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シナリオ詳細

<腐実の王国>白き衣纏いし少女の復讐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●断罪の日の記憶
(あつい……のどが、くるしい……いきが、できない……これは、かじ?)
 ひと、けむりが、わたしをつつむ。ひだまりのいえでねてたはずなのに、どうして?
 とにかく、そとに、でなくちゃ。あたまがくらくらするのをがまんして、わたしはあるく。
 そのわたしのあしに、あついなにかがひっかかった。
(――だれ?)
 いっしょにくらしてるこなのは、さわってみてわかった。だけど、だれだかくらくてわからない。
「しっか――! はや――にげ――!」
 よびかけようとしても、けむりがのどにはいってこえがだせない。ゆさぶってみても、おにんぎょうさんみたいにガクガクするだけ。
(これが――し?)
 せなかを、つめたいなにかがはしった。こわくなったわたしは、そのこをおいてげんかんにむかった。ごめん、ってあやまることもできないまま。
「出して下さい……! ごほっ! 如何して、私達が断罪されなきゃいけないんですか!?」
 げんかんでは、フローラいんちょうがとびらをどんどんとたたいてる。どうして? そとにでられないの?
「自分の胸に聞いてみろ! 貴様はわかっているはずだ!」
「でしたら――断罪されるのは、私だけでいいはずです! 子供達は、子供達だけは、助けて下さい!」
「ならん! 悪によって生き延びたのならば、それは悪だ!」
 フローラいんちょうとそとのひとのおはなしは、むずかしくてよくわからなかった。ただ、わたしたちが「あく」だからこんなめにあってるんだってことだけは、はっきりとわかった。

 ――そこで、私の意識は途切れた。何の理由でフローラ院長が「断罪」されたのか、私達も「悪」とされたのか、それは今もよくわからない。でも、私達を「断罪」する命令を出した人は判明した。
「もうすぐだからね。待っててね、みんな」
 陽だまりの家のみんなに、声をかけた。みんな、みんな「断罪」される前のまま。恨みを晴らすその時を待ちきれないかのように、みんな、私の言葉に頷いてくれた。

●襲撃
「いやぁ、急な依頼ですまないねぇ」
「いえいえ。依頼とあれば、お安い御用ですよ」
 港町エル・トゥルルで、厳つい貴族風の男と『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)がそんな会話を交わしている。貴族風の男は、マクシミリアン・ローゼンベルク。天義はマナフチの領主である。マクシミリアンはエル・トゥルルに観光に来たのだが、最近の不穏な依頼を聞いて、ローレットに護衛の依頼を出していた。
 それを受けて、勘蔵はこの場に八名のイレギュラーズを連れてきている。
 マクシミリアンは感謝の意を示すべく握手してくるが、こう言うノリが苦手な勘蔵は引きつった愛想笑いを返しつつ、後をイレギュラーズ達に任せてこの場を去る口実を探し始めていた――そんな時。
「――――!」
「――――!」
 周囲が、急に騒がしくなる。その言葉は、崩れないバベルを以てしても理解不能だ。
(まさか、これは――!)
 情報屋と言う立場上、勘蔵は聞いたことがあった。エル・トゥルルでは一般市民達が狂気に陥り、異言を話しながら凶行に及ぶ事件が発生しているという事実を。
「皆さん――現場に着いて早々ですみませんが、仕事のようです。よろしくお願いします」
 そう勘蔵がイレギュラーズに告げている間に、マクシミリアンは信じられないものを見たという顔をする。
「馬鹿な……! 貴様らは、確かに断罪したはずだ……!」
 そのマクシミリアンの視線の先には、一人の若い女性と、二十人ほどの十歳にも満たないような子供達、白いローブを纏った少女がいる。
「――――!」
 若い女性は、マクシミリアンの問いに異言で答える。その返答が理解出来ない様子のマクシミリアンを見た少女は、面倒くさそうに嘆息して見せた。
「……私達の言葉は、通じないのだったわね。神様の言葉が理解出来ないのに、信仰や正義を振りかざすなんて滑稽だわ」
「如何して、私達が断罪されなきゃいけなかったんですか……?」
「よくも、僕たちを断罪なんてしてくれたよね……」
「熱かったんだよ……苦しかったんだよ……」
 少女の嘆息の後に女性が、子供達が口にした言葉は、勘蔵やイレギュラーズ達、そしてマクシミリアンにも理解出来た。
「ひ、ひぃ……」
 怨恨を表情と声に乗せながら迫ってくる一団に、マクシミリアンは驚愕と恐怖に腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
 事情は如何あれ、依頼人を手にかけさせるわけにはいかない。イレギュラーズはマクシミリアンを護りに入ろうとする。だが、少女が異言で何かを命じると、エル・トゥルルの市民達がそれに応えるかのようにイレギュラーズ達の妨害にかかった。
 さらには、祈りを捧げているかのような全身漆黒の天使と、それを護るかのように二十体ほどの黒い影のような狼も姿を見せている。

