シナリオ詳細
再現性京都:こひしかるべき紅葉狩りかな
オープニング
●冬の頃の『はづきさん』
近代的なビルと、日本の古都の街並みが混在する再現性京都。
その商店街の、店と店の僅かな隙間。
狭そうに立つ鳥居を潜り、続く石畳を渡れば、四方をビルに囲まれた小さな空き地へ到着する。
周囲の発展に取り残されたようなその場所にひっそりと鎮座しているのは、今では祀る者もほとんどいないこれまた小さな祠だった。
ここは八月最後の『夏送り』の日に、彼岸と繋がる『八三二橋(やみじばし)』が顕現する社。
知る者はこの小さな社に祀られた主を、『はづきさん』と呼ぶそうだ。
『はづきさん』の主な祭りは『夏送り』のみらしいが、夏が終わり秋も過ぎて、冬の報せも聞こえてきた今日この頃はどうなっているのか。
「悪質な怪異に変化していないといいのだが」
「『夏送り』以外の祭りがないなら、今回は露店で楽しむことは難しそうだな(弾正が)」
『夏送り』の際にもこの社を訪れた『黄泉路の楔』冬越 弾正 (p3p007105)と『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル (p3p008599)は、雪がちらつく敷地に人影を見つけた。
『命あるもんは、橋を渡る時を選ばれへんの。選ぶもんもおるけどなぁ。
ビル風と影でえろう寒おすけど、ここは年中来るもん拒まずえ』
雪と共にどこからか吹き込んでくる紅葉の葉を籠に集めている狐面の『はづきさん』。仕えてくれる神職どころか、霊的な眷属の類もいないようだ。
発展めざましい再現性京都の中で辛うじて残されているこの境内も、開発の波に呑まれてしまうのは時間の問題であるように見える。
その時、この『はづきさん』はどうなってしまうのか――。
『安心しよし、『はづきさん』は無(の)うなれへんよ。
無うなれへんけど、こうも多いと溢してまいそうでなぁ』
話す間にも、舞い込む紅葉を慌てて籠に収める『はづきさん』。
どう見てもただの真っ赤な紅葉にしか見えないが、地面へ落としてはいけないようだ。
『あ、よかったらこの『紅葉狩り』する? 地面へ落ちる前に、籠に紅葉を集めるんよ。
お持ち帰りはあかんけど、手伝うてくれると助かるわぁ。
一枚一枚、色も形も違うのん。おもろいと思うで?』
少し季節外れかもしれないが、ビル風に不規則に舞い踊る紅葉を落とさないように籠へ収めるのはひと工夫求められる作業である。
『はづきさん』と、あるいは誰かと競ったり、協力しながら集めるのもいいだろう。
『ちなみに、やけど。この辺りに本物の紅葉はあらへんのよ。
触ったとき、何か見えたり、聞こえたりするかもしれへんけど……絶対、落とさんといてな?』
●その形は
『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)は、舞い落ちてきた一枚の紅葉を手に取った。
燃えるような赤に染まりながら、中央から破れかけている葉。
その葉を取った瞬間、ある光景が目蓋の裏を過ぎった。
同じような色に塗れた『何か』。同じように斬り刻まれた『何か』。
多分、それは記憶の彼方に消えた何かだった。
恐らく、これより先に抱くことのないアイの形。
心底アイし抜いた、アナタの形。
「『はづきさん』も御人の悪い……そのようなアイが見えるのでしたら、一言教えて下されば」
『怖がらせてもうたらうちが困ってまうやないの。文句言わんと拾いよし』
「ええ。それは勿論」
『はづきさん』に短く答えたチャンドラの顔は、恍惚としていた。
――その葉が見せるものは、『罪』である。
- 再現性京都:こひしかるべき紅葉狩りかな完了
- GM名旭吉
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年01月08日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
外からでは存在自体に気付きにくく、小さな鳥居から入っても神社らしいものがほとんどない『はづきさん』の境内。
初めて訪れた『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)にとっては興味深い場所であり、できればこのまま残してやりたい気もした。
