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シナリオ詳細

<ジーフリト計画>天国へ仇なす者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ショウによると
「革命派難民キャンプをグラリオットという魔種が襲ったのは覚えているかな。知らなくてもいいよ。今回の依頼は、その後始末だから」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は悪びれもせずそう言った。
「魔種は一区画まるまる、まあだいたい200平方メートルくらいに、肩寄せあって住んでいた人々を食い殺した。そこへ勇気あるイレギュラーズが立ち向かい、魔種を退けた。これがいきさつだけど、繰り返して言うけど、知らなくていいよ。問題はね」
 一呼吸おいたショウによると。
「魔種によって生じた空白地帯、ここへ魔物……複数の天衝種(アンチ・ヘイヴン)が入り込んだんだ。このままじゃ復興もできやしないし、なにより他の区画へ天衝種が溢れ出る可能性がある。現状は腐肉を漁ることで満足しているみたいだけど、そのうち飢えて他の区画の人々へ襲いかかるだろうね」
 ショウは憂いを目元へにじませる。
「死人がかわいそうだ。このフローズヴィトニルのせいで、ただでさえ革命派たちは手をこまねいている。……弔いを上げてくれる人も居ない。天衝種の餌になって、骨まで食い尽くされて」
 というわけで、と、ショウはいつもの情報屋の顔へ戻った。
「革命派難民キャンプへ入り込んだ天衝種を屠ってくれ。数が数だから、気をつけて。余裕があれば死者を弔ってほしいけれど、これも数が数だから、形だけでかまわないし、しなくともいいよ。まずは天衝種の抹殺をメインに」
 それじゃ、気をつけて。寒いからね。ショウはあなたへ微笑みかけた。

●神がなさらぬならこの手で
 寒風が吹きすさんでいる。
 魔物の遠吠えを引っ掻き回しながら。
 この区画一帯が魔物の支配下に置かれているのだ。
 放置された遺体が腐敗し、あたりには悪臭が充満している。寒風がそれをさらっていき、新たな悪臭をもたらす。目を見開くのもいやになるような刺激臭だ。地面には破壊された歯車兵の残骸が転がっている。足場は悪い。建設途上のままほったらかしにされた集合住宅は、魔物の住処となっている。

GMコメント

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

みどりです。送り人になってあげてください。

やること
1)天衝種(アンチ・ヘイヴン)討伐
A)オプション 死者のお葬式

●エネミー
魔物の混成部隊です
目的の区画のあちこちに点在していますが、リプレイでは最も激しい戦闘一場面だけの描写となります。軽い戦闘を繰り返し、ある程度疲弊した状態での開戦となることを念頭に置いてください。
内容は以下となります。

グルゥイグダロス(巨狼) 6体
俊敏にして獰猛。その爪や牙をマトモに受ければ『出血』は免れないでしょう。

ヘァズ・フィラン(黒天烏) 8体
空を飛行し、弱者と思わしき者を集団で嬲ります。反応、機動力、EXAに優れ、牙には毒もある模様です。

ギルバディア(狂紅熊) 3体
凄まじい突進能力があり邪魔な木々は軽く薙ぎ倒す程の性能があります。また、敵を吹き飛ばす様な一撃を宿している事もある模様です。

●戦場
ギア・バジリカの建材を使って建てられた小屋が密集している場所の、広場です。スラム街をイメージしてください。だいたいあってます。
かつてグラリオットが食い散らかした死体や、歯車兵の残骸がごろごろしており、足場は悪いです。
また、大寒波による影響でFBと機動力を除く各ステータスへ-10程度のペナルティがかかります。
悪臭が満ち満ちており、行動へ軽度のペナルティがかかります。このペナルティへは過酷耐性があると便利でしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <ジーフリト計画>天国へ仇なす者完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
優しき水竜を想う
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
ファニー(p3p010255)
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
雪風(p3p010891)
幸運艦
夜摩 円満(p3p010922)
母なるもの

