PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<腐実の王国>流れゆく時の中に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義で妙な――しかし確かなる啓示が出た。
 それは現在の天義が『誤り』であるかのような一文……

 ――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
   主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。
   我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

 不吉な啓示だ。とても人の耳に入っていいものではない。
 即座に敷かれた箝口令……だ、が。
 幻想の国境に程近い港町エル・トゥルルで、既に異変は生じてしまっていた。
 その地に保管されていた聖遺物が毒に蝕まれたのだ。
 結果としてエル・トゥルルの街では狂気に犯される住民が発生しており――
「――マスティマ様、準備が整いました。これよりヴィンテント戦線へ向かいます」
「そうか。精々、励むことだ。ルルの奴は既に動いている。これ以上出遅れるなよ――」
 更には。その住民らを統制して何がしかを企まんとする者達の影もある始末だ。
 彼らは語る。『彼らの間』でだけ通じる言葉をもってして。
 『遺失言語(ゼノグロシア)』と呼ばれる――バベルですら解析出来ぬ言語をもってして。
「よいか。聞け。『預言書』の通りに世界は歩まなければならん。
 過ちの世界に価値はない。過ちの世界は救われなければならない。
 ――故に世界を正常に引き戻すのだ。
 幻想王国などと言う糞の極みが未だ世に蔓延るのは過ちだ。粛清せよ」
「かしこまりました。身命を賭しましても」
 その意は苛烈極まる。今の世の在り方、その全てが間違っていると言う様に。

 粛清せよ。粛清せよ。粛清せよ――

 その掛け声と共に、エル・トゥルルより船が出る。
 目標は幻想王国へと。
 正しい歴史の通り――幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演で、狂気が振りまかれ、国家滅亡の危機に陥る筈だった流れへと、引き戻す為に。


 ヴィンテント戦線。それは幻想と天義の国境沿いの一角を指し示す単語だ。海より接近しつつある船は、このままであれば幻想へと到達し王国へ雪崩れ込まんとするだろう――故に。
「その前に船を沈めてほしい、との依頼が入ったよ。船には、ワールドイーターを始めとした魔物が乗っているらしい……けれど、一部には天義の国民――詰まる所一般人も混じってるみたいだね」
 ただし、勝機は失っているようだけれど――と、語るのはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。天義の国境沿いでの騒ぎは幻想の近場にまで及んでいる……いやむしろ天義国内から幻想へと踏み込まんとする勢いが視られる程だ。
 先日は鉄帝の国境でも『影の兵』が目撃された事もあったが――
 アレと関連の在る事なのだろうか。恐らくほぼ間違いないだろうが……ともあれ天義からの軍勢を幻想に入れる訳にはいかぬと、フットワークの軽いローレットへ依頼が入った。

 連中が幻想国内に侵入する前に撃破するのだ。

 必要であればと依頼主――近隣の貴族――から船も貸し出されるとの事だ。接近するまでは恐らく特に問題ないだろう。問題なのは、先程もギルオスが述べた様に狂気に染まっている一般人が幾らか混じっている事。
「まぁ彼らの生死自体は直接依頼の成否には関係しないけれど……彼らとてエル・トゥルルの聖遺物が毒に犯されて正気を失っているだけだ。可能であれば助けてあげてみてくれ」
「それにしても何があったんだ――? その毒ってのは一体」
「まだ詳しい事は分かっていない。
 でも、噂の『啓示』と何か関係があるのかもしれないね……」
 箝口令の出された『啓示』。しかし人の口に戸は立てられぬ――
 いくらか天義中央でも噂にはなっているらしい。
 情報屋などの人物であれば容易く情報を入手出来る程度には。
 ……気になるのは『真なる遂行者』という単語か。
 それははたして魔種の何ぞやであるのか。
 或いは天義に蔓延る悪意はまだ――一掃されていなかったとでもいうのか。
 いずれにせよまずは目前の事態を片付けるべく思考を巡らせてみるとしよう。

