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シナリオ詳細

<昏き紅血晶>アンガラカと浚われた幻想種

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻想種拉致事件
「『アンガラカ』の粉? それで幻想種(ハーモニア)が拉致されたのねぇ?」
 ビールのなみなみはいったジョッキを半分まで一気に減らし、アーリア・スピリッツ (p3p004400)は口元を手の甲で拭いつつそう問いかけた。
 ラサの首都、ネフェルストに存在する酒場『7578(nagonaha)』には今日も人で賑わっている。元々活気のある街であり、酒場も賑わいそうな土地である。だがそんな中にあってあえてこの店が選ばれる理由は、アーリアの目の前で銀のトレーをくるりと回した褐色肌の美女にある。
 オリオン・ドラフト。7578で働く豊満な胸の美女であり、ストレスを翌々日に持ち越さないというからっとした性格も相まって男女問わず人気があるのである。
 エスニック系の料理がつまみがてらに並ぶテーブルに手を突くと、オリオンは『そうなのよ』と身を乗り出した。
「ねえこれ、『ザントマン事件』の再来っぽくない?」

 ザントマン事件。
 かつてラサ深緑間で起きた大事件で、幻想種集落が盗賊たちによって襲われ拉致され奴隷として売却されるという事件がおきた。
 当時活躍したローレット・イレギュラーズやディルクを初めとする傭商連合の機転によってこれらの犯罪は抑制され、その元凶であった男も倒された。
 つまりは過去に解決した事件であり、酒場のウェイトレスが軽い調子で話す程度には消化されつつあるものだ。
 これがザントマンと称されるのは手口の特徴からくるもので、民間伝承にあるザントマン(砂男妖精)のように魔法の砂を振り掛けることで対象者が意識を失うという。
 そして今回『再来』などと言われるには、当然相応の理由があるのだった。

「ラサの名のある傭兵団が犯人グループを捕まえたそうなの。
 その時回収したのが『アンガラカ』。白い粉の入った小瓶で、これを使うと相手は意識を失ったんだって」
「確かにそっくりねぇ……」
 でしょう? とオリオンはテーブルに寄りかかるようにして頷いた。引き締まった太ももがテーブルの淵によって小さく歪む。
「けど、犯人グループが捕まったなら解決じゃないの?」
「ううん、そうじゃなかったみたい」
 オリオンが首を振ると、ポニーテールにした長い金髪が左右に揺れる。
「そのグループは一部に過ぎなくて、横の繋がりのないいくつものグループがアンガラカを使った幻想種の拉致に関わってるみたいなの。っと言うわけでぇ――」
 にぱっと笑い、オリオンはわざとらしく胸の谷間から小さく筒状に丸めた紙を取り出した。
 広げてみると、それは傭商連合からの依頼書であった。
「その犯人グループの吐いた『別のグループ』の情報があるんだけど……幻想種の救出依頼、やってみない?」

●『ロスカトラ・ベラニモ』
 ラサを拠点に活動する犯罪グループ『ロスカトラ・ベラニモ』は傭兵たちにもマークされていたそこそこ有名な組織である。
 入れ替わりは多少あるものの十数名からなるメンバーで構成され、金持ちの商人の家族などを拉致し身代金をとるという犯罪を繰り返していた。
 その手口は非常に巧妙なもので、闇ギルドでは要人の拉致を依頼するケースもあるという。
 そんな連中のアジトがいままで誰にも発見されることなく残りつづけていたが、先日ある犯人グループが捕まったことで芋ずる式にそのアジトの場所が判明したのだった。
 大きな傭兵団が直接動けばロスカトラ・ベラニモに察知されるおそれがある。
 少数精鋭による強襲が求められていた。
 つまり、ローレット・イレギュラーズの出番というわけである。

 ロスカトラ・ベラニモのアジトはあるオアシス街のはずれにあった。
 トルティーヤの配達業者に偽装されたそれは、倉庫の地下に拉致した人質を監禁するための施設が存在する。
 アンガラカを使い拉致した幻想種がここには数人監禁されているとみられ、彼女たちの身柄は売却を目的としているだけあってある意味安全だと言われていた。
 相手は拉致で生計をたてるようないわばプロである。金にならない殺しはやらないということだろう。
「ロスカトラ・ベラニモは異世界の言葉で『ベロニモの家族』という意味よ。
 つまりボスの通称がベロニモ、ってわけね。本名だとは思えないけど……」
 先日に続き酒場7578のテーブルにつき、アーリアは仲間達にそう説明した。
「要人の拉致ができるくらいだから戦闘力もそれなりにあるはず。注意していきましょ。そしてうまく救出できたら、あとでここに戻って飲み直すのよぉ」
 ジョッキを翳し、アーリアは上機嫌にそう付け加えたのだった。