リプレイ


 まるでこの世の終わりみたいだった。暗い空は寒風が吠えたくり、地上へは悪臭がうず高く積み上がっている。どこへ行っても目につくのは、歯車兵の残骸、それから、たぶん、人だったのだろうもの。
「……ひどい、有様だな」
『雪の花婿』フーガ・リリオ(p3p010595)の漏らした一言は、一同の総意だった。
「こんな、ことが。許されるもんか。おいらは許さない」
 鳥さん人形も当然だと言わんばかりだ。悲しみは強い衝動となってフーガの心へ巣食った。それはこの区画を蹂躙する魔物へ、そして元凶である魔種グラリオットへと強く結びついた。
『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)も、悄然とあたりを見回す。魔物の足音が聞こえる。屍肉を食い漁っている音が聞こえる。
(アリョーナにとっては恐ろしい記憶もある場所だと思うが、同時に大切な思い出もある場所だろうに)
 すさまじい荒廃ぶりに、ここがとても人の生きた跡とは思えない、思いたくない。仮組みされた小屋はフローズヴィトニルの結果崩れ落ち、殺風景な景色をさらに刺々しくみせている。
(ベルナルドさん、みんなを、こんなわたしでも家族だって呼んでくれた人たちを、どうか、静かに眠らせてください)
 脳裏にアリョーナの声が蘇る。
 彼は芸術家だ。恐ろしい記憶を、楽しい記憶に塗り替える。己の筆には、そんな魔法が宿っていると、信じている。だから彼は決めたのだ。
「絶対にここを魔物から取り戻すぞ」
 歯車兵の残骸を踏まぬよう気をつけつつも、彼はたしかに前へ進んでいく。音のする方向へ。
『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)も、彼の後を追い歩き出した。横目で腐った血溜まりをみやり、彼女は考える。
(まったく、墓荒らしとか人の心もないものか。おっと……魔物だからそもそも人ではないのだった。とはいえ、ここで苦しみの果てに今は安らかに眠っている皆もいるんだ、なんなら嘆きの末に果てた者もいるだろう)
 どれほど嘆いても、死者は帰らない、帰れない。吹きすさぶ寒風の音色は、怨嗟の声にも似ていた。
「そのような眠りにつく者に更なる苦痛を与えようなど、私は許せない。それに……」
 この悪臭。まちがいなく相当な数が腐敗を始めている。この寒波のせいか、通常よりもゆっくりとではある。もしこれが真夏の炎天下だったらと思うと、沙耶はぞっとした。
(……手早く処理してあげないとマズいな……)
 沙耶はきつく唇を引き結び、ポケットへ両手を突っ込んだ。
 しだいに咀嚼音が近づいてくる。角を曲がった一同は、そこへ腐肉へ食らいついている魔物の群れと相対した。
「……チッ、汚ねぇお食事っぷりだな。グラリオットの行方も掴めてねぇってのに、これか。あの野郎はいつか絶対にぶち殺すとして……招かれざる客人にはお帰りいただかねぇとな」
『スケルトンの』ファニー(p3p010255)がドクロの奥の視線をすがめる。敵方の数は多い。そのせいかこちらへは見向きもしない。一心不乱に腐敗したはらわたを飲み込み、骨を噛み砕いている。
「うーん、前にも来ましたが、環境は前以上に危険になりましたね。臭いは携行品等でどうにかなるとして、寒さもつらいですね。ここの人達を弔うにしても、入り込んだものを排除してからになりますね」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は香水「ゲルダの涙」を手首につけ直した。この一滴のぬくもりは、戦場において精神の平衡を助く。
 屍肉を奪い合い、互いに吠える魔物たちの姿。『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)もあきれたようにうなずいた。
「いやな景色ねぇ、これは。ちょっと慣れない身としてはつらいけどほっとけばもっと酷くなるわけだし、ここで終わらせましょ」
「かつてわたしがいた宙の戦場も、もちろん過酷で辛いものでしたが。地上の戦場もその点は変わりませんね……悲惨、の一言です」
『幸運艦』雪風(p3p010891)は輝石のようなまなこへ憂いをにじませる。
「ですが、このままにはしておけません、そうでないとこの地は先に進めないのですから。喪われたものに哀悼を、脅かすものに制裁を。雪風、まいります」
 艤装が唸りを上げる。法力が充填され、雪風はかすかに地上から浮いた。
『ママうさメイド』夜摩 円満(p3p010922)はおびえたまなざしを我が物顔の魔物たちへ送る。
「……酷いです。この様な有様では迷える魂も成仏出来ません。ですが……非力な私にはどうしようもございません」
 震える声。きゅっと拳でスカートの裾を掴み。
「嗚呼……ですから『私』。代わりにどうか力を……」
 一瞬、一瞬だった。ゼノポルタの乙女は気を失い、ぐらりと大きくゆらいだ。赤い光が円満の全身を包んだ途端、『彼女』は、しっかりと立った。そこに居るは既に円満ではなく……。
「夜摩 焔魔」。円満の主人格である血化粧乙女。赤から深い紅へ染まった瞳がひたと魔物を見据える。
「……元よりそのつもりだ、円満よ。我が炎と拳にて……邪悪を裁こう、『ヤマ』の名に懸けて」


