シナリオ詳細
<咬首六天>祖国よ永遠なれ
オープニング
●BLACK LILY DOWN
鳳自治区に瞬く間に広がった、あるいは『侵食』した団体、黒百合の夜明け団(ブラック・リリィ・ダウン)。
宗教と呼ぶにも支離滅裂な内容を掲げ、所属した者はその殆どが統合性を欠いた言動を発する病にかかっていた。
「領内に蔓延った連中は一通り排除できました。狂気にあてられた市民は現在治療を受けています」
「ふむ……」
加賀・栄龍(p3p007422)と日車・迅(p3p007500)によって纏められた報告を聞き、榛名 慶一は小さく声を漏らした。
開いた窓から外を眺め、両手を腰の後ろに組む。
威厳に満ちたその風貌から、彼は……。
「それで? 次の命令は何かな?」
「「ハッ!?」」
栄達と迅は同時に声を裏返し、そして自分が『上官』だという事実を思い出した。
どこか柔らかく微笑む慶一。
「そう身構えることはない。祖国に豊かさと平和をもたらしたのは、他ならぬ君たちだ。『戦って死ね』と命じた私と違った方法でね」
「それは……!」
横で聞いていた茅野・華綾(p3p007676)が咄嗟に何か言おうとして、むぐぐと口をつぐんだ。言うべきでないこともまた、沢山あるのだ。
なので、実務に沿ったことを述べることにした。
「領内から『黒百合』を排除することはできましたが、外からの干渉を完全に切れたわけではないのでありまする」
でしょう? と話題をふるように、報告書を胸に抱えていた伊佐波 コウ(p3p007521)と時任 零時(p3p007579)に顔を向けた。
「その通りだ。元鬼楽地区に、『黒百合』の集団のものとみられる略奪行為が頻発している」
「実際に戦ってみたけどね、あれは訓練を受けた兵の動きだ。野盗や実験動物の動きじゃあなさそうだね」
「それに使ってる術式もな……」
篠崎 升麻(p3p008630)がおもしろくないという顔をして呟く。
「連中は篠崎家の『色術』を使っていやがった。実家の連中がどうなろうが知らねえが、姉さんの名前に傷がつくことは許せねえ」
「それに複数の術式をブレンドした特殊な魔術だ。かなり高位の魔術師が作ったと見えるね」
セレマ オード クロウリー(p3p007790)がそれに同意し、自分の見解を記したノートを翳して見せた。
「理屈はいい。とにかく『遭遇した』のだろう? 敵の首魁に」
小刀祢・剣斗(p3p007699)が長い髪を払い、視線を鋭くして咲花・百合子(p3p001385)を見る。
「奴は……そう、アレイスター・クロユリーに間違いない。この世界でレベルを上げ、吾と同等かそれ以上の力を手にしている。だが気になるのはその『色術』使いの兵たちであろう。
あのアレイスターがいつの間にか鉄帝の政界に入り込んでいても不思議じゃあないし強くなっていてもおかしくない。問題は兵の出所である」
「確かに――」
美少年はトンッと己の頬に指を当てた。
と、その時。
轟音が建物を包んだ。
●黒百合の進軍
鳳自治区の中でも中心的な扱いを受けている加賀栄龍領。
その中央会館に砲弾が直撃し、爆発を起こした。
燃え上がる建物から逃げ出す人々。
百合子や栄達たちが外へ飛び出すと、そこは既に戦場と化していた。
色術を使う黒百合の兵達。彼らの動きは恐ろしく統率され、鎧を纏った大きな狼型のアンチ・ヘイヴンに騎乗し街を疾走している。空を見上げれば炎に包まれた怪鳥めいたモンスターが声を上げ、次々に爆発する火の玉を投下している。
当然領内の兵達は応戦するが、余りに激しい攻勢を受けたことで対応に手間取っているようだ。
いや、それだけではない。一般の兵はともかく、鳳圏という特殊な土地で鍛え上げた歴戦の猛者たちがそう簡単に押さえ込まれるはずはないのだ。
「猛者達の弱点をつき押さえ込む手腕……メタリカ女学園の状態を思わせるものであるな」
静かに告げた百合子。その意図するところはひとつだ。
「本気で鳳自治区を落としに来たか……クロユリー!」
「いかにも」
宙を舞う髑髏のようなモンスターが黒い炎を吐くと、そこに映し出された幻影にアレイスター・クロユリーの姿が映った。
「今こそ名乗ろう。我輩こそが『鉄帝帝国陸軍参謀補佐』――アレイスター・クロユリーである。バルナバス新皇帝陛下に仇なす反乱分子よ、凍てつく冬を前に、炎に沈み枯れゆくがいい」
- <咬首六天>祖国よ永遠なれ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月29日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●『祖国』とは何か
あちこちから煙のあがる町。その風景を前に、『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は高い屋根の上にいた。
風になびく髪は煌めきと百合の花びらを纏い、空の色まで美しくみえるかのようである。
「クロユリー……自ら表舞台に出て来た?
