シナリオ詳細
騎馬民族からの挑戦状
オープニング
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涼風に草が靡くその地に、ふたつの集団が相対していた。それぞれがおおよそ十人。
東の方面に陣取る集団は一人一人が場所を開けて大きく展開し、西の方面に陣取る集団は一つに固まっている。
全員が騎乗し、その手にはそれぞれ長柄の武器を握っている。静かでありながら、二つの集団の間には鋭い殺気が満ちていた。
周りにはテントのような家が並び、メェだのヒヒンだのと動物たちの啼き声が響き、只管のんびりとした牧歌的な風景が広がっている。
「ロジーナ様。お引き頂くことはかないませんか」
異様に刀身の長い剣を背負った男が、広く展開した方の集団から姿を現わした。
一見するとやや細身の肉体のように見えて、左腕は武骨な機械のソレであり、彼の種族が何であるかは一目瞭然であった。
「あぁ。この国の流儀に従って戦いで決めるのだ。なぁ? 文句はないだろう?」
対するように前に出たのは鎗を携えた銀色の長髪をした少女だ。少女の皮膚には機械的なラインが伸びており、その青いの瞳はぎらついた光が灯り、両の手足は機械なパーツを持っている。
「……ロジーナ様に傷を負わせたりしてしまうのは、先代へ申し訳ないのですが」
「しつこいぞ、イーヴォ。そんなにガタガタ吠えるのなら、お前こそさっさと負けを認めてしまえばいいのではないか?」
「……それは出来かねますね」
強く剣を握って、男――イーヴォが構える。ロジーナもにやりと笑みを浮かべて鎗を構える。
ほぼ同時、二人は馬を走らせた。一合、すれ違いの一瞬。イーヴォが剣を振り下ろす。その刀身を鎗で跳ね上げたロジーナが、そのまま鎗で突きを放つ。
静かな草原に、激しい剣戟のぶつかり合う音が響き、不意の一瞬、ロジーナがイーヴォの胸を石突で叩いた。
体勢を崩して倒れたイーヴォに対して、ロジーナは更に攻めかかっていく。
いつのまにか、周りにいた他の者達もその様子を互いの代表の名を叫びながら応援していた。
「……つまらんことをする。興がさめた」
そう舌打ちと共に告げて、ロジーナの鎗がイーヴォの剣をからめとり、跳ね上げた。剣は宙を舞い、ざっくりと大地に突き立った。
「参りました」
真っすぐに穂先をイーヴォに突き付ける。
「なら、私が当主だな? ――ならば、さっそく当主として命令するとしようか」
冷たくイーヴォを見据えそう言って、ロジーナは笑うと、イーヴォの後にいる人々を見つめる。
「姫様……?」
「我々はこれより、鉄帝と戦争を始める!! 軍備を整えよ、我らが騎兵の実力を、鉄帝に見せてやろう」
「姫様!?」
ぎょっとしたイーヴォの声を無視して、ロジーナは周囲の人々にもう一度それを告げ、自分が出てきた集団の一人に指示を出していった。
「うるさいな。もう遅いぞ。どいつもこいつも、手を抜くかそもそもがお話にならん。消化不良にも程があるわ」
「そのためには民族を滅ぼす気でございますか!?」
「それがどうした? 力で戦い、力で負ける。ただそれだけだ。その先が死であることぐらいどうということはなかろう。そも、生物であればいつか死ぬんだからな」
イーヴォの言葉をつまらんと言わんばかりに退けて、少女が踵を返した。
●
鉄帝の遥か東の方に、遊牧騎馬民族の部族がいた。数百人規模の小さな部族だ。
そんな彼らの当主が、つい最近、病に罹って没した。
部族は鉄帝らしく「一番強いものが次期当主」という宣言をして戦いを開始、最終的には先代の娘が座を引き継ぐことになった。
「それだけなら、別にいいのですが、私が手を抜いてしまったばっかりに姫様は鉄帝に喧嘩を売ると言い出してしまいました」
そう、依頼人の青年がぽつりと呟いた。
「……は?」
イレギュラーズの一人が思わず声を漏らす。
「無類の戦闘好きの姫様は、戦いがしたいがために今回の長決定戦に参戦されたのですが、私は長に多大な恩があり、思わず手を抜いてしまったのです」
その結果、消化不良の極みとなった姫様は、新たな戦いを探して鉄帝に喧嘩を売ろうしているのだという。もちろん、絶対に勝てない。それでいいのだ。戦いさえできればいい。自分の命がどうとか、彼女は興味がないようだ。
