PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ジーフリト計画>シークレット・トレイン

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●南へ
 蒸気が冬の空に吸い込まれていく。あの蒸気はどこへ行くのだろう。空に昇って、上って、雲になるのだろうか。そうして、大地に息づく我々を見下ろすのだろうか。その蒸気が見下ろす先には、さびれた線路と、それに乗って進む数両の汽車があった。蒸気が生み出されたのも、その汽車で、動力車には石炭を飲み込みながらごうごうとその体を動かすさまが見て取れる。
 その後ろ。一両の客車は、急ごしらえの『貴賓室』となっている。まぁ、それも名ばかりであり、一般客車の椅子を引っぺがして、少々広くしたうえで、多少の会談ができるようにしたに過ぎない。
 その貴賓室には、今数名の男女が乗っている。例えば、バイル・バイオン。帝政派のTOPであり、今や『かつての鉄帝』の実質的なシンボルである。サングロウブルクが出るはずのない彼がこうして汽車に乗っているのはなぜかといえば、
「ザーバ派との会談か」
 と、レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルグが言うとおりに、『南部勢力との会談・および協力』が目的であった。
「確かに、トップ会談ともなれば、このタイミングに行うしかあるまい。貴殿の目論見通りだ、シュバルツヴァルト殿」
 レオンハルトがそういうのへ、シュバルツヴァルト――グラナーテ・シュバルツヴァルトがゆっくりとうなづいた。
「卿はあまり好ましくない作戦ではあろうな」
 ぱたん、と読んでいた本を閉じながら、グラナーテが言った。
「これは、地下にて戦う者たちを囮に使うようなものであるからな」
「じゃが、ヴァイセングルグ殿の言う通りじゃろうな」
 バイルが言う。
「タイミングは今しかない……敵の目はサングロウブルク攻略と、地下探索に向けられておる。
 サングロウブルクは防衛線力を厚く。地下探索には主にイレギュラーズたちを向けている……その間隙」
 とん、とバイルは人差し指を立てた。
「このタイミングしか、儂も自由には動けまい。ましてや、南部に向かうとなれば、じゃ。
 敵も大部隊を動かせぬこのタイミング。これしかなかったのじゃ。言い訳かもしれんがの」
「いいえ」
 レオンハルトが頭を振った。
「重々理解しておりますとも。シュバルツヴァルト殿、気を悪くされたのであれば謝りたい」
「気にしないでほしい。冷血漢といわれることには慣れている」
 くっくっと、グラナーテが笑った。
「これが政治劇というやつでしょうか?」
 小首をかしげる、場違いな少女がいた。メルティ・メーテリア。ラド・バウの闘士である少女は、この度『護衛』のためにここに参加していた。
「参考になります――けれど、やっぱり斬りあい(おはなし)した方が早そうな気もします」
「政治の場で斬りあいなどしたら戦争だろう」
 少しあきれた様子で、恋屍・愛無 (p3p007296)が言う。
「しかし、意外だ。ラド・バウの闘士である君が、何故帝政派に?」
 尋ねる愛無に、メルティはうなづいた。
「ラド・バウの皆さんの気持ちもわかります。ですが、かつての鉄帝に戻したい、という気持ちも、私の噓偽りのない気持ちです」
「彼女は、孤児院のスタッフでもある」
 グラナーテが言った。
「今の鉄帝に食われる弱者としては、真っ先にそうなるであろうよ。なれば、身内の安全を確保したいというのも、責めるわけにはいくまい?」
「お察しの通りです。やはり政治の方は、斬りあい(おはなし)せずとも相手の気持ちがわかるというものなのですね」
 ほむん、とうなづく。とぼけた少女ではあるが、その実力はイレギュラーズたちにも匹敵するということを、ラド・バウで対戦したものならば理解しているだろう。メルティもそうであるし、愛無らは『少数精鋭のバイルの護衛』として今ここに乗車していた。レオンハルトも『腕利きの部下』を少数連れて警護に当たらせていたし、グラナーテは参謀役兼バイルのボディガードである。首脳陣が武闘派、というのもなんとも鉄帝らしい姿だ。戦えないのはバイルぐらいだろうが、バイルに戦闘能力を求めるのはそもそもお門違いだろう。
 さておき。
「そろそろ景色が変わったね」
 セララ(p3p000273)がそういった。窓から流れる景色は、見慣れたそれから変わって平原や林などの見える、自然色の強い場所だ。
「えーっと、地図によると……ゲルトフラウ地帯?」
「ちょうど、帝政派とザーバ派の勢力圏の、中間に位置するところでありますよ」
 と、ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク (p3p000497)が言った。
「つまり、一番危険な場所、ということになるであります。
 両陣営から遠く、本拠地からの援軍も望めない――同時に、新皇帝派にとっては動きやすい場所であります」
「そのとおりだ、ハイデマリー」
 少しうれし気に、レオンハルトはうなづいた。
「ゆえに、ここからはマリー……いや、貴殿らも気を引き締めてほしい。
 隠密裏に出発してきた我々だが、敵もそれを見逃してくれるほど愚かではあるまい。
 ならば、襲撃は――」
「必ずある、でありますね。父上――いえ、レオンハルト将軍」
 気を引き締めるように、ハイデマリーはそういった。うむ、とレオンハルトはうなづく。
「大丈夫です! 任せて!」
 セララがにっこりと笑ってみせる。その笑顔には、人々を安心させる力のようなものが感じられた。
「ふふ。期待しておるよ」
 ゆえに、バイルもわずかに微笑み、そういったものだった。
 果たしてゲルトフラウ地帯に到着し、どうやらあちこちで散発的な戦闘が発生したことは確かだった。それは、天衝種や、新皇帝派兵士たちとの遭遇や襲撃であっただろう。そういったものと遭遇しつつ、汽車がそれでもなお進行し続けたのちに――ふと、北部よりつながる古い路線から、一台の汽車が並走するように駆け込んできたのだ!
「武装列車です!」
 貴賓室に飛び込んできた兵士が、叫んだ。同時。
『伏せろ!』
 レオンハルトとグラナーテが叫び、全員が一斉に床に伏せた。途端、窓から飛び込んできたのは、無数の銃弾だった! 並走する汽車に据え付けられた機関銃が、一斉に火を吹く!
「乱暴ですね」
 メルティがつぶやくのへ、
「同感だ」
 愛無がうなづく。
「アッア~~~~ア~~~! 聞こえるかなぁ? バイル・バイオン元宰相とお友達の皆さん~~~~ッ!」
 拡声器を通したであろう声が響く――遮蔽物に身を隠しながらセララは窓から顔をのぞかせた。
「誰だろ、あの顔色の悪い人」
 見れば、並走する敵車両の窓からのぞく、豪奢な軍服をまとった男の姿見える。
「レフ・レフレギノ将軍じゃ」
 バイルが、苦虫をかみつぶしたような顔をしつつ、言った。
「新世代英雄隊の、首魁じゃよ」
「あれが……!?」
 ハイデマリーがつぶやく。アッハッハァ、と笑い声が響いた。
「まぁ、聞こえてる前提でお話しするけど~~~! やってくれたね! こちらも必死にサングロウブルクを落としてやろうって頑張ってるときに、まぁさか密かに南部と合流とは! いやぁ、ルドルフからの密告がなかったら気づかなかったよ! ホント!」
「オルグレン殿か」
 レオンハルトが言った。
「奴の野心を見抜けなかった……奴は危険な男ではあったが、御せるものと思いあがっていたか……」
 グラナーテが苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「サングロウブルクの防衛力強化もそうだし、地下を取られたのもそうだ! 君たち、随分と優秀なブレーンを雇ってるじゃないか!
 ローレット・イレギュラーズか。ほんとつくづく、英雄ってやつらはうっとうしい!
 ま! でもこれも天恵っていうかさ!
 僕もたまには体動かさないと、部下に叱られちゃいそうだからねぇ!
 悪いけど、帝政派にはここで退場してもらっちゃうよ!」
 同時に、再び機関銃が叩き込まれる! 頭上を飛び交う弾丸に身をかがめながら、セララは仲間たちに視線を向けた。
「どう? 飛び乗れそう?」
「余裕であります」
 ハイデマリーがうなづく。
「あのくらいできないと、ラド・バウ闘士は名乗れませんよ」
 メルティもついでにうなづく。
「君も来るのか?」
 愛無が言うのへ、
「はい。そのために私はここにいます」
 メルティがうなづいた。
「諸君は――」
 バイルが声を上げる。
「向こうに乗り込み、汽車を止めるつもりか!?」
「うむ。おそらく、それが一番手っ取り早い。
 そして僕たちがそれをするのが、一番適任だ」
 愛無の言葉に、仲間たちが頷く。
「レフの首をとるのは無理でも、汽車を破壊することは可能でありましょう。
 レオンハルト将軍とグラナーテ将軍は、バイル殿の直掩をお願いするであります」
「だいじょうぶ! マリーはボクが守るからね!」
 セララが笑うのへ、レオンハルトはうなづいた。
「すまないが、頼む……!」
「では、次に掃射がやんだら飛び移りましょう」
 メルティの言葉に、愛無がうなづいた。
「おくれるなよ、しーてーおんな」
 その言葉と同時に、機関銃の掃射がやんだ。イレギュラーズたちは間髪入れずに立ち上がると、貴賓室を飛び出る。そして、並走する列車の客室に向けて、思いっきり飛び出した! 刹那、時間が止まるかのような感覚。でもそれは、本当に刹那。次の瞬間には、次々とイレギュラーズたちが客室に飛び込んでいった。
「来たねぇ、来たねぇ! 英雄さんたちがぞろぞろとぉ!」
 愉快気に笑う、レフの声が響いた。
「無駄な努力ってのを教えてあげようか! がんばって機関室にきてごらんよ、ってね!」
 いわれるまでもない! あなたたちはうなづきあうと、武器を抜き放った。そして、長い車両を、一気に走り出した――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 敵武装車両を無力化してください!

