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シナリオ詳細

<咬首六天>カルネとガラスケースチャイルド

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ビスクドールのみる夢
 夢を見る。何度も、同じ夢を見る。
 目を覚ますと涙を流していて、思いだそうとすれば溶けるように夢の内容を忘れてしまう。
 けれど、忘れてはいけない。そんな、夢。

「さ、カルネ。帰るわよ」
 ローレット支部のそばにある自宅の玄関。その扉を開いて、母さんが言う。
 母さんの手には犬にはめるような首輪と鎖が握られている。
 いやだ。帰りたくない。出て行って。そんな言葉が喉まで出かかっているのに、喉からはかすれたような声しか出てこない。逃げ出したいのに足は泥のように重く、母さんはいつのまにか家の中に入っているんだ。
「もう、昔のことは気にしないの。ほら、ご飯食べにいきましょ」
 まるで些細な喧嘩を仲裁するかのように、まるで他人ごとのように母は笑ってそう言う。
 その言葉は、僕をどんな暴力よりも強く縛った。
「うん……いいよ」
 それまでが嘘のようにするりと出た声に、母さんは笑顔になる。
 僕をぎゅっと抱きしめて、そしてやっと『ごめんね』と言うのだ。
 そうだ。許してしまおう。家族はずっと仲良しじゃないといけないんだ。
 父さんは、母さんを裏切ったから。同じになったらいけないんだ。

●過去からは逃げられない
「カルネくん、大丈夫? 最近ちゃんと寝れてる?」
 瓶がいくつも入った箱を運びながら、三國・誠司(p3p008563)がそんな風に問いかけた。
 何気ない質問にカルネ (p3n000010)はいつものような笑顔で振り返った。
「勿論、僕は大丈夫だよ」
 当たり前のように言うカルネの顔を、誠司は三秒ほど見つめた。
 沈黙と凝視に堪えられなくなったのか、カルネは頬を赤らめて顔を背ける。
「ご、ごめん。実はあんまり眠れてない」
「仕方ないよ。あんなことがあったあとだからね」
 同じく荷物を運んでいたイーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)が馬車にそれを積み込んでから顔を出した。
 幌のついた馬車は大きく、中にはいくつもの荷物が積み込まれている。
 ここは鉄帝にある村のひとつで、大寒波がきたことで避難した人々がそれまで住んでいた場所でもある。もう誰も居ないせいでほとんど廃村のような雰囲気だが、避難するにあたって残してきた僅かな物資をこうしてかき集めに来ているのである。それくらいに逼迫しているとも言えるし、それくらい人手に余裕があるとも言えた。
 イーハトーヴが言う『あんなこと』とは、やはりカルネの出身村でのことだろう。
「あの人、なんか怖いひとだったなー」
 休憩を終え、清水 洸汰(p3p000845)が椅子代わりにしていた箱から腰を上げる。
 あの人という単語だけで、皆の脳裏に同じ人物が浮かんだ。
 ブランディーヌ・シャノワール。カルネの母。新皇帝派の陸軍参謀、グロース・フォン・マントイフェル将軍の傘下に入った人物。
 後の調べではブランディーヌは元軍人であり、部隊の『躾け』の能力に定評があったという。
 規律を守り巨大な一個の生命体のごとく連携する軍という組織において隊を躾けることは大事かもしれないが、それが子供の教育にも適用されていたことはカルネの当時の様子を見ていればわかる。
 あれだけハキハキと喋れていたカルネが異常なほど口ごもり、母から受けた『命令』に硬直するさまには、たとえそれが『家族外の友達』という立場であったとしても思わず手を出してしまうほどの状態であった。
 なにより、カルネは確かに『いやだ』と言ったのだから。

