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シナリオ詳細

<地底のゲルギャ>どんずまりアンダーグラウンド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●地下鉄道と地下闘士
「うおー! やってやるぴょん!」
 頭の上で鎖をぐるぐると振り回すアイドル衣装のうさ耳ファイターがいた。
 『永遠の17歳』を名乗る彼女の名は、ウサミ・ラビットイヤー。
 かつては地下闘技場で地下アイドル兼地下ファイターをやっていた女であり。特技はチェーンデスマッチ。
 彼女の瞳の奥には野望と決意が燃えており炎堂 焔(p3p004727)とは一回り上の女性の貫禄をも秘めていた。少なくとも焔は、絶対このひと年下じゃないとは思っていた。
 そんな彼女がやる気を出しているのは、帝都中央駅ブランデン=グラードの地下へと広がる地下鉄通路の攻略作戦。
 ついに最奥にも手をかけつつあるという今、念押しのようにもうひとつの作戦が発動していた。
「『作戦』って言っても、私達が関わった案件の追跡調査なんだけどね」
 焔が取り出した調査書。それを横から覗き込み、夜式・十七号(p3p008363)はその独特なオッドアイを細めた。
「闇ファイターたちの行方と殲滅……か」

 バルナバスが新皇帝に即位した直後、首都ラドバウ独立区では『ファイター狩り』が横行していた。
 A級やB級をあえて無視し、C級以下のファイターを狙った闇ファイターによる襲撃。当時はただのシマ争いの延長かに思われていたが、イレギュラーズに懸賞金がかかりそれを釈放された囚人たちが狙うようになってからは見方が変化した。
 違法めいた地下闘技場で活動する闇ファイターたちは新皇帝派と繋がりを持ち、情報の攪乱や襲撃の補助を行っていたのである。
 そんな彼らの野望を一旦は突き止めやめさせることには成功したものの、その後闇ファイターたちの行方は知れていない。
「鉄帝の冬……しかも未曾有の大寒波に晒された今、地方の村や山中に逃げ込むというのは非現実的だ」
「そうだね。ある程度は寒さをしのげて、ボクたちに見つからない場所に隠れてるってことになる」
 そんな角度から追加調査を行ったところ、地下鉄道の奥に存在する隠しスペースが見つかったのであった。
「ブランデン=グラードを新皇帝派が占拠した際、隠れ場所として提供されていたのだろう。しかし――」
「駅をラドバウ独立区が奪還した今、閉じ込められる状態になってる……ってわけだね」
 スペースを発見した際に相手側にも見つかっており、おそらくは迎撃体勢をとっていることだろう。
 万全の準備をし、襲撃をしかけることになったのだ。そしてだからこそ、ウサミはここまで張り切っているのである。
「あっ、そういえばぴょん。あのインガ・アイゼンナハトはまだいると思うぴょん?」
 問いかけられて、十七号は考え込むしぐさをした。
 インガ・アイゼンナハトとはあの地下闘技場を支配していた魔種であり、十七号とは決して浅からぬ因縁をもつ『敵』だった。
「どうだろうな……これまで巧みに表世界からの目を逃れていたんだ。今更『追い詰められる』とは思えない。第一、あれだけの個体戦闘力があるなら『迎撃態勢を整える』必要がない」
「そっか。既に戦闘になって、表に影響が出てないとおかしいのか……」
 焔はハッとして手を叩いた。
 つまり、この隠しスペースに残っているのはインガの部下たち。それもインガに置いていかれた部下たちということになる。極論、インガ一人だけが無事に脱出し残る部下たちは捨て駒として残されているパターンだってあるだろう。
 つまり、戦う相手に魔種は含まれないということになる。
「地下道の最奥に触れるまえに、もう一仕事ぴょん!」
 やってやるぴょん! と叫びウサミは腕にぎゅるんと鎖を巻き付けた。

GMコメント

●オーダー
 鉄帝地下鉄通路の中に見つかった隠しスペース。そこには闇ファイターたちが隠れていた。
 入り込んだのはつい最近なのだろうが、放置しておけば後によからぬ影響を及ぼすだろう。
 突入をしかけ、闇ファイターたちを一斉検挙するのだ!

