シナリオ詳細
腐落たる病『アゾフ』
オープニング
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自然とは、生命である。
草花も木々も。動かぬだけで其処にある生命には違いない。
彼らもまた生きているのだ。
――だから。人と同じように『病気』に掛かる事もある。
「アゾフ、と呼ばれるモノの事をご存じですか?」
「――アゾフ?」
「深緑に縁のある方などであれば聞いた事があるかもしれませんが……簡単に言いますと、木々に取りつく病原菌です。木々の外殻から栄養を吸い上げ、放っておくとやがて巨大な胞子として成長し、更に周囲の木々に自らの胞子を撒き散らしていく――厄介な『敵』ですよ」
深緑の首都ファルカウ。その地へと呼ばれたイレギュラーズは、迷宮森林警備隊より依頼の説明を受けていた……が。どうにもあまり愉快な話ではなさそうだ。
彼らの話を聞くと、どうにも人間ではなく木々に広まる病気が流行っているらしい。
それが彼らの言った『アゾフ』なるモノ。
アゾフは毒性を宿す胞子であり、まだ木々に取りついた小さい段階であれば直接払う事で木々を助ける事が出来るらしい、が。目立つ程に巨大な胞子へと至ったモノは――
「『汚染樹』と呼ばれる段階まで至った木々は……残念ながら生きながらにして死に絶えているも等しい形になります。内部にまで根が張られ、胞子だけを払うというのは……無理なのです」
「じゃあ汚染樹に関しては」
「残念ながら、斬り倒す他ありません」
……自然を友とする深緑の民にとってそれは苦渋の決断だ。
しかし忍びないとして汚染樹を放っておけば、アゾフは更に広がる。まだ無事な木々に取りつき、それらを取り殺して……そこから更に広がっていくだろう。そんな事だけは決して容認できないのだ――未来を紡ぐ芽すら、潰す訳にはいかない。
「よって皆さんにはアゾフ駆除の為の手伝いをして頂きたいのです。
アゾフが広がっている区画は既にこちらで特定しています――現場の木々をよく観察して頂き、小さい胞子が付いているだけであれば簡単に取り除く事が出来ますので……胞子だけを狙い打って木々にはなるべく被害が無いようにしてください」
手遅れな樹に関しては仕方ない、が。助けられる樹は助けておきたい――
それなりに広い範囲を探索する事になるだろう。
なるべく周囲の自然を守る為に、保護結界などがあれば便利であるかもしれない……
そして重要なのは既に汚染が進んでしまった樹、か。
「……アゾフは火に弱い。今回に関しては、アゾフを払う為であれば火の使用も黙認されます。ですが巨大なアゾフは周囲に毒性の強い胞子を撒き散らしてきますので、ご注意を」
「火、か――」
もう助けられないのならば、せめて苦しみを一刻も早く終わらせる事も重要かもしれない……
いずれにせよやる事は二つ。
アゾフに犯された樹を見つける事。そしてアゾフを払う事。
自然を。まだ生きている木々を護るために――
●
アゾフは蝕む。木々を、その命を。
ソレは何の意があっての事だろうか。
只の病原菌であれば、それは悪意あっての事ではなく。
彼らなりの生きる活動の一環かもしれない――が。
――滅びよ。ホロビヨ。ほろびろ。
もしアゾフの意思を感じられるならば、その身に宿す滅びの意を悟るだろう。
彼らは滅ぼす。木々を蝕み、その命を食い潰しながら。
ただただ殺し壊し滅ぼす為だけに、アゾフは存在している。
なぜならば。ソレは、滅びのアークの増大により世界に零れ落ちた――その一つなのだから。
- 腐落たる病『アゾフ』完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「ひとも動物も植物も、生きていれば病気にかかる。
それも自然の摂理なのでしょうし、できれば治してあげたかったですが……
もう、仕方ないこと、なのです……ね」
「……森の人々を守る為にも、ここで食い止めなければなりませんね。
放置していればいずれ近い村や街へとも……胞子が届いてしまうでしょう」
件の――アゾフの現場へと至ったのは『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)に『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)か。酷い状況だ……今からでも助けられるのなら助けたい。
