シナリオ詳細
<咬首六天>災禍撒く部隊を追って
オープニング
●強襲前の偵察
雪に白く染まる、針葉樹林の中。その中に、新皇帝派の魔種エカチェリーナが率いる隊の駐屯地はあった。
「まだまだ、数は多いんですね……」
「そうだね。一筋縄では行かなそうだ」
その駐屯地を樹々の陰に隠れながら眺めている水月・鏡禍(p3p008354)とマルク・シリング(p3p001309)が、小声で囁き合った。
二人はサングロウブルクでの戦いの後、魔種エカチェリーナの居所を探るべく、それぞれ情報屋に依頼を出していた。結果、エカチェリーナ隊本隊駐屯地の情報と共に、同じくエカチェリーナ隊本隊を狙う者がいると言う情報を得て、合流したのである。
エカチェリーナ隊は、シンデンに続いてサングロウブルクでも、寒空の下で無辜の住民を磔にして人質とした。シンデンの事例は二人とも直接見てはいないが、街一つ分の住民が磔にされていたと言うから、その規模はサングロウブルクの時の比ではなかっただろう。――そもそも、人数の多寡に関わらず、無辜の住民を寒空の下に曝して人質とする所業自体が非道であった。
エカチェリーナを、そして彼女が率いる部隊を放置することは出来ない。サングロウブルクでエカチェリーナ隊の所業を初めて知った鏡禍はもちろん、ゲヴィド・ウェスタン北方の戦いからエカチェリーナ隊を追ってきたマルクも改めてそう強く認識した。
だが、何人かの仲間はいるとは言え、ただこの数の中に飛び込んでも自殺行為にしかならない。いくら自分達が特異運命座標であるとは言え、敵にも魔種は複数いるはずなのだ。ゲヴィド・ウェスタン西方で散った魔種の例もある。
エカチェリーナ隊本隊に攻撃を仕掛けるにしても、目的をしっかりと設定して、それに相応しい動きをする必要がある。共にそう認識した鏡禍とマルクは、その目的を何処におくか決めるべく、仲間達のもとへと戻っていった。
●エカチェリーナの逃走
「大佐! 敵襲です!」
「く――おちおち療養もしていられんとはな」
天幕の中に、階級の高そうな壮年の軍人が入ってきた。そして、敵襲――イレギュラーズ達の急襲――を知らせる。ベッドに身体を横たえていたエカチェリーナは、身を起こすと苦痛に顔を歪めた。
「私は、逃げる――ここで、死ぬわけにはいかんのでな。
ステーツ中佐。貴様に、この隊の指揮権を預ける。襲撃してきた敵を、見事返り討ちにしてみせよ」
「はっ!」
「親衛隊は各自コランバインに搭乗させ、私の援護に当たらせよ。
ストリガーとヘァズ・フィラン以外の天衝種は、親衛隊の後詰めとして待ち伏せさせるのだ」
「かしこまりました――大佐、ご無事で」
「……ああ。では、頼んだぞ」
ステーツ中佐の肩をポン、と叩くと、エカチェリーナは天幕を出て逃走を始めた。ステーツ中佐も、迎撃の指揮を執るべく自身のパワードスーツ『コランバイン・カスタム』の元へ向かうのだった。
- <咬首六天>災禍撒く部隊を追ってLv:30以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年01月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC3人)参加者一覧(8人)
リプレイ
●いずれエカチェリーナを討つために
「エカチェリーナを討てなくとも、治療の時間を与えず追い込めば長期的なダメージを与えることができる。敵陣営に、確実に打撃を与えていこう」
エカチェリーナ隊の駐屯地を前にして、『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)が仲間達に呼びかけた。
マルク達は、これまで無辜の住民を磔にして寒気に曝すという非道を繰り返してきたエカチェリーナ隊の本隊への急襲を企図したが、エカチェリーナ隊本隊の規模は想定していたよりも大きく、今回の攻撃だけでエカチェリーナの撃破とエカチェリーナ隊の殲滅の両方を達成するのは困難と判断された。故に、両方を満たそうとすれば虻蜂取らずになりかねず、攻撃の目標をどちらに置くか決める必要があったのだ。
そして、イレギュラーズ達は今回はエカチェリーナ自身には固執せず、エカチェリーナ隊の戦力を削ることを選んだ。言わば、マルクの言は仲間達への意思確認であり、鼓舞でもあった。
「そうね。急いては事を仕損じるっていうし、まずは敵の数を減らさないと!」
「急がば回れって奴だねえ、ヒヒヒ!」
