シナリオ詳細
JOY&JOY
オープニング
●だってかんたんにひとをしんじちゃいけないってままがいってたから
ミョールという少女について説明を企ててみよう。
一言で言うと「性格の悪い子」だ。
まずとんでもなく見栄っ張りだ。いつだって自分が一番じゃないと我慢できない。誰かがヘマをすると、駆けつけて囃し立てる。誰かが褒められているのを見ると、あてこすりを言うのも忘れない。一方でお菓子作りが趣味という意外な一面もある。簡単なものしか作れないが、お菓子を作っているときだけは、いつものいじわるな笑みは姿を消して年相応の子供の顔になっている。
総じて、人の不幸が何より大好き、というひねくれものだ。差し出されたものを素直に受け取らない頑固さもある。ただ彼女は彼女なりに、信念に基づいて生きているのだ。大切な人からくりかえし刷り込まれた信念、それが歪んだものだと知らないのは本人ばかりである。
●嵐の昼に
シュゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!
ズガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
メキメキメキメキ!!どすーーーーん!!!
「ごめんなざいいいいいいいいいいいい!
もうじまぜんんんんんんんんんんんん!!!」
すさまじい風音。
すさまじい物音。
すさまじい泣声。
ここは港町ローリンローリン、の、片隅にある孤児院、を、細腕ひとつで切り盛りしているシスターイザベラはおかんむりであった。
ミョールという女の子が勝手にスコーンを焼いたのだ。それも大量に。おかげでキッチンの中がスコーンだらけで足の踏み場もない。
「勝手に火を使ってはいけません! 火傷をするから危ないとあれほど言ったでしょう!」
「ごめんなざあああああいいいいいいいいい!」
ゴロゴロ、ピカッ! どどーん!!
落雷を背景に落とされるシスターのかみなりは、さすがのミョールをしても大泣きするほど怖かった。四つん這いになって号泣を続ける。
「で、どうしてこんなことを?」
「いれぎゅらーずに、う、うええ、ひっく、きてもらって、ひっくひっく、パーティーを、したかった、です、うええええん」
「そう。ギルドに依頼は出したの?」
「きのう、おてがみ、かきました、ひっく」
「あら、じゃあ届いてないわね。残念だけどパーティーは中止よ、ミョール。イレギュラーズを呼ぶのは嵐が通り過ぎてからにしましょう」
「だめ! だめえ! 今日じゃないとダメなの!!!」
四つん這いのままミョールが床を叩いた。
「ミョール、あなたは聞き分けが悪いわね。神様はそんなあなたでも愛してくださるけれど、私は神様ではないから腹が立つだけよ」
「……シスター、今日はシスターの誕生日だよ」
廊下から様子をうかがっていた子どもたちの中からそんな声が上がった。いばりんぼうのユリックを先頭に、無口なリリコ、おちょうしもののザス、さみしがりやのセレーデ、あまえんぼうのロロフォイ、泣き虫のチナナだ。
「あら。そうだったかしら?」
「そうだよ。シスターったら俺たちの誕生日は覚えてるのに自分のはすぐ忘れちゃうんだから」
「そう……。ごめんなさいミョール。私を思ってしてくれたのね」
今まで自分のことしか考えなかったミョールが、イレギュラーズとのふれあいでわずかに成長したようだ。
「……そうね、パーティーをしましょう。イレギュラーズはいないけれど、私はあなたたちがいれば胸がいっぱいよ」
シスターがミョールの頭をなでた。シスターの機嫌がなおったのを見計らい、子どもたちもひとり、またひとりと近づいてくる。シスターは笑みを見せて子どもたちを安心させた。
「それにしてもこんな嵐じゃ、手紙が届いてもイレギュラーズはこれなかったかもしれないわね。あら、リリコ? リリコがいないわ」
同じ頃、リリコは合羽を着込んで裏口から外へ出ていた。風がつよく、まっすぐ歩けない。折れた木の枝がびゅんびゅん飛んでいる。リリコはイレギュラーズからもらったリボンをカチューシャ代わりにくくって気合を入れた。迷路をたどるように歩き進んで、ポストの中でびちゃびちゃになっていた手紙を抜き取る。
いざ、ローレットへ。リリコは夜のような暗闇の中へ駆け出した。
●
「うーん、困ったねえ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はがたがた揺れるガラス窓を背に苦笑した。
「おや、いいところに来てくれたね。このお嬢さん、話すのが苦手みたいだ。どうやら依頼に来たということはわかるんだけど」
