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シナリオ詳細

<咬首六天>急募:風邪の治し方!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●っくしゅん!
 久しく酷い病を患った覚えは無かったが、性質の悪い風邪を引いた。
 きっと昨年から何度も足を運んでいる鉄帝が寒すぎたせいだ。
(……でも、絶対にそれだけじゃない)
 ごほごほと咳き込んだ劉・雨泽(p3n000218)が思い浮かべるのは、先達てのシャイネンナハトのことだ。
 覇竜大陸からやってきた元気な(見た目は)ちびっこ亜竜種に絡まれて、寒い場所へと行ったのが決め手となったのだろう。その時から既にくしゃみが出ていたのだから。
 能天気そうな亜竜種の男の顔を思い浮かべれば苛立って――咳き込む。心を平静に保たねば、更に咳き込むことだろう。
 そんな訳で雨泽は文(ふみ)をふたつ書いてから、枕に頭を沈ませた。

 ひとつは断りの文で、ひとつは怒りの文であった。

●流行り風邪
 ――暫く外出(そとで)はできません。
 若干歪んでいるがそれでも綺麗な文字が簡潔に要件のみを綴るその文が、チック・シュテル(p3p000932)の元へと届いた。新年の催し物にでもと思っていたが忙しいのだろうと得心して、チックは今日も『お手伝い』出来ることはないかとローレットへと顔を出した。
 すると。
「風邪の治し方を教えてほしいんじゃ~~~!」
 元気な声が、今日もローレット内に響いていた。
 ぷかぷかと浮かんだ亜竜種――瑛・天籟(p3n000247)が「依頼人はわしじゃ!」と堂々とした面持ちで胸を叩き、依頼内容を話している。
「なんかのぅ、わしのせいで風邪を引いたとか言い掛かりを受けてのぅ。全く最近の若いもんは年寄り遣いが荒い。……風邪を引く方が軟弱なのでは? 鍛え方が足りとらんのでは? と思わんでも無いんじゃがの。ついでにろぉれっとの頼まれごともされたし、助けてやろうと思ったのじゃ」
 要するに、雨泽から小言と、ついでに治るまで休む彼の代わりとなるよう仕事を託されたらしい。
「鉄帝でも風邪が流行っておるようじゃの。例年よりも寒さが厳しいと聞いておるしのぅ、詮無きことじゃ。
 そこでの、風邪に効く民間療法があったら教えて欲しいのじゃよ。出来るだけ鉄帝の民が知らぬ方がよいじゃろうなぁ。わしも覇竜流を提案できればよかったんじゃが、風邪を引いたことがないからよぅわからんのじゃ」
「ガハハ! それなら俺が力になれるかもしれねぇな!」
 病にはやはり美味しいご飯。消化が良いものや身体を温めるものなら任せろとゴリョウ・クートン(p3p002081)が声を上げた。
「しっかり睡眠も取らなくちゃね。アタシも力になれると思うわ」
 悪い菌と戦う身体のためにも睡眠は大切だ。熱で苦しんで眠れない人でも眠れるように香を用意しましょうかとジルーシャ・グレイ(p3p002246)が微笑んだ。
「おれも、知恵だす……頑張る、よ」
「おお、おお! 頼もしいのぅ!」
 早速名乗りを上げてくれたイレギュラーズたちに、天籟がぷかぷかと浮き沈みをして喜んだ。
「色んな療法を知りたいのぅ」
 うんうんと頷いた天籟が「しかしの」と手にした煙管をくるりと回す。
 相手は病人であることを気にせねばならない、と。
 つまり、変な療法では鉄帝で風邪を引いて熱を出している人が悪化、もしくは最悪の場合――というのもあり得る。たかが風邪、されど風邪だ。栄養が足りずに寝込んでいる人を、死神の鎌は安易に刈り取っていくことだろう。
「変な療法は駄目じゃ。効くもので頼む。効果は主等で確認しとくれ」
 今回は、そういう場でもある。
 効くのであれば鉄帝の民にも勧められるし、用意したものは傷まないものなら配ることも出来る。
「それからこれはできれば……なんじゃが」
 最後に天籟はこう告げた。
 寝込んでいる子のために、温かな粥でも作ってくれんかの、と。