『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)と、『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、それに応じた。特に、スティアはサングロウブルクでのエカチェリーナ隊の非道を直接目にしており、その意気は軒昂だ。武器商人はエカチェリーナ隊の非道は目撃してはいないが、ゲヴィド・ウェスタン北方の戦いで惜しくもエカチェリーナ自身を取り逃がしていた。
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は、無言で深くマルク達の言に頷く。鉄帝の敵を厭い、鉄帝の脅威を払わんとして戦ってきたオリーブもまた、エカチェリーナ隊の非道を知っている。エカチェリーナ自身が討たれるにしろ、エカチェリーナ隊が戦力を減じるにしろ、鉄帝の脅威が減るのならオリーブにはどちらでも良かった。
(次は絶対に本人を討伐してやろうと思ってたが、そうもいかないか)
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、エカチェリーナ隊の非道を知る者である。それだけに是非エカチェリーナを討ちたいとエカチェリーナ隊への攻撃に参加したが、まだそうは行かない。それが、少し残念ではあった。
だが、こうして部下の戦力を削いでいけば、エカチェリーナを追い詰められるはずだ。そして、それは体勢を整える余裕を作らせない事にも繋がる。
(……人を虐げる作戦を実行する暇なんて、与えない!)
イズマの胸には、闘志が熱く燃え盛っていた。
(さて、私はシンデンの街で戦って以来ですかね、彼女の部隊と接触するのは……しばらく見ない間に、他の場所でも暴れて下さったようで)
仲間達の会話に耳を傾けながら、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)はエカチェリーナ隊の駐屯地を見やる。シンデンとは、エカチェリーナ隊が最初に住民を磔にする非道を行った街のことだ。
(ま、今回は確実に部隊を削るために動きますが、いよいよエカチェリーナさんも追い詰められていますかねぇ……ククッ、この場で確実に手足となる部隊を削り、次こそは仕留めるとしましょう)
事実、重傷を受けて療養中に本拠たる地を襲撃されると言うのは、追い詰められていると言えた。その状況でエカチェリーナ隊の戦力を削っておくことは大きい。
(――せいぜい、それまで逃げてくださいよ?)
逃げようが結局は無駄だと言わんばかりに、ウィルドは内心でエカチェリーナに告げた。
●魔種、カイ・ステーツ中佐
イレギュラーズ達がエカチェリーナ隊本隊を急襲して、しばらくはエカチェリーナ隊は混乱の最中にあった。その中で、イレギュラーズ達は次々と量産型コランバインを、新皇帝派軍人を、天衝種を撃破していく。だが、少しすると一機の他とは違うコランバイン――紫色の、全長四メートルのパワードスーツ――が現れた。すると、途端にエカチェリーナ隊は落ち着きを取り戻した。
このコランバインを操っているのは、既に逃亡したエカチェリーナから隊の指揮を任された、カイ・ステーツ中佐。コランバインの機体から放たれる魔の気配に、イレギュラーズ達はカイが魔種であることを確信した。
「指揮官で、魔種か――それなら!」
イズマは、カイを逃がしてはならない敵と判断。カイの周辺に漂う根源たる力を穢れた泥に変え、その運命を黒く塗り替えていく。
「うっ!?」
生命力を削られるよりも、得体の知れない何かのプレッシャーを感じてカイが呻いた。
(ここで多くの敵を倒しておくこと――そうすればきっと、二度とあのようなことはできないでしょう。
いえ、できないようにここで、そんな気が起きないようにコテンパンにさせていだたきます)
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)は前進すると、カイの周辺にいる新皇帝派軍人や天衝種に手鏡を向けた。
「あなたたちが闇へと身を落とす前に、僕が救ってあげますよ――感謝してくださいね、軍人さんたち」
手鏡から放たれる薄紫色の妖気と、煽るような鏡禍の言葉に、カイと新皇帝派軍人、天衝種はあからさまな敵意を向けた。
「貴方の相手は、私よ!」
