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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>道を作るもの、酷寒を護るもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……『ザーバ派』。此度、私が貴様らに寄越す依頼は彼らに利する類だ」
 集合した特異運命座標たちを前に、先ず言い放った情報屋の少女。
 これを先に言うのは勿論理由がある。先の『鉄帝動乱』の折に彼の国は六派閥に分かたれ、同様に『ローレット』の特異運命座標たちもそれぞれの派閥に所属する者たちが出てきた。
 そうした者たちのために予めどの派閥からの要請かを明言しておく情報屋は、その後に自分の前から席を立つ者が居ないことを確認し、改めて依頼の解説を始める。
「現在、鉄帝が『冬』を目前に行動していることは知っているな?」
「元々が北部な分、相当厳しいんだっけ?」
「左様だ。その為に鉄帝の民は大半が『冬』に備えて準備をするのだが、先の動乱のせいで彼らはそれができない状況にあった。
 ゆえ、現在鉄帝の民はその殆どが厳冬に飢え、或いは凍え死ぬ寸前だ」
 ……こうして淡々と語られるだけでも、状況が逼迫していることは冒険者たちにだって理解できる。
 その胸中を見透かしてかは知らないが、情報屋は引き続き解説を行っている。
「鉄帝の六派閥は、この危機に対して終ぞ行動を開始した。一つは鉄道網の復活、もう一つは『凍らぬ港』と呼ばれる不凍港ベデクトの奪還だ。
 この二つは現在も新皇帝派によって占拠されているうえ、鉄帝国内には未だ恩赦を受け釈放された囚人たちもうろついている。容易には成しえまい」
「だからこそ、俺たちにお鉢が回ってきた、と」
 返答の代わりに一度だけ首肯を返した情報屋は、鉄帝の地図を展開しながら言葉を発する。
「此度、貴様らが向かうべきはザーバ派拠点のほど近くにある鉄道駅『ゲヴィド・ウェスタン』だ。彼方は彼らの派閥にとって重要な補給の拠点となりえる。
 何より、あそこに在る『列車砲』は戦力として大いに期待できるだろうしな」
「物騒な話だ」
「内紛中の国に其れを言うか?」
 にこりともしない情報屋は、「次に貴様らへの任務だが」と言葉を続ける。
「こちらの内容は至ってシンプルだ。火事場泥棒から盗品を奪い返すこと」
「具体的には?」
「枕木」
 はい? と首を傾げた特異運命座標他に対して、さもありなんと鷹揚な情報屋は説明を補足する。
「鉄道駅が戦場となり、尚且つ防衛側からしてそれを奪取された後に利用されることは最悪の事態だ。
 だからこそ、戦場はほぼ間違いなく線路の少なからぬ損壊が予想される。その補修に使う為の枕木を囚人たちが越冬のための薪として盗もうとしているのだ」
「……割と致命的だな」
「当たり前だ。生木が枕木に使えない以上、あれを盗まれたらその辺の木を伐採して代わりに、等と言えないんだぞ」
 最悪、「列車砲は確保したけど線路が破壊されてるから動かせません」と言う事態になりかねない。
「敵の数は80名。力量としては雑魚と言って変わりないだろうが、厄介なのは奴らはその全員が枕木や線路の敷設に使う金具などを持っている点だ」
「……おい。それ、迂闊に高威力の攻撃当てて倒したりしたら」
「抱えている盗品も甚大なダメージを受ける可能性が高い、だろうな」
 情報屋も特異運命座標も揃ってため息をつく。
「つまり、今回の依頼は」
「『一定以上のダメージを与えずに』囚人たち80人から可能な限りの線路敷設材料を奪い返すことだ。
 地獄を見てこい、特異運命座標。……何方かというと『厄介』な部類の、だが」
 再度嘆息を吐きながら、冒険者たちは作戦の相談を始めるのであった。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。
●成功条件
・一定数以上の『枕木』の確保。

●場所
 ゲヴィド・ウェスタン市街地。戦場となっている地点は、現在多くの建物に反して住人がいないゴーストタウンのような環境となっています。時間帯は昼。
 軍事施設から『枕木』等鉄道敷設のための材料を盗み出した『囚人』たちは現在、この地点を抜けて町の外へ逃げ出そうとしております。
 シナリオ開始時点では80名の敵はすべて一塊になって移動していますが、皆さんの襲撃を受けた場合は散開して逃げ出すことが予想されます。範囲攻撃等を撃つタイミングはおよそこの時点しか存在しないでしょう。
 先にも言った通り建物が多い分隙間となる路地も多いため、逃走経路は相当な数があると考えてください。

