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シナリオ詳細

<ジーフリト計画>Ihr Schwächlinge, holt eure Waffen

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●我々には銃が必要だ
 白く霞む空とちらつく雪。そして陰鬱な低気圧。
 嫌になるような空に、黒い柱が上がっている。正確には黒色火薬を用いた燃焼反応であり、視界を遮るほど黒い煙はその特徴と言えた。
 防寒着と呼ぶには粗末な服を纏った鉄騎種の男は、そんな風景を見上げる。
「お前、笑ってるぞ」
 ターバンのようなものを頭に巻いた男からそう言われ振り返ると、その男の口元にも笑みが浮かんでいた。
 男は自らの口元に手を当てる。
「そりゃあ……当然だろう」
 ここはサイト・アハトアハト。
 帝国陸軍武器保管庫の有する武器保管施設。
 そして彼らは、革命派に命を助けられた難民たちであった。

 ルベン地下に眠るフローズヴィトニルの欠片を争奪する戦いが起き、また拠点とする革命派難民キャンプでも新皇帝派による襲撃が起きている。
 ルベンには精鋭たちが、難民キャンプには常駐した僧兵と新たに製造した歯車兵たちがあたり、どちらも戦力的には対応可能であると言われている。
 両面作戦を強いられることは革命派にとってつらいことだが、これは逆に見れば新皇帝派にとってもつらい状態と言えるだろう。
 特にルベンに主力を割いているグロース師団などは、その隙ができる頃だろう。
 そんな中で、立ち上がる者たちがいた。
「俺らが今生きているのはあの人たちのおかげだ。けれど、恐怖に震えてギアバジリカの中に閉じこもり続けるだけではいけないんだ」
 新皇帝派に息子を殺された男は薪割り用の斧を手に取り、鋼の腕に力を込める。
「自分達の家族に最も高い値段をつけるのは、私達自信だ。私達が弱かったから、奪われるしかなかった」
 新皇帝派の放ったモンスターに妻を食われた老人が、ペンダントを握りしめて空を睨む。
「強ければ何をしてもいい。確かにその通りかもしれない。僕たちが弱かったから奪われた。確かにその通りだ。ローレットに守って貰えば、それは安全なのかもしれない。けれど僕たちが強くなれば……」
 家族を失い一人だけになった少年が、貰ったお菓子の包み紙をポケットに大事そうにしまう。
「僕たちこそが、『力』になるんだ!」

●都市警邏隊
「首都へ革命派が大規模侵入だと!?」
 帝国陸軍参謀本部。グロース・フォン・マントイフェル将軍がルベンへと出立した今、この場を守っていたヘルマン大佐はテーブルを強く叩いた。
 もみあげから顎まで金毛の髭が繋がった毛深い男で、『金の鬣』という異名を持つ彼は陸軍のネームドだ。
「都市警邏隊は何をやっていた!」
 キッとにらみ付けると、ヘルマンの強い視線とは裏腹にゆっくりと葉巻の煙が天井へと上っている。
 それしか動きが見えないほど、アレクセイという男は落ち着いて見える。ヘルマンは獅子の如く歯を見せ、怒りを露わにする。
「都市の防衛は都市警邏隊の役目であろう!」
 アレクセイが管理する『都市警邏隊』はあくまで通称である。というのも、新皇帝バルナバスが即位してから軍は分離しその命令系統は有名無実化していたためだ。
 参謀本部はグロース将軍のもと新皇帝派によって確保されているため、本来なら新皇帝派に背いたアレクセイがこの場に立つこと自体ありえないが、ヘルマンと旧知であった彼は裏口から彼の執務室に招かれていた。
「『武装をせぬ一般市民の行列を撃つ』ことは都市警邏隊の役目ではない」
 灰皿に葉巻を置くと、アレクセイは煙を吐き出しそう返した。執務室に響く声に、その場に同席した将校たちが嫌な顔をする。
 今日、突如似して首都に対する『行進』が行われた。
 武器も防具も持たぬ彼らは見るからに一般市民であり、胸にはクラースナヤ・ズヴェズダーのロザリオに似た木製の飾りを紐に通してさげている。
 彼らが革命派の難民たちであることは明らかだったが、証拠らしい証拠はない。
 そしてなんとも厄介なことに、彼らは一切の主張もせず声もあげることなく、ただ静かに行進するのみなのである。
「軽機関銃を右から左に掃射すれば済む話ではないのかね」
 将校の一人が苦虫を噛みつぶしたような顔で言うが、アレクセイはその表情をまるで変えない。軽口だと分かっているからだ。代わりにヘルマンが苦々しく答える。
「彼らは今のところただの帝国市民だ。『ただ歩いている帝国市民を発砲する理由』が我々にない。もしそれを許可すれば、同じような市民を全て虐殺して回る必要が出てしまうだろう」
 とは言ったものの、これがグロース将軍であれば虐殺を命じたかもしれない。
 一方ヘルマンは慎重で、そして理性的な男で知られる。怪しいから、危ないからという理由で発砲命令を下す男ではなかった。
「本当に彼らが武装し決起したのなら、そこからは私の仕事だ。現地へ行かせて貰う」
 アレクセイが席から立ち上がる。彼を止める者はなかった。
「もし決起したなら、どうする」
 ヘルマンの問いかけに、アレクセイは背を向けたまま足を止めた。
 ほんの僅かな沈黙の後。
「その時に考えるとしよう」
 彼が扉を出て歩いて行く足音だけが、沈黙の執務室に響いた。

