シナリオ詳細
<咬首六天>雷槌のダイナ
オープニング
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雷槌のダイナ。そう呼ばれる賞金稼ぎの女がいた。
鉄帝内において活動している賞金稼ぎグループのリーダーを務めており、様々な懸賞首を次々と監獄送りにしてきた豪傑でもある。
だが、その新皇帝が新たに即位してからというもの。鉄帝各地で巻き起こった混乱に巻き込まれる形であちこちを放浪せざるを得ない状況となっていた。しかも新皇帝のメチャクチャな恩赦のせいで、これまで捕えてきた様な囚人があちこちを出歩き、賞金稼ぎという仕事自体が成り立たないという事態に陥っていたのである。
「グルァアアアア!!」
「うるっさいんだよクマの分際で!! デカいからって調子こいてんじゃないよ!! 私だって背は2メートルはあるんだ!! 舐めんな!!」
その日は雪が降りしきる凍える様な寒さの日であった。雷槌のダイナ率いる賞金稼ぎグループは、現在とある森の中にいた。金を稼げなければ飯が食えない。が、腹は減る。食いぶちを失った彼女たちは、森で獣を狩って食いつながざるを得ない所まで追い込まれていた。
「ガァアアアアア!!」
そんな事はつゆ知らず、鋭い爪を振り上げる巨大なクマ。ダイナは凶悪すぎる眼光でクマを睨みつけると巨大な鉄槌を構え、
「声のデカさなら私も負けてないよオラァアアアアアアアア!!」
一気にクマの顔面目掛けて振り上げる。鉄槌がクマの顔面に直撃した直後、雷鳴。鉄槌に迸った雷がクマの全身を焼き焦がし、その巨体を地に叩き伏せた。
「グルルルルルル……!!」
「まぁだ生きてるのかい……冬眠せずにのこのこ出てきたのが運の尽きさ……往生せいやァアアアアアアラアアアアアア!!」
ダイナは一気に飛び上がると、とにかく喧しい声を上げながら鉄槌を振り下ろす。雷鳴迸る鉄槌が再び大クマの脳天を穿ち、ついに仕留めた。
「ふぅ……ところでクマって美味いのかい……?」
「え、今更……? ま、まあ臭みを取れば結構イケますよ姐さん。とりあえずキャンプまで運んじまいますね」
共に大クマを狩っていた賞金稼ぎの部下達がその巨体を運ぼうとするが、あまりの重量にびくともしない。
「情けないねぇ。ほら、アタシが運んでやるよ。その代わり調理は全部任せた」
「お、おぉ……流石姐さん……」
ダイナはクマの巨体をヒョイと抱えあげると、歩きだす。部下達はダイナに続き雪の森を進む。
「姐さん……その……」
「何だい」
「俺達、かなりの期間金を稼げてないじゃないですか……そろそろヤバいんじゃないかなって」
「…………」
彼ら賞金稼ぎは、何も遊ぶ金欲しさに金を稼いでいる訳ではない。
自身の生活の為でもあるが、なにより家族が満足に生きていける為に金を稼いでいた。その点においてはダイナも全く同じである。
鉄帝の冬は厳しい。これからますます寒さも厳しくなる。金がなければ、それだけで生きていけなくなる可能性すらあるのだ。
「だが……アタシ達は賞金稼ぎだ。それ以外の稼ぎ方なんざほとんど知らない。せめて獣の肉と皮を売って足しはしてるが……やっぱ足りないかい。商いは全部アンタらに任せてるからね」
「……足りないです。俺達が生きていくだけならまだしも、家族を養うにはとても……」
「そうか……ハア。アンタの言いたい事は分かるよ。前々から言っていたあれを、やれっていうんだろう」
ダイナの部下は応えなかった。だが、その沈黙は肯定を現すとダイナはすぐに理解できた。
新皇帝の勅令によって発令された、新たなる賞金首。イレギュラーズ。その賞金額は膨大で、彼らを狩る事が出来れば自身も家族も生きていけるだけの金を稼げるだろう。
「だが……そんな事は……そんなのは私達が狩ってきた連中がしてきた事と何も変わらない……」
ダイナはそう言ったが、言葉には迷いがあった。時間は無い。家族を養うには、金が必要だった。
