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シナリオ詳細

<エウロスの進撃>冷血大尉と医療都市

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝国東部に存在する小都市、クロイズ。
 現在この街は新皇帝の軍人一派、『バグナ大尉』率いる軍人たちに占拠されていた。そしてこの街の中心部にそびえ立つ病院は、バグナ大尉率いる部隊が直々に占拠していた。
「バグナ大尉。クロイズ大病院の制圧が完了しました。当初の予定通り、医療従事者は地下1階に移動させ、現在医薬品の在庫確認を行っています」
「ご苦労」
 バグナ大尉と呼ばれた、全身が機械化された鉄騎種の男は、葉巻を吸いながらゆっくりと頷いた。
「大まかな在庫量は把握出来たか?」
「はい。この街の最も巨大で最先端の施設ですから。保存状態も良好な大量の医薬品が入手できる見込みです。院内の医療従事者達の反応はあまり芳しくありませんが、今後の軍事活動へ協力せよと、順次説得を行っていきます」
「よろしい。頑なに説得に応じない者は見せしめに足でも撃ってやれ。医薬品ならいくらでもあるからな。あまりにも反抗的な態度を取る奴は、その場で射殺して構わん」
「ハッ! また、4階より上の階に居る入院患者達への対応は如何いたしましょうか!」
「これより6時間以内に退去せよと通達しろ。退去しない者は射殺するともな。民間人に回す医者も医薬品も病床も存在しない……以上だ、行け」
「ハッ!!」
 部下の兵士を見送ると、バグナは大きく煙を吐く。
「存外呆気ない仕事だ。どうせこの街の住人の大半は寒さと飢えで死ぬだろう。わざわざ医薬品を使わせるなど心底勿体ない……ん?」
 その時、病院の外から1人の男が慌てた様子で入ってきた。
「あ、あ、あ、あの……こ、これはどういう状況でしょうか……!! 私の家族が高熱を出して、薬を貰おうと来たのですが……」
 慌てた様子の男に、バグナは顔色一つ変えない。
「この病院は我々新皇帝軍が占拠した。我々の軍事活動が終わるまで、この病院は一般には開放されない。以上だ。帰れ」
「そ、そ、そんな……待ってください。私の家族が……!!」
 バグナは追いすがる男に振り向くと、その鋼鉄の手で男の首を掴み上げ、赤く冷たい瞳で男を睨みつける。
「帰れと言った筈だ。貴様の家族の命と我々の軍事活動。どちらが大切かなど火を見るより明らかだ。私の貴重な時間を浪費させた罪は重いぞ。愚民が」
「ガ……ア……!!」
 そのままゴキリ、と音がして。首を折られた男はそのまま息絶えた。そして無造作に地面に放り投げると、男の頭部が弾け飛んだ。
「くだらない……実にくだらない……」
 そう吐き捨てると、バグナは次の葉巻に火をつけるのだった。