そう言ってずぶ濡れになった少女を紹介した。この嵐の中、ここまでくるのは大変だっただろう。ほっぺに葉っぱがはりついている。彼女は大事そうに抱えていた濡れた封筒を突き出した。
一言断ってそれを開封すると、子供の字でパーティーへの招待状が書かれていた。
いれぎゅらーずさんたちへ
わたしたちのしすたーいざべらのおたんじょうびかいをします
すこーんたくさんやきました
ぜひたべていってください
「日付は今日みたいだね。ひどい嵐だから正直行くのはおすすめしないけれど……」
ショウは唇の端をかたほう引き上げた。
「どんな困難も踏破する。それがイレギュラーズってやつだろ?」
あなたはうっすら笑うと、少女のほおの葉っぱを取ってやった。
- JOY&JOY完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年09月09日 21時00分
- 参加人数27/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 27 人
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参加者一覧(27人)
リプレイ
●
シスターはリリコと向かい合った。
「勝手に外へ行ってはいけないでしょう。こんな嵐の中へ! どれほど心配したと思っているの……」
リリコはシスターを見上げた。いつも気丈に振る舞うその瞳に涙が滲んでいた。
「ごめんなさいシスター、うん、だけどね……」
「いっちばんのりー! ローレットさんじょう!」
勢いよく扉が開き、イレギュラーズたちがなだれ込んだ。
「「およばれありがとう、きちゃったイレギュラーズ!」」
もう待ちきれないと言った風情でQ.U.U.A.はアクロバティックに宙返りしながら講堂へ入室。
「きゅーあちゃんたちのパーティーはうてんけっこう。あらしなんかにまけないんだから!」
おまけにクラッカーの紐を引いて、パン! リボンの束が飛び出した。
●思い出の1ページ
「ククク、我こそは闇の支配者バレスティ也~!」
即興の舞台に立って口上を述べるシエラ。
「怖くねーぞー。ねーちゃん」
ユリックとザス、そしてロロフォイから鼻で笑われ、シエラは年甲斐もなくむっと来た。かわいすぎるのが敗因だとは本人は気づいていない。
「怖いの! 私は闇の支配者なの! ほ~らだんだん怖くなーる怖くなーる……」
するとどうしたことか、美しい金髪は銀へ変わりゆき、ひとなつっこい笑みは冷笑へ、したしみやすい姿が底冷えのする何かへと変化していく。
ゴクリとつばをのむ男の子たち。
「そこまで、よ。バレスティ。好きには、させない」
コゼットが乱入し、シエラへ投げを仕掛けた。柳風崩しで強かな投げを打つ。しかしシエラは投げられたと同時に空中で体を捻り、着地。男の子たちから口笛がなる。
舞台が盛り上がる横で、セレーデとチナナは折り紙へ挑戦していた。講師はユーリエ。実は彼女も孤児院育ちだ。
「うまくできたらシスターにプレゼントしようね。その時はダリアのお花の折り紙を折って、ありがとう!って渡そうね」
「うん!」
「ふふ、ふたりとも上手だよ。次は絵本を作ってみようか」
ユーリエは自作の苺のケーキ屋さんの絵本をとりだし、作り方から教え始めた。
一方で舞台のほうもクライマックスを迎えていた。
「シスターは我々のものだ!」
舞台にはルフトが加わり、シスターを人質にしていた。彼女の体を横から奪い取り、シエラが高らかに笑う。
「シスターは我がダークエナジーにより我のみを崇めるダークシスターへと生まれ変わるのだァ! ケヒャア!」
男の子たちはふるえあがった。コゼットがルフトへ挑みかかるも腕一本であしらわれる。
「ここまでのようだなコゼット。いくぞ、ライトニング!」
轟音があたりを揺らし、絵本づくりに没頭していたセレーデとチナナまで舞台を振り返った。ライトニングをくらったふりをしたコゼットが、男の子たちへ顔を向ける。
「闇の支配者バレスティは、元気な男の子が、とっても、苦手。おねがい、みんなの力で、シスターを、助けてあげて!」
ガクリとひざをつくコゼット。男の子たち、なんだか雰囲気がマジになってきた。
「よ、よし、俺が行く」
立ち上がったのはザス。
「ユリックはみんなをまとめる立場、ロロフォイは戦力外だ。俺が刺し違えても……シスターを取り戻す……!」
すっかり雰囲気にのまれている男の子たち。まあそっちのほうが都合がいいとルフトはスルーすることにした。コゼットがザスにおもちゃの剣を渡すなり、ザスはやたらめったらそれをふりまわしはじめた。よく見ると目を閉じたままだ。たぶん怖いのだろう。ルフトは吹き出しそうになりながらしかめつらを作った。
ガッ!