●成功条件
 敵武装車両を無力化する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 帝政派の首脳陣とバイルをのせて、ザーバ派との会談に臨む列車。
 護衛として乗車していた皆さんは、そこで新皇帝派のレフ・レフレギノ将軍率いる新時代英雄隊、そして彼らの駆る武装列車の襲撃を受けます。
 このままでは、列車を破壊され、ザーバ派との合流が不可能になってしまいます。それだけならまだしも、ここでバイルや首脳陣を失えば、帝政派は立ち行かなくなってしまうでしょう。
 それだけは避けねばなりません。
 皆さんは、敵列車に乗り込み、動力部を破壊。敵武装列車を無力化し、撤退してください。
 戦闘エリアは、敵武装列車内。数量の客車を、戦闘の動力部に向けて走るイメージになります。
 そのため、数回に分けて敵グループとの戦闘が発生するでしょう。戦闘の合間に休憩をはさんでもいいですが、時間をかけていれば、バイルの乗った汽車が破壊されかねません。
 また、魔種であるレフ・レフレギノは強力な敵ユニットですが、今回は無理に倒す必要はありません。あくまで目標は、武装列車の無力化なのです。

●エネミーデータ
 新時代英雄隊・英雄 ×???
  新時代英雄隊に所属する『英雄』たちです。今回相手にするのは、鉄帝軍人上がりのメンバーで、皆さんに匹敵するとは言わないまでも、個人としては有能なメンバーになっています。
  主に銃を使用した、近距離~中距離レンジの攻撃を使用してきます。客車内の遮蔽物に隠れて、防御性能をupさせる傾向がありますので、一気に近寄って攻撃したり、遮蔽物から引き釣り出してやると戦いやすいでしょう。
  