GMコメント

 あけましておめでとうございます、壱花です。
 雨泽が風邪で寝込んでしまったので、天籟からの依頼になります。

●目的
 風邪引きさんたちのために、効きそうなものの提案&自分たちで試そう

●シナリオについて
 風邪が流行っているので、治療の案出しや料理の試作等を皆で行いましょう。
 現地には赴かず、案を出したり、配布する物を作成したりします。
 適当な提案……効かないものではいけません。鉄帝の民も困ってしまいますので、皆で効きそうかどうかを試し合いましょう。

●流行り風邪
 鉄帝のヴィーザル地方で現在流行っている風邪の症状は、下記の通り。
 ・発熱   ・悪寒(withくしゃみ)
 ・咳    ・鼻(鼻水、鼻詰まり)
 ・喉の痛み

 ※雨泽も同じ風邪をひいています(下記)

●風邪対策
 鉄帝内で有名そうなものは、古くから根付く知恵として鉄帝の人たちは既に行っていることでしょう。(雨泽には有効かもしれません。)なので、鉄帝の人的には他国の療法をしれると嬉しいです。
 食べ物は、鉄帝でも手に入る物で作れるレシピや配布可能だと良いです。試作をし、皆で食べてみましょう。
 その他の物も配布可能(可能な範囲の伝手(金銭が絡むものは対策が必要)や形状)であったり、現地の人でも簡単に対策を行えたり作成できる案だとより喜ばれることでしょう。

●EXプレイング
 開放してあります。
 可能な範囲でお応えいたします。

●NPC
・瑛・天籟(p3n000247)
 亜竜集落ペイトで里長を始めとした民等の武術師範、そして里長の護衛をしているちびっこ亜竜種。
 味見くらいなら出来ます。非常に大雑把な性格で、料理は得意ではありません。
 健康優良児であるため基本的にOKなのでは?となりがちな思考ですが、明らかに駄目そうなものには待ったを掛ける良識もあります。
 雨泽宛の料理や薬等は、天籟に託すと届けてくれます。基本的に面倒見が良いので、世話を焼きます。