(……まぁ、今話すべきことでは無いか。今はそれよりも)
不規則に風に煽られ舞い落ちる紅葉。それを地に落とすまいと、『溶けない結晶を連れて』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は籠で受け止める。
「もう冬なのに紅葉が舞っているのは不思議な光景ですね。夏送りもそうでしたが……」
「そうですね。今回は橋で動きがあるわけではないようですが」
同じく籠に収めながら、過ぎし祭りを思う『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)。あの夜見えたものには、今は頭を振っておく。
「落とさないように、とは大変そうだ。反射神経の訓練になるだろうか」
葉が落ちてくる位置を予想し、確実に籠に収めていく『蹂躙するキャラメルポップ』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)。傍で共に葉を集める『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)も一見大事ないように見えるが、この葉は今の彼に何を見せてしまうのか。
「……弾正、辛ければ俺が全部キャッチする。無理はしなくて大丈夫だからな?」
「俺は大丈夫。罪に悩む事なんて日常茶飯事だ。この歳になると、罪が重なりすぎて痛みすら麻痺してしまうから恐ろしいな」
アーマデルの心配へ軽やかに笑う弾正は、アーマデルこそ心配だと返す。夏には結果として池へ飛び込んでしまった彼なのだ。
「よっ、と。私は結構こういうの自信あるんですよね。えっひっひ」
二人を尻目に、かなり低い位置まで落ちた葉を『こそどろ』エマ(p3p000257)が器用につまみ上げる。
「めぇ……ありがとう、ございま……はっ」
『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)は深く考えずに礼を述べたものの、彼女の拾った葉が銀色に染まっていたのを見て思わず二度見する。
(この紅葉、本当に本物ではないのです、ね)
一方で。
「善良なる一般市民でしかないというのに罪なんて犯すわけがないだろう。となれば当然視えるものも存在しない、ただの落ち葉キャッチゲームへと成り果てる。楽な仕事で役得ではあるが……」
我ながらどうしてこんな依頼へ参加してしまったのかと、つまらなそうに視線を遠くする『隠者』回言 世界(p3p007315)であった。
「ところで、はづきさん……までがお名前でしょうか?」
「はづき様、とお呼びしても?」
ジョシュアと雨紅が尋ねると、狐面の『はづきさん』は「『はづき』が残ってたらええよ」との答え。
(『はづき』とは八月……、即ち夏のパリピか)
感情が見えにくい瞳の底で謎の納得をしつつ、アーマデルも万一落としてしまった時のことを問う。
「まあこういうのって、大体ろくでもないことになるんでしょうね」
エマも物知り顔を向けて確認する。
『せやねえ……ろくでもない、かもしれへんねえ。まあまあ、今は気張って拾ってってえな』
是とも非とも言い難い返答。
ただわかるのは、ひと目たりとも目を離してはならない、ということだけだ。
皆で集まっていては、この狭い境内ではぶつかってしまう。
イレギュラーズ達はそれぞれに分かれて『紅葉狩り』を続けることとなった。
●
そも、この場における『罪』とは何か。
汎用的には、罪とは道徳、あるいは法律に反することを指すもの。しかし、後者を犯しているような者はイレギュラーズでもそう多くはないだろう。
あくまで、実数ではなく全体に占める『割合』の話だが。
となれば、前者の道徳心に恥じる行いをした過去を『罪』として見せてくるのだろう――というのが、世界の分析だった。
(しかし、忘れた過去さえ想起させるとはどのような原理なのか……いや、そろそろ集中するか)
葉を落とせば、恐らくは何かしらのよくないことが起きるだろう。
しかし、落ち葉を延々とただ拾い集めるだけでは何かの悟りを開いてしまいそうだ。