「先代の部族を滅ぼされるわけにはいきません。ローレットの皆さんは中立の立場と聞きます。姫が――ロジーナ様が本当に鉄帝に戦いを挑む前に、ロジーナ様を満足させてください」
そう言って青年は頭を君たちに下げた。
「満足……というと?」
「はい、分かりやすく言うと、姫と戦っていただければ。殺す気でやっていただいて構いません。恐らくですが、姫は白兵戦を望んでいると思います」
「本当にいいのか?」
「はい。それから、姫様についての情報といたしましては、まずあの方の鎗はお気を付けください。あれは古代兵器らしく、ビームが出ます」
「なんだそれ!?」
「あと、私もその戦いに参加させていただくことになりますが、手加減は出来かねます。私が手加減をしたとしれば、姫は部族全滅をさせかねません。ですが皆様なら何の問題もないかと思います」
なんて言葉を残して、青年は再び頭を下げるのだった。
「ところで、最後に一ついいか? 姫さんとやらは討ち取っちまっても大丈夫なのか?」
「……はい。というより、下手に手加減すればそのほうが姫の不興を買いましょう。容赦なくやってください。それで戦死してしまってもそれ以降のことは皆様は気にしないでも大丈夫です」
- 騎馬民族からの挑戦状完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月20日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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秋風が冷たく草原に走る。
枯れ葉に移りつつあるその地を、数十の騎兵がゆったりと進んでいく。
その様子を眺めながら、8人のイレギュラーズ達は悠然とその民族の前へ姿を現わした。
「……ほう、ただの放浪者には見えんな。迷い子でもあるまい。何者だ?」
馬に跨る少女が問いかけてくる。
威風堂々として、それでもどこか燻ぶっている様子の少女を前に、『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)はふと以前にも似たように戦闘好きの女性を止める依頼があったことを思い出す。
「ここから先は行かせられない」
「あぁ、だろうな。ひぃふぅみぃ……見たところ伏兵もいないだろうし、8人か」
静かに、けれど楽しそうに笑っている。どうやら、こちらの言いたいことは分かっているらしい。
もっとも、寒空の草原を進む一団の進路に堂々立ちふさがるなど、明確に目的がなければそうそう起こるものではない。
「なんとも困った姫さんだこって。ちーっとばかし教育がいりますか、ね?」
「中々にお転婆な長のようだな。熱い仕置きが必要か」
『紅の騎士』天之空・ミーナ(p3p005003)と『鳳凰』エリシア(p3p006057)が少女をみとめて頷く。
「このエッダちゃん、闘いは三度の飯のおかずにするくらいに大好きであります」
だからこそ――くぐつ踊りをする間抜けにはなりたくない。後半の句は声に出さずに、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)がいうと、馬上の少女は静かに目を輝かせた。
「闘争に重きを置く部族。同じゼシュテルの者としてわかるものがあるッス! ですが闘争とは己が勝利のため。名誉のため。金銭のため。様々な欲があってこそ。勝利にも敗北にも価値を求めず、ただ力を振るう闘争には何ら意味は無いッス!」
闘争を尊ぶ身なれば、自分達も全力を以って相手となろう。『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)はそう宣誓の言葉を告げる。
「百人じゃ足りずにまだ(戦いを)欲しがるってのか。こりゃ(古代槍が)相当な名器なんだろうな。」
なにやらセクハラに聞こえかねない言葉を言う『豚か?オークか?いやORCだ!』O. R. C.(p3p004042)だが周囲の者達にはあまり気にしてないようだ。