 ――マクシミリアンを殺めんとする一団と、マクシミリアンを護らんとするイレギュラーズ達の戦闘が、始まろうとしていた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は、<腐実の王国>のシナリオをお送りします。
 依頼人マクシミリアンを護りつつ、出来るだけ住民から被害が出来ないように、遂行者以外の敵を倒してこの場を収拾して下さい。

【概略】
●成功条件
 以下の、全ての達成
 ・マクシミリアンの生存
 ・遂行者『ブリュンヒルト』を除く敵の全滅
 ・狂乱しているエル・トゥルル住民の鎮圧・沈静化

●失敗条件
 以下の、何れかの発生
 ・マクシミリアンの死亡
 ・狂乱しているエル・トゥルル住民の約半数以上の死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション
 エル・トゥルルのとある大通り。時間は昼間、天候は晴天。
 環境による戦闘へのペナルティーはありません。


【敵】
●致命者『陽だまりの家の住民達』 ✕約20
 マクシミリアンによって断罪された孤児院『陽だまりの家』に住んでいた住民達の姿をした致命者です。院長のフローラを除いて、ほぼ全員が一桁後半の年齢の子供達の姿です。
 『陽だまりの家』の住民は、ブリュンヒルトを除いて、全員が断罪の時に焼死しています。まるでその恨みを晴らそうとするかのように、マクシミリアンへと迫っていきます。

・フローラ ✕1
 『陽だまりの家』の院長、享年19歳。金髪をポニーテールにしている、美人と言っていい顔立ちの女性です。

●ワールドイーター ✕20
 狼のような形をした、全身真っ黒なモンスターです。
 マクシミリアンへは積極的に攻撃を行わず、影の天使『祈りの乙女』を攻撃から守るかのように動きます。
 高命中高回避のスピード型です。一撃の威力は大きくありませんが、その攻撃には高い数値の【邪道】がついています。
 
●影の天使 ✕1
 両手を組んで祈りを捧げている乙女のような姿をした、影の天使です。背中からは漆黒の天使の翼が生えています。
 世界の根源たる力に働きかける不可視(極めて高い数値の【変幻】付き)の広域神秘攻撃を繰り出してくる一方、広域の回復支援も行います。

●エル・トゥルル住民 ✕多数
 狂気に陥っている一般市民です。それでいながら、何者かの意志に従うかのようにイレギュラーズ達を阻もうとします。
 戦闘力は一般人にしては強い方ではありますが、イレギュラーズ達の敵とまでは言えないでしょう。
 しかしその分、【不殺】のない攻撃手段で戦闘不能にした場合の致死率も高いでしょう。

●遂行者『ブリュンヒルト』 ✕1
 『陽だまりの家』の致命者やワールドイーター、影の天使と共にエル・トゥルルに姿を見せました。
 かつて、マクシミリアンによる「断罪」を受けて、『陽だまりの家』ごと焼かれた過去を持ちます。
 今回は戦闘に参加しません。無理矢理にでも戦おうとする場合、難易度はHard以上相当に跳ね上がります。


【護衛対象】
●マクシミリアン・ローゼンベルク ✕1
 天義領マナフチの領主です。厳つく融通の利かなそうな壮年です。
 かつて、『陽だまりの家』を悪と断罪し、処断しています。
 エル・トゥルルには観光に来たのですが、不穏な噂を聞いてローレットに護衛依頼を出しました。
 戦闘力は期待しないで下さい。


 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • <腐実の王国>白き衣纏いし少女の復讐完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
リエル(p3p010702)

