シナリオ詳細
<咬首六天>動き出す狩人たち
オープニング
●動き出す狩人たち
鉄帝での激動は、未だ収まることを知らず、いくつもの派閥が苛烈な戦いを繰り広げている。
鉄道網の奪還を狙う勢力。不凍港の奪還を狙う勢力。いくつもの激しい戦いが繰り広げられている中、しかし刻一刻と、『冬』が訪れつつあった。
「今年の冬は激しそうですねぇ」
と、ファーリナ(p3n000013)が声をあげた。ローレットの情報屋である。隣には、同じく情報屋であるレライム・ミライム・スライマル(p3n000069)の姿があり、二人は帝都近辺での情報収集を行ってる所だった。二人は簡易な変装をしていた。一般人相手なら、ローレットのものとはわかるまい。
「お、見てみて、ファーリナ。この壁の」
と、レライムが指をさす――それを見たファーリナが、「うへぇ」と声をあげた。
壁面に貼られていたのは、無数の手配書だった。それらに描かれていたのは、全てがローレット・イレギュラーズおよび各派閥に与する者たちの顔であることに気づいたが故の、うんざりとした声であった。
「マジでこんなの張り出してるんですね……そう言えば、ラド・バウの方には実際に、賞金狙いの攻撃があったんでしたっけ……」
情報によれば、脱走した囚人たちによる攻撃がすでに行われていたはずだ……撃退に成功した、という話を聞いているが、この手配書を間に受けた者たちによる攻撃は、これからも続くのかもしれない……。
「参りましたね。これからさらに、攻撃が激しくなるかもしれないってわけですか。
依頼が増える分稼ぎ時ですが、それはそれとしてしんどいかもしれないですねぇ」
ファーリナの言う通りだろう。これからさらに、敵の攻撃は苛烈になるかもしれないという事だ。戦いはより一層、混迷を極めていくだろう。その最前線に立たされるのは、間違いなくローレット・イレギュラーズ達だ。それに、天義の国境の方でも騒ぎが起きたと聞いている。対処するべきは、鉄帝だけとは限らないかもしれない……。
「あ、ほらほら、あたし達もいる」
「げぇーっ、ほんとだ……うわ、賞金安っ。頭きますねぇ」
「でもほら、安い分狙われないかも」
「確かに私たちなんか狙っても、骨折り損になりそうですねぇ。頭きますけど」
ファーリナはそういう。二人の賞金は正直言って大分安い。こんなはした金、狙うもの好きも居まい。
そう思っていた。二人とも。
だが、二人はまだ、本当に理解していなかったのだ。
『はした金であろうと、それを狙う悪党はいるのだ』ということを。
「……いますね」
ふと、ファーリナが声をあげる。レライムが、頷いた。
「多分、囲まれてる」
「気づかれましたかねぇ……」
うんざりした様子で、ファーリナが声をあげた。気づけば、いる。周りに、十名程か。
「居すぎですよ」
ファーリナが呟く。
「突破できますか?」
「わかんない」
素直に、レライムがそう言った。二人とも、『護身術程度なら』戦える。だが、一線級のイレギュラーズに比べれば、当然力不足だ。そして相手は、此方がローレットと知って襲ってくる連中だとしたら、それを御せる自信のあるものに違いあるまい。
「一か八か……やってみますか……!」
ファーリナは覚悟を決めた。レライムも頷く! 二人は一気に包囲に向かって飛び出した! 術式を編み上げ、武器を握る。
だが――。
●救出作戦
「ローレットの情報屋が戻ってこない」
と、言ったのは、帝政派の軍人の一人である。あなた達ローレット・イレギュラーズ達は、ファーリナ、レライムという二名の情報屋が、戻ってこないのだという話を聞かされていた。
「長期休暇ってわけじゃなさそうだな」
仲間の一人がそういうのへ、軍人の男は頷く。
「帝都に偵察をお願いしていた……すまん、此方もエージェントを出すべきだったが」
「いや、ローレットの情報屋が捕まったのなら、相手も手練れだろう。
むしろ被害が最小限に抑えられたと考えるべきだ」
実際、ファーリナもレライムも、『そこそこは』戦えるはずだ。にもかかわらず戻ってこないのならば、『相手は相応の手練れである』ことは想像するに難くはない。
「手がかりはないのか?」