カイの抑え役を必ず務めあげる、その固い意志をスティアは魔力に換え、矢の形に整えて撃ち出した。魔力の矢は、カイのコランバインの装甲を易々と貫通した。その様は、スティアの折れない心が何者にも屈しない様を表わしているかのようだった。
「何ッ!?」
コランバインの装甲をいとも容易く貫通されたことに、カイは驚愕し、敵意をスティアへと向け直した。
だが、カイは動けない。イズマの攻撃の圧が、動こうとするカイの身体を押し止めていた。けっきょく、カイは攻撃の機を逸してしまう。
「やれやれ……魔種の世界でも上司を護る為に命を投げ打つ部下ってのは同じかい。
そうまでして死にたいなら……お望み通りにってやつだ!」
「抜かせええええ!」
鏡禍がカイの周辺にいる敵の敵意を煽ったことで、カイへの道が出来た。『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)はその道を通ってカイへと迫ると、死神の大鎌を横薙ぎに振るった。コランバインの装甲が薄い部分を斬り裂いて、大鎌の刃がカイの身体を斬る。だが。
(思ったより、出血はしないか)
大鎌の刃に付着した血液の量が少ないのを見て、ミーナはカイに出血を強いるのは得策ではないと判断した。
ならばと、ミーナはコランバインの機体に直接手を当てる。そして、瞬時に高めた闘気で無数の針を生成し、コランバインを突き刺した。至近距離からのあまりにも多数の針に、カイは回避もままならずコランバインに多数の穴を穿たれた。
続けてミーナは、死神の大鎌を握り直して再度横薙ぎに振るう。再び、コランバインの装甲が薄い部分を斬り裂かれてカイが斬られた。が、それだけではない。
「――!?」
カイの視界から、ミーナの姿が消えた。その直後、自らの影から飛び出したミーナが、さらに大鎌を横に薙いで、同じ場所を狙い斬りつける。
「自慢の装甲も役に立たなくて悪いな! 私は元暗殺者だからよ……鎧の隙間を狙うなんざ、朝飯前なんだ!」
「ぐぬ、ううっ!」
立て続けに攻撃を受け、装甲の内部まで刃を通されたカイは、呻くしか出来なかった。
「くくっ、どこを見ているんです? 真面目にやらないと、そのガラクタ諸共スクラップになりますよ?」
ミーナに続いて、ウィルドがカイに迫る。内功を身体中に巡らせて得た護りの力を破壊力へと換えて、ウィルドはコランバインの装甲に掌底を叩き付けた。
「何を――ぐおっ!?」
掌底の衝撃が、完全にではないがコランバインの装甲を徹り抜けて内部のカイへと伝わった。カイは、その衝撃に思わず呻き声を上げる。
「身を捨て死兵となってエカチェリーナを逃がさんとする、その忠心には敬意を表する。
けれど僕は、君を見逃す訳にはいかない。魔種としても、非道を働いたエカチェリーナ隊の将としても、だ」
「敬意、か――それには感謝しよう。元より、この場に残った以上逃げる気などない。
見逃さぬと言うなら好都合――さぁ、しばらくの間、私に付き合ってもらおう!」
マルクもまた、カイへと迫る。その口上に感じるものがあったのか、カイも受けて立つと言わんばかりにマルクへと返した。
互いに口上を述べ合う間にも、マルクはカイの周囲の根源の力を穢れた泥へと返じて、イズマが黒く塗り潰した運命をその上から厚く塗りつけていった。
「ぐっ……また、これか……!」
イズマに攻撃された時と似た感覚に、カイは顔を歪めた。
「それじゃ、我(アタシ)はキミ達の相手をしようかねぇ」
「くっ……何だ、こいつは!」
「撃て! 撃て!」
武器商人は、カイを援護しようと駆けつけてきた新皇帝派軍人や天衝種の群れに対して、己の存在を誇示した。新皇帝派軍人や天衝種の心に、武器商人の存在を許してはならないと言う警告のような何かが響く。かくして、カイの援護に来たはずの彼らは武器商人に釘付けとなった。
(軍人も天衝種もとにかく数が多く、まともに相手はしていられません)
そこでオリーブが選んだのは、走り回って狙いを絞らせないようにすることだった。その合間合間で、クロスボウによる掃射を浴びせていく戦法だ。さっそく、オリーブは居場所を変えてから、武器商人の周囲に集まった新皇帝派軍人や天衝種に向けてクロスボウを撃った。その矢に撃たれた新皇帝派軍人や天衝種らは、次々とその場に倒れ伏した。
●カイ・ステーツ中佐の最期
カイからの攻撃はスティアに、それ以外のエカチェリーナ隊からの攻撃は鏡禍と武器商人に集中した。やがて、戦闘が進むうちにカイからの攻撃に耐えきれずスティアが深手を負う。スティアの護りの技量は高いレベルにあるのだが、カイの技量がそれを上回っていたこと、また防御を貫通してくるビームカノンを撃ってくることから、限界に至ったのだ。