「カルネって、イレギュラーズとして召喚されてからも家に戻らなかったんだよな。それって、やっぱりあのかーちゃんがいたからなのか?」
 誰もが気になっていたことを、洸汰が尋ねた。
 荷物の積み込みを一通り終えて、あとは拠点に戻るだけとなった段でのことである。
 確かにそれは気になったという風にイーハトーヴが促すと、カルネは苦笑をして水の入ったボトルを手に取った。落ち着きなく両手でボトルを弄びながら、口を開く。
「最初は、なんとなくだったんだ。僕は村の外に出してもらえたことがなかったし、幻想の王都や鉄帝の首都が珍しかったっていうのもあるよ。
 母さんの言うことを守っていたら何も問題がない暮らしをしていたけど、やっぱり外への憧れもなかったわけじゃないから」
 そして、ボトルを持つ手に力がこもる。
「けど、『みんな』を見てるうちに僕の方がおかしかったんだって分かったんだ。
 皆は、自分がどうありたいかを自分で決めてる。洸汰も、イーハトーヴも、誠司もね。
 環境に左右されなかったわけじゃないけど、最後には自分で決めた。そうだよね」
 カルネの問いかけに、洸汰が静かに頷く。
 そうあれかしと作られた人間であっても、それを続けるかどうかは自分で決めた。
 イーハトーヴもそうだ。好きなもの、守りたいもの、進むか退くか。影響を与えた人物は多々あれど、決めたのは自分だ。
 誠司に至っては自分の進む道も生き方もその場その場で決めながら生きている。
 カルネにとって彼らはまぶしく……。
「僕もそうありたいと思うようになったんだ。だからね、皆と共にあれることが『うれしい』んだ」
 カルネもまた、『帰らない』ということを決めたのである。
 当然決めることへの苦手さ、優柔不断さが彼を随分と振り回したようだけれど……。
「けど、そのお母さんが心配でもあった。そうだよね」
 誠司の言葉に、イーハトーヴたちはハッと目を見開いた。
 あの村に避難を勧めるべく赴いたのはカルネ自身だ。どんな形であっても、母や同じ村の人々を見捨てることはできなかったのである。
 カルネは困ったように顔を伏せた。
「うん……けど今は、どう接していいかわからないんだ。少なくともローレットの『敵』になってしまったのは確かだから、拒絶するのが当然なんだろうけど……」
 確かに、これという答えはない。少なくとも、他の誰かが決めることではないだろう。
 友達としてできることは、答えを出すまで見守ることだ。
 たとえば回答を強制するような存在や、考えることを辞めさせる存在が現れたのなら……。

 と、その時。
 敵襲を知らせる笛の音が響いた。
 馬車がとまり、外へと飛び出す洸汰たち。
 空を見上げると炎の巨鳥が数騎にわたって編隊を組み、こちらへと接近しているのが見える。
 すぐに大筒を取り出しスコープを展開する誠司。
 望遠レンズ越しに見えたのは、帝国陸軍グロース師団を示す紋章。そしてその制服を着た、ブランディーヌ・シャノワールであった。

●母として、義務として、当然のことを
 ブランディーヌ・シャノワールにとって、カルネの拒絶はありえない事態であった。
 可愛い我が子を大切にするのは母という生き物にとって当然であり、保護するために手を尽くすのもまた当然だと考えていたからだ。
 カルネが優柔不断な、そして自分の意見を言えない子供だということは知っていた。それゆえ迷いそうな決断は常に代わりにしてあげていたし、カルネが悪い大人に利用されないように村の外には出さないようにしていた。
 村にもそういった人間が居残らないように手を尽くしたし、カルネにとって最も安全な環境を整えたつもりだ。
「やっぱり、首都で悪い人間に影響されたんだわ……」
 ガリッと爪を噛み、ブランディーヌは忌々しげに馬車の列を見やる。超人的な望遠視力によって、村にカルネが連れてきた何人かのイレギュラーズの顔も見えた。
「やっぱり、悪い影響は排除しないとだめね。あの子は弱いんだから、私が守って上げなくちゃ」
 ブランディーヌは夢想する。首都に確保したという大きな家にカルネを連れて行って、可愛い服を着せて温かい部屋で笑って暮らす光景を。カルネはきっと大鏡に映った可愛らしい自分を見て、顔をほころばせてこう言うだろう。『うれしいよ』と。
「待っててね」
 ブランディーヌは小銃を掲げ、攻撃の合図を出す。
 続く兵士達は一糸乱れぬ連携によって、騎乗していた怪鳥を降下させるのだった。