「いや、ご丁寧に、此方に脅迫状を送ってきた」
「は? 脅迫状?」
小首をかしげる仲間に、軍人の男は一枚の紙を差し出した。汚い字で書き殴られた脅迫状。
『ハエとスライムは預かっている。ローレットのイレギュラーズだけでこい』
そう書かれていた。
「……どう思う?」
「おそらく、賞金稼ぎの仕業でしょうね」
仲間がそういうのへ、あなたも同意する。昨今、ローレット・イレギュラーズ達に新皇帝派から賞金がかけられたのは記憶に新しい。真っ当な相手ならば相手にしないだろうが、しかしこれを間に受けるごろつきなどは確実に存在するだろう。
「これからは冬も本格的になる」
軍人の男が言う。
「少しでも小銭を稼ぎたいんだろう。それに、二人をエサに、本命のアンタらをやれれば、御の字だ」
「罠か」
仲間が言う。あなたも、そうだろうと思った。恐らく敵は、万全の態勢でこちらを待ち構えているだろう……。
「どうする? 見捨てる、か?」
不安げにそういう軍人に、仲間の一人は勇敢に笑ってみせた。
「依頼なんだろ? だったら遂行するまでさ。
それに、無駄に仲間を失うつもりもない」
あなたもまた頷いた。こんなふざけた脅迫犯の思い通りになってやる義理もあるまい。
「よし。なら、正式に依頼をする。情報屋の二人は、帝政派でも仕事で何度かやり取りがある。見捨てるのは、正直に忍びなかった……」
その言葉に、あなた達は頷いた。
かくして、救出作戦が始まろうとしていた――。
- <咬首六天>動き出す狩人たち完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月28日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●狩人の罠
ローレットの情報屋を預かっている――。
そのような連絡を受けた一行は、さっそく指定された廃工場へと向かっていた。
「はぁ、いかにも、といった感じだね」
そういうのは『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)が肩をすくめて見せた。町はずれの廃工場。うち捨てられてうらぶれた、小汚いごみのたまり場。そういう印象を受けたし、実際ごみの不法投棄もされているのだろう。なんにしても、悪漢が一時のアジトにするにはちょうど良い具合の建物だ。
「いかにも、いかにも。面白みのない。
面白みのない上に、ああ!
二人も! 二人も女性が拉致されて!
女性二人に集団ってだけでもダサいのに。
誘拐して人質にして挙句の果てに脅迫ぅ~?
ダサいダサすぎる!」
いささか大げさに語って見せる。なるほど、実際その通りだろう。まぁ、この言葉が悪漢どもに届いたしても、「それがどうした、勝てばいいのだ」とでもテンプレじみた返答をしてきて、夏子をさらに落胆せしめるのだろうけど。
「もらえるかどうかもわからない賞金に目がくらんで、実際に人に手を出すなんて……」
むぅ、と眉をひそめたのは『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だ。新皇帝派の、どこに信じられる要素があるのか。スティアの言う通り、正常に賞金が支払われるどうかなどの保証は一切ないのだ。
「こういう人たちが増えてくると、動きにくくなっちゃうね」
スティアが嘆息した。
「まったく、馬鹿なのか知恵が回るのか、わからない連中だ」
ふむ、と『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)がうなって見せる。その目は冷静にしっかりと、廃工場を眺めていた。
「まぁ、馬鹿なのだろうな。まぁ、悪知恵は働くのだろうな。
いずれにしても、愚かではあるか」
「だが……冬の厳しさゆえの愚かさかもしれないな」
そう嘆息するのは、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)だ。
「俺は息子達が傍にいるならどんな寒さでも平気で、息子達が凍えないよう全力を尽くせるけど……。
独りは、守るものが無いのはつらい。