だけど……どうしてもダメならば、もう仕方ないのだ。
リディアの言う様に、まだ生きている木や人々を護る為にも――覚悟を決めるしかない。
「火事になった時に、周りの家を壊して延焼を防ぐやり方に似てるね……でも深緑の文化的には、これは苦渋の決断だよね……これ以上の蔓延は防がないとね!」
「……行きましょう皆さん。我々が成さなければならない事を――成す為に」
故に。『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)や『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)も歩みを進めるものだ。被害を食い止める為にも、一刻も早くアゾフを絶たねばならぬ……
だからこそリディアはまず保護結界の重ね術を施すものだ。
無為に草花や木々を傷つける事が無いように。
「深緑魔法少女として、必要以上に森を傷つけたくありませんからね」
「メイは、精霊さん達にお話を聞きながらみなさんの回復を担うです! アゾフは胞子を出してくるらしいですから、気を付けないといけませんしね……よろしくです!」
「ええ、よろしくお願いします――私は空から周囲を観察してみますね」
続いてメイは周囲の精霊と意志を交わせんとする。現地の精霊からアゾフを見ていないかと情報を得るのだ……汚染樹の場所も分かれば今後もスムーズに進むが故に。同時にアリアは亜竜を駆りながら空を往く。優れた嗅覚も利用して、妙な臭いがないかと探るのだ――そしてグリーフはファミリアーの使い魔として鳥を使役。
一つは上空から偵察し、木々の様子を窺うのだ。そしてもう一つは。
「……アゾフ。その存在は聞き及んでおりましたがまさか、吹雪の檻の一件がこのような形で尾を引いているとは……これ以上伝播する前に、止めなければ……見過ごすことなど、決して出来ません……」
別たれているイレギュラーズの、もう一つの班の状況把握の為に飛ばしている。
其方にいる一人は『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)だ。こうしている間にも木々が苦しんでいると思えば……胸が軋む。不可逆的な性質は純種の魔種化、に近い状態なのかもしれぬと、思考を巡らせながら……
卓越した幻想種として広く自然と意志を交わす事叶う彼女は『様子のおかしい仲間』がいないかを尋ねようか。つまりはアゾフに感染している個体がいないかと……皆を救うために。
「しかしまぁ火の対応も許可されるとは……今回は深緑も随分と本気のご様子」
「私がかつていた世界でも植物の病気は存在したが……さすが混沌世界、スケールが違うな。これほどの規模と被害を齎すとは……おっと。感心している場合ではないな。速やかに対処しよう」
同時。ドラマと共に動くのは『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)に『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)も一緒だ。エマは『そう言えば、以前にも――別件の依頼で森を放火したことがごぜーましたねぇ』と、当時を懐かしむものだが、自らに宿す祝福により悟らせぬ様にしよう。深緑では、中々に厳禁な話であろうし。
とにかく対処の時間だ。ドラマが情報収集に次いで、両名も探ろう。
エマは精霊らと意志を交わさんとし、モカは木々に住まう動物へと声を。
「ごきげんよう。この森で毒を撒き散らす樹を見なかったかな?
或いはいつもと様子が違う気でもいいんだけれど――そう。変なのが付いた木とか」
リスや鳥など。せめて方向や方角が分かるだけでも随分と違うのだから。
「ごめんねみんな……ルシェが、ルシェ達が、もっと早くに気付いて上げられたら……ごめんね、本当に……ごめんね……」
そして『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)の姿もあった。心の内に、悲哀の感情を秘めながら……他の事に一杯で、手が回らなかった。もう少し。もうほんの少しでも早く気付く事が出来たなら――もっと助ける事が出来ただろうか。
でも。
「これ以上、広げさせないから」
涙を拭う。悲しんでばかりはいられない。
汚染された子達は眠らせる。傷ついてる子は、助けてみせる!