 魔物の掃討戦は、一同の持久力との戦いでもあった。その点、多くの者が過酷耐性を身に帯び、そうではないものも己の役割を意識して行動していたがゆえに、一同は予想よりも少ない損耗で魔物を撃破していった。
 風はいまだ冷たく、一同の身へびょうびょうと吹きつける。それでもなお、なお一同は力を合わせ、ついに広場へと至った。
 沙耶の鋭い視力と上空からの空間把握能力が、一同へ彼我距離を知らせる。
「まだ向こうはこっちに気づいていない。戦闘の準備をすませよう」
「ああ。了解だ」
 フーガの手へ金色のトランペットが落ちてくる。金管は豊かな音色を弾きだした。時に勇壮に、時に我に続けとばかりに。
「踏んづけちまっても、文句は言いなさんなよ」
 そう言いつつもファニーは保護結界をはる。白銀のベールが足元から広がり、それに包まれた死者はどこかおだやかな顔つきに変わってみえた。
「腐敗が進んでいますね……早急に何とかしなければ疫病発生の恐れもあります。天衝種の対処を早く済ませましょう」
 雪風が冷静に分析し、ついで悲痛そうに顔をしかめる。すぐに切り替えて、雪風は魔物の群れの方へ体を向けた。
 最後の妖精のジュースを一息にすすりあげ、じゅーって音をさせたオデットは、空へと飛び出した。空はいい。精霊たちをより深く感じることができる。太陽の友達であるオデットにとって、空はかけがえのない居場所だった。風の精霊たちが自分のため懸命に戦ってくれているのを肌で感じながら、オデットは精霊たちの助力から勇気をもらった。
 フルールもまた、美しく尊き精霊たちを具現化させる。煌々たる、雅やかな、病みただれたこの地には似つかわしくないほどの美が次々と花開き、フルールの胸へ吸い込まれていく。そして彼女は見惚れるほど美しい翼を顕現させた。
「みなみなさま、準備はよろしくて? 誰も彼もを追いやりましょう、地獄へと。私たちはそのために集ったのだから」
 短く焔魔がうなずき、片手を天高く掲げる。優雅なまでのそぶりで一礼。招き寄せられたかのように、聖なるかなが降臨する。厳かな神霊と目と目で対話し、焔魔はまっすぐにそれを受け入れた。刺々しいまでの敵意をみなぎらせ、焔魔は魔物へ視線を向ける。
「防寒具の着心地はどうだ?」
「十全だ」
 焔魔がベルナルドへそう応える。
 ベルナルドのお手製防寒具は、たしかに役に立っていた。冷気でしびれていく体をたてなおし、休憩時に冷えた身へ入れたぬくもりをそのまま残している。それだけでずいぶん違って感じられた。彼も軽く浮き、足場を天空へと移した。
「さあ、死が来たぞ、アンタがたの死がな」
 空を割いてまず襲ってきたのは、黒天烏。耳障りな音を立てながらファニーへと。
「やっぱりそう来やがったか。けどな、それこそ、思うツボってやつなんだぜ?」
 だが愚者は行進するのだ。道を切り開く覚悟を身にまとった彼は、凶運の四番星で烏の願いをへし折っていく。
 烏の攻撃は焔魔へもおよんだ。けれども屈する焔魔ではない、正当なる「ヤマ」である彼女にとって、この程度は慣れたものだ。
「是が裁定の一撃だ、喰らうがいい」
 デア・ヒルデブラントの輝きが烏の意識を刈り取っていく。畜生に繊細な心があるかは謎だが、きっと彼らは幸福だっただろう。何故なら、腐肉を食らう生から解放されたのだから。
「欲かい第三天『夜摩天』の名において貴様らには裁きを与える……いただきまーす♡」
 そのうえ、美しき乙女の血肉となれるのだから。
「行くぞ!」
 ベルナルドが短く吠える。ここまでクェーサーアナライズによってフーガと共に自軍を支えていた彼が、反撃の狼煙を上げる。獅子座より舞う流星を模った徽章が狂紅熊の空隙を教えてくれる。きらめくタマゴが後押ししてくれる。狂紅熊めがけ、葬送曲・黒が突き刺さる。
「近くば寄って目にも見よ!」
 沙耶の名乗り口上が決まり、狂紅熊は怒りに我を忘れた。ひらり、鈍重な一撃をなんなく回避し、沙耶は鼻先で笑った。
「のろいな。こんなのが天衝種とは笑わせる」
 雪が、月が、花が、沙耶の攻撃によって奏であげられる。狂紅熊の一体が地響きを立てて倒れる。
 激しい消耗戦、けれどフーガのおかげで皆は万全の状態で戦える。
「歌えやれ、楽土を。歌えやれ、楽師よ。千年の狭間に奇跡を起こさん、我は喜び福音を歌わん」
 皆を包むあたたかな支援。誰もがフーガへ感謝の視線をやった。まなざし、それだけで理解できた。
「熱砂よ!」
 オデットが起動したヘビーサーヴルズはたしかに多くの敵を巻き込み、不調を植え付けた。いっぽうで仲間へ気を配るのも忘れない。破滅の魔眼、『バロール』が彼女の行動を後押ししている。
 狂紅熊がすべて倒れたのを見計らい、雪風は攻勢をさらに強めた。プラチナムインベルタの弾丸が跳ね回り、体勢を崩した巨狼めがけ……。
「主砲、射撃準備、よし! 撃て!」
 圧倒的火力であるラフィング・ピリオドが着弾する。
 フルール、任せた。誰かがそう叫ぶ。
「ええ、任せられたわ。真打ちは遅れて登場するものですもの」
 フルールはうっとりと微笑んだ。
「神翼獣ハイペリオン、かの権能をこれへ」
 小さき白き鳥の群れが、残った魔物を覆っていく。一匹一匹は小さくささやかなつつき方。だがその量が尋常ではない。白き羽の嵐が過ぎ去ったときには、魔物はもうすっかり、事切れていた。