リプレイ

●明かされた真相
「――断罪、ね」
 依頼人、マナフチ領主マクシミリアン・ローゼンベルクに迫る致命者達の言葉を聞いたリエル(p3p010702)が、嘆息しながらつぶやいた。そこに至った罪は知らないが、厳しすぎる裁量はまたアドラステイアを産むとリエルは考えている。もっとも、リエルはすぐ後にその断罪こそが不正義であると知ることになるのだが。
(それにしても致命者、今回は明確に死者を模しているのね? 月光人形の再現……かしら?)
 そう思案しながら、リエルは前衛を務めるべく前へと進み出た。致命者は、若い女性が一人、年端もいかない子供達が二十人。どの致命者も、はっきりとした個別の姿を持っている。
「……こんな子供達が焼け死んだのか。それは苦しかっただろう。でも悪いな、その復讐は果たさせてやれないんだ」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が、致命者達への同情を込めながら独り言ちた。そして、後ろを振り返りマクシミリアンに告げる。
「マクシミリアンさん、必ず守るから安心してくれ……だが一つ答えてほしい。彼らを断罪した理由は何だったんだ?」
 イズマの問いに、マクシミリアンは答えない。しかしイズマに問われた時点で、マクシミリアンは『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)に思考を読まれてしまっていた。
 ウィルドが読み取った思考は、孤児院『陽だまりの家』が断罪で焼かれることになった真相。前任の死亡により院長を継いだ若い女性、フローラが孤児院の運営に行き詰まり、援助をマクシミリアンに申し出た結果、フローラの身体を代償にマクシミリアンが援助を引き受けた事実。それを告発されそうになったため、先手を打ってフローラが身体を以て援助を強請ったと言う冤罪を被せ、それが不正義であるとして孤児院ごと断罪した事実。
「クククッ、ご自身が本当に正義と信じて彼女らを焼いたのなら、怯むこと無く堂々とそう言ってくださいな。
 ――言えないでしょう。全く、随分とエグいことをなさる」
 ウィルドに思考が読まれたことを察知したマクシミリアンは、額に脂汗を流しながら、「言わないでくれ」と懇願する表情をウィルドに向けた。だが、ウィルドに対してそれは無駄な努力でしかなかった。胡散臭い笑みを浮かべ――常時、ウィルドの表情はこうであるのだが――ウィルドは、マクシミリアンから読み取った思考の内容を朗々と告げる。途端に、イレギュラーズ達の、そして白いローブの少女――ブリュンヒルトのマクシミリアンへの態度が一変した。
「そんな! ――そんな理由で、私達は断罪されたと言うの!?」
 驚愕と憤怒に、ブリュンヒルトが叫ぶ。奇妙なことに、その間、致命者達の怨嗟の声は止まった。だが、少女がはっとすると同時に、致命者達は怨嗟の声を上げ始める。
「許せない……」
「許せない……」
「絶対に、許せない……!」
「そりゃあ、こんな団体客に恨まれるのも当然だね。こわいこわい。ヒヒヒ!」
 狼狽するマクシミリアンと迫る致命者達を見比べながら、如何にも可笑しそうに『闇之雲』武器商人(p3p001107)が笑う。
「因果応報と言いたい所だけど……」
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が、嘆息しながら言った。明らかに、非はマクシミリアンにある。だが、スティアはそのマクシミリアンから依頼を受けた身だ。致命者達にマクシミリアンを殺害させるわけにはいかなかった。
「これに懲りたら、自身の行いを見直して善政を敷くように努めて欲しいな。
 やってしまったことは取り消せないけど、これからのことはどうにでもできるからね」
 そうスティアは声をかけはしたものの、マクシミリアンの所業を聞かされた後では、更生についての期待はあまり持てないように思えた。
「……まさか、そんな事情があったとはね」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が、吐き捨てるようにつぶやいた。普段は柔和な史之にしては棘の感じられる口調だったが、それも無理からぬ事であろう。
「なあ、確かマクシミリアンって言ったか? お前、陽だまりの家を燃やす時、どんな気持ちだった?」
「自分の不正義を握りつぶせると、安心したそうですよ」
 『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の問いにも、マクシミリアンは答えない。だが、ウィルドがマクシミリアンの思考を暴露する。
「……ともあれ、お前がローレットに依頼をしたのは正解だったよ」
 ギリ、と歯ぎしりをさせながら、アルヴァはマクシミリアンに背を向けて言った。ローレットを通じて依頼を受けているのでなければ、アルヴァは間違いなくマクシミリアンを見捨てていただろう。
「まあ、事の是非は置いておくとして……」
 『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が、思考を切り替えた。
(致命者には一切の記憶がないものと思っていましたが、どうも必ずしもそういう訳ではないようですね。
 もっともあの様子だと、ローブの少女がそう言わせてるのかも知れませんが)
 少女が驚愕している間、致命者達の動きが止まったことに、アリシスは引っかかりを覚えてそう推測した。

