから、怒り様がないぜ」
「うう、その……家にお母さんがいなくて慌てちゃってさ……」
「分かるよ。分かるけどさ……今回の事で思ったんだ。
僕達は自分で思ってる以上にお互いを傷付けない様にって気を使い過ぎてるんだと思う。何でも話してくれよ。僕もなんでも話すから」
なじみは定をまじまじと見詰めてから小さく頷いた。何かを懇願するようにその瞳が淡い色を乗せる。
「定くん……」
「な、何――」
ごくり、と息を呑んだのは仕方が無い。目の前の彼女が余りにも甘えたように見上げてくるからだ。
「勉強教えて」
知ってたと言わんばかりに定は「そうだね!」と声を上げた。
その様子を眺めてから『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は余りにも可笑しくなって笑う。
「あらあら、口から魂が抜けてる受験生がひとり! まるで去年のジョーくんを見ているみたいだわぁ、ふふ。
あの時のジョーくんってば『せんせぇ』って泣きついてきて――これ以上は男の子の名誉の為やめておきましょ。
あともうひと頑張り、楽しいキャンパスライフの為! ……今日は厳しくいくわよ?」
「定くんもそうだったの?」
ちらと見遣ったなじみに定が「アーリアせんせ!」と慌てた様に声を上げる。大騒ぎの二人を眺めていた『無視できない』カフカ(p3p010280)は「そういやなじみちゃんは受験生やもんなぁ。大変大変」と微笑みながらテーブルの上を片付けた。これで勉強スペースは確保されることとなる。
「俺は勉強したく無さすぎて進学はせぇへんかったけど。
勉強は生憎と役立たずなもんで勉強頑張ってるみんなのサポートさせて貰おうかな。
料理も出来りゃ良かったんやけど、さすがに院内やしそれはまたの機会、合格祝いと事件が収束した時のお楽しみってことにしとこーか」
「えっ、カフカ君が手作りで何でも作ってくれるって話しかい?」
やったぜと万歳をするなじみに何故か『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)もソファーでびょこんびょこんと跳ねながら万歳をしている。
「なじなじは上級生だからな…私ちゃんは下級生。國定兄貴! アーリアセンセ! 任せるぜ。
フフフ……私ちゃんはこれからコンビニのスイーツを制覇せねばならんのだ。みゃこちゃん、ひよのパイセン、コンビニに行こ――」
「秋奈ちゃんもこっちよぉ?」
「ぎえ……」
秋奈だけ目的が『なじみとお勉強を教えてもらう』にすり替わった瞬間だが――真なる目的は『なじなじ』に元気になって貰うことなのだから問題は無い。
「なじみ君は受験かあ……いや、受験ってどんなのかあんまり良く知らないんだけどね。
……だって深緑にはないから……でも、大変なことだっていうのは薄々聞いてはいるかな
なんか……験担ぎみたいなお菓子とかもあるんだっけ? それ買ってこようか!」
下にコンビニがあるらしいし、と立ち上がった『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に澄原 晴陽 (p3n000216)が「お小遣いです」と何故かポーチをアレクシアの肩に掛けようとしている。
25才になったアレクシアだが幻想種である彼女の外見は少女めいており晴陽も可愛い女の子として扱いがちなのだろう。
「お菓子買いに行きましょうか」
「早いと思うが、そうするなら一緒に行こう」
『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)と共に買い出しに行くという澄原 水夜子 (p3n000214)に『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)が「ご一緒します」と頷いた。ニル自身はテスト勉強というものは良く分かっていない。
ひよのが『凄い試練です』と言っていた事やナヴァンが『それは大変だろう』と頷いていた事から見ても重大な出来事なのだろうというのはニルは良く分かっていた。
「『験担ぎ』というのができるでしょうか」
「このシーズンは何かあるらしいから行ってみようか」