葉のひとつを取れば、ちらと過ぎる感情と出来事。表は綺麗な紅葉なのに、裏は夏を思わせるほどの青葉だった。
これが罪の形ならば、恐らくは――『嘘』だろうか。
確かに人並みに嘘は吐いたし、小学生の時にテストで一度だけカンニングはしたし、また嘘は吐いたし、親の財布からこっそり小銭を盗んだりもしたし、それからも嘘を吐いたし、更に嘘を吐いて、また……――。
「……いやほとんど内容同じじゃねーか。俺の罪は嘘で挟んだハンバーガーか!?」
どれを取っても、世界にとっては些細な『嘘』ばかり。
もっと多彩な『嘘』を吐いておくべきだったかと思わないではないが、取り返しが付かなくなっては困る。
今は、この味のしないハンバーガーを甘んじて味わっておくとしよう。
*
かなり早い内から『アタリ』を引いたのではないだろうか。銀色の紅葉など。
これは多分、あの裏路地の太い配管の色だろうと。エマは脳裏に映った記憶から察する。
初めての盗み。幼い頃、空腹に耐えかねて人様のパンを盗んだ。
同じく飢えていたであろう、スラムの裏路地で泥酔していたホームレスが大事そうに抱えていた食べかけを、力任せに。
(――んん。まぁ、何かあるんだろうなとは思ってましたけど。過去視の紅葉とかそういうアレなんでしょうか)
古い記憶を懐かしくは思っても、それだけだ。感傷に浸る間もなく紅葉は落ちてくる。
次は赤い葉。その次は黄色。紅葉としては普通の、特に珍しくもない色だ。
――だというのに、いちいち見せてくる。
よく染まった赤は、民家に侵入し衣類や食料を盗んで過ごした時の。
黄色から赤へ染まる葉は、肉屋に侵入した時店主に見つかり追い回されて殺されそうになった時の。
際立つ黄色は、ローレットの依頼により貴族の屋敷に忍び込み機密書類を盗んでいった時の。
他にも、他にも。
『特に珍しくない色』で、『特に珍しくない盗みの記憶』を並べ立ててくる。
(むぅ。むぅ……盗みの記憶ばっかり出てきますね。まぁ、私と言えば盗みですけれども。何を言いたいんでしょうね、この紅葉は)
流石のエマでも考えざるを得ない。これが罪で、これを落としてはいけないとは、どういうことなのか。
まさか受け入れて反省しろ、という訳でもあるまいに。
「えっひっひっひ。ひっひっひ……」
そんなもの、今更過ぎて無理だが。
*
さて。一体どんな罪を見せてくれるものか――汰磨羈はいっそ楽しみに思いつつ、両手を駆使して舞い落ちる紅葉を片っ端から掴んでいった。
初めに掴んだものは、ふっくらと丸い輪郭。昨晩夜食でシュークリームを欲張った光景も流れ込んできた。葉の色も香ばしそうでいい。
次は更に丸い。もはや円だが、葉にしては硬い。記憶の光景と合わせても、あの妙に手が止まらなかった煎餅の時だろう。
(……ダイエット絡みが続いている気がするが気のせいか?)
次はどんな暴食の罪が来るかと、空を見上げた時。
香ばしくも、美味しくもなさそうな黒い葉が一枚、二枚、それ以上に限りなく落ちてきていた。
(ああ、これは……深く考えるまでもないな)
触れれば、走馬燈のように様々な記憶が流れてくる。
汰磨羈がこれまで殺めてきた数多の命の、数々の最期達。
生きる為の糧として殺し喰らう、生存に必要な獣の本能とは全く違う。ヒト特有のエゴに塗れた理由で随分と多くの命を奪ってきたものだ。
納得できるもの、できないもの。様々な理由だ
(だが、後悔はしていないよ。それらの罪を乗り越えて尚、その先に進むと決めたんだ)
籠に収めた黒い葉のひとつを摘まんで、その裏表を観察する。本当に真っ黒で、良くも悪くもそこに区別は無かったのだと知る。
(――犯した罪の分だけ、成すべきことを成す。それまで、絶対に死んでなるものか)
中身のわからない黒い葉ひとつへ、誓いを新たにする。
*
「わ、わ……風がで葉っぱが……」
風向きが急に変わり、あらぬ方向へ飛んでいく紅葉をわたわたと追いかけるメイメイ。
その内の一枚をようやく捕まえて、無事に籠の中へ合流させる。
(色んな形が、あるのです、ね。わたしの、罪の形、この中に……)
様々な色と形の紅葉が随分と積もった籠の中を覗き込む。妙に歪な、丸みを帯びた葉が多いような――というよりは。
(あ、れ……? 他の葉っぱも全部、丸い葉っぱばかり……?)