●遂行者の涙
「マクシミリアンさんは傷付けさせない。だが……皆が受けた苦しみを二度と生まないと約束させよう。
 許せなくて当然だが、これで収めてもらえないだろうか?」
「収められるわけが、ないじゃない!」
 無理を承知でイズマが問うが、ブリュンヒルトが激昂しながら拒絶する。この回答は、当然イズマも予想していた。マクシミリアンの断罪の裏には何かあるとは感じていたが、まさかそんな事情があったとは。
 ともあれ、イズマはフローラの致命者を中心に、致命者達の周囲に漂う根源的な力を穢れた泥に変え、その運命を黒く塗り潰した。何が起きたか理解出来ない様子で、致命者達は身体を捩り悶え苦しむ。
「なりふり構ってられる状況じゃないみたいなんでね」
 アルヴァは、黄金期の残響を自らに響かせて、自身を強化する。
「よぉ。そんなとこで祈ってねえで、俺と遊ぼうぜ?」
 さらにアルヴァは、対人狙撃銃『H&C M7360』を後方にいる漆黒の天使に向けて撃った。漆黒の天使は怯えたように身体を震わせたが、銃弾が漆黒の天使へと届くことはない。アルヴァが撃ったのは空砲で、言わばただの虚仮威しだった。漆黒の天使は虚仮にされたと感じたようで、翼をバサバサと羽ばたかせながらアルヴァの方へと向く。これでアルヴァが味方のいない方に行けば、味方が漆黒の天使によって攻撃されることはなくなるはずだ。
「悪とは、私のような人間のことですよ……あなた達は、悪でも何でもない」
 ウィルドは、致命者達にそう語りかけながら戦いの鼓動を致命者達の半分に叩き付ける。
「覚えておきなさい。あなた達を殺す私の様な者こそが『悪』。理不尽に殺される事に怒りを覚えるなら、それをこの場でぶつけて行きなさい。
 ……今度は、いらない事を覚えることなく逝くと良い。あなた達は単なる被害者であり、復讐者。
 『悪』などではないのですよ。せめて、それだけは心に刻んでおきなさい」
「――!」
「――っ!」
「――!」
 ウィルドの言葉に、まずブリュンヒルトがぼろぼろと涙を流した。次いで、致命者達も涙を流す。だが、その語る言葉は異言となっていた。
(何にせよ、迷う理由はありませんね――数が多いのが厄介ですが、全て処理致しましょう)
 アリシスは、ウィルドの戦意を受けなかった致命者達から、その魔力を光の蝶へと変じさせて奪う。もっとも、本来魂喰いであるこの技は、今は常に抵抗された時と同等の効果しか発揮しない。そのため、致命者達にはダメージを与えることは出来なかったが、致命者達にアリシスへの敵意を抱かせることには成功した。もちろん、これはアリシスの目論見どおりである。マクシミリアンを狙ってくる致命者達を、ウィルドと共に自分達へと釘付けに出来た。
「――! ――!」
 ブリュンヒルトは、致命者達に必死になって叫ぶ。異言故に判別は出来ないが、おそらくはマクシミリアンを狙えと言う内容だろうとは想像が付いた。だが、致命者達はそれに応じる様子は見せなかった。ブリュンヒルトの言葉を受けてもなお、ウィルド、アリシスへの敵意の方が優先されているのだ。
(恨み言だらけになるのも、無理はないか――)
 致命者達を見やりながら、史之は飛行してその上を通り過ぎた。願わくば、彼らには自分達を相手に暴れて憂さを晴らして、あの世でいい夢を見て欲しいと願う。
「退いてもらうよ」
 史之の狙いは、影の天使を護るかのように侍る黒い狼――ワールドイーター達だ。突き出された史之の掌から、赤いプラズマが飛散する。それと共に発生した斥力が、何体かのワールドイーターを弾き飛ばす。史之の斥力は効いたようで、ワールドイーター達はふらふらとよろけた。
「団体客の方は大丈夫そうだねぇ。それじゃ、我(アタシ)はキミ達の相手をしようか」
 武器商人も史之に続いて前に出ると、ワールドイーター達に向けて語りかけた。すると、ワールドイーター達はビクリと身体を震わせて、武器商人に向けて明確な敵意を向けた。まるで、武器商人の存在が許せないと言わんばかりに。
「貴女は、彼らと共に復讐して、それでいいの? 死んでいった者達の無念を騙り、その致命者と共に動くなら、何度でも、あなたは陽だまりの家の仲間を喪うわ」
「ええ、私がみんなの無念を晴らすのよ――無念を騙り、と言うならわかっているんでしょう? 陽だまりの家のみんなは――もう、いない」
 リエルは、ブリュンヒルトに問いかけた。ブリュンヒルトは、現実はわかっているとばかりにリエルに返す。みんなはもういない、と語るその口調は、それまでとは一変して悲しみに溢れていた。
(それでも、何度でも仲間――その姿をした致命者を喪うとわかっていても、絶対に復讐するというわけね)
 ブリュンヒルトの返答に、リエルはその意志の固さを痛感する。
「貴方のことは、絶対に守り通すよ――でも、この光景を忘れないようにして欲しいな」
 スティアは、マクシミリアンを何時でも庇えるようにそのすぐ前に立ちつつ、背中越しに語りかけた。願わくば、反省して更生し、金輪際同じ事はしないでもらいたい。
「あ、ああ――わかった」
 震えた声で、マクシミリアンが返答を返す。少なくとも、マクシミリアンが感じている恐怖は本物だろう。マクシミリアンの表情を視認することは出来ないが、その恐怖が骨身に染みこんでいて欲しいとスティアは思う。
 ブリュンヒルトに、マクシミリアンに、それぞれ問いかけて返答を得たリエルとスティアは、息を合わせたように致命者達の右半分と左半分に手分けして、邪悪を灼く聖光を放つ。破邪の光に、致命者達はその身を灼かれて悶え苦しんだ。