 正しい歴史など知らない。我々は、今この流れゆく時の中に、確かに生きているのだから。

GMコメント

●依頼達成条件
 敵勢力の撃破・撃退

●フィールド『ヴィンテント戦線(海域方面)』
 ヴィンテント戦線とは幻想と天義の国境沿いの一角です。
 その中でも海域沿いが今回の依頼の舞台となります――
 天義方面より幻想へと向かってきている船があります。如何なる手段を用いても構いませんので、幻想国へ踏み入る前に鎮圧してください。

 なお依頼主から『小型船』に相当する船が貸与されていますので、特別に船を用意する必要はありません。しかし別途、小型船などのアイテムの類を持ち込んでいただいても構いません。(持ち込む船の方が性能は高いと思われます)

●敵戦力
・『致命者』アウグト
 この一団を率いている者です。
 聖職者の様な恰好をしていますが、詳細は不明です。
 『遂行者』なる人物の命を受け行動している様です。
 『正しい歴史の為に』などとのたまい、皆さんと敵対する事でしょう。

 戦闘能力としては治癒・BS解除能力を周囲に振るったり、敵のみを捉える光(神秘属性攻撃。識別アリ)を振るって攻撃してくる事がある様です。基本的には後衛タイプと言えるでしょう。

 また、時折意味不明な言葉を捲し立てる事があります。
 これは『遺失言語(ゼノグロシア)』と呼ばれるナニカの様で、崩れないバベルでも解析できません。ただ遺失言語(ゼノグロシア)を使う者同士では意思の疎通が取れるなど不思議な性質を宿しています。

・『ワールドイーター』×4体
 R.O.Oで観測されたモンスターです。
 現実では終焉獣(ラグナヴァイス)と呼ばれており、こちらでも同様に建物や大地などを『食べよう』とする傾向がある様です。真っ黒な、体中に幾つもの目を宿した獣の様な個体で、その為、死角が少ない様に伺えます。

 近接型の性能をしており、素早い動作から鋭い牙を用いて敵対者を喰らわんとしてきます。彼らの攻撃には【出血系列】や【毒系列】のBSが齎される事がある様です。

・『一般人(暴徒)』×10人
 狂気に染まっている天義の一般人です。
 激しい敵意と共に皆さんへと襲い掛かってくる事でしょう。しかしながら戦闘力が向上している訳ではないので、戦闘能力はワールドイーターなどと比べれば劣ります。
 不殺攻撃などで正気に戻すことが可能かもしれませんが、彼らの生死は直接依頼の成否には関係しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <腐実の王国>流れゆく時の中に完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
リエル(p3p010702)