GMコメント

●前回までのあらすじ
 避難を勧めるべく実家へと帰ったカルネを待っていたのは、退役軍人である母ブランディーヌが新皇帝派グロース師団へと下ったという事実であった。
 幼い頃より心を縛られていたカルネの見せた小さな抵抗を汲み、彼を捕らえようとする村からの脱出に成功したイレギュラーズだったが、ブランディーヌはカルネを決して諦めてなどいなかった。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8877

●シチュエーション
 カルネと共に物資の輸送任務についていた一行。そこへ襲撃をしかけたのは新皇帝派の軍人ブランディーヌ・シャノワールであった。
 カルネの母であるブランディーヌは敵対するローレット及び北辰連合派閥員の妨害という任務とは別に、カルネを『悪い友達』から取り戻すという個人的な目的を抱えていた。
 物資は勿論、カルネの身柄も守るため。ブランディーヌの部隊を撃退しなければならない。

●エネミーデータ
 今回は調教したモンスター『フュネライ』に騎乗しこちらを襲撃してきています。

・ブランディーヌ・シャノワール
 カルネの母。退役軍人であり、元はグロース・フォン・マントイフェル将軍の息のかかった部下でした。
 今は軍に復帰し己の部隊を率いています。
 退役したとはいえ戦闘能力はかなり高く、部隊の指揮能力も非常に高い人物です。いるだけで周囲の部下の能力を大きく引き上げます。
 最も倒すのが難しく、かつ残っていると厄介という敵になっています。

・ブランディーヌ隊兵士×多数
 しっかりと躾けられた兵たちです。短期間でありながらまるでブランディーヌの手足のように柔軟に行動し、連携能力は非常に高いようです。
 個々の戦闘能力は低いですがそれを互いに補い合うことで高い性能を発揮しています。
 また、騎乗しているフュネライにも戦闘力があるため総合的な戦闘力はなかなかのものです。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <咬首六天>カルネとガラスケースチャイルド完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月26日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
三國・誠司(p3p008563)
一般人
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
有原 卮濘(p3p010661)
崩れし理想の願い手

リプレイ

●ガラスケースチャイルド
 雪のふる空を飛ぶ怪鳥、フュネライ。その声がよく聞こえるほどの距離に的の一団が近づいている。
「家族の問題に外から口を出すのは良くないケレド、いま口を出さないのはもっとよくないね」
 『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は馬車に積んでいた武装と通常行動用のパーツを付け替えた。ガキンと固定される音がして、小さく火花が散る。彼の友達が仕込んでくれた些細で小粋なギミックだ。
 友達の大切さを、彼は知っている。カルネにも知って欲しい。友達は『時間』をくれるんだってことを。
「決めるってのは、大変だよな」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は同行させていたワイバーンのリオンに呼びかけると、美しい鳴き声をあげて降下してくる青い鱗のリオンへと飛び乗った。
 そしてホルスターから魔道銃を抜き、空いた手に魔術式を起動させる。まるでジャズオーケストラの指揮者が手を掲げたかのように、彼の周りで踊る魔法が小気味よい音を鳴らし始めた。
「でも普通は良くも悪くも自分以外の誰かにそこまではできないから、自分で決めるしかない。
 言い換えるなら……他者はその程度の存在にしかなれない。なってはいけないんだ」
 一方で飛び上がるワイバーンを見上げ、『崩れし理想の願い手』有原 卮濘(p3p010661)は両手をポケットに入れて顔をしかめた。
「まーた来たのか……オマエ」
 フュネライによる編隊は美しいまでに統率がとられており、それ全体がひとつの生き物のようだった。はるか遠くからなら、はるかに巨大な怪物にすら見えたかも知れない。
 卮濘は隊列の中から下がり、物資輸送に用いていた馬車の影に隠れるように立った。
「そりゃ私だってまた来たのかーってしつこいくらいだけどさー……大概だぜ? そっちもよ」