「みゃあ……ボクも行こうかな。お腹いっぱいになると眠くなっちゃうけど、差し入れも大事だよね。みゃー」
何故かこれまた晴陽にエコバックを持たされた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)はチョコレートなどを買おうかなと考えながら会議室を後にする。
「試験勉強ですか……何かを為す為には頑張ることも必要。ということで定様は頑張って下さい。
ジャバーウォックの時のような戦いぶりを勉学の方でも見せて頂けると信じていますよ」
穏やかな口調でそう言った『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)はと言えばアーリアの手伝いを担当するらしい。
視線はデスマシーンじろう君に注がれている。デスマシーンじろう君は夜妖に反応する。晴陽が居る以上は問題は無いとは考えるが……。
(悪ふざけ程度なら良いのですが……。身の危険を感じるならば止めねばなりませんしね)
「少し訊きたいことが……ああ、えっと、突然すまない。俺は浅蔵竜真という。その……晴陽さんと、どういうご関係で……」
浅蔵 竜真(p3p008541)の問い掛けに夜善は「草薙 夜善。4月29日生まれの29歳。佐伯製作所の……まあ、色々あって職階は部長です」と必要なさそうな情報を含めて自己紹介をした。
「澄原と草薙は昔から仲が良くてね、晴陽の母とうちの父が約束しただけの名ばかり許嫁、かな」
「元」
「元だけど」
からからと笑った夜善に晴陽は「元を忘れないでくれますか」と肘で小突いた。ぱちくりと瞬いた『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は晴陽が人を殴ったり小突く場面は初めて見たと呟いた。
婚約者としては邪険にされているのだろうが良き友人関係であるのはこの様子からも見て取れる。何となく「嫉妬しちゃう」と晴陽に飛び付くサクラに「夜善よりサクラさんの方が仲良しの筈ですが」と晴陽は直ぐに彼から背を向けた。
「おーい、はるちゃん?」
そんな様子を眺めていた『決意の復讐者』國定 天川(p3p010201)はからからと笑う。
「初めましてだな。俺は國定 天川ってもんだ。探偵業とイレギュラーズの仕事で食ってる。
先生の元婚約者なんだって? 話しに聞くところによれば優秀らしいじゃねぇか。優秀な人材ってのはどこでも得難い。よろしく頼む」
やっと構って貰えたとでも言いたげに微笑んだ夜善に晴陽が呆れた顔をする。
「先生も水臭ぇじゃねぇか。紹介してくれてれば仕事も幾分かはやりやすくなったかも知れねぇぜ?」
「いえ、夜宵は仕事は出来ますが、いまいち頼り甲斐のない男なので……」
面倒なのだと言いたげな晴陽の表情に天川は愉快そうに笑った。表情が豊かに出ている時点で信頼関係は上々なのだろう。
●
「俺が教えられるのは基礎だな。基礎だけは今でも忘れない程度には勉強してきたぜ」
彼は元々は警察官だ。其れなりに勉強は教えられるはずだと天川は参考書を開きながらなじみの後ろに立った。
「ああ。違う違う。そことここも間違ってるぜ。そういう場合をこんな感じでだな」
慌ただしい一行を眺めながらカフカは自身は勉強をしたくなかったため進学していないからなあ、と参考書を覗き込む。
「イレギュラーズなら中途編入も受け入れてそうだし、申し込みしてみたら?
割と楽しいぜ、キャンパスライフ。テニスサークルの空気の合わなさに1日で抜けたりね」
「それは楽しいんか?」
カフカの問い掛けにアーリアは「けど、色んなものが足りなくて泣いてたわよね?」と揶揄う。
「はは。アーリアせんせ、過去をいくら見たってしょうがないぜ、今の僕を見ておくれよ。
出席日数がギリギリだった僕はもう居ない――此処に居るのは単位がギリギリの僕だけさ! お願いします! 単位をください!」
土下座の勢いで叫んでいる定と同じように「サーークラちゃんたすけて!」と秋奈がしがみ付いている。
「私勉強はあんまり得意じゃなくて……天義だとそれなりの成績だったんだけど、こっちの勉強は難しいよー!