リプレイ


「天義の事件が幻想まで波及しようとしているとは、ね。他国まで足を延ばそうとするなんて、想像以上にこの問題の根は深いのかもしれない」
「確かに、ね……『神託』、か。
 いずれにせよ魔物が乗った船をこのまま港に入れる訳にはいかないね。
 一刻も早く――食い止めるとしよう」
 小型船を操舵しながら敵の船へ接近せんとする『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)は発生しえた事態に『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)と共に思考を巡らせるものだ。『神託』の影響は……天義だけに留まらないという事だろうか、と。
 マルクは巧みに船を操り一気に往く。イレギュラーズ達の接近は向こうも気付くものだが、しかし航海の為の術を知るマルクの操舵の方が上だ――乗り込んでみせよう!
「神託の妨害者……悪魔どもだ! 討て! 我らが正義を示すのだ――!」
「アハッ。一般人を利用して兵士にしようとしながら、なーに言ってるの?
 そういうのボクが一番嫌いなヤツの一つだよ――覚悟はいいよね?」
 然らば致命者が声を張り上げようか。イレギュラーズ達を悪魔だと罵りながら……しかし暴徒の後ろにいる連中の事なんて『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は――大っ嫌いなのだ。
 人の命を使い捨ての携行品くらいにしか思ってない。道具として使って当たり前だとでも?
 だったら。
「ぶち殺しちゃっていいよね?」
「ヒィロ。構わないけれど――行き過ぎないようにね」
「分かってるよぉ美咲さん」
 アハッ。
 獰猛な、狩人の如き笑みの色を見せたヒィロ――彼女は超速の闘志を抱きながら、更に数多の撃を絶つ防の加護も自らへ。マルクらが海上より真っすぐ至るならヒィロは飛空探査艇を駆り空から接近する形だ。一直線に突っ込もう!
 そんな彼女へと声を掛けつつ動いているのは『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)か。彼女はまず突撃する前に船を見据えていた。壁を透視する術をもってして警戒が薄い所が無いか、を確認したのだ。そして在れば彼女は往く――透視に続いては壁をすり抜ける魔術によって内部へと潜入し。
「足場があると下ってまず死角なのよね……こっちの位置が見えるかしら?」
 いただきっ。と、呟くと同時に破滅の魔眼たる力を開きながら、穿つ。
 アウグトの下付近から上へと撃を叩き込むのだ。壁、いや彼女から見て天井か――を貫通せしめ甲板上へと一閃する。ヒィロが目立つように立ち回り動き、その隙に美咲が下より動きて敵陣を乱そう。
「神託の話は伺っていましたが、しかし……このような事態が発生するとは。やはり、話通りの内容の神託が下されたという事実は聖教国ネメシスにとって非常に重いのでしょうね」
「一つが片付けばまた次の悪意が生み出されてる――
 わたしには天義という国そのものが毒のようにおもえます。
 毒の根を片付けなければ、この国はきっと混乱の渦の儘でしょうね」
 更には『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)に『何度でも手を差し伸べて』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)も船へと乗り込もうか。アリシスは飛翔し、暴徒らの防衛網が薄い箇所へと降り立ちて。
 そのまま光を放とう。これもまた不殺の意思を込めた一撃の証。
 ココロも魔力を紡げば同様に。あぁ――
「歴史がどうとかイミフな主張は好きなだけ言っていればいいと思いますが――
 無関係の一般人を巻き込むのは看過しません。
 しかも明らかに正常ではない支配を行った上で、なんて……言語道断です」
 嫌悪の感情を、その胸に抱きながら。
 狂気は毒より出でて毒より禍々しい。
 何処にその毒の根源が在るのか。思考しながらも、攻撃の手は緩めず。
「一難去ってまた一難、ね。天義は次々と闇が生じるわ。
 天を最も強く信仰しているのに、試練を与えすぎな気がするわ――」
「ラサにとっちゃ傭兵の稼ぎ先が増えるとも言えるんだろうが……流石にキナ臭すぎる。単純に喜ぶ、ともいかんな。まぁ真面目にこなすとしますかね」
 さすればリエル(p3p010702)や『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)も敵船へと進むものだ。亜竜たるがんもに騎乗しラダは往く……まずは一般人たちの無力化だ。
 リエルは連続的に動きながら敵のみを掃う光をもってして彼らを狙おうか――その動きは先程船を動かしていたマルクも同様だ。狭い船内でも問題なく敵だけを穿てる不殺の意思と共に進んでいく。
 次いでラダは乗船する味方達の援護射撃。放たれるのがゴム弾であれば暴徒に当たっても命に別状はあるまい。邪魔はさせぬと引き金を絞り上げようか――
 此処で止める。必ず。
 強き意志を抱きながら――歴史を謳う者達と交戦へ突入した。