「信念と、家族の命を天秤にかける、か……嫌な時代になったもんだよ、全く」
ダイナは悲し気に目を伏せ、誰にも聞こえない声でそう呟いた。
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「どうも、イレギュラーズ。仕事を持ってきたよ。持ってきたけど、嘘だねこれは。真っ赤な嘘……あ、何の事か分からないよね、ごめん。順を追って説明する」
『ガスマスクの情報屋』ジル・K・ガードナー(p3n000297)は、集まったイレギュラーズ達に説明を始める。
「鉄帝における新皇帝による恩赦。アレで沢山の囚人が解放されたのは知ってるよね? で、その囚人の1人、凶悪な殺人鬼がとある森の中に潜んでいるから、討伐してほしいって依頼が来たんだ。その森の近辺の町の町長って名乗る人から。だけど……」
だが、ジルが裏を取った所、そもそもその依頼主はその町の町長でもなんでもなく。なんならその凶悪な殺人鬼とやらが居るという情報すらも偽物で。なにより依頼してきた男は、『雷槌のダイナ』という賞金稼ぎをリーダーとするとあるグループの一員であった事が発覚した。
「まあ、間違いなく嘘だね。賭けてもいい。彼らはキミ達を森の中に誘き寄せて、賞金を稼ぐつもりだ。恐らく彼らの現状を探った限り、切羽詰まっての行動だとは思うけど……だからって黙って殺される訳にもいかないからね。けど、単に無視した所で、追い詰められた彼らはまた別の方法でイレギュラーズを襲おうとする可能性が非常に高い……って訳でキミ達はあえて彼らの罠にかかって、返り討ちにしてほしいんだ」
指定された場所は、とある森の奥深く。時間帯は昼だが、恐らく吹雪いており、凍えるような寒さと視界の悪い状況で接敵する事になるだろうとジルは言う。
「あえて吹雪く日を指定してきたのかもしれない。奇襲には向いているからね。ま、キミ達ならどうにか出来るでしょ? あとは……そうだね、最終的な方法はキミ達に任せるよ。戦闘はどうやっても避けられないだろうけど、どうやって今後の彼らの襲撃を防ぐかってとこはね。説得して納得するならそれでよし、今後の活動が不可能な程度に損害を与えて済むのならそれでもよし。向こうは殺す勢いで来るんだ。こっちだけ遠慮する道理もないような気はするしね。それじゃ、頑張って。イレギュラーズ」
- <咬首六天>雷槌のダイナ完了
- GM名のらむ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月27日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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降り注ぐ大雪と、身体の芯から凍えるような冷たい風が吹きすさぶ森の中を、イレギュラーズ達は突き進む。
「……凍えそうだぜ」
『竜剣』シラス(p3p004421)は異様な寒さに思わず舌打ちを漏らす。
「環境が厳しくなれば当然追い詰められる民も増える、か。恐らくこの非常識な寒さも偶然ではないのだろうな」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)もまた、この寒さを異常だという認識を持っていた。
「んで、このバカみたいな寒さに畳みかける様に国の基盤がトチ狂っちまうなんてな、心底同情するぜ」
『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は賞金稼ぎ達の境遇にそんな感想を漏らした。
「とは言え、オレ達を罠にハメて金を稼ごうって連中に、話し合いで解決なんてのは無理な話だな……やっぱこういうのは一回シバくに限るっスね」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)の言葉は紛れもない事実であった。相手はこちらを殺す気で来る以上、手を抜く訳にもいかない。