 設置火器・マシンガン ×???
  一車両に2台ほど設置されているマシンガンです。厳密には生き物ではないのですが、HPなどは設定されています。
  上記の英雄が生きていれば、これを使って攻撃などをしてきます。威力は高めですので、うまく攻撃をかわしながら破壊してしまいましょう。
  なお、一応自分たちでも使用することはできます。その場合は、物・中・扇の射撃攻撃を行うことができます。威力は高めですが、使うかどうかは作戦次第です。

 動力車・および自動反撃装備 ×1
  列車最奥にある動力車の動力源です。これを破壊すれば作戦は成功となります。
  ただ、破壊されるだけではなく、自動迎撃装置としてマシンガンを装備しています。要するに、攻撃に参加してきます。
  近距離~中距離の扇射撃攻撃を行います。威力はそこまでではありませんが、EXAがやや高めで、複数回の弾幕をばらまいてくるでしょう。

 レフ・レフレギノ将軍 ×1
  列車最奥で待ち構えるボスクラスのキャラです。魔種であり、敵の将軍であるため、非常に強力なユニット性能をしています。
  オールレンジをカバーする魔種の絶技は恐ろしい威力を誇り、特に『出血』『毒』『乱れ』『足止め』系列のBSをばらまいてきます。
  今回は倒す必要はないので、適当に引き付けた状態で、動力車を破壊してしまうのがいいでしょう。
  もし倒すとなれば、難易度は相応に引きあがります。

●味方NPC
 メルティ・メーテリア
  ラド・バウのB級闘士。CTや回避、命中の高めなスピードアタッカーです。
  戦闘能力は皆さんの匹敵するほどだと考えてもらって構いません。シンプルに、参加人数+1されたようなものです。
  とはいえ、NPCなので、プレイング能力は最底辺みたいなものです。
  放っておいても頑張って戦ってくれますが、指示するとさらにお役に立ちます。
  弾除けや、鉄砲玉扱いにすると便利です。
  ちなみに、戦闘不能になっても死亡はしません。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <ジーフリト計画>シークレット・トレイン完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月13日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ

●トレイン・バトル
 だだん、だだん、と汽車が揺れる。
 後方の車両に飛び移ったイレギュラーズたちは、客車の窓から外をのぞく機関銃を見つめながら、あれが敵の攻撃手段か、とうなづきあった。
「大型の銃座でありますね」
 と、『キミと、手を繋ぐ』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)は声を上げる。
「対物クラスの銃弾も装填できるはずであります。あれをそのままにさせていては、こちらの列車もそう長くは耐えらないであります」
 ハイデマリーの言葉は事実だろう。外から見てみれば、帝政派の乗った列車は、随分と疲弊しているように見える。今はまだ耐えられるだろうが、あまり時間をかけていては、穴あきチーズ、というたとえがふさわしいような状態になることは想像するに難くはない。
「それに、こっちが陽動、という可能性もあるよ」
 『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が声を上げた。ほんの少し前、こちらの車両に飛び移る前に、バイルたちと行った会話を思い出す。それは、以下のようなものだった。

「えらく直接的な手段に出たね。相応の護衛が就いているのは想定済みにも関わらず力でのゴリ押し。鉄帝らしいといえばそうだけど、絡め手も想定しておいた方がいいだろうね」
 小声でそういうマリアに、グラナーテ・シュバルツヴァルトがうなづいた。
「確かに。その通りであろうな……どのような手を想像できるかな?」
 尋ねるグラナーテに、マリアは頷く。
「あくまで最悪のケースですが、武装車両は陽動でこの車両に伏兵や諜報員が紛れ込んでいる可能性も」
「ふむ……可能性はある」
 バイル・バイオンが、マリアの進言にうなづいた。マリアは続ける。
「考慮の上で、警戒をお願いします。何かあれば銃撃音でのモールス信号を。すぐに飛んで駆けつけます」
「うむ。ヴァイセンブルグ殿、今回配備された兵士の身元は?」
 その言葉に、レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルグが答える。
「半数以上は、身元をはっきりしています。ですが、帝政派として新規に受け入れた兵もいます。彼らを疑いたくはありませんが、特に列車技術者はボーデクトンからそのまま引き上げたものです。草が混ざっている可能性は否定できませんね」
「では、それとなく、身元のはっきりしている兵士を多めに、直掩に回してください」
 マリアが言った。
「露骨な動きは悟られて、さらなる想定外を呼びかねません。動きが読めているのなら、その通りに動かしてやるのもセオリーといえます」
「手のひらで転がすわけか。卿もなかなか、肝が据わっている」
 グラナーテがそういうのへ、マリアは頷いた。
「軍人でしたので、心構えは」
「好いことだ。忠言を感謝する。バイル殿、直掩の指揮はこちらにお任せを」
 レオンハルトの言葉に、バイルはうなづいた。
「うむ。じゃが、依然危険なのは、あちらに攻撃を仕掛けるイレギュラーズのみなじゃ。くれぐれも、気を付けておくれよ」
 そういうバイルに、マリアは、そしてイレギュラーズたちは頷いて見せた――。