出てくる必要があったという事か?
……うむ!難しい事は吾は分からぬ!まっすぐ行ってぶっ飛ばすか!」
百合子は優雅に屋根から飛ぶと、宙返りをひとつ挟んで地上へと着地。
そこには大勢の鳳圏兵たちが整列していた。
復興した鳳圏が保有する軍事力の一端であり、整列しながらも瞳の奥に燃える決意の炎が、彼らが未だに戦闘民族であることを思わせる。
そしてそれは、百合子とて同じ事。
彼らへ振り返ると、中央施設から掲げられた鳳圏旗を指さした。
「この旗を見よ! 鳳の英雄たる加賀殿が立たれたぞ!」
兵達から『おお』という歓喜を含んだ声が漏れる。
やはり名声がものを言う。百合子は確信を抱きながら声を張った。
「今加賀殿が敵の首魁を討たんとしておる! 我らも奴らを押し返し加勢しようぞ!
鳳圏の魂はいまだ健在なりと目にもの見せてくれるのだ!」
「中佐殿! 部隊の再編成が完了致しました!」
踵を鳴らすほどの勢いで敬礼する鳳圏兵士を前に、『折れぬ華』茅野・華綾(p3p007676)が『だそうですよー』という顔で後ろを見た。
……後ろには誰も居なかった。
慌てて向き直り、自分を指さす。
「え!? わたくし!? そこまで行ってましたっけ!?」
「そういえばそうだったね。確か、鳳圏を奪還する戦いの直前だったかな?」
『特異運命座標』時任 零時(p3p007579)がキセルを片手に、なんだか他人事みたいに言った。
「まあそう畏まることもないんじゃないかな。帝国軍には属していないし、あくまで旧鳳圏の階級制度の名残にすぎないんだから」
「そうはいってもですね……!」
慌てる華綾に、零時の瞳は真剣味を帯びた。ハッとして同じ光を目に宿す華綾。
「鉄帝がこの状況だから、いずれはこういう状況にはなっていたんだろうけど……。
それでも出来れば争いは勘弁してもらいたいんだけどね。
とはいえ、攻め込まれたとなれば話は別。好き放題させるわけにはいかないね」
「……はい」
祖国を取り戻したあの日から、もはや武器はとるまいと医療の道へ進んだ華綾。
だが今こそ、再び死を纏う時が来たのだ。
道を選んだのは命を救うため。なればこそ、手にする道具が変われども信念は揺るがない。
「茅野華綾!
肩書等不要!我こそは祖国を守護せしめる志の一人!
誇り高き鳳圏の志よ!今一度、祖国を護る為に戦う時で御座います!
