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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>ハルキエフを取り巻く末路

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝・ハルキエフ領。
 嘗て領主の乱心に伴い周辺領地を『帝政派に非ず』と切り捨て、己が力で以て侵略し帝政派として覇を唱えんとした、ガドレー・ハルキエフが治めていた領地である。
 あるが、ガドレーは反転し、その原因となった魔種とともに新皇帝派に降り、今は何処かでその力を振るっているのだと言う。
 斯くして統治者を失い民すら恐らく戦乱と天衝種の暴挙の中で消えたと思われたこの領地周辺は、帝政派としても放置しておくわけにはいかなかった。
 何故ならそれは、新皇帝派が跋扈しはじめた初期に、帝政派が活動圏を抑えられた屈辱的な敗北のひとつであった――と、言えるからだ。
 雪辱のため、という見方もできるが、単純に彼等に領地をいいようにされては、この国の未来は立ちいかぬ。帝政派の人々は、ローレットへと当該領地周辺の掃討を依頼することとなる。
 ……そこに以前以上の地獄が蔓延っているとわかっていても。


 果たして、その地に闊歩する天衝種を視認したイレギュラーズは余りの不快さに言葉を失った。
 それはただの肉塊だった。人という肉を複数、乱雑に混ぜ合わせ乱暴に捏ね、そして放り出しただけのものに見えた。
 霊魂などを視認できる者がイレギュラーズのなかに居たなら、ひとつの魂が多くの肉を取り込んでなおも肉体にしがみつき、死という事実から目を背け続けた結果であることがわかるだろう。
 そして、その周囲には肉体すら奪われ、魂が重なり合った不完全な物体が浮いている。行き場をなくしたそれは、元の肉体から離れられずにいる。そしてこの土地からもだ。
 なんという哀れ。魔種によって奪われた命は、その末路は、終わることすら許されていないというのか。
「来たか、不心得者共。ガドレー殿は既に……いや、知っていよう。多くは語るまい」
 そして、イレギュラーズの来訪を知り現れたのは、この地を混乱に陥れるきっかけとなった魔種・メイヤだ。禿頭は僅か残った瓦礫がなんらかの要因でちりちりと燃えた光を反射し、その手に構えた大得物は未だ些かの乱れも感じさせない。破壊につぐ破壊を行っただろうに、ウォーハンマーの爪には刃こぼれひとつないわけだ。
「ガドレー殿は志高く、聡明なお方であった。だからこそ、バルナバス陛下の御心全てを受け入れる器ではなかった。その不完全さをこそ、民は愛していたのだろうがな」
「何が言いたい」
 一人、ごちるように吐き出したメイヤの言葉に、イレギュラーズは思わず問い返した。メイヤの目に残忍な光が宿ったのを、彼等は見逃さない。
「だからこそよ。この地の者達はとても、とても『やりやすかった』。死してなおメイヤ殿が高潔である、あった日のことを忘れがたく否定し難い、救い難い愚物であったからこそ魂と肉体が適切に明快に狂い、天衝種としてこの上ない素体になった。……分かるか? 主を信じ、心理的に窮乏に至った人間がいたとすれば。それは何しろ扱いやすい素材となり得るということだ。信じられるか? 如何に救ってみせようが、生きたまま絶望と憤怒を味わって死んだ者は、驚くほど簡単に、人の形を捨てるということをッ!」
 彼の言葉はこの地の現状を明確に表しているようであり。
 しかし、その言葉の真の意味を。そう仕向けた行為とはなにかを、理解した時……イレギュラーズは心底からの不快感を覚えることだろう。