 時を戻そう。場面は再び、現在へ。敵列車に乗り込んだイレギュラーズたち。
「彼らに任せれば大丈夫だろう」
 『暴食の黒』恋屍・愛無(p3p007296)が言った。
「いずれも鉄帝で名をはせた将軍たちが直掩だ。特に、彼のシュバルツヴァルトは随分と腹黒だと聞く。彼らに任せれば、あちらは安泰といえるだろう。
 それよりもしーてーおんな。きみのような、なにかふらっとしている奴の方が、僕は心配だ」
 そういう愛無に、しーてーおんな……メルティ・メーテリアが小首をかしげた。
「ふらっとしてますか?」
「している。君のその身軽さは武器だが、同時に弱点でもある。君はよく分からんよけ方や当て方をするが、それは『よくわからん』に頼りすぎているともいえる……まぁ、実力は認めている。ラド・バウでは君に苦しめられたことは事実だ。勝ったがね。もう一度言うが、勝ったがね?」
「そうでしたね。ふふ。楽しかったですよ。また斬りあい(おはなし)ませんか?」
「気が向いたらな。
 ふむ、僕も存外、人の真似事がうまくなった」
 やんわりと断る、という真似事を賭して見せる愛無。さておき。こちらは件のメルティを含めて、11人の大メンバーだ。実力、そして数という点では、決して敵に引けを取る状況ではない。後は、時間。速やかに先を突破し、この列車を止める必要があった。
「さて、飛び出したはいいがどう攻めるかなァ?」
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が、客車の内部を『透視』しながらそう言った。数名の敵兵士が、なにやらぎゃあぎゃあと騒いでいる。おそらく、こちらにとりつかれたことに気付いたのだろう。迎撃態勢を整えているに違いない。
「敵は銃で武装している感じだな。内部には例の銃座もある。あれを使われたら少し厄介だ」
「物質透過を使えるメンバーで、一気に無力化致しましょう」
 ハイデマリーが言う。
「銃座は厄介ですが、使う人間が居なければただのオブジェでありますよ」
「賛成。あ、ボクは屋根の上から攻めるよ!」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)がそういった。
「では、自分も屋根の上を行きましょう」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)がうなづく。
「二人で充分でしょう。それに、自分たちの迎撃に、敵が屋根上に集結するなら、屋内の突破はより容易になるといえます」
「うん! あ、オリーブさんは、動力車に攻撃してもらう必要もあるから、少しだけ力を抑えててね。
 その分、ボクが頑張るから!」
 セララの言葉に、オリーブはうなづいた。
「お願いします。とはいえ、手は抜きません。しっかり仕事はさせていただきます」
「頼りにしてる!」
 セララがにっこりと笑うのへ、オリーブも力強くうなづいた。
「それじゃあ、あとは内部を突破、って感じね?」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)がそういう。
「いつも通り……っていうと変だけど。ボクたちは、やることは変わらない。少し時間はないかもだけど、その分落ち着いて、確実にやっていきましょう?」
「そうですね。頼りにしていますよ、蛍さん」
 『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が、そういってほほ笑む。蛍も安心させるように頷いた。
「サクラさんに、スティアさんも。どうぞよろしくお願いいたしますね」
 そういう珠緒に、『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)と、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)もうなづいて見せた。
「もちろん! 一緒に頑張って、返り討ちにしちゃおうね!」
 スティアが笑いかけるのへ、サクラもうなづく。
「よろしくね。帝政派が、南部と協力できるかもしれないっていう状況なんだ。絶対に、この仕事、成功させよう!」
 サクラの言葉は、仲間たち皆が共通する思いだ。ようやく、事態が動かせる。きっと、良い方向に。そうすれば、鉄帝の解放に、確実な一歩を刻めるはずだ。この戦いは、そのための、一歩を踏み出すための、戦いなのだ。俄然、イレギュラーズたちの士気も上がる。鉄帝解放の一歩は、自分たちの双肩にかかっている。責任は重大だ。だが、ここで臆するわけにはいかない。
「それじゃ、行くわよ、皆!」
 蛍が言った。委員長の責任、いや、それよりも重いものが乗っているのは自覚している。それでも、今はその責任を肩にのせて、動くことができる。同じ思いを抱く仲間がいるから。そして、大切な人もいるから。
「ええ、行きましょう」
 珠緒が言って、優しくその手を握った。
「ふふ、私たちも頑張ろうね、サクラちゃん!」
 スティアがほほ笑みかけるのへ、
「うん! 絶対に、ここで未来をつかむんだ!」
 サクラもうなづく。
「では、いくでありますよ!」
 ハイデマリーが叫んだ。
「総員――突撃!」
 その号令とともに、イレギュラーズたちは一気に走りだした!

