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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>戦士の咆哮<騎士語り>

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 冷たい風が頬を切る。冬の気配はすぐ其処まで迫ってきていた。
 視線を上げれば、白く霞む空が見える。
 冬に向かうにつれ次第に色を失う空に憂鬱な気持ちになってくると『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)は小さく溜息を吐いた。

 不凍港ベデクトの調査を終えたイレギュラーズ達は、詳細な地図を手に入れる事ができた。
 ベデクトは元々指揮していた将校が殺害され、た新皇帝派が牛耳っているらしい。
 軍内部も決して一枚岩ではなく、其れ其れの思惑で動いている。
 力なき住民達は街の南側へと避難しており、新皇帝派との緊張状態は続いていた。

 冬の気配が迫る中、事態は大きく動き出す。
 元々徹底各地の補給網を担っていた『鉄道網』を新皇帝派から奪還せんとする動き。
 そしてもう一つは『凍らぬ港』である不凍港ベデクトの奪還作戦である――

 不凍港ベデクトに向けて進軍が開始される。
 ローゼンイスタフ城ではベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)の前に一人の軍人が敬礼していた。
「私は鉄帝国陸軍北東支部リヒトホーフェン隊所属、フェリクス・クレンゲル一等兵であります」
「何故ここに軍人さんが?」
 燦火=炯=フェネクス(p3p010488)は愛らしい瞳で首を傾げる。
「私は不凍港ベデクトから来ました。是非、奪還作戦に加えて頂きたい」
 フェリクスは元々ローゼンイスタフにほど近い軍事施設に配属されていた。
 それが新皇帝が勅命を下す直前に不凍港ベデクトへと異動させられていたのだ。
「リヒトフォーフェン隊が不凍港に配属されてすぐに将校が殺され、新皇帝派の将校となりました。
 我々は軍人です。上の命令には従わなければなりません。ですが、もうこれ以上は我慢できない」
 悔しそうに拳を握るフェリクスの顔には疲労が見える。それをエルス・ティーネ(p3p007325)が心配そうに見つめた。

 今まさに暴発せんとしたその時、先日の『不凍港の調査』が行われたのだ。
「貴方達の姿は地獄の中に降り注いだ希望の光でした。ベデクトは見捨てられてなんかいないと」
 冬が迫る中で力なき者から死んでいく。そんな苦しみから解き放たれるという期待。
「私達は貴方達の奪還作戦に乗じて、この街を取り返そうと思っています。つまりは、貴方達の味方です」
 ここにフェリクスが居るということは紛れもなく『軍規違反』である。
 それでも彼はイレギュラーズ達に希望を託さんとローゼンイスタフまでやってきた。
 危険な橋を渡り不凍港から脱出したのだろう。
 不凍港に居た軍人であれば、内部まで入るルートも把握している。
 頼もしい援軍だとギルバートは彼に握手を求めた。
 進軍の準備は着々と進む。

 居並ぶ兵達を『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフが見渡した。
 帝国東部が誇る兵士達の姿である。
「聞け、我等が勇士達よ。誇り高き北の大地の精鋭達よ。
 新皇帝派を名乗る浅ましき暴徒共は、帝国の地を蹂躙し、不凍港ベデクトを機能不全に陥らせている。
 あまつさえデモニアが操る魔物を従え、原罪の狂気にその身を委ねている。
 更には、あの賊共は何だ。ノーザンキングスを僭称し、勝利を盗もうと画策しているではないか。
 我等は断じて、それを許してはならない。
 諸君等の怒りと、かの者共の怒りと、その違いは何だ。
 勇気であり、矜恃であり、信念である!
 作戦を開始する。勇士達よ、ベデクトを奪還せよ!」
 朗々とした宣誓と共に、ローゼンイスタフの兵士達が突撃を開始する。
 ある者は銃を手に、ある者は剣を、槍を手に。
 鬨の声をあげ、馬蹄が轟いた――


 遠くから銃声が連続で聞こえ、一瞬だけ止まり、また始まる。
 痛みにうめく声と、的確に部下へと指示を与える上官の姿。
 ポラリス・ユニオン(北辰連合)とアーカーシュ独立島の不凍港ベデクト奪還作戦が開始されたのだ。

「こっちです」
 戦闘が行われている場所を避けてフェリクスの案内で当局庁舎の中に入り込む。
 フェリクスの他にもイレギュラーズを援護するように軍人が味方についた。
 救護班である軍人ケニーは街に妻と子供を残してきているという。
「もしかして、エラとニコラ?」
 ベルフラウが小さな声で問えば、ケニーは目を見開いて彼女を見つめた。
「そうです。知っているのですか?」
「この前の調査であったからな。卿のことを随分と心配していたよ」

 当局の中を警戒しながら進めば、広場への道が見えてくる。
「この先の広場に沿って右の建物へ……なっ!?」
 銃声が聞こえフェリクスが突然肩を押さえ蹲った。
「おいおい、腰抜けフェリクスが戻って来やがったぜ。こんな所までお客さんをご案内とはなあ」
 銃を構えた新皇帝派の軍人がニヤけた笑いでフェリクスを見遣る。
「此処がどこだか分かってるのか? 俺達のホーム。腰抜けどものお前らがコソコソと嗅ぎ回ってるのは筒抜けなんだよ」
 軍人はフェリクスとイレギュラーズに向けて一斉に銃を構えた。
「撃ち殺せ――!」
 大量の銃声と爆発音、立ち上がる煙の中でギルバートが剣を構える。

 ――――
 ――

「んだぁ? もうドンパチ始まってんのかよ!」
『獰猛なる獣』ベルノ・シグバルソンの声が敷地内に響き渡った。
 ノーザンキングス統王シグバルドの息子、サヴィルウスの戦士ベルノが広場へ現れる。
 ノルダインのヴァイキング宛ら、筋肉質で力強い風体と獣のような鋭い瞳。
 厳しい海を生き抜く『獣王』のような威圧感でベルノは不敵に笑った。

「ははっ、あン時の小僧も居るじゃねぇか、おいお前だよ」
 ゲラゲラと下品な笑いを浮かべる『獣鬼』ヴィダル・ダレイソンはシラス(p3p004421)を指差す。
 その後には『灰狼斧』オレガリオが恋屍・愛無(p3p007296)の異質な姿を警戒していた。
「野郎共、行くぜ! 存分に戦い、奪い、蹂躙しろ――!」
 ベルノの大きな声にサヴィルウスの戦士達が雄叫びを上げる。
 斧やウルフバードを持ったノルダインの軍勢が当局庁舎の広場に雪崩れ込んだ。

 一番近くに居たチック・シュテル(p3p000932)にベルノはウルフバードを振り下ろす。
 鈍色の剣尖が白い肌を割く寸前、動きが止まった。刃が拮抗する摩擦音が聞こえる。
 ベルノの剣を受け止めた『強き志しを胸に』トビアス・ベルノソンが父であるベルノを睨み付けた。

「トビアス、どういうつもりだ? そいつは敵だぞ!」
 威圧的なベルノの声。トビアスが憧れた強き者の怒号だ。以前のトビアスであれば父に逆らうことなど有り得なかった。尊敬していたし絶対的に信頼を置いていたからだ。
「親父……! こいつは殺させねえ。チック達は俺の命の恩人だからだ!」
「あァ!? 裏切ンのか!? 一人で偵察も出来ねぇようなガキのくせによお!?
 いいから其処をどきやがれトビアス。説教は後だ」
 トビアスの剣を簡単にいなしたベルノは息子の胴を横から蹴りつける。衝撃で転がったトビアスが悔しげに視線を上げた。その視線を横切るのは深緑のマント。剣を抜き去ったギルバートがベルノへと駆ける。

 大切にしていた従姉妹『アルエット・ベルターナ』を殺したのが別人(エーヴェルト・シグバルソン)であろうとも。リブラディオンの人達を虐殺したのは間違いなくベルノ達であるのだ。
 過酷なヴィーザルの大地で生き抜くには犠牲無くしては生きられない。略奪を肯定するわけではないが、それが在るのだという前提で日々をいきなければ直ぐに喉笛をかみ切られてしまう。
 リブラディオンとて襲撃の備えはしていた。
 されど、ベルノたちはそれを上回る戦力で村を蹂躙したのだ。
 ギルバートの内側で激しい怒りが吹き上がる。
 その怒りを抑える事もせず、ギルバートはベルノへと剣を走らせた。
「戦場で会ったのだ。文句は言うまい……その命、この手で貰い受ける!」
「はははっ、受けて立とうじゃねえか! お前らを殺してここを奪ってやる!」
 ベルノの獰猛な笑みがギルバートの瞳に映った。

GMコメント

 もみじです。不凍港奪還作戦とノーザンキングスの戦士達との戦いです。

●目的
・当局庁舎の奪還
・新皇帝派軍人の撃退
・ノーザンキングスの撃退

●ロケーション
 不凍港ベデクト、当局庁舎の広場です。
 施設内部の訓練を行うための場所なので広いです。
 新皇帝派軍人、ノーザンキングス、イレギュラーズの三つ巴の戦闘となります。

●敵
○『当局軍人』ベンジャミン・クルソー
 ベンジャミン隊の隊長で指揮官です。
 口が悪く粗雑な性格ですが、指揮官としての能力は優れています。
 自身の戦いの腕も優秀です。

○新皇帝派軍人×40
 ベンジャミン隊の軍人たちです。
 腕っ節が強く、統率も取れています。
 ここは彼らのテリトリーです。侮ってはいけません。

○『獰猛なる獣』ベルノ・シグバルソン
 ギルバートの仇敵。
 数年前のリブラディオンで、村を壊滅に追いやった首謀者です。
 ノーザンキングス連合王国統王シグバルドの子。トビアスの父。
 獰猛で豪快な性格はノルダインの戦士そのものです。
 強い者が勝ち、弱い者が負ける。
 殺伐とした価値観を持っているが、それ故に仲間からの信頼は厚いです。

※共闘には応じません。軍人だろうとイレギュラーズだろうと全員敵という認識です。

○『獣鬼』ヴィダル・ダレイソン
 左目の大きな傷と屈強な肉体を誇るノルダインの戦士です。
 戦いとあればその斧を振い、荒れ狂う獣のように戦場を駆け抜けます。
 その戦い振りからハイエスタの間では『獣鬼』と恐れられています。
 戦士の名に違わぬ臨機応変な戦いをします。

○『灰狼斧』オレガリオ
 ノルダインの村『サヴィルウス』に棲まう戦士です。
 元々はシルヴァンスの出身で、ベルノに腕前を買われ村の戦士となりました。
 性格は真面目でベルノの言う事ならば何でも聞きます。
 オレガリオにとってベルノの犬と誹られようと、どうでも良かったのです。
 自分が主と決めた者の為ならば、どんな非道でも熟しました。

○サヴィルウスの戦士×10
 血気盛んなサヴィルウスの戦士達です。
 皆、筋肉質で獰猛な性格をしています。

※上記以外のサヴィルウスの住人は村に残っていますのでEXプレイングでも出て来ません。

●味方
○『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)
 ヴィーザル地方ハイエスタの村ヘルムスデリーの騎士。
 正義感が強く誰にでも優しい好青年。
 翠迅を賜る程の剣の腕前。
 ドルイドの血も引いており、精霊の声を聞く事が出来る。
 守護神ファーガスの加護を受ける。
 以前イレギュラーズに助けて貰ったことがあり、とても友好的です。
 ベルノ達には怒りを露わにしています。

○『強き志しを胸に』トビアス・ベルノソン
 ヴィーザル地方ノルダインの村サヴィルウスの戦士。
 父親(ベルノ)譲りの勝ち気な性格で、腕っ節が強く獰猛な性格。
 ドルイドの母親から魔術を受け継いでおり精霊の声を聞く事が出来る。
 受け継いだドルイドの力を軟弱といって疎ましく思っている反抗期の少年です。
 ですが、死んだと知らされていた妹のカナリーと再会し考えを改めました。
 父を裏切るつもりは無い。けれど、守りたいものがあるのだと。

○ 『餓狼伯』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフ
 鉄帝貴族ローゼンイスタフ家現当主。
 旗手として名を高めてきたローゼンイスタフ家だが、陰では所詮旗持ちと蔑まれていた中初めて武名においても名を挙げた傑物。
 ヴィーザル地方付近に領土を構え、帝都に住む者からは『辺境の餓狼伯』とも呼ばれる。
 他人に厳しく、身内には更に厳しく、己に最も厳しい。
 だがそれは誠実さの裏返しでもあり、国に対しての忠誠心の高さでもある。
 故に一度心より信を得る事が出来ればそれは何があろうとも揺るがないだろう。

○ローゼンイスタフ兵×30
 ヴォルフの指揮でイレギュラーズを援護します。
 剣や槍で武装しています。

○フェリクス・クレンゲル
 鉄帝国陸軍北東支部リヒトホーフェン隊所属の軍人。
 かつてリブラディオンの襲撃を受け妹と共に焼け出されました。
 ショックのあまり幼児退行した妹を養うため軍人になりました。
 真面目な性格なので『軍規違反』は崖から飛び降りるような覚悟だったでしょう。
 リヒトホーフェン隊の仲間と共に新皇帝派と戦います。
 個人的には両親や友達を殺したベルノ達を憎んでいます。

○リヒトホーフェン隊×13
 鉄帝国陸軍北東支部の軍人です。不凍港に転属になり現状を打破したいと思っています。
 隊長はリヒトホーフェン・リリエル。
 銃やナイフを使い統率の取れた動きでイレギュラーズを援護します。

○救護班部隊×5
 ケニー達の救護班部隊です。
 戦場の隅で味方に回復を施します。
 彼らの護りはリヒトホーフェン隊の一部が引き受けます。

※アルエット、クルトは今回はお留守番です。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●サポート参加について
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 また、条件を満たしている場合でも、採用数や描写量は限定的となります。
 必ず描写されるとは限りませんのでご注意ください。

●騎士語りの特設ページ
https://rev1.reversion.jp/page/kisigatari

  • <大乱のヴィルベルヴィント>戦士の咆哮<騎士語り>Lv:40以上完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月10日 22時55分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポート11人)参加者一覧(10人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
チック・シュテル(p3p000932)
燈囀の鳥
シラス(p3p004421)
竜剣
恋屍・愛無(p3p007296)
暴食の黒
エルス・ティーネ(p3p007325)
デザート・プリンセス
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
戦旗の乙女
シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)
魂の護り手
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
深き森の狩人
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ


 怒号と剣檄が不凍港ベデクトの冷たい空に響き渡る。
 新皇帝派軍人からの当局庁舎の奪還作戦は決行され、イレギュラーズは広場での戦闘へと持ち込んだ。
 其処へ現れたノーザンキングス連合王国統王が息子ベルノ・シグバルソン達の乱入により、戦場は混乱を極めていた。仇敵ベルノの出現により怒りを露わにしたのは『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)だった。
 剣を数度交えた彼らの間に入ったのは『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)の巨体。
「ギルバート君。君も解ってると思うが」
 愛無の背は冷静さを取り戻せとギルバートを諭す。
「死んだのなら。それは死んだ奴が弱いからだ。守れなかったのなら。それは守れなかった奴が弱いからだ。その場に居合わせなかった事も含めてね」
「……くっ」
 絶望と悔しさに強く拳を握ったギルバートへ「やれやれ」と愛無は尻尾を振った。
 それはギルバートを後衛へと押しやるもの。蹈鞴を踏んだギルバートが顔を上げれば、心配そうに見つめる『シロツメクサの花冠』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)が視界に映り込んだ。
「君の弱さで誰か殺すならそれも良いが。君が死んで泣く人間がいるなら、怒りを研ぎ澄ます事を覚えるべきだと思うね。炎は赤く激しく燃えるだけではないよ」
 愛無の背とジュリエットの顔を交互に見つめ項垂れるギルバート。
「乱戦で厳しい戦いとなりますが、出来れば誰も傷ついて欲しくはありません。
 それは貴方も同じなのです、ギルバートさん」
 祈るようにギルバートの手を包み込んだジュリエットは銀白の瞳を上げる。
「貴方のお気持ちを慮れば、お止めするのは難しいですが。せめてどうか深追いなどの無茶はしないで下さいませ………」
「そうだよ、ギルバートくん、落ち着いて!」
 ギルバート達の前に立ったのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)だ。
 ベルノがギルバートの従姉妹である本当のアルエットを殺した相手ではないとしても、村を襲った連中が目の前にいるのだ。冷静になるのも難しいだろう。その心を思えばこそ焔は唇をかみしめる。
 ならば、自分に出来る事をするのだと槍を掲げる焔。
「こっちは任せて! 敵を出来るだけ抑えてるから!」
 目の前の戦いに集中できるようにと焔は迫り来る敵を薙ぎ払う。

「従うしかなかった状況だった事は分かっている。それが軍人だ」
 此処まで案内してくれたリヒトホーフェン隊の軍人フェリクス・クレンゲルを支えた『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は彼に薄く笑みを見せた。
「それでもこのタイミングで決意してくれた。無駄にしない為にも勝たねばな」
「申し訳ない。ラダ殿」
「取り戻そう」
 ラダの言葉に頷いたフェリクスは傷口をそのままに前線へ歩み出す。
「待て。フェリクスはまず傷を応急処置してこい。戦うつもりならそれからだ!」
 渋々救護班へとやってきたフェリクスを迎えたのは『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)だ。
 彼の隣には救護班のケニ-も居る。
「不凍港でギルバート達が変態獣とも戦ってるのに……全く助けに行かないわけにはいかないだろ?
 それにおいらにとって、ケニー殿はただの他人じゃない」
「フーガさん……」
 目を潤ませたケニーはフェリクスの傷を癒すフーガを見つめる。
「ケニー殿の奥さんとお子さんは、うちの後輩とも会ってるんだ。……こうして繋がった不思議な縁を護るのも、おいらの役割だ」
 ありがとうございますと感謝を述べるケニーとフェリクスにフーガは照れたように笑った。
 立ち上がったフェリクスの視界に『砂国からの使者』エルス・ティーネ(p3p007325)が映り込む。
「……崖から飛び降りるような覚悟だったのでしょう?」
 軍規違反からの不凍港脱出、更にはローゼンイスタフへの情報漏洩。危険な橋をこれでもかと渡ってイレギュラーズへと助けを求めたフェリクスにエルスは拳を向けた。
「なら引き下がれないわよね、頑張りましょ。私はあなたの力になるわ、フェリクスさん」
「ありがとうございます! 共に戦いましょう、エルス殿!」
 重ねた拳の向こう側を覗き込んだエルスはフェリクスに問いかける。
「……ねぇ、これからどうするつもりなの? 軍には……戻れないかもしれない、のでしょう?
 ギルバートさん達と共に戦うのならば、きっと大丈夫かもしれないけれど」
「ええ……どうなるかはこの戦い次第ですね。でも、きっと貴方達なら大丈夫だと信じています」
 強い眼差しでエルスを見つめるフェリクスは朗らかに笑った。
「ね、フェリクスさん? 困ったことがあったら言ってちょうだいよね?」
「勿論であります! 頼りにしてますよエルス殿!」

「これが三つ巴の戦い……」
 様々な思いが交錯する戦場に『秩序の警守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)は鞭を携え眉を寄せた。
「正直、刑務所にブチ込むべき人が多々いるのが気になるけれど、鉄帝の為に、味方の援護を行うわ!」
 新皇帝派軍人が集まる場所へとセチアは戦場を駆ける。
 鞭を敵に目がけ強かに打ち付けた。威力はそれなりだと油断した相手にセチアは口の端を上げる。
「一発だけだと思った? そっちこそ油断しないでよね!」
 しなる鞭の攻撃に軍人は悔しげに舌打ちをした。
「精霊たちが騒いでる……そうよね、アンタたちだって火薬のにおいや怒鳴り声なんかより、花の香りや綺麗な音楽の方が好きよね」
『安心する匂い』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は戦場に漂う精霊達の気持ちに寄り添う。
「……きっとあるはずなのよ、この戦いを終わらせられる方法が。それを見つけるためにも、不凍港は渡せない。どうか力を貸して頂戴ね、アタシの大切なお隣さんたち」
 ジルーシャの心に応えるように精霊は彼の髪をそっと撫でた。
 眼前に広がる戦いは乱戦そのもの。ジルーシャは傷付いたローゼンイスタフ兵へと声を掛ける。
「大丈夫よ、アタシたちがついてるわ!」
 戦いが長引けば心も体もすり減っていく。だからジルーシャは鼓舞し続けるのだ。
「ギルバート殿! 話は聞いている! かなり厳しい戦いとなるが、ワシらも出来る限りの事はする!」
 声を張り上げる『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)の大きな背にギルバートは顔を向ける。アルエット……本当の名をカナリー・ベルノスドティールという少女の事も気に掛かるのだとオウェードは心の内に考えを巡らせた。
「まず、第一目標は局庁舎の奪還だ。それを間違えてはならない」
 戦場に響く『北辰連合派』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)の凜とした声に頷いたオウェードは片手斧を両の手に持って先陣を開く。
「その上で新皇帝派もノーザンキングスも打倒して見せる」
 ベルフラウの赤いマントが風に翻り、地面を蹴る足音に戦旗がはためく音が重なる。
 ――この場所でその程度が出来ないようであれば、我々の望む星には手が届くべくもないのだから。

 ベルノに蹴りつけられ戦場の隅へと転がったトビアス・ベルノソンを助け起こしたのは『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)の細い腕。
「中々にイイ啖呵じゃない、トビアス! お蔭様で、こっちも気合が入るってものよ……!」
 華奢な体躯からは想像も付かない程に力強くトビアスの手を引いた燦火は戦場へと顔を上げる。
「三つ巴戦、大いに結構。乗り越え甲斐があるってものじゃない?」
「ははっ、アンタ頼もしいよ」
 拳をぶつけ合った燦火とトビアスは武器を手に戦線へ足を向けた。
『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は自分の目の前に立つトビアスを見つめる。
(おれは彼の……友達でありたいと、願う)
 血塗れで倒れていたトビアスを助け、会話する中で少年がただ粗暴なだけの男ではない事をチックは知ったのだ。だから、チックは彼の友でありたいと願っている。其れだけではない。ギルバートや他の仲間の力にもなりたいのだ。……だから、全てを奪わんとするなら、沢山守って取り返す。それだけなのだ。
 チックは白い翼を広げ新皇帝派の軍人の頭上をゆらゆらと飛び回る。
 視界の端で揺れるチックの身体はそれだけで軍人達の注意を引くものだ。
(……自分達の領域と謳うのなら、この広場の中にも身を潜める場所がある筈)
 戦場を見渡すチックの瞳に味方の兵と『金狼』ヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフが映る。彼には新皇帝派の数が減った際に対処をお願いしてあるのだ。
「僅かな隙間も……銃弾も」
 この手で覆って封じてしまおうとチックは砂嵐を戦場に巻き起こす。
「新皇帝派軍人にもノーザンキングスにもこれ以上やらせるか……!」
 好き勝手させないと『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は星空の魔術紋を解き放つ。そこから溢れ出た黒泥は周囲の悪を全て飲み干した。
「貴様等なんか、きらいだ……ここからいなくなれ!」
 怒りを露わにした『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は円盤状の魔道具を手にヨゾラが飲み込んだ敵に向けて追撃を走らせる。戦場に張り巡らされた繰糸は新皇帝派の軍人を赤く染めた。
 味方は誰も死なせないと祝音は殺気だった獣のように敵を睨み付ける。
「うん……星空は、君達の味方だよ……誰も倒れさせないからね!」
 祝音の心に同調するようにヨゾラも声を張り上げた。

「乱戦、正直、苦手」
 敵味方が入り乱れる戦場が焦れったいと『新たな可能性』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)は眉を寄せる。やはり優位な状況を取れる奇襲が好ましくあるが、そうも言ってられない。
 この不凍港ベデクトを押さえ冬に備えなければならないのだ。これはその為の戦いであり容赦はしない。
「これ、戦争。排除、開始」
 シャノはリヒトホーフェン隊を連れて新皇帝派の軍人目がけ矢の嵐を降り注いだ。
 早矢雨注の中軍人たちは散り散りに散開し、再び態勢を立て直す。
 統率の取れた動きは彼らが曲がりなりにも訓練された軍人であることを示した。
「新皇帝派、これまでも、相手、してきた。油断、しない」
 シャノの瞳には広場を高い位置から把握する視野が備わっている。
「ここ、そっちの縄張り。でも、それでも、自達、勝つ」
 死角からの攻撃を翼を広げ避けたシャノは翻り、弓を引いた。弓弦と共に弧を描いた矢は新皇帝派の軍人の胸元へと突き刺さる。
 内部に広場がある当局庁舎は相当な敷地を有するのだと『深き森の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は注意深く辺りを観察する。
「……本当に兵はあれだけなのか? 少なくはないけど、不凍港の守りにしては手薄に感じるな」
 当局庁舎の建物は一つだけではない。他のイレギュラーズが潜入する戦場もあるだろう。其処へ人員を分散させているとなればこの戦場の戦闘員は妥当な所であるのかもしれない。

「出てくると思っていたぜ、ノーザンキングス!」
 黒い外套をはためかせ、乱入者に顔を向けた『竜剣』シラス(p3p004421)は地面を蹴り走り出す。
 無鉄砲に飛び出したように見えるシラスの足取りに『獣鬼』ヴィダル・ダレイソンは口角を上げた。
 挟み撃ちされまいと新皇帝派へ向けて前線を押し進め、乱戦に持ち込む算段なのだろう。見た目は軟弱そうに見えてかなり頭の切れるヤツだとヴィダルはシラスを精察する。軟弱とは言ったもののその実、鍛え抜かれたしなやかな筋肉と柔軟さを鑑みれば、ヴィダルとて油断出来ない相手なのだ。
 だからこそ、狩り甲斐がある。己が囲っていたクルトをイレギュラーズに取られた今、ヴィダルの興味はシラスへと向いていた。
 思考の波に揺られ出来た一瞬の隙を穿つのはシラスの魔力を伴った跳び蹴りだ。
「っ、あぁ!?」
 雷鳴の如く魔力の残滓が迸る一撃を斧で受けたヴィダルは身体中が軋む感覚に雄叫びを上げる。
「よう、オッサン。会いたかったぜ!」
「なんつー威力だ、オイ。クソが!」
 怒りを露わにしたヴィダルの口元が楽しげに歪んだ。


 戦場は乱戦へと縺れ込み、銃声と剣檄が飛び交う。
 ラダはヴォルフの傍で戦場を見渡した。ヴォルフ――餓狼伯はこの戦場のみならずローゼンイスタフや北辰連合にとって重要な存在である。将である彼を守る事は戦線の維持に必要不可欠。
 飛んでくる弾丸を察知したラダは妖刀でそれを払い落とす。弾かれた弾丸は地面に跳ね返り転がった。
「流石はローレットのイレギュラーズか。戦い慣れているな」
 剣を鞘走りさせ己に投擲されたボウガンの矢を軽々と叩き落としたヴォルフはラダに顔を向ける。
「それは此方の台詞だ。餓狼伯」
 ラダの視線はすぐに戦場へと翻り、背中から取り上げた大口径狙撃銃のスコープを覗き込んだ。
 立て続けに響く銃声を敵が聞く頃には、弾丸は雨のように降り注ぎ、血の水溜まりを作る。
 されど、新皇帝派の軍人とて屈強な鉄帝人である。多少の傷など物ともせず突き進んでくるのだ。
 ローゼンイスタフ兵達がこれ以上先に進めまいと盾と槍で応戦する。傷を与えれば此方も貫かれた。
 拮抗する兵士達の戦力を的確に把握し、ラダは負傷兵を後に下がらせる。
「焦らず立て直せ。できる者が来ているはずだ! 目の前にばかりかまけてると風穴が開くぞ!」
 ラダの指揮の下、傷を負った兵士を癒すのは『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)だ。
 救護班のフーガやケニーと共に全力で仲間の傷を癒し、「頑張ってください!」と声を掛ける。

 ベルフラウは敵味方の配置を的確に把握していた。
 新皇帝派の軍人とノーザンキングスの手勢を合わせれば数が多いように見える。
 されど、此方とてリヒトホーフェン隊やローゼンイスタフの兵が居るのだ。
「……総員狼狽えるな! 地の利は取られようとも数の利は此方にある!
 心を研ぎ澄ませ仲間の意思をくみ取り、緻密な連携を計るのだ!」
 戦旗を掲げたベルフラウの声に兵士達の士気も上がった。
「トビアス、お前の父の言う事はある意味正しい」
 眼前に立ったベルフラウの背をトビアスは見上げる。この厳しい鉄帝では力なき者は何も成し遂げられなとベルフラウ自身が痛感していた。なればこそ告げる言葉に重みがある。
「だからこそ、此処でお前自身が力を見せつけてやれ」
 ベルノに認めさせるんだとベルフラウは少年に道を示した。
「誰の手でもない。お前の手で」
「……ああ。絶対に認めさせてやる」
 トビアスの背を押すのはベルフラウだけではない。『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)も少年をフォローする為に駆けつけていた。『カナリー』の力になると決めたジェラルドは彼女の家族であるトビアスを守りたいと願うのだ。
 敵の刃を大太刀で受け止めたジェラルドは「前に進め!」と叫ぶ。
「俺はもう『アイツ』を悲しませたくねぇ……ダチだかんな!」
 トビアスが死ねば少女はきっと悲しい涙を流すだろう。それだけは嫌だった。
「俺が一人消えたところで大差ねぇだろうが。アイツの大切なもんは守っていかねぇとな……ま、そもそも死ぬ気はねぇんだけど、よ!」
「ああ、すまねえな」
 ジェラルドに礼を告げてトビアスはベルノの元へ走り出す。

「ハァイ、わんこさん。ちょっとだけ、私とデートしてくれないかしら!」
 燦火はベルノの右腕『灰狼斧』オレガリオへとウィンクをしてみせた。
 体内に流れる魔力を練り上げ両の手に迸る朱き焔を纏わせる。
「フン、獣が炎を怖がるのは消し方を知らぬからだ」
「あら~、そうだったの。賢いお犬様なのね! でもこれを貴方じゃなくベルノやヴィダルに向ければどうかしらね? それとも、私が怖いのかしら? 『ベルノのわんこちゃん』!」
「犬でもどうとでも呼ぶが良い。だが、ベルノに危害を加えるつもりなら容赦はせん!」
 戦斧ハルバードを振り回すオレガリオの攻撃を鳥のように翻って避けた燦火。
「ほう、この一撃を躱すとは……」
「ふふ……どうかしら? 私も中々強いでしょう? この両手の炎は伊達じゃ無いわよ?」
 オレガリオの注意を引きつけるように燦火はわざとベルノへと矛先を向ける。
「チッ、回りくどい」
 振りかぶるハルバードが空を切り、しかめっ面をしたオレガリオが返す刃で燦火の胴を穿った。されど寸前の所で燦火は身体を捻り急所を逸らす。
「ほーら、わんこちゃんこっちこっち!」
 オレガリオの注意を見事に引きつけた燦火は新皇帝派の軍人とノーザンキングスの境界線を更に崩さんと愛無が待ち構える領域まで誘導する。
「流石は燦火君」と愛無は感心しながら挑発がてらオレガリオに視線を向けた。
「……でかい犬っころが尻尾を振って着いて来てる。君が追いかけるべきは主人であるベルノ君ではないのかね? こんな所で油を売っていたら『怒られる』んじゃないのかい?」
 愛無の巨体にオレガリオは牙を向けて威嚇する。
 どうにもこの異形の怪物が危険に思えて成らないからだ。
「はっ、他の連中もそうだ。どいつもこいつも弱くて食べ応えの無い奴らばかりじゃないか」
 愛無の挑発に新皇帝派の軍人やサヴィルウスの戦士達が鋭い眼光を向ける。
 集まって来た敵の刃を弾き、切り裂いて愛無は大きな口を開けた。
「よぉ、豚の盾は入用かい?」
 愛無の負担を一部肩代わりするのは『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。
「流石に恋屍一人であの取り巻きの集中砲火喰らうとやべぇからな」
 敵の銃弾を盾で弾いたゴリョウは迫り来る剣を受け止める。
 タンクとしての自信と矜持。ここで身体を張らねば盾の名折れ。
「ぶはははッ! 存分に暴れやがれ!」
 自分の代わりに攻撃を受け止めたゴリョウに「感謝する」と告げた愛無は敵へと牙を突き立てた。

「お前さんがベルノ様じゃな……なるほど」
 愛無達がオレガリオやヴィダルを押さえている間にオウェードはベルノの前へ立ちはだかる。
 ここに来る途中で戦っていたオレガリオも何処か自分に似ているとオウェードは思い馳せた。
「――ワシの斧を見よ!!」
「は? な、何だオッサン?」
 両手に掲げた斧とオウェードの顔を交互に睨み付けるベルノ。
 突拍子も無い行動にベルノとて一瞬の隙を見せる。
 結果的にその隙を突いてオウェードはベルノに一撃を入れる事に成功した。
「うお!? 痛え! 何だオラ! オッサン!」
 ウルフバードでオウェードの斧を弾いたベルノは間合いを取って、再び剣を振り下ろす。
「ぐぬ……これしき!」
 ベルノの攻撃を自慢の鎧で受け止め、斧で押し返したオウェードは切り裂くように刃を交差させた。
「やるじゃねーか! 燃えてきたぜオッサン!」
「ワシはオッサンではない。オウェード=ランドマスターじゃ!」
 斧と剣が重なり火花が散る。重い摩擦音を響かせ、オウェードとベルノは檄を交えた。
「しゃらくせえ!」
「ベルノ様……何であれワシやギルバート殿達を一生忘れないようにしてやろうッ!
 そしてこの斧とともにッ――!!」
 一際大きく振り上げられたオウェードの斧が唸りを上げる。
 陽光に照らされた斧の刃が強く光を反射した。

 ――――
 ――

 かつてベルノはサヴィルウスの戦士を率いてリブラディオンを襲った。
 それは紛れもない真実で変えようの無い過去だ。新皇帝の勅命が下される前から極寒の大地ヴィーザルは弱肉強食であったのだ。
 エルスはリブラディオンの生き残りであるフェリクスに思い馳せる。
「あの穏やかそうなフェリクスさんが軍規違反までするぐらいだもの妹さんの事も含めれば相当な目に遭ったのでしょうね……彼の怒りが見えるわ」
 ギルバートと同じようにフェリクスも怒りを抱いているのだろう。
 目の前で両親を殺された彼の方が殺意が高いかもしれない。
 だから心配になるのだ。もし彼が『向こう側』へ行ってしまったなら。
 フェリクスの強すぎる怒りは呼び声を誘ってしまう程かも知れない。
 妹の為にも其処へは行かせない。彼女を独りぼっちにしてはいけない。
 何としても止めてみせるとエルスは武器を握る手に力を込めた。
 我ながらなんて説得力の無い言葉であるのかとエルスは自嘲する。
 義妹の事を大事にしたことも無ければ、愛されたことも無いのに。なんておかしな話だろうとエルスはサファイヤの瞳を揺らす。
「それでも互いを大事にし合ってる兄妹がそこに居たなら、きっと大事にして欲しいと……
 私のエゴかもしれないけれど……ね」
 だから行かせないと眉を寄せその思考を頭の隅に追いやるエルス。
「私は強い思いを抱く者の味方よ……例えそれが感情に身を任せた一時的なものだったとしても……それが彼の今振り絞れる思いの力なのでしょうから。私はそれを手助けするわ!」
 エルスの黒い大きな鎌が戦場を走る。それは闇夜を思わせる黒の曲線。
 敵の命を刈り取る血塗れの刃だ。
「一人ずつ、確実に……」

「精霊の力が軟弱かどうか――天地万象その威、身を以て知りなさい、ノルダイン」
 戦場に美しき声が響き渡る。『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は入り乱れた敵の只中に精霊の光を弾けさせた。
 突然の攻撃に敵が狼狽えている隙に、リースリットはギルバートの元へ駆け寄る。
「ご無事ですか、ギルバートさん」
「ああ。来てくれて助かったよリースリット」
 身を翻し敵との距離を取ったギルバートはリースリットの視線を追う。その先には戦場で暴れるベルノの姿が見えた。
「……あの男がリブラディオンを襲ったベルノ・シグバルソン」
「そうだ。どうにもあいつらの前では冷静ではいられない。戦ってると沸々と沸いて来る怒りに身体が支配されてしまうんだ」
 苦しげに頭を押さえたギルバートの肩にリースリットは手を置く。リブラディオンの人達と楽しい思い出があるからこそ、それを蹂躙したベルノ達が許せないのだと本能が叫ぶのだろう。
 後方で救護班と共に仲間を支援するジュリエットも心配そうにギルバートを見つめた。
「まずいな……」
 ギルバートの様子を悩ましげに見遣るのはベルフラウだ。
 トビアスよりも怒りに染まりすぎていると戦旗を握る手に力が入る。
 平常の彼が、自らの判断で敵を薙ぐというのであれば止めはしなかっただろう。
 だがもし、怒りに身を任せ自らの復讐を果たす様な真似をしようとするならば……
 怒りに囚われたままベルノへと向かうギルバートの前に戦旗を立て、剣先を握るベルフラウ。
 刃が掌に食い込み赤い血が滴る。
 戦いの喧噪の中、ベルフラウの声だけが確りと聞こえた。
「……怒りを忘れろとは言わない。ただ、私を信じろ」
「ベルフラウ」
「仇敵だからこそ、復讐に染められるのではなく目を拓くんだギルバート」
 深い溜息と共に翠の瞳を伏せたギルバートは「分かったから、手を離してくれ」と懇願する。
「これ以上、君を傷つけたくない」
 冷静さを取り戻したギルバートは懐からハンカチを取り出した。
「すまない。応急処置にしかならないが」
 ベルフラウの手を止血の為に強く握り込む。ハンカチに滲んだ血にギルバートは眉を寄せた。
「これぐらい構わない。それで、信じてくれる気になったのだろうか?」
「ああ、この傷に誓って」
 ギルバートの言葉にベルフラウはハンカチを巻いた手で彼の鎧を小突く。
「ならば、行こう。目標は当局庁舎の奪還だ。それを忘れるな」
 戦旗を取り歩き出したベルフラウの背は気高く、眩い美しさに輝いて見えた。


 ミズハは戦況を見極めるべく長く潜んでいた。
 彼の目的は新皇帝派の指揮官であるベンジャミンへの奇襲。
 軍と戦うのであれば指揮官を黙らせるのが一番手っ取り早いのだ。
 相手とて軍人である。襲撃を警戒しているに違いない。だからこそミヅハはこうして身を潜め機会を伺っているのだ。
「ま、注意を引けてるだけでも意味はあると信じるよ」
 広場の周囲を取り囲む建物の影に潜み、屋内へと移動する。ミヅハの瞳には広域俯瞰によってかなり広い視野があるのだ。現時点で情報の少ない新皇帝派の軍人の指揮官ベンジャミンに何かあるとミヅハは踏んだ。
 高い場所から観察しベンジャミンの捜索を優先したのはその為だ。
 この作戦の目的は当局庁舎の奪還である。
 けれど、それが破壊された場合はどうなるのだろう。
 爆薬が仕掛けられているのではないか。
「良いところで全部吹き飛ばしておじゃん! なんてのはノーサンキューだぜ。考えすぎならそれはそれでよし警戒するのが狩人の仕事だからな!」
 屋上に上ってくるまでミヅハは用心深く建物の中を調べた。
 建物の中は人の気配が無く、外の喧噪が窓の外から聞こえてくる。
 ミヅハは焦る気持ちを抑え自分の任務を熟した。注意深く念入りに調査を行う。
 されど、建物の中に爆発物のようなものは見当たらない。
 此処は彼らにとっても重要な拠点なのだろう。無闇に破壊する判断はしなかったということだ。
 敵であるイレギュラーズ達を排除しようとも居城が無くなるのはベンジャミン達とて良しとしないのだ。
 屋上に登ったミヅハはベンジャミンの背後へ飛び降り、弓弦を引き絞る。
「何!?」
「気付くのが遅いよ」
 立て続けにベンジャミンを貫いたミヅハの矢は彼の急所を抉った。
「ぐあ!? おのれええ!」
 ベンジャミンは深手を負いながら銃をミヅハの腹にねじ込む。
 乱戦とはいえミヅハは深く敵陣へと入り込んだ。
 ハイリスクタイリターン。
 指揮官であるベンジャミンの傷は直ぐに治療しなければ致命傷となりうる。それはミヅハも同じ。

「はっ! どっちも死にかけてるじゃねーか! コイツは良い」
 歯を見せて笑うベルノはベンジャミンとミヅハへ剣を振り上げる。
 新皇帝派もイレギュラーズも何方も潰せるチャンスだと的確に狙って来たのだ。
「っ!」
 振り下ろされた剣はベンジャミンの首を跳ね飛ばした。
「ああ? 切り損ねちまったか? っと」
「そこまでにして貰おうか!」
 ミヅハに迫る剣を戦旗で受け止めたベルフラウに口角を上げるベルノ。
「良いぜ、今度はお前だ!」
 ベルノはミヅハからベルフラウへ好戦的な視線を向けた。

「しっかりしろ、ミヅハ!」
 背にミヅハを乗せたラダは険しい表情を浮かべる。
 ミヅハはラダが率いるリヒトホーフェン隊に助け出されるまで集中攻撃を受け続けた。
 ベルノが漁夫の利を狙って仕掛けて来なければ其のまま新皇帝派に嬲り殺されていたかもしれない。
「リヒトホーフェン隊は後からの攻撃に備えろ! 救護班の元へ走るぞ……背中は預ける。死ぬなよ」
「了解です!」
 ミヅハの攻撃により新皇帝派の統率が乱れ、ラダ達は辛うじて自陣に帰還した。
 虚ろな瞳で血を吐くミヅハをチックの癒やしの歌が包み込む。
「大丈夫だよ、ミヅハ……おれが全部、治すから……」
「ごめ……」
「いいや。よくやったミヅハ。これは好機だ」
 指揮官ベンジャミンの死亡で乱れた敵陣の統率をじっと見つめるラダ。
「リヒトホーフェン隊、並びにローゼンイスタフの兵士達行くぞ」
 混乱している新皇帝派へ一気に攻勢を掛ける時が来たと、ラダはローゼンイスタフ兵とリヒトホーフェン隊に告げる。
「うん……おれ、行ってくる。後は、お願い……ね」
 ヴォルフへと言葉を残してチックは翼を広げた。

 ――――
 ――

 ラダとリヒトホーフェン隊、ローゼンイスタフ兵が新皇帝派に斬り込み、徐々に敵の数が減少してきた。
 戦況をじっと観察していたシャノは彼らに任せれば大丈夫だと小さく頷く。
 この戦場の敵は新皇帝派だけではない。サヴィルウスの戦士たちもまた脅威なのである。
「港、渡さない。ここ、抑えて、自達、冬、越える」
 シャノが撃ち出した矢は戦場を走りサヴィルウスの戦士の肩に突き刺さった。
 うめき声を上げる戦士にシャノは息を荒くする。
「この地、厳しい、弱肉強食。だから、戦う。奪われない為に!」
 ヴィーザルの地の厳しさはシャノ自身がよく知っていた。
 弱ければ自然の驚異や他部族に命を奪われてしまう。この地に生きているからこそシャノは略奪や蹂躙を否定はしない。されど、同じ地で生きる者として戦い、抵抗する姿勢は崩さないのだ。
「負けない!」
 言葉をあまり介さないシャノが何時になく好戦的な感情を発露する。
 森の中で過ごしているだけならば決して有り得なかった情動。
 彼らの部族『シタシディ』の風習は言葉を紡がないものだけれど、それでも己と他を隔絶し理解し合う糸口の為には必要な事であったから。
 エルスは愛無達が集めた敵をその大鎌で屠る。
「ごめんなさいね。でも、フェリクスさんたちのためだから」
 血を啜った刃が陽光に瞬いた。