おもちゃの剣がルフトへ当たる。
「くっ、見事だ!」
「へ?」
予想外の功績にザスは目を丸くした。これならいけると本人も思ったのか、今度は一直線にシエラのところへ。
「やああああ!」
「ぐあああ!」
おもちゃの剣で斬られ、シエラはゆっくりと一回転してみせた。
「む、無念だ……」
そういって地面に横たわってみせると、歓声がそこここであがった。
「シスターにとは、なかなか健気じゃねぇか」
久しぶりに会ったリリコの頭をわしわしなでると、スティーブンは子どもたちを一箇所へ集めさせた。
「コサージュを作ってシスターに渡すんだ。自分も手伝ったって自慢したいだろ?」
うん、とうなずく子どもたち。スティーブンはリボンへ名前を刺繍しろと命じ、難しい所以外は自分でやらせる。仕上げに真ん中へビーズの大玉をひとつ。それを取り巻くように小玉を8つ縫い付けて、縛りのテクを子どもへ披露。ただのリボンがあっという間に大輪の花へ変わった。
「出来上がりっと、お前らでシスターに渡しな。無理に外へ出なくても、部屋で出来ることも覚えるといいぜ」
コサージュをリリコへ渡し、スティーブンはそう言って笑みを見せた。
●キンダーサプライズ
「ポーと」
「ルークの」
「「輪投げ大会ー!」」
シマエナガのぬいぐるみを着たノースポールと、ゴールデンレトリバーのきぐるみを着たルチアーノがぱっと紙吹雪をちらす。さっそくセレーデがチナナを連れてやってきた。
「これ、当たったらもらえるの?」
「そうだよ。この輪を投げて、すっぽり入れば大当たり」
「景品はまだまだあるし、何度でも挑戦可能だよ」
二人してきぐるみの腕をブンブン振り、さあどうぞと輪っかを渡す。
「えい!」
呼ばれたようにすぽりと輪の中へ入ったのは空色のエプロン。ほっと笑みを浮かべるセレーデ。
「これを着てシスターのお手伝いをするの」
さっそくエプロンへ袖を通す。身につけてみれば少し、だいぶ大きい。
「似合わなかった……」
「大丈夫、すぐに成長してぴったりになるよ」
「余ったくくり紐をちょっとしばって、うん、かわいいかわいい」
ぶかぶかのエプロンを着た少女はうれしそうにしている。
「チナナちゃんだっけ、やってみる?」
ポーが水を向けると、幼女はこっくりうなずいた。輪っかはポーの手作りクッキーへ。
「はい、並んで並んでー。ぬいぐるみに、キラキラメダル、水鉄砲もあるよ」
ルチアーノがそう言えば。
「けん玉、ビーズの髪飾り、オルゴールや機械仕掛けの鳥、キミがほしいのはどれ?」
ポーが応える。息の合った恋人たちの思いがこもった輪投げは、子どもだけでなくイレギュラーズも魅了したという。
「オウ、ちょっとはデカくなったか? 坊主」
ユリックの頭を押さえつけると、ぐぐっと力強く押し返してくる。成長を感じてグドルフは喉の奥で笑った。
「こ、こんなのへいちゃら、だい」
「おう、口先だけはいっぱしだな。ところで聞くか? 最強の傭兵、グドルフさまの武勇伝ってやつをよ」
「聞く!」
ひとしきり武勇伝を聞かせたあと、子どもたちを集め、鍛えた両腕へ子どもをぶら下げ、ぐるぐる回る筋肉コプターを披露。刺激的なお遊びに次から次へと子どもが飛びついた。
百聞は一見にしかずと杖を一振り。ぽんぽんと音を立てて宙に生まれるくまやうさぎのぬいぐるみ。
「ねえちゃんすごいなー」
ザスが目をキラキラ輝かせて寄ってくる。
「サモナーの家系に生まれた者としては当然なのです」
「サモナー?」
「召喚士のことです。さあさ、一緒に遊びましょう!」