「巻き込んで良いのは敵だけだ。喜べ。僕が相手してやるからよ」
『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は静かにやや粗野な口調で少女に告げた。
「あぁ、そうか、ならば良かった。我が名はロジーナ。なんか知らんが族長になってしまった女だ」
凄絶に、ロジーナが笑んだ、直後。彼女の握る鎗が機械的な文様を浮かべ輝きを放つ。レーザーかと構えを取ったイレギュラーズの前に、一瞬、少女が目を細めた。
「イーヴォ、あと適当に十騎、前に出ろ」
振り返らずロジーナが言うと、後ろにいる部族の中からイーヴォと、他にも十人の騎乗した者がイレギュラーズ達の前へ並ぶ。
「さっそくやってもいいが諸君らはどう見ても英雄の香りがする。このままやっては後ろのひ弱な奴らも巻き添えを食おう。少々場所を変えようか」
心底楽しそうに少女は笑んで、馬を歩かせ始めた。
●
やや場所を変えたところで、イレギュラーズに対して部族たちは陣を組む。
ヴェノムはやや粗野に敵と定めたロジーナに人差し指を向け自分の方へとくいと曲げる。
「来な」
才に恵まれ、地位を与えられ敗北を知らず。一方で認められることもない。
己の磨き上げた技を、培った力を使えず飼殺される。
飼殺されるような状況だが、ヴェノムにはこれが痴話喧嘩にしか思えなかった。
「久しぶりの真剣勝負だ、是非よろしく頼む」
ロジーナは握っている鎗を構え走り出す。真っすぐ、向かってくる穂先、ヴェノムはそれを確認してから爆彩花を構える。
――速いのは、あちらだ。穂先が、真っすぐに突き出される。それを大楯で弾いた後、 触腕で絡めて殺し、お返しとばかりに作り出した気功爆弾を打ち込む。
爆ぜた爆弾を喰らったロジーナはそれでも――いやそれを受けてより楽しげに笑った。
「あぁ――ぁあぁ!! これでこそだ!!」
こうでなくては、そうロジーナが笑う。
終焉の騎士――『終焉の騎士』ウォリア(p3p001789)は静かにその様子を眺めていた。
血気盛んなのは良い戦士の証だ。
___だが、戦士としては一流でも頭としてはそうは言えんな。
そう判断しつつ、終焉の騎士は動き出す。悠然と、あくまで自然体で進み、魔剣ラスアルグルを雄叫びと共に振り下ろす。剛剣より放たれた一撃はロジーナへと打ち込まれ、その身を紅蓮の焔へと包み込む。
爛々と輝く少女の瞳に終焉の騎士は静かに闘志へ応じるように動き出す。
O.R.Kはその間にも馬の機動力を削がんと調教した犬を放って向けた。
更に馬自体にとりつくと、馬を投げんと体に力を込めた。
見下ろすロジーナの瞳は、驚きが見え、しかしすぐに面白いと言わんばかりの笑みを浮かべると、まるで生き物かのごとく鎗がしなり、絞めるO.R.Kの背後に強烈な殴打が見舞う。
「悪いな姫さん、私が相手でよ。あいにく私は騎馬戦より、自分の足で走る方が好きでなぁ!」
アンデットのなりそこないを引き連れたミーナは蒼の魔剣に光を通さぬ暗黒を纏わせ、ロジーナへ向けて振り下ろす。穂先で巧みに外された剣そのままの勢いで次の剣を再び振り上げた。
「先代のご意向だかなんだか知らないッスけど、あの闘争心の塊を甘やかしすぎッス」
天駆脚の効果も加えてすさまじい速度で戦場を疾駆したジャイアントステップ の馬上、スウェンはイーヴォへと肉薄し、竜爪を振るう。
「態々こんな命のやり取りする場に呼んでおきながら、自分ではあの姫様を倒すことができなかった? おふざけは大概にしてほしいッス。それこそ、アンタも命を賭ける覚悟で戦って欲しいッス!」
長大な刃を持つ太刀を振るうイーヴォに対して、巧みに躱し、打ち込み、馬の脚を切り裂いていく。
見る見るうちに消耗していくイーヴォの愛馬を見据え、スウェンは後方に控える戦友に合図を出した。
「弱さは罪ではないであります。卑怯さも罪ではないであります。しかしそうして己を、己の身でなく心を安全圏に置いている貴様の姿勢は罪であります。故に、お覚悟なさいませ」
メイド服を翻し、エッダは手甲を振るう。応じるように伸びてきたイーヴォの刀を、甲の側で受けながら、弱者が強者に勝利するための武術を、遺憾なく打ち込んだ。