●反抗の狼煙
 グロース師団によって防衛される帝国陸軍武器保管庫の一つサイト・アハトアハトを襲撃する作戦が決行された。
 これまでローレットやクラースナヤ・ズヴェズダーによって守られてきた革命派難民キャンプの一般市民たちが、自らも戦いたいと立ち上がったことにより起こったものである。
 難民たちは決起しつつある。だが彼らが手にしているのは薪を割る斧や雪を払うスコップのみ。故に、彼らには武器が必要なのだ。
 戦うための最後のピース。つまりは、『銃』が必要だ。
 クラースナヤ・ズヴェズダー革命派を纏める大司教ヴァルフォロメイは、集まったローレット・イレギュラーズの顔ぶれを確認し頷いた。
「そのために襲撃するのがサイト・アハトアハト。
 防衛戦力はグロース師団の将校と強化天衝種たちだ。
 お前さんたちの仕事はこの戦力を排除し、難民たちが一斉に突入する道を開くことにある」
 突入した難民たちは武器を奪い、巨大な力とするだろう。
「彼らが決起する力を得るかどうかは、この作戦にかかっている。頼んだぞ」
 ヴァルフォロメイはそう述べると、折りたたみ式歯車兵たちの展開を命じる。
 作戦が、始まろうとしていた。

GMコメント

 サイト・アハトアハト襲撃作戦が決行されました。
 新皇帝派の武器庫を襲撃し、難民たちが戦うための武器を手に入れます。

●フィールド
 このシナリオで担当するのは『中央突破』です。
 バイクやジープといった乗り物を使い、破壊したゲートを突っ切って敵兵力を蹴散らしながら突き進みます。
 皆さんを先陣として、歯車兵や僧兵たちが後に続き施設をクリアしていくでしょう。
 難関となるのはこの施設の防衛戦力として常駐している強化天衝種たちです。
 シナリオ前半は騎乗しての中央突破。
 シナリオ後半は強化天衝種及びネームド軍人たちとの激戦。
 といった内容になると思われます。

●エネミー
・グロース師団兵
 この施設を防衛しているグロース師団の兵たちです。
 小銃などで武装しこちらを撃退しようと襲いかかってきます。
 主にシナリオ前半で騎乗しながら突っ切る時の敵となるでしょう。

・EXラースドール×複数
 装甲と武装を拡張された天衝種です。
 元は古代遺跡から出土したパワードスーツに怒りが宿り動き出した怪物で、非常にタフな体力と怪力。そして銃器を扱う汎用性をもちます。

・バルドール中佐
 サイト・アハトアハトの防衛を任されている将校です。
 個人戦闘力も高く、グロース将軍に忠誠を誓っています。

・バルドール隊・精鋭
 部隊の精鋭にあたるチームです。一般のグロース師団兵とは一線を画した戦闘力を持ちます。

●補足
 鉄帝軍に所属するアレクセイ率いる都市警邏隊が出動しています。
 都市警邏隊は都市の一般市民がモンスターや暴徒に襲われた際などに市民を守るために独立して機能しており、今回のように市民がただ基地の周囲を行進しているだけの状況には手を出しません。
 また、アレクセイはグロース将軍に対して(完全な敵対といわないまでも)反抗的な意志を見せており新皇帝派には属していません。
 彼は国が割れ、破壊されてしまう事態を危惧していましたが、実質的に無政府状態となった今どのように国を守るべきか決めあぐねているように見えます。
 彼は『国家の味方』であると同時に『国民の味方』でもあるのでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <ジーフリト計画>Ihr Schwächlinge, holt eure Waffen完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月13日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
シラス(p3p004421)
超える者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

リプレイ

●力の代行
「へえ、完成してたのか……エクスギアとその拡張パーツ」
 棺型の強襲装備からタイヤとハンドル、そしてシート部分が展開し、ボディがスリムに畳まれる。
 まさに魔導バイクと言った様相に変化したそれに跨がり、『竜剣』シラス(p3p004421)はアクセルをふかした。ギアバジリカ同様のスチームが吹き上がり、エンジン音が獣のように唸る。
 その後ろでは、まるでバリケードのようにただ列を組む民衆の姿がある。彼らは腕を組み合い、何も主張すること無く立っている。シラスたち革命派に助けられた難民たちだ。
 その姿をちらりと振り返り、心の中で呟く。
(彼らが銃を持つ必要は……今はない。俺たちが戦える間は、そうするべきだ。もし戦わなきゃあいけなくなるなら、それは『最後の切り札』になるべきだろうな)
 誰かがこんなことを言った。
 銃は最後の手段だ、と。
 もし自分達イレギュラーズの力だけで新皇帝派の軍を抑えきれなくなった時、民衆に自衛能力がなければただ虐殺されるだけだ。銃は、やはり必要なのだ。
 そしてもし決起したのだとしても、山ほどの死者を出すような事態にはしたくない。死は多くの禍根を残すだろうから。
「――作戦開始。突っ込むぞ」
 吠えるバイクのエンジン音が、八つ重なる。