GMコメント

●本日の相談会場&打ち上げ会場『7578(nagonaha)』
 エスニック系の料理をだす酒場でビールが美味い。
 元々はレストランだったらしく料理も美味く、昼間っから酒が飲めるのがいいところ。
 看板娘のオリオン・ドラフトが人気。

●オーダー
 成功条件は拉致監禁されている幻想種たちを救出することです。
 トルティーヤ配達業者に偽装された事務所を襲撃することで達成され、監禁という状態をとっているだけあっておそらくの場合人質をとった戦闘のようなことはおきないでしょう。

●エネミーデータ
 犯罪グループ『ロスカトラ・ベラニモ』は銃器を主に扱う拉致犯罪のプロ集団です。
 ショットガンや拳銃といった武器の扱いを得意とし、近接戦闘にも高い適性をもちます。
 リーダーのベラニモはその中でも特に戦闘力が高く、仲間からの信頼も厚い男です。

●打ち上げ
 依頼達成後は7578で打ち上げを行えます。
 依頼人の奢りだそうです。ぱーっとやりましょう。

  • <昏き紅血晶>アンガラカと浚われた幻想種完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
一条 夢心地(p3p008344)
殿

リプレイ


「オリオンちゃん、仕込みに時間がかかるローストチキン1つよろしく!」
「はーい!」
 褐色の美女オリオンに予約注文を入れつつ、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はジョッキの中身を空にした。
「まったく、鉄帝に天義に大変だっていうのに――大変だからこそ、混乱に乗じて悪いことをするのかしら。でもま、そういう小物はピンチになれば情報を吐いてくれるのよねぇ」
「さっさと終わらせて酒呑まなきゃな!」
 『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)も調子を合わせてニコニコする……が、いまアーリアがジョッキをあけたのに気付いて二度見した。
「あれ? もう飲んでる?」
「『アンガラカ』ね……人拐いも看過は出来ないけれど、こちらも出どころが気になるねぇ。
 怪しい代物が一般に出回るのは個人的に好ましくないんだ。
 救出ついでに、粉の現物を確保できないかな」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は腕組みをして今回の資料を見下ろしていた。
 ぺらりと資料を手に取る『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)。
「まあ可能でござろう。未使用のものが残っていればだが」
 手口や状態から連想できるのはザントマン事件の『眠りの砂』である。
「あのザントマンを彷彿とさせるのは気に掛かるでござるが、取りあえずは目の前の仕事を片付けるといたそうか」
 『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)がその資料を横から覗き込む。
 『ロスカトラ・ベラニモ』という犯罪グループで、ラサではそれなりに有名であるらしい。
「ふむ。業者に扮した拉致グループ、か」
 そういうケースはよくあるのか? とルクトが尋ねてみると『努々隙無く』アルトゥライネル(p3p008166)が「んー」と考え込むようにした。
「聞かない話じゃないな。後ろ暗い連中は隠れ蓑をもつものだ」
 ここで上手く捕縛出来れば、また他のグループの情報が出るだろうか。一遍に拉致してどこへやるつもりだったのか……。
 などと口元に手を当てて考えを深めるアルトゥライネル。
「ともあれラサの大事でもあり、同じ幻想種としても見過ごせない話だな」
 一方、『殿』一条 夢心地(p3p008344)はいつものテンションだった。
「トルティーヤの配送業者ごとき、麿一人でも壊滅させることは可能……。
 しかし、今回は拉致監禁されている者たちもおる……無理は禁物じゃな。
 さらに、あのはっぴ~&たんたんの粉も関係しておるというではないか。
 いかん!いかんぞ!あの粉は……一旦ペロると永遠にペロペロしたくなる恐るべき粉じゃ!
 なんとしても麿が回収せねば!」
 話半分くらいに聞いておいて、最後に『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が真面目な顔で〆にかかる。
「中々尻尾を見せなかった『ロスカトラ・ベラニモ』を潰せるチャンスが来たのはラサに取っちゃ不幸中の幸いってやつかも知れねえが……。
 幻想種が攫われてるって現状で喜ぶ気にはなれねえな。
 ま、ウダウダ言ってても仕方ねえ。
 今出来る事をやるしかねえな」
 席を立ち、ルカは用意しておいた一揃えのスーツを手に取った。