「おねがい。教えて――アゾフ達は、どこにいるの?」
彼女は問う。自然に寄り添うように、手を重ねながら。
皆に聞くのだ。木々の皆に。悪意の種は――どこに潜んでいるのかと。
●
イレギュラーズ達が二つの班に別れたのは捜索の手を広げる為だ。
アゾフがまたいつ広まるとも限らぬのだから。
一刻も早く全域を捜索しておく必要がある。
「精霊さん。この森で、病気になってる樹のある場所を知ってたら教えて欲しいの」
紡ぐ声はメイだ。森を守る為にと、胞子の居場所を探る――
……そうしていれば早速に見つけるものだ。
精霊達に導かれる先にて――樹に張り付いている、胞子が在った。
黒く、どこか紫色も混じっているモノ。見れば見る程に混沌を感じ得る。
これが――アゾフ――
「成程……確かに腐敗臭が酷いですね……鼻がつんざくような感覚もあります。
ラフレシアの様な……野生の獣の中には、コレを好む者もいるでしょうか」
そしてグリーフもソレを見据えるものだ。
グリーフは秘宝種であり呼吸自体は不要な面がある――故に意図的に嗅がぬ限り問題はない筈だがファミリアーはそうでないかもしれぬと思考し、鳥は天へと舞わせよう。そうしながらグリーフはアゾフを観察する……
もしかすれば。己が祝福に呼応して反応を見せるかもしれないと。
――瞳に色が映る。
黒だ。あまり濃い訳ではないが、しかし確かに『敵意』を感じる。
無機物なりの敵意。正常なるモノを憎み、滅ぼさんとする意志が――在るのか。
「うっ。これ思ったより臭いがキツイ……! とんでもない臭いだね……なんだろう、何かの肉が腐った様な……何か月も何年も放置した汚物の様な……とにかくこのままじゃ気持ち悪くなりそう」
「ええ。やっぱり酷い臭いです。こんなになるまで気付いてあげられなくてごめんなさいね……今、楽にしてあげますから。少しの間辛抱してくださいね――」
然らばリディアとアリアが、アゾフの切除を試みるものだ。
此れは胞子の量が少ない故にまだ助ける事が出来るだろうと――リディアが放つは光。胞子のみを狙いて穿つその光はアゾフを掃おうか。欠片でも残さぬ為にアリアが追撃の一手を加えれば完全に消滅する――
「やりましたね! これは、助ける事が出来てよかったのです……
またパトロールしていきましょうか。まだまだありそうですし」
「そうだね。一つ残したらまた同じようにしなきゃいけないし、しらみつぶしにしないとね! アゾフに侵された箇所が一か所だけとは限らないだろうし……片っ端から見て行かないと……!」
そして、アゾフより放出される毒素の傷をメイが治癒すれば、次なる地点の捜索に向かわんとアリアはするものだ。
これは良し。小さいモノであったからこそ……しかし問題は汚染樹だろうか。
「おぉ……これはこれは。皆さん見てくださいでごぜーます――汚染樹ですよ」
もう助けられない樹。それを見据えるのは、エマだ。
完全に侵食されているソレは傍目にも禍々しい。
これが駆除しなければならないモノ。で、あれば。
「……これ、人間には無害なんでごぜーますかね? いやたしか毒素が含まれてるんでしたかね。まぁわっちには毒自体は効かないんでありますが――早い所始末しておいた方がよさそうでごぜーます」
「そうね……もうあちこち毒素の胞子だらけだわ!
お鼻がきゅー! ってさっきからなりっぱなしなのよ……
アゾフ達も必死に生きてるだけかもしれないけれど、見逃せないわね!」
キルシェも見据えれば、早速対処に当たらんとするものだ。
彼女の嗅覚が激しい腐敗臭を捉えている。思わず顔をしかめてしまう程の臭いだ……特に樹自体が汚染されてしまっている傍からは、より強烈なモノを感じ得る。しかしキルシェはぐっ、と我慢して歩みを進めようか。
汚染樹を解放してあげる為に。苦しみから、痛みから。
「――止むを得ません、ね。
この森を二度とあの時のようなコトにする訳にはいかないのです……絶対に!」
「ああ。仕方ないさ。ここから汚染が広がれば、今以上にもっと手が付けられなくなる。
誰かに投げ出すわけにはいかない――私達でケリを付けよう」
故にドラマはまず、保護なる結界を作り上げるものだ。
それはオルド・クロニクルとの多重結界術。彼方まで広がる空間が無用な痛みを弾こう。
然らば、モカが続けざまに一撃を繰り出すものである。
それは火の一端。燃え上がらせた刀身から放たれる斬撃は、樹へと到達する――
エマも同様に爆発を齎す一撃を繰り出し、キルシェも慟哭たる詩を紡げば。
――ォォォォォ――
刹那。聞こえてきたのは風か、それとも樹の声か。
「……また木々に火を向ける事になろうとは。しかし……くっ……」