GMコメント

 参照シナリオ:『<総軍鏖殺>疑心、悪鬼とともに』『<大乱のヴィルベルヴィント>ハルキエフの主は戦火にて(冒険中)』
 雪辱戦その2です。

●『怒衝天』メイヤ
 憤怒の魔種。怒髪衝天ではないのは、彼はスキンヘッドだからです。上述のシナリオで自分とこの領主を反転させ、新皇帝派に降りました。
 OPでも分かる通りの純粋なパワータイプで、爪のついたウォーハンマーを用います。【高速詠唱1】持ちで、【溜1】の伴う防御不可の単体攻撃、ハンマー振り回しによる『自分中心にレンジ1』の範囲攻撃、【溜2】必要なめちゃくちゃ強力ハンマースロー(遠扇)などがあります。殺意が高いタイプです。また、攻撃を空振った際、至近距離内で地面に立っているイレギュラーズは【麻痺】の抵抗判定が入ります。揺れるからね、地面。
 防技はそこそこ、物理攻撃力は警戒レベル。HPと抵抗はかなり高いです。
 正直こいつを倒すことは考えないほうが無難でしょう。
(今シナリオより追加)前回生き残って学習したので、飛行対象にCT補正の入る迎撃スキルを体得して現れました。

●ラースモールド×無数
 全長10cm程度の甲羅状の外鋼を持つ小虫。これでも天衝種です。メイヤ含め複数対象にくっついています。
 攻撃行動を行いませんし、HPも後衛ですら一掃が容易な程度です。
 ただし、これらの特性はそこそこ高いEXFと「かばう」の積極的使用にあります。当然ながら鈍いし小さいので単体では無視して問題ないのですが、多数が特定対象にとりつき「かばう」を使用した際、複数が死につつ一部がEXFで復活し、補いあいながら対象を生かそうとするところにあります。
 その代わり、対象は機動と反応が落ち、HPが継続的に微減します。
『これらが庇っている対象に対し、何が通用して何が通用しないのかを取捨選択しないと致命的な結果を招きます』。かなり重要なので強調しました。

●憎死塊×5
 ハルキエフ領で死んだ者達の魂が肉体にこびり付いたまま呼び声を受け、天衝種となったものです。
 こびりついていない死体を取り込み続け、巨大な肉塊となりました(高さ2.5m、幅3mくらい)。一体止めるのに二人ブロックが必要で、逆に天衝種からは3名をブロック対象に指定できます。
 HPが高く、表面に酸をまとわりつかせているため【反】を持ち、ブロック中や至近範囲にいる際【毒系列】BSの付与判定が発生します。
 攻撃は酸を飛ばしたり押しつぶしたり、体の一部を伸ばしてビンタしてきたりします。
 一部にラースモールドが取り付いています。
 なお、死亡時に固定ダメージの入る酸を伴い、自分中心にレンジ1内を巻き込み爆発します。

●白殺香×10
 人魂型天衝種。強さは『相対的に』弱い部類ですが、死亡時に【災厄】を伴う【魅了】BS判定を自分中心にレンジ0(至近)にばらまきます。
 神秘系統の攻撃や香りを伴う様々なBSを撒いてきます。
 ブロックは相互に『行えません』。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <総軍鏖殺>ハルキエフを取り巻く末路Lv:40以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
シェンリー・アリーアル(p3p010784)
戦勝の指し手