スティアが危ないと見ると、武器商人はカイの抑え役を交代した。これにより、武器商人と鏡禍は可能性の力を費やさなければならないほどの重傷を負うことになる。だが、二人とも可能性の力を費やすことなく立ち続けていた。
その間に、ミーナ、マルク、ウィルドがカイへの攻撃を重ね、イズマ、オリーブがカイの周囲へと集まってきたエカチェリーナ隊の戦力を削っていた。武器商人、鏡禍もまた、自身に集まってきた敵を攻撃してはその数を減らし、減らした分さらに敵を自身へと引き寄せる。特に、受けた傷以上の威力を自らの攻撃に乗せる武器商人は、自身が倒れないこともあって無双の言葉が相応しい状態になっていた。
戦いが進むにつれて、イレギュラーズ達の気力は当然消耗していく――のだが、エカチェリーナ隊攻撃に協力せんと馳せ参じた『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)、『雪の花婿』フーガ・リリオ(p3p010595)、そしてマルクの号令が、イレギュラーズ達の気力を支え、繋ぎ止めた。
やがて戦闘は、戦場にいるエカチェリーナ隊の多くが斃され、カイもまたあと少しでその後を追いそうな状況に至る。コランバインは既にボロボロに破壊され、カイは生身で戦わざるを得なくなっていた。
「ここで、倒れてもらう!」
イズマは、異空間を顕現させてがカイをその中に飲み込んだ。異空間の中で、カイの身体に無数の針が突き刺さる。のみならず、その身体を絞るように締め付けて捻った。異空間が消滅して解放されたカイの身体には、これまで受けた傷に加えて無数の針の痕が刻まれていた。
(一気に、行きますか)
オリーブもまた、カイの撃破が近いとみて、カイに攻撃を仕掛けた。殺人剣の極みである一閃が、二度カイに放たれる。カイはその双方を避けることが出来ずに二度袈裟に斬られ、その身体にはX字状の深い傷が刻まれて、そこから鮮血が噴き出した。
「あばよ」
短く、ミーナはカイに告げた。同時に、掌をカイの水月に当てる。すると、無数の闘気の針が現れ、カイを貫き続けていった。イズマに刻まれた針の痕と合わせ、カイはもう針で穴を空けられてない場所を探すのが困難な状態となっていた。さらに、その穴のそれぞれから鮮血が滴り落ちるため、カイの身体はどこもかしこも紅く染まってしまっている。
だが、ミーナの攻撃はまだ終わらない。ミーナは、死神の鎌を横薙ぎに振るった。この一撃は布石――だが、カイはそれも避けることが出来ず、腹部を横に大きく斬り裂かれてしまう。そして、本命。得物を『希望の剣 【誠】』に持ち替え、大上段に振りかぶり、一気に振り下ろした。カイの頭頂から股間まで、縦に大きく深い傷が刻まれる。
「まだだぜ――」
さらに、ミーナは西風の神の名を冠したアミュレットを起動させ、時間に干渉した。それによって為した無数の斬撃が、カイを斬り刻む。既に、その身体はズタズタに傷ついていた。だが、それでもなおカイは倒れず、戦い続けようとする。
「如何した……私はまだ、生きているぞ」
「随分と、粘りますね……エカチェリーナさんへの忠誠故ですか?」
「そうだ……それに、どうせ貴様らは私を見逃さぬのだろう? ならば、あがけるだけあがくしかなかろう」
「――確かに、そのとおりだ」
カイは、来いとばかりに掌を上に向けて、くいくい、と指先を自分の方へと動かした。ウィルドは、そこまでして粘る理由をカイに問うた。カイは、それを素直に認める。それに続くカイの言葉を、マルクが首肯した。
ここでカイを見逃せば、魔種を野放しにすることになるだけでなく、エカチェリーナ隊に魔種と指揮官を戻すことになってしまう。それに、仕留め損ねたためにサングロウブルクで二度目の非道が行われることになったエカチェリーナの例もある。何が何でも、カイはここで倒しておかねばならなかった。
話は終わったと言わんばかりに、ウィルドとマルクが動いた。
ウィルドが、内功を身体中に巡らせて得た護りの力を破壊力へと換えて、掌底をカイの腹部へと叩き付ける。同時に、剣状に収束された魔力の刀身が、カイの胸を貫いた。ごぽり、とカイの口からは大量の血が流れ落ちる。
「そろそろ、終わってもらいますよ。僕達は、まだまだこいつらを殲滅しなきゃいけないんですから」
「そうね。悪いけど、これ以上粘られるわけにはいかないわ」