前者であろうと後者であろうと、ドラマは決して目を逸らさない。
奥歯を深く、噛みしめるものだ。軋む程に。
だけど樹の最期を……見届けてあげないといけないのだから。
終わりまでをその瞳に捉える。
彼らの歴史は、ドラマに看取られ。そしてドラマが未来へと繋ぐだろう。
「行きましょう。まだまだ始まったばかり……
毒素が充満していますので、体力には皆さんお気を付けを」
「そうね……一つでもアゾフが残っていたら、きっとまた増えちゃうわ。
しっかりとルシェも見て行かないと……!」
そして。汚染樹の駆除を確かに見据えれば――再度、歩みを進めるものだ。
ドラマの言う様にまだ先は永い。調査はこれからなのだから。
キルシェは一度だけ、先程の樹を振り返り――そして駆け抜けていこう。
ごめんなさい。でも、これで必ず終わらせるから――
心の中で、そう決意しながら。
●
そしてイレギュラーズ達は担当区域を巡っていく。
一つ一つの樹を見据えながら。
時に自然に語り掛け、精霊にも助力を乞いながら……
「ありました――此処も駆除が必要ですね――」
そしてグリーフはまた一つの汚染樹を見つけるものだ。
……妖精郷の件の折りに傷つき。先日の眠りの茨から始まった件では焼かれ。
それでも強く、蘇ろうとする森の中で……こんな事件が起きようとは。
思う所はある。だけれども――
「せめて、弔いはしましょう」
もう、花を咲かせることはできないかもしれない貴方へ。
花を、贈るものだ。
――それは桜花を思わせる無数の炎片。木々を送る、グリーフの弔い。
ああ。どうか安らかに土にお還り下さい。未来の安寧の為に、そして貴方自身の為に。
もしも来世があるのなら――共に――
「……森の木々が、そして新たな木々が健やかに育ちますように」
「皆の為に……斬らせてもらうのです。なるべく、傷まないようにしますね」
次いで、リディアもメイも魔力を振るう。
木を燃やすのは辛い。いや火を使わなくても傷つける事自体が既に――だ。
でもやらなければ被害が収束することはない。これは、誰かがやらなければならない事だと……リディアは自分に言って聞かせよう。瞳の奥に熱を抱きながら。頬を伝う一片の雫に……しかし歯を食いしばって、気付かない様にしながら。
燃えた樹が、その灰が。未来の森の養分になる事がきっと救いになるだろうと、信じながら……ひとにぎりの灰をも、撒いておこう。いつか至る再生の助力になる筈だから――
「うーん、これってもうちょっと簡単に剥せたりしないのかな……
こう、こうやって……うわ! ちょ、なんか噴き出してきた! うわ、ぺっぺ!」
「ああ、アリアさん! 大丈夫なのです!?」
と。アリアは小さい胞子を見つけ、それを剥がしてみようと――試みたら、何かガス状のモノが噴き出そうか。彼女の顔に掛かりて……ああとんでもない臭いと、痛みが生ずる。だが即座にメイが治癒の術を掛けたが故か、左程問題のある傷には成らなかったようだ。
「なかなか難しいね。うーん……しかしこのアゾフって、滅びのアークから生み出された存在なの? だとすると魔種の活動の痕跡、或いは残滓ってこと……? 何か、こう調べたいんだけどなぁ……」
「むー……確かに、この胞子を持って帰って植物研究してる人に渡せば、治療薬とかできないですかね。毎回燃やしたりするのも心がちくっとするのです……病原菌なら、いつかお薬も出来るとおもうんですけれど……」
瞼をこするアリア。同時に、微かに剥せたアゾフを瓶詰めして持ち帰ってみようか。何か対処法が分かるだけでも大きな前進になるだろうとも思考したが故に。メイも似たような考えを抱いていればこそ反対はしない。
……しかし。振り返った時に移った『炎』の光景には、なんとなくシェームを思い出すものだ。炎を司る存在……自らも、紅蓮の蛇を操りて炎の類を齎す術はある、が。
「……よし。結界の下で、試してみようかな」
彼の様に操れるだろうかとも思いながら。
アリアはアゾフ駆除の為――更に森の方へと進みゆくものだ。
そして。あちらこちらを巡り歩いていれば、やがてもう一つの班とも合流する時も近付く。
「やはり病原体は高温で消毒するのが一番だな。
まぁ、この国の文化的に、そうそう毎度使う訳にはいかないんだろうが」
「やれれば効率的なんでござーますが」
語るはモカにエマか。またも発見したアゾフへと、モカは一閃する。
時に燃やし。時に刻む様に。
そういえば植物から出血するのだろうか……? とも思ったが、アゾフを割いてみればガスや謎の液体が飛び散ってモカに害を成さんとしてきたものだ。それは躱したので良かったが――あれはアゾフの血か何かか……?