全ては! 我らが祖国の為に!」
キッと振り返り、兵から差し出された懐かしい突撃銃を振り上げた。
「祖国を救った我々が今度は逆賊扱いとは皮肉なものだな」
『不完不死』伊佐波 コウ(p3p007521)は集まった兵を前に、その表情を僅かに変えた。
隣では『童心万華』篠崎 升麻(p3p008630)が悠然とした態度で腕組みをしている。
「どっちだっていいさ。向こうの方から来てくれるたぁ、都合がいい。
ここで奴等をブチのめし、色術モドキを駆逐してやらぁ!」
升麻の気合いに応えるように、コウもまた突撃銃のセーフティーを外す。
「我らの国を、民を土足で踏みにじった貴様らを許すわけにはいかん。
売られた喧嘩と言うのなら買ってやる。伊佐波 コウ。 現刻より不届き者どもを排除するべく吶喊する――」
それは自らにかけた言葉だ。後ろに続く者たちへは、別の言葉がある。
そう、コウと升麻を英雄と称え、後ろに整列する鳳圏の兵達には。
「総員傾注! 道は自分が切り拓く、全員武装の上、自分の後ろについて来い!! 我らの地に土足で踏み入った事を奴らに後悔させてやれ!」
「「応!!」」
炎のごとき魂を声に乗せ、走り出す升麻とコウに続く兵達。
その様子を横目に、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は準備運動を終えていた。
「あんまり人員指揮は得意じゃないんだが、場作りなら少しは心得があんぜ。じゃ、俺らも行くか!」
カイトはあえてラフにそう言い切ると、気合い充分の兵達を率い歩き出した。
片目を瞑って集中するカイト。その広域俯瞰によれば、敵部隊は町の中へと浸透し注意深くこちらへと接近しつつあるようだ。
防衛戦力は町の外で足止めしているらしく、彼らが交戦している相手はいない。奇襲のみを警戒して進んでいるという様子が推察できる。
カイトは仲間達に敵部隊の退路を切るように布陣するように求め、自らも術式を解放し始めた。
「フハハハ! 全く! 我等が鬼楽の領地で良くも好き勝手やってくれたものだな!
領地での略奪行為、無辜の民達への洗脳! そして此度の一斉蜂起。アレイスター・クロユリ―……貴様らは我等鬼楽の怒りに触れた!
『黒百合の夜明け団』諸共駆逐してやろう!」
堂々と吠える『新時代の鬼』小刀祢・剣斗(p3p007699)。
彼の後ろにには精強なる鬼楽の戦士達がずらりと並んでいる。ようやくこのときが来たとばかりに、全員がギラギラとした目をしていた。
一方で、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は冷静そうだ。
連れている兵も元鬼楽の自領部隊だが、彼らも冷静そうに構えていた。
「指導者と主戦力が出払ったタイミングでこれは……内通者がいるな。
ある一点を除けば完璧な攻勢だが、奴にとってそこは問題ではないらしい」
副官にあたる人物が『そこ、とは?』と尋ねてくる。
セレマは美しく笑い、前を見据えた。
「ボク達なぞ物の数にないと言われているのさ。
お前達はもっと憤るべきだ。ボクか? ボクはもうその段階を通り越してるね。なにせ……先を越されたからね」
共鳴開始という命令と共に、セレマの感覚に部隊メンバーの位置がマッピングされる。
部隊の共鳴保有者たちがそれぞれ仲間の部隊へと散り、空高く飛ばしたファミリアーからテレパス通信が送られる。
「私兵諸君。クラノスグラードに続き、故郷にてその力を示す時が来た。
しかしこの狂乱を収めるには力だけではもはや足りない。
力以上を持つボク達こそが解決の鍵と心得ることだ」
そう、セレマ隊の役割は伝令。彼の美しきオペレーションが始まろうとしていた。
●リライト・リライト
クロユリーの仕掛けた戦略は巧みであり、鳳自治区に常駐するネームド戦力の多くをこの戦いから隔離あるいは封じ込めることに成功していた。
この土地が周辺部族から危険視されていたのは極端に戦力の高いネームドの存在ゆえだが、それを取り除きさえすれば自前の戦力で攻略可能だと踏んだのだろう。
それはセレマの言うとおり、現領主であるイレギュラーズの存在を数えていないということであり、逆に言えばイレギュラーズの動向ばかりは読み切れなかったと考えるべきである。
そしてそれこそ、反撃の糸口でもあった。
「狡猾な奇術師が大きく手を動かす時とは、己の仕掛けが実を結ぶ確信をもつということに他ならない。
それが素知らぬ顔で潜伏する裏切り者がいるか、色術を扱うことに制圧以上の目的を持っているかはわからないが……」
セレマは各員との連絡をとりながら、この戦いの裏で動いているものの正体を探ろうとしていた。
「行くぜ、テメェ等! 鳳自治区を舐めまくった奴等に熨斗付けて返すぞ!!」
敵の色術使いたちをはねのけ突き進む升麻隊。
「一方向に集中なんかさせねーぜ。徹底的に攪乱してやる」
升麻の放つ『黒鳶』の色術が敵部隊の主力へと襲いかかる。
兵たちが追撃を仕掛ける中、升麻はその先にクロユリーの部隊があることを俯瞰していた。
「正念場だ、野郎共! 僕等の力を情け容赦なく叩き込み、徹底的に思い知らせるぞ!」
そんな升麻たちの前に立ちはだかったのは黒ずくめの乙女たち。
彼女たちは星空のように飾られたネイルを晒すと、突撃する兵たちを素手のまま切り裂いてしまった。
血を吹き、よろめく兵。それ以上の追撃を阻止すべく升麻は大剣を叩き込んだ。
それは相手の爪と激突し、止まる。
「チッ――こいつらが最精鋭ってか」
升麻歯噛みし、自分達が『誘い出された』ことを察したのだった。
「わたくしには加賀殿の様な力は無く、迅君の様に疾くは無い。
時任殿の様に経験も無く、升麻君の様に技も無く、コウ君の様に不死身の肉体も持たない」
華綾は握った拳を自らの胸に当て、目を瞑る。
「ですが、わたくしも戦う勇気は備えておりまする!