おかしい。最初に覗き込んだ時はこんな形ではなかったはず。
不安になって葉の一枚を手に取れば、その答えが一瞬で目蓋の裏に焼き付いた。
――これが、わたしの罪。
初めは、そんなつもりではなかった。知らなかったから。
気付けばたくさんの、わがままな気持ちを持ってしまった。
もっと、こうしていたい。もっと、こうであれば。もっと、もっと……もっと。
この籠の中全てが、何とか押し込め続けている欲張りな、いけない気持ち達だ。
(嬉しいことや、楽しいことであったとしても、そういう気持ちは存在して。
それからとても、ちくちくと……心の中が痛むのです。何故、でしょうね)
なりたいカタチになれないのが苦しいのなら、そうなれるように力を尽くすべきだと、理性ではわかっている。
わかっていたのに――こんなに窮屈になるまで、降り積もらせてしまった罪の形だ。
*
急な風の変化にも、超越個体の身体技能と五感を以てすれば対応は容易い。
そのように作られた体と、自身で学んだ技術。どちらも雨紅に欠かせない要素で紅葉を拾っていく。
それだけでよかったはずが。
「……こういう場所で、それは甘すぎましたね」
舞い落ちる記憶に思い知らされる。
これこそが、重ねてきた罪なのだろう。
体と、技術。
それらを活かして主の敵を屠り続けていた過去もまた雨紅だ。
ある葉はほうぼうが破れた赤、ある葉は未だ小さな赤、ある葉はまた違う形となって手に落ちる。
触れれば突きつけられるように、次々と脳裏に浮かぶ最期たち。しかし、その最期を与えた相手の顔にひとつとして覚えがない。
数多の処理対象のひとつ。それ以外の意味を持たない『記号』に等しい顔など、用が過ぎればすぐに忘れてしまったからだ。
人の命を奪うということを、あの頃は『その程度』としか見ていなかった。それ以上を考える意味も、理由も無かった。
「……お手伝いすると言いましたからね。ちゃんと拾いきりますよ」
ぬめるように濡れた赤をひとつずつ、溢すことなく拾う。
今は主の手を離れたとは言え、雨紅にはこの生き方しかできない。
しかしこれからも重ねていくこの罪は、何も考えず主の命に従うのではない。罪を罪と認めて、自ら選んで進んでいく道だ。
罪には罰が与えられて然るべきだ。いつか報いの時が来るのかもしれないし、今でも恐怖や躊躇いが無いわけでは無い。
「もう、ひとつも溢しませんから」
それでも、これからは――この葉のように抱えていくと決めたのだから。
新たに拾った一枚を、また籠の底へと仕舞った。
*
強化した視力で、不規則な葉の動きを追うジョシュア。
やはり皆で分散して正解だったと思う。紅葉に集中していたら地上の自分達の位置がわからなくなってぶつかったり、互いに見送ったりして落としてしまう葉があったかもしれない。
(それにしても、紅茶色ばかり……あまり違和感の無い色ではありますけど……)
赤みを残した明るい茶色。紅茶色の紅葉を籠へ収めたのは、これで何枚目だろう。
今もまた紅茶色を捕まえて、籠へ収めようとした、その一瞬。
紅茶を毒で汚したことを思い出した。
大切で温かくて、尊い思い出がある紅茶を、自分の毒で汚したのだ。
心を失う病を治す為とは言え、自分の好きになれない部分でそれをした後味の悪さが消えない。
清も濁も。好きも嫌いも。自分もあの人も。この毒で染まってしまえば皆同じ――などと、まともな思考なら有り得ないことを実行してしまった自分自身が気持ち悪い。事実として有り得てしまったのだと思うと、怖い。
(僕は毒の精霊種ではないんです……違うんです……)
実際には、必要に迫られて行ったのだから仕方ないと思われるかもしれない。だが、そうではない。
少しでもそんな考えを起こしてしまった事を、誰かに正して欲しい。悪いことだと窘めてほしい。
そうでなければ、いつかこの力は間違えてしまいそうで。
罰して、欲しかった。
*
ふわりと穏やかな風が起こって、下へ落ちるはずだった紅葉達が巻き上げられていく。
風を起こした弾正はすぐさま宙へ飛び、俊敏に飛び回って葉を集めていった。
それでも溢れてしまう葉は深追いせず、地上にいるアーマデルに担当してもらう。
「アーマデル、大丈夫か」
「問題ない。弾正も何かあったら――」
「わかってるさ」
アーマデルの心配を察して弾正が笑顔を送ると、アーマデルも小さく頷いて葉を集め続ける。
このまま、何事も起きずに終われば――僅かに抱いた希望は、叶うはずもなく。
――今のは、誰の視点だ?