「どうも、イレギュラーズ。現在鉄帝国全域で『フローズヴィトニル』なんて呼ばれる大寒波が吹き荒れているのは知ってる? これによって多くの都市が窮地に陥っている……それは鉄帝国東部ももちろん例外じゃない。鉄帝国東部地域はローゼンイスタフ領や不凍港ベデクトを中心に、いくつかの都市が存在しているけど……みんなにはその都市の1つ、クロイズを占拠している新皇帝派の軍人達と戦ってもらうよ。制圧作戦『エウロスの進撃』の一環としてね」
『ガスマスクの情報屋』ジル・K・ガードナー(p3n000297)は、集められたイレギュラーズ達に説明を始める。
「小都市クロイズ。ここは元々医療を中心として発達した都市でね。この街の中央にはその象徴たるクロイズ大病院がある。けれどこの病院には今、『バグナ大尉』っていうクズ……新皇帝派の大尉が率いる連中が占拠している。皆にはここにいる連中に戦闘を仕掛け、病院を取り戻して欲しいんだ」
 制圧作戦自体は、この病院だけで行われるものではなく、各地で戦闘が行われる。しかし敵戦力並びに指揮系統が集中しているのがこの病院であり、最も重要な戦場になるだろうとジルは言う。
「敵部隊の数はバグナ大尉を合わせて約50人。激戦はまぬがれないだろうね。医療従事者達はまとめて現在地下1階に軟禁状態にされていて、入院患者達はまとめて退去させられたらしい。内部の警備状況までは詳しくは分からないけど……一般人を戦闘に巻き込む危険性はそこまでない、と考えてもいいかもしれない」
 病院は北側と南側に大きな出入口が存在している。どのどちらも、2階まで吹き抜けの広いロビーに面している。戦闘は、恐らくはそのロビーを中心として行われる事となるだろう。
「そして今回の作戦では、友軍としてローゼンイスタフの軍勢……鉄帝国正規兵とも言うね。彼らが20人派遣される。敵も合わせると70人以上だ。広いとはいえ、中々混沌とした戦場になりそうだね……それなりに厳しい戦闘が予想される。彼ら友軍と協力して、今回の作戦を成功させて欲しい……と、こんなとこかな。じゃあ、気をつけて。不当な暴力で町を支配しようとする奴らを、更なる暴力でねじ伏せてくるんだ」

GMコメント

のらむです。医療都市クロイズを支配しようとする連中を叩きのめしてきてください。

●成功条件
 バグナ大尉含む病院を支配する敵勢力の撃退または討伐(生死は問わない)。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●戦場情報
 クロイズ大病院。下は地下1階、上は7階の病院。当日はかなりの風と大雪が吹き荒れている。
 地下1階には医療従事者が大量に軟禁されている。それ以外の階に民間人は存在しない。
 1階の北側と南側には大きな出入口があり、どちらも2階まで吹き抜けの大きなロビーに面している。
 その他、関係者用の小さな出入り口や窓が各地に存在しているが、いずれも封鎖されている。が、イレギュラーズであれば無理やり封鎖を破壊する事も不可能ではないと思われる。尚。窓は2階まで封鎖されている。
 敵戦力の詳細な配置は不明。

●鉄帝国軍正規兵×20
 今回の作戦の援軍。剣や盾を所持した近接戦闘が得意な兵が10名、銃や魔術といった遠距離攻撃と多少の回復が得意な兵が10名存在している。
 基本的にイレギュラーズ達の指示に従い行動する。指示がなければ、見つけた敵に攻撃する。

●新皇帝派軍人(近接兵装)×30
 剣や槍、斧など、様々な近接武器で身を固めた軍人達。
 物理至~近距離戦闘を挑んでくる。

●新皇帝派軍人(毒炎兵装)×10
 毒ガスや火炎を放出する兵器を装備した軍人達。
 神秘近~遠距離攻撃を行ってくる。単体と範囲があり、『毒系列』『炎系列』のバッドステータスを与えてくる。 
 
●新皇帝派軍人(遠距離兵装)×10
 魔術が込められた特殊な弾丸を発射する巨大な銃を装備した軍人達。
 物理中~超距離攻撃を行う。威力は高くないが単体と範囲があり、『痺れ系列』『乱れ系列』『不吉系列』のバッドステータスを与えてくる。

●バグナ大尉
 新皇帝派の軍人。新皇帝派の思想に共感し、全ての抵抗勢力を排除せんと動いている。冷徹で、酷薄。
 全身が機械化されており、凄まじく頑丈な肉体と腕力を誇る。
 敵勢力の中で突出した戦闘能力を持っている事は間違いなく、また味方を強化・回復する特殊な薬剤を散布する兵装が搭載されている事が確認されている。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上です。よろしくお願いします。

  • <エウロスの進撃>冷血大尉と医療都市完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
ひとさじの勇気
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ


 街中に吹き荒れる吹雪と共に、ローゼンイスタフの軍勢が一斉にクロイズの各所に制圧作戦がもうじき開始される。それと時を同じくして、イレギュラーズ達もまた、クロイズ大病院に侵攻を仕掛けようとしていた。
「どれだけ軍人が強かろうが、国の礎となるのは結局のところ力なき民だ。どうも連中、それを知らないんじゃないか?」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が独り言ちる。軍人の為だけの医療に、何の意味があるというのか。
「病院奪還後に、すぐ治療や療養を再開できるように依頼したけど……まずはボク達が迅速に敵を排除しなきゃね!」
『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は事前に情報屋ジルを通じて依頼を行っていた。『あ、はい。いいですよ』と言っていたので多分大丈夫だろう。
「敵戦力の集中もそうだが、ここを取り戻せば支援活動もしやすそうだな……この寒波だ。ここで支援できなければ、冬を越せる者はぐっと減るだろう」
『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)の言葉は、紛れもない事実だった。唯でさえ厳しい鉄帝の冬を、医療を受けられない病人が生きられる筈もない。
「誰かを治療するための病院が戦場になるなんて。僕の知る先生も、こんなやり方で軍事活動に従事させられるのは反対するでしょうね」
『溶けない結晶を連れて』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)はかつての光景を回想しながら、小さく呟いた。
「制圧当時休みだったお医者さんに、追い出された患者さん……それなりに話は聞けたから、内部の構造や状況はある程度把握出来たね。手早くいきましょ!」
『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は聞き込みから得られた封鎖された大病院内の情報を仲間と共有していた。
「やっぱり、ロビーにかなりの兵士が居るのは間違いないみたいだね。美咲さんの情報も合わせると……情報量はこれでバッチリな筈。それじゃあ、行こうかっ!」
 ファミリアーを通じて内部の状況を探っていた『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)からの情報も合わさり。イレギュラーズ達の作戦はかなりスムーズに行われるだろう。

「バグナ大尉。医療品の在庫確認が終了しました」
「ご苦労。各自警戒を続けろと通達せよ」
「ハッ!!」
 ロビー中央の椅子に腰かけながら、バグナは葉巻を吸っていた。
「ここまで来ると楽を通り越して退屈になってくるな……」
 吹雪でガタガタと窓枠が揺れる。それ以外は静寂しかなかった。つまらない。実につまらない仕事。
 心の中で呟いて。バグナがゆっくりと煙を吐いた、次の瞬間。
 バン! と勢いよく南側出入口の扉が吹き飛ばされて。一斉にイレギュラーズ達が大病院内に流れ込んできた。
「て、敵襲! 敵襲だ!!」
「ほう」
 バグナの赤い瞳がギョロリと来訪者を睨みつける。
「クロイズ大病院は俺達に渡して貰うぞ! この病院は、新皇帝派には絶対に渡さない!!」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がその冷たい瞳を正面から見据え、名乗りを上げる。その背後に立つ正規兵達が一斉に引き金を引いた。
「これはこれで面倒だな……全員、侵入者を排除しろ」
 バグナの声に呼応して、新皇帝軍人達が一斉に武器を構える。
「さて、と。状況は悪くない。俺は俺の仕事をやるとするかな」
『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)は正面衝突する兵士達を横目に、行動を開始する。階段の位置も既に把握出来ている為、その動きに迷いは無かった。
「貴様らが何でろうと。この私の邪魔をした以上、一人残らず死んで貰う」
 そして戦いが始まった。


「撃て、撃て!!」
 新皇帝軍人達が銃を構え、火炎や弾丸が発射される。出入口から遠い箇所や2階に、彼らは配置されていた。
「ク……前衛の援軍は、地下への道の書くほど2階への敵への対処を頼む! 後衛の援軍は、ロビーで戦う前衛への支援と地下への道の防衛を頼む!」
 イズマは最前線で敵の攻撃を受けながらも、作戦通りに正規兵達に指示を飛ばしていた。
「この作戦は、初動がかなり大事な気がしますね。数は多いですが、道を開けてもらいますよ」
 ジョシュアは群がる兵士達に銃口を向けると、無数の弾丸を撃ち放って彼らの動きを制圧する。
「上下に繋がるのは階段とリフト。リフトは……壊しておくかな。複雑な医療器具でも無いし、これだけなら修理出来るだろう」
 サンディは蒸気リフトの扉を蹴り破ると、ショットガンを乱射。操作板やケーブルを速やかに破壊し、動作を不能にする。
「貴様、何をガッ……」
「これでもこっちは忙しいんだよ。寝ててくれ」
 直後、敵兵士が剣を構え接近。サンディは振り返る様に顎先に蹴りを放つと
、白目を剥いた兵士をそのままリフトの中に蹴り入れた。
「さてお次は……っと」
 そのままサンディはリフトを離れると、大半の階段にまきびしやワイヤーを用いて迅速に罠を張り巡らせる。
「リフトを早々に破壊した以上、敵は階段を使う筈……うまくいくといいけどね