これだけの傷を受けてなお生き存えているカイに、鏡禍は呆れ気味に言った。カイ一人に、これ以上時間を取られたくはない。殲滅するべき敵は、この場にまだたくさん居るのだから。その鏡禍の言を、スティアも首肯する。
スティアは、ごく小さな無数の炎をカイの周囲に舞わせた。桜吹雪の如く舞う炎は、カイへと集まっていく。既にそれらを回避する余力のないカイは、全身を炎に灼かれた。ジュウ、と言う音と共に、肉の焼ける匂いが辺りに立ちこめる。そこに鏡禍が駆け寄り、これまでのエカチェリーナ隊の非道への憤激と、自身の持つ護りの力を変換した威力とを拳に込め、カイの顔を殴打した。既に立ち続けることも出来なくなったカイは、殴られる勢いのままに倒れ伏した。
「ぐ――」
「いやいや、もう立たなくていいよぉ――“我らの痛みに喝采を!”」
それでもなお立って戦おうとするカイに、もう終わりだとばかりに武器商人が告げた。そして武器商人は純然たる“力”と報復の業炎とを混ぜ合わせ、無形の剣を生み出した。その柄を持った武器商人は、ヒュン、と剣を一振りする。その一閃で、カイの頭と胴体は泣き別れた。それは、常人なら何度死んでいるかわからないほどの傷を負いつつも戦おうとし続けるカイへの、介錯のようにも思われた。
カイが討たれると、エカチェリーナ隊は再び混乱に陥り、量産型コランバインも新皇帝派軍人も天衝種も我先にと逃亡し始めた。少しでもエカチェリーナ隊の戦力を減らしたいイレギュラーズ達は、追撃を行いさらなる屍の山を築きあげた。敵拠点に乗り込んでの乱戦であるだけに、具体的な戦果は不明であるが、事前の偵察結果を踏まえれば最低でも半減はさせたはずだと言う確信は持てた。
そして、逃亡したエカチェリーナの行方だが――マルクの飛ばした鳥のファミリアは、森に視界を遮られてエカチェリーナを追い続けることは出来なかった。だが、戦闘の目として参戦しようとしていた『玉響』レイン・レイン(p3p010586)がエカチェリーナに目を付けてそこそこ遠くまで追っており、その言によればエカチェリーナは帝都スチールグラード方面に逃亡していったと言うことであった。
(これ以上、エカチェリーナに非道な真似はさせない――僕らは、猟犬のように彼女を追い詰めよう。
安寧の夜など与えない。盾となる部下は擦り減らしていく。いつか彼女が斃れる時まで)
遠くスチールグラードの方を見やりながら、マルクはそう心に誓った。追われ続ける恐怖こそ、虐げた命の贖いに相応しい。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍により、エカチェリーナ隊は(GMの想定以上に)その戦力を大きく減じました。リプレイ中にも描写したとおり、はっきりとした戦果は確認しにくい状態ですが、皆さんの体感として「最低でも」半減以上はさせたと考えて頂ければと思います。
MVPは、タンクとダメージディーラーの両方で戦況に大きく貢献したとして、武器商人さんにお贈りします。EXF100以上のタンクが敵の攻撃引き受けてHP下げてほぼ300ある復讐乗っけてくるの、ホント無双状態でやっばい……。特に今回、敵が次々と湧いてくる状況だけに、それがよく噛み合った印象でした。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
今回はマルクさんと鏡禍さんのアフターアクションから、エカチェリーナ隊本隊を攻撃するシナリオをお送りします。
頂いたアフターアクションとエカチェリーナ隊の状況から、二つのパターンを方針として想定しました。どちらのパターンを採るかは、皆さんでよく話し合って決定して下さい。万一選択や行動が割れた場合、意思統一が出来ていなかったとしてその分不利に判定される可能性があります。
【概略】
●成功条件
エカチェリーナ隊本隊を攻撃する
成功条件自体は、ほぼ達成しています。白紙プレイング多数とかでもない限り、これが覆ることはありません。
しかし、どれだけの結果を残せたかという成功度は皆さんのプレイング次第で大きく変動します。
いわば、今回のシナリオは成功は前提として、その成功度をどれだけ高められるか(≒エカチェリーナ隊に打撃を与えられるか、あるいはエカチェリーナを仕留められるか)というものとなっています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