知らない世界の歴史とか全然覚えられないよー! だから頑張ったけどさっぱりです!」
サクラは助けにはなれやしないと首を振っている。今回はサポート役なのだろう。
「ギリギリの今、対策すべきは入りたい学校の試験傾向。なーのーで、過去問を準備しましたぁ。
一回それを解いてみて、苦手な所を洗い出しましょっか。ここでせんせーからのワンポイントアドバイス! 詰まったら一回飛ばす、よぉ」
アーリアのアドバイスを受けながら懸命なる勉強会が進んでいく。
「何処を間違えていたのですか?」
「ここだが――先生は……あれだな……頭はいいが教えるのは得意じゃなさそうだな……いや、優秀すぎるってことだぜ?」
晴陽は少しばかり唇を尖らせた。間違えていた理由を察知して簡単に数式などを当て嵌めて解答だけを書く晴陽は『何が分からないか分からない』と言った様子でもあった。
アーリアはそっとデスマシーンじろう君をなじみに近づけようとし――突然その頭がぐりん、と動いたことに悲鳴を上げた。
其れを境に皆の集中力が途切れ途切れになり始めた。休憩は確り取るべきだとリュティスは美味しいお茶やスコーンの準備をしていた。
疲れたときの糖分補給は必要だと考えるリュティスと同じように竜真も応援係として茶の用意をしている。竜真自身は戦術理論しか教える機会が無く一般人とも言えるなじみには必要でない知識だろうと認識していた。
「差し入れ買って来たよ」
「適当におやつとか持ってきました」
花丸とひよのの帰還を受けてカフカは「ありがと~」と手を振った。
「勉強って言ってもテストの時とかいつもひよのさんに教えてもらってた気がするけど、それはそれっ!
なじみさんとは一年違いだし花丸ちゃんだって少しくらいは……手伝えるよっ! ……た、たぶん?」
早速参考書を手に不安そうな顔をして参加する花丸の傍で菓子をかじりながらニルはぱちくりと瞬いた。
「むずかしい、ですか?」
「みゃー……むずかしそう」
祝音も希望ヶ浜学園の中等部に編入することになる。学力を思えばなじみは『お姉さん』だ。
ついでに皆に中学校の授業について教えて貰おうと持ち込んだ参考書に秋奈は「コレなら分かるぜ!」と飛び付いていた。
「あれ、ひよのちゃんも差し入れ持ってきたん?
まあ、なじみちゃんと仲ええし心配や、……あれ、なじみちゃんは受験であきなちゃんも勉強してて花丸ちゃんは教えてて。
ひよのちゃんはその辺、あ、いや、ナンデモナイデス。ウス」
「……」
彼女の実年齢は乙女の秘密なのだろう。カフカは慌てて夜善を見て誤魔化した。
夜善がケータリングを用意してくれているが、今度用意するときは自身も力になると夜善にクーポンを差し出した。今すぐに何か注文したいと自社の仕事を積み上げていた青年は「晴陽ちゃん、ケイオススイーツ、此処に呼ぼう」と提案し「集中が乱れるから『一人で』『外で』食べなさい」と叱られるのであった。
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昼食時に夜善は「はるちゃん、コレ頂戴」と晴陽の皿から適当なおかずを摘まみ食いしている。「5才から変わらない」と晴陽に厳しいコメントを齎されたが彼は気にして居なさそうだ。
(なんだ、『はるちゃん』って。いや元許嫁だと聞いたし以前からの関係ならそういうこともあるだろうが、まさかそんな間柄の人がいたなんて)
夜善は面倒なのだと晴陽が言わしめるだけの関係性というのも妙に気に掛かったが――
「あと、貴方は静羅川立身教について調査してきたと聞いてる。夜妖や夜妖憑きのこととかも、教えてほしい。
俺は……今の俺は、力も知識も足りない。いざとなって守れないじゃ、意味がないんだ」
「夜妖というのは再現性東京じゃ当たり前のように存在しているものだね。夜妖憑きだって、そう、『それが憑いた』だけ。
肉体変化や性格の変化もあるだろうけれど、それは多岐に渡る。外で言う所の精霊憑きと同種だと考えて居るよ」
夜善は穏やかに竜真へと説明をする。此の辺りの詳細は、『暁月くんやみゃーこちゃんの方が詳しい』と言う通り彼は其れなりに人脈があるらしい。
「成程……」
「僕や晴陽ちゃんは、まあ、物理攻撃の方が弱いよね。それ以外はある意味で耐性や対策を講じれる。専門家だから。
君達みたいに戦えないからこそ、って言うべきかな。まあ、混沌で生きていれば何処に居たって危険はあると考えた方が良いけど……」
この『揺り籠』のような世界はその危険を出来る限り排除した結果に生まれているのだから戦闘能力を有する必要もない気がしてしまうよ夜善は肩を竦めた。
「………」
デスマシーンじろう君は堂々と晴陽の隣に鎮座しているが、あれは一体何だろうか。リュティスは観察をしていた。
おかっぱ頭の日本人形がチェーンソーを所有している愉快なスタイルである。
「デスマシーンじろう……前々から思ってたがイカしたデザインだよな……サクラ嬢はセンスがある。先生もそう思わないか?」
「ええ。気に入っています。夜唐突に動くのもポイントですね」
「……それは心霊現象では?」
思わず問うたリュティスに晴陽は「ペットみたいなものですね」と何食わぬ顔で告げた。
「いや、ペットってさ、なんかめっちゃカタカタしとるけど。サクラちゃんがプレゼントしたん、これ?