失うものが自身だけだとストッパーがかかりにくい……賞金稼ぎ達もそうなのかは知らんが」
なるほど、鉄帝の冬は厳しい。それどころか、今年は異常な厳しさの片りんを見せていた。となれば、その冬に対抗するための日銭を、なんとしてでも稼ごう……と考える者もいるのだろう。
「同情はするが、それを許す気持ちはないな……」
愛無が言う。ウェールはうなづいた。
「それは、もちろんだ。彼らのやっていることは、明確に悪であるし……。
もしも俺達が倒され、新皇帝派が賞金をくれたとしても……今度は賞金の奪い合いが始まる。
無駄に血を流すよりお尻ぺんぺんとかお仕置きで済ます方が良いよな」
「随分と派手なお尻ぺんぺんになると思うが」
少しだけ苦笑して、『隠者』回言 世界(p3p007315)が言った。
「まぁ、いい。
俺のような人間の命にも懸賞金という価値を付与してくれるとは。
いやはや新皇帝様様だね……感謝の念で泣けてくるよ。
あとは命が狙われることさえなければ言う事ないんだがな」
ふん、と皮肉気にそういう。
「さて、救出作戦だが……二手に分かれる。これは間違いないな?」
「はい」
世界の言葉に、『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)がうなづいた。
「といっても、スティアさんと、私たち、という分担です。
スティアさんには潜入を。私たちは敵を引き付ける仕事を行います。
敵の目を私たちに引き付けて、スティアさんはひそかに人質を救出、こちらに合流する……という流れです」
「なるほど。確かに、スティアさんなら単独行動に適任でしょう」
そういってうなづいたのは、『不可視の』イスナーン(p3p008498)だ。
「少々負担になりますが……」
「ううん、大丈夫だよ」
スティアがほほ笑む。
「スティアさん、人質の救出はお願いね」
そういって、ぎゅっ、と手を握る様子を見せたのは、『この手を貴女に』タイム(p3p007854)だ。
「可能な限り、こっちで敵を引き付けるから。安心してね?」
「うん。頼りにしてる!」
スティアが力強くうなづく。
「さて。では、同時に侵入。そのまま二手に分かれるとしようか」
夏子の言葉に、タイムがうなづいた。
「感情センサーで、こっちへの敵意みたいなものは感じ取れると思うから、そいつらを引き寄せるわね」
こくり、とスティアがうなづく。
「では、行くぞ。警戒は十分にな」
ウェールの言葉に、一行は廃工場に侵入した。ぎぃーぃ、と扉が大きな音を立てて開く。むしろ音を大きく立てて、こちらがやってきた、と知らしめてやる方がいい。
「うわ、すごい。探すまでもないくらいにすごい敵意……」
タイムが思わず頭に手をやる。ぎらつくような、むき出しのそれが、タイムの心をざわつかせた。タイムが静かに目配せをすると、スティアがうなづき、薄暗い物陰の中に消えていく。
「来てやったぞ」
世界が声を上げた。
「馬鹿げた賞金の、馬鹿げた賞金首一行だ。総額で……いくらになるんだ、これ?」
「そうですね。1183万になります」
ウルリカがこともなげに言う。世界がこめかみに手をやった。
「すごいな。世界を滅ぼす化け物の一行か? 俺たちは」
「そこにもうちょっとプラスだ」
声が響いた。なんとも下卑た男の声である。
「後ろにハエとスライムがいるからな! そいつらの雀の涙をたせば、さらに上がる」
巨大なソードを持った、いかにもといった感じの男である。
「あらやだ、むくつけき男。趣味じゃないね、ああいうのは」
夏子が小ばかにしたように言った。
「頭の中身までむくつけき、なのかな?」
「駄目よ夏子さん」
タイムが言う。
「頭の中までむくつけき、なんだから、こんなさもしいことしか思い浮かばないの。いやよね、心がさみしいって……でも、本当のことを言って相手を傷つけたらだめよ~? 可哀そうなんだから~」
がちゃ、と一斉に、あたりから銃口を突き付けられた感覚を覚える。タイムが肩をすくめた。
「どうして怒るのかしら。わたし、どっちかっていうと止めてあげたのに~」
「や~何やら、寒い時一緒に暖を取る相手も居ない、幼気でダサい男共が、精一杯知恵を絞って僕等を狙ってるらしいよ?