「仮に新皇帝派が打倒されたとしても、治安がすぐさま戻るかというとそうは上手くいかないからね。今のうちから芽を摘んでおくのが肝要、と。ヒヒヒヒヒ……」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)はこの寒さの中でも、いつも通りの飄々とした態度を崩してなかった。
「革命派が必要以上に力をつけるという事は余計な火種にしかならんとは思うが。まぁ、呉越同舟。これも何かの縁か」
『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)はそう呟いた。どうであれ、仕事はこなさなければならない。
「望んでもいない殺人は辛いものだろう……我々が別の道を提示できたらいいのだが…………おっと。そろそろの様だよ、君たち」
『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)がふと足を止め、仲間達に告げる。『エネミーサーチ』に、複数の何者かが引っ掛かったのだ。
「こっちも同じく……どうやら、思っていた以上に罪悪感は持っていた様だ……少しだけ、安心したぜ」
イレギュラーズ達は、森の中を更に進んだ。そして、その場所に辿り着いた。とは言っても、どれだけ歩こうと森は森。辺りには木と雪しかない。
「…………よう」
そして、1人の賞金稼ぎが姿を現した、雷槌のダイナだ。
「言い訳はするつもりはないさ……さあ、大人しくアタシ達に倒されなぁ!!」
『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)はダイナと、周囲に立つ賞金稼ぎ達をグルリと見渡す。
「どんなしょーもない小悪党があたし達をハメようとしたかと思ったら……優しい旋律ね。だけど、それと同時に苦しんでいるみたい……こんなの、放っておけるわけないじゃない!」
そして戦いが始まった。
●
「貴女に聞いて欲しい話があるのだけど……でも、そうね。とりあえずは戦いながらお話しましょう……あたしはまだるっこしいのは好きじゃないから、『肉体言語』でね!」
リアは威勢よく大槌を掲げたダイナに接近すると、銀の細剣『星鍵』を構える。ダイナから流れてくる旋律は、激しくも不安定な旋律。戦いの高揚感と、大きな迷いを読み取れた。
「アタシの前に来るなんて威勢のいい嬢ちゃんじゃないのさ。受けて立つよ!!」
ダイナが大槌を横薙ぎに振るい、雷が撒き散らされた。その雷をギリギリの所で避け、エーレンもまたダイナの前に進み出る。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ――俺達の本気を見せよう。お前たちも本気でかかってこい!」
「上等だよ、来なぁ!!」
ダイナが再び大槌を振り上げ、エーレンは聖十字剣『サザンクロス』を居合の型で構える。腰を落とし、地面を強く踏みしめる。
「オラァ!!」
ダイナがエーレンに向けて大槌を振り抜くと、雷を纏った衝撃波が飛ばされる。
「――――今だ」
瞬間、エーレンは居合斬りを放つ。空に向けて放たれた一閃は雷を帯びた斬撃へと変じ、ダイナが放った雷を消し飛ばし、ダイナの身体を大きく斬りつけた。
「……!!」
「悪いな。まだ終わりではない――!!」
エーレンは更に強く踏み込むと、高速移動と共に抜き放った刃を一気に振り下ろす。再度放たれた巨大な斬撃がダイナの真正面から襲い掛かり、一気に斬る。
「イレギュラーズの首を取るの容易い事ではないと、これで理解してもらえただろうか?」
「あぁ、そうだね。挨拶としては立派なもんさ……全く、アタシの腕も落ちたもんかねぇ……」
「…………お前の動きが鈍ったのは、実力のせいではない。その心に大きな迷いが生じているからだと、俺はそう思う。手にしたもの剣であろうと槌であろうと、それは変わらない」