 白と黒に彩られたバイクの側面にはクラースナヤ・ズヴェズダーを示すマークが大きく描かれ、灰色の髪をなびかせる『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はやや前傾姿勢でそのバイクに跨がっている。
「止まれ!」
 声を張り上げこちらに小銃を向ける兵士の姿が見える。戦闘に適したパッドを軍服の上から纏いヘルメットを被った兵士だ。
 ルブラットは止まるどころか加速をかけ、相手の射撃を激しい蛇行によって回避する。
 そして並ぶ倉庫の曲がり角を透視能力で見通すと、壁を駆け上がるほどの勢いでカーブした。
 曲がるためだけの透視、ではない。曲がり角から出た瞬間を狙った敵兵に先手を取るための透視だ。
「――」
 片手で抜いた無数のメスは、しかし医療用のものではない。黒くつや消しされたそれは、暗闇に紛れて人の命を奪うためのもの。
 一振りで投擲したそれらが兵の喉と腕、そして肺や心臓といった急所部分に刺さりたちまちに無力化していく。
(人の命は容易に失われる。戦うと言うことは、死を容認することでもあるはずだ……)
 ルブラットは兵たちをすり抜けるように走ると、壁から地面へと移りそのまま兵たちを置き去りに走り抜けていく。
(民たちを前線に立たせることは、私も望まない。死ぬために治療したわけではないのだ。だが、彼らが戦おうと意志を示すなら、否定するのもまた傲慢……なのだろうな)
 本音と建て前はやはり別だ。
 ルブラットはならばと、その中間を目指そうとした。
 自らが率先して戦い、後ろに築かれるかもしれない死を減らす。
 それが『血の色に意味をもつ』ことなのだろう。