同胞よ! 祖国を救った英雄達よ!
身体の中を巡る熱き血潮を思い出せ!
護国の魂を呼び起こせ!
我等が一丸となって刃を振るえば、勝利等容易いものぞ!」
華綾の解放した力は衝撃となり敵兵を吹き飛ばす。
突撃銃を構えた兵たちが一斉に追撃をしかけ、敵の各個撃破を狙うのだ。
「ちょっとくらいの怪我でしたら、後程わたくしの診療所へお越しくださいませ!
しっかりばっちり、癒して差し上げますわ!」
各個撃破が可能となっているのは、升麻たちの部隊がクロユリー率いる敵中央部へと侵攻しているためだ。
街中へ浸透しバラバラになった敵部隊を複数の部隊で囲み、撃破して次へ。これをくり返すという基本的ながら非常に強力な手をとっていたのである。
「『黒百合の夜明け団』のネームドには注意しろ。『自分』と同等ないしは近しいだけのしぶとさがあると思え!」
コウは味方の狙った敵部隊の主力アタッカーへと突撃銃による連射を浴びせると、至近距離まで迫って刀を抜いた。
斬りかかるコウ。相手の傷口は徐々に修復されるが、駆けつけた剣斗の繰り出す豪快な斬撃によって相手は修復が間に合わず地面へと崩れ落ちてしまった。
「我等が愛しき故郷を蹂躙せんとする侵略者を許すな! 鬼楽の誇り高き勇者達よ!
【勇気】を振り絞れ! 【愛】する者達を守り抜け! 【正義】は我らにあり!」
剣斗は得意の演説によって兵たちの士気を見事に高めていく。
「必ず四人一組で事に当たれ! 敵の色使いに注意しつつ確実に仕留めてゆけ! 我等は鬼ぞ! 容赦はするな! されど味方を斬り捨てるな! 可能な限り救え!