「さてね……!!」
ダイナは再び大槌を振るって衝撃と雷を撒き散らす。
「ふむ……こちらの実力をしかと示せれば、言葉も届きやすくなるだろう……私も、私の仕事を果たすとしようか」
ルブラットはダイナの攻撃の直後、すぐに仲間達の治療を開始した。白いクロークに仕込まれた治療器具によって、即座に身体の痺れが解消されていった。
ダイナに続き、賞金稼ぎ達が吹雪に紛れてイレギュラーズ達に一斉に襲い掛かる。
「見えてるぜ」
シラスは賞金稼ぎ達の体温を以てその位置を高い精度で把握する。そして飛んでくる矢や氷の魔術に指を向けると、その動きがピタリと止まる。シラスが周囲に張り巡らせた無数の糸が、それらを一瞬にして絡め取ったからだ。
「この場所を指定したのはアンタら、この大雪に慣れているのも、きっとアンタら。利はそっちにあるが……それでもアンタらは捉えてみせる。喰らいな」
そしてシラスは両手を傭兵団たちに向けると、無数の魔力弾を撃ち放つ。弾幕と称せる程に放たれた大量の魔力弾は、しかしその一発も外れる事が無く縦横無尽に軌道を変え、取り巻き達に直撃する。
「グッ……!」
歯を食いしばって耐える賞金稼ぎを、シラスは静かに見ていた。そして小さく呟く。
「コイツらはただ生きたいだけ……本人の努力だけじゃそれがどうにも叶わない事だってある……だからこそ、俺達が何とかしないとな」
決意を新たに、シラスは賞金稼ぎ達を見据えた。
「おいおいどうした賞金稼ぎさんよ! せっかく暴れて温まろうと思ってたのに、これじゃあ鬼火も凍っちまうってもんだぜ!!」
ブライアンは挑発的に投げかけて、拳を振るう。
「イレギュラーズの首は安くねぇってことっスよ。こんな悪天候に呼び出していい気になってただろうが、返り討ちにしてやるッス」
葵は自らの集中力と感覚を強化すると、灰色のサッカーボール『ワイルドゲイルGG』をポンと放り投げ、軸足にグッと力を込める。
「足場は最悪だが……やってやれない事はないっス! 余所見注意っスよ!」
そして賞金稼ぎ達に向けて渾身のシュートを打った。放たれたボールは木々の間を跳ね回りながら賞金稼ぎの顔面に、顎先に、鳩尾に。あらゆる角度から凄まじい衝撃を与えていく。
「ガッフ……」
顔面に直撃した賞金稼ぎが白目を剥いて倒れる。跳ね返ってきたボールをキャッチした蒼は即座に駆け寄って毛皮のコートを剝ぎ取った。中には魔術が組み込まれた無数のカイロが仕込まれており、やたらと暖かかった。
「はぁ、賞金稼ぎも色々な創意工夫をしてるんスねぇ……シュートには支障なさそうッス……あ、改心したあたりで返すから、それまで我慢しといて欲しいっス。では!」
そういう訳で優れた防寒装備を手に入れた蒼が次なるシュートを打つのだった。
「敵の数はそれなりに多いな……。むやみに動いて孤立すれば敵の思うつぼだ。地力ではこちらに分があるから、冷静に対処するんだ」
愛無は仲間達に呼びかけると、凄まじい咆哮を上げ、賞金稼ぎ達に衝撃波を放つ。
「やるね……でもアタシ達は負けるわけにはいかないんだよ……!!」
「我(アタシ)達だって、こんな場所で死体に変えられる訳にはいかないんだよねぇ……ヒヒヒヒ、そもそもキミ達は人間を狩って生活しているんだ。狩る相手に見境がなくなってきたら、いよいよ山賊や獣と変わらぬよなぁ!」
武器商人が挑発的にそう言って賞金稼ぎ達を見回すと、彼らの心の内側から何かの声が囁いて。賞金稼ぎ達の意識が強制的に武器商人に向けられる。
「分かっている……だが俺達も俺達の家族も、生きなくちゃならないんだ……!!」
「だからそれは我(アタシ)達も一緒なんだよねぇ!」
賞金稼ぎが、武器商人目掛け斧を振り下ろす。しかし刃が脳天を捉える寸前、武器商人は軽く手を掲げて指と指の間で刃を挟み込み、ピタリとその動きを制止させた。そのまま軽く武器商人が指を捻ると、斧が地面にはたき落された。