・劉・雨泽(p3n000218)
 弱っているところを見られたくないので、たぶん人前には出てきません。プレイングによっては最後に反応描写が入るかもしれません。
 少しの発熱なら仕事をするのですが、今回は割と無理をしがちな本人が驚くくらい風邪症状がでています。豊穣の苦い風邪薬は飲んでいますが、寝ても目が覚めてしまうような咳や発熱で長引いているようです。食事関連は割と不摂生です(肉と酒と甘味ばかり口にしてしまうし、不調時は寝る方を優先して食事を考えないタイプ)。ひとりだと割と何でも適当に済ませる癖があります。
 どこかの宿屋に籠もっていますが、どこで療養しているかの口止めを天籟にしてあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <咬首六天>急募:風邪の治し方!完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●あたたかに
 外では白く染まる息も、温かな室内では消えて。料理の試作も出来るようにと借りられたキッチン付きの借家には、吐息よりも温かな湯気の気配が漂っていた。
 家屋の中にはここのつの気配と、いくつもの音も溢れていた。
 何かの作業をする音、薪が燃える音、鍋を温める炎の音、温まる水分の音。
 それから――小言。
「あの馬鹿野郎」
 広いテーブルの上にいくつもの書物を置き、頁を手繰っている『医神の傲慢』松元 聖霊(p3p008208)の声だ。薬草らしき絵が描かれた書物を捲り、何やらブツブツと言葉を零しながら、時折付箋らしきものを本に挟んでいる。
 そんな彼の側では助手のアネストが付箋の付いた本や読了済みの本を丁寧に分け、そうして細かくメモを取っていっている。実に頼りになる助手である。今日は現地へは赴かないが、各地の知識を漁りそれを医療へと繋げることも立派な医療行為であった。
「どうして俺の周りには弱ってるとこを見せたくないだの、すぐ治るだの、慣れてるだの……医者の言う事聞かねぇ馬鹿が多いんだよ全く……」
 ちゃんとした適切な処置をすればすぐに治るのに、聖霊の側の『馬鹿たち』は平気で無茶も無謀もやらかすし無理だってする。本当に馬鹿ばかりだ。
 風邪とてそうだ。言えばちゃんと薬を用意するのに。
 病はいつだって早期発見早期治療が肝要だ。風邪と侮ることなかれ。咳は肺炎にだって繋がると言うのに。
「なんで診せねぇんだよ」
 小言だってひとつやふたつやみっつ……数え切れないくらい言いたくもなるというものだ。
「おれもそれ……思う、する」
 聖霊の側に、ことんと茶器が置かれる音がした。『かたわれを想う』チック・シュテル(p3p000932)が温かなハーブティーを淹れたカップを置いたのだ。
「飲んでみる、して。ほっとする効果……あるみたい、だよ」
「おう、ありがとな」
 エルダーフラワーとカモミール、タイムを混ぜたハーブティーは華やかすぎない優しい香りを放っている。気持ちを落ち着ける他にも解熱や殺菌にも良い効果が期待できると聞いて、チックは作り方を調べて作ってみた。
 どうかなと尋ねる視線に聖霊が頷き返し、チックははにかんでキッチンへと戻っていく。次の試作をするために。
「この寒さだもの、体調を崩しちゃうのも無理ないわ」
「ここ最近の類を見ない寒さだからな」
 聖霊の居る机で香草を広げている『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が口を開けば、梨が入った籠を手にした『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)がふと窓を見遣る。結露した硝子が内と外の温度の差を物語っている。
「鉄帝は長らく吹雪いとるっちゅう聞いとります」
 木材の長さを測っている『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)もつと視線を窓へとやり、すぐに手元へと戻す。
「薪にするにしては違うようじゃのぅ」
「使える薪の量も限られるでしょうけえ、これで炬燵を作ろうかと」
「こたつ……おお、豊穣の暖房器具じゃな!」
 物珍しさに興味を惹かれたのだろう。天籟が支佐手の手元を覗き込みながらくるくると飛び、「これならわしも手伝えそうじゃ」と解説を求めた。
 構造は簡単だ。木製の骨組みを作り、中で炭を焚き、毛布や布団を上にかけて熱を閉じ込めるのだ。暖炉で部屋全体を温めるよりも低コストで身体を温めることが叶うため、薪をはじめとした資材に乏しい鉄帝では喜ばれる器具だろう。
「シンプルなのも良いのぅ」
「組み立て方や使い方も記しておきましょう」
 いくつかをふたりで作って説明書も添えておけば、薪と間違われて暖炉に焼べられることはないだろうし、いいなと思った人が真似して作ることだろう。
 ふたりは鋸を手に、室内の隅で作業を始めた。