 呟き、サンディは階段の死角に潜伏する。2階以上のフロアにも敵兵は存在する以上、必ず増援は来るとサンディは確信していた。
「クソ! なぜリフトが使えない! このクソ長い階段をわざわざ使ッ、なッ」
 階段を駆け下りてきた兵士達がまきびしとワイヤーに足を取られ、一斉に階段を転がり落ちた。
「いらっしゃいませお客様。そしてお帰り下さい……なんてね」
 倒れた兵士達を至近距離から撃ちまくり、サンディは増援を早々に排除するのだった。
「全員冷静に。敵を殺す事だけ考えろ。害虫駆除の様なモノだ」
 バグナは片腕から薬剤を散布し、仲間達の能力を強化する。
「害虫ね。お前らがそうだ、と言い返したくなるな……鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。病院は万民のための場所、今すぐ出ていけ。力づくだ」
 エーレンは十字剣を構え、バグナの鋼鉄の身体に斬撃を叩き込む。
「聞いてた通り、本当に敵の人数が多いねっ……出来るだけ敵を巻き込んで攻撃しないと、きつい戦いになりそう」
 リリーは魔術書『リトルネイバー・フィーア』を手に持ち、魔術を詠唱する。魔力と呪力が入り混じった魔法陣が、敵兵達の足元に展開する。
「病気を、傷を治したりする人達をこんな目に合わせるなんて……リリー達が許さないからねっ! 絶対に救うから!」
 そして魔法陣から放たれた黒と白の光が、兵士達を貫きその動きを一気に封じ込める。
「チビが。下らん真似をしてくれる……」
「下らないどころか最低最悪な真似をしてるのはそっちでしょっ! あなたは……容赦なく殺すよ」
 バグナがリリー目掛けて鋼鉄の拳を振り下ろした直後、リリーはガジェットを起動。高速移動を以て拳を避けたリリーが、バグナの胸元に呪いの弾丸を撃ちこんだ。
「チッ……誰かあの羽虫を殺せ」
「ハッ!」
 リリー目掛けて弾丸と火炎が放たれる。リリーは魔道銃を構え直すと、素早く引き金を引く。
「そんなのに当たってあげないよ!」
 そして撃ち放った弾丸が敵兵の弾丸を吹き飛ばし。氷の魔力を込めた弾丸は炎を消し飛ばす。そして最後に白い呪いの弾丸を撃ち、敵兵達の胸を貫いた。
「雑兵ばかりという訳でもないか……だが数ではこちらが勝っている。叩き潰せ」
「そう上手くいくかな。あまり俺達を舐めていると痛い目を見るぞ」
 ジョージは近接兵装の兵士達に突撃すると、拳の連打で兵士達を纏めて吹き飛ばしていった。