「悪魔を掃え! 天への道理は我らにあるのだぞ――!」
 致命者、アウグトは声を張り上げた。
 イレギュラーズを打ちのめさんと。暴徒は各々武器を持ちてイレギュラーズへと特攻する様に向かおうか――その背後からワールドイーターは隙を狙わんとする。数多の目玉があるが故に全方位の警戒と索敵は叶うのだから。
 如何に英雄たるイレギュラーズと言えど必ず隙はある筈だと――しかし。
「無駄だよ! あり得もしない機会を待つだなんて、もう負けてるね!」
 ヒィロが往く。彼女の行く手はブレーキ要らず! アクセル全開!
 止まらぬ彼女を止められる者がこの戦場のどこにいようか。
 極まった超速度の彼女にはそもそも撃が当たらぬ。万が一当たったとしても遮断する術が一切のダメージを通さぬか――あぁ。ねぇねぇボクはさ、お前の主のことなんか知らないし知りたくもないけどさぁ。
「無学なボクにもわかることが一つだけあるよ」
 それはね。そいつはこの世で一番、とびっきりのロクでもない奴だってこと――!
 怒るアウグト。でも、言ったはずだ『ぶち殺す』と。
 一番汚いとこ拭いたボロ雑巾をゴミ箱にダンクするみたいに!
「よし、ワールドイーターを抑えるよ。
 あれだけの眼玉があるんだ……逆に言えば、誘導もしやすいと思うしね」
「分かりました。引き付けはお願いします――一般人たちは此方にお任せを」
「流石に無傷で確保、とはいかないが。まぁ痛みは我慢してもらおう。
 このまま敵の先兵として突撃し、死ぬよりは遥かにマシだろう」
 同時。ヴェルグリーズはワールドイーターへと向かうものだ。
 連中の意識を誘導せんとしつつ、暴徒が襲い掛かって来れば蹴撃で追い払おう。
 そして暴徒に関してはアリシスやラダが引き続き無力化と確保に立ち回る。
「兵士ではない一般庶民を動かしても碌に戦果も上がらんだろうに……やはり目的の本命は侵略ではなく天義の弱体化だろうか? それとも『攻める』という行為自体を優先しているのか? それに何の意味があるのか……」
 同時にラダは射撃を繰り返しつつ、迫りくる暴徒の様子へと思案を巡らせるものだ。
 何かおかしいと。戦闘力はほとんど期待できない市民を兵力にするのは何故だ?
 歴史だなんだという発言が耳に届けば――もしや行為自体を優先しているのかとも思ってしまう。中身ではなく歴史の出来事を刻む様な……
 ともあれ暴徒達に関しては着実にその数を減らしつつあった。それはアリシスに限らず多くの者が不殺を行うに可能な技能を有していた面が大きく作用している。
「思考を忘れて行動するなら、神は最初から人に思考能力など与えはしない。
 ――寝て頭を冷やしなさい。起きたら説教よ。
 多少の痛みは、神からの贈り物だと思いなさい」
「海に落ちた人は私が――すぐに救助しますので、任せてください」
 例えばリエルやココロの一撃もそうだ。効率的に彼らを無力化する手段があったという事なのだから。或いはアウグトの治癒が行き届いていれば話は別だったかもしれないが、ヒィロが挑発を繰り返している事により治癒の手を割かせている事も影響していた。
 万が一衝撃によって海に落ちる人がいても、ココロが素早く助けられる。
 彼女の海種としての特性が、海をも足場と出来るのだから。
 ならば後に厄介なのはワールドイーターのみ――!
「逃げる意識なんて備わってないのだろうけど、愚直に過ぎるんだわ。
 機械的に動くだけなら大した事なんてない――討たせてもらうわよ」
『――!!』
 故に下から引き続き撃を加えんとする美咲も、ワールドイーターを狙う。致命者のついでだったが、さすれば甲板を突き破りて下に降りてくる個体もいるものだ。が、予想外ではない。虹色の瞳で知覚した敵の魂の『かたち』を削り取ってやろう。そして。
「よし。一般人はこれで確保できたね……ならこれで後は遠慮なしで行けそうだ!」
「まずは治癒を施します――ワールドイーターはまだ残っていますし、此処からが本番ですね!」
 マルクが全ての無力化した暴徒を船に乗せ終えた。
 ならば最早容赦は要らない。全霊たる神秘の泥を顕現し敵陣へと叩き込んでやろう――
 致命者もワールドイーターも纏めて押し流す様に。そしてイレギュラーズが負っている傷はココロが癒す。不死鳥の名を冠する治癒術が振るわれれば、ああ。負傷など一気に解消してしまおうか。
「おのれ無知蒙昧なる悪魔の■■■、■■■■――!!」
 突如。アウグトの声が聞こえなくなる――いや、聞こえてはいるのだが意味が分からない。
 ……何なのだろうかこの言語は。何なのだろうか、この言葉の根源は。
「気迫だけは認めるけれど――通じない言葉なんて獣の鳴き声と変わらないんじゃない?
 それとも他人には分からない言葉を使えるのが、そんなに誇らしいのかしら」
 だけれども同じことだとリエルは魔力を紡ぎながら、言を発するものだ。
 気迫があろうとも内実が伴わねば意味がないのだからと。
 直後。リエルの放った津波の一撃が――船を襲った。


