＜咬首六天＞ignis et fulguris

オープニング

●炎と稲妻
「見つけたぜ！　賞金13,500,000G！」
「こっちは10,980,000Gだ。やっぱキャンプは宝の山だな！」
　囚人を代表するかのようなストライプカラーのツナギをきた男が拳銃を撃ちまくる。
　対するは稲妻のように空を駆けるマリア・レイシス（p3p006685）だった。
　彼女は迫る銃弾を全て回避しながら接近すると、男の銃を一瞬で分解してしまった。
「なっ！？」
「私を狙うのはいい。けれど……ヴァリューシャを狙うことは許さない」
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』」
　聖句を詠唱するヴァレーリヤ＝ダニーロヴナ＝マヤコフスカヤ（p3p001837）。彼女が目を大きく見開きメイスを振り抜くと、激しい炎が波となって迸る。
　それは男を、そしてその後ろでナイフを抜いた別の男も巻き込んで荒れ狂った。

「いくらなんでも連続してきすぎですわ！」
　囚人達を拘束し『反省部屋』なる施設に送り出すヴァレーリヤ。その後ろでは作業用の歯車兵たちが破壊された施設の再建作業にあたっている。マリアは水筒を取り出すと、ヴァレーリヤへと手渡した。
「私達に多額の賞金がかかってるんだ。冬越えのための資金稼ぎなんだろうね」
　新皇帝派組織『アラクラン』。その総帥による策謀として、ローレット・イレギュラーズや新皇帝派に敵対する組織の関係者などに賞金がかけられたのは少し前の話。
　首都にあるラド・バウ独立自治区はその猛威に晒されていたが、ついに彼らが全国に手を伸ばしたということだろう。
「彼らは釈放されたとはいえ何ももたない囚人でしたもの。冬を越すための備えもない。
　だから、他人のパンを奪おうとしてしまったのですわね……」
　目を伏せるヴァレーリヤ。水筒に移る歪んだ己の顔を見やる。
　マリアはその横顔をちらりとだけ見てから、あえて明るくパチンと手を鳴らした。赤い火花が散る。
「大丈夫！　ヴァリューシャを狙うやからは全てぼっこぼこにしてあげるからね！　この難民キャンプにだってこれ以上手はださせないさ」
「ええ……そうですね。この場所も私達が守らなくては！」
　水筒の中身を飲み干し、ぐいっと口元を拭うヴァレーリヤ。
　そこへ、次なる襲撃を知らせる鐘が鳴った。
　振り返ればそびえ立つ、革命派の象徴ギアバジリカ。
　二人は頷き、そして走り出した。