 トルティーヤの配達業者に偽装されたロスカトラ・ベラニモのアジトは、そうと言われても分からないほど巧妙に偽装が施されていた。それでいて、初見の人間が近づかない程度に小汚く外装が整えられている。
 悪党の隠れ家にはもってこいで、証拠を掴んだ今となっても中に凶悪な犯罪グループが隠れていると言われてもピンときづらい。
 そんな建物の正面に立ち、アーリアは7578の制服姿(といっても制服はないのでオリオンから借りた服をそのまま着込んでいる)で扉をドンドンと叩いた。
「ねーえ、すいませーん!」
 いつまでも扉を叩くアーリアを流石に無視しかねたのか、腕にびっしりとタトゥーをいれた男が扉を開けた。腰の後ろに何かを持っており、それが武器であることはアーリアにも直感できる。
 アーリアの格好に一瞬見とれたようだが、そこは流石に手練れの振る舞いである。毅然とした態度を崩さない。
 が、アーリアはあえて愚かなふりをして詰め寄った。
「今日お店で使うはずのトルティーヤが届いてないんだけどどうなってるのよお! ねえ!」
「知らねえよ。帰れ」
 偽装しているだけで配達業など請け負っていない。この返答は当然のものなのだが、アーリアは退かなかった。
「配達業者ここでしょ!? どうしてくれるのよ!
 わざわざオーナーも来てくれたのよ!? この色男のオーナーも!」
 アーリアが『オーナー!』と呼びかけると、後ろにとめていた車から高級なスーツを着たルカが降りてきた。隣には鞄を抱えたカイト。
「まぁまぁ、落ち着いて下さいアリーさん。いやいや、しかし困るんですよねえ。営業に差し支えるので商品を引き取りに来たのですが……」
 にこやかに話しながらかけていたサングラスを外すルカ。
 ラサの商人が笑顔を標準装備していることは誰でも知っている。故に相手も警戒を崩さないし、ルカもそれを充分承知していた。
 だから、事実だけで脅しをかけるのだ。
「ものさえあれば私は問題ないのですよ。倉庫はこちらですか?」
 半歩踏み込む仕草をすると、相手もまた半歩踏み込む形で牽制する。
「注文なんて受けてねえ。金も貰っちゃいねえんだ。従う義理はないぜ。帰ってくれ」
 そう言って強引に扉を閉めようとした……が、それをカイトが無理矢理押さえることで止めた。さすがに強引が過ぎたのだろう。相手も腰の後ろに隠していた拳銃を取り出したカイトに突きつけ――た瞬間、カイトは風のように相手の横をすり抜け背後へと回り込んでいた。
「な!」
「扉は開けて貰ったからな、あとは自力で入らせてもらうぜ!」
 大きく翼を広げ戦闘態勢をとったカイト。彼が大きく叫ぶと同時に戦闘は始まったのだった。

 外から聞こえた銃声で、ロスカトラ・ベラニモのリーダーであるベラニモは寝そべっていたソファから素早く跳ね起きた。こんな商売をしていれば命を狙われる覚えなどごまんとある。備えは当然あり、ショットガンを手に取って外を観察した。
 自動車から何人かが飛び出し、部下と銃撃戦を始めている。敵の数は数人。少数精鋭ゆえに接近に気づけなかったというところか。
「ベラニモ!」
 部屋に部下の一人が駆け込んでくる。
「分かっている。連中を殺せ」
 ベラニモの判断は速く、そして冷酷だった。部下は頷くと、ショットガンを手に取り走り出す。
 特殊に改造したそのショットガンを、彼らは『バラクーダ』と呼んだ。狂暴で人間すらも襲う魚の名からとられたものだ。