「だけどまぁ……狙ったのが我(アタシ)達で幸運だったのかもねぇ? ……そろそろ気づいてるでしょう? 我(アタシ)達はキミ達を殺すつもりはないって。まぁ我(アタシ)達が強いってのは不運だったかもしれないけど! ヒヒヒヒヒ!!」
不気味な笑い声を上げながらも、武器商人は細かく周囲を観察して、念話を通して仲間と情報を共有していた。
賞金稼ぎ達の奇襲は完全に失敗した。むしろ奇襲の為に散開した布陣を逆手に取られ、位置を把握したイレギュラーズ達に次々と撃破されていたのだ。
ダイナは倒れた仲間達に目をやる。確かに誰一人と死んではおらず、動けはしないものの気絶すらしていないものも多い。
「ハァ、全くあんたの言う通りだよ……アタシらは最早獣同然……でも、一度始めちまったんだ。今更戻れるわけがないだろう?」
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「さっさと倒れなァ!!!」
ダイナが大槌を振るい、滅茶苦茶に雷を振りまく。周りの賞金稼ぎ達はそのほとんどが倒れたが、ダイナは未だ余力を多く残していた。
「中々にしぶとい奴だ。奇襲が失敗した段階で勝ちの目は薄くなり、ここまで来れば劣勢は明白。それでも手を止めないのは、破れかぶれになっているからか?」
愛無は冷静に分析しながら、放たれた雷を粘膜で生成した爪を薙ぎ払い、弾き返す。
「余計なお世話だよ! どうであれアタシらはもう退けないんだよ!!」
「どうかな。僕たちが罠だと分かってここに来て、それでも尚、君たちを殺そうとしないその意図は、君にだって分かっているんじゃだろう? そろそろ、僕達の話に耳を傾けてもいい頃だ」
愛無の言葉にダイナは目を伏せる。
「……アタシらにはもう、誰かの助けを受ける権利なんてないんだよ!!」
「真面目な奴だ……それを決めるのは君じゃないと思うが……それはそれとして。君からはまだそこまで血の匂いはしないから大丈夫だろう…………ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
そして再び愛無は咆哮を上げる。放たれた衝撃波が、ダイナの肉体と精神の両方を打ち付け、大きくよろめかせた。
「なんて声を出すんだいさっきから……なんなんだいアンタ」
「さあ、何だろうな。答えが導き出せたら教えてくれ」
突き出した右腕を黒く染めながら、愛無は淡々とそう言った。
「まだ続けるのかい? 一体何故? 意地を張って死ぬなんて、随分勿体ない命の使い方だと思わないかい?」
「黙ってなぁ!!」
武器商人は魔力によって生み出した魔剣を振るう。ダイナは避ける素振りも見せずにその刃を正面から受け止めた。
「追い詰められてるってのに中々の威勢じゃねぇか! こんなバクチを打つだけの事はあるなぁ!!」
ブライアンはバシッと拳を打ち合わせ、ダイナにそう言い放つ。
「当然だよ! ちょっとやられたからって弱音を吐く様じゃあ賞金稼ぎなんてやってられないんだよ!!」
ダイナは勢いよく大槌を振り上げる。
「一度仕掛けたケンカだ……アタシは最後まで張り続ける!!」
「ハッハー! とことんいい根性じゃねぇか……来な!!」
ダイナがブライアン目掛け大槌を振り下ろす。瞬間、ブライアンは上方目掛けて拳を突き出した。
拳と大槌がぶつかり合い、ガキン!! と硬い金属音が辺りに鳴り響く。ダイナとブライアンの腕が凄まじい衝撃を受けて激痛が奔るが、2人はニヤリと笑う。
「俺はアンタの一撃を受けたぜ。当然アンタも受けるよな?」
「ハッ……いいだろう、来な!!」
ブライアンは後方に跳躍。一旦距離を取り地面を強く踏みしめると再び前進。凄まじい勢いで放たれたタックルが、ダイナの鳩尾に突き刺さる。
「グッ……!!」
「まだまだぁ!!」
そのままブライアンは勢いよく拳を突き出すと、ダイナの巨体が地面に叩きつけられた。