「さて、と」
 香草を選び終えたジルーシャは、室内の片隅で『Harmonia』――パフュームオルガンを広げた。彼が作るのは、アロマだ。猫の居る家や妊婦の居る家では使えないが、少量や短時間の芳香浴ならば赤子にも使うことが出来る。
 細やかな指先は、まるで音楽を奏でるように香草と戯れる。
 喉の痛みや咳を抑えてくれる、ユーカリ・ラディアータ。香りも爽やかで鼻詰まりにも効くため、呼吸を楽にしてくれるだろう。スーッとする香りが苦手な人ように、ベンゾインを少し加えた甘い香りも用意して。
 空気を綺麗にして免疫力を高めてくれる、ティーツリー。檸檬を混ぜれば血行をよくすることも出来、手足が冷え切った人にも良いだろう。
 最後に指先が触れたのは、紫の花――ラベンダー。楽しげだったジルーシャの瞳に、愛しさのような慈愛が灯って細められる。リラックス効果から安眠が期待できる。
「さあ、アタシの可愛いお隣さんたち。仕上げも任せていいかしら?」
 皆がよくなりますようにと願い込め、精霊たちにおまじないをかけてもらえば完成だ。
「いい香りじゃのぅ」
 香りにつられて飛んできた天籟がスンスンと匂いを嗅いでいる。
「『雷の』への土産も貰ってよいかの」
「あら。光栄だわ」
 何が良いか問うジルーシャへ「腹を出しておるから風邪は引かんだろうがのぅ」と笑った天籟はラベンダーを指差した。
「炬燵ができましたんで、試してもらえんでしょうか?」
 支佐手から声が掛かり、ジルーシャと天籟、それから炬燵という言葉に惹かれた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)がそちらへ向かった。
「こりゃぁ中々様になってるじゃねぇか」
 ハリボテ職人から炬燵職人へとジョブチェンジした支佐手は、豊穣暮らしのゴリョウの言葉に得意げな笑みを見せる。掛けた毛布はありあわせのものだが、それでも半身を炬燵へと潜らせればしっかりと温かい。
「説明書に定期的な換気も記しとくべきだろうな」
「ああ、それは盲点でしたの」
 ゴリョウの言葉に、炬燵に天板を乗せた支佐手が紙に記す。
「ゴリョウは……さっきまでゴリゴリしていたのは終わったのかしら?」
 暖かいわねぇと零したジルーシャがゴリョウへと水を向ければ、ああとゴリョウが顎を引く。
「なんぞ黒いものをすり潰しておったが、ありゃぁなんじゃ?」
「あれは昆布を乾燥させたもんだ」
 ゴリョウの言葉に、支佐手以外が首を傾げた。
「石臼で挽いた昆布粉は使い勝手がいい。湯に混ぜれば出汁にも使えるし、そのまま飲んでも良い。とろみがあるから水を飲むよりは喉に痛みがでないはずだ」
 昆布のぬめり成分は胃や食道の粘膜保護にも良い。ただ、摂取し過ぎは甲状腺機能異常が出てしまうため、咳が酷い時以外はたくさん飲むのは止め、料理に使うくらいがよいだろう。
「ヴィーザル地方でも採れるのかしら?」
 ジルーシャの問いに、ゴリョウと支佐手は顔を見合わせる。
 多分、採れる。
 しかし、海の雑草扱いになっている可能性が高い。それは料理人としてはとても勿体ないと思えることだ。
「これを機に昆布の旨さを広めてみるってぇのも悪くないかもな」
 旨味を広める活動を思えば腕がなるぜと奮い立ち、ゴリョウは早速キッチンへと消えていく。
「暖かくて出たくなくなっちゃうわね」
「しかし休んでばかりではおられませんけえ、もう一踏ん張りやりますか」
 暖かな炬燵は離れがたい。けれどもとふたりは炬燵から離れ、少しでも多くの人々へと行き届くようにと作業を再開した。

 料理の試作もするからと、借りた家のキッチンはかなり広めだった。
「ぐつぐつ、にゃーにゃー、ぐつぐつ」
「ふふ、いいかおりですね」
 ほこほこと温かな湯気たつ鍋で甘い香りについつい笑顔になってしまうのは、首にネギを巻いた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)と『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)。
 鍋の中には蜂蜜とハーブ、それからすりおろした果物とお砂糖たっぷり。再結晶化しないように揺らさないように我慢して、ぶくぶくでいっぱいになったら火から下ろしてレモン汁をぽちゃん。
 美味しそうと顔を見合わせたら、ここからはスピード勝負。とは言っても固まってきたら鍋を少し温めればいいから、丁寧さを心掛けて。
「ニルはお鍋をもちますね」
「僕はスプーンで垂らしていくね」
 くっつかないシートの上に、ぽたり、ぽたり。
 とろりとスプーンからゆっくり離れる飴も、すぐに冷めて固くなる。
「きれいな色ですね」
 綺麗に固まったのど飴を、味見に一口。程よい甘さに、祝音は「うん、成功かな」と微笑んだ。
 のど飴は成功。けれどもどうかな? と首に巻いてみたネギはよくわからない。そもそもネギを喉に巻くのは薄っすらと漂う辛味成分で喉鼻の通りをよくするためだ。鼻が詰まっているわけではない祝音には少し解らなかった。
「次は何を作りましょう?」
「僕はお粥を作ってみようかな」
 野菜も煮込んで、あっそうだ、このネギも入れちゃおう!
 ネギを切り始めた祝音を見て、ニルは生姜を削り始める。
 しょうがは身体をぽかぽかさせてくれるから、料理にも飲み物にも入れてもいい。蜂蜜と混ぜた生姜湯や、生姜を利かせたアップルティー、それからスープにもお粥にも使えちゃう。
「おれは林檎の飲み物作る……しようかな」
「しょうが、すりおろしました!」
 是非使ってくださいと笑み掛ければ、チックもニルと同じことを考えていたから、ありがとうと受け取ってくれた。
 チックの手元には切った林檎がいくつか。そのいくつかはボウルで少し塩水に付け、変色を防いでいる。これは蜂蜜をかけてデザートに食べるものだ。残りは蜂蜜とお湯でホットドリンクにする。ここにニルが擦った生姜を入れればポカポカだ。
 林檎は消化によく、栄養も豊富。食欲がなくとも口にできるくらいさっぱりとしているところも良い。そして蜂蜜は喉の痛みにもよく効くことを、歌を歌うチックはちゃんと知っていた。
「蜂蜜を貰っても良いか?」
「うん。もう大丈夫、だよ」
 水分豊富な梨を選別したエーレンが、チックの側にあった蜂蜜を持っていく。彼の手元では上部を切られた梨が、芯をくり抜かれた状態で今日集った人数分並んでいた。
 くぼみの中に蜂蜜と、それから薄切りの生姜を入れ、切った上部を蓋とする。それを大きな器でじっくりと蒸し上げれば、喉にも身体にも優しい薬膳デザートの完成だ。
 梨が蒸し上がれば甘やかな香りがキッチンに満ちて、祝音はおいしそうとついつい漏らしてはにかんだ。