鉄帝中部の針葉樹林の中。天候は晴天、時間はイレギュラーズ達が任意に決定可能。
ただし、哨戒は当然いるため、必ずしも夜襲=有利とならないのはご注意下さい。
●選択するパターンについて
エカチェリーナ隊は、これまでの作戦失敗で損害は出していますが、まだまだ兵力には十分以上の余力があります。そのため、今回の攻撃一度でエカチェリーナも討ってエカチェリーナ隊も壊滅させてとまではいきません。
そこで、以下の【A】【B】いずれを目指すかを皆さんで決定し、『全員がプレイング冒頭に選択肢を明記して下さい』。
【A】
エカチェリーナ自身は狙わず、エカチェリーナ隊の戦力を減らすことに主眼を置きます。
エカチェリーナ自身が倒されることはありませんが、今後彼女の率いる兵力は大きく減る可能性があります。
周囲から次々と援軍が参戦するため、継戦能力が重要となるでしょう。
【B】
エカチェリーナ隊の戦力を減らすよりも、エカチェリーナ自身を討つことに主眼を置きます。
エカチェリーナ隊の戦力はそれほど減らないでしょうが、エカチェリーナを討てる可能性はあります(なお、エカチェリーナが討たれた場合、隊は部下の誰かが引き継ぐか何処かの隊に吸収されると予想されます)。
エカチェリーナは逃げの一手をうち、数は少ないとは言え精鋭級の戦力が皆さんの行く手を阻むため、突破力が重要となるでしょう。
【パターンAの敵】
●カイ・ステーツ&コランバイン・カスタム ✕1
カイはエカチェリーナ麾下の新皇帝派鉄帝軍中佐にして、憤怒の魔種です。今回、逃走を図るエカチェリーナの代わりに、エカチェリーナ隊の指揮を執り皆さんを迎撃します。
コランバインはカイが装備――と言うよりも搭乗と言った方が近いのですが――している試作型パワードスーツで、一見すると重装甲のロボのようにも見えます。そのコランバインがカイに合わせて調整されたものが、コランバイン・カスタムです。全高は4メートルほどで、カラーは紫。
魔種の例に漏れず生命力が極めて高く、コランバインに装備している武装の火力も尋常ではありません。また、その装甲により防御技術も非常に高くなっています。コランバインは重量もあって回避は低めなのがネック……だったのですが、カスタムによって機動力を確保し、回避も高くなっています。
コランバインの各種武装は左右1対となっており、薙ぎ払い以外の攻撃は1回の行動で2回行われます。
なお、カイが【怒り】を受けた場合、通常の効果とは違って特殊な挙動をします。
・攻撃能力など
隠し腕 神至単 【邪道】【変幻】
普段は装甲内に隠匿しているアームです。その先からは、ビームサーベルが展開されます。
薙ぎ払い 神至範 【邪道】【変幻】
肩部ビームカノン 神超貫 【万能】【防無】
腕部ガトリング砲 物/近~超/範~域 【邪道】【変幻】【封殺】【致命】
腰部・脚部ミサイルポッド 物遠範 【多重影】【変幻】【鬼道】【火炎】【業炎】【炎獄】【紅焔】
自動ポーション投与システム
自動的に搭乗者にポーションを投与するシステムです。このため、カイのHPは毎ターンある程度回復します。
BS耐性
特殊抵抗にプラスの補正が入ります。
BS緩和
自爆装置 【識別】
・【怒り】を受けた場合
カイが【怒り】を受けた場合、【怒り】を与えたキャラクターに接近するのではなく、射撃武器何れかの射程に収まるように移動してから射撃を行います。その際、可能であれば出来るだけ多くのキャラクターを巻き込みにかかります。
なお、何らかの理由で移動が不可能である場合、上述の行動が可能になるような最適の行動を取ります。
●量産型コランバイン ✕多数
量産型であるため、性能はコランバイン・カスタムより劣ります。
武装と特徴、【怒り】を受けた場合の挙動はカイに準じます。一方、自動ポーション投与システム、BS耐性、BS緩和はありません。
●新皇帝派軍人 ✕多数
攻撃力と防御技術が高めで、回避と反応が低めです。剣と銃で武装しています。
●ストリガー ✕多数
アンデッドの天衝種です。火炎系BSを伴う燃える爪で攻撃してきます。
●ヘァズ・フィラン ✕多数
カラスのような天衝種です。弱者と判断した者を集団で嬲る習性を持ちます。
反応、機動力、EXAに優れています。嘴や体当たりで攻撃してきます。
【パターンBの敵】
●エカチェリーナ・ミチェーリ ✕1