確かに僕等は寒さと無縁だけども、あたらないで欲しいなぁ。嫉妬じゃない?」
「社会の底辺の方でまともな努力もせず犯罪に手を染めて、嫉妬なんてする前に他にやることあるでしょう? あたられる筋合いなんて……(困」
軽妙な挑発のキャッチボールを続ける二人に、いい加減、刀剣を持った男がキレた。
「ふざけやがって! 少し黙れ!」
「なるほど、ああやって相手の精神を乱すものか。勉強になるな」
愛無が感心したように声を上げる。ウルリカもうなづいた。
「よいですね。一つ賢くなりました」
「ふざけるな!」
男が叫ぶ。
「その刀剣……なるほど、情報通り、『『10人殺しの』ガルガン』のようだな」
ウェールが声を上げる。ようやくまともに相手をしてくれるのか、とばかりに、刀剣の男――ガルガンは破顔した。
「おう、おう! そうだ! 俺様が十人殺しのガルガン! これまで10人の闘士をぶち殺した、ラド・バウでも危険視された男だ!」
「あれが?」
世界が声を上げた。
「とてもそうは見えない」
「いや、人は見かけによらないともいう」
愛無が頭を振った。
「まぁ、あれは内面もダメそうだが」
「みんな……あまりそう挑発してやるな……」
ウェールが苦笑する。
「本当のことを言ったら可哀そうだろう……」
「てめぇもかよ!」
ガルガンが激高した。
「そうだ。自分も一応、ラド・バウのB級闘士だが……これまでに相対した闘士たちに比べて、あなたはとても『小さく』感じる。
大した相手ではない」
「完全にあなたの負けですよ」
イスナーンが言った。
「一応、投降をお勧めします。
このまま外で冬を過ごすより、もう一度、どこぞの監獄に戻った方が温かく冬を過ごせるのでは?」
「……ハッ」
ガルガンの口の端が、ひくひくとひきつった。
「殺してやる! ぶっ殺す!」
ガルガンが吠えた。
「わぁお マジで怒ってるやつだ」
夏子が槍を構える。それに合わせて、仲間たちは武器を構えた。
「ところで一応 聞くけど。
女性二人を集団で拉致して、人質とって。クソダサいわけなんだけど、何か言いたいことは?」
「勝てばいいんだよ!」
「テンプレ通りのお答えありがと、がっかり」
一行は一気に、廃工場の中へと飛び出した。四方八方から飛び交う銃弾を受け止め、回避しながら、内部に突入する!
「さて、危険に飛び込む者が果たして小鳥ばかりだとは限りませんよ」
ウルリカが言う。
「手を出したら猛禽ということも……混沌界隈ではよくあることです」
エア・ハンマー。ウルリカのパワードスーツに搭載されたオプション、そこかはなたれる衝撃波が、廃機械の陰に隠れていた男を打ち抜く。ぐえ、と悲鳴を上げて、男が倒れた。
「ちっ! 撃て撃て! 殺せ!」
男たちが叫び、スチームガンを乱射する! 夏子がその一撃を引き付け、タイムがその体に福音の光を下ろし、暖かな光をもってその銃弾に耐えうる力を授ける。
「やだネ、醜い男の嫉妬!
ま、でも気持ちは分かるよ寒いモンな。
僕はこの後タイムちゃんで暖か温もりティタイムを過ごすから、気持ち分かるけど分かってやれないポ。
素敵な相手でも探しなよ無理かダサいモンな」
「そうよね、まったく!」
タイムも不敵に笑って見せた。
「いちゃつきやがって!」
叫ぶガルガン、その眼前に、愛無が立ちはだかった。
「君の相手は僕だ」
その手を巨大な爪へと変貌させ、愛無が振るう。ガルガンは刀剣を以てそれを受け止める。
「ちっ、重い!?」
「まだジャブだよ」
再度の一撃! 愛無の攻撃がガルガンを吹き飛ばした刹那、ウェールの銀弾が、銀の雨のごとくあたりにふりそそぎ、隠れる男たち、そしてガルガンを撃ち抜く!
「俺達イレギュラーズを突き出せば、しっかりと賞金がもらえると思うなんて馬鹿か?
新皇帝派は強者がルールなんだから欲しければ奪い取れ! とか、
しっかり貰えてもそれを知ったハゲタカ共が虎視眈々と賞金を狙うぞ……あるいは。
今一緒に戦ってる仲間の誰かが裏切る……とかな」
動揺を誘うようにウェールが言う。実際のところ、その可能性は捨てきれない。それが現鉄帝の『秩序なき世界』の現実であったのだから。
「だまされるな! とにかく今は奴らをぶっ殺せ! それから考えろ!」
「あれじゃあ白状しているようなものだ」
世界が面倒くさそうに嘆息した。否定とか、そういうものを、彼らはしなかった。たぶん、本当に、独り占めする気でいるやつがいたのかもしれない。
「なぁ、俺達に掛けられた懸賞金は、総額で1183万……本当に、頭のおかしい額になるだろう?
それだけの額を払うだけの金が新皇帝様にあるのか?
少し考えてみろよ」
世界があきれたようにそう声を上げる。確かに、まったくその通りである。今ここにいる八名だけで、数千万の金が動くなら……まともに賞金を払うつもりなどないと知れようもの。
「た、確かに……?」
「うるせぇ! もうここまで来たらやるしかねぇだろうが!」
動揺する様子の男たち。ガルガンはキレたように叫んだ!