 すべての戦いを終えたイレギュラーズは、悲しき死者たちを弔うことにした。
 手分けして黙々と死体を集める。冷気で芯が凍りつき、丸太ん棒みたいになった死者たちを。まだ人の姿を残しているのが、救いであり、不憫でもあった。魔種から我が子をかばったのだろうか。折り重なっている親子の死体を見つけた時、焔魔は思わず彼らを掻き抱いた。
「苦しかっただろう……もう大丈夫。安心して成仏しなさい。もう何も苦しむ必要はない。苦楽は花開き、すべては満たされ、次の生へと送られる」
 天上楽土からの後光が、慈母の如き笑みとともに死者を包む。焔魔はおさなごへするかのごとく、死者の頭を優しく撫でた。
「血肉は大地へ還るとも魂は天へ昇る。もう何も恐ろしくなどない。つらかったろう、もはや、すべては赦された」
 焔魔の鎮魂の句は、迷える魂へ導きをもたらしただろう。
 死体を担いで広場へ戻ると、雪風がシャベルで地面を掘り返していた。その横でフルールが焚き火を育てている。風に吹かれるたびに消えそうなそれを、フルールは辛抱強く守っていた。
「おかえりなさい、寒かったでしょう? 暖を取りなさいな。じゃないと、私達が危険です」
 よく見るとフルールの隣には名簿と遺品の入った箱が置かれていた。死者の身元確認に使ったのだろう。
「あなたが連れてきてくれたその人達も、名も知らず朽ち果てるよりは、ずっといいと思うのです。お墓に名前を刻みやすいし、交流のあった他の土地の人がここを訪れた時に、親しい人へ哀悼の祈りができるように。それに……」
 フルールはやさしいまなざしを焔魔へ向けた。
「……家族や恋人は、近くにしてあげたいしね」
 鉄帝の動乱は根深く、今後どうなるか一寸先も見えない。けれどすべてが終わったなら、フルールは思う。終わったなら、もっと、きちんと、埋葬してあげたい。
「……」
 雪風はせっせと穴を掘っている。深く掘らねばならない。野良犬の餌食にならぬよう、深く。元AIの彼女と言えど、重労働だ。だからこそ並々ならぬ挺身を発揮し、雪風は無心で死者の最後の安寧の地への入口を開けていく。扉を開くように、冷たい大地へシャベルをつきたて、ざくり、土砂をかきわける。凍土であるはずだが、存外にシャベルが吸い込まれていくのは、オデットが大地の精霊へ働きかけtくれたからだ。その事実へ深く感謝しつつ、雪風は作業を進めていく。
 遺体に触れるのも、雪風にとっては苦ではない。それ、いや、彼彼女らは、無下に扱うことなど許されないとよく知っている。かつてあった世界で、雪風は幾多の命が散っていくのを見てきた。姉妹艦が撃沈されていく様子を眺めていた。そのたびになぜ自分へ「感情」なるものがインプットされているのかと嘆きながら。
「どうか、次生まれてくることがあれば、穏やかな人生となりますように……心より、祈っています」
 だから雪風は祈る。神ではなく仏ではなく、死者へ向かって。
 オデットはオデットで、精霊たちに感謝の祈りを捧げていた。
「ありがとう、今日は。今日も、かな。いつも助けてくれて、本当にうれしいわ」
 精霊たちは喜びの声を返す。オデットは精霊たちの声援を受け、ついでにもうひとつお願いをする。死者が安らかならんことを。できる範囲でいいから、見守っていてほしいと。死後、冥府へ行くはずの死者が、時に精霊へ転生することがある。もしそうなったならば、あたたかく迎え入れてほしいと。