 爆発によって乱れ、ドラム感に立てかけられる形となった板。それをジャンプ台代わりに駆け上がり、ブルーカラーのバイクが跳躍する。
 車体に跨がっているのは『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)だ。
 ウサギのようなブレードアンテナのたったヘルメットの奥で、ギラリと黄金に目が光る。
 彼の纏うブルーのコンバットスーツは、それまでのスーツと大きく雰囲気を変えていた。
 肩や胸、額や腰に焔が込められたようにぶわりと光り、彼の闘志を思わせる。
「難民の皆さんが戦う……正直言って、諸手を挙げて喜べるようなことではないであります……。
 それでも。彼らがそうしたいと望んでやることであれば、全力でそれを助けるのみであります……!」
 着地と同時に激しく円を描くように車体をスライドさせ敵兵を蹴り飛ばす。
 ムサシは倒れた敵兵をちらりとだけ見ると、そのままにして走り出した。
「先陣、重要でありますね。難民の皆さんを楽にするためにも……自分達が頑張らねば!」
 倉庫と細い通路が並ぶエリアを抜けた彼らは、車体を一度手放しそこへ駆けつけた『オリーブのしずく』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)のドレイクチャリオッツと合流した。
 馬車部分へと乗り込み、ムサシは自らのマフラーに手をかける。
 『ブレイ・ブレイザー』と呼ばれたそれは、引き抜くと炎の剣へと姿を変えた。
 同じくシラスやルブラットたちも車体を捨て馬車に乗り込み、それぞれが身構える。
「飛ばすよ、準備はいい!?」
 御者台で鞭を振ったフラーゴラがドレイクを走らせると、正面の広い通路からパワードスーツを纏った敵兵が姿を見せる。
「ゼタシウム・ストリーム!」
 腕を交差させ光線を放つムサシ。
 それを大きな盾を翳し、防御を固める敵兵。光線をギリギリで受け止める――が、フラーゴラはそんな敵兵めがけてドレイクをおもむろに突進させた。
「――ぬお!?」
 派手に転倒する敵兵。後続の馬車に轢かれることをさけるべく転がって退避した隙に、フラーゴラは強引にその場を突破した。
 フラーゴラはあちこちであがる黒煙を見た。
 こっそりと動くクラースナヤ・ズヴェズダーの僧兵たちが基地を混乱させるためにあちこちで爆発を起こしているのだ。
 武器庫で爆発など冗談ではない。グロース師団の駐留戦力はあちこちに散らされていることだろう。
(戦うための武器を手にする……アナタたちが望むのならワタシはそれを手伝う。
 だってワタシだってただの恋する乙女じゃないもの)
 死ぬことや散ることを肯定したいわけじゃない。
 戦うこと、生きること、そしてつかみ取ることを肯定するのだ。
 自分がそうやって、生きてきたのだから。
 自分がそう望んで、武器をとったのだから。
「望んでこの道に来たの。だからどうか彼らに祝福を」
 進路を遮るように十字路からジープが姿を見せ、装備された機銃がこちらを向く。
 フラーゴラはライオットシールドを翳して銃撃を耐え凌ぐと、あえてドレイクたちに加速を命じた。
 急速に距離が詰まり、機銃を操作する敵兵が緊張した表情を浮かべたことまでわかる距離までやってきた――その瞬間。
 ギュオン、とタイヤを滑らせる音と共に交差路に一台の装甲蒸気車両が姿を見せた。セント膿瘍の蒸気車両でモデル名は『グラードⅢ』。
 運転しているのは、『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)だ。
「よく引きつけた、フラー」
 エクスマリアは底上げしたアクセルペダルを踏み込むと、ハンドルから離した片手で『アイゼン・シュテルン』の魔術を発動させた。
 短く切りそろえた金髪がふわりとゆれ、手袋に施した刺繍が黄金の輝きをあげた。
「自ら立ち上がり、進むというのなら、それを止める言葉は、ない。
 目指す敵が同じなら、道を開く手伝いもしようとも」
 無防備な方向から打ち込まれた魔術砲撃によって車体もろともひっくりかえったジープ。
「蒸気車両、か。練達で、似たようなのが走っているのを見たり、壊したりしたが、一度自分で動かしてみたかった。中々気持ちがいい、な」
 煙をあげる敵車両をよそにカーブをかけ、フラーゴラのチャリオッツと並んで車両を走らせるエクスマリア。
 エクスマリアが助手席に載せているのは『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)である。
「運転は、任せろ。攻撃をしのげるか」
 ハンドルを握ったままのエクスマリアの問いかけに、ヴァレーリヤが『ええ』とまぶたを僅かに下げて応えた。
 前方にジープが更に二台。こちらの行く手を塞ぐように側面方向を向けて停車すると、備え付けた機銃をこちらに向けて撃ちまくってくる。
 エクスマリアの車両には武装はないし、なんなら防御手段もそれほどない。戦闘用車両なので頑丈だが、機銃に晒され続ければ穴だらけになるだろう。
 が、そこはやはり混沌世界で戦い慣れたイレギュラーズたちである。
 ヴァレーリヤが助手席の扉を蹴り開けると、ルーフパネルに手をかけ勢いよくルーフ上へとよじ登った。
「『主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる』――」
 聖句を唱え、手を前に翳す。炎の壁が出現し、撃ち込まれる銃弾を自らで吸収した。
 ヴァレーリヤの全身にダメージがフィードバックされからだのあちこちから血が吹き出るが、ヴァレーリヤの姿勢は揺るがない。
「急ぎましょう! 敵の主力が戻ってくるまでが勝負でしてよ!」
 止まらないエクスマリアやヴァレーリヤたちに焦りを見せる敵兵。射撃を集中させようとする彼らに、ヴァレーリヤは追撃をしかけた。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』――!」
 その聖句によって放たれる技は、クラースナヤ・ズヴェズダーでもよく知られている。いや、鉄帝でと、ないしは世界でと言い換えても過言でないほどにはくり返された祈りの言葉だ。
 そしてそれらは、総称してこう呼ばれる。
 ――『太陽が燃える夜』、と。
 振り下ろすメイスから放たれた炎がジープの一台を飲み込む。
 衝撃が走り、まるで暴風に晒されたかのように車体がひっくり返り滑っていった。
 もう一台のジープで機銃を撃っていた兵が焦ったように振り返るが……それは迂闊としか言えなかった。
 エクスマリアの車両の後ろからスッとスライドするように姿を見せた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)から注意をそらしたのだから。
(市民の大規模な武装……益々無政府状態に近づいているな。行きつけばいずれは……)
 跨がっていた陸鮫に加速を命じ、先頭へと進み出る。
(いや。彼らに身を守るなと言う資格は私にはない。
 我々が守りきれなかったが為に、今があるのだから)
 エッダ同様走行によって頭部やボディを覆った陸鮫には、エーデルガルト騎士団の紋章が輝いていた。
 もはや戦闘装甲陸鮫とでも言うべきそれがジープへ激突し、車体側面のフレームを歪ませる。
 その強引なまでの突進によって大きくスライドした兵が「慌てて南部軍か!?」と叫んだのは、それだけエッダの顔が知られていたためだろう。が、同時に彼女がローレット・イレギュラーズであることも知られていた。すぐに敵兵は彼女が革命派の依頼に応じたイレギュラーズとして活動していることを察し、後方に向けてよびかける。
「ここからは私が先陣をきる。障害の排除は任せた」
「任されたよ」
 そうハッして飛び出したのは『革命の用心棒』ンクルス・クー(p3p007660)だった。
 陸鮫のタンデムシート(?)から敵車両へと飛び乗ったンクルスは、咄嗟に相手がコンバットナイフを抜くのを視界にとらえる。
「正直難民の皆が戦うのは心配だけど……自主的に立ち上がろうとしてるなら私も手助けしなきゃだね!」
 振り込まれるナイフを手首ごとがしりと掴み、続けて相手の襟首を掴んでねじり上げる。
「皆に創造神様の加護がありますように!」
 その小柄な体格からは想像もできないようなパワーでもって、兵士の身体は宙に浮いた。
 おそらくは背負い投げなのだろうが、かけたパワーゆえに放物線をえがいて発射されたような形となった兵士が倉庫の壁に激突して転げ落ちる。
 伊達に『革命の用心棒』と呼ばれたわけではないのだ。ンクルスはキラリと目を光らせると、後方から続いて走ってきたエクスマリアの蒸気車両へと飛び乗る。
 開かれた扉から滑り込むようにシートへ納まると、フウと息をつきすまし顔で乱れた前髪を指で整えた。
「ラースドールの起動音が聞こえたよ。道なり直進。このまま行こう」
「了解した」
 エッダを先頭にした矢尻のような陣形が組まれ襲いかかる敵兵たちを次々にはねのけ突き進む。
(こんな様で何が大佐だ……)
 エッダは自嘲気味に心の中で毒をはくと、拳を覆った鋼のグローブで飛び出してきた敵兵を殴り飛ばした。