●いざ、実食!
 出来た料理は冷めない内に、みんなで試食。
 まずは祝音の雑炊。お粥を作るつもりだったけれど……と言葉を濁す祝音に、野菜が取れて且つ柔らかで美味しいと褒めてもらえた。
 うどんも作れれば良いけれど、ヴィーザル地方にうどんは無いかもしれない。米の質も各地でかなり違うが、粥は麦でも代用できる。
「あとは親鳥さんがいるか、だけど……」
 祝音の言う『親鳥』は卵を生む鶏のことだ。養鶏は行われているはずだが、食べ物が無くなった村では既に食肉として潰されているかもしれない。
 卵があるかどうかまで考えていたのは祝音のみで、「確かに」という言葉が多く上がった。卵の栄養は大きい。
「味だけなら塩や、俺が用意した昆布粉でどうにかなるんだがな」
 そう口にしたゴリョウは大鍋から器にスープを注いでいっている。
 玉ねぎや根菜類、葱を散らしたスープだ。根菜は身体を温める食材として欠かせないものであるし、ネギ類は鼻詰まりにも良い。
「胃が元気な者には干し肉を混ぜても良いかもしれんのぅ」
 無類の肉好きの天籟はそう言って、ゴリョウのスープのおかわりをした。
 林檎の蜂蜜掛けを口にし、果実で冷えた胃を林檎のホットドリンクや生姜湯で身体を温める。ついホッと吐息を零していれば、甘い香りとともにエーレンが現われる。
「俺から対策として紹介したいのは、果物の梨だ」
 薬膳と言われるものだとエーレンが案内すれば、ほうと聖霊から声が漏れる。
 喉に効く果実は多くあるが、梨は特に喉を潤すことにとても適している果物である。ただ水分の多い果物は総じて腹を冷やしてしまうため、量を調節したり胃腸が弱い者には林檎の方がオススメだ。
「苦手でなければ、生姜も梨と一緒に食べてしまうといい」
 梨によって冷やされる身体も、ショウガが温めてくれる。
「俺は生姜がある方が好きだな」
 ゴリョウの言葉に、何名かが続く。
 ただ、鉄帝にある梨は豊穣で見かける梨とは違うはずだ。香りと甘味が丸い梨よりも強いため、それに合わせた蜂蜜等の調整をする必要はあるだろう。
 しかし総じて各自からの梨のデザートへの評価は好評だった。風邪を引いていない時でも食べたいと上がる声に、夏バテにも効果的であるため体調が悪くなくともとエーレンは推した。
 腹がくちれば、ジルーシャが香りを、支佐手が炬燵の紹介をする。
 猫とともにあるためアロマはご法度の祝音も一時その香りを楽しんだ。
 美味しそうな香り、爽やかな香り、温かさ。それは人々の心を優しく包んでくれるものだ。
 どうか鉄帝の人々に、苦しさの中にもその安らぎを届けられますようにと心から願い、イレギュラーズたちは案を出し合った。