 倉庫へ物質透過を用いて侵入したゼフィラは、見張りの敵がショットガンを手に取ったのを見て素早く腕を翳した。
 腕言っても力ある義手である。グリーンカラーに輝く魔法の光を危険視してか、敵は是フィラめがけて発砲。
 対してゼフィラは敵を一旦無視して倉庫の内鍵を開くと仲間を倉庫内へと呼び寄せた。
 ゼフィラの得意技であるところの『アナイアレイト・アンセム』は体力をある程度消耗した状態でないと行使できない。ダメージはあえて喰らっておいた方が戦いやすいという利点もあった。
 仲間を引き入れながらも、ゼフィラはあえて大声を出してみる。
「すぐに助け出す! 少しの間、隠れていてくれ!」
 試しに呼びかけてみたが、反応する様子は無かった。
「アンガラカの効果か……」
 ゼフィラは舌打ちをすると、倉庫内に入ってきた咲耶たちにそのことを伝えた。
「了解した。流れ弾には注意でござるな」
 敵は銃撃戦慣れしているのか、素早く大きな木箱の裏に回って遮蔽物を使いながらこちらに射撃を浴びせてくる。
 咲耶のほうは入り口の壁を遮蔽物にしながら射撃をやり過ごし、ちらりと内部を確認する。
 距離は充分。咲耶の脚ならば回り込んで斬り付けることもできるだろう。
 駆けつけたアルトゥライネルと夢心地に目を向ける。
「飛び込んで攻撃したい。援護を任せても良いでござるか?」
「いいだろう」
 アルトゥライネルは予めオコジョに変身して施設の周りを探索していたが、小動物を入り込ませるだけの隙はみつけられなかった。強行突破しか手はないということだろう。
 逆に言えば、出てくる相手を全員倒してしまえば事足りるということだ。
「今度はアンタ達が狩られる番だ。精々無様に踊るが良い」
 アルトゥライネルはあえて姿をさらして魔術を発動。
 と同時に、アルトゥライネルは長布を槍のように放った。
 射撃をしかけようとした敵の手元に布槍が命中し、銃を跳ね上げる。咄嗟に取り戻そうと手を伸ばした相手の足元に魔術のサークルが発動し、たちまち彼とその周囲を蝕んだ。
 咲耶と夢心地はその隙に倉庫内へと突入。
 一気に距離を詰めると、一人は木箱の上へと飛び乗りもう一人は側面から回り込むという形で襲撃を仕掛ける。
「はっぴ~&たんたんの粉を出せい!」
 夢心地がテキトーなことを言いながら斬り付け、相手の腕から血しぶきが上がるのを見てそのまま懐へと間合いを詰める。
 相手は銃の間合いの内側に入られたことを察し、ポケットから素早くナイフを抜いて斬り付けるが夢心地はその動きを読んでいた。というより、ポケットの中身を予め透視していたのである。
「せいっ!」
 刀をくるりと逆手に持ち替えコンパクトに防御の構えをとると、ナイフを器用に弾いてみせる。
 続けて水平に繰り出した肘が相手の顎に直撃した。
 一方の咲耶はもう一人の敵を鎖鎌形態にした絡繰手甲で縛り上げ、喉を締め付け気絶させた所だった。
 流石に場慣れしているだけあって、距離さえ詰めてしまえばこの通りである。
「ここはもう済んだでござる。地下の幻想種たちの救出を」
「罠があるやもしれぬ。注意するのじゃ」
 咲耶と夢心地がゼフィラとアルトゥライネルを呼び込み、地下へと移動を始めた。

 ベラニモは建物の二階から降り戦闘に加わろう――として、即座に階段前から飛び退いた。彼の危機察知能力のたまものであり、結果としてそれは正解であった。
 窓の外からルクトがアサルトライフルによる射撃をしかけてきたのである。
 そのまま割れた窓ガラスをフレームごと突き破る形で屋内へと侵入。ベラニモへと突進をしかける。
 ぎりぎりで回避したベラニモははじけ飛んだソファの綿にまみれながら床を転がり、素早くルクトに『バラクーダ』による反撃を仕掛ける。
 ルクトはエネルギーの噴射を用い、空中であるにもかかわらず器用に射撃を回避。ショットガンによる拡散した弾を避けることが出来たのは、『バラクーダ』の銃口にカスタムされたパーツによるところがおおきい。横一列に広がるように弾が発射される仕組みゆえに、ルクトの回避が幸運にも成功したのである。
 ザッと地面に脚をつき、銃を撃ち続けるルクト。
 ベラニモは部屋の中を走り銃弾をかわすと、走りながらも『バラクーダ』を発砲した。今度ばかりは避けきれない。ルクトが銃弾を受け僅かにノックバックしたその瞬間、一階から駆け上がってきたルカが『黒犬(偽)』を抜いた。
「会えて光栄だぜベロニモ。ルカ・ガンビーノが相手するぜ」
「……クラブ・ガンビーノのルカか」
 ベラニモの目に、確かな不安と恐怖が映った。
 これだけ危ない橋を渡ってきたのだ。ろくな死に方は出来ないと考えていて当然である。
 ルカの斬撃が繰り出されるのと、ルクトがベラニモの脚を撃ち抜くのは、同時のことだった。