新皇帝派の鉄帝軍大佐にして、憤怒の魔種です。しかし、その憤怒は心の中に堅く押し込めており、表面上は属性が憤怒であるとは想像できないほどに冷徹です。『<大乱のヴィルベルヴィント>氷雪の魔種 白き武装を纏いて』において重傷を負い、十全に回復しきっていないため、最初から逃げの一手を打ちます。
攻撃力は魔種にしては高いとは言えないのですが、身体の周囲に吹雪を纏い、その影響もあって反応、回避、EXAが高くなっています。さらには周囲に棚引く髪が氷結し盾となるため防御技術も高くなっています。ただし、それらの能力は負傷によりいくらかのマイナス補正を受けている上、生命力も本来よりは減少しています。
なお、『<大乱のヴィルベルヴィント>氷雪の魔種 白き武装を纏いて』で戦った結果として、マルクさんはエカチェリーナが高CT型であるらしいことを知っています。
・攻撃能力など
ブリザードソード 物至単 【凍結】【氷結】【出血】【流血】
吹雪の力を宿した剣です。
薙ぎ払い 物至範 【凍結】【出血】
ブリザードストーム 神超貫 【万能】【鬼道】【凍結】【氷結】【氷漬】【絶凍】
ブリザードソードから、直線上に猛烈な吹雪を吹かせます。
吹雪の魔法 神/中~超/範~域 【鬼道】【凍結】【氷結】【氷漬】【絶凍※】
吹雪を起こす魔法です。距離と範囲は撃ち分ける事が出来ます。
【絶凍※】は、範での使用時のみです。また、範で使用した方がダメージも上昇します。
身体を覆う吹雪
エカチェリーナの身体は、猛烈な吹雪に覆われています。このため、毎ターン開始時、エカチェリーナから10m以内の距離にいる者は、【鬼道】【凍結】【氷結】【氷漬】【絶凍】の付いた神秘攻撃を受けるものとして処理されます。
この効果はパッシブであるため、エカチェリーナはターン中に本来の自分の行動を行うことが出来ます。
●親衛隊&コランバイン・カスタム ✕10
搭乗しているのが魔種でないだけで、その他は基本的に【パターンA】のコランバイン・カスタムに準じます。
なお、こちらはエカチェリーナを逃がすと言う目的意識が強いため、【怒り】への抵抗判定に大きなプラス補正を得ています。
●ギルバディア ✕5
大型の熊のような天衝種です。すさまじい突進能力を持ついわゆるパワー型。
エカチェリーナの逃走経路で待機し、親衛隊を突破してきた皆さんを待ち伏せしています。
●スノー・グルゥイグダロス ✕10
氷雪の環境に適応した白い狼のような天衝種です。【凍結】系BSを伴う牙や爪で攻撃してくる、スピード型です。
エカチェリーナの逃走経路で待機し、親衛隊を突破してきた皆さんを待ち伏せしています。
●ジアストレント ✕5
普段は動く事のない、大樹のような天衝種です。動かない場合は隠密性能に優れており、一旦動き出すと巨体を利用した殴りつけなどを繰り出してきます。また、再生や充填の能力を有しています。
エカチェリーナの逃走経路で待機し、親衛隊を突破してきた皆さんを待ち伏せしています。
【その他】
●注意事項
コランバインへのカメラアイ潰しは、<大乱のヴィルベルヴィント>の結果を受けて対策されています。
塗料によるものであれ、物理的破壊によるものであれ、有効とはならないのでご注意下さい。
●サポート参加について
今回、サポート参加を可としています。
シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●エカチェリーナ関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
『 <総軍鏖殺>雪の街に立つ、無数の柱』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8438
『<総軍鏖殺>マキーホ平原会戦<トリグラフ作戦>』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8563
『<大乱のヴィルベルヴィント>氷雪の魔種 白き武装を纏いて』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8752
『<咬首六天>雪夜の雪原に並び立つ十字架』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8929
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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