●襲撃者、全滅
 戦いが進むうちに、致命者達は次々と斃され、狂乱したエル・トゥルルの住民も無力化されていった。ウィルド、アリシスがマクシミリアンに迫ろうとする致命者やイレギュラーズ達の邪魔をする住民達を誘引している間に、イズマの穢れた泥に運命を塗り替えられ、リエルとスティアの放つ破邪の聖光に灼かれていったのだ。
 ワールドイーター達も、武器商人に誘引されているうちに史之にその数を削られていき、全て斃された。残る敵は、アルヴァに誘引されてあらぬ方向へと引きずられていた漆黒の天使とブリュンヒルトだけだ。
 だが奇妙なことに、その間ブリュンヒルトは戦況に苛立ちは見せつつも、全く参戦してくる様子を見せていなかった。

「これ以上、街を狂わせはしない!」
 イズマが顕現させた異空間が漆黒の天使を飲み込んだ。異空間は漆黒の天使の身体に無数の針を突き刺しながら、その身体を絞るように締め付けて捻る。異空間が消滅して漆黒の天使の姿が見えると、イズマは再度異空間を顕現させて追撃した。漆黒の天使は血を流すことはないが、その身体には無数の穴が空いており、強かにダメージを受けたのははっきりと見て取れた。
「さて、ここからは本気で行こうか」
 漆黒の天使への攻撃よりもその誘引を優先していたアルヴァだったが、動かないブリュンヒルトを除けば敵は漆黒の天使のみとなり誘引の必要がほぼなくなったため、ようやく攻撃に全力を出せる。
「黒い翼、さしずめ堕天使ってトコか――俺は神とか天使とか、人知を超越したものは信じていないのでね。
 燦爛たる光輝の中で、静かに消えるといい――」
 そう告げながら、アルヴァはH&C M7360の砲口を漆黒の天使に向けた。その砲身は、神聖なる光を纏い白く輝いている。H&C M7360から放たれた銃弾は、白い軌跡を描きながら漆黒の天使の眉間に命中し、貫通した。漆黒の天使の眉間には銃弾よりも大きな径の穴が空いたが、まだ消える様子はない。
 常人なら間違いなく死んでいるはずのヘッドショットを決めてもまだ漆黒の天使が斃れないことに、アルヴァは唇をわずかに歪めて悔しがった。だが、最早多勢に無勢で、漆黒の天使の終わりは見えている。あとは、それが早いか遅いかに過ぎない。
「一つ聞きたいのだけど――ここに来ての復讐ということは、これもまた神託なのかしら?」
「私達の神様のことを軽々しく語って欲しくはないけど――いいわ、答えてあげる。そうよ、神様のお告げがあったの」
「それにしては、貴女は全然動かないけれど、如何して?」
「それも、神様のお告げよ。今は私自身が直に動くべき時ではない。復讐はみんなに任せなさい、って」
 リエルは、漆黒の天使との距離を詰めつつ、ブリュンヒルトに問いかけた。ブリュンヒルトは、苦々しそうな顔をしながらもその問いに答えを返す。
 その間に、リエルは漆黒の天使の直前にまで到達していた。魔力が一点に集中したリエルの掌が、漆黒の天使の胸部に叩き付けられる。ぐらり、と漆黒の天使の身体が揺れ、リエルの掌を受けた場所はクレーターの様に大きく凹んだ。
(つまり、あの少女は神託によって動かないと言うことか――なら、こいつで終わりだ)