いや、てか……國定さんも可愛いと思うんです? ははぁ、ブサカワ言うやつなんやろか」
理解は出来ないというようにカフカが首を傾げる。秋奈は「どうしてこっちをみるんだい!?」とデスマシーンじろう君に怯えるように飛び退いた。
(天川さんと晴陽ちゃん。ブサカワに毒されたり、表情が柔らかくなったり、お互い不器用な大人よねぇ、ほんと)
頬杖を付いてアーリアは小さく笑った。二人とも互いに影響を請け合って雰囲気も変化しているが、不器用同士なのである。
リュティスはデスマシーンじろう君をつつきながら給仕を続けて居る。
「晴陽様はサンドウィッチがお好みなのですね。なじみ様は?」
「私は美味しいものは好きだぜ。腕白!」
にっこり笑顔のなじみは色々と食べてくれそうで作り手からするとありがたい存在なのだろう。
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複雑な生い立ちである水夜子が他者の愛情の獲得は『役に立つ』に繋がっていることは可笑しくはないのだろうと愛無は考えて居た。
(『道具』であろうとする事は愛情の獲得手段で自己防衛なのだろうか。
……結局、本来の彼女も相当に不器用なのだろう。他の澄原を見るに)
だからこそ愛無は面と向かって「水夜子君、好き!」と伝えてみた。水夜子は「私もですよ」とさらりと返してくる。
一体、世の思春期少年少女はこれをどのように乗り切っているのだろう。人間は凄いなと愛無は思いながら参考書に埋もれたのであった。
「貴様――美術の点数が酷い。美術は単位に関係がないだと? 受験にも不要だと?
実に――実に勿体ない話だ!
最近は専門学校と謂うものも在り、豊かな感受性は人を魅了すると知れ。貴様も私と特別授業だ。馴染み易いを志すならばグロテスクさも磨かねばな!」
朗々と語らう『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)に「じゃあ休憩時間に受けてみようかな」となじみは微笑んだ。
一先ずは筆記は不要なのだとオラボナを頷かせる作品を彼女は求めた。
「んー、実は私って絵心はあまりないんだぜ。これ、帆立貝形墳」
……何とも言えないオブジェクトを書いたなじみにオラボナは手を叩いて賞賛する。それでいいのだろうか。
『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)はといえば、合格祈願のお土産を建葉・晴明 (p3n000180)と共に買って来たのだという。
「全力を出し切れますよう、に。頑張って下さい……!」
懸命なる応援をするメイメイになじみは「がんばるね!」と嬉しそうに微笑んだ。その様子を見ては晴明は首を傾げる。
「あっ、晴明さま、こちらが再現性東京における受験戦争、という文化(?)です。
……沢山の事を学んで、成果を示して…自分の未来を切り拓いていく……。
受験生ではありませんが、わたしも希望ヶ浜では学生なので、テスト勉強には悩まされたりも……」
「俺は実は算術は得意なのだが、力になれるだろうか」
メイメイは「どうでしょう……?」と晴明と共にピザを摘まみながら参考書を覗き込むのであった。
勿論の事ながら、晴明の知識は『豊穣郷』文化そのままであるため再現性東京の勉強は理解出来なかったのであった。
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「澄原先生、草薙さん。単刀直入に言います。フォルトゥーナについての情報を教えてください。