リプレイ


「もはや軍人としての本懐もわからんか。……見るに耐えん」
「軍人は軍がなければ粗暴者だ。領主としての器を失したガドレー殿には、グロース将軍の麾下に入るしか道がなかった。本懐は指揮官の意思に在り」
「君を見てると哀れに思えてくるよ。ガドレー殿は……いや、語る意味もない」
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はメイヤの姿に、軍人としての誇りがないと理解した。メイヤは、誇りを捨て、軍人としてひとつの駒であることを己に課した。そこには在り方の違いがある。どちらが正しいとは言うまいが、『通行止め』解・憂炎(p3p010784)の言葉通り、彼を信じ反転したガドレーには少々の哀れみすら覚えようか。
「領地が死体の山とは、なかなか良い趣味をしているようで」
「人の憤怒も極まればかくも悍ましい姿になれるのでござるか。そうさせた所業、もはや手におえぬ」
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)にとって、鉄帝の行く末は正味のところ興味が薄い。そも、己が仕損じた魔種の配下だという事実も、彼にとっては他愛もないいち事象だ。いま『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)とともに対峙する肉の巨塊のまがまがしさも、哀れで奇妙だ、以上の感慨を持たぬのは紛れもない事実である。
「味方になった相手にもヨウシャ無し。シュミが悪いって言ったらないね」
「肉の体を奪い、寒空の下で軍備を敷く。あまりに道理を欠いているな」
「そう思うか、イレギュラーズ? 体があれば飢えがある。人の心があれば雑食にもブレーキがかかる。私はそれから開放してやったにすぎない。ガドレー殿とて、魑魅魍魎跋扈するこの領内で人のまま生きる者達を憂えていた。なればこれが回答ではないのか?」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)と『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は、否、口にせずとも居合わせた面々ほぼ全員が、領民を守る為ではなく消費するために変貌させたそのやり口に嫌悪感を抱いている。人の肉として残れず、魂は怨嗟を繰り返すだけ。一般的価値観では、不幸以外の呼び方を彼等は知らない。が、メイヤからすれば今まさに迫りくる冬への適切な対抗策だ、と言うのだから驚きだ。
「感傷に浸るのは後だ、エゲツねぇことしやがったお前、そこのハゲ。顔は覚えたからな髪なし怒衝天!」
「なら、冥途の土産にこの槌にて土の味を味わうか、小僧。威勢がいいのは嫌いではないが無謀も限度があるぞ」
「お前の顔を叩きつけるのは俺の役目じゃねえ。けど逃げ得にもさせねぇからな!」
 誰が不幸だ、領主がどうだ、という点に対し、『深き森の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)はあれこれ思慮を割くことを避け、現状の打開を最優先と考えた。即ち天衝種の掃討。魔種であるメイヤを片手間に倒せると思うほどの自惚れはなく、しかし彼とその配下を放置しておけるほど無関心ではない。
「許せる事じゃねぇ」
「信じた民を斯様にした所業、赦すまじ。せめて拙者の手にて介錯仕る」
 目の前の地獄は悪趣味な絵画に似る。『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)にとって、これ以上不愉快なものもそうそうなかろう。なれば、歪んだ命を終わらせることは地獄じみた絵を描き替えることと変わらない。咲耶も、言葉にこそせずともエッダもまた、領民たちを望んだ終わりへと導くことを心中で誓った。
「せめて嫌がらせのひとつくらいはしましょうか」
 ウィルドは真っ先に憎死塊達に狙いを定めると、手始めとばかりにそれらに挑発を仕掛け、ひきつけるべく動く。が、当然と言えるがラースモールドを抱えた個体は微動だにせず、メイヤとへと向かう者を塞ぐように立ちはだかっている。
「先ずはあの虫を吹き飛ばさねえとってか。狩り尽くしてやるぜ!」
「ヒトダマの方に虫は取り付けない、なら先に倒すに限るね!」
 白死香が肉体で足止めできぬなら、感情を制御してひきつける。無数の虫が邪魔であれば、隙を生むまで消し飛ばす。
 厄介な敵「しか」いない戦場で、戦局の整理と得手への注力こそが勝敗を分ける。イグナートとミヅハは、その点で即応性が高いといえただろう。
 少なくとも、初動において。彼等は微塵たりとも己の勝利を疑ってはいなかった。