 胸をおさえ、カルネがその場にうずくまった。
「カルネくん!?」
 毒や呪術をうけたのだろうか。『一般人』三國・誠司(p3p008563)が慌てて屈み顔を覗き込もうとする。
 地面をじっと見つめたカルネは口を真一文字に引き結び、鼻で小刻みに呼吸をしている。
 目の焦点が徐々にあわなくなり、顔からは汗がぽたぽたとたれはじめていた。
「カルネくん! しっかりして、カルネくん。立つんだ!」
 背を叩き、なかば無理矢理に腕を掴んで引き上げる。
「口で呼吸をするんだ。できるよ。ゆっくり深く。意識して」
 カルネが言われたとおりにする。
 地面に彼の水筒が落ち、ぬかるんだ土にわずかに沈んだのが見えた。
 『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はその様子を一瞥してから、あえて敵へと視線を向ける。
「放っておいてくれないだろうとは思ったけど、すごい行動力だね。
 カルネくんがひとりの時を狙われなくて良かった」
 母という存在は、カルネにとって呪縛だ。
 彼の選択を奪い。時間を奪い。自由を奪う。
 それが良いか悪いかは別だ。重要なのは、カルネが『選ぶこと』を選んだということ。
 イーハトーヴがそれを指示する限り、彼に選ぶための時間を与えられる。
(彼が自分で未来を選ぶ助けになれる)
 時間というものは、よく物事の解決の鍵にされる。だがいつも時間が与えられるとは限らず、そして大抵の問題は時間をかけることを許さない。
「やっぱりあの人、カルネを諦めてなかったかー! まーそんな気はしてたけどなー」
 『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)はバットを抜き、ぶんと冷たい空気の中を振り抜く。
 まるで騎士が剣でそうするように、洸汰はフュネライの隊列へバットを突きつけた。
「子供が負けても何度も挑む姿勢だったら評価するけど、アンタのソレは何か違う気がするぜ」
 するとポケットから『煌めく洋墨』を取り出し、野球の外野手がボールを塁手へ投げ込むかのように肩をつかって放り投げる。
「オレ達はオトナが率いる軍じゃない。だからこそ、そっちが知らないありとあらゆる手で邪魔するぞ!」
 それは、いわば子供からの反抗であった。カルネがやろうとしたことを、いま、みんなでやるのだ。