●バルドールの受難と後悔
「はあ!? 冗談じゃないぞ! 革命派はルベンと拠点防衛に集中してるんじゃなかったのか!」
 髭を生やしやや小太りな体型をした男が、狭苦しい執務室でテーブルを叩いた。
 彼はバルドール・ドロンガノフという。鉄帝国陸軍の中佐にあたり、サイト・アハトアハトの防衛を任されていた男だった。
 彼にとってこの地位を掴むことは簡単ではない。実力主義の鉄帝国において手柄をあげることは難しくなかったが、そう簡単に死なない上官たちを押しのけて上へ行くことは難しかったのである。
 闇討ちやスキャンダルといった様々な手を使って少尉程度の地位までは昇れた彼は、そこから伸び悩んだのである。
 だがそんな彼に転機が訪れた。長らく敗北はありえないとまで言われた皇帝ヴェルスが、突如として現れたバルナバスに敗北したのである。
 この天災とすら言える事態に軍部は混乱し、魔種につくなどありえないといって独立を表明したアレクセイのように軍から抜ける者が続出したのである。ザーバ率いる南部軍はその統率故に本軍を離れ、いよいよ『上官不足』になったところでバルドールのスピード出世が引き起こされたのである。
 一方で参謀本部のグロース将軍は『黒百合の夜明け団』や『大回天事業サーカス団』など怪しげな団体を引き入れることで戦力を補強し、更に国中に放たれた天衝種を兵力に加えたことで他派閥を押しのけるだけの武力を整えていた。
 バルドールはそれまで持ったことがないほど大きな武力と地位を、この短い間に手に入れたことになる。
「ラースドールはどうした。既に起動させたのだろう?」
「はっ」
 踵をつけ敬礼の姿勢をとる下士官が緊張気味に背筋を伸ばす。
 ローレットの精鋭チームが攻撃をしかけることを想定して、グロース将軍から強力に拡張されたラースドールを何隊も配備してもらっている。
 個人戦闘力に優れたバルドールから見ても頼もしい戦力だ。が、下士官の表情はすぐれない。
「時間稼ぎには、なるかと」
 バルドールは畜生めとはきすて、そばに立てかけるように置いていたライフルを手に取る。
「出られるのですか」
「当然だろうが! ここを落とされれば私も貴様も殺されるだけでは済まんぞ!」
 どうなるのか想像できたのだろう。下士官の男もびくりと肩をふるわせる。
「フル装備で迎え撃て。どんな手を使ってもいい!」
「は!」
 下士官は勢いよく叫ぶと、執務室を飛び出していった。
 バルドールは一人残され、ライフルを見つめる。
「そうだ。どんな手を使ってでも……」