「ゲホ……全く面白い連中だよアンタら……はー、何だか色々馬鹿馬鹿しくなってきたね……」
「(……俺は出来る事をやったぜ。でもコイツの身体もいつか限界が来る……だから頼むぜ、説得役。馬鹿で実直なコイツらを、救ってやってくれ)」
態度にも表情にもおくびにも出さなかったが、ブライアンは彼らの生存を強く望む1人でもあった。
「あー、ほんとどうしたもんかね……ほんとにアタシらを殺す気ないんだもんなぁ……なあ、そこのすごい根性のシスター……アタシに、話があるんだって?」
「ええ。聞いてくれる気になったの?」
リアの言葉に、ダイナは目を逸らして答える。
「まあ、ね。だが……一旦このケンカに結着をつけなきゃならない。だからアンタ、全力でアタシをぶん殴ってくれないか」
「それがお望みとあらば、喜んで。どれにしようかな……」
リアは『星鍵』を構えて僅かに思考を巡らせ、納得したように頷くと銀の細剣を構えてダイナに向けて駆け出した。
「纏う旋律、星羅の如く煌めいて。我一条の星と成り、蒼茫の海を貫かん! またの名を、クォーツ式ドロップキーーーック!!!」
「いや剣関係なグァアアアアッ!!」
大槌を振り上げようとしたダイナの胸にリアのドロップキックがぶち当たり、ダイナの身体は吹き飛んでいった。
「……いい蹴りじゃないか……」
雪に埋もれたダイナの呟きは誰にも聞こえなかったが、とにかくこうして戦いは終わった。
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戦いは終わった。が、ある意味ではまだ続いていた。
「……と、いう訳なの。あたし達の難民キャンプは衣食住も整っていて、暖房も完備されてる。だから、貴女達にも来て欲しいわ」
リアがダイナにそう告げる。一同はダイナたちのキャンプへと戦闘不能者たちを担いで移動し、説得を行っていた。
「なるほどね……う~む……難しい事を考える連中が全員のびちまったから難しいね……どうするべきか……」
ダイナは腕を組んでうんうん唸っていた。
「もし納得できないなら……そうね、貴女達を自警団として雇うってのはどうかしら? あたし達は其方に冬を越す為の場所を提供する。その代わり、あなた達には難民たちの安全を守ってもらう……ギブアンドテイクって奴ね……どうかしら?」
リアが更に説得を続ける。ダイナは相変わらず唸っていたが、それはつまり真剣に考えているという事でもある。
「家族を養うための苦渋の決断だったと聞いている。一緒に来るといい。イレギュラーズに護衛を依頼してくれてもいいし。どうか、非道に身を堕とすことだけはしないでほしい」
「アンタら本当に良いヤツだね……」
しみじみとダイナは呟いた。
「それに、そう悪い条件でもないと思うっスよ。衣食住は勿論。少なくとも罪のない誰かを傷つけたりする事もなくなるっス」
葵の言葉に、ダイナは頷く。
「確かにそれはそうだ……だが、アタシ達にそんな事をしてもらう権利があるのか……?」
罪悪感。ダイナが決断を迷う一番の理由は、結局そこであった。その様子を見て、ルブラットが口を開く。
「……君たちは沢山の悪人を牢獄に送ってきたのだろう? それが、濁流の如き運命の前に押し流されようとしている……」
「まあ、ね」
「革命派の事を、君は詳しく知っているだろうか。実は元囚人が身を寄せる事も多いのだよ……あの恩赦で、大勢の弱き囚人が解放されたのも一因でね。彼らを受け入れる場所が必要だった」
「なるほど……急にシャバに放り出されて生きる手段がなけりゃあ、また犯罪に手を染めるかもしれないしねぇ」
ルブラットは小さく頷く。
「その通り。そしてそんな彼らも、今では構成して真面目に働いているよ……この事実から言える事は、2つある」
「……なんだい」
「一つ目に、たとえ罪悪感を抱えていようが、此方に来るのを躊躇わなくていいということ。二つ目には……今の貴方なら、望まずに悪人となってしまう者の経緯も分かるだろう?」