ぬいぐるみを拾い上げるザス。この子の心にもまだ曇りはあるのだろうか。いつか雨が降り止むように、子供たちの心の中も、いつか晴れるといい。外には、きっと楽しい事が待ってると思うから。
「さあ、いったいどんなお花が咲くかな~?」
アニーは植木鉢の前に立ち、タクトをくるり。ふたばがポコンと生まれて、みるみるうちに伸びていく。やがて大ぶりの花が咲いた。歓声が上がる。
「これはダリアよ。じつは食べることもできるの。毒はないから安心してね」
次の植木鉢の前に立ってタクトをくるり。どよめきが起こった。
「はい、みんながだいすきなチューリップです」
はーいと元気な声が響く。
「それじゃあ、最後の花を当ててもらいましょう。ユリックくん!」
「え、俺?」
「そうよ、何だと思う? 白くていい香りのお花よ」
「百合、かなあ」
「さあ、ユリックくんの運命やいかに。ふりふりふるりらるりら~」
くるくるまわしたタクトとともににょきにょき育っていくのは百合。最後には花びらが開き、かぐわしい香りがあたりを満たした。ユリックは照れくさそうに頬をかいていた。
「孤児院で子どもたちがパーティーをすると聞いてきたけれど……」
リドツキはがくりと四つん這いになった。
「最高じゃないか。嗚呼、生意気なのも可愛らしい……もっと色んな表情を僕君に見せておくれよあは、ふふ……おっといけない本番本番。僕君怖くないよ……君達を傷つける、事はしないよ」
リドツキはテーブルをひとつ借りて、紙芝居の台をどんと置いた。
「とざいとーざーい。これより皆様へ奏上しますのは赤ずきんの物語。森へ入った少女が狼に襲われるも? お代は拍手でけっこう、さあ始まり始まり~」
子どもたちがスコーン片手にわらわらと集まってきた。
リドツキは赤ずきんの物語をわざとらしいくらいに情感たっぷりで語った。最後の大団円はとびっきりの笑顔。拍手が鳴り、口笛が飛ぶ。
「おもしろかったぞー、にーちゃん!」
ザスの掛け声にリドツキは、はにかんだ笑みを見せた。
「よー、初めましてのやつばっかだから自己紹介するとすんぜ、俺は上谷 零ってんだ。んで、こっちのスライムはライム、俺の…仲間みたいな感じだな、今日はよろしくなー!」
元気よく挨拶した零に子どもたちがそれぞれ挨拶を返していく。
「これ、作ったの、あなた?」
チナナが細長いフランスパンを持って寄ってくる。
「そうそう。フラッカリーっていうんだ。それを持ってるってことは、さては輪投げ大会へいってきたな?」
「そうでち。おいしいからもっとほしいと言ったらポーとルークから本人のところへ行けと言われたでち」
「そいつはうれしいな。じゃんじゃん食べてくれよ。俺はスコーンをいただくとするぜ」
ギフトを発動し、ポンと目の前にフラッカリーを出してあげれば、チナナはぽかんと目を見開いた。
「パンを焼くのに火を使わないなんて!」
「ふふふ、どうだ。びっくりしたか?」
「した」
重々しくうなずくチナナ。年に似合わない重厚さに零は吹き出しそうになった。
ニミッツは泣きそうになっていた。
せっかく孤児院までお祝いにやってきたのに、シスターは人混みの向こうだし、子どもたちはそこらじゅうを駆け巡っていて捕まえられそうにもないし、せめて料理をと考えたが大量のスコーンが既に用意されているし。
「わ。わたし……何も役にたたない……?」
声に出すと余計に惨めになって泣きたい気持ちが溢れそうになった。そのとき。
「どうした?」
目の前に少年が立っていた。
「俺はユリック。だいじょうぶかねえちゃん」
ユリックはハンカチをとりだし、ニミッツへ渡した。ニミッツがそれで涙を拭うと、満足したように立ち去ろうとする。
「あ……待って。これ」