我等の故郷を守り抜くのだ!」
剣斗隊の鬼楽戦士たちは獣の咆哮とまがうばかりの叫びをあげて突進。敵部隊を粉砕していく。
(味方とはいえ一般兵には真正面から単純に殴り合わせるのは面倒だし、荷が重いだろう。向こうの幸運を削り取って此方の地の利へ替えていくとするか……)
カイトはそんな中で器用に立ち回り、氷戒凍葬『浄護白雨』と氷戒凍葬『黒顎逆雨』を使い分けることで混戦状態にあった中でも敵だけを見事に弱体化させていく。
「お見事……」
零時はカイトの術式に感心したように頷くと、率いていた兵に突撃の命令を出した。
鳳圏兵士にとって最も得意な戦術は『突撃』である。
平和に、かつ丸くなったとはいえ彼らの中には命を投げ捨てて一発の弾丸となる覚悟が備わっているのだ。
「セレマ君の報告によれば、アレイスターの部隊はどうやら手練れ揃いらしい。誘い出された部隊がそのまま退路を断たれて潰されてはかなわないからね。露払いはきっちりとやっておこう」
鳳圏兵士の気質をよく知っている零時はそれを上手に利用し、『生きて勝てる突撃』を要所要所で繰り出していく。
それは彼が歴戦の中で身につけた統率力であり、まるで彼の腕一本で全兵員を操っているかのごとく巧みかつ機敏であった。
升麻隊に続いてクロユリー隊へと攻撃をしかけた三つの部隊の事を想い、零時は目を細める。
「生きて帰るんだぞ。国を護って死ぬのは名誉かもしれないが……生き残らなければできないこともある」
「アレイスター・クロユリー!」
迅は石畳を走り、並み居る兵たちを己の体術だけでさばきながら突き進む。
そして神輿のようなものの上に腰掛けこちらを優雅に見下ろすアレイスターの姿を早くも発見した。
視線こそ通るが、その間には無数の兵。それもアレイスターと同様の服装をした黒ずくめの乙女たちが並んでいる。
全員が徒手空拳であるが、同じく徒手で戦う迅は彼女たちが只者ではないことをその微細な動きだけで読み取っていた。
「総員援護射撃! 僕が活路を開きます!」
そしてまた、決断も早い。
迅は仲間の援護射撃を受けながら突進。乙女たちが目を見開くその一瞬を引き延ばすように思考を加速させた。
彼女たちの爪が鋭く迫る。大蛇が食らいつく瞬間のようにしなやかに動く何人分もの腕は迅の喉や心臓、目や耳を狙っている。だがその一部を味方の射撃が落とし、迅の拳が迎撃し、グッと突然低く身をかがめた姿勢によって回避する。いくつかの攻撃がかすり全身のあちこちから血が出るが、致命傷はうけていない。
そしてなにより、敵精鋭部隊に『一手使わせた』のが大きい。
「今です!」
叫びは栄龍へと届き、栄龍は馬上から突撃銃を構えクロユリーへまっすぐ突進した。
「雑輩は轢き潰し進め! 俺たちは国の砦だ!!」
先ほど鳳圏兵士は突撃が得意だと言ったが、栄龍はその中でも最も突撃を得意としている。それで鳳王を打ち倒したほどなのだから。
「ほう、『エータツ』か」
相対するクロユリーが小さく笑う。黒い口紅をぬった唇で。
「黒百合だかなんだか知らねえが、俺たちの国を荒らしてタダで済むと思うな!
知ったことではねェんだよ……関係のない民間人を巻き込むお前の思想も目的も!!」
クロユリーは手を突きだし、その波動だけで栄龍をふき飛ばしにかかる。が、それで止まるほどヤワな彼ではない。
味方の兵達が同時突撃をかけることでその衝撃を受け流す。味方が次々と吹き飛ばされるも、彼らはその直前に確かにこう叫んでいた。
「栄龍殿、頼みます!」
覚悟を受け取った。受け取るとあのとき決めたのだ。
「てめえの素首、すぐにでも跳ねてやるからな! 俺は怒ってんだよ!!」
舞い散る黒い花びらのようなオーラが栄龍の突撃銃をはねのけるも、素早く抜いた刀がクロユリーの首へと迫る。
それをすんでの所で、クロユリーは掴んで止めた。
「吾に続け! 鳳の矜持を見せよ!」
が、それで終わりではない。
百合子の率いる部隊がクロユリーめがけて一斉射撃。
空いた手でオーラの衝撃を作り出して防御するクロユリーだが、百合子はその全てを布石にして宙を舞っていた。
可憐なる美少女のステップは宙を舞い、花園をゆくかのような鼻歌は立ち塞がる障壁を引き裂いていく。
「クロユリー。覚悟」
百合子の目がギラリと光り、
「『白百合清楚殺戮拳』――!」
「『K∴O∴』――」
いつかのように互いの拳が激突――しなかった。
アレイスターと激突したのは、百合子が気迫によって放った錯覚にすぎない。
ハッと目を見開くアレイスター。その背後に、百合子は優雅に降り立っていた。
「――『星見』」