「これが最後の汚染樹、かしらね? 他はもう無いと思うのだけれど……」
「ええ――そうであると、信じましょう」
――そして。キルシェとドラマは最後のアゾフを眼前に見据えよう。
毒素の排出と蓄積は中々に厳しいものであった。一線級の実力をもつドラマ達であればこそ、左程問題なかったと言えるが……これが例えば市民であったり、もっと弱い草花であればどうなっていた事か。
やはり見過ごせない。ああ――
(……病原菌だけを取り除いて貴方達を生かす、と云う手段を持たない無力を許してください。アゾフに対する特攻の治療法は、ないんです……ごめんなさい)
心中でドラマは謝るものだ。
全てはアゾフという滅びに過ちがある。ドラマに責はない――
だけれども。救う手段が介錯以外に存在しない事に、ドラマは五指の力を強めた。
「……灰は土へ」
自然は還り、草木の栄養分となって、再び芽吹く。
巡る季節は全てを繋ぐ。永久に広がる様に。大樹ファルカウの加護の下に――
「今は静かにお眠りなさい……」
「……せめて、あなたのいた場所で育つ子たちはちゃんと守るから」
そして。二人は魔力を紡ぐものだ。
アゾフに苦しむ樹を、解放してあげる為に。
ドラマは全霊を込める。無為に二度も三度も討ちたくはない。一度限りの火力で焼き尽くそう。
……汚染された樹は未来に持っていけぬ。だからキルシェは……
護れなくて、ごめんねと。何度も何度も呟くものだ。
だけど。皆の事は忘れないから。
皆が此処にいたことを――ずっと覚えておくから。
「――さようなら」
その呟きは誰のモノであったか。
分からない。だけれども、自然を愛おしんだ一言であるのは確かだ。
アゾフを滅す。全霊たる一撃で、せめて苦しまないようにと。
……さすれば。
――ぁりがとぅ――
刹那。声が聞こえた気がした。
風の囁きではない。確かなる声が……
「私の領地でも林業を行っているので、病原体を持ち帰るわけにはいかないのだ。
……さて。それじゃあこの区域を完了したことを報告しに戻ろうか。
あっ。その前に……胞子が身体についていないか? スプレーを掛けようか?」
「そうですね、胞子が付いていないか確認しておきましょう――
自分達が胞子を他の樹にばらまいたりして拡散したら、元の木阿弥ですしね……」
そして。期間前に確認しておくべきかと、モカとリディアは言うものだ。
服にアゾフの胞子が付いていたらまた広がってしまう。
故にモカは即座に体を綺麗に出来るスプレーを用いて消毒。
「積み残しは、無いでしょうか。念のため、最後にもう一度だけ回りましょうか」
「……そうですね。無為にならないように、そうしましょう」
そして。グリーフとドラマは語り、注意しながら来た道を観察しうるものだ。
樹を焼くなんて――これを最後にしたいから。
『ありがとう』と告げられた、最後の言葉を忘れたくないから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
胞子(アゾフ)、並びに汚染樹を駆除する事。
●フィールド
深緑、迷宮森林の一角です。
この辺りで後述する『汚染樹』の存在が確認されました――
汚染樹の駆除が皆さんの目的です。
周囲を捜索し『胞子(アゾフ)』『汚染樹』を見つけ、駆除してください。
時刻は昼ですので、視界などには特に問題ないでしょう。
無用な被害を避ける為には、保護結界などがあると便利かもしれません。(必須ではありません)
●胞子(アゾフ)汚染樹
それは所謂『病気に犯されてしまった樹』の事です。
『アゾフ』と呼ばれるソレは樹の外殻に取りつき栄養を奪い取り、やがて巨大な胞子となり更に周囲の自然へと自らを侵食させて拡大していく性質を宿した――病原菌です。
一説によると滅びのアークの増大により出現した存在なのだとか。
残念ながらこの度、アゾフの被害が広がっている区画が確認されてしまいました……
本来であれば病気などが広がっていないかチェックを担当していた幻想種がいたそうなのですが、冠位怠惰の事件の折に眠っている内に水面下で広がってしまっていたそうです。
このままでは更に周囲の自然を呑み込み拡大してしまう恐れもあります。
その前にアゾフ、並びに汚染樹を駆除してください――
●駆除方法
木々に、小さい胞子が付いているだけなら胞子を(魔法なりで攻撃して)狙い打てばOKです。
しかし『汚染樹』とまで呼ばれる、明らかに禍々しく巨大な胞子がくっ付いている個体は手遅れです。汚染樹は残念ながら『死んでいる』も同義です……腐っている様な臭いも伴っていますので、正常な(まだ救える)樹と汚染樹は簡単に区別出来る事でしょう。
汚染樹は最早斬り倒すしかありません。
まだ生きる未来の芽の為に――汚染された樹は、楽にしてあげてください。
ただし汚染樹は周囲に常に毒素の様な細かな胞子を撒き散らしており、高確率で【毒系列】や【痺れ系列】のBSを皆さんに付与してきます。更に、攻撃されると胞子を激しく放出して攻撃してくるようです。ダメージと【呪い】属性がありますので、ご注意を。
なお、例外的に本依頼では『火』の使用も黙認されています。胞子(アゾフ)は火に弱い様です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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