「ハンカチ? いいよ。俺のポケットは輪投げの景品でいっぱいなんだ。ねえちゃんが持っててくれると助かる」
「そ、そう……。あの……お礼の歌を聞いていってくれる……かな? 私には、歌しかないから……」
「いいよ」
そういうとユリックは手頃な椅子に腰を落ち着けた。やがて柔らかく甘い音色の歌声があたりへ広がっていった。
ばくばく、がつがつ。
「あの、お茶、いりますか?」
「いるいる! スコーンもおかわりだ!」
セレーデからお茶のおかわりをもらったヨルムンガルドが、皿の上のスコーンの山をもりもりかたづけていく。
「俺にもひとつくれや」
ゴリョウがやってきてチナナの隣りに座った。黒豚系オークの肩書に反して優雅にお茶。ひととおりスコーンを味わうと、自分の腹に釘付けになっていたセレーデへサムズアップしながらウインクを飛ばした。
「触ってもいいんだぜ?」
ぎくり、とセレーデが身震いする。ゴリョウは誘惑するように腹を叩いた。そっとセレーデが近寄り、ゴリョウの腹へ手を伸ばす。あと少しというところまで手を……。
「わーい、腹肉トランポリンだー!」
「おーいえー、ごーでち」
ヨルムンガルドとチナナがゴリョウへ飛びかかり、押し倒した。ぼよんとその腹の上で跳ねる。
「はっはっは! 元気なおじょうちゃんたちだな! セレーデ嬢ちゃんも来な。なんも怖いことはないぜ」
ヨルムンガルドがセレーデの腕をつかんだ。ゴリョウのもとまでひっぱっていく。
「さあ、遊ぼう! 私とチナナはたっぷりボインボインしたから、独り占めしていいんだぞ」
セレーデはそろ~っと揺れる腹肉の上に座り、ぎこちなく体を預けた。
ボインッ。
「きゃっ」
ゴリョウが腹へ力を込めた。反動でセレーデが飛び上がる。二度、三度とくりかえすうちに、鈴を転がすような笑い声が立った。
●
「ふむ、誕生日パーティといえば」
「シスターが喜ぶとびっきりのケーキを作っちゃおう! ミョールちゃんとリリコちゃんには仕上げをお願いするね」
「それまでは私がおいしいお茶のいれかたを教えてあげよう。今まで味わったことのない最高のお茶をね」
ミルキィからふたりの少女をたくされたメートヒェンはさっそく茶器の用意に取り掛かった。
「そうそう、ミョール殿はお菓子作りが好きだと聞いてきたよ。お茶をいれられるようになれば、楽しいティータイムが過ごせるようになるだろう」
「それはすてきね。同じ習うならあたし、一番上手にお茶が入れられるようになりたいわ」
「おやおやなかなか野心家だね、リリコ殿はどうかな」
「……私も本格的に習いたい」
「了解。それではゴールデンルールを覚えてもらおう。ベーシックにして最良のお茶の入れ方だ。それじゃ、覚悟は良いかな?」
「「はい」」
「いい返事だ。まずは熱湯を用意して……」
ふたりがお茶の練習をしているあいだ、ミルキィは鼻歌交じりにオーブンからスポンジを取り出す。
「9月が旬の果物は、ナシにイチジク、それからクリ! どれもいいけどイチジクがお好きかな?」
スポンジを横へ二等分し、少女たちに切らせたイチジクを生クリームといっしょにサンド。それから全面へ生クリームをとろりと塗って、仕上げはミョールとリリコへ。
「ネームプレートは誰が書く?」
「あたし、あたしにやらせて」
自信満々だったミョールが8枚のプレートをダメにしてべっこべこにへこんだのはまたべつの話。
「ミョールちゃん、そう落ち込まんでスコーンの飾り付けしよ?」
そう声をかけたのは蜻蛉。
「リリコさん……無事でよかった……です。あの……嵐の中を……よく独りで……」
胸をなでおろしているのはメイメイ。