●暴力
 ギュラッ――とキャタピラが地を噛む音がした。
 途端に突進をかけたEXラースドールが、スパイクのついた肩部装甲を突き出した姿勢でショルダータックルを仕掛けてくる。
 迎え撃つのはエッダだ。ファイティングポーズのような姿勢をとってタックルを鋼の手甲でうけると、身体を器用にひねって突進の力を受け流しにかかる。
 踏み込みとひねりと、そして熟達しきった技によって受け流されたEXラースドールはややカーブを描いてエッダの側面をすり抜け、一方のエッダはぎゅるんと回転し衝撃を逃がす。
 足首をやらぬように踵を軸に回転した彼女は別の踵でブレーキをかけ、こちらへターンしてくるEXラースドールに向き直る。
 再びのタックルを仕掛けてくるのだろうが、エッダも伊達に場数を踏んできたわけではない。
 自らもまた突進し、相手の腰から下へとパンチを繰り出す。アメリカンフットボールに代表されるように腰から下のタックルは姿勢を壊されやすいものだ。それもエッダの扱う徹甲拳によるものであれば。
 突進力を殺されたEXラースドールは派手に転倒し、そして己の失敗を悟る。『今度こそは』と同じ手を使えば、対応されて然るべきであると。
 そして対応された後に待っているのは――。
「どっせえーーい!!!」
 建物の上から跳躍し、メイス――『天の王に捧ぐ凱歌』を振り上げるヴァレーリヤ。
 太陽の如くギラリと光るそれには、『前進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん』という聖句が刻まれている。
 重力までもを味方に付け、EXラースドールの中核とおぼしき部分へと叩き込まれたそれはパワードスーツの装甲部を派手にひしゃげさせ、中核を装甲もろとも破壊したのだった。
 内部に溜まった怒りのオーラがボンッと爆ぜるように噴き出し、穴の空いたパワードスーツだけが残る。もくもくと煙をあげるそれをよそに、ヴァレーリヤは器用にもメイスをくるりと手の中で回転させキャッチしなおした。
「動くな!」
 警告と共に突きつけられた銃口に、ヴァレーリヤたちは振り返る。
 小太りな将校、バルドール・ドロンガノフ中佐とその精鋭部隊が陣形を組み現れたようだ。
 誰もが隙を見せず、いかにも攻めづらい陣形を作っている。グロース将軍にこの施設の防衛を任されるだけの戦闘力はあるということだろう。
 エッダが相手を挑発するかのように手をかざす。
「何が力が全てか。
 軍人が思想と行動を繋げるな。軍人はただの装置だ。国家と民族の保全の為に統率され動く暴力装置だ。貴様らのそのちゃちな思想の為に振るう力ではない。軍学校で何を学んできたのだ? 中佐。
 徒に混沌を撒き散らす貴様に軍属を名乗る資格などない」
「フンッ、貴様こそローレットでメイド遊びなどしておいてよくいう! 敵国に味方するのは楽しかったかエーデルガルト」
「貴様は三つ間違えている。が、指摘するのも煩わしいな……」
 エッダはそれ以上の追求をバルドールへ向けなかった。ここは自分の突出すべき幕ではないと踏んだためである。あえて戦力に徹することにしたようだ。
(これで良いのだろうか。ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ。
 これは、お前の望んだ革命ではないだろう?
 現実はいつも理想のようにはいかないな。
 仕方ない。今は、今残っているものを守る為に、できることをしよう)
 望む形にはならなかった。それは、バルナバスが皇帝となった瞬間からおよそ決まったようなものだ。
 ンクルスは同じように前へ出ると、精鋭の一人が対抗するようにズイッと前へ出てきた。
 両手に革のグローブをしてサングラスをかけた軍人だが、武器は手にしていない。
 この場合、肉体そのものが武器というわけだ。
 ならばとンクルスはダッシュをかけた。
 相手もまたこちらへと突っ込み、互いに手を放つ。
 達人同士が見せる柔道の試合のように、相手の腕と腕が牽制しあうように交差し、時には視線でブラフをかけるかのように小刻みに動く。
 余人が手を出せるような状況でも間合いでもない。この半径数十センチがンクルスたちの戦場であり、制した者が前衛を食うことになる。
 最初にンクルスの袖をつかみ取ったのは相手の兵士のほうだった。
 強引に引き寄せられ、襟首を掴んで投げられる。視界が縦に180度以上回転する感覚を味わいながら、ンクルスはしかし身をねじってズダンと脚から着地した。
「なッ――!」
「防御には、自信があるんだ」
 相手の手首を逆につかみ取り、しっかりと固定する。それはさながら相手を後ろ手に拘束したような形となり、敵兵は自らが無防備な姿勢へ誘導されたことを悟った。
 しまったと口にする暇は、もはやない。
 エクスマリアが手を翳し、織り込んだ黄金の髪を輝かせている。
「機械の疾走も、中々に爽快、だった」
 言葉にできぬような音と共に黄金の魔方陣が広がり、大きく見開かれた青い目が焦りに顔を歪める敵兵をとらえる。
「今のマリアは、運び屋。地獄まで、送ってやろう」
 発射した黄金の光は螺旋を描き、無防備となった敵兵の腹を食い破る。
 悲鳴をあげる敵兵をフォローするように、刀を抜いた兵が進み出た。
 エクスマリアはキュッと手首の角度をかえることで光の螺旋をカーブさせその兵へと攻撃を移動させる。
 腹を貫いた形となった光の螺旋が迫ったことで、先ほど刀を抜いた兵は刀を叩きつけることで攻撃を防御しにかかった。
 が、それが失策だと知ることになる。
 ムサシがレーザーソードに火焔を燃え上がらせ、大上段に構えていた。
「ブレイジング……マグナァァァァァムッ!!!」
 エクスマリアの砲撃だけでも常人が消し飛んでしまうほど高威力なのだ。そこへムサシのブレイジングマグナムがあわさるとどうなるか。火を見るより明らかである。
 黄金と紅蓮が十字に交差し、なんとか防御しようと刀を翳した敵兵が火花をあげて吹き飛んでいく。
 それだけではない。追撃とばかりに連続して放たれたビームリボルバーの銃撃が突き刺さり、更に刀を粉砕したエクスマリアの魔力までもが敵兵の身体を貫通していく。
 その、次の瞬間。バルドールの放ったライフル弾がエクスマリアへと高速で迫った。
 ハッとして視線を向けるエクスマリア。回避が間に合うスピードではない。
 ダメージを覚悟したその時。白い閃光が横切った。
 ……否。フラーゴラが弾丸のごときスピードで横切り、銃弾を蹴り飛ばしたのである。
 ギィンという非常識な音と共に吹き飛んだ弾が倉庫の壁にめり込み、舌打ちしたバルドールがライフルを連射モードにして撃ちまくる。
 フラーゴラは翳したライオットシールドで弾をうけながら突進。
 その距離が縮まった――と見せかけて、絶妙な距離でフラーゴラがブレーキをかけた。
 近接戦闘に備えて武器を持ち替えようとしていたバルドールがびくりと腕をとめる。
 その隙を、シラスとルブラットは逃さなかった。
 フラーゴラを盾にする形で共に接近していた二人はそれぞれ左右から回り込むように躍り出て、バルドールへと襲いかかる。
 シラスか、ルブラットか。どちらを狙うか迷ったバルドールは最も脅威に感じたシラス側に短剣を投擲し片手でルブラットにライフルを撃とう――として、失敗した。
 ルブラットはつや消しされた鋭い棒状の暗器を投擲しライフルの銃口に無理矢理詰めていた。バガッと上下に破裂する形で壊れるライフル。
 一方でシラスに投擲した短剣はシラスがぱしんと両手で挟み込むようにしてキャッチしていた。
 二人の接近を阻めなかった時点で、バルドールの敗北である。
 シラスの蹴りとルブラットのミゼリコルディアがそれぞれ直撃し、痛みに呻いたバルドールへトドメの一撃が繰り出される。
 そう、それまで力を溜めていたヴァレーリヤによる必殺の一撃。通称『太陽が燃える夜』。
 唱えた聖句に伴うように炎が波を打ってはしり、バルドールを飲み込んで行く。
 半身を焼かれ倒れたバルドールは、無事な方の手を翳し叫んだ。
「待て! 難民どもがどうなってもいいのか!」