「奴らの挑発だ! 乗るんじゃねぇよ!」
……さて、実際のところ、イレギュラーズたちの会話のほとんどは、挑発だった。それも意図した挑発であり、目の前の自分たちに、敵の意識を向ける……そういったためのものであることに間違いはない。
では、なぜそこまでして、敵を挑発し続けたのか。無意味に馬鹿にしていたわけでは、もちろんない。意図があるわけだ。それは、最初に二手に分かれた、スティアの援護のため――。
「そろそろでしょうか」
イスナーンが声を上げる。同時に、廃工場の奥の方から、スティアの声が響いた。
「遅れてごめん! 人質は解放したよ!」
スティアの隣には、人質となっていた、ファーリナとレライムの姿があったのである――。
●突破!
「な……てめぇ、いつの間に……!?」
「あなたがみんなに引き付けられているうちに、少しずつね」
にっこりと笑うスティアの隣には、ファーリナが飛んでいる。いささか傷ついているようだが、元気なようだ!
「はーっはっはは! こうなりゃこっちもんですよ! まさかここから逆転の目があるとは思ってませんよね、ええ!?」
「ファーリナ、それだとこっちが悪役みたい」
しゅっしゅとシャドーボクシングするファーリナと、それをいさめるレライム。さすがにファーリナも、こうもされては頭にきているようである。
「もしかして、僕たちが無意味に君たちをあおっていると思っていたのか?」
愛無が、いささか憮然とした様子でいう。
「それは本意ではない」
「そうですね。すべての行為には意味があるものです。特に、命を懸けている戦場では」
ウルリカが静かにそういった。
「気づきませんでしたか?
……そうですか」
「なんで気の毒そうに言ってんだよ!!」
ガルガンが叫んだ。
「ま、これ以上君をあおる必要もないんだけどさ」
夏子が言う。隣には、タイムが身構えて、ガルガンをにらみつけていた。
「君ってバカだよね。それは確実だ」
「そうね――それはまったく、本当に。って! ちょっ、やだ、夏子さん変なトコ触らないの!
すぐそういう事するんだから! も~、帰ってからね!」
「……てめぇらは、てめぇらは……つくづく!!」
ガルガンが吠えた! 雄たけびを上げて突撃する――!
「来ますよ。依頼の仕上げと行きましょう」
イスナーンが声を上げた。同時、仲間たちは再び構える!
「野郎ども! 生き残ってるやつは死んでも奴らを殺せ!!」
ガルガンの雄たけびに、生き残っていた男たちが一斉攻撃を仕掛ける! 銃弾の飛び交う中、イレギュラーズたちはかけた!
「さて、私もここからが本番だよ!」
スティアが本を開く。同時、魔力が天使の羽のように舞い散り、スティアに力を注ぎこんだ。
「ファーリナさん、レライムさん、私から離れないで。絶対に守るからね!」
「お願いしますッ!」
構えつつ、ファーリナとレライムが援護術式を唱える。そのバフを受けたイレギュラーズたちに力が満ちるのを確認した。
「さぁ、悪いことをしたんだから、お仕置きの時間!」
スティアが唱える術式が、仲間たちの傷をいやす。その後押しを背中に受けながら、一行は突撃!
「ウルリカさん、あちらの敵を狙い打ってほしい。俺はこっちを」
「了解しました」
ウェールが声を上げ、ウルリカがうなづく。互いに視線を交し合うと、別々の方向に武器を向けた――同時、放たれた衝撃波と雷のごとき撃が、それぞれ別方向に待機していたスチームガンの男を貫く!
「クリアです」
「よし、あとはガルガンだけだ!」
「くそっ、使えねぇやつらめ!」
ガルガンが叫ぶ。夏子が槍を突き出しつつ、声を上げた。
「その使えないやつのトップが何を言ってるのよ」
突き出した槍を、構える――同時、二人を巻き込むように放たれた紫のとばりが、周囲に不吉の風をまき散らし、吹き飛ばす!
「なんで!?」
夏子が吹っ飛びながらうろたえるのへ、タイムが顔を赤らめ、涙目で叫んだ!
「ささ、さっきの! 温めるってそういう……!