●桃色のカーネーション
「やっぱり、悪い影響は排除しないとだめね。あの子は弱いんだから、私が守って上げなくちゃ……。待っててね」
 カルネの母親であるブランディーヌ・シャノワール。彼女はカルネを『奪還』するための計画を順調に進めていた。
 村を引き払いグロース師団への正式入隊を果たすと、ごく短期間で数人の部下を調教。その一方で軍の情報網を利用しカルネの居場所を探った。
 彼が北辰連合に協力していることは本人の口から聞いていたことだったが、いくらブランディーヌといえどあの派閥へ直接出向いてカルネを連れ出すことが不可能であることは分かっている。
 そのため、物資調達のために外へ出るタイミングを注意深く狙っていたのだ。
「総員、注意しなさい。相手はローレットよ。その辺の雑兵と同じに扱わないように。いいわね」
「「了解」」
 部下の全員が全く同時に答える。
 ブランディーヌ隊と呼ばれた彼らは、生活の全てが彼女の管理下に置かれた従順な『道具』であった。
 いざ降下をしかけようとした所で、空中で何かが強く光った。
 洸汰の投げた洋墨もそうだが、リュカシスが同時には鳴った『星夜ボンバー』の光でもある。
 更にはイーハトーブの投げた『ジンベイザメのキーホルダー』の光も合わさり、戦場を派手に混乱させる狙いが分かった。
 命令系統の断絶が狙いだろうか。
 とすれば――。
 光の中から飛行し飛び出してきたリュカシスと騎乗したイズマ。
 二人が同時にブランディーヌ隊両翼の兵へと範囲攻撃をしかけたのだった。
「綺麗な編隊だから列の攻撃がよく通りますね! アッ、これは嫌味です!」
 リュカシスは猛烈な体当たりを仕掛けたかと思うと、即座に拡張アームを展開。ランドセルのように背負っていたパーツが変形し巨大な拳とパワーアシストパイプになったかと思うと、その重量でもって兵を殴り飛ばしたのである。
 フュネライから剥ぎ取られるかたちで転落する兵。
 それを想定していたのか、ランドセルジェットを起動させて落下ダメージを吸収する。
 一方でフュネライはリュカシスを攻撃しようと素早く反転をかけた。
「フォローを!」
「させるか!」
 イズマは畳みかけた。腕を振るうと魔法が発動し、広範囲に向けて派手なドラムミュージックが響いた。人間が撃てば手のひらが血塗れになるであろう高速のドラムがそのまま魔術的衝撃となり、ターンをはじめるフュネライへと襲いかかる。打撃による吹き飛ばしであると同時に、その機動力を奪う魔法だ。飛行戦闘において機動力の低下は大きなデメリットをもたらす。
 ブランディーヌは舌打ちすると、全員に降下を命令した。
 それを見下ろし、イズマは追撃に走る。
「俺達はカルネさんの代わりに決める事はできないが、カルネさんの決断を認める事ができる。
 見守ってるから、自分の事をじっくり考えてみたらいいと思う。
 ……それを妨げる権利は誰にも無い」