「エプロン、小さいのもあるから四人でおそろいにしよか。着付けてあげるからこっちおいで」
自分と同じ羊のワンポイントがついたエプロンに三角巾を着せると、メイメイは蜻蛉とおそろいだと喜んだ。その無邪気さに蜻蛉も目を細める。
「……よし、これで大丈夫、や。よう似合ってる、可愛らし。それじゃジャムにクリーム、たくさん作ろ、な?」
「ふふ……頑張り、ましょう、ね……!」
たくさんのスコーンをジャム、クリーム、フルーツで飾り、チョコで絵を書く。料理というより工作に近い。
「味見もせんとな……ああそれも美味しそう、はしゃぎすぎやろか、ふふ」
「……あとで、チナナさんの、ご挨拶にも、行きたい、です」
「じゃまするぞ」
そこへ入ってきたのはじゃがいもの精霊と普段着の騎士。
「……あ、ポテトさんとリゲルさん」
「久しぶりだな、リリコ」
「元気にしてるようだな。ミョールもははじめまして。今日はよろしく。さて、俺はお茶をいれてこようか」
「ふたりとも、薄いパンケーキを焼いてくれ」
二人が言われたとおりパンケーキを焼いているあいだ、ポテトは次から次へと惣菜を作り出した。なにせ野菜はギフトで作れるし、肉も持ち込んでいるからお手の物だ。
「パンケーキにこれらをくるんで食べると楽しいし美味いぞ」
「……うん、おなかすいてきた」
「俺のフルーツティーとあわせるともっと楽しいぞ。オレンジリンゴキウイに苺そのうえ蜂蜜」
「まあ、あたしフルーツは切って食べたことしかないわ。見た目も綺麗だし、蜂蜜まで入ってるなんてゴージャスね」
ひととおり料理がそろったところでリゲルとポテトはメイメイと蜻蛉に配膳を任せて廊下へ出た。
ふいにリゲルがポテトの頬へキスをする。真っ赤になった恋人へ甘い声音で囁いた。
「素敵な料理をありがとうな」
「……リゲルもお疲れ様、後はゆっくり楽しもう」
人目がないのを確認して、ポテトもキスを返す。それがどこへなのかは本人たちしか知らない。
「みんな、ケーキのご到着よ!」
配膳台の上へ王様のように置かれたケーキに、大人も子どもも関係なくむらがった。ちょっといびつに書かれた「いつもありがとうシスター」の文字に、本人は感極まって目元を赤くしている。
(アネモネがヤバい奴と知っていて、あたしはアレに加担した。そんなあたしが何をできるんだろう)
なんて思いつつも自分とアーリアのぶんをしっかり確保したリア。ふとアーリアから感じる旋律がいつもと違うと気づき、立ち止まる。アーリアは食べ過ぎでおなかぽんぽんになったロロフォイをやさしく抱っこしていた。
「お外は怖い? お姉さんもねぇ、むかーしお父さんとお母さんが目の前でいなくなっちゃったの。すっごく怖くてわんわん泣いてばっかりだった。でもねぇ、優しい人に囲まれて、お友達が出来て。こうやって、君にも会えて……今ではとっても楽しいのよぉ。いつか、君にもそんな日が来るといいなって思うわぁ」
子守唄のように過去を語る姿はリアが知らない表情をしていた。
「盗み聞きは、やーよリアちゃん」
いつのまにか隣へ座っていたリアの頭もぽんとなで、指先で口元を封じてふたりだけのひみつよ、と。
「……なんとなく、貴女に優しい旋律が流れている理由、分かった気がする。あたしも、もうちょっと考えて、頑張ってみようかな。よし、いいわクソガキ共。特別にあたしが演奏してあげようじゃない!」
アーリアと……多分自分の、誰かの為の優しい旋律を……。
「……会いたかった。来てくれないかもって、思った」
リリコは目の前の人影を見上げた。薄笑いのポーカーフェイス。武器商人だ。
「ヒヒ……夜はよく眠れているようだね。キミが新しい世界を見てきたと風達が噂をしていたよ。よかったねぇ。望むなら、また何か噺を聴かせよう」