(この状況……あの虫がついてる限りウィルドさんがあいつらを引き付けきる可能性はゼロか)
 憂炎は仲間の初動を待ってメイヤへ突っ込み、以てその進行を止めることで戦線を維持しようとしていた。仲間達それぞれが惹きつけ、あるいはブロックすれば分断が可能だろう、と。それはイレギュラーズの総意だったが、彼等はラースモールドの特性をあまりに甘く見すぎていた。いわんや、憎死塊の巨体の脅威など図りきれていまい。
「肉の体はもう無いとはいえ、こんな寒空の下じゃ寒いだろう。向こうで安らかに、おやすみなさい」
「ウェール! コイツら『安らかに』ってレベルの敵じゃないよ!」
 ウェールは心中の祈りを弾丸に込め、白死香に次々と打ち込んでいく。半霊体ゆえか、或いは本来の回避能力によるものか、彼の銃弾は想定よりも通じていないように見えた。確かに狙った、外す見込みはなかった。ならば、彼の心にどこか漫ろなものがあるからに他ならない。例えば、先日敗走を余儀なくされたメイヤの主について。
「……いや」
 違う、とウェールは首を振った。一度で倒せぬのはわかっている。如何に弱敵であろうと、魔種の供回りの天衝種。イグナートの耐久が度外れていても、十体相手は荷が勝つだろう。仲間の大多数が憎死塊に手を取られている中、彼が躊躇すれば、最悪イグナートは無為に倒れるのみだ。
「虫は付いてねえんだな?」
「そうだよ! 霊体だからね!」
 ジリ貧になる可能性が着々と迫るなか、しかし打開を企図した声が響く。ベルナルドだ。至近距離まで踏み込んだ彼は、渾身の力で以て白死香の一体を叩き潰した。すかさず炸裂した死に際の余波を涼しげに受け止めると、イグナートと目配せを交わす。仲間を傷つけぬ技能で暴れまわり、打ち込み、一体ずつでも確実に叩き潰す。当然、それだけではあまりに時間がかかり過ぎるが――そこまで、それらの体力は多くもないし、彼等も悠長ではなかっただけの話だ。
「ああも執拗にラースモールドが張り付いているなら、もしや弱点を庇っているのではあるまいか?」
「なるほどな。狙う価値はあるってワケか」
 咲耶は憎死塊にしつこく張り付いたラースモールドの分布を見て、ことさらに庇っている部位があるのではないか――と推測を立てた。相手の情報が少なすぎる以上、あらゆる可能性を探ることが必要となる。そういう意味では、ミヅハもその意見を肯定出来た。仲間の行動を待って攻めに転じる事も考えたが、おそらくその悠長にすぎる考えの前にウィルドは倒れ、戦列は崩壊する。彼の能力は、正確は、持久戦向きか? 明らかに否である。
 咲耶の斬撃を受け、ラースモールド達が剥がれかけては新たに覆い被さる。複合的に張り付いたそれは、しかしミヅハの追撃でさらに数を減らす。周囲に新たに現れた個体もいるが、彼等の攻撃の頻度・速度に比してその動きは遅い。全て剥がせば、再び効果を発揮するまで多少の隙は生まれるはずだ。
「蛆虫どもめ。分をわきまえずあちこちに湧くのは天衝種とて変わらんのだな」
「はあ……スーツに臭いが付きそうで気が進みませんねぇ」
 エッダは足元から這い上がろうとする虫を踏み潰し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。感情を揺さぶられ、護りの役目を忘れた天衝種がどう動くか。様々推論を立てたが、単純に自らへと寄ってくるばかり。同じ様に虫に集られつつ、さらに憎死塊を受け止めるウィルドの軽口には、殊更厳しい視線を向けるのも無理からぬ話だろうか?
「抑えきれなかった罰と思え。その程度、留め置けるのだろう?」
「無理って言わせてくれるなら、そうしたいですがねぇ……」
 そんな軽口をたたいている余裕は、既に彼には薄かったが。かといって、それを忘れてしまえば今この場で敗北を認めるに等しいのだと、内心でウィルドは自覚していた。
 だからこそ、エッダが冗談を返したことは僅かに救いであったのだが……。

「愚物は人の姿を捨ててなお愚物か、全く――」
「――作り手の思考そっくりだな、『怒衝天』よ」
 白死香は徐々に押されつつある。憎死塊は、未だ十分戦えよう。あの巨体にした理由は、目隠しという意味もある……メイヤのウォーハンマーによる攻撃を包み隠すという意味でも。だが、渾身の一撃が飛ぶその瞬間、憂炎は己の咆哮でもってメイヤを叩いた。否、メイヤに取り付いたラースモールドを、か。
「その距離から、倒す気でいると? 甘く見られたものだな」
「甘く見てないから、距離を取った」
 ウォーハンマーをキャッチしたメイヤは、その軌道上にあった数名を叩き伏せた感触に満足し、しかし賢しく距離を取り対峙した憂炎の姿に不満を示した。だが、簡潔な回答には深く口元を歪める。それは果たして強敵への称賛か、或いは……。