「船については沈めても沈めなくてもいいらしい――
 一般人を救助出来た以上、もう遠慮はいらないだろうさ!」
 大きな衝撃。甲板上が波に攫われる様な中でも、アウグトは術の行使を止めぬ。
 流石にこの一団を率いていただけの事はあるのか彼の治癒術もまた精度の高いモノであった。彼が自由であれば暴徒らを倒すのに時間がかかっていた事だろう……しかし暴徒を削る事が出来た今、戦力的に彼へ撃は届く。
 ならばとヴェルグリーズは射線も通す為にワールドイーターへと相対。
 極限の集中状態へと至る彼の剣閃は卓越している。
 ワールドイーターの牙如きに彼が砕けようか――
 血を流さぬ。捌きて直後には返す剣で一閃すればむしろ追い込む程に。
 ――そして。依頼主から事前に確認はしたのだ、船は沈めてもどちらでもいいと。
「そうか――なら燃やさせてもらうとしよう。万が一この船が何らか影響で汚染されていたら、別の事件の引き金となるかもしれない。敵の狙いや思惑が、この船を彼方へと付ける事かもしれないからね」
「しかし。こんな船まで駆り出して、神託がそんなに大事かしら?
 仮に幻想まで辿り着けたとしても、そこで何が成せる訳でもないでしょうに」
 故にマルクやリエルも全力だ。剣状に収束された魔力が、マルクの剣撃へと至ろうか。
 極光の斬撃一閃。ワールドイーターの防御の上から切り裂き肉を割けば――其処へリエルの放つ極撃が叩き込まれる。傷口から抉り込む様に……さすればアウグトの治癒が追いつくようなモノではない。
「己の信念の白を信じて、今は黒を纏い動く。神よ我を赦し給え!」
 追い詰められていく。致命者達が。
 ワールドイーターもイレギュラーズ達へ撃を紡いで攻勢を仕掛ける、が。
「このまま殲滅戦に移行しよう。此処は海上だ。敵に逃げる場所もありはしないしな」
「念のため警戒は続けましょう。追い詰められた人が、破れかぶれ何をするか分かりませんし……しかし。悪事を働く者ほど聖職者の衣装を着る流行りでもあるんですかね? アドラステイアでもそうでしたし」
 数の上でも覆った戦場では今更流れを変える事も出来なかった。
 ラダの一撃が紡がれる。特に狙うのは致命者の方だ――奴が崩れれば治癒の手が無くなる。同時にココロは傷を負った者には治癒を。ワールドイーターには小魔術を無数展開。極大斉射にて焼き尽くさんとする――
 ……しかしワールドイーター、か。
(R.O.Oじゃ腹を空かせたまま殺してたが、その様子じゃこっちでも碌なもん食わせてもらってないらしい。ま、人なりなんなりを食ってもらっても困ると言えば困るが……)
 きゅうりの1本なり持ってきてやれば良かったかと、ラダは思考しつつ。
 彼女は引き金を再びに絞り上げる。全てを終わらせる為に。
「意思疎通ができないってのも、返せば容赦する意識が減っていいかもね」
 刹那。船の甲板に亀裂が走る――
 直後に、その亀裂をブチ破って現れたのは――美咲だ。
 傍にはワールドイーターの死骸もあるか。全力全開の『断ち』が終焉たる獣を上回った証。
 そして視線をアウグトへ向けようか。
 意思の疎通が出来ない? 結構。
 ――お互い、獣が向かってくるのと変わらない感覚で殺せるでしょう?
「お前の信仰よりボクの殺る気の方が強いみたいだけど? ホラホラもっと頑張ってホラ! あんよがじょーず、あんよがじょーず! あはは!」
 同時。彼女はヒィロと合流しようか。飛び跳ねる様に展開する彼女は、未だ健在。
 しかし美咲と共に往くのであれば些かに戦い方を変えよう。
 迸る闘志がアウグトの隙を誘う様に。一撃一寸が致命となる様に――
「それにしてもだーれも助けに来てくれないじゃん。お前が一般人を使い捨てようとしたみたいに、お前も主に使い捨てにされたみたいだねーねぇ今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち? 応えてよーアハッ!」
「黙れ、主の意思が分からぬ愚者があああ!」
「致命者って確か、既に亡くなったひとのデッドコピーだっけ。影人形と狂わせた一般人の集団積んで……わかりやすい人間爆弾だわ。成功すれば捨て石として良し。失敗しても懐は痛まない……そりゃあ、対応のよくわからん幻想側は沈めろって言うよね」
 そのまま、追い詰める。
 最早アウグトにも抵抗する力はほぼ無い……で、あれば。
「致命者よ。正しい歴史とは誰にとっての正しさですか。
 主? 主とは……『神』の事ですか?」
 最後に。問うのはアリシスだ。
 彼女は気になっている事がある。故に――
「神を主と呼ぶ者。啓示を下したのは神ではありませんね。何者です?」
「貴様らには分かるまい。あの方の尊さが――あの方こそ至高の■■!
 森羅万象の林檎を潰し砕き海の果ての雫を――」
 言を紡ぐのだ、が。まぁ。マトモな答えがあるとは思っていなかった。よってそこは良い。
 ――だが『これ』は重要だろうと彼女は思考するものだ。
 啓示は所詮手段に過ぎず、そして今回使用したのは少なくとも主に非ず。
 主を主と呼ぶ何者か、という事になる。
 ……例えば。アークにはイノリ、パンドラにはざんげ。滅びと回避それぞれには遂行者が存在しているのは明らかであり、魔種も含め何れも世界のシステムの内に等しく在る事は疑いようがない。
 ならば――今回の啓示を下した者――少なくともその長は――
(神に連なり滅びを遂行する者では……?
 アークの遂行者にして魔種やそれに類する者。
 つまりは……やはり冠位級、でしょうか。ならば後残っている者は……)
 彼女の思考は深まる。彼らの深奥を辿らんと……
 同時。彼女が顕現するは一つの魔の槍。
 ミストルティン。神を穿ち滅ぼすその一刺しをもってして――この場に終焉を。