「…………」
ダイナは真剣な表情でルブラットを見る。
「同じ人々を生まない為、そして道を間違ってしまった者を更生させるためという新たな信念の下、我々と共に戦わないか?」
「ヘヘ……ヘヘへ……中々の殺し文句じゃないか。殺す気でアンタらを襲ったアタシらにそこまで言うかい」
「私達もそれなりに遠慮なく攻撃したからな。それに、そんな昔の事は今更どうでもいいだろう? 反省も後悔も時に必要。だが、時に不要なものだ」
「は~……分かった。分かったよ。受け入れよう。アタシ達は、革命派の自警団……傭兵として傘下に入る……悪かったね、アンタ達。そして、ありがとう」
こうして、ダイナ率いる賞金稼ぎ達はイレギュラーズの説得を受け入れる事となった。
「もし難民キャンプが肌に合わないって奴がいるなら、ギアバジリカという選択肢もある。囚人だろうが野盗だろうが、救いを求める者を拒まないんでね……結果、荒くれの溜まり場のような面を持つに至っている。アンタらのような腕利きが目を光らせてくれたら大変ありがたいんだが……どうだ?」
「ウチにはチンピラ崩れの奴もいるからね、そういう選択肢もあるのはありがたい……」
「じっくり考えてくれ……だがまずは、この森を出ようぜ。『殺人鬼』は、この森にいなかったみたいだからな」
最後にシラスがそう言って。本当の意味でイレギュラーズ達の戦いは終わったのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。雷槌ダイナと彼女が率いる賞金稼ぎとその家族達は、革命派の庇護下に入る事となりました。
彼らは適性に応じて難民キャンプとギアバジリカに割り振られ、警護や周辺地域の魔物退治、行き場を無くした囚人の保護などを通じて、その実力を発揮しているそうです。
MVPは、ダイナを思い切りぶっ飛ばしたあなたに差し上げます。
●運営による追記
本シナリオの結果により、<六天覇道>革命派の軍事力が+5、生産力が+5されました!
GMコメント
のらむです。切羽詰まった賞金稼ぎ達と戦って頂きます。
●成功条件
賞金稼ぎ達との戦闘に勝利し、賞金稼ぎ達が今後イレギュラーズ達の襲撃を行わない、あるいは行えない様な形で決着をつける。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●戦場情報
とある森の奥深く。時間帯は昼だが、当日は吹雪いており、凍えるような寒さかつ視界がとても悪い。
戦場内の全てのキャラクターは、寒さによって回避、反応にマイナスの修正を受け、視界の悪さによって命中にマイナスの修正を受ける。これらのマイナス修正は何らかの対策や本人の特性によって緩和される可能性がある。
●賞金稼ぎ×??
雷槌のダイナの部下の賞金稼ぎ達。総数は不明だが、弓や剣、魔術など、その攻撃方法は多彩だという事が確認されている。だが共通して高い回避能力を持ち、『凍結系列』のバッドステータスを与える攻撃方法を持っている。
●雷槌のダイナ
賞金稼ぎ達のリーダー。部下達も同様であるが、今回の自分たちの行動を正しいとは思っていない。が、家族と自身の命の為に信念を無理やり捻じ曲げている。
身長は2メートルを超え、筋骨隆々。そしてその身長に見合った巨大な鉄槌を武器とする。雷の魔術も得意とし、鉄槌と雷を同時に放つ攻撃の数々はいずれも強力。
『麻痺系列』『痺れ系列』のバッドステータスを与える攻撃や、攻撃と同時に自らの身体能力を向上させる技も行使可能。
特殊抵抗、防御技術、EXFの能力に優れている。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
以上です。よろしくお願いします。
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