●犯罪グループ『AZKB』
　鉄帝国に広く知れた犯罪グループのひとつに『AZKB』というものがある。
　多数の連続強盗殺人で実刑をうけた彼らは、夜間民家へと強引に押し入り、住民を皆殺しにして金品を奪うというあまりにも凶悪な犯罪を重ねてきた。
　そんな彼らにとって『奪う』ことはライフワークであり、釈放された今もかわらない。
　仮に賞金がかかっていなかったとしても、その行為をためらわないだろう。
「なあ、この先に13,500,000Gがいるってのはマジかい？　そんだけあればメチャメチャ遊べるよな」
　コンバットナイフを何本もベルトの鞘に収めるスキンヘッドの男。彼の名はアルボア。その隣で銃に弾をこめているのはザック。無言で頷き、懸賞金のかかれたチラシを突き出した。
「今じゃもっと高い。二人合わせて25,510,000G程度だろう」
「やるじゃない。よっぽどビッグネームなのね。他の連中にとられたら大変だわ。あたしらで戴いちゃいましょ」
　カランドラという女が笑いながらブロンド髪をとかす。彼らがいるのは一台の蒸気ワゴン車の中だ。それぞれが上等な服に身を包み、アルボアは丸焼きにしたチキンを引っ張り出してかじりつき始める。
　いまここにあるのは、彼らの身体以外すべて他人から奪ったものだ。
　ハンドルを握り運転しているボストンという男は窓ガラスに軽く映った自分の顔を見やる。
　そして、顎をなでて呟いた。
「髭をそってくればよかった。次の家に行ったら洗面台を使わせて貰うか」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●
「賞金に目がくらみこの二人を狙うとは……」
　『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド（p3p000174）は片刃の剣『フルーレ・ド・ノアールネージュ』にそっと手をかけながら、鉄帝国でもトップクラスに高値のついた二人組を眺めた。
　実力で言ってもラド・バウA級。シフォリィが仮に不意打ちを仕掛けたとしても勝つか負けるかでいえば怪しいところだ。
　もし自分が二人を狙うのだとしたら、と考え思案する。まず真っ向から戦おうとは思わないし、準備はしてしかるべきだろう。それこそ猛獣を狩るのに素手で挑まないように。
「油断はできませんね。ですが私達を狙うということがどういうことか、きっちり教えてあげましょうか！」
「なー。マリヴァレを襲おうとか命知らずすぎだろー。ここまで行くとVDMランドの就職希望者なのでは？と思う秋奈ちゃんであった」
　『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈（p3p006862）は手錠をキーホルダーのように指でクルクル回しながら件の二人を見やった。
「それはそれとして、ヴァレーリヤさん！　私ちゃんいいコト思いついたんだけど」
「ねえヴィーシャ、自分もひとつ名案があるのでありますけど」
　荒縄をきゅっとしながら振り返る『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ（p3p006270）。
　二人の目の奥にお金の色が見えた気がして、『祈りの先』ヴァレーリヤ＝ダニーロヴナ＝マヤコフスカヤ（p3p001837）はザッと距離をとった。
「その手錠と荒縄はなんですの」
「大丈夫大丈夫」
「痛くしない痛くしない」
　そんな二人の襟首を掴んで止めつつ、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン（p3p002377）は難民キャンプを振り返った。
「相手はAZKB？　アイドルグループみたいな名前のレンチュウだね。いや、見た目はただのならず者なんだけれどさ。
　ドコから資金を捻出しているのかワカラナイ新皇帝派から賞金を受け取ろうなんて賞金稼ぎは痛い目を見てもらわなきゃね！」
　襲撃の情報を掴んだ彼らはあえて難民キャンプから離れた場所で迎え撃つことにしていた。
　破壊された家々が周囲に並び、モンスターによる被害の爪痕がまざまざと残っている。
「いやいやいやいや……いくら多額の賞金が掛かってたとしてもよ？相手は選んだ方がいいと思うのね……ほんとに。わたしはどっちの心配した方がいいのかしら」
　そんな中、困った様子で頬に手を当てる『この手を貴女に』タイム（p3p007854）。
　狙うなと言ったところで、冬を越すための手段をもたない囚人たちは賞金めあてにこちらを襲うしかない。かといって面倒を見るようになればどんな末路が待つかわからない。
　一つ一つはともかく、包括的に対処することが困難な爆弾を投げつけられたようなものである。
「コャー、なんともはや～。
　相手が食い詰めたかわいそうな人なら手心を加えることを考えないでもないのだけれども、床がせり上がってお立ち台に乗りそうな凶悪犯罪者なら気にすることもないかしら～」
　『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ（p3p008299）はそんな風に軽口を述べつつ、辺りのマップを確認していた。マップと言っても空からみた俯瞰図を手書きしたものにすぎないのだが。
　作戦ではヴァレーリヤとマリアという二人の高額賞金首を餌に細い道へと誘い込んで貰って、そこで一気に襲撃をかけるという手はずになっていた。
　これに乗ってこないほど慎重な相手ならそもそもここまで襲撃に来ないだろう、という読みも含んでのものである。
　そこでふと、タイムと胡桃は考えた。
　囮にされるヴァレーリヤたちはどんな気持ちでいるのだろう、と。

「ヴァリューシャ……」
　『雷光殲姫』マリア・レイシス（p3p006685）がちらりと見ると、ヴァレーリヤは沈んだように目を伏せていた。
「この国が奪う必要もないくらい豊かだったら、どうなっていたのかしら」
　必要。そのワードにおいた重さを、マリアは敏感に察していた。けれどパチンと指を鳴らし、あえて明るく言ってのける。火花を散らしてみせるのも忘れない。
「まだ遅くはないよ！　これから変わっていけるし変えることもできるはずさ！
　だから頑張ろう！　小さなことの積み重ねが国の未来に繋がるって信じよう！」
「そうですわね！」
　ヴァレーリヤはにっこり笑って返した。
「それにこんなことを考えている場合ではありませんわね。行きましょう、今は賞金稼ぎを追い払わなくては」