●エネミー
 闇ファイターは皆魔種インガ・アイゼンナハトの支配下にあった者たちですが、インガに『置いていかれた』者たちでもあるようです。
 数はそれなりにいますが、ラドバウ独立区に駅を占拠されたことでこのスペースに閉じ込められ大半のファイターはかなり弱っているはず。
 脅威となるのはそれでも元気に戦える一握りのファイターのみとなるでしょう。

●味方NPC
・ウサミ・ラビットイヤー
 焔のお友達にして、焔をアイドルユニットに加えようと画策する永遠の17歳です。
 鎖を使った戦闘を得意とし、単体を拘束し動きを封じる技や、単体に対する強力な【怒り】付与能力を持っています。
 強めの敵が現れた際にウサミに抑え役を頼んでおくと被害をコントロールできて便利です。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <地底のゲルギャ>どんずまりアンダーグラウンド完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ

●穴蔵
 鉄帝国の地下。広大に張り巡らされた地下鉄にも、把握しきれないほどの横穴がいくつもあるという。
 そのひとつに目印を見つけ、『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)は進んでいく。
「ラドバウで地下道の有効利用を考えているというのに。闇ファイターが逃げ込んでいたとはな」
「あの時の魔種、インガはいないみたいだけど、地下道やラド・バウの安全を確保するためにも、ここで叩いておかないと!」
 槍の先端に炎を灯して灯りにしていた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が隣を歩き、周囲をきょろきょろとしていたウサミ・ラビットイヤーが緊張した様子で頷いた。
「あの闇ファイター、一部だけでも結構な戦力だったぴょん。そいつらが一箇所に集まってるとなると油断できないぴょんよ」
「そうだね……一緒に頑張ろうね! ウサミちゃん!」
「がんばるぴょん! なので今度地下――」
「地下アイドルはやらないからね!」
「そんな!」
 などという会話を交わす焔とウサミ。
 昴は口の端で小さく笑いつつ、通路の先をみやる。
「まぁ利用が始まる前でよかった。
 先に不安要素を排除して、地下道を安全かつ安定的に使えるようにしておきたいからな」
 ラドバウ独立区では実際、地下鉄をどのように利用しようかという話し合いがなされているようだ。
 猛吹雪から逃れるにはうってつけの環境だとも言えるし、地表部で大きな争いが起きても逃れやすい環境だとも言える。
 こうして攻め込まれると逃げ場がない環境だとも言えるのだが、これはかなり例外的なケースだろう。
 『凛気』ゼファー(p3p007625)が槍を周囲の邪魔にならないように短く持って歩いて行く。
「それにしても災難な連中よねぇ。どうせ捕まるんなら、早いとこ捕まっておけばもっと楽だったでしょうに」
「意気揚々と乗り込んできて取り残されるだなんて。間抜けというべきか、可哀想と言うべきか悩みますわね」
 ゼファーに同意する形でため息をつく『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
 この先で待ち構えている(?)闇ファイターたちは、どうやら新皇帝派の一部として入り込んだはいいものの駅が陥落したことで出るに出れなくなったいわゆる敗残兵である。
 頼りであった主力のインガ・アイゼンナハトが離脱してしまったことで強引な突破も難しく、今頃こちらの襲撃に備えて最後の抵抗を試みようとしているところだろう。
「放って置いて悪さをされても困りますし、ここで捕まえておきましょう!」
「ああ、それには同感だ……」
 『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)が額に手を当てる。
(明け方まではウォーミングアップだと思おう。
 全く、あの人はどこまで迷惑をかければ気が済むんだ? 思考回路が読めない。血縁なのに。むう)
 反転という現象は人の思想をねじ曲げてしまうという。自分に対する異常な執着も、そのために行う嫌に迂遠な計画も、相手からみれば筋の通った行動なのかもしれない。
「ともあれ、ここ程度で足踏みしてはいられないな。いこうか」
 先へと進む十七号。
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は丁度話題に出たインガのことを思い出していた。
「あの底知れない女魔種は脱出済みか。……一斉検挙とウサミも言っていることだし、早々に場所を明け渡してもらわないとな」
 一対一で直接戦ったなら、おそらくこちらが負けていただろう。それほどの強さと底知れない恐怖をこちらに植え付けた相手である。
 少なくとも、この鉄帝国をバルナバスの手から奪還しようと考えるならどこかでぶつかることになるはずだ。
「それで? 残っている闇ファイターというのは? やはり強いのだろうか」
「かもしれませんが……」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が微妙な様子で言いよどむ。
 何日もこんなところに閉じ込められ、元々多くもなかった備蓄をちまちまとすり減らしながら生き延びたのだとすれば体力はかなり落ちているはずだ。
 数はいても、脅威になる存在は少ないだろうとフルールたちは考えていた。
「自分より弱い連中を狙って狩ってきたんだから、当然の報いだろう」
 『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)が冷静に述べると、今回の目的を思い出す。
「正直目的が一斉検挙でなければ殺すのも吝かではないぐらいには思ってるけど……目的はあくまで一斉検挙。捕まえて洗いざらい情報は吐かせなきゃね」
 長く続く横穴は、闇の世界に通じているかのように冷たく静かだ。
 だが足取りに迷いはない。