そんなことまで言わなくてもいいじゃない! もう!! ばかっ!!!」
「ええっ、今気づいたの……?」
タイムの声に、夏子が困ったような声を上げる――が、ガルガンは怒りをあらわに、
「いちゃつくんならよそでやれ!」
刀剣を振り下ろす――が、その体に強烈な負荷がかかる。界呪・四象。その手を掲げる世界、その手より放たれた世界干渉の呪式。
「気持ちはわかるが、この場を招いたのはあんただよ」
ぐ、とその手を握る。重い呪が、その体を蝕み、押し込んだ。
「ぐ、が……!」
その重みをおして立ち上がろうとするガルガン。そこに愛無が飛び込む!
「その気迫は、確かに闘士の者のようだが――」
振り下ろす、爪。強烈な一撃が、ガルガンの意識を刈り取った。
「まだまだ、だ。
それに、10人殺し、というのが甘い」
愛無は、ふむ、とうなって見せた。
「10程度の困難など、ここにいる僕たちはとっくの昔に超えている。
10では、僕たちの足元にも及ばない――」
「……さて」
スティアが縛り上げた囚人たちの目に前に立って、腰に手を当てた。わずかに吊り上がった眉は、怒っていることを想起させる。
「残念なことだけど今の鉄帝に賞金を払える余力はないんじゃないかな?
合計したらとんでもない金額だし、多分騙されてるよ」
「そう……かなぁ……」
囚人の一人が言う。「でも」と、スティアがほほ笑む。
「更生する気持ちがあるなら、帝政派に口利きくらいはできるかも?
監視はつくと思うけど、労働力を提供するなら、無下には扱われないかもね」
「どうすっかな……」
「なるほど、ああやって求心を得るのか」
ふむ、と本気で悩んでいる様子の囚人を見ながら、愛無が声を上げた。
いずれにしても、戦いは終わり。
とらえられた情報屋も無事救出できたわけで、めでたしめでたし、といえるのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
情報や二人は無事に危機を脱し、皆さんに感謝の言葉をつげています――。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
賞金稼ぎの手に落ちた、情報屋二名を救いましょう!
●成功条件
ファーリナ・レライムを救出したうえで、すべての敵を撃破する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
ローレットの情報屋が誘拐されました。恐らくは、昨今新皇帝派より提示された『手配書と賞金』を間に受けた悪漢たちによる犯行でしょう。
メタ的な情報を言えば、彼らは先日釈放された、鉄帝の犯罪者たちになります。囚人たちの一人ですね。彼らはファーリナとレライムをエサに、皆さんをおびき寄せ、賞金を得ようとしています。
皆さんが倒されるわけにはいきませんが、しかし捕まった情報屋をほうっておくわけにもいきません。
脅迫状に指定された場所に皆さんは向かいます。そこでは、完全に迎撃態勢を整えて、待ち構えていた囚人たちがいるのです……。
作戦決行タイミングは昼。作戦エリアは『鉄帝のとある街の、廃工場』になります。
あたりには蒸気式工作機械の残骸などが設置されており、敵はその影から銃撃などをして攻撃してくるでしょう。
工場内部は見通しが悪く、少し薄暗いです。何らかの対策をしておくと、楽になると思います。
●エネミーデータ
囚人・『10人殺しの』ガルガン ×1
今回のリーダー格です。鉄帝でも腕利きのファイターを10人殺した、と自称しています。
それが事実かはさておき、実際彼は殺人罪で収監されていました。そして実力も備えていることは事実です。
巨大な刀剣を装備した、インファイターになります。渾身の一撃や、出血系列のBSに注意してください。
ちなみに、あまり頭はよくないので、戦闘中にファーリナとレライムを人質にすることはないです。頭はよくないので。
囚人たち ×16
恩赦を受け、世に解き放たれた囚人たちです。
スチームガンを持ち、遠距離~中距離の攻撃を得手とします。特に、工場内では蒸気式工作機械の影に隠れて、一方的な攻撃を仕掛けてくるでしょう。
近距離での攻撃は、ナイフによる刺突などで、銃撃に比べれば弱くなっています。速やかに接近して蹴散らしてやるのがいいでしょう。或いは、怒りなどでつり出してやるか。皆さんの作戦に合わせてください。
ちなみに、アホなので、戦闘中にファーリナとレライムを人質にすることはないです。アホなので。
●救出対象
ファーリナ&レライム
ローレットの情報屋。そこそこ戦えましたが、さすがに多勢に無勢でした。
現在は無力化されているため、戦闘は不可能です。
彼女らは、工場(フィールド)の最奥にいます。さっと近づいて助けるか、とりあえず放っておくかはお好み次第です。
助け出せたなら、ちょっとした回復や遠距離攻撃などで、皆さんをサポートしてくれます。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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