 ロビーにおいて派手な戦闘が展開されていた一方で。地下へと侵入している者達が居た。ヒィロと美咲だ。ロビーでの戦闘開始直後、彼女達は階段近くの壁をすり抜けて潜入。内部から封鎖を破る。
「さぁ、慎重に急ごう!」
 ヒィロが小さな声で呼びかけ、2人は数人の正規兵と共に地下へと突入する。
 そして、医療従事者達が集められている大部屋と、その中に待機している兵士達の姿を見つけた。
「居たよ……こっちから奇襲を仕掛けられそう。私はいつでもいけるよ、美咲さん」
「了解。兵士さん達も合わせて。私が合図を出すよ」
「分かった……!」
 2人と兵士達は頷き合い、呼吸を合わせる。一気に決めなければ、守るべき彼らに被害が出る可能性もあった。
「3、2、1……今!!」
 そして美咲の合図で一斉に大部屋に突入した。不意を突かれた兵士達はその動きが一手遅れ、
「お待たせ―! キミ達お医者さんを救出するため、何より救われるべき患者さん達のために、イレギュラーズ&鉄帝国軍見参!」
 ヒィロは兵士達の正面から突撃すると、彼らの注意を一気に惹きつけ、そこに生まれた隙に美咲が続けて攻撃を仕掛ける。
「どうも。悪いけど抵抗も反撃も、何もさせるつもりは無いよ」
 美咲の目が赤い魔力を込めた瞳で兵士達を見る。ただそれだけで、彼らの全身が一瞬にして斬り裂かれ、鮮血が舞い散った。
「ガッ……!!」
 次々と倒れる敵兵たち。そこに重ねて正規兵達が剣を振るい、敵兵達を一瞬にして制圧した。
「さて、これでひとまう安心よ。上も片付けるから、出る準備して待っててね」
「あ、あ、ありがとうございます……!」
 美咲が言うと、医者や看護師達は次々と礼を言う。そして正規兵達を年の為に警戒につけ、2人はロビーへと向かうのだった。