「あああ――申し訳ございません、マスティマ様……」

 然らば刹那。彼は天を仰ぎながら名を一つ紡ぎ。
 直後。ヤドリギの枝たる魔槍が――アウグトを貫いた。


 船を焼く。幻想に辿り着く前に、完全に破壊するのだ。
 念のために船内に手がかりが無いか調査してから――
「船自体は平凡だね。少なくとも、調べた限りでは何もない……
 只の移動用か。手がかりは……致命者の残した、名前だけかな」
「微かなモノでも、念のためローレットに色々持ち帰りましょうか。
 後で調べて何か手がかりが出てくるかもしれませんし」
 マルクやココロが船内を探った。ものの、決定的なモノは無かった。
 一応日誌らしいモノは発見したのだが意味不明な文章の羅列が書かれているだけだ――が。念のためにとココロらは持ち帰る。依頼主には黙っておこうか。
「……天義で多く発生している事件と聞いてはいたけれど幻想の方にも手を広げてくるなんて……狙いは天義なのかな。それとも幻想? 根本的な原因を解決したい所だけど、どこから調べたものか。やっぱりエル・トゥルルかな……?」
「聖遺物ってヤツよね。聞いた限り天義にとって大事なモノみたいだし、保管されてる場所はエル・トゥルル以外にも限られてるかしら……」
「ホント、気分の悪い事件だよねーさっさと黒幕ぶっ殺して終わりにしたいな!
 隠れてないで出てくればいいのに!」
 次いでヴェルグリーズや美咲。ヒィロも船の調査を終えて出てくるものだ。
 視界に残さないように後は片付けるとしよう。
 裏に何が潜んでいようとも……黒幕の好きにはさせぬ。

 いつかその影に必ず辿り着いてみせると――決意するものであった。

成否

成功

MVP

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 エル・トゥルル方面より幻想に向かう一団は壊滅しました。
 天義にまつわる闇は深いですね……ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM