シナリオ詳細
<総軍鏖殺>credentes non salvabuntur
オープニング
●黒百合の夜明け団(ブラックリリィダウン)
新皇帝派、アレイスター・クロユリー。
彼女は国外で活動していた人間でありながら、バルナバス政権下に突如現れ不自然なほどの速さで政治的な実権を握っていた。今や新皇帝派の有名人である。
そんな彼女が鉄帝国内に作り上げた――あるいは、潜伏させていた団体。それが『黒百合の夜明け団(ブラックリリィダウン)』である。
正体の一切掴めない狂気の団体であり。学友がハマってしまったからと連れ戻しに行った人間がいつの間にか一緒にハマっていたり、ついには『私達民族は許されない罪を犯した』などと言いだし近所の人間たちと一斉に失踪するといったような狂った事件が頻発しはじめている。
そしてその波は、ここ『鳳自治区』にも及んでいた。
「なんだこれは……書いてあることがサッパリわからない……」
事件の調査を依頼された加賀・栄龍(p3p007422)は、回収した『宣誓書』を開いて顔をしかめた。
鳳圏国民の学力水準で誰でも読める程度のふつうの単語が並んでいるのだが、単語による前後のつながりが滅茶苦茶でとてもではないが意味のある文章には見えない。
一文だけ抜き出してみてもこうだ。
「――我々は四列編成の霊柩車であり、カラーとステラーを風除室にすべく秋風のプロセッサを行うものである」
「聞いているだけで頭痛くなりまする! まだ50文字もないのに!」
うわー! と叫んで両耳を手で覆う茅野・華綾(p3p007676)。眼鏡のしたの目はバッテンになっていた。
「もしかしてこれを解読しろなんていいませんよね。深く読み進めようとするだけで気が狂いそうでする」
「まさか。というか、そんなことができるなら頭の良い連中がとっくにやってますよ」
日車・迅(p3p007500)が宣誓書なるものから全力で目を背けている。
ものを信じやすいというか、素直というか、感受性が豊かな彼が見るとすぐに目をぐるぐるにしてしまいそうだと上司(榛名殿)から『目をそらしておけ』と命令を受けているのである。それで実際物理的に目をそらし続けているのだから、彼の素直さもかなりのものだ。
「しかし……集められたのが『このメンツ』ということは、別に町中をくまなく歩く周り聞き込みをせよというわけではないのであろ?」
風もないのに髪をなびかせ、曇り空にも関わらず虹がかかり、鳥もないのに小鳥のさえずりが聞こえる咲花・百合子(p3p001385)が点描を背に負いながら言う。
もうじき80台に達しようという彼女美少女力は、そろそろ常識の域を超えつつあるようだ。
「ああ、その通りだ……」
栄龍は自分と迅、そして百合子を見た。いかにも敵陣に突撃するのが得意ですといわんばかりの三人だ。
華綾はぱっとみ頭を使いそうな見た目をしているが、彼女も彼女で戦場で死の気配を纏って踊る死の天使である。
「既に、解読班が働いてくれた。おかげでスタッフがダース単位で休業してしまった。ありがたいやら、申し訳ないやら……」
ここ『鳳自治区』は旧ヴィーザル鉄帝国領である。
厳密には独立国家を名乗った鳳圏という小部族の名残であり、鳳王を名乗る存在が打ち倒されたことで一度鉄帝国に吸収され、そのうえで鳳圏出身者である華綾や栄龍たちに割譲し領地運営をさせることで実質的な独立をさせた土地だ。
かつてのように戦争に狂うこともなければ、民をアンデッド兵に変えてしまうこともない。
徴兵制度もとりやめたことで表面的な軍事力こそ弱まったものの、他領との貿易を密に行うことでより豊かな暮らしができていた。
しかし人間は豊かになると学をもち、学をもつと見識を広げ、見識を広げるとこういった『知の地雷』とも呼ぶべき罠にかかることがある。
『黒百合の夜明け団』はそんな知識を持ち始めたばかりの鳳圏民につけこんで彼らを狂気に落とし、少しずつだが(自主的に)連れ去っている。
放置すれば危険なことは明白だ。
「裏に居るのは間違いなくアレイスター・クロユリー。これが慈善事業とは思えん。即刻にでも潰すべきであろう」
「同感だ。鳳圏内に作ったアジトの場所が判明しているから、今日はそこを襲撃する手はずになっている」
解読班がダース単位でダウンするほどの労力をかけて見つけ出したアジト。
『集会』が行われている場所であり、狂気を植え付けられた人々が一斉に失踪するという事件の原因がここにあるのだろう。
「目的は民間人の保護。構成員の撃破と拘束。そして施設の調査だ。
途中で正気を失うようなことはないと思うが、くれぐれも注意してくれ」
栄龍の言葉に、仲間達は頷く。そして、早速行動を開始した。
- <総軍鏖殺>credentes non salvabuntur完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●utile mendacium
「巧い人払いの術だ、術師という意味ではボクよりずっと上だな」
鳳圏の街を歩きながら『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)がぼそりと呟いた。
「む、強いのであるか?」
横を歩いていた『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が彼の顔をちらりと見る。
「握力でいうと何万トンであるか」
「言いたいことが三つある。握力はトン単位で計らない。術士は握力で測定できない。ボクは美しい」
「三つ目はただ言いたいだけのことであるな!」
関係ないと吾でも分かるな! と豪快に笑う百合子。華やぐ美少女の顔でこれをやるので見ているほうは脳がバグるのである。
ゆうて異世界人。宇宙人のようなものと考えればまだ人間っぽいだけ分かりやすいのだ。
分からないのは、そんな『種族美少女』たちですら意味が分からんと言われるアレイスター・クロユリーである。
「クロユリー……ヤツが黒幕であることは明白だというのに、狙いも居場所も分からなすぎるのである。目の前に居れば『強く触って後は流れで』で済むのであるが……」
「なんだい、その、相撲の八百長みたいな美少女言葉は……」
百合子たちが深くものを考えないだけかもしれないが、それを差し引いたとしても、クロユリーという存在は不気味すぎるとセレマも思えた。
存在が『魔術的』すぎるし、動きがあからさまなのに掴めないというこの雲のような性質はセレマにも通ずるところのある厄介さだ。
セレマは自分を真の意味で殺せないと思っているので、同じような存在もまた真の意味で殺せないと考えるのである。
なにせ、そうなるように積み重ねた努力と研鑽こそを、真に『魔術』と呼ぶのだから。
その、一方。
「いつの間にか、なんだか妙な団体が出来ていますのね。
得体も知れないし、罠が仕掛けられているかも知れませんわ! 皆様、準備は!?」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がザッと振り返る。
『鳳の英雄』加賀・栄龍(p3p007422)は装剣したライフルを垂直に掲げ、『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)は両手の拳をがつんと胸の前で合わせ、『折れぬ華』茅野・華綾(p3p007676)は『きをつけ』の姿勢でライフルをぐるんと回して垂直に立てた。そして一斉に敬礼の姿勢をとる。
「「準備万端であります!」」
「ああ! もう突撃するつもりですわこの人達は!」
「ふふ。わたくし、暫く戦場を離れておりましたが、祖国の同志の危機であると聞きましたが故!」
「『聞きましたが故』じゃありませんわ! 罠の対策とか、偵察とか、そういうのはございませんの!?」
「テイ……サツ……?」
「初めて感情を覚えた悲しきモンスターみたいな声をお出しになって!」
ヴァレーリヤがツッコミに回る。希有な光景であった。
「ささ、このような奇々怪々な事件は手早く解決致しましょう! 全ては、我らが祖国の為に!」
「「我らが祖国の為に」」
「待ってくださいまし!」
早速突撃しようとする栄龍と迅の後ろ襟を掴んで引っ張るヴァレーリヤ。
その光景をハタから見ていた『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、脳裏に大型犬を散歩する子供を連想させた。
「狂気の宣誓書…か。興味深いがとりあえず、民間人が襲ってくる場合も想定して動かねばね。ヒヒヒ……」
「笑ってないで手伝ってくださいまし!」
ヴァレーリヤが武器商人にカッと目を見開き、そして助けを求めるように『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)に向き直る。
「聞いたことある。“あやしい宗教”……そんな感じだね! 友だちのためにも、やくにたちたいな!」
「今! 今役に立つのですわ!」
「わかった!」
リュコスはクラウチングスタート(?)で施設へ走り出す。
「待ってくださいまし!」
武器商人の脳裏に、ファントム大型犬が一匹ふえた。
「元鳳圏軍人らしい活躍が出来そうだな、迅殿!」
「敵も罠も全て踏み越え、殴り抜き、この鳳に手を出した事を後悔させてやりましょうね! 栄龍殿!」
彼ら共に鳳圏の領地を治める身。いまやひとりの兵士ではなくなったが、心はやっぱり兵隊さんのそれであった。
「あっ、そうですわ! ファミリアー! ファミリアーはありませんの!?」
「それなら僕が」
スンッと停止した迅が地面にかがみ、野ねずみを呼び出す。つんのめって転ぶヴァレーリヤ。
迅がポケットから取り出したカンパンをひとかけ渡すと、それを報酬として受け取った野ねずみと五感を共有させた。
「ローレットで俺自身が体験したように、未知を知り、また探求する。
本来なら応援したいのだが、守るべき国民に万が一被害があったらと考えるとそうはいかん。迅殿、頼むぞ」
「承知! 早速内部を――痛ッ!?」
ネズミを建物の側面にまわらせ潜入を開始した筈の迅が、片目を押さえてびくりと身体をすくめた。
彼自身がダメージをうけたわけではない。おそらくネズミがくらった痛みを共有してしまったのだろう。すぐに迅の共有感覚はブラックアウトしてしまう。
殺されたのだろうか。少なくとも使役したネズミの意識はなくなったらしい。
「潜入した瞬間にやられました……」
「なんだと?」
「いや、それは、さすがに……」
華綾が口元に手を当てて難しい顔をする。
建物内をうろついていた怪しい小動物がいたら、そりゃあ華綾だってファミリアー偵察を疑って殺すだろう。刺激物に沈めて嫌がらせをするなんて手だってある。
けれど『潜入した瞬間』というのは、奇跡的に誰かが見つけて殺したんでもない限りは不自然だ。
「これは……『何か』あるねえ」
武器商人が早速何かに気付いたようだ。スキルによるものというより、単純な当人のセンスだろう。
説明を求めるように見つめてくる栄龍たちに、武器商人はセレマの顔を一瞥してから頷く。
「人払いの術。潜入に気づく術。魔術的なセキュリティが何重にも施されているということだねぇ……一体何から守っているんだろうね、ヒヒヒ」
「む……」
単純に『飛び込んで、戦って』で解決しそうにない問題に、リュコスが眉を動かした。
が、動かしただけだ。だからといって立ち止まるリュコスではないし、仲間達も同じである。
「心配無用。罠があるなら踏み潰し、壁があるなら粉砕するのみ」
百合子が歩き出すと、華綾や迅たちがその通りと言って歩き出した。二歩目には走り出し、三歩目にはそれは兵士の突撃へと変わっていた。
「ああ! やっぱりこうなるんですのね!? どうなっても知りませんわよ!」
ヴァレーリヤは首を振り、彼らと共に走り出した。
●正面突撃ー!
偵察が潰された? まわりくどい手が通じないなら正面からパワーで行けばよいのだ!
むしろ一定の安心と共に、栄龍や百合子たちは施設の正面扉を蹴破った。
『蹴破った』という表現がこれ以上無く似合うような、蹴りによる扉そのものの完全破壊である。
四つに割れて飛び散っていく扉だったものを目にして、既に扉前まで駆けつけていた何人もの兵隊が銃を構える。鳳圏製突撃銃とは明らかに違う短機関銃。黒い色のP90に似たシルエットをした銃である。
扉正面で構えていた何人かは破片にぶつかって倒れたが、それが気にならないほどの人数での応戦。そして一斉射撃。
入ってきたものが敵か味方かなど関係ないとばかりに浴びせられた鉛玉の雨を……。
「大歓迎だねえ、ヒヒヒ……」
「致命傷はなし、か。勝ったね」
武器商人とセレマが二人で全て受け止めていた。
当然無傷なはずがないのだが、穴だらけになった身体をおぎなうかのように足元から湧き出した名状しがたきものが武器商人の身体を補填、修復していく。
一方のセレマは見るも無惨な肉塊に変わったあと、巻き戻し映像の如く元の姿へと戻っていった。服は戻らなかったので全裸なのだが、どういう理屈か隠すべき場所があやしい光によって隠れている。
「さあ、続けるといい。『無駄な争い』をね」
セレマが微笑むと後光すらさし、兵達は警棒を抜いてセレマへと殺到する。
対する武器商人は彼に兵達を任せ、建物内の探索を開始する。
「内部は分かりやすい構造にはなっていないようだねえ。美少年、どう思う?」
セレマは話をふられ(そして見るも無惨にぼこぼこに殴られながら)肩をすくめて微笑んだ。
「彼女に聞いてみるといい。ボクは今『手が離せない』」
そう言って指さしたさきは百合子だった。
「そういえば……キミも透視と透過を持っていたのだったね?」
「そのはずなのだが」
百合子は手刀のひとふりで兵たちを真っ二つに切り裂きながら、ぐるりと建物内を見回すしぐさをした。
「壁が見通せぬ。見通そうとすれば黒いノイズに阻まれるのだ。これもヤツの術か……?」
「かもしれないね。となると、透過するのも危なそうだ。ネズミがすぐに殺されたことにも関係してるかも」
「ふむ……『コレ』でもだめか?」
百合子が拳をグッと突き出すしぐさをしたが、美少年は微笑みながら首を振った。さっきへし折られた首を秒で修復しながら。
「魔術を破るには同じだけの回路がいるんだ。無理に破ろうとすると回路をまるごと浴びることになる。よしたほうがいい」
「そうだねえ。迷路に付き合ってあげたほうが得策かな」
武器商人は黒い光を解き放ち兵達を吹き飛ばす。
壁にぶつかり倒れた兵を観察して、そしてまたヒヒヒと笑った。
「見てご覧」
「なんです? あっ――」
華綾が兵を観察し、すぐにあることがわかった。そもそもこの兵達は人間ではないのだ。
その証拠に武器や制服ごと纏めてフッと消え去っていく。
「ヘイトクルー亜種……憤怒と狂気の思念に捕らわれた亡霊達を兵にしているのですね。これなら、突入と同時にあれだけぶつけてきたのも納得でする」
眼鏡をくいっとあげて語る華綾。
どうやら片付いたらしく、リュコスが『次は?』という顔を向けてくる。
改めて入り口から先の状態を確認する華綾。
入り口の先にはいきなり大きな壁があり、そこには『黒百合の夜明け団』の紋章がでかでかと飾られている。十字に交差する幾何学模様と端々の五芒星。そして中央の黒百合。間違いない。アレイスター・クロユリーのマークだ。
道は左右に分かれ、覗き込んでみるとその先も入り組んでいることが容易に想像できるような作りになっている。この建物自体が防衛に適した陣地になっているのだろう。
「我等加賀隊が鳳圏国軍の一部隊で在った頃、我が隊だけで敵組織の本拠地を三日三晩休まず捜索し、発見後に退くに退けぬ状況に陥り、そのまま敵陣に切り込む事で死中に活を見出した事も御座いました……」
ふとむかしのことを思いだし、目を瞑る華綾。
「お任せ下さい、探索は得意なのでする!」
華綾を中心としたルート探索は思いのほか順調に進んだ。
『思いのほか』と述べたのは、探索中に入る邪魔が入り口付近で遭遇したヘイトクルー亜種によるもののみであったためである。
「けれど壁を壊してでも進めないのは不便ですわね……」
あれだけ最初はとめていたヴァレーリヤだが、メイスを握ってそんなことを言い出した。
そして、サッと動き出すリュコスに反応する。
「『ブラッくり団』のアジトに、とつげきー!」
リュコスは敵の接近を音やにおいで敏感に反応し、相手がこちらの射程圏内にはいるよりも早くダッシュ。壁を走るほどの勢いでカーブを曲がると、咄嗟に銃のひきがねを引いたことでろくに狙いもつけられなかった敵兵達を翻弄しながら手を突きだした。
彼女から伸びた鎖が次々とヘイトクルーたちを貫き、一部には首へと巻き付き壁や別の敵へと叩きつける。
リュコスの暴れっぷりはかなりのもので、反応速度も相まって敵からの致命的な攻撃を受けることはそうないといえた。
ヴァレーリヤはそんなリュコスを援護するように動き、ヘイトクルーを纏めて穿つように『太陽が燃える夜』をぶっ放した。
そして……。
「待ってくださいまし、人間が混ざってますわ!」
咄嗟にそのことに気付き、慈悲の力を込めたメイスで殴り倒す。
見事なもので、その一撃で相手は気絶し眠ってしまった。
「『ブラッくり団』、人を集めてなにが目的なの!? なにをたくらんでるの!」
リュコスは倒れて気絶する相手をゆすって呼びかけてみる。
目を覚ます気配はなく、それ以前からこちらの呼びかけにまともに応答しなかったのでおそらく質問ができるような精神状態ではなかったのだろう。
リュコスはムッと頬を膨らませ、そして前を見る。
「思いのほか、スムーズでしたね」
迅は身構えながらじりじりと先行し、栄龍も突撃銃を素早く向けながら角を曲がる。
ヴァレーリヤは後方からの回り込みを警戒しつつ、殿を務める形だ。
「民間人はさきほどの一人だけでしたわね……」
「大勢いると来ていたが」
気絶させた一人は、とりあえず危険にならないように適当な部屋に隠すかたちで寝かせておいた。
一番大変になるのは、集団を見つけた時の対処法だろう。
例えば彼らが発狂して襲いかかってきたならセレマや武器商人を投入すれば容易に解決しそうだが、彼らが自決しようとしはじめたら纏めて気絶させるなどの荒技が必要になるだろう。
「む、これは」
百合子がパッと手をかざした。止まれの合図だ。
通路を進む先に、両開きの扉がある。
百合子がセレマ(いざという時の盾)を連れて先行すると、扉を透視する。
「見える。おそらく鳳圏の民であろう。皆……立って整列しているな。大きいホールのようだ。奥にはステージがあるが、む、見えん。阻害されているようであるな」
百合子の説明に得心がいったという様子で頷く迅。
「なるほど。皆さんはそこに集められていたんですね。はやく助け出しましょう!」
「同感だ」
栄達たちは扉を開きホールへと突入――した途端。
感じたのだ。
栄龍が起動していたエネミーサーチに、大量の敵意が一瞬にして発生、こちらに向けられたことを。
だがそれはセンサーをもたない迅にもわかることだった。ホールに整列した全員が一斉に振り返り、一斉にこちらを見て、そして一斉にバッとこちらを指さしたのだ。
「「非国民め! マグネシウムの三角定規に並ぶべし!」」
意味がまるでわからない文章を完全に揃った口調で叫ぶと、彼らはポケットから短剣を取り出す。小刀と呼ばれる、木を削ったり細工したりという作業につかう武器とすらよべない何かだ。それを、栄達たちのすぐ近くにいた(つまり列最後尾の)集団が自分の首へ押し当てる。
「嘘だろ!」
栄達はライフルを投げ捨て、相手の手首を掴むと思い切り地面へと投げ倒す。いわゆるマーシャルアーツというやつだが、自殺を止めるために使うのは初めてかもしれない。
一方の迅も『鉄拳鳳墜』の武術を使い、相手の腹と頭をそれぞれ殴りつけ意識だけを刈り取る。
「武器商人殿! セレマ殿!」
他の人々も小刀を首に押し当てようとするさまを見て、迅が叫んだ。
神気閃光が放たれ、その中をヴァレーリヤが駆け抜ける。
攻撃の範囲外にいた民間人の小刀を、刃ごと手で掴むことで無理矢理自害を阻止するとメイスの柄の部分で殴りつけて眠らせた。
「こんなことを――どういうつもりですの!」
ヴァレーリヤが吠えるように叫び、ステージへと振り返る。
そこには、黒い制服の美男子が立っていた。
「『どういうつもり』……なるほどいい言葉であるな」
美しく歌うように、あるいは小川のせせらぎや小鳥のさえずりのように、耳へスッとはいってくる美しい声と語りだった。
うっとりと聞き惚れてしまいそうになったヴァレーリヤは首を振り、栄龍と迅、そして華綾たちも身構える。
そして誰よりも構え、そして早く飛び出したのは――百合子だった。
「アレイスター・クロユリー!」
「おっと」
奇妙な幾何学模様が描かれた手袋をした手をかざし、突き出す黒いルージュの美男子は……そう、アレイスター・クロユリーそのひとであった。
「『白百合清楚殺戮拳』!」
「『K∴O∴』――」
衝撃。それはホール全体に広がるほどの風となり、周囲の民間人たちなどはそれだけで吹き飛ばされる。
百合子の拳は、アレイスターの翳した手のひらによって止められる。
「何ッ――!」
百合子は驚きに目を見開いた。
間合いも力もタイミングも全て完璧だったはず。にも関わらず、アレイスターの距離が腕一本分『遠のいた』ように錯覚したのだ。それゆえに、止められた。
「実に正道。生徒会長の座を争うに相応しい拳。だからこそ、弱点をつきやすい」
「貴様――」
追撃――をはかろうとした百合子に無数の黒い刃が飛来する。会場の民間人に紛れていた無数の『造花』たちによるものである。
詳しい説明は省くが、百合子たち美少女の血を用いた魔術的強化人間とでも言おうか。
それを防ぐべく飛び出すヴァレーリヤ。栄達たちも同時に飛びかかる――が。
瞬間、会場を黒い霧が覆った。
●そして幕はあがる
黒い霧がはれたあと、会場には気を失った民間人たちだけが残されていた。
アレイスターや『造花』たちは姿を消し、ステージの奥には大きく黒い文字で『see you next』と筆記体で書かれていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
鳳圏市内に入り込んだ『黒百合の夜明け団』のアジトをおさえ、民間人を救出しました。
民間人は集団催眠によって操られていたことがわかり、現在治療中です。しばらくの入院によって催眠状態は解けるとのことでした。
GMコメント
鉄帝編ストーリー鳳圏サイドがいよいよ始まりました。
前からちょっとずつ始まってはいたのですが、いわゆる本格始動です。
あまりにも怪しい組織『黒百合の夜明け団』に侵食されつつあつ鳳自治区。
アジトへの襲撃をしかけ、失踪を阻止しましょう。
●フィールド:『集会場』
煉瓦造りの綺麗な建物です。
やや新しく、しかしなんでか人目につかないようになっています。
戦いは主に屋内で行われると思われます。
狭い通路や扉や壁をはさんでの戦闘を、ちょっと意識しておくとよいでしょう。
●エネミー:不明!
この場所に現れるエネミーは『不明』です。
解読班がダース単位でダウンするくらい頑張りましたがアジトの場所とあとチョットを割り出すことしか出来ませんでした。
そして当然、ここまで慎重に動いている集団が鳳圏勢の強さや団結力を知らないわけがないので、相応の戦力が待ち構えていると思っておいたほうがよいでしょう。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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