 我々の状況は逼迫している。
 ベテラン闇ファイターのアンセムはそう自覚していた。
 表舞台からドロップアウトし、安全を犠牲に金周りのいい地下闘技場での暮らしを選んだ彼にとって、危機感知能力は生きていく上で必須のものである。
 試合に八百長があるなんてことは日常茶飯事だし、八百長だと思って挑んだら相手のスペックがわざと誤って伝えられ相性じゃんけんによって敗北するなんてこともやはり日常茶飯事である。
 信じられるのはやはり自分の感覚だけ。その感覚を使って長年生き延びてきたのだ。
 バルナバスが新皇帝となり、次いで新皇帝派が台頭したことでその波に乗ったのも、当然己の感覚を信じてのことである。
 ローレット側からは信じがたいことだが、『誰も勝てない怪物が王になった』という時点で刃向かうのは愚かな選択だし、その王が命じたのがただの『弱肉強食』なのだからわざわざ殺しにでもいかないかぎりは安全なのだ。アンセムの選択はある意味理にかなっていたし、実際強者側につくことになった。
 そんな彼でも『追い詰められた』と思えるほど、この状況はかなり前から詰んでいたのである。
「どこで間違えた……」
 地下空間へと続く通路には無数の罠をしかけたが、それらが役に立っていないことは明白だ。
 こちらに近づいてくる足音がそれを如実に表している。
 いよいよかという瞬間。ジッ――という何かに点火する音がした。
 ベテランのアンセムだからこそわかったことだが、これは――。
「フラッシュグレネードだ、目と耳を塞げ!」
 叫ぶやいなや、星夜ボンバーが部屋めがけて放り込まれる。