●突破せよ、弾丸列車
 一方――第一客車の中では、客席に身を隠し、イレギュラーズたちを待ち構える新皇帝派の兵士たちの姿がある。
「敵はこちらの列車に飛び移ったようです」
 一人の兵士が、声を上げた。
「客車内、屋根上を警戒しろ。入り口は一つだ。入ってきた瞬間にハチの巣にしてやればいい」
 隊長格の男がそういうのへ、兵士たちはうなづいた。その時に、がらん、と音が響いた。客車の扉が開いた音だった。
「来るぞ……! 相手がイレギュラーズだろうと、こっちの方が有利なはずだ! 臆するな!」
 隊長が声を上げるのへ、兵士たちはうなづき、一斉に銃を構えた。その銃口を、入り口にポイントする。
 からら、と音を立てて、ゴミが転がっているのがわかる。開いた扉の先には、何もいない。がたん、がたん、と列車が揺れる音だけが響いた。
 警戒しているのか? 兵士たちが疑問符を浮かべた。だが、あそこが唯一の入り口である以上、そこから入ってくることしかできないはずだ。ごくり、とつばを飲み込み、銃口をポイントする――。
「残念。入り口はそこだけじゃない」
 声が響いた。あまりにも近くで。
「なっ――!?」
 兵士が叫んだ。『壁や椅子を透過して姿を現した』、レイチェルの姿を認めたからだ!
「隠れていれば安心だと思ってたかい!」
 轟! レイチェルの右半身が紅に染まるのを、兵士は確認していた。同時、爆発的な焔の魔力が、兵士を吹き飛ばす!
「て、敵襲!? すでに中に――!」
「そういうわけでありますよ!」
 ハイデマリー叫びとともに、放たれた銃弾が、兵士の一人を撃ち抜く。物質透過を利用した奇襲。イレギュラーズたちの、それが先手だった。
「く、くそ! うて! 撃ち返せ!」
「貴方たちの相手は、ボク!」
「珠緒も、ですよ」
 蛍、そして珠緒が走りだす! 蛍は純白の手甲を掲げて、兵士たちの放つ銃弾を受け止めた。がん、がん、と強烈な衝撃が腕を叩くが、その痛みは即座に、心を燃やす決意によって『修復』する!
「突破!」
「いたします!」
 蛍、そして珠緒が叫んだ! 珠緒が突き出したその指先から、放たれるあの衝撃波が、銃座を構えようとしていた兵士を打ちのめす。がぁ、と悲鳴を上げて吹き飛ばされた兵士が、壁に叩きつけられた。
「銃座を使われては厄介なのです。あれを制圧しましょう」
「了解!」
 がしゃぁん、と窓をたたき割って内部に侵入する赤い影=マリア・レイシス。銃座前に陣取ると、不敵に笑ってみせる。
「悪いね! これは君たちには使わせないよ!」
 マリアが指をパチン、とならすと、その指先から紅の雷がほとばしる! それは、鋭き槍の様に、あるいは変幻自在の鞭のように。絡みつき、貫き、悪を滅する正義の雷だ! 紅雷が、銃座にとりつこうとした兵士を貫く。
「ぎゃっ!」
 と悲鳴を上げて、兵士が打倒された。
「くそっ! あの赤いのを狙え!」
 隊長が叫ぶのへ、マリアは間髪入れず、近くにとびかかろうとしていた兵士を雷で貫く!
「君も軍人なんだろう? 部下を使い捨てるような戦い方は感心しないね! それに、指揮官は常に冷静沈着、だ!」
「な、なんなんだこいつら……!」
 予想外の動きを、彼らは押し付けられていた。物質透過もそうだが、イレギュラーズたちはひるむことなく、最善最速を突っ切るかのように、車両に突っ込んでくる。自分たちの実力、戦い方に自信があるのもそうだろうが、それ以上に、『士気が高い』! それは、お仕着せの英雄である帝政派の兵士たちなどは相手にならぬような、本物の英雄としての実力とプライドゆえにか――!
「ちっ……!」
 隊長は短銃を引き抜くと、でたらめ加減に発砲した。マリアがとっさに身をかがめて、銃弾から身をかわして見せる。隊長が、残された兵士を確認する。残り、2。この、わずかな交戦の間で、こうも追い詰められたのか……!?
「しーてーおんな、斬りこめ」
 愛無がいった。
「わかりました」
 メルティが切り込む。ざん、と踏みこみ、強烈な斬撃を、兵士の一人にお見舞いした。ひっ、と悲鳴を上げた兵士が、獲物であるライフルを切り裂かれる。
「愛無さん」
「まかせろ」
 メルティがそういう次の瞬間には、愛無はすでに兵士の眼前にいた。右手を異形のそれに変化させて、爪で斬りつける。ぎゃ、と悲鳴を上げた兵士が倒れ伏した。
「私たち、いいコンビですね?」
「冗談だろう?」
 軽口をたたきつつ、敵を処理する。一方で、スティアが叫ぶ。
「皆! 突破優先! 屋根の上はどう?」
「問題なしー!」
 かんかん、と屋根の上から応答の音が聞こえて、セララの元気な声が響いた。
 イレギュラーズたちは兵士を残すように走り抜けると、次の車両に飛び乗って見せた。
「馬鹿が! すぐにあとから追いついて……!」
 隊長がそう叫ぶのへ、スティアは、「べぇ」と舌を出して見せた。
「ごめんね、そうはさせないよ――サクラちゃん!」
「うん!」
 サクラが、客車と客車の『連結具』を切り裂いた。そのまま、ぐ、ぐ、と、客車が後方に流れていくのを、隊長は自覚していた。
「あっ」
 思わず声を上げる。
「ごめんね、自力で何とか帰って……うん、この辺なら、人里までそんなに遠くはないはずだから」
 少しだけもう分けなさそうにサクラがそういう。同時に、屋根上から飛び降りてきた、セララとオリーブが、イレギュラーズたちに合流する。
「そうですね。こうしますよね。普通なら」
 オリーブが、ふむ、と嘆息する。絶望した様子の体調が、客車と一緒に後方へ、後方へ、流れていくのが見えた。

「あ~~~。なるほどね、客車を切り離したかぁ。
 そうだよねぇ、そうするよねぇ!」
 先頭車両では、レフ・レフレギノ将軍が、双眼鏡を覗き込みながら、後方の戦いを見やっている。先ほどから、何両か客車が後方に流れていくのが見えた。そのたびに、激しい戦闘音と、兵士たちの悲鳴にも見た雄たけびが聞こえてくる。
「こうすれば、後方から復活してきた敵に襲われることもないし、バイルの列車を狙う銃座も切り離せるから時間稼ぎにもなる!
 意外と大胆だねぇ~~~本当の英雄さんってのは! ま! それをできるのも、連結具を破壊できるくらいの力と、敵を置き去りにしてでも突破を優先とする胆力と実力ってのが必要だ。そういった意味では、実に英雄向けの作戦! やってくれるじゃァないか!」
 アハハァ、とレフは笑う。余裕綽々には見えたが、実際には追い詰められつつあることを自覚していた。レフは楽観主義者というよりは、悲観主義者である。自分が『坂道を転げ始めている』ことを十分に理解していたし、加えてその坂道を猛然と走り下りてきて、こちらに追撃を加えんとする英雄たちが存在することも、十分に理解している。
「いやだねぇ、英雄ってのは。なんでもできる気でいやがる。
 でもね、教えてやるよ。英雄っていうのは、死んで完成するのさ」
 だがそれ以上に、レフには実力に対しての自信というものがあった。彼は魔に与するものであるのだから、既に人知の外にいるものであるのだから。