●敵
『囚人』
『枕木』を奪い、現在は街の外への逃走に動いている嘗ての囚人たちです。数は80名。大半が男性。
 武辺の国である鉄帝の囚人ということもあり、全員が戦闘に適した能力を有しています。中には少数ながら隠密や魔術、非戦スキル等に秀でたものも。
 この数と直接戦闘を行った場合、本来ならば参加者の皆さんの分が悪いですが、彼らの弱点として「元囚人であるため装備が心もとない」点が挙げられます。
(幾らかの武力行使はともかく)必ずしも戦闘を行う必要は無いという成功条件と共に、攻略法をお考え下さい。
 また、彼ら全員が所持している『枕木』は所持者である彼ら『囚人』が一定値以上のダメージを受けた際、即座に損壊する(=回収可能な素材としてのロスト扱い)ことが挙げられています。
 若し戦闘を行う場合は十分にお気を付けください。

●その他
『枕木』
『囚人』達が鉄帝の厳冬を越えるために薪として利用しようとしている、本来は鉄道敷設のための枕木です。
 これそのものの為に厳重な鉄道都市を襲うわけもなく、元々は今回のザーバ派と新皇帝派の戦闘の折に火事場泥棒を働こうと市街地へ潜入し、その「ついで」に持ち出されたものとなります。
 逆を言えば、この荷物は『囚人』たちにとって(越冬のために)優先度は低くはないが命に代えるほどのレベルではないため、アプローチ次第では全てとはいかずとも一定数を差し出される可能性もあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 それでは、ご参加をお待ちしております。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>道を作るもの、酷寒を護るもの完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


 ――況や、その行いを「無道である」と断じることは、特異運命座標達には難しかったであろう。
 舞台は鉄帝が鉄道駅ことゲヴィド・ウェスタンの市街地。内紛中であるがゆえに本来人気のないその場所を、しかし一塊に動き回るのは総勢80名もの元囚人たちの姿。
「……こうやって追い詰められた人々が、どんどんと悪事に手を染めていく」
 それを、静かに見遣る者たちが居る。
『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が呟き、周囲の仲間たちもそれに言葉なく頷いた。生あるもの。それに執着し、ゆえに他者から奪うことを良しとする者たちに対して、眇めた瞳の少女は淡々と言葉を続けた。
「どこも、どこも……人は追い詰められると自分の事しか考えられなくなる」
「全くだな。連中も生き残るために必死なのは認めるが、だからといって奴らの行動を認めるわけにはいかん」
 呆れ交じりの口調でそれに応じたのは『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)である。軽く頭を掻いた彼が視線を向けた先に居た『彼女』は、その意図に対して淡々と目を瞑りながら応答した。
「……奇襲に適した位置まであと少しです。少なくともこちらに気づいた様子は未だありません」
 周辺の鳥に交えて自身のファミリアーを飛ばし、逃走中の元囚人たちの状況を伺う『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の言葉に、一つ頷いたのは『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)である。
 運搬用の騎乗動物『シュヴァくん』に馬車を牽かせ、その御者台に座る彼はその巧みな騎乗技術によって未だ前方の元囚人たちに気づかれてはいない。
 足場が整えられた街中とは言え、それでも大人数が乗った馬車を牽けばどうあっても音や姿で気づかれようものだが、その点を考慮して相当の距離を空けた上での追跡を行っている特異運命座標達は彼らに気づかれることなく、着々と襲撃地点に近づきつつあった。
(……罪を犯した人達を受け入れる馬鹿がいたっていいよな、梨尾、理弦)
 件の元囚人たちに対して、マリエッタやエーレン同様、ウェールも思うところがないわけではない。
 其処に如何様な理由があったとて、罪科は罪科だ。現皇帝の恩赦によって許されたとはいえ、それを世論の感情と言う点で見れば今なお許されるべきものではないことをウェールもまた理解している。
 ――けれど、ならば、今こうして生きたまま冬を過ごすことが出来ぬであろう彼らを見捨てることが是であるかと言われれば、ウェールは、彼を始めとした仲間たちは「違う」と言う。
 それを、恥じることなく。此度の依頼対象である元囚人たちを「捕える」だけではなく「助ける」ためにも、彼は静かに馬車を進ませ。
「――――――今」
 呟いたのは、誰であったろうか。
 街中に於いて最も路地が少ないとされる地点。囚人たちが底を通り過ぎようとした時点で、ウェールは馬車を一息に駆った。
「……は!?」
「なんっ……!!」
 元囚人たちが、反応するまでもない。
「やれやれ、七面倒な依頼ではあるが――」
 ぱくん、と言う音と共にホルダーから指揮杖を取り出し、呟いたるは『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)。
「まぁ止むを得ん。この軍事行動中の折、『最も重要な資材』を盗み出した不幸を呪え。
 一先ず此方は此方として、出来る限りの事をさせてもらおうか……!!」
 紡ぐ黙示録が仲間たちを破壊へと導き、織りなした魔砲が戦場に轟く。
 戦いならざる「鬼ごっこ」が開始された合図は、些か派手に過ぎたと言えるであろうか。