見えないはずの何かを掴もうとして、一瞬の間に流れ去った景色と声を弾正は鮮明に覚えていた。
オフホワイトと渋いオレンジ。あの色彩はイーゼラー教の談話室に違いない。
窓から差し込む木漏れ日を背に、誰かに背負われていた。
最後に薄暗い石畳の階段を降りて固い場所に寝かされていたように思う。
覗き込んできた誰かの顔もわからないが、声は間違いなく道雪のものだった。
『いつもすまないな、弾正。今日は更に脳波を乱して数値を取ろう』
『なぁ。特異運命座標は奇跡を起こすんだろう? だったら早く教えてくれよ。俺に……――』
心、とは。何だろうか。
弱さだろうか。
弾正が一瞬の光景に思いを馳せる間、アーマデルの元には様々な葉が落ちてきていた。
蜘蛛糸で雁字搦めの濡れた葉。ほとんど焼けてしまった葉。砂塗れの葉。
あれは何も知らず『糸』を振り払い一人逝かせた師兄だろうか。
力が足らず、庇わせて死なせた弾正の弟だろうか。
和解しかけ、一度は送り損ねてしまった魔種の少女だろうか。
――いずれも力及ばなかった己の罪。知識や知恵という力が届かなかった、無知という弱さだ。
(判断と立ち回り、それが経験を経て未だなまくらであるという事……それが弱さで、俺の罪であるのだろう)
己の弱さに足を止め、朽ちるまで立ち尽くすこともまた贖罪なのかもしれない。
しかしそれでは、救えなかった者が浮かばれないと考えた。
(『ヒト』としては、化けてでも出てきてくれて構わない……と思わなくはないが。『一翼の使徒』としては言えない。死者の眠りを妨げてはいけないから)
例え化けてきてくれたとしても、死なせた事実は変わらないのだ。変えられるのは、未来という一択しかない。
(これからも経験を積む為に前線へ出、また幾度も繰り返すのだろう。巡って捩れ、縺れて廻る)
しかし、『糸』の巡りを少しずつずらすことはできる。幾度の廻りを経て、少しずつでも良い巡り方ができればいい。
そうあろうと、アーマデルは前を向いて。
「……弾正?」
背から抱き締める広い温度を感じた。
「君が、辛そうに感じた」
「そう見えたか?」
「辛くなくても、俺がこうしたい。前へ歩き出そうとする君に」
「……そうか」
その気持ちを受け取りながら、弾正へも温もりを返すように手を取った。弾正の逞しい体格に比べれば、アーマデルの手はあまりに細く小さい。
それでも。
「俺では頼りないかもしれないが、俺は弾正と共に歩んでいきたいと思う」
彼と共に、進まなければ。救えなかった者達を語ることも許されないだろうから。
●
しばらく集めていると、ようやく降り続いた紅葉が止んだ。
『ほんまおおきに、助かったわぁ』
「はづき殿、この紅葉が見せた罪は実在するものなのか?」
尋ねた弾正の顔は真剣だったが、『はづきさん』は紅葉のようにひらひらと袖を振る。
『さあ……見えたんやったら、にいさんの中にはあるんとちゃう?』
「この葉をどうするのでしょう? このままにするのも良くなさそうですが……」
「そもそも、なぜ『落としてはいけない』し『はづき様が拾っている』のでしょう?」
言えなければ深くは聞かないとしながらも、籠を差し出しながらジョシュアと雨紅が問う。
彼ら彼女らがこの紅葉に強い興味を抱いていると知ると、汰磨羈が徐に切り出した。
「その辺り、私も詳しく、じっくり聞いてみたい。茶請けなども用意するが、どうだ?」