●アレクセイと都市警邏隊
 バルドールの言葉は、シラスたちの動きを止めるに充分であった。
 というのも、バルドールの親衛隊やラースドールたちは倒され、残るは半焼したバルドールのみ。
 他の兵たちが集まってくる可能性がなくもないが、戦闘に加わるより早くトドメをさすことは容易っであったためだ。
 その一方で、バルドールの放った言葉の意味を考え、迂闊に動くべきでないとも思えたためである。
 引きつったように笑みを浮かべ、這いずるようにシラスたちから距離をとりはじめるバルドール。
「知ってるぞ。施設の周りを行進している連中は難民共だろう?」
「あの方々に手を出すつもりか!」
 ムサシが激昂しビームリボルバーを握りしめるが、バルドールは笑みを深くする。
「それは貴様等次第だな。俺の兵が外を歩く難民共に銃を向けている。命令一つで右から左へ掃射する。どれだけの人間が死ぬだろうな」
 ルブラットがムッと小さく唸った。
「この俺を逃がせ! 逃亡用の脚を用意し安全を確約しろ!」
「…………」
 エクスマリアは手を翳したが、それをフラーゴラはさげるようにジェスチャーした。
「……いいのか?」
「今は待って」
 小声で囁きあい、フラーゴラはあらためてバルドールのほうを見る。
 自身が優位にあると感じたのだろう。バルドールは安堵したように身体をおこし、立ち上がった。このような状態でも立ち上がれるというのは、さすが中佐位につくだけはある。
「それが貴様等の弱点だ、イレギュラーズども。良い身分だな。貴様等は確かに強者だが、難民どもは貴様等に守られなければ死ぬしかない。こうして人質にとれば貴様等も動けなくなる。助けを求めた連中を片っ端から受け入れればそうなるのだ。弱肉強食のルールに反するからこうなるのだと知るが良い!」
 優位に立った途端に饒舌になるバルドールだが。エッダが耐えかねて何かを言おう……としたところでエッダの肩をポンと後ろから叩く者があった。
 仲間の誰でもない。少なくとも敵ではないと分かっていたエッダは、誰何を確認して目を細めた。
「……アレクセイ殿」
「エーデルガルト殿。ここは任せてもらえるか」
 一秒ほどの沈黙の後、こくりと頷くエッダに頷き返し、彼……アレクセイはイレギュラーズたちの間を抜けるように前へでた。
 バルドールも当然彼を知っているようで、火傷をおった顔でにらみ付ける。
「アレクセイ。今更援軍に来ても遅いぞ。何をやっていた」
「援軍。それは誰のだ?」
「は?」
 バルドールがアレクセイとイレギュラーズの顔を交互に見て、そして憎々しげに叫ぶ。
「ローレットの側についたのか貴様!?」
「勘違いをするな。我々軍人は常に国家体制の味方だ。軍閥などというものがあるが……本来我々軍に派閥などない。そんなことをするから国が割れるのだ」
「ならば何をしに来た!」
「だから、言っているだろう。国家体制の味方をしにきたのだ」
 取り出した葉巻。先端を切り、強めのジッポライターで火を付ける。それをくわえ、やや乱暴に煙を吸い込んだ。
「周囲に展開した貴様の兵は全員拘束した。無抵抗の民間人に銃を向けるなど、軍人のすることではない」
「奴らは反体制ゲリラだろうが!」
「そうなる可能性があるだけの人間に過ぎん」
 最後の一言だけは本心ではない……ように、はたから聞いていたヴァレーリヤには思えた。
 崩れ落ちるように膝をつくバルドール。
 そんな彼をムサシたちは拘束し、一方でフラーゴラたちは物資の積み込みを開始する。
「アレクセイ大佐」
 シラスが睨むようにアレクセイを見た。
「難民の一部が武装を希望している。
 分かるよな、軍人(アンタら)が役割を果たしていないからだ。
 死ぬ気でなんとかしろ、もうなりふりを構うな、力を貸せ。
 この先は一歩違えたらもう地獄だぞ」
「もう既に地獄だよ、シラス殿。見ろ、国がビスケットハンマーを落としたかのように割れている」
 茫然自失となったバルドールを葉巻をもった手で示し、アレクセイはため息をついてみせた。
「くり返すが……我々は新皇帝派にも、革命派にも味方はしない。あくまで国家体制の味方である。そういう意味では、エーデルガルト殿、貴殿とも違うな」
「……」
 それまでのなりゆきを見守っていたエッダが『フン』と小さく返し、物資の積み込み作業へと移った。
 外で待機していた難民たちが次々に入り込み、周囲の車両を奪って物資の積み込みを始めている。
 具体的な数はかぞえていないが、とんでもない数の銃が手に入ることになるだろう。
 その様子を眺めながら、アレクセイは苦々しい口調で言う。