確かな、一撃の感触。エッダは悠々と拳を抜いた。
馬上より落ちたイーヴォは、少しだけ後ろへ退いて、刀を杖代わりに立ち上がる。
「流石に、実力者というべきですね」
立ち上がり、イーヴォが刀を担ぐように持ち、そのままそれを頭上で旋回させる。やがて草原の草木を巻き込みながら、暴風域が出来上がり、エッダとスウェンを巻き込んでいく。呼吸は乱れ、息が詰まる。
暴風の耳障りな音を聞きながら、エッダは真っすぐにイーヴォを見据えていた。
「気に入らん……」
苛立ちを露わに、一歩、前に出る。
「恩人だの何だの御託を抜かして手を出さんその理由が」
本気であれば股間をもぐ。そんな強い意志さえ持って、一歩、さらに一歩と前に出る。
イーヴォが目を見開いていた。握りしめた拳を、今度はイーヴォの顔に目掛けて打ち込んだ。
その衝撃が、イーヴォの腕を止め――スウェンが動いた。高速に駆け抜け、縫うようにイーヴォの身体を切り裂いた。
「これで終わりッス」
さらに続くスウェンの第二撃がイーヴォの股間を蹴り上げ、一瞬、その動きが止まる、
「うぐっ!?」
続くようにエッダから打ち込まれた殴打が、鳩尾を捉え、男はその場にどさりと倒れこんだ。
エリシアは七色に輝く毛先を風に踊らせながら、敵陣を静かに見据えていた。
「迂闊、余りにも迂闊だな!」
一直線にこちらへ突っ込んでくる四人の兵士達に呪骨杖を静かに掲げ、そう呟いて、それらに向けて轟と強烈な一直線の魔砲を打ち込んだ。
その一撃だけであっという間に取り巻きの兵士たちは地に伏した。
あまりにもあっけない、兵士というにもおこがましい軟弱さだ。
その姿を様子を見た他の三人が円状に陣を組んで真っすぐに突っ込んでくる。
「神の炎をその身に受けてみよ!」
静かに見降ろして、エリシアは小さく告げて――周囲へと紅蓮の炎を爆発させた。
それを受けた兵士たちもまた、バタバタと倒れていく。
爆音と爆風、兵士たちの悲鳴、それらをが聞こえなくなるまで、あくまでも涼し気に、鳳凰は敵陣を見据え続ける。
ラダは戦場にて物々しい対戦車ライフルを構えていた。狙う先は、すし詰めのように小さく固まる五人ほどの兵士。蜂の集中攻撃を思わせる超弾幕が、兵士達に風穴を開けていく。
「この行軍、不幸だったな……」
ぽつりと呟く。見る見るうちに倒れ伏していく騎兵は、余りにも弱弱しい。
憐憫さえ覚えながら、しかしラダは次の兵士へ向けて銃口を向け、執念めいた連射による弾幕を浴びせていく。
エリシアの炎とラダの弾幕を前に、騎兵達は瞬く間に悲鳴の一つさえ上げるのを止め、静かに倒れていった。
「もう無理か、友よ」
戦場の中心、多少の傷を負いながらも倒れる気配を見せなかったロジーナが、不意に声を漏らす。
ぽんぽんと彼女が馬の首筋を軽くたたくと、馬は竿立ちになり、そのままふらりと体を横たえていった。
「さて……最後の一人になってしまったようだな?」
馬から飛び上がり、悠々と着地したロジーナとの間合いは、気づけば遠い。
ヴェノムはあくまで自然体に気弾をロジーナへと打ち込む。しかし、それはまるで生きているかのような鎗の捌きで弾き飛ばされた。
「興も冷めてきたが、最後までやるのだろう?」
周囲には兵士やイーヴォを倒して集結した此度の戦友達。こちらの負けは、ない。そう言い切れる。
ロジーナが鎗を構えると、ぽう、と光が浮かび――一瞬のちにウォリアへとレーザーが飛んだ。
「さぁ、再開しようか」
命中したレーザーに強かに撃ち込まれたウォリアが、応じるようにして、裂ぱくの気合を焔へ乗せて解き放つ。
人語では解読しえぬ雄叫び諸共に、焔の竜は紅蓮を放った。
それは大気を揺らし、草木を焼きながら、ロジーナに轟という音と共にとりついていった。
「くふふふ、あぁ、ぁあ、殺す気で来られるとこんなに心躍るのだな」
身体中に火傷を負い、衣装のそこかしこを焼き落としながら、焔の向こうから、少女が突っ込んでくる。
ラダのバウンティフィアー、エリシアの焔式によるダメージをものともせず、笑いながら女は駆ける。
「姫さんよー。部族のしきたりだかなんだか知らねーけど…長って言うからには、皆で生きる道考えなきゃなんねーぜ?」