 戦いは続いた。正規兵、新皇帝軍人共にその数を減らしていたが、未だイレギュラーズ達とバグナは大きく余力を残していた。
「クソ、なんだこいつら、強いぞ……!」
「焦るな。冷静に戦いを続けろ。息を乱さず、目の前の敵から目を逸らすな」
 バグナは混戦状況においても冷静に味方に呼びかける。
 しかし、その直後。
「『て、敵襲! 敵襲だ!!』」
 そんな大きな声が、ロビーの上方から響いてきた。
「今のは……」
 バグナはすぐに違和感に気づいたが、その声を『再生』した張本人、イズマは立て続けに呼びかける。
「どうやら窓の封鎖が甘かったようだな。俺の仲間はまんまと侵入できた様だ」
 完全な嘘であったが、混戦においてその言葉を信じる兵士は少なく無かった。
「冷静になれ。そもそも既に3階より上の兵士達は……」
「おっと。悪いがおしゃべりはここまでだ。俺の相手をしてもらおう」
 バグナの言葉を遮る様に、イズマは鋼の細剣を構えてバグナに接近する。バグナは冷たい瞳でイズマを見下ろす。
「ふざけた真似をしてくれる。貴様の描いた絵図か」
「だったらどうする」
 バグナは応えず、重い蹴りをイズマに叩き込む。最前線を張っていたイズマはかなりの傷を負っていたが、それでも立ち続けていた。
「……俺は粘るよ。蹴ろうが蜂の巣にされようが。その程度で倒せると思うなよ?」
 そしてイズマが剣を振り上げる。刃から優しい旋律と共に魔力が放たれ、イズマの全身を包みその傷を癒していった。
「さて、反撃の時間だ」
 イズマは呟くと細剣を素早く突き上げた。すると魔力を帯びた刃から激しい旋律が溢れ出し。兵士達の精神を一瞬の間に蝕んでいった。
「その身体が例え鋼鉄で出来ていたとしても。そんな事は俺達には関係が無い……お前は、俺達が必ず倒す」
 そしてイズマは、魔力を込めた剣先をバグナの身体に突き立てる。瞬間、魔力を帯びた『音』がバグナを貫き、その全身を震わせた。
「グ……害虫如きが……」
 バグナが音の威力に数歩後ずさり、再びイズマを狙いに定めるが、
「おっと。俺の事も忘れてもらっちゃ困るぜ。すっ転んだ相手に撃ちまくるのも飽きてきた頃だしな」
 バグナの背後から強襲したサンディが至近距離からショットガンを撃ちまくり、バグナの装甲を吹き飛ばした。
「チッ……目障りな……」
 バグナは地面に薬剤を散布して自らの傷を癒すが、イレギュラーズ達の猛攻は止まらない。
「この場所がこの街の要所だという事は僕にも分かりますけど。それでも、やっぱりここをこれ以上好き勝手荒らさせる訳にはいきません」
 ジョシュアはリボルバーを構え、バグナに狙いを定める。そしてダンカンん位、己の魔力を込めていく。
「荒らしているのは貴様らの方だ。ここは最早我らが軍の要所。秩序を乱しているのは貴様らだ」
「そこに生きる『人』に目もくれない秩序なんて、欲しくはないですね……先生の分まで町の人を助けないと……不治の病の人であっても親身になって診てくれるような、あの先生の分まで」
 そしてジョシュアは引き金を引いた。放たれた魔弾はバグナの巨体を貫通し、火花が飛び散った。
「貴様、バグナ大尉に何をする!!」
「部下には慕われているんですね。少し意外です」
 剣を構えた兵士たジョシュアに飛び掛かり、次々と剣を振り下ろす。軽いステップで斬撃を避け、剣先に銃弾を放って剣を弾き飛ばす。
 そして素早く銃弾を装填すると、兵士達の額に一発ずつ弾丸を撃ちこみ、仕留めた。
「あなたを倒せば、彼らの指揮と統率も落ちる筈。このまま、押し切らせてもらいますよ」
「やってみろ……!」
 再びバグナに銃口を向けたジョシュアに、バグナは忌々し気に吐き捨てた。
 と、その時。地下の制圧を終えたヒィロと美咲が、階段からロビーに飛び出してきていた。
「さて、どういう状況かな。バカナ大尉とやらはどこかしら。早くぶっ飛ばさないと!」
「バカナ大尉、もとい暴力が軍事力だと思ってる大馬鹿軍人はどこー!? あっ、お前か!」
「喧しい害虫が増えたな」
 ヒィロは大仰な動作でバグナを指差すと、全身から激しい闘志を放ちながら、振り返ったバグナの赤い瞳を見据える。
「いくらここが大病院だって、馬鹿は死んでも治らないらしいよ? だからさ、自分の頭の悪さは諦めてさっさと死のう? それが世のため人の為! アハッ!」
 ヒィロが放った蒼い咆哮が、闘志と共にバグナに襲い掛かった。
「その口の悪さ。貴様は舌が腐っている様だな」
 バグナの意識がヒィロに向けられたが、その隙を逃さず美咲は既に動いていた。
「あなたは頑丈らしいけど、ヒィロが崩したところを魔眼で見れば――隙間だらけよ」
 美咲の瞳が虹色の光を宿す。バグナの全身を構成する物質、魔力、魂――それらを知覚し、なぞるように視線を動かすと、装甲が斬られ、その魂そのものに大きな傷を入れた。
「おかしな真似を……!」
 苦し気に呻くバグナに、リリーが接近する。