「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。逃げ場はない、抵抗は無駄だ。全員神妙にお縄につけ!」
 エーレンは星夜ボンバーを部屋へ放り込むと、待ち構えているであろう闇ファイターたちめがけて駆け出した。
 距離はあるが、問題にはならない。
 鳴神抜刀流・太刀之事始『一閃』。極限まで研ぎ澄ませた居合い斬りであり、それを適切な間合いで放つだけの強靱かつ素早い足腰によってエーレンは誰よりも早く戦場の中央へと走り込み、そして闇ファイターの一人を斬り付けたのである。
 相手も相手で待ち構えていたとはいえ、それでも対応が遅れるほどの手際の速さであった。
「大人しく降伏するなら命までは取らん。あくまで逃げようというなら容赦はしない。自分の命運は自分で選ぶがいい、俺はどちらでも構わんぞ?」
 とはいえ相手は腐っても闇ファイター。試合前の暗殺だの奇襲だのに慣れているのか、エーレンの攻撃を防御するだけの対応力は見せていた。
 腕を切りつけられた闇ファイターが反撃とばかりにナイフを放つ。
 が、その刃がエーレンへ届くことはなかった。
 なぜならウサミの放った鎖が闇ファイターの腕に絡みつき、ナイフを握った手を強引に引っ張ったためである。
「チッ!」
「チェーンデスマッチだぴょん!」
 鎖をたぐり寄せる動きで加速すると、ウサミが闇ファイターめがけて飛び膝蹴りを繰り出す。
 来ると分かる攻撃なだけあって完全にガードされているが、実際のところこれはダメージが目的ではない。エーレンの斬撃とウサミの大胆な蹴りとチェーン。この二者に対応するにはそれなりの動きが必要であり、当然……隙ができる。
「今ぴょん!」
 ゴウッ――と炎が空気を穿つ音がした。
 それは焔が槍を片手で突く音であり、槍のなかほどを持ち『投げる』動きで突き出し先端を掴んで止める。その動きによって纏っていた炎が勢いよく放たれ、螺旋を描く鋭い短槍となって闇ファイターの脇腹へと突き刺さったのである。
「ぐおお……!?」
 脇腹をえぐられたような痛みとそれを焼く炎。思わず闇ファイターはその場に崩れ落ち、脇腹を手で押さえる。
「まずは一人!」
 焔はそう叫ぶと、この部屋の出入り口にあたる部分を目立たせるかのように炎を灯した。
 全員の注意がそちらに向く。焔が槍を防御するように構えた姿を背後から照らすその炎は、嫌が応にも『ここから逃げられない』事実を思い知らせてくる。
「突破するしか……突破するしかねえ!」
 スキンヘッドをした双子の兄弟が叫び、焔へと突進をかける。
 が、それを阻んだのは昴だった。
 両目を見事に隠した前髪の奥でギラリと闘志を光らせると、ダブルラリアットによって兄弟を同時に地面へとなぎ倒した。
 倒れた兄弟はそのまま後ろ向きにあえて転がり、立ち上がるとファイティングポーズをとる。
「ちっ、まだいやがった!」
「見ろ、他にも流れ込んで来やがる」
 既に場には八人のイレギュラーズが入り込み、それぞれの戦いを始めている。
 昴は出口へ殺到するであろう闇ファイターを纏めてなぎ払うのが役目であるようだ。
 ゆっくりと格闘の構えをとり、兄弟と向き合う。
「投降すれば命までは取らん」
「「嘘つくんじゃねえ!」」
 こちらをまるで信じていない兄弟が全く同時に殴りかかってくる。流石の連携だが、昴とて伊達に戦い抜いてきたわけではない。
 両者の攻撃をあえてその身で受けると、両腕にひねりを加えながら彼らの腹へと拳を叩き込む。
 まさかかわされもしないとは思わなかった二人だが、それゆえに彼らにとっての正中線ががら空きになっていたのだ。
 カハッとはらのなかの空気を全て吐き出し、白目を剥いてその場に膝をつく二人。
 その一方で、雲雀は早速隻腕の剣士と向き合っていた。
 目立つ焔たちを囮にして回り込み、奇襲を仕掛けた雲雀だがその攻撃が見事に剣で止められたのである。
「一応生け捕りのつもりなんだ。けど、無傷で帰れるとは思わないでね」
 奇襲に失敗しても雲雀の余裕な態度は変わらない。『呪刀・黒妖』を怪しく光らせつつ、隻腕の剣士と間合いを奪い合うようにじりじりとすり足を行っていた。
 片腕だけで日本刀を操る剣士は、半身になって雲雀に剣を向けている。隙だらけのように見えて、どこに打ち込んでも弾かれる未来が予測できた。それほどまでに腕の立つ剣士なのだろう。
 が、しかし。
(剣だけで勝負をつけるつもり、ないんだよね)
 雲雀は片足のつま先をタンッと踏みならすと相手の間合いへと滑るように入り込む。
 放った剣は素早く弾かれ、高速で動いた相手の剣がこちらの腕を切りつける。吹き上がった血が――突如鞭となって隻腕剣士の首をしめた。
「!?」
 これによって無理矢理身体のバランスを崩された剣士を、雲雀は軽やかに斬り付けて手のひらを相手の頭に当てる。
「死んでいいのは持ってる情報を洗いざらい吐き出してからだよ?」
 至近距離で放たれた『神気閃光』が相手の意識を一瞬で刈り取った。
 そのまた一方では……。
「あらあら、置いていかれた闘士さん達。可哀想に。ここで助けが来るのを待っているのかしら? それとも弱っている人が回復したら戻ろうと?」
 精霊天花を果たしたフルールが『ハイペリオンオーバーライド』を行使。群れとして放った精霊が弱った闇ファイターたちを刈り取っていく。
「残念だけど、ここから生かしては帰せないです」
 抵抗を試みる闇ファイターたちだが、かなり劣悪な環境で過ごしてきたせいか体力も気力も衰えているらしい。
 ろくな抵抗もできずフルールに一方的に倒されていく。
(……何だか悪役みたいになりましたが、大丈夫でしょ。まぁ、完全に拘束されてくれるなら生かすのもアリですが)
 なんとか気力を振り絞って襲いかかった闇ファイターのガナンガ。彼はフルフェイスヘルメットで顔を覆い手斧を武器としたファイターである。
「奴は精霊使いだ。距離を詰めれば勝てる!」
 そう叫びフルールへと斬りかかった。炎を纏った手が斧を受け止める。が、それはガナンガの予想通りの動きであった。
「かかったな! くらいやがれ!」
 ガナンガは雷の魔法を無詠唱で発動させるとフルールに電撃を流した。これで相手を痺れさせ、動きが鈍ったところを力押しで殺してしまうというのが彼の得意戦法なのである。
 が、今回は相手が悪かった。
 フルールはなんということもない顔をして、ボッと『蒼星真火』を発動させる。
 耐性持ちか。そう悟った頃には、ガナンガはフルールの炎に包まれ叫びをあげていた。