●AZKB
　偵察に出したヘイトクルーを回収し、ボストンは胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
　畳んでいたそれを片手で広げると、黙ってポケットへと戻す。
　彼は綺麗に髭を剃った顎を満足げに撫でると、車からのろのろと降りる三人へ振り返りもせず呼びかけた。
「二人を見つけたぞ。武器を用意しとけ」
「あいよー」
　スキンヘッドのアルボアがコンバットナイフた大量に収まったベルトを袈裟懸けにまくと、ザックが拳銃のセーフティーを無言で解除した。
「他の連中が先を越してたりしないでしょうね」
　ブロンド髪のカランドラが上質な毛皮のコートを羽織った状態で車の扉を閉じると、廃墟と化した町の一角を見る。
　ヘイトクルーを偵察に出していたのはあくまで危険対策であって、このチームで索敵を勤めるのはいつもザックだ。誰が言い出すでもなく銃を構えたまま前に出たザックは慎重な足取りで進み始める。
　彼が何も言わないということは、罠は仕掛けられていないということ。
　そしてまだシグナルを出さないということは、目標を発見していないということ。
　彼らは幾度も強盗殺人を犯してきただけあって、その手際はかなりのものだ。当然この鉄帝国。弱い者ばかりの家ではない。時には強者の家へ乗り込むことだってあっただろう。彼らにはヴァレーリヤとマリアの二人を確実に仕留めるだけの自信とそれを裏付けるだけの実力があるのだ。
　逆に言えば、そうでなければ鉄帝国のビッグネームであるところのマリアたちを狙い撃ちにしないという理屈も成り立つのである。
　問題は、それが現実に即しているかというところなのだが……。
「――」
　ザックがハンドシグナルを出した。交戦開始の合図だ。そしてすかさず路地へ飛び出すと、その右側面側へ向けて連続発砲した。
「ヴァリューシャ！」
　銃弾に対応したのはマリアだった。
　あろうことか拳銃の発砲を見てから動き、赤い残光を残しながら二発の弾頭を蹴り飛ばしたのである。
　しかし三発目が彼女の肩に命中。
　それを手で押さえ、染み出る血に顔をしかめる。
「くっ！　厄介だね！」
　出た言葉は本気の色を帯びていた。なぜならマリアの体力が急にごっそりと奪われる感覚があったためである。出血量は想定したよりも多く、血が止まる様子がない。ホローポイント弾といい、殺傷力の高いことで知られる対人対動物用の弾丸である。
「見つかってしまいましたわ！　逃げましょう、マリィ！」
「うん！　囲まれる前にね！　ヴァリューシャ！」
　マリアの手を引き走り出すヴァレーリヤ。
「おいおい逃がすかよって！」
　路地を高速で曲がり、凄まじい機動力で追いつくアルボア。コンバットナイフのうち二本を抜くとヴァレーリヤへと斬りかかる。
　メイスによって一本を払ったものの、それを基点にして強引に回り込んだアルボアがヴァレーリヤの脚を斬り付ける。ぶしゅんと血が飛び散り、ヴァレーリヤの動きが目に見えて鈍化した。
「ヴァリューシャ、足が――！」
「マリィ、走って！」
　ヴァレーリヤは聖句を唱え炎の壁を出現させると、ブーストした脚力によって無理矢理自らを加速させる。
「チッ！　おいカランドラぁ！」
「分かってるわよ五月蝿いわね」
　走りながら煙草をくわえていたカランドラはフィンガースナップで魔法を発動。煙草の先端に火を灯すと、吹いた煙に幻惑の魔法を込めた。
　マリアとヴァレーリヤの周囲にある風景がぐにゃりと歪み、方向感覚が狂い始める。
　どころか、互いの認識までも危うくなり始めた。
「くうっ……！」
　表情を歪めるヴァレーリヤ。
　流石に四人でやってきただけあってAZKBの連携は完璧なようだ。カランドラは煙草をくわえたままつまらなそうに嘆息した。
「なんだ、案外チョロいのね。さっさと仕上げましょ。たしか生死不問なんでしょ？　アルボア、さっさと行って首を切り取ってきてよ」
「んだよまた俺が働くのかよー」
　アルボアはぼやきながらもスニーカーで強く地面を踏みしめ、加速をかける。