「お手間を掛けますが、渡して頂いてもええでしょうか」
 案も出し終えひと段落。といったところで、支佐手が天籟へと声を掛けた。
 天籟が温かな粥をと言うからには、きっとそれが冷めない距離の宿に雨泽はいるはずだ。いくつか炬燵を作成して肩を鳴らした支佐手も少し厨房に入り、祝音とニルとともに玉子酒を拵えた。祝音が「劉さんはきっと甘い方が好き……」、ニルが「雨泽様の『おいしい』は甘いです」と言ったので、子供でも飲めそうなくらいたっぷり砂糖入り。
「これも……お願いする、したい」
「その玉子粥にも昆布粉を混ぜてあるから食べやすいはずだぜ」
 チックはゴリョウに教わりながら、昆布だしの美味しい玉子粥を作った。味は薄めに作ってあるがゴリョウが作った昆布粉から優しい味が出ていて、豊穣っ子の雨泽の口にもあうはずだ。
「おうおう、すまんのぅ」
 ジルーシャからも手紙や香袋を受け取って、天籟はニコニコと笑う。
(天籟様を追いかけていったら、雨泽様に会えるでしょうか?)
 そんな姿を、ニルはひっそり窺った。こっそり、ついていけば。
 ニルには風邪のことは解らないけれど、風邪はとてもつらいと聞いている。ニルはひとりぼっちはいやだから、きっと雨泽だって――。
「ニル坊」
 そんなニルに気付いたのだろう。天籟に振り返られ、ニルはどきりとした。
 天籟は少しだけ悩む素振りをしてから、己の肩をトントンと叩き出す。
「あ~……わしは歳での~、鍋をいくつも持っては肩がつらいんじゃ~。誰か運ぶのを手伝ってくれんかの~」
 わざとらしい。わざとらしいが、『そういうことなら』の理由を作った天籟にニルは元気よく「はい!」と手を上げ、ジルーシャが「あらいいの?」と天籟を見る。
「あくまで宿まで、じゃ。『ゆー坊』の気持ちもわかるからのぅ」
 天籟程の年寄りならば良いが、雨泽は基本的に対等でありたいし、幼い子たちには庇護者でありたいはずだ。
 おれも、とチックがそろりと手を上げた背後で聖霊は無言で鞄に必要なものを詰め込み、音もなく立ち上がる。眼光が鋭くなったことに気付いた天籟はひとり、心のなかで手を合わせたのだった。
(すまぬ、ゆー坊! わしは無力じゃ!)

「……おいしい」
 何だかちょっと大変だったからか、玉子粥の優しい味が沁みるようだった。
 具体的には「俺は医者だ」と聖霊とアネストに押し入られたのが原因だ。天籟は困ったように眉を下げていたが口元は笑っており、止めはしなかった。裏切りだ、と雨泽は思った。抗おうにも息がしんどくて早々に無抵抗となり診察され、苦い薬を処方された。しかも一週間分もあって気が重い。たぶんこれは顔を合わせると「飲んだか」と確認されるやつだ。せめてもの救いは、アイスや甘味に混ぜても良いと言われたことだろう。
 そんな経緯で心底疲れた頭と身体で口にした玉子粥も玉子酒も美味しく、エーレンが作ってくれた蒸し梨も喉に優しくてとても美味しかった。
 枕に頭を預ければ、手に紙が触れる。一度開いて読んだ、短な手紙だ。
『早く元気になってね。ゆっくり休む、するの。大事だよ』
『ゆっくり休んで、早く元気になってね』
 綴られていた文字を脳裏に思い浮かべ、雨泽はふわふわとした温かな心地で瞼を下ろした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

雨泽の風邪はよくなり、鉄帝の民の風邪引きさんも少し救われました。
皆さんも風邪にはお気をつけくださいね。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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