『構ってくれるんは、ほんまに嬉しいんよ。けど、今日はあかんわ。この紅葉もちゃんとせなあかんし』
またゆっくりできる時に来てほしい――と言い残して、『はづきさん』は足早に祠の陰へと籠を運んでいく。
やがて全ての籠を運び終えると、『はづきさん』は籠と共にいずこかへ消えてしまった。
年の瀬の厄払いにしては、かなり人騒がせではあったが――それぞれに己が行いを振り返ることとなったイレギュラーズだった。
●
お茶会、ええなぁ。ほんまに楽しみやなぁ。
……楽しめるとええなぁ。
…………もつとええなぁ、ここ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お待たせ致しました。年内の罪をお届けです。
「罪」へ対する解釈や向き合い方が、皆様の中で共通していたり違っていたりする箇所があり興味深かったです。
『はづきさん』へも興味を持って頂きありがとうございます。
『ゆっくりできる時』はその内ご用意したいなぁという心持ちです。
もつといいですね、ここ。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
旭吉です。
この度はシナリオのリクエストをありがとうございました。
リクエスト者以外の参加も可能となっておりますので、どなた様もお気軽にどうぞ。
今年の罪は今年の内に。
●目標
季節外れの『紅葉狩り』をする
●状況
練達の再現性京都、商店街の小さな鳥居から続く神社の境内。
境内と言っても、小さな祠がある以外は何も無い、ビルと店に四方を囲まれた空き地状態です。
(シナリオ『再現性京都:夏の終わりと八三二橋』と同一の舞台ですが、該当シナリオをご存知なくても全く問題ありません)
雪がちらつく寒い天気ですが、積もってはいません。
ビル風に舞い踊りながら落ちてくる紅葉を、地面へ落とさないように拾って籠へ集めてください。
お一人様での参加も可能ですが、同行する方がいればプレイングにてお相手のお名前をお願いします。
(チャンドラのご指名も可)
紅葉を手に取ると、あなたの『罪』が見えます。
見える『罪』は紅葉の見た目と関連していますので、それらしい見た目をご指定ください。実在しないようなゲーミング葉などもOKです。
(指定が無い場合は『罪』の内容からこちらで勝手に設定します)
『罪』の内容は軽いコメディから重いシリアスまで何でも結構です。
ダイエットの誓いを破ってたらふく食べてしまった罪なら、丸っぽい葉かもしれません。
雨の日の罪なら、濡れた葉かもしれません。
数え切れないほどの罪なら……いろんな葉を、たくさん拾って、色々見えるのかも知れません。
また、「紅葉は拾うけど自分の話より他人の話を聞きたい」という選択肢もありです。
その場合は、聞き手としてのプレイングをしっかりお願いします。
(ご自身の『罪』に関する描写は紅葉の色や形など、最低限程度になります)
●NPC
チャンドラ
自分の『罪』に関しては、詳細は思い出せませんがとても満足しています。
お誘いがあれば悦んで。お声が無ければ特に描写しません。
『はづきさん』
この社に祀られている主。
神職や眷属はいないので自分で掃除とかもする。
『夏送り』にいた煙管の狐面と同一人物。
こちらも言及がなければ基本的に描写はありません。
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