「逃げられねえよー、お嬢ちゃんたちーぃ」
　ふらつきながら逃げるヴァレーリヤとマリアが高速で迫るアルボアに振りかえり――。
「逃げられないのは、貴方達の方でしてよ！」
　ヴァレーリヤが叫んだと同時。両側面の建物の二階部分からエッダとイグナートが飛び出した。
「そこまでであります！　貴様らの悪事はお見通しだ！　懸賞金を手に入れるのは自分でありますよ！」
　二人はそれぞれ異なる動作で拳を振りかぶり、急接近しナイフを振り上げていたアルボアへと殴りかかる。
　直撃――の、はずだ。
　はずだったが。
「伏兵がいた、か」
　二人の攻撃は割り込んだボストンの両手によって受け止められていた。
　タクティカルグローブをした素手であるにも関わらず、イグナートとエッダというそれぞれの意味で強力なハイレベルイレギュラーズの打撃を受け止めることはそうそう容易いことではない。
　反撃を警戒し、すぐさま飛び退く二人。
　が、計画はここで終わったわけではない。
　タイムが傷付いたマリアとヴァレーリヤに治癒の魔法をかけながら、建物の影から叫ぶ。
「まんまと引っかかってくれたようね。もう逃げられると思わないでね！」
　それを受けて、苦々しい様子でザックが前後反転。建物に潜んでいた秋奈とシフォリィが退路を断つ形で現れ、細い路地へと四人組を閉じ込める。随伴していたヘイトクルーたち後続のヘイトクルーへとギラリとした目を向けた。
「ヒューッ！　ワイルドだぜえ！　これが裏のゼシュテルスタイルってやつ？」
　すかさずヘイトクルーの一体を切り倒す秋奈。
　真っ赤な刀身を持つ『戦神特式装備第弐四参号緋憑』を水平に構えると、残るヘイトクルーたちのヘイトを自分へと集め始めた。
　ヘイトクルーは単純かつ脆弱なモデルであったようで、秋奈へ次々と襲いかかる。
　細い路地の中というだけあって攻撃可能なラインは限られ、人数もまた絞られる。
　シフォリィはここぞとばかりに剣に神気閃光の力を宿した。
「秋奈さん、そのまま――！」
　シフォリィは崩れかけの塀を駆け上がるように跳躍すると、力をこめた剣を振り込む。白い閃きとなって四方八方へと放たれた斬撃は味方をすり抜け敵だけを切り裂いて行く。
　耐えきったヘイトクルーを始末するのは胡桃たちの仕事である。
　炎をあげたこやんぱんちがヘイトクルーを叩き潰し、青と黄色の残光を残し連続ラッシュを叩き込む胡桃によってヘイトクルーが次々と殴り飛ばされ周囲の壁やポストポールへと激突しては崩れていく。
　狭い場所だけに逃げ場は少なく、デメリットがあるとすれば味方を巻き込む範囲攻撃が使いづらいという程度。
　秋奈の挑発スキルを逃れたヘイトクルーがヴァレーリヤたちへ迫るも、イグナートのハイキック一発によって消し飛んだ。
「そろそろ『ボッ』とやるタイミングが欲しいね！」
「もう少し我慢するでありますよ」
　敵味方が入り乱れている間は識別効果のない範囲攻撃は味方を傷つけかねない。味方に激しく移動してもらえば事足りるパターンもあるが、路地に誘い込んで閉じ込めるこの作戦には向かなかった。
　そんなわけで、向かってきたヘイトクルーをエッダが挑発し、攻撃を鋼のグローブで受けながら反撃を繰り出す作戦がとられたのであった。
「観念するでありますAZKB！　あとこれは秘密だが私もけっこうな賞金額の筈だぞ！　いくらだ？
　何、あいつらより安いのか？　おかしいだろう。査定額の修正を要求しなければ！」
「その理屈でいくとオレもコウガクそうだよね」
　イグナートが笑顔で言うのでエッダがぐぬぬという顔をした。
　高額賞金首が随分そろったものである。
　が、狩られる心配はもはやない。
「どちらが狩られる側なのかそろそろ分かってきたんじゃないかしら？」
　タイムは治癒を継続すべくエッダたちへ魔法を放つと、ザックの射撃からサッと身を隠した。
「きょうのわたしは随分アグレッシブな気分みたい。なんでかな～」
　呟きつつ、思い切って外へと飛び出すタイム。
　戦いはAZKB四人とイレギュラーズ8人の激突へと発展した。