「っらぁ! 親父、このやろう!」
「ンだクソ息子が!」
 上段から繰り出された拳がトビアスの頬を打つ。イレギュラーズに攻撃を浴びせようとする何割かをトビアスが横から邪魔するのだ。いい加減、ベルノの苛立ちが殺意に変わる。
「邪魔すんじゃねえよ!」
「俺は、俺の守りたいもんを守るだけだ!」
 その親子のやり取りを見つめるのはチックだ。
「もし別の出会い方があったのなら。きっと……トビアスを相手に、戦う未来……あったかもしれない」
 されどトビアスの言葉を少しずつ聞いて支えて行きたいとチックは願う。
 例えベルノが父であったとしても、トビアスが自分で決めた想いを否定してほしくはないのだ。
「ふん!」
 トビアスに走る剣を斧で止めたのはオウェードだ。
「この青薔薇の棘は蹂躙などさせん……それがワシのやり方じゃ……」
「うん。硝煙や血の臭い、酷くなったとしてもまだ歌う……おれは、大丈夫だよ」
 オウェードの傷を癒す声が戦場に響いた。

「オッサン達はさあ、不凍港なんて取って何をしたいんだよ」
 シラスは魔力の糸でヴィダルの斧の動きを封じる。
「外洋や他所の国に用事なんてないだろう、それとも暴れ足りないだけか?」
 巻き付いたシラスの糸がヴィダルの皮膚を裂いて、血が吹き上がった。
「あぁ? ンなもん単純だろうが、ここを取れば海伝いに他の国にも行って奪ってこれる。内地へ向けての鉄道まであるんだぜ? 取り放題じゃねーか!」
「疑いようも無く屑だな、オッサン」
 シラスの言葉を鼻で笑ったヴィダルは「お前も同じ目をしてるだろーが」と糸を斧で引っ張り、間近に顔を寄せたヴィダル。
「弱肉強食って言葉を骨の髄まで身に染みて分かってるって顔だ。なあクソガキ」
「よく喋る口を閉じろよオッサン」
 臭えんだよとシラスは魔力を込めた一撃を至近距離から放った。
 焦げた肉の匂いと地面に飛び散る赤い血。
「はは! そうでなくっちゃなあ!」
 重傷を負ったヴィダルの顔は先程よりも高揚している。

「いい加減に腹も減って来た。お行儀よくしてるのも飽きてきた」
 くるると鳴る腹を押さえた愛無は食事の時間だと大きな口を開ける。
「うわー、おっかねぇな。化け物かよ」
 断末魔さえ余すこと無く食べ尽くし、愛無はふと壊滅したリブラディオンについて考えを巡らせた。
「あれは『誰』の思惑だったんだろう。そういえばベルノ君の『弟君』は此処にはいないね。君達にとっても重要な戦いだろうに」
 愛無の言葉に目を見開いたのはトビアスの方だ。最悪の事態がトビアスの脳裏に駆け巡る。
「エーヴェルトの叔父貴は何処に居るんだ?」
 もし、『カナリー』の元へ向かっているのだとしたら。トビアスの顔から血の気が引いた。
「あいつは、村の守りを任せてあるけど、あいつがどうかしたのかよ?」
「それって『事故』とか怖いからかな? 強い剣だって折れる事もあるしね」
 愛無の言葉に考え込むようにベルノは「何の話しか分からんな」と首を捻る。
「あいつが斬りかかってきたら打ち負かすだけだぜ!」

 サヴィルウスの戦士達の傷が深くなってきたのを見遣りベルノは頭を掻いた。
 これ以上の損失は『割に合わない』と判断したベルノ。
「おい、ヴィダル、オレガリオ他の奴らも引くぞ」
「ンだよ。良いとこだったのによお」
 シラスと打ち合っていたヴィダルから不満の声が漏れる。
「さっさと尻尾巻いて逃げろよ」
「んだと、クソガキが!」
 止めろとベルノの声が響き、舌打ちをしたヴィダルがシラスから視線を逸らした。
 オレガリオは燦火に向けたハルバードを降ろす。
 完全にお互いが戦意を喪失した訳では無い。戦いの終わりはいつ暴発してもおかしくない緊張感がただようものだ。実際にギルバートの進路はベルフラウによって防がれ、フェリクスを見守るようにエルスが目の前に立っている。シャノとオウェードもまだ武器を降ろしていない。

「あ、トビアス待って!」
 チックの声に一同が殺気を放つ。トビアスがベルノに向けて拳を繰り出したからだ。
「……何だトビアスまだやんのか? 勝負はもうついてんだよ」
 拳を受け止めたベルノの手に紫色の小さな石が落された。
「親父、これを母さんに」
 怪訝な表情を浮かべるベルノはその石を握り締める。トビアスがローゼンイスタフに居る理由とイレギュラーズ達に加勢するのは何か裏があるのかもしれない。そう判断したベルノは「分かった」と短く応える。
 トビアスは強力な魔力を持つエルヴィーラ・リンドブロムとベルノの子である。己がトビアスと同じ年齢の頃にはこんなにも聡い物の考えをしていなかった。蛮勇が力であり、傷が勲章だった。けれど、息子のトビアスは違う。ドルイドの力と武力を兼ね備えた次の世代の王になる男だ。

「まあ……今度『食事』でも如何だい? きっと楽しいよ」
 首を傾げた愛無の口から血が垂れているのにベルノは眉を寄せる。
「流石にお前みたいな食べ方はしねーぞ。でも、まあ『普通の食事』なら悪くねぇかもな。
 何せお前らは強い! 血肉湧き上がる闘争が出来る相手は中々居ねえ!
 良いじゃねえかローレットよお! 食事でも戦いでも何でも掛かってこいや!」
 剣を収めマントを翻すベルノに燦火は手を振る。
「決着は次の機会ね。楽しみにしておくわ」
「おう、首洗って待っとけ!」
 怪我を負った仲間を抱え上げたベルノは振り返らず当局庁舎から去って行った。

 救護班に指示を下すラダの視界に『金狼』の横顔が映り込む。
 ヴォルフは港の方角を物憂げに見つめていた。

成否

成功

MVP

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
戦旗の乙女

状態異常

ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)[重傷]
深き森の狩人

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 激戦でしたが、無事に当局庁舎を奪還出来ました。
 MVPはギルバートの心を静め戦線を維持した方へ。
 ご参加ありがとうございました。

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