そういって新しい絵本をリリコへ託した。
「蟹の雨、宝石の様な人々、女の子が家族の為に雨の中を走る噺……いろいろあるよこの世界には。この季節なら蟹の雨が見れるかもね。ヒヒ……壮観だよ、機会があれば見てごらん」
そしてその人はミョールを振り返った。
小さな手鏡を渡す。
「此度の縁を繋いだコへはこれを。信じようと信じまいとその鏡は其処にあるモノを映すだけさ、鏡だし。例えば喧嘩をした時、誰かの生誕を祝う時、キミが美しいレディの顔をしているか……とかね」
「ありがたく受け取るわ」
ミョールは手鏡を受け取った。リリコとは対象的に生気に溢れた顔立ち。ふたりそろえばいいコンビになるだろう。
●急展開
「レディが主賓のパーティーだというのに、この嵐で花束のひとつも用意することができなかったのは残念だ……」
イシュトカはひととおり挨拶まわりを済まし、グレイルと共にベネラーの部屋へ向かっていた。来たからには挨拶をせねばならぬというのが彼の持論だ。グレイルはベネラーが気になっていたようで、自作の「華やかなパーティー」の絵本を用意していた。
「……また依頼で…この孤児院に来ることに…なるなんてね…。…みんな…元気にしているかな…? …特にベネラーさん…まだ…部屋から出られないのかな…」
「閉じこもりというのも不遇なものだな。話には聞いているがいったいどんな子なのやら……」
ふたりの足音だけが廊下に響く。
ベネラーの部屋の前に何か白いものが放り出されていた。近づくと、無地の絵本にクレヨンで。
『たすけて、血がすいたい』
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
後生です!
何もしませんからあと字数を5千字ください!
後生ですから!
おいといて、もうちょっとがんばりたいと思います。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
ようこそこんばんは、みどりです。
わるいことしようぜ、ククク。
孤児院へ押し寄せてガキどもが腰を抜かすのを楽しもうぜ。
さらにキッチンを使って料理をしてケーキなんかも作っちゃおうぜ。
当然おいしいお茶もいれるんだ。ガキどもが今まで飲んだことがないような上質な茶葉でな。ククク。
それからレクリエーションもしてやるといいかもしれねぇな。
なに、ちょっと歌ったり踊ったりするだけで十分だ。
娯楽といえば絵本くらいのガキどもだからな。ちょろいもんよ。ククク。
あ、リリコはみなさんと一緒に無事に孤児院へ帰ることができました。
孤児院でパーティーを開くところからリプレイは始まります。
【台所】
料理を作るのが好きな方はこちらへ。ミョールとリリコはここにいます。手伝う気満々ですが腕の方は年相応です。
【会場】
孤児院の講堂です。即席のパーティー会場に早変わり。シスターと他の子供達はここにいます。
>子ども
リリコ以外、全員が外出を嫌がる。
両親を魔物に殺されたという経歴があり、それが関係している可能性がある。
12才男ベネラー 根暗(閉じこもり・今回も部屋から出てきません)
10才男ユリック いばりんぼう
8才男ザス おちょうしもの
8才女ミョール みえっぱり 今回の騒動の主人公
10才女リリコ 無口 絵本とリボンが宝物
5才女セレーデ さびしがりや
5才男ロロフォイ あまえんぼう
3才女チナナ 泣き虫
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