 妻への変わらぬ愛情、冬宮家従者の矜持を体現する太刀『衛府』を、史之は大上段に振りかぶった。そして、渾身の力を込めて振り下ろす。衛府の一閃は、漆黒に天使を縦に大きく斬り裂いた。胸の前で組んでいた両手も両断されて組めなくなったためか、漆黒の天使は半狂乱になってジタバタとする。
「白ローブの貴女、致命者ではありませんね……致命者を率いる側、遂行者……貴女もそういう手合いですか」
「貴方達の勝手な呼び方には興味ないけど――そうね。私はみんなを率いる役割を、神様から頂いたの」
 アリシアもまた、漆黒の天使との距離を詰めながら、ブリュンヒルトに問う。ブリュンヒルトは、ふん、と鼻を鳴らしながら、アリシアに答えた。
 問答の間に、アリシアも漆黒の天使の前に至る。そして、擬似的な神殺しの力を宿した戦乙女の槍を、駆け寄った勢いのまま突き出した。槍は漆黒の天使の胸部、クレーターのように凹んだその中心を貫き通す。
「マクシミリアンさんに復讐したくなるのは当然ですが、私達も依頼を受けていますのでね。
 ――これで終わりにさせてもらいますよ」
 アリシアに続いたウィルドが、漆黒の天使の腹部に掌底を叩き込む。内功を巡らせて高めた護りの力を、敵を撃ち倒す力へと換えて。ウィルドの掌を受けた漆黒の天使の腹部は、胸部と同じようにクレーターの如く深く抉れた。もう、漆黒の天使が持たないのは誰の目にも明らかだ。
「これでとどめ、だよぉ」
「神託で動かないというのなら、これで終わりですね」
 武器商人とスティアが、漆黒の天使を撃破してしまうべく邪悪を灼く聖光を同時に放った。破邪の光の中で、漆黒の天使の身体は次々と崩れ落ちていき、最後には霧散して消滅する。その後には、何も残っていなかった。
 マクシミリアンに復讐するための戦力を全て喪ったブリュンヒルトは、ギロリ、と憎悪を込めた視線でマクシミリアンを睨むと、踵を返して去った。イレギュラーズの胸中は如何あれ、マクシミリアンの護衛には成功したのだ。

「――安らかに、光あれ」
 マクシミリアンに断罪された陽だまりの家の住民達の冥福を祈って、アルヴァは黙祷を捧げた。この場に現れたのは本人ではなかったとしても、断罪の事情を聞いた以上は、そうせずにはいられなかった。他のイレギュラーズ達も、その多くがアルヴァに倣って、黙祷を捧げて陽だまりの家の住民達の冥福を祈った。

成否

成功

MVP

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。
 マクシミリアンの断罪には何か裏がありそうだと思われていた方が多かったようですが、ウィルドさんによってその全容は明らかになりました。これを狙ってリーディングを非戦スキルにセットされていたのでしたら、お美事でしたと称賛の言葉を贈らせて頂きます。
 MVPについては、影の天使を引き寄せて味方を護ったとして、アルヴァさんにお贈りします。せっかく用意した高変幻の域攻撃が……orz

 それでは、お疲れ様でした!

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