立ちふさがり、ニーナはそうロジーナへ声をかけた。希望の剣を盾代わりに、棒術のように鎗を振るって打ち込んでくる相手に対して、隙を突いて血蛭を叩き込む。
己の血と、ロジーナの傷口から洩れた血液が混じりながら、大地へと落ちていく。
元貴族の娘として、上に立つ者の先達として、少女へアドバイスを問いかける。
しかし、当のロジーナはそれに対して反応を示さない。
「長、か……」
静かに単語を呟い鷹と思えば、不意に横殴りの石突きがニーナを斬り刺した。
「どうでもいいな。全く、出なければよかったか」
後悔さえ滲む声音で、ロジーナは溜息をもらし、顔を上げる。名乗り口上を上げたエッダを視界に抑え、嬉しそうに少女は笑んだ。
一歩と共に全力で駆け出し、真っすぐに鎗を打ち込んできたロジーナに対して強烈なカウンターを叩き込む。メキリと骨が折れる音を聞きながら、しかし、頭上から楽しそうな声をきいた。
そこに付けるように、スウェンとヴェノムがそれぞれ至近距離で竜爪とインパクトソードを叩き込む。
完全に動きが止まったロジーナに背後からO.R.Cがとりついた。
その大きな隙を、黙って見過ごす愚か者はここにはいない。ウォリアの脚、エッダの拳、ヴェノムの剣が、少女へと一気に叩き込まれていく。
「クハッ、良い一撃だ」
爛々と輝く双眸で、少女がヴェノムを見据えながら、少しずつ身体を崩していく。
完全に屈するよりも前、少女は後退し、鎗を手に再び構え、一息。
次の一撃がくる。それはたしかに感じながら、しかし、ヴェノムとウォリアは気力がつきつつあった。
体力で言えば、まだまだいける。しかし、ここからは大技を打つことはできまい。
だがそれは、相手もそのようだった。煌々と輝いていた穂先の輝きが、いまはない。
「お互いに楽しい戦闘ではあったが、ここからは意地の張り合いでしかないか」
声を漏らすと、ロジーナは構えを解いた。
●
「どうだ、満足したか?」
戦後、イレギュラーズ達はなぜか部族の者達と共にジンギスカンを食べていた。
「はて……どうだろうな」
エリシアの問いに、ロジーナは小さく首をかしげながら返答する。
少女から差し出された羊肉をありがたく受け取りながら、エリシアは一つ、と声をかける。柄にもない、そう思いながらも、少女に視線を向けた。
「これで懲りたなら、御身を大切にすることだ。長というのは自分一人の身体ではないのだからな」
「全くもってその通りらしい……」
自分も羊肉に食らいつくロジーナがそう声を漏らす。
「お前にはお似合いの場所があるぜ」
O.R.Cが近づきながらぐへへと笑う。
「似合いの場所?」
「そんなに力が有り余っているのなら闘技場でも行ってみてはどうだ。負ければ死ぬ、死んでもいいから戦いがしたいのならば___誰もが戦いを望み、命と魂を削り合う中にこそお前の求めるものがあるだろう」
O.R.Cの言葉に続けるように、ウォリアが声を出す。少し考えて、ロジーナはぽんと一つ、手を叩いた。
「ラド・バウとやらか……いや、やめておこう。少なくとも私は少数民族でありたいからな」
鉄帝という勢力圏内に足を踏み入れることはあっても、鉄帝という構造に組み込まれるのはごめんだと、少女は返答の弁を述べる。
「鉄帝に喧嘩を売って一族郎党を道連れにするのでは生贄と何ら変わらん哀れさだぞ?」
「うむ。それに関しては反省している。さすがに短慮だった」
少女がちらりと視線を向けた方角にはラダとエリシアの砲撃で完膚なきまでに苛め抜かれた騎兵達がぼろ雑巾のようになって転がっている。どうやら、死んではいないようだ。
「まぁ、あそこまで弱くなっているとは思わなかったが……」
ロジーナは食べ終えた紙食器を近くにいた者に手渡して立ち上がった。
ヴェノムはロジーナの立ち上がる様子をじっと見つめていた。視線に気づいたのか、少女がこちらに視線を向けて、微かに笑う。
「どこか行く気っすか?」
「さて、どこだろうな……戦いがあるところ、とでも言っておくさ」
誇りをかけた『戦い』の結末が、どちらの勝利だったかは曖昧だ。