 やがて場には静寂が訪れ、一階を制圧したアーリアとカイトが手を振って倉庫側へと知らせる。
 倉庫からはアルトゥライネルたちが出てきて、ぼうっとしたまま手を引かれ歩く幻想種たちの姿が確認できた。
 ゼフィラの手にはアンガラカとみられる小瓶が握られ、幻想種たちの拉致に用いたことは明白であった。


「今夜は宴会よぉー!」
 所は戻って夜の7578。通常営業時間を過ぎ、実質貸し切り状態となった店内でアーリアはジョッキを振りかざした。
「ローストチキンおまちどーさまー!」
 オリオンがトレーに載せてもってきたチキン。おまけにカットされたライム。
 アーリアはライムをぎゅっと搾ると、早速口をつけた。
 背後に浮かぶ『優勝』の文字。
「今夜はじゃんじゃん頼んで7578のメニューを制覇してしまおうぞ」
 咲耶はほくほく顔でメニューブックを開き、揚げたポテトや肉を注文し始める。
「余り飲まぬがこのエールも中々良い。焼き鳥にも合いそうでござるなぁ……おや? ローストチキンがもう一つ」
 咲耶が早速酔いの回った目でカイトを凝視していた。
 ヒイと言って飛び退くカイト。
「誰が旨そうだ!!!!! 唐揚げは駄目だぞ!!!!!!!」
 煮えたぎる油鍋に放り込まれる想像をして我が身を抱きしめるカイト。
 今日は食材適性を持ってきていない、とかそういう問題ではない。
「あ、俺はラム酒な! 水割りで! グロッグっていうんだろ?」
「はーい!」
 元気に注文したものをもってくるオリオン。
 褐色の肌に豊満な胸、おまけに気が利き元気が良い。酒場にいたらそれだけで日々が豊かになりそうな女性である。
「粉も気になるけれど、楽しめる時に楽しんでおかないとね」
 などと、普段真面目なことを考えがちなゼフィラもちびちびとグラスに口をつけている。
「折角だ、少し高い酒でも頼んでおこうかな……これは?」
 ゼフィラがメニューにあるウィスキーを指さすと、オリオンが銘柄の解説をしてくれる。
 どうやら酒にも詳しい女であるらしい。
「ここのブランドはタルがいいよ。あのね、タルに焼き入れっていうのをするんだけど、炎の精霊に愛されてると香りが豊かになるの」
「その分精霊のご機嫌をとるために維持費がかさむって聞いたがな」
 ルカは通なことを言ってウィスキーに口をつける。
 シリアスの飲む姿はどこかサマになっていた。
「ラサの未来に乾杯」
 流石に顔がいいだけあって、グラスをちょいとあげる姿だけでも絵になっている。
 一方で夢心地は派手に盛り上がっていた。
「麿の注文は~おびーると~オリオンちゃんの大きなおまんじゅうふたつじゃ~~~。なーーーっはっはっは!」
 スッと差し出される柚子肉饅頭と黒ビール。
 夢心地はそれを満足そうにぱくつきながらビールの味わいに浸っていた。
「まぁ、そう飲み慣れてはいないからな、飲めなければそれでも構わない。
 次への英気を養えれば、それで」
 アルトゥライネルは料理をメインにしつつ宴を楽しんでいる。
 挑戦してみたのはパッタイという料理で、所謂タイ風焼きそばと言われるもの。
 ニラやエビや豚もも肉といった具材を中心にして、平麺に甘辛い味付けをしたものだ。見るからに唐辛子がかかっていてやっぱり辛いが、その奥に旨味と甘みが調和するというエスニック料理のらしさが味わえる。
「私はまだ未成年なので酒は呑めないが……そうだな。燃費が悪いので、その分料理をいただきたい。腹が減った。それと私の仕えている主人が酒好きでな。土産にしたいので、何かボトルを包んでもらえないか?」
 そんな風にルクトが注文したのはグリーンカレーである。お持ち帰り用のビール瓶を傍らに、ナスやパプリカといった具材で煮込まれたグリーンカレーをぱくつくが、もう一つ気になったのはグリーンカレーの春巻きというものである。
 要は中身をカレーにして巻いて揚げるという品なのだが、これがなかなか味食感ともによい。
 酒をあわせないまでも、充分料理を楽しむことができたのである。そもそも7578が料理店であったために、料理の幅も広かったようである。
 そんな具合で一同は酒と料理を心ゆくまで堪能し、ラサの夜を過ごしたのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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