奴の護衛には魔種がいます。それを、ブランシュは殺さなくてはなりません。
どんな些細な情報でもいいんです。奴に接近できる手掛かりを教えてください。お願いします」
淡々と声を掛けた『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)に夜善は「そうだな……」と言った。
「追掛けているのはルベライトという配信者、だよね? 実際の所、フォルトゥーナとルベライトは関係はなさそうだ。
あそこに居たのも配信者の集会だったから……という側面が強いと思う。静羅川の信徒ではなさそうだし、ね。友人だと思う」
そこから紐解くのは難しそうだと夜宵は申し訳なさそうに告げたのだった。
「私も聞いて良いかな? 特に、集会のこととかね。
美都君に紹介したいって聞いた『生奥くん』って人のこととかも気になるし。どういう事が行われてて、どういう人なのか、何か知らないかな?」
「集会は毎回違うらしい。けれど、生奥を紹介か――彼はね、怪異の蒐集家だ」
無理矢理、夜妖憑きを作りその効果を確認した上で剥がし蒐集するという癖があると夜善は告げる。その依代にアレクシアが選ばれたとするならば危険そのものだと渋い表情を見せた。
ワクワクとした様子でそれらを聞いている秋奈は「澄み原センセ慰めて」とその膝に泣きついていた。
「あれから体調に問題はないか? アーリア嬢のことは信頼している。だからとやかく言うつもりはないが、何かあればいつでも頼ってくれ」
「ええ、けど良く分からなくて……」
アーリアは『なじみ』と『デスマシーンじろう君』、それから『秋奈と愛無』を見ていると腹が減るのだと打ち明けた。夜妖と夜妖憑きだとひよのは言う。この場に蕃茄が居たならば更にその空腹感は強くなるだろう。
「晴陽様、アーリア様の現状は……」
問うたリュティスにアーリアは頷いた。不安ばかりだ。しかし、あの時の最善はコレであったと分かっているのだ。
「アーリアさんに蟲が取り憑いてから体調悪かった人達って治ったのかな?
アーリアさんがお腹すくのも問題だけど、あんまり不用心に夜妖食べさせるのも怖いからねえ……悩ましいなあ」
「いえ、実はまだです」
サクラとカフカは声を揃えて「まだ」と言う。
「俺だけの問題なら別に放置しとけたんやけど、アーリアさんやら他の人らぁに悪さしとるとなると流石に放置できへんし。
餌、夜妖を食ってるって言っとったけどなんのために? あとはアイツらがわざわざ蟲を使う理由もあるんやろか」
「夜妖を喰うのは恐らくは蠱毒、だね。より強い夜妖になる為だ。カフカ君は相性が良かったのかな。
でもアーリアさん側はまだ蟲に左右されている段階で空腹を自分事のように感じているのだと思う。
それから……カフカ君に憑いている蟲は『芋虫』だろ? いずれは成虫になるかもしれない」
アーリアの側に憑いているのは『その分身』だろうと夜善は推測していた。その両者の相互関係は詳しくは分からないが下手をすれば両者が『同時のタイミングで成虫になる』可能性もあるという。
「いやいや……」
「その辺りも静羅川の集会で、かな」
肩を竦めた夜善は付き合ってね、とカフカに申し訳なさそうに告げた。
「とりあえず静羅川の次の集会には参加してみるよ。
夜善さんも付き合ってね! 大丈夫、私が守ってあげるから!」
「吊り橋効果って知ってる?」
「今分かったけど、そういう所が晴陽ちゃんに雑に扱われるんじゃない?」
呆れ顔のサクラに夜善はしょぼくれたように嘆息し天川に肩を叩かれたのだった。
「……」
「安心してなじみさん。私達は今までも大変なことを乗り越えてきた天下無敵のイレギュラーズなんだから!