●ストップ・トレイン
「くそ! 屋根の上の敵を止めろ! また列車を切り離されちまう!」
 悲鳴のように平静が声を上げる。バタバタと音を立てるかのように、兵士たちがはしごで屋根の上に昇ってくるのを、セララはその大剣で一気に切り捨てて見せた。ぎゃっ、と悲鳴を上げて、兵士が列車から転げ落ちていった。まるでアクション映画のワンシーンのように、兵士が地面に叩きつけらえて転がった。後方へ流れていく景色の中で、ふらふらとしながら立ち上がったあたり、当たり所はよかったらしい。
「おっと! ボクたちばっかり狙っていても――」
 セララが声を上げる。同時に、がたん、と音を立てて、客車がゆっくりと後ろに下がり始めた。足元の方を見てみれば、今まさに、サクラとスティアによって客車が切り離されたばかりだ。
「客車の方が突破されちゃうよ?」
 セララがにっこりと笑う――兵士が気色ばんだ。
「だったら、お前たち二人を道連れだ!」
 とびかかってくるのを、オリーブは冷静に、対さばきでよけて見せた。そのまま、兵士の首筋に刃の使を叩きつける。ぎゃん、と悲鳴を上げて、兵士が屋根の上に転がった。オリーブは嘆息する。
「この程度の相手に英雄を名乗られるのは、いささかむなしいものですね。
 いえ、そんなことより、行きましょう。自分たちも本当に、おいていかれかねない」
 そういうオリーブへ、セララはうなづいた。
「うん! いくよ、オリーブさん!」
 二人は屋根の上を走りだすと、そのまま一気に前方車両に飛び乗った。連結部の所に飛び乗って、バランスをとる。
「無事でありますね? セララ!」
 ハイデマリーがそういうのへ、セララがVサインを一つ。
「うん! 当然! みんなも大丈夫そう?」
「はい。順調であります。このままならば――」
 ハイデマリーがそういった瞬間、
「列車を突破できる、って奴かな~~?」
 小ばかにしたような声が響いた。イレギュラーズたちが車両に飛び込んでみれば、そこにいたのは、一人の男。そして、数名の兵士たちだ。
「どうもどうも、初めまして、かな。いや、ヴァイセンブルクのお嬢さんには、旧軍時代にあったことがあったかもね!
 レフ・レフレギノだ。こう見えても将軍をやっている!」
 おどける様子で、手を広げて見せた。
 圧があった。
 自然体――否、油断すら見せるこの状況で。
 なお、圧があったことは――、彼が、理外の存在であることの証左。
 魔。その中でも、一軍を統べる、魔。
 彼が『将軍』をやっているという事実が、事実理解できるというプレッシャー!
「……存じておりますよ。レフレギノ将軍。
 祖父君は、まさに英雄でありました」
 言葉を選ぶように、ハイデマリーは言う。
「かつて、帝都の間隙をついた、ノーザンキングスによる電撃作戦。敵地に取り残された部隊を、自分たち僅か数名で敵部隊を足止めすることで救った英雄の一人。レフテレンス・レフレギノ少佐。それが祖父君でありましたね」
「そうだねぇ」
 けらけらと、レフが笑う。
「そのレフの名を受け継いだあなたが! なぜ魔に身をやつしましたか!」
 叫ぶハイデマリーに、レフは冷たく言い放った。
「じゃあ逆に聞くけどさ。英雄英雄ってもてはやしてるけど、お前うちの爺がおっ死んでなに喜んでんだ?」
 ぞっとする様子で、レフは言う。
「英雄。そうだな、英雄だな。爺は英雄だったよ。勇敢だった。僕もあの時の取り残された部隊にいた。誰もが、生贄を探していていた。『数名が残って足止めすれば、俺たちは助かるぞ』ってね! 爺はそれを察した。だから、数名の、『老い先短いロートル』を選んで、死にに行ってやったんだよ!
 したらどうした? 這う這うの体で僕たちが帰ってみれば、死んだ爺を『英雄だ英雄だ』って祭り上げてやがる!
 なんだお前ら? 爺が死んだほうがよかったってか? そうだろうなぁ! うっとうしい老害が死んで! 未来ある国民たちが生き残ったわけだ!
 でもな! お前らは目を逸らしている! お前らはこう思ったわけだ! 『爺が死ねば、最良の結果が得られるぞ』ってな! こう思ったわけだ! 『この爺ども、死なねぇかな』ってな!」
「それは!」
 マリアが叫んだ。
「それが軍人ってものだろう!?」
「じゃあ、軍人ってのは、死ぬことを求められるのか?! 英雄ってのは、死ぬことを求められるのか!」
「そうじゃない!」
 マリアが叫んだ。
「でも、命のかけ時はあるんだ!」
「それを他人に押し付けて『英雄』扱いしてるやつが、僕は死ぬほど気に入らないんだよねぇ!」
 レフが叫んだ。
「そうだろう? マリア・レイシス。君だって英雄の一人だ。でも、君だって誰かにこう思われたことがあるんじゃないのか?
 『こいつが、自分の代わりに死地で死ぬほど苦労してくれれば! 自分は楽して助かるぞ!』ってな!」
「それは」
 オリーブが声を上げた。
「あまりにも露悪的に過ぎます。論ずるに値しない、子供の妄言です」
「かもな、鋼鉄の冒険者殿。でもガキだって、たまには真理を突くんじゃないのか?」
「それこそ妄言ですよ、将軍殿。大人が子供に見た幻想にすぎない」
 ふん、とレフは笑った。セララが続く。
「……それが、君の『憤怒』なんだね?」
「そうだとも、魔法騎士さん。
 僕はこう思う。『誰かが英雄にされるなら、誰もが英雄にされないと嘘だ』ってね。
 そうだとも。誰かが死を望まれるなら、誰も平等に死を望まれる。