 それぞれにそれぞれの声で、了承を返す精霊たちへ再び感謝を捧げ、オデットは墓の周りへ持ち込んでいた福寿草の種を巻いた。寒さに強く、春を告げてくれる花だ。同じ福寿草のなかでも、特に寒さに強い、黄色い花弁が愛らしい品種にした。きっと春になったらここは、喜びであふれるだろう。
 横たわった遺体へ、フーガはせっせとエンバーミングを施していく。皮肉にも大寒波が過度の腐敗を妨げてくれた。なので、フーガは土気色になった肌へ紅をさし、生前の姿を思い起こさせるかのようなメイクをしていく。ついでに歯車兵もできうるかぎり組み立てた。
「彼らもさ、ばらばらのまま打ち捨てられるなんて、可愛そうだろ。それに、たぶん、この壊れ方は、身の危険を鑑みず脅威へ立ち向かったからなんだ」
 歯車兵すら慈しみながら、フーガは遺体の口や鼻へ栓をし、異臭が漏れ出るのを防ぐ。すでに魂がないとしても……こんなに固く凍りついた無惨な姿は、フーガの胸へ迫った。
「ごめんな……ずっと放っておいてしまって……痛かっただろう、寒かっただろう、寂しかっただろう……」
 フーガが死者へ寄り添うならば、埋葬をするのは沙耶の役目だ。
 軽く黙祷をし、遺体を雪風の掘った穴へ安置し、土をかぶせていく。
「再び荒らしてしまって申し訳ない……今度こそ、安らかに眠っていてくれ……君たちの無念は、私達が晴らすから……」
 そうだ、そのとおりだ。元凶はいまだ健在。今回の依頼は、突然奪われた命と生活の、あとしまつ。すなわち、事態はなんら好転していないのだ。沙耶は新たに心へ決めた。魔種グラリオットを倒すと。
 きれいな字で墓碑へ名前と生年月日を刻み続けていたベルナルドが、のびをした。遺体はほぼ埋め終わり、残りも土饅頭を作り、墓碑を埋めるだけだ。彼は墓碑銘を刻む傍ら、スケッチで生前の彼らの笑顔を描き、死者の胸へ持たせてやっていた。
「そろそろ身ぎれいにしとくか? 死者を送るのに、泥だらけ血まみれなんて、格好がつかねえからな」
 彼はそう言いながらぴかぴかシャボンスプレーを取り出した。是認がそれを使い清潔になったのち、一同は並んで墓で埋め尽くされた広場を眺めた。魔種、たった一体で、これほどまでの被害をだすことができる存在。打ち倒さねばならない、滅ぼさねばならない。皆の心へその誓いが沈んでいく、胸の奥底でそれは凝固し、希望への宝石へと変じた。
「アンタ達が大切にしていた少女は生きてるよ。だからどうか、安らかに」
 語りかけるベルナルドの隣で、ファニーは毒づいた。
「グラリオットの行方を捜さねぇとな。食い散らかされた奴らと……アリョーナの両親の敵討ちだ」
 ひときわ強い寒風が吹きつけた。動じてなるものかと、ファニーは両足でしっかりと大地を踏みしめた。

成否

成功

MVP

結月 沙耶(p3p009126)
少女融解

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

戦闘が薄味になっちゃいましたが、実際は激しかったです。
MVPは非戦による索敵で、道中の損耗減少へ大きく貢献したあなたへ。

またのご利用をお待ちしてます。

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