「武装を希望しない民などいない。そして認めねばならない。我々軍はその能力をもはや喪失した。この国家はいま、自衛力をもたないも同然なのだ」
 アレクセイの都市警邏隊がどれだけ奮戦しても止められない。そう、彼は案に示していた。
 ならば、とルブラットが両手を広げ歩み出る。
「見たことがあるかね? 変革と救済を望む民衆の姿を!
 我々が無闇矢鱈と煽動したのではない。彼らの自主的な蜂起だ。
 そもそも彼らとて、追い詰められなければ蜂起を切望することもなかったのだ。
 本当の原因が何処にあるか、分かっているのだろう?」
 アレクセイはそれ以上言うなとばかりに手を翳し、そしてルブラットとシラスを交互に見た。
「『我々都市警邏隊は、鉄帝軍部より独立し、首都内の鉄帝国民を守護するものである』」
 その言葉を聞いて、ルブラットは小さく顎を上げ、シラスは斜め下へと視線を向けた。
 アレクセイは遠回しに、首都内に入ってきた難民たちを無条件で守ると言っているのである。
「それに……このような活動までされてはな」
 アレクセイが取り出したのは一枚のビラだった。
 あっとフラーゴラが声をあげた。彼女がここへ来るまでにまき散らしたビラである。
 ンクルスが同じものを手に取り、翳して見せる。
「難民の皆が戦うのは私も心配だけど自主的に立ち上がったのならそれを支援してあげたいんだよ!」
「その通りですわ。今回の襲撃は、あくまで新皇帝派の暴虐に対抗する手段(武器)を確保するため。
 略奪をして回って、罪もない人々を苦しめるような意図はございませんわ。
 今回お借りした武器も、この内戦が終われば可能な限り返却するつもりですの」
 ヴァレーリヤが続けて言うと、アレクセイはわざとらしく上を向いた。
「軍が民間人に武器を貸したなどという事実はない」
「あー……」
 ヴァレーリヤも同じように上を向く。
 暫くすると、難民の一人がフラーゴラのそばへ駆け寄ってきた。
「ありがとう。これで俺たちも戦える」
 嬉しそうに抱えているのはアサルトライフル(小銃)だ。鉄帝国内で量産されたモデルで、その簡素な作りと扱いやすさから長く愛されている。
 フラーゴラは仲間たちの表情を読んで、そして難民たちへと向き直る。
「その銃は持っていて。けど、『使う』のはまだだよ。ワタシたちが然るべき時を教えるから、その時一斉に掲げればいい。闇雲に銃を撃つことは、戦う事とは違うから」
 そこまで言ってから、フラーゴラはチャリオッツの幌へとよじ登って皆の見える位置へと立った。
 一人からパスされた小銃を掴み、小さく翳してみせる。
「これは自分の命を、家族の命を、自由を守るためのもの。決して憎しみや怒りにまかせて振り回すものじゃない。誰かから奪って私服を肥やすためのものでは、絶対にない。それをやってしまったら、グロースたちと同じになってしまう」
 その通りだ。と、難民の中から声があがった。
 一方のアレクセイは完全に見て見ぬ振りを決め込む様子で、さっさとその場を後にしてしまっている。
 が、去り際にポケットから取り出した金色の鍵を翳し、シラスへと投げ渡した。
 反射的にキャッチするシラス。
「これは?」
「ギアバジリカが破壊された際に、軍が回収したものがある。D-7番倉庫だ」
 首をかしげながらもシラスたちが倉庫を開いて見ると、奇妙な装置が置かれていた。
 一緒に置かれていた資料を手に取ると、『祈願器』と書かれている。
 ヴァレーリヤが資料を捲り、中身を確認した。
「ギアバジリカを限定的に動かし、主砲を起動させるための装置……ですわね」
「それは、マズイものなんじゃないか?」
 かつてギアバジリカを動かしたのは魔種へと反転した聖女アナスタシアである。故に禍々しい力として認知されていたのだが……ヴァレーリヤは小さく首を振る。
「いいえ。違いますわ。この動力は――」
 そして、金色の鍵と資料をそれぞれシラスへと手渡した。
「人々の願いと祈り」

 かくして、祈りは力へ変わっていく。
 難民たちは手にした銃を強く抱き、来るべきその日まで銃口を伏せた。
 そして誰もが知ることになるだろう。
 イレギュラーズたちが救い、守ってきたもの――人々の信頼こそが、最後の切り札になるのだと。

成否

成功

MVP

ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘

状態異常

なし

あとがき

 ――革命派は大量の武器を手に入れました

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