 メイヤの大槌が唸りをあげて憂炎の胴ごと周囲を薙ぎ払いにかかる。憂炎はその眼前に至るまで、相当なロスがあった。挑発すれば、感情を揺さぶればたいていの強敵をとどめ置き、活路を開ける。その認識に誤りはない。ないが、ウィルドの挑発が一部に通らず、テンポが崩れた時点で彼等は気付くべきだった。憂炎の堅牢な肉体、そして傷を負っても只では倒れぬ実力は、『メイヤを』足止めする役割を果たそうとしていた。しかし、背後から迫る風音と、それを弾いた鋼の音は、憂炎に確かな脅威をにおわせた。
「奴に挑発を向けても、僅かに虫が剥がれるだけか。肉塊どもも同じ、と。……動きが鈍くなっているだけなら、勝手にもがいていればいい。問題があるとすれば」
「妨害に来たのか、あっちから……?!」
 鋼の音、そして声の主はエッダだ。膝をつきかけ、立ち上がった憂炎の背後に迫った憎死塊を受け止め、その毒を一身に受け止めている。じわじわと押されている様子を見れば、彼女が万全ならざることが見て取れよう。遠くに視線を移せば、倒れかけたウィルドを押し潰そうとする憎死塊を押し返そうとする仲間が見えたはずだ。
 白殺香は? 焦りを覚えた憂炎が視線を巡らせれば、幸いにしてその姿は見受けられない。が、対峙していたイグナート、そしてウェールの姿を見るに、それらの撃退での損耗が激しかったのは明らかだ。
「ラースモールドは考えていた以上に脆い……! 同士討ちにすら使えねえなんてな、でもその分、引っぺがすのは楽な筈だ!」
「後からどんどん湧いてくるったって、一度剥がし切れば本体狙える隙くらい出来るよなァ?!」
 ベルナルドに誤算があったとすれば、ラースモールドのあまりの脆さ。が、裏を返せば撃滅への時間コストが予測以上に安くつく、ということ。
 手数と効率を主とするミヅハにとって、それは憎死塊の隙をつき、確かな痛撃を与える機会が増えることを意味していた。
 結果から言えば、その推測は正当であった。如何にラースモールドが無尽蔵に表れるとて、全身を庇い合えるほどの数が取り付くには多少の時間を要す。
 生身の本体、その感情を揺さぶったなら、ラースモールドが集った後でも効果は持続する。畢竟、ひきつけることは可能だったのだ。
 そしてそれはメイヤにも言える。作戦段階では難攻不落にすら思えた虫の群れは、しかしその『死ににくさ』を上塗りする状態異常や手数、そして攻撃範囲でもって働きを抑制することが可能だったと、彼等は解明するに至った。再びそれが現れても、ルベンやこの地での戦い程には成果を発揮できまい。
 ……裏を返すなら、それが限界だったのだ。
 白殺香は確認できる限り掃討した。憎死塊も、少数ながら撃破しラースモールドの欠点を解明した。メイヤに対しては、有効射程の差を埋める手段を隠し持っていることが明らかとなった。
 高い成果だ。だが、天衝種の撃滅まで腕を伸ばせば、イレギュラーズの撤退すら不可能になりつつある。メイヤは、彼等が去れば追えまい。
「まだ、あの肉に宿った魂を救済できていない」
「倒し切れたとして、メイヤはどうする!? 襲い掛かられたら全滅するぞ!」
 虚ろな声で訴えるウェールの腕を、しかし同じくらいの悲痛さを滲ませベルナルドが掴んで引き寄せる。
 戦闘の手筈、過程、そして対策。言ってしまえば『段取りに希望的観測が混じっており、実力を出し切れなかった』ことが敗因である。あるが、それを差し引いても出色の成果だったのだ。
 撤退を選択した彼等を謗る者はおるまい。……それは敵のメイヤでさえも。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

ウェール=ナイトボート(p3p000561)[重傷]
永炎勇狼
エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)[重傷]
天下無双の狩人
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)[重傷]
微笑みに悪を忍ばせ
シェンリー・アリーアル(p3p010784)[重傷]
戦勝の指し手

あとがき

 実は挑発って結構難しいプレイングなのです。なので、精度を上げないと大変という側面があります。
 それはそれとして、作戦成否とかその他リプレイに込めさせていただきました。
 残念な結果とはなりましたが、概ねの考え方は良かったんじゃないかな……と思います。

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