「貴殿の剣捌き、気功、それにその触腕、ありとあらゆるものが鋭かった。また会った時、その時は、シアイをしよう。次は負けん」
そう、拳を突き出される。ヴェノムはそれにうなづいて返す。
エッダは縛り上げたイーヴォを見下ろしていた。
「結局、何がしたかったのでありますか? まさか、自分では勝てぬ姫を焚き付けて勝ち目のない戦に向かわせ、姫とその取り巻きを排除して手綱を握ろうとか……」
「それはないだろうよ。ソレにそんな甲斐性はないさ」
そんな声と共に振り返ると、そこにはロジーナが立っていた。
「貴殿のあの拳、なかなかどうして、きつい一撃だった。ありがとう、楽しかったぞ」
ふわりと笑い、エッダに手を伸ばす。エッダはそれに礼を返して。
「そも、コレはやろうと思えばいつだって私を掻けたはずなのだ。これはなんだったか……ヘタレというやつなのだ」
ツンツンとイーヴォを穂先で突きつつ、からからと笑う。
「さて、イーヴォよ。明日から頼むぞ」
「姫様? お許しくださるのですか?」
「この者達との戦いは楽しかったぞ。それに関してはまぁ、そうだな」
イーヴォに頷いて、だが、と否定する。
「私が言っているのはそれじゃない。明日からお前がこの部族を率いろと言っている」
「は?」
イーヴォが間抜けな声を上げて、エッダも少し驚いてロジーナを見る。
「私は旅に出ることにした。鉄帝に組み込まれるのはごめんだが、この世界には彼らのような猛者がごろごろいるのだろう?」
縛り上げていたイーヴォの縄をぷつんと切断して、ロジーナは一つ間を取って。
「――であれば、部族長など堅苦しい役目に縛られたくはない。世界を見に行く。お前が次であることに文句を言う者はいないだろうさ」
豪快な笑いを見せて、少女は話を無理やり切りあげ、踵を返した。
「傷を癒し、力を蓄え、また挑むか?」
あくる朝、一人でもう一頭いたらしい愛馬に跨ったロジーナにラダは問うた。
「貴殿らがそれを許してくれるなら」
そう言い残して、ロジーナは一人、旅立っていった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
GMコメント
お世話になっております。
春野紅葉です。
というわけで、じゃじゃ馬な姫様をとっちめいてきて頂ければと思います。以下敵情報など。
【達成条件】
依頼人の部族の長を満足させる。
なお、満足すれば成功です。
最悪、戦闘中に討ち取られても、彼女が満足のいく戦いができたのなら成功になります。
寧ろ、討ち取ってしまわないように手を抜いた方が不興を買って失敗になります。
皆様の手で容赦なく戦って消化不良からくる闘争心を満足させてあげてください。
【ロジーナ】
今回満足させないといけない相手です。
イレギュラーズと比べて格段に格上になります。
思う存分、殺す気で戦ってあげてください。
気絶させるにしろ、討ち取るにしろ、捕縛するにしよ、ご自由にどうぞ。
・クラス
ブリッツクリーク
・エスプリ
疾風迅雷
・戦闘で使うスキル
キャタラクトBS、リッターブリッツ、鎗弾(クリティカルスナイプ相当のレーザー)、ブロッキングバッシュ
【イーヴォ】
今回の依頼人です。
イレギュラーズと同じくらいの実力者になります。
戦わなくても大丈夫ですが、あまりにも戦わないとロジーナに睨まれ、
何か仕組んでるのではないかと不興を買いかねません。戦ってあげたほうがいいでしょう。
・クラス
ブリッツクリーク
・エスプリ
雷刃
・戦闘で使うスキル
キャタラクトBS、リッターブリッツ、戦鬼暴風陣
【その他遊牧騎兵】
それ以外の取り巻きです。
一応、騎兵としての訓練は受けていますがはっきり言って雑魚です。
一般人に毛が生えた程度です
【その他事項】
今回の敵は鉄騎種の遊牧騎馬民族となります。
鉄騎はもちろん、騎乗戦闘スキルは雑魚の騎兵も持っています。
【戦場について】
戦場は牧歌的な風景の広がる草原になります。
【情報確度】
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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