「機械の身体だからって、自分が無敵だとでも思った? だったら残念、リリーの呪いもばーん! って打ち込んであげる!」
 そしてリリーは呪いを込めた弾丸を近距離からバグナに撃ちこむと、言葉通り弾丸に込められた呪いがバグナの体内で弾け、その魂を更に蝕んだ。
「ク……私の雑兵共は来れないんなら……私が相手取るしかない、か」
 バグナは既に状況が明確に不利であると悟っていたが、勢いづけるように強く拳を叩き合わせた。
「これまで散々力でねじ伏せてきたのだろう……なら、同様にねじ伏せられる事も、覚悟はしてたんだろうな!」
 ジョージもまた拳を構え、バグナの真正面から突進する。突進の勢いに乗せた拳を、バグナの身体目掛けて突き出した。
 ガン! と激しい衝撃と音が響き渡る。バグナが咄嗟に突き出した拳とジョージの拳がぶつかり合っていた。
「そんな覚悟など必要ない。私はねじ伏せる側の人間だ。これまでも、これからも!!」
 バグナが素早い回し蹴りを放つと、今度はジョージがそれに対応して蹴りを放って受け止める。二度、三度と技の打ち合いは続き、不意にジョージは跳び上がった。
「その傲慢も、今日で終わりだ!」
 そして放ったアッパーカットがバグナの顔面を打ち、機械の瞳を打ち砕いた。
「軍事活動の為に民間人を見殺しとはな。貴様らの軍事活動より、民間人の命の方が重要だ……故に、ここで貴様らを潰す。余計な仕事を増やした罪は重いぞ」
「ほざけ……貴様の脳天、叩き潰してくれるわ!」
「やってみろ!」
 そしてバグナは再び拳を打ち下ろす。ジョージは拳を固く握りしめて打ち出すと、再び拳と拳がぶつかり合う。
 が、次の瞬間。打ち出したバグナの拳が衝撃に耐えきれずにバキリと大きな亀裂が入り。その腕が粉々に砕け散った。
「なんだと……ッ!!」
 砕けた腕の根元を抑えながら、バグナはイレギュラーズ達を睨みつける。
「ふざけるな……この私が、こんな場所で……」
「お前は間違えたんだよ。あらゆる面でな」
 エーレンは剣を携えバグナとの間合いをゆっくりと測る。バグナはエーレンを睨みつけ、
「何をやっている……こいつらを撃て!!」
 そして号令を放ち、吹き抜け上方から弾丸が放たれる。
「遅いな」
 エーレンは即座に跳び、迫り来る弾丸を斬り捨てると壁を蹴って更に跳び上がり、弾丸を放った兵士を斬り捨てた。
 そしてバグナの眼前に着地して、何事も無かったかのように言葉を続ける。
「意に沿わぬ医療者の命を奪えばダイレクトにお前たちの医療に不足が生じる。民を医療から締め出せばお前たちの飯は誰が作る? その程度のこともわからんのか?」
「何だと……」
 バグナは冷たい瞳でエーレンを見る。しかしエーレンもまた、冷ややかな視線をバグナに向けていた。
「お前たちのやっていることは、畢竟自分の脚を喰って腹を満たすタコと同じなんだよ」
「言ってくれるな……正直、お前がいう事が間違っているとも思わないが……私は私に命じられた仕事をこなすだけだ。貴様が語る道理などどうでもいい」
 バグナは残った片腕を構え、エーレンに狙いを定める。エーレンもまた、十字剣を居合の型で構える。
「だとすれば、仕える相手を間違えたというだけの話だ。どちらにせよ、やはりお前は全てを間違えている」
「さてな……民も国も正しさも、私にとってはどうでもいいんだよ。本当はな」
「そうか」
 一瞬の静寂が流れた。そして踏み出したのはほぼ同時。バグナは拳を振り下ろし、エーレンは居合の斬撃を放つ。
 ザン、と小さな音がして。そして全てが終わった。バグナの鋼の拳はエーレンに直撃する寸前でピタリと止まり、そしてその胴体が真っ二つに両断された。
 崩れ落ちたその鋼鉄からは、最早何の音も光も発されはしない。
「バ、バグナ大尉が……負けた……」
 狼狽えた様子の敵兵達に、イレギュラーズ達は一斉に武器を向ける。
「降伏しろ。それとも、まだ続けるか?」
 医療都市クロイズ中央部、クロイズ大病院での戦いは、こうして終わりを迎えたのであった。

成否

成功

MVP

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃

状態異常

なし

あとがき

 バグナ大尉は撃破され、その他の兵士達もその全てが撃破、または捕虜となりました。
 中央部が制圧された事により作戦も勢いづき、吹雪が止んだ頃には、医療都市クロイズの解放が完了していました。
 地下に軟禁されていた医療従事者達も全員が無事保護され、外に追いやられていた入院患者達も早期に大病院へと呼び戻す事が出来ました。大きな被害は出なかったと言い切っていいでしょう。

 という訳でお疲れさまでした。MVPは地下の制圧に貢献し、ロビーでの戦いにおいても仲間への被害を減らしたあなたに差し上げます。

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