 まっさらに、綺麗にする、だ。僕はすべての国民を英雄にする。僕はすべての国民に死を願う。
 新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)とは、生贄(ジェルヴォプリノシェーニエ)とは、すなわちすべての国民だ」
「歪んでいます」
 珠緒が言った。
「あなたは、祖父を失った苦しみ故に、その八つ当たりをしているだけなのです」
「そうだろうな……でも今の僕には、それでいいと呼び声が言ったのさ」
 レフの言葉に、珠緒が息を吐いた。
「そのような身勝手が相手であるのならば、珠緒はこの身を以て、その身勝手を止めましょう。あなたの怒りが民を苦しめるのならば、ここでその怨念、断ち切って見せましょう」
「できるかい?」
「できます。珠緒には、蛍さんがいます。仲間がいます。友がいます。あなたとは違います」
 珠緒の手を、蛍が握った。
「将軍。ヒトは汚い、とは使い古された自虐で、おおむねそういうこともあるが」
 愛無が言った。
「だからといって、個人の下らぬ断罪ですべてを評してよい訳があるまい。なにせ、セカイには何億という人がいるのだ」
「ふん。ま、口論は今度にしようか。
 列車を止めるんだろう? やってみろよ、『英雄様』!」
 レフがゆっくりと、構えた。徒手空拳の構え。だが、その周囲にはおぞましいほどの魔力が巻き起こっている。
「魔力と拳術を併せ持ったタイプだね」
 スティアが言う。
「強敵だよ……でも、今は倒す必要はないから……!」
「狙うは、動力機関!」
 サクラが声を上げ、武器を構える。同時に、動力機関がガチャガチャと動き出し、無数の重火器がその姿を現した。
「あれを突破して、破壊するよ!」
「こっちにも、慕ってるじいじがいるんでな」
 レイチェルが言う。
「命を奪わせるわけにはいかない。
 やるぞ、皆」
 その言葉に、仲間たちはうなづいた――がたん、と列車が揺れた、それを合図にしたように、イレギュラーズたちは飛び出した!
「将軍を抑えます! そのすきに――!」
 珠緒が叫び、蛍とともに飛び出した。
「来なさい! ボクがあなたの攻撃、全部受け止めて見せる!」
 蛍が叫び、その手甲を構えた。
「いいねぇ、やってごらんよ!」
 レフがその両手に、おぞましき魔力を携えた。白銀の、しかしおどろおどろしい魔力。魔の、ちから。
 レフが、たんっ、と地面をけって飛び出した。同時、鋭いストレート・パンチが蛍を襲う! 強烈な衝撃に、手甲が砕けんばかりの衝撃が、蛍の体を叩きつけた! ぐうっ、とうめきながらも、蛍が踏みとどまる。痛みは修復する。心の力で!
「人を思う心のために戦う限り、ボク達は決して退かない、挫けない!
 これを『赤心』って言うのよ!
 貴方の辞書にはないでしょう、覚えておきなさい!」
「そういう心って、得てして利用されるもんだぜ~~~~? 覚えておきな、お嬢ちゃん!」
 レフがおどけるようにそう言って、再度蛍を殴りつけた。激痛がその両腕を襲う。折れそうになる意識をつなぎとめる。
「こちらです、将軍!」
 珠緒がその手にした破邪の剣を振るう。紅のそれは、桜花にして血の色か。振るわれる紅の斬撃を、しかしレフはたやすく受け止めて見せた。
「いいねぇ、君たちのそういう……仲良しごっこ! 虫唾が走るんだよね!」
 レフがばちん、と指を鳴らすと、その周囲に巻き起こる魔が、強烈な旋風を巻き起こした。身を切り裂くような旋風が、蛍と珠緒を叩く! 蛍は珠緒の前に立ちはだかり、その打撃を受け止めて見せる!
「蛍さん――!」
「大丈夫! 攻撃を続けて!」
 珠緒の言葉に、蛍がうなづく。そう、誰かが傷ついたとしても、攻撃を続けなければならない。足を止めていては、この列車から振り落とされるだけだ!
「セララ・スペシャルだーーっ!」
 入れ替わる様に飛び込んできたセララ、その斬撃が、上段からレフに叩きつけられた。レフはその腕で、聖剣を受け止める。その身に蓄積した魔は、セララの聖剣の刃をも受け止める、邪悪な盾でもある。
「魔法騎士、ってやつか! お噂はかねがね」
 レフが右手でその剣を振り払い、左手で拳を叩きつける――が、その刹那、その左手に強烈な銃撃が叩きつけられた! ハイデマリーの一撃だ!
「援護であります!」
「お願い、マリー!」
 セララが叫び、ハイデマリーの狙撃とともに、レフに襲い掛かる! 突き刺さる、ハイデマリーの狙撃に足を止められたレフに、セララの一撃が突き刺さった! 斬! 切り裂かれる、レフの豪奢な軍服。その切れ間からわずかな傷口をのぞかせながら、しかしレフは不敵に笑ってみせた。
「いいコンビネーションだね。君たちが新皇帝派にいたら、いい感じの英雄としてこき使えたのになぁ?」
「冗談でしょ!」
 セララが、その体をくるりと回転させるように、横なぎに刃を振るった。レフがその斬撃を受け止める。同時に、ハイデマリーの銃弾が、レフの手に突き刺さった。
「お断りでありますよ!」
 ハイデマリーが叫ぶ。再びの銃撃――レフは跳躍した。
「だろうねぇ。残念残念!」
 あざ笑うように、レフがその手を振るった。先ほどとは比べ物にならぬほどの、強烈な暴風。その圧があたりに立ち込める。それは、毒をも含んだ強烈な、腐れ風だった。
「腐って消えていくといい! その英雄心ごとさぁ!」