 次々に降下するブランディーヌ隊へ狙いを付け、卮濘は指鉄砲の構えをとる。
「威力収束──よし。今日の私は結構落ち着いてるっぽい」
 馬車の影から半分身を乗り出すと着地寸前の兵めがけて魔力砲撃を放った。
「いくら連携しようが……数の暴力は純粋な威力の暴力の前には無力なんだよ!」
 砲撃をうけ、吹き飛ぶ兵。が、次の砲撃を放とうとした時には盾を構えた兵がカバーに入り、その後ろからアサルトライフルを両手に持った兵によるフルアタックが仕掛けられた。
「おっと!」
 急いで馬車の後ろに回る卮濘。防御の整ってない馬車の素材など簡単に破壊されるが、そこは歴戦のイレギュラーズである。
 洸汰が素早く卮濘を引っ張り自分の後ろにかばうと、身を挺して銃弾を防御した。
「そういやオマエさぁー、悪い人間に影響されたとかいうけど、生憎イレギュラーズって人間だけじゃねーんだけど?
 ま、じ、で。悪い影響悪い影響って……親の教育が子供の人格形成に関わるんだ。
 オマエにも責任の一端はあるからな?」
 その後ろからあえて大きな声で呼びかける卮濘。
 その声がブランディーヌに届いていることは間違いない。
 それが分かったのだろう。洸汰が声を張る。
「なんでカルネがこの前『うん』を言わなかったか、まだ分かんねーの?
 アンタがガキみてーに、カルネがこーじゃなきゃダメ! ってワガママしか言わねーからだよ!」
「は? 我儘? 他人がいい加減なことを言わないでくれる?」
 ブランディーヌのヘイトを買ったのだろう。
 彼女の鞭が鋭く走り、洸汰の胸に斜めの深い傷を作る。
 が、洸汰がそれによって怯えたり、まして黙ったりすることはない。
 彼は永遠の少年であり。そうあることを決めたコドモだ。
「まーしょうがねーか、カルネが変わったって事を認めるより、オレ達を悪者にする方がよっぽど簡単だもんなー。
 自分の非を認めるのって、コドモにはできない事だからなー!」
 ヘイトが最大限に高まった所で、イーハトーヴはその隙をついた。
 『木漏れ日の指輪』をはめた手を翳す。
 雪の深いその風景に、デマントイド・ガーネットの石は春の陽光のように温かく輝いた。
 洸汰へ敵が集まるタイミングを待っていたのだ。
 腕を振ると残光が糸のように伸び、それは正しく無数の糸へとわかれ敵兵へと襲いかかった。
 周囲の木々や馬車。あるいは地面に突き刺さった魔法の爪によって糸が張り巡らされ、兵たちはギシッと糸に手足を取られた。無理に動こうとすれば手足を落としかねない鋭い魔法の糸なのだ。
 そんな中において、イーハトーブの意識はカルネのほうに向いていた。
「カルネくん、大丈夫だよ。
 君自身は勿論、君が自分で考える時間も守ってみせる。
 君の心も、掴む未来も。
 誰にも妨げられるべきじゃない、君のものだから。
 それからね、進む道を決めるのは君だけど、それはゆっくりでいいんだよ」
 誠司に腕を掴まれ呼吸を整えていたカルネは、その声に顔を上げる。
「イーハトーブ……僕は、いいのかな。
 僕が迷えば、それだけみんなの時間を奪ってしまう。
 今すぐ決めなくちゃ、いますぐ行動しなくちゃって……。
 僕だって、分かってる。母さんは異常だ。間違ってる。決別すべきだし、攻撃すべきなんだ。
 けれど決められない。心のどこかで、許したいって思っちゃうんだ。
 子供を愛さない親なんていないって。親を見捨てる子供なんていないって。
 僕は、僕は……きっと『悪い子』だ」
 吐き出すように思ったことを次々に言葉にしたカルネは、吐き出しきれないというように目を細めた。目尻から流れる涙が、吐ききれなかった言葉となってぬかるんだ土に落ちていく。
「カルネくん。僕の思ってる事を言うよ」
 その涙を拭うことなく、誠司は語りかけた。
 戦闘のただ中にありながら、まるで時間がゆっくりと流れるかのように。丁寧に。
「人は誰かと解り合う、っていうのは誰にもきっとできないと思ってる。
 だけど、解り合おうって思う事くらいは、誰にでも出来ると思ってる。
 特にああいうお義母さんみたいなタイプにはどうすればいいか、知ってる?」
 涙のこぼれた目で、カルネが誠司へ振り返る。
「どうすればいいの、誠司」
 大筒を担ぎ、ニッと誠司は歯を見せて笑う。
「思いっきり頬を張り倒す。これに限るね!」
 誠司はブランディーヌへ砲撃を放った。
 空中で鞭を放ち弾を切り裂くブランディーヌ。拡散したトリモチ弾を振り払うと、キッと誠司をにらみ付けた。
「なんでそこまでカルネくんに執着する!
 まるでカルネくんしか、あんたにはないみたいじゃないか!」