百合子渾身の拳がアレイスターの背をうつ。常人であれば骨を砕かれ即死しておかしくないが、アレイスターは神輿から転げ落ち血を吐きバウンドするのみで済ませたのだった。
「ここまで、強くなっているとはな。きみは血筋と運命のみで生徒会長になった美少女だと思っていたぞ。認識を、改めなければならないらしい」
口元を拭い、立ち上がるクロユリー。
「そろそろ、話したくなってきた頃合いじゃあないのかな」
いつの間にか現場に紛れていた美少年ことセレマが、涼やかな声でささやく。
栄龍、百合子、そしてセレマ。更には升麻や迅たちの部隊に囲まれる形となったクロユリーは肩をすくめて返した。
「『ローレットは盤を返すだけの力をもつ』……それが参謀本部の見立てだ。この世界をひっくり返すことができるのは、ヴェルス前皇帝でも闘士ガイウスでもザーバ将軍でもない」
そして栄龍たちを順に指さしていく。
「きみか、きみか、きみか、あるいは――」
続きは聞かなくても分かった。セレマが今度は肩をすくめてみせる番だ。
「ローレットのイレギュラーズが直接動かねばならない状況を作り、誘い出し、そして殺す。いや、この紛争にうんざりして関与をやめるだけでもいい。そうすれば、世界をひっくり返す力をそげる。雑兵を100人殺すより、ボクら一人を殺すほうが効率的と踏んだわけだ」
正しいが、気に入らないな。
セレマは口の中だけでそう呟く。
クロユリーの返答は、笑み。それだけで充分だった。
「作戦は失敗だ。ぼくより、心からの称賛を送ろう」
心にもないことを、まるで舞台役者のような身振りで言うと、アレイスターは優雅に頭を垂れた。それこそ、舞台役者がその演目を終える時のように。
「次に会うときは、きっと――」
薄く微笑み顔を上げる。と同時に戦場に濃密な黒百合のオーラが舞い散った。
総員に防御姿勢をとらせる百合子たち。
やがて花吹雪がおわった頃には……クロユリーの姿は忽然とその場から消えていたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
黒百合の夜明け団を撃退し、アレイスター・クロユリーの作戦を失敗させました。
鳳自治区に迫った敵軍も撃滅され、多くの捕虜をとらえることに成功しました。
GMコメント
●シチュエーション
アレイスター・クロユリーの率いる特殊な軍隊『黒百合の夜明け団』がヴィーザル地方の鳳自治区へと侵攻をしかけました。
彼らは鳳自治区内から巧みなマインドコントロールによって引き抜いた民達を情報源にして土地や戦力を把握し、優秀な『ネームド』が出払った隙をついたり兵の集中運用をするなどして押さえ込んでいるようです。橘や木邑、小刀祢や久慈峰といった面々を頼ることができません。
つまり、あなたが兵を指揮し、この鳳自治区を守らねばなりません。
●エネミー
・『黒百合の夜明け団』
色術使いやモンスターによって構成された大部隊です。
どうやら新皇帝派として軍と協力関係にあるようで、リーダーであるアレイスターもまた新皇帝派の参謀補佐という肩書きをもっているようです。
・アレイスター・クロユリー
『黒百合の夜明け団』のリーダーであり、実質的にこの軍の指揮をとっている人間です。
おそらくはこの戦場へと来ていることでしょう。
国外で活動していた人間であるにも関わらずバルナバスが新皇帝に即位してから素早くこの地位にあがったということは何者かの手引きがあったことは間違いなく、陸軍参謀のトップといえばグロース・フォン・マントイフェル将軍です。何かしら繋がりがあると見てよいでしょう。
●兵隊指揮
皆さんは鳳自治区の兵を指揮して戦うことができます。
鳳自治区に自領を持っている方は領地の兵を、そうでない方は周囲から集まってきた兵を借りることになるでしょう。
できそうな兵に細かい指揮を任せて自分は率先して前で戦うという選択もOKです。
・状況
敵軍は鳳自治区へ広く展開し各領地へ同時に攻撃をしかけています。
逆に言えば兵力は分散しているので、いくつかの領地にPCが散って戦うことで戦況を巻き返すことが可能となるでしょう。
重要となるのはどれだけ素早く士気を回復できるかにかかっています。
敵の首魁であるアレイスターは戦いが進むにつれ位置がわかるはずです。最後は彼率いる部隊との戦いになるでしょう。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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