 吹き荒れるそれを、スティアが立ちはだかり、魔導器を開いた。柔らかな光がそこから立ち上がり、魔力の残滓は無数の天使の羽となって舞い散る。それは聖なる領域を展開し、腐れ風を受け止めるように、首位を浄化しはじめた。破邪転成。スティアの聖なる光が、悪しきを浄化する。
「攻撃は受け止めるよ!」
 スティアが叫んだ。
「お願い!」
「任せて! そっちはお願いねスティアちゃん!」
 サクラが叫ぶ。一気に走り出す。目的は、僅か数名の取り巻きの兵士たちだ。
「あなたの相手は、私だ! 天義の騎士サクラ、今は故あって、鉄帝のために――参る!」
 拳銃を構えて迎撃しようとする兵士を、サクラは一気に距離を詰めることで無力化した。そのまま、刃を振り下ろす。斬、強烈な斬撃が、一撃のもとに敵兵士の意識を吹き飛ばした。
「ひるむな! 将軍の前だぞ!」
 兵士が叫ぶ。サクラは放たれた銃弾を間一髪で回避した。ほほに一筋の傷が走る。気にも留めず、走りだし、銃弾の主である兵士を一刀のもとに切り伏せた。
「……さっきの話を聞いて、まだ将軍に協力する気なんだね……!」
「もしかしたら、狂気に侵されてるのかもだよ!」
 サクラの言葉にに、スティアが答える。少なくとも、正常な判断力は失っているかもしれない。
「兵士は私が押さえるから、動力炉を!」
 サクラがそう叫ぶのへ、愛無がうなづいた。
「任せろ。しーてーおんな、無理はするな」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
 にっこりと笑ってみせるメルティ――愛無の目が、怪しく変わる。魔眼が、貫くように『動力炉』を捕らえた。がうん、と強烈な衝撃が動力炉を貫き、同時に汽車が大きく音を立てて揺れた。それをエマージェンシーと感じ取ったのか、動力炉から無数のドローンが飛び立ち、搭載したマシンガンを撃ち放つ! メルティがそのドローンを迎撃・撃墜していったが、不意に一撃に、体勢を崩したメルティが直撃を受けた。
「くっ……!」
 たまらず膝をつくメルティをかばいながら、愛無が言う。
「下がるといい。君はもう十分働いただろう」
「すみません……あとを……!」
 メルティがさすがにダウンしたのを確認しつつ、イレギュラーズたちは再度の猛攻を行う。マリアはその雷を槍の様に撃ち放つ!
「硬いようだね! さすがは鉄帝の技術力っていう所なのかな? でも……!」
 ぱちん、ともう一度、マリアが指を鳴らし、雷を解き放つ! 放たれた紅の雷が、もう一度、動力炉に強烈な衝撃を与えた。ばぐん、と音を立てて、再度の爆発を巻き起こす。だが、それでも、動力炉は必死に、汽車を走らせ続ける。周りの機関銃が、悲鳴のように銃弾を吐き出すのを、オリーブは重鎧で受け止めながら、一気に距離を詰めるべく走った!
「仕事は終わりですよ」
 己を燃やし続けた動力炉に、わずかなねぎらいを感じさせるように、そう告げた。オリーブが、その全力を以て、動力炉に刃を振り下ろす! 強烈なそれは、破城をも可能とする一撃! 言わずもがな、今のダメージを蓄積された動力炉にとっては、オーバーキルもいいところのダメージだ!
 がぐぉぅん、と強烈な音を立てて、動力炉が爆発した! その体のあちこちから、炎と爆風を吹き出しながら、動力炉が断末魔を上げる!
「よし! 動力炉は間もなく停止します! 今のうちに、撤退を!」
 オリーブがそういうのへ、仲間たちはうなづく。レフと対峙し、その炎を以てレフを抑え込んでいたレイチェルが、最後にうなづいた。
「さぁて、今回のお前らの目論見も、これで仕舞だなァ?」
 レイチェルがそういうのへ、レフがうなづいた。
「どうやらそのようだね。君たちにはつくづく、イライラさせられるなぁ?」
 そういうレフへ、レイチェルは肩をすくめる。
「こっちもな、アンタらのやり口には閉口しているところだ。
 ……まってな。すぐに、アンタらの喉元に切り込んでやる。すぐに、だ」
 レイチェルが凄絶にそういうのへ、レフもまた、凄絶に笑んで見せた。
「待ってるぜ、英雄さん」
 レイチェルが、後方へと飛びずさる。徐々に汽車が速度を落としていって、バイルたちの乗っていた汽車に追い越されようとしている。イレギュラーズたちはうなづきあうと、負傷したものをかばいつつ、一気に元の汽車に飛び乗った。
 帰還してみれば、レフの乗った汽車は、徐々に、徐々に速度を落として、やがて急速に後ろの景色に引っ張られるように、遠くへ、遠くへ、流れていった。それが完全に見えなくなった時に、イレギュラーズたちはようやく、胸をなでおろすことができた。
「バイル閣下、こちらでは――」
 マリアが尋ねるのへ、バイルがうなづく。
「うむ。確かに襲撃はあったが、ヴァイセンブルグ殿、シュバルツヴァルト殿の助けもあり、すぐに鎮圧できた。
 助言をもらったおかげじゃな」
 そういって、いつものようににっかりと笑ってみせた。
「さすが皆じゃ。随分と風通しがよくなってしまったが、ひとまず休息をとってくれ。このまま南部に向かい、南部派との会談を行うとしよう」
 その言葉に、皆はうなづいた。
 果たして、鉄帝の未来をかけた戦いは、イレギュラーズたちの勝利で幕を下ろした――。

成否

成功

MVP

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 バイルたちは、南部派との合流に成功したようです――。

PAGETOPPAGEBOTTOM