 誠司の呼びかけに、ブランディーヌは吠えた。
「その通りよ! 何が悪いの!? カルネは私のすべて! だから全力をかけて守ってるんじゃない! 私がどんな気持ちでこの子を育ててきたか知らないでしょう!?」
「知ったからなんだ!」
 更なる砲撃。
 それをかばおうと盾を構えた兵が間に飛び込もうとするが、それをイーハトーブの魔法の糸が阻んだ。いや、厳密には魔法の糸によって張り巡らせた『巣』の中を、拡張アームをパージしたリュカシスが跳ね回ったのである。
 空を飛び、糸に鋼の手を引っかけ急速にカーブし、糸を足場にターンする。敵にとっては刃であり、リュカシスにとっては足場だ。身軽に跳ね回る彼に翻弄され、兵が間に入れない。
 その隙にリュカシスは鋼のナイフを抜いてブランディーヌへ斬りかかった。
 鞭とは別の手でロッドを抜いたブランディーヌがそれを受け止める。スタンロッドなのだろうか。魔術による電流が走ったが、リュカシスは構わずナイフを強く押し込む。
「今ボク達は別件の仕事中です。取り込んでいますので。お帰りください」
 至近距離での撃ち合いになる。
 そんな間でも、リュカシスはちゃんとカルネを視界の端にとらえていた。
(カルネくん、お母さんを前にした時ぜんぜん普通じゃない様子だった。
 ブランディーヌ殿に強く命令されたら心とは関係なく身体が動いてしまうかもしれないなら、作戦中はなるべく彼女へ近づけないようにしたい。
 カルネくん……ボク達みんなカルネくんが大事だ。
 君がそうしたいって思う事は邪魔しないよ。でもさ……)
 ギィン――と武器をぶつけ合う音でリュカシスは飛び退く。
「一人にしないって言ったでしょ」
 洸汰が盾兵へと襲いかかり、そのバットで思い切り殴りつけた。その隙に卮濘が魔力砲撃を後方でフルアタックを仕掛けていた兵へ浴びせる。
 敵の陣形が崩れている。それは、ブランディーヌの心の乱れを如実に表しているようだった。
 敵兵が一人倒れ、二人倒れ。そのほころびは大きくなっていく。
 卮濘たちとて無傷ではないが、綻ぶスピードは相手の方が大きかった。
「カルネさんを邪魔してるのはそっちだろうが! カルネさんの言葉を遮るな。気持ちを妨げるな!」
 イズマがブランディーヌへと魔法銃による射撃を浴びせる。
 カルネへ迫ろうとする様子を察知したためだ。
 イズマたちを乗り越えてカルネを『奪還』することが不可能だと察したのだろう。ブランディーヌは悔しげに歯噛みした。
 そんな相手に、イズマは手を広げて翳す。
「あなたたちは今、一緒にいてはいけないんだ。それは、『あなたにとっても』必要だ」
「なん……ですって」
 わなわなとブランディーヌの手が震える。彼女の部隊が壊滅状態にあるというのに、その様子が見えていないかのように。
「カルネは私の子よ! 私の子を返して!」
「あなたの子だからだ、ブランディーヌさん。あなたは自分の子と離れなくちゃいけない」
 こくんと頷く誠司。
「カルネくんを『すべて』だと言ったよね。それは、あんたがあんたの人生を生きていないだけにすぎないんだ。
 相手に依存して、相手の人生に寄生しているだけにすぎない。
 カルネくんには、カルネくんの人生がある。あなたは、離れなくちゃいけない」
 それにね、とカルネへと向き直った。
 イーハトーヴと洸汰も一緒に向き直る。イーハトーヴの優しい目が、カルネの瞳に映った。
「ねえカルネくん。君は『悪い子』なんかじゃないよ。こんな時でも、お母さんのことを考えた」
「…………」
 カルネは目を瞑り、そして銃を手に取ろうとして……やめた。
「母さん」
 いつしか、戦闘の音は止まっていた。
「僕はもう、行くよ。暫く、母さんとは会わない」
「カルネ!」
「母さんは、自分のことを考えなきゃいけないよ。僕のことじゃなくて、自分のことを」
「だって、私はカルネのために……!」
「『自分のため』だよ、母さん」
 カルネは自らブランディーヌに背を向け、馬車へと乗り込んだ。
 それを止めるものはなかった。
「さようなら母さん。また会おうね。その時は、友達の話をするから」

 馬車が動き出す。
 ブランディーヌは道の真ん中に立ち尽くし、その光景を見送った。
 それしか、できることがなかったかのように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――ブランディーヌ隊によるカルネの追跡が止みました……

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