なじみさんもアーリアさんもお母さんも猫ちゃんも絶対に守るって約束するからね!」
自慢げなサクラに「有り難う、サクラちゃん!」となじみは微笑んでからaPhoneをポケットに滑り込ませる。
「ところで晴陽ちゃん、親戚のみゃーこちゃんはともかくとして夜善さんの事も呼び捨てにしてるよね?
私も晴陽ちゃんにサクラって呼ばれたいなー! ……だめ?」
「いえ……その、夜善とは3つくらいからの友人で……」
「本当は敬語もやめて貰えたら嬉しいけど、晴陽ちゃんはそっちが素な気もするしそっちは無理言わないよ。
でも呼び捨ては譲らない! 呼んでくれるまでだいのじするよ! そのために今日はズボンで来たんだから! とー!」
駄々っ子のように地面に『だいのじ』をしたサクラに晴陽は慌てながらデスマシーンじろう君を掴み上げた。
「夜妖が憑きましたか?」
「違うよ!?」
いきなり物理行使をしようとする晴陽にサクラは首を振る。20歳になったレディのだいのじだ。
「さぁどうだ! この留まるところを知らないだいのじに耐えられるか!」
この『だいのじ地獄』を乗り切るならば――
「……さ、サクラ……。いけませんよ、女の子がそんな事をしては」
少しばかり声音が柔らかくなったのは弟に語りかけるような口調であったからか。窘める晴陽にサクラは「晴陽ちゃん!」と嬉しそうに微笑んだのだった。
そうやって過ぎゆく日常の中――夜善はaPhoneをチェックしてから「晴陽ちゃん」と淡々とした口調で呼ぶ。
「集会ですか」
「ご指名もあるようだね。……アレクシアちゃんは気をつけるようにね」
これまでの活動の結果だ。美都達との関わりで迎えることになる静羅川立神教の集会は果たしてどの様な形になるのだろうか――
「呼び出しって照れるよね」
「そう、だね」
緊張で心臓が締め付けられる。喧嘩したときと同じ感情だと定は唇を噛んだ。もしかすれば拒絶か、それとも嫌悪か。
彼女にそのように思われ奈良、どうすればいいか――そう思いながら彼女の病室を一人で訪れた。突き刺さる空気が肌にちくりと突き刺さる。
「ねえ、なじみさん……僕が猫鬼を助けたいって言ったら……君はどう思う?」
なじみの唇が薄く開いた。言葉はない。
「……昨日今日に思った事じゃない、ずっと考えてた事だ。最初は、猫鬼はきっと悪い怪異なんだと思ってた。
だから、それを祓えばいい。友情努力勝利、そんな単純な話だと思ってたんだ。……でも、そうするには今までネコに助けられ過ぎた」
なじみの応えが自身と正反対だったら、どうすれば良いのか分からない。それでも、『綾敷なじみ』という少女が本当に思っていることを教えて欲しかった。
「……私は生きたい。君と一緒が良い。その先に、猫が居られるならそれで良いと思う」
自分には浮かばない可能性が其処にあるなら――それでもいい。いまいち煮え切らない様子でなじみはそう言って困ったように目を伏せた。
「君が無茶して助けてくれるなら、猫も喜ぶと思うんだぜ?」と。たった、それだけを残して。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
さあ、なじみさんもそろそろ入試を受けている頃でしょう……!対策はバッチリのはずです。
「私とキャンパスライフだぜ」と笑えますように。その後、訪れるレトゥムのあれそれは……またのお話と致しましょう。
GMコメント
日常回です。<灯狂レトゥム>外伝です。ご存じの方もそうで無い方もイベシナ気分で遊びに来て下さいね。
●目的
なじみさんと日常を過ごそう(難易度ノーマルはお勉強を教える意味合いです)
●澄原病院の会議室
応接間状態で使われている広い会議室です。其れなりの人数が入れます。
晴陽外来説明をするために使用している場所です。院内にはコンビニなどもありますのである程度自由に過ごせます。
これってあるかな?と聞けばあります。きっと。
・なじみにお勉強を教える
・昼食を一緒に食べる(ケータリングです。色々用意されています)