　シフォリィの剣が連続で繰り出され、その間をつくように秋奈の剣が差し込まれる。
　二人がかりの連打を凌ぐのはコンバットナイフだらけのアルボアだった。ジャグリングでもするようにワイヤーつきの四本ナイフを巧みに操り二人の攻撃をギリギリで凌いでいく。
「強いのならば強い相手とちゃんと戦っておくべきでしたね。弱い相手の狩り方しか覚えていない貴方達には負けませんから！」
「せっかくだからクリスマストークしようぜ！！！」
　が、凌げているだけだ。反撃にでる余裕はどうやらないらしい。
　反撃を担当するのはカランドラなのだが……。
「チッ、この！」
　幻術を放つカランドラ。しかしそれを、タイムは発動直後にキャンセルしてしまった。
　対抗魔術によって秋奈たちにかかる幻術を逆算し解除しているのだ。
「ともかく凶悪犯とやらをギャフンと言わせてとっ捕まえられれば万々歳ね。この悪人達の賞金は出ないの～？」
「残念！　零円！　悪名はあっても名声なさそうだもんねー」
「ざんねん～」
　そんな軽口をいえる余裕があるのは、まだ攻撃の手がこちらにあるからだ。
「虎子を得ようと虎穴に入ってしまったのね」
　胡桃がザックの横をすり抜けるように走り、カランドラへと急接近。両手の拳に炎を再び燃え上がらせると、目にもとまらぬ猛烈なラッシュをカランドラ一人に叩き込んだ。
　ここまでされて無事でいられる者は少ない。カランドラは白目をむいてその場に崩れ落ちた。
「まずはひとり」
「やべっ！」
　そちらに気を取られたアルボアも秋奈とシフォリィの剣のまえに沈んでいく。
　一方のボストンはイグナートと退治していた。
「二人だけじゃなくてオレたち全員のクビを取れば5000万を超えるよ！　そうそう集まる賞金額じゃないんだ！　張り切ってかかって来い！」
　イグナートの類い希なる格闘センスは、ボストンの体術をもってしても凌ぎきれないものだった。なにしろイグナートは一人で戦う場面においてバランス感覚がとてもよいのである。『落とすのが難しい高火力アタッカー』という、なんとも敵にいてほしくない人間なのだ。
「君達も運がないね。その程度のはした金でよりにもよって私とヴァリューシャを狙うとはね。
　まぁ私はいいさ。だがヴァリューシャを狙ったことは後悔してもらう。安心したまえ。投降する気があるなら許してあげよう。だがそうでないなら酷い目に遭う覚悟はすることだ」
　マリアがそう呼びかけるが、ザックが無言で射撃を浴びせていく。
　だが今度はマリアひとりで受ける必要は無い。全ての攻撃をエッダがガード姿勢で受け、最後の一発を素手で掴んで握りつぶした。チップ状になった弾が地面へ落ちる。
「ヴィーシャ売ったら酒代払わせる相手がいなくなるでありますからね」
「……終わったな」
　そう、ザックが呟く。無理からぬことだろう。ヴァレーリヤがメイスから炎を迸らせ、ザックへと殴りかかるまさにその瞬間だったのだから。

●コンテニューはない
「行ってらっしゃい。改心してちゃんと働いてくれたら、ちょっぴりご飯が多くなるかも知れませんわよ？」
「命があるだけで感謝して、反省したまえ」
　ボストンたちを拘束し、反省部屋へ送り出すヴァレーリヤとマリア。エッダはそんな彼女たちを眺め、自分の軽口を思い出す。
「酒場の平和以外の平和は守られた！てなわけで一件落着ゥ！世界は今日もいとめでたし、だぜい！」
「仕事が終わったら、きっとマリアが奢ってくれるよ！」
　秋奈やイグナートたちがはしゃいでいる。
　タイムと胡桃もうーんと背伸びをして、身体の疲れを癒やしていた。
　そんな彼女たちについて歩き始めつつ……シフォリィはちらりとボストンたちの連れて行かれた方向を見やった。
　冬の寒さは人々の心を貧しくし、時に獣へと変えていく。こんなことが、いつまで続くのだろう……と。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

　――mission complete