 アンセムは両手に武器を持ち、自分を取り囲むヴァレーリヤとゼファー、そして十七号をにらみ付ける。
「罠と見張りを破ったのは……テメェだな? 赤髪」
 視線をヴァレーリヤへ向けると、炎の灯ったメイスを握る彼女は『いかにも』と頷いた。
「粗末な罠でしわたね。見張りもぐったりとしていて……静かに倒すのは容易でしたわよ」
「だろう、な」
 ヴァレーリヤの指摘通り、この場所の守りはあまりにも薄かった。見張りは叫び声のひとつでも上げられれば上等で、罠も得意なものがいなかったのでワイヤーをはる程度のことしかできていない。
 対処に長けた者が居ればピクニック気分で踏破できただろう。
「まだ戦う気概があるようだが……」
 十七号が周囲をみやる。闇ファイターたちは次々に倒れ、戦える者はわずかだ。
 アンセムは戦う姿勢をとってこそいるが、ヴァレーリヤやゼファーといったハイレベルな人間を突破できるほどの相手には見えない。
「これで状況は分かっただろう。貴様も闘士ならば大人しく退け」
「そう言われて諦める奴は、闇ファイターになんぞならねえのさ。せめて俺だけでも生き延びねえとな!」
 アンセムが怒号をあげ襲いかかってくる。
 十七号は真っ向から受け止める――かにみせかけ、『蒼氷剣山』を放った。
 戦場の冷気を圧縮して放つ大技である。突き立った氷の剣山がアンセムへと襲いかかる。
 直撃を喰らったアンセムに、ゼファーが一気に距離を詰めた。
「バカな考えは止して、さっさと捕まっちゃいなさいな。
 アンタ達に残された道は二つ。痛い思いして捕まるか、ちょっと痛い思いして捕まるかだけよ!」
 槍による足払い……を、アンセムはその分厚い身体から想像できないほど軽やかに跳躍して回避。手にしていた剣をゼファーめがけて叩きつける。
 足払いという大きな動きの直後は上部の守りがなくなると知っての攻撃である。
 が、その点ゼファーは一枚上手であった。
 潔く槍から手を離すと、地面に手を突き自らの回転を乗せたまま逆立ち姿勢をとる。アンセムの繰り出した剣を、鉄板仕込みの靴底がガチンと撃ち払ったのである。
「――見事」
 アンセムは思わず笑みを浮かべ、その瞬間に側面から迫る炎のメイスに目を向けた。
「どっせえーーい!!!」
 イレギュラーズであれば何度も聞いたことのあるかけ声と共に、ヴァレーリヤの打撃が繰り出される。
 アンセムはふと、鉄帝の商店街で行われたイベントを眺めていた時の事を思い出していた。暴れ牛と格闘し倒して食うというその豪快なイベントで、そういえばこんなかけ声を聞いた気がしたと。
 あのとき見た司祭は、自分なら片腕でも倒せると確信したものだが……。
(ローレットの成長は著しい、か)
 侮ったな。アンセムは後悔の念を浮かべ、そして諦めたように目を瞑る。
 衝撃が、彼の身体を壁際まで吹き飛ばした。

「貴様らは敗北者だ。故に、これから地上へと移送されることになる。分かったら大人しく馬車に乗れ」
 十七号の命令に従って、縄につながれた闇ファイターたちが連行されていく。
「っはー、これにて一件落着ぴょん」
 ウサミがやれやれという様子で肩を叩いている。実年齢が見え隠れする仕草である。
 彼らにとっては不幸中の幸いというべきだろうか。闇ファイターたちに死者は出ず全員がこうして捕まっていた。
 その最後尾にいたアンセムが、立ち止まって振り返る。十七号へだ。
「あんた、インガの娘だったな」
「…………」
「気をつけるんだな。あの人は俺たちを捨てた。ということは、俺たちより強力なバックを見つけたってことだ。現状そんな組織は……」
 そうとだけ告げると馬車に乗り込み、そして運ばれていったのだった。
 闇ファイターたちよりも強力な組織。それはもはや、新皇帝派の軍部に他ならない。首都に巣くう彼らとの戦いの中で、きっと……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――闇ファイターたちの検挙に成功しました。彼らからインガに関する情報が得られることでしょう。

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