・静羅川に対しての調査報告を受ける/気になることを夜善に伝えて教えて貰う
事が出来ます。その他遣りたいことがあればお声かけ頂ければ可能な限りは対応致します。
●綾敷なじみ
大学生になりたい高校三年生。現在、受験勉強大詰め。一応、判定的にはよかったのですが……。
静羅川の一件があり、困惑しているのか、気も漫ろなのか、どうにもお勉強が手につきません。
アーリア先生は心配だし、定くんは怒ってないか不安でPINE(メッセージアプリ)も返せないし、國定さんの仇とお母さんがお友達っぽいし、どうすればいいの~状態です。
お勉強を教えてあげたり、一緒に食事をしたり何気ない様子で過ごしてあげて下さい。
コンビニまでのお買い物などもついてゆきます。
現状は晴陽にとっても叱られた結果、澄原病院で入院患者扱いになっています。
家に帰れるけど、母も留守にしていて一人だし。何となく、帰りたくなくて居座っています。
●澄原晴陽
澄原病院院長先生。才女ですが才女過ぎてお勉強を教えられません。レトゥムの調査報告や今後についての相談を行えます。
其れなりに多忙に動き回っているので会議室内で仕事をしながら皆さんと昼食を取りたいなあとやって来たようです。
何故かデスマシーンじろうくんを共連れにして居ます。デスマシーンじろうくんも嬉しそうです。
●草薙夜善
晴陽の元許嫁で幼馴染み。残念系男子。物腰柔らかで「はるちゃん」と呼び掛けてよく懐いてきます。
優秀な青年ですが晴陽は「婚約者など必要ありません」と10代の頃に夜善を放逐してから煙たがっています。でもめげない。
なじみに勉強を教えるほか、昼食の用意を行ないます。
また、静羅川への事前潜入なども行ったようです。結構危ない現場に平気で飛び込んで危ない目に遭ってくる青年です。
●デスマシーンじろうくん
動く。サクラさんが何処かで手に入れて晴陽にプレゼントしました。
魔除け効果とか癒し効果があると言われている(自己申告)人形です。動く。夜妖に反応します。
なじみにも、アーリアさんにも、カフカさんにも、夜妖憑きに対しては動きます。
●【サポート】
イベントシナリオ気分でお気軽にご参加下さい。
●その他NPC
夏あかね所有のNPCでしたらお呼び頂けます。
音呂木ひよの、澄原水夜子、蕃茄を始め
月原 亮、フランツェル・ロア・ヘクセンハウス、建葉 晴明珱 琉珂あたりでしたらお邪魔できます。
●灯狂レトゥムあらすじ
綾敷なじみが姿を消した――
彼女は静羅川立神教に接触することを目的としているらしい。
なじみには猫鬼という夜妖が憑いている。危険性の高い其れは、将来的にはなじみを食い尽してしまうことだろう。
だからこそ、その解決と『母親』の一件でなじみは静羅川立神教の死屍派に接触していた。
死屍派は静羅川立神教でも急成長してきた派閥である。その派閥のNO1こそが國定天川が元世界で殺した『はず』の妻子の仇であった。
それは真性怪異と思わしき何かと手を組み、希望ヶ浜東浦地区で大量の自殺事件を起こしたという。
サクラ始めとしたイレギュラーズと共に捜査を行なう草薙 夜善は次は静羅川立神教の集会へと潜入し、地堂 孔善との接触を目指そうと告げたのだ。
その為の調査の為に静羅川立神教との接触を行なったイレギュラーズは、幾人かの信者と出会う。
飴村事件で知られる飴村偲、務史さんと名乗る初老の男性、『恋叶え屋』八方美都、人気配信者フォルトゥーナ。
そして、巨大な『蟲』――蟲は人々に病を振り撒き、ネガティブを増強させ死へと誘うらしい。
蟲は死屍派のNO1である地堂 孔善の差し金であろう。そして、蟲自体が異界より現れた『旅人』の一種であり、その概念が新たな夜妖に転じたものでもある。
カフカに憑いていた蟲は今や、別個の存在とし動き回りアーリア・スピリッツへと取り憑いた。
アーリアに蟲が付いた今、なじみは帰還しイレギュラーズと共に静羅川に纏わる一件を解決しようと動くが――その前に受験だ!
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