「急いで何とかしないと、とは思ってたけど……」
 戦闘開始直後、特異運命座標達が発した号砲は、散開が間に合う筈も無かった元囚人たちに立て続けに命中した。
 その様相……と言うより、『結果』を見て幾らか表情を強張らせたのは『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)その人である。
「……ひょっとして、やり過ぎた?」
「ううん、鉄帝流の『交渉』に見合う方法で以てあたった自負は在るのですが――」
 同様に呟く『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)。
 アリアと彼女の眼前に広がる光景は即ち――特異運命座標らの初撃で全体の三分の一ほどを戦闘不能に追い込まれた元囚人たちと、それを目の当たりにして恐慌の表情を浮かべ、一心不乱に逃げ出した残る者たちの姿であった。
「止まれ、俺達は貴方達の持ち物に用が……!」
 声をかけようと手を伸ばす『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に対して、ひっ、と畏怖を露わにした元囚人の一人が泡を食ったように逃げ出す様を見て、漸く彼らも「やり過ぎた」ことを理解する。
 ……情報屋が提供した資料によれば、此度相対する元囚人たちは鉄帝の民に漏れず全員が戦闘に適した能力を持ち、また彼らと直接戦闘を行った際は寧ろ特異運命座標の側に分が悪いと確かに在った。
 が、彼らは入念な事前準備と、連鎖行動を絡めた万全の奇襲を以て、戦闘に持ち込むよりも早く最初に効果的な戦果を挙げた――「挙げ過ぎてしまった」。
 無論、襲撃した彼らとてその威力には気を使っている。平時のそれより幾らか劣った装備やスキルを介し、戦闘不能や気絶者……ひいては彼らから回収すべき線路補修用の枕木に致命的な被害が及ばないよう配慮はしていた。
 が、それとて碌な装備も無く、ほぼ生身の人間たちに混沌では一線級の戦闘能力を持つ者たちの攻撃が凡そ五発、連続して撃ち込まれれば無事でいる者の方が珍しい。
 過剰な『戦果』は、即ちその犠牲となった者たちに恐怖と焦燥を抱かせる――より直截的に言えば、「交渉に応じる能すら失わせる」。
「こ……ここは南部戦線及びイレギュラーズで取り囲んでいます! 速やかにその場に枕木を置いて投降してください!」
 初撃後の降伏勧告をイズマに続いて行おうとするアリアではあるが、最早其れが用を為していないことを彼女自身が自覚していた。
 要は匙加減の問題である。幾らか戦闘の心得がある元囚人たちに降伏勧告から始めれば侮られることは必至であるが、反面過剰な制圧の後に声をかけたとて死を目前とした彼らにそれが届く可能性は無きに等しい。
 今回の特異運命座標達は正しく後者の側だ。統率も作戦も無く散り散りになった囚人たちをエーレンが舌打ち交じりに追えば、残る仲間たちも確認した限りで最も大多数が逃げている経路を順に散開して追跡する。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前たちに用はない。用があるのはお前たちの盗んだ資材だけだ!」
 恐らく、最早「降伏勧告」と言うベターな手段が不可能となった以上、彼らに出来ることは逃げ往く元囚人たちを実力行使で以て無力化させていくことのみ。
「全く、手間がかかるものだな……!!」
 指揮杖を振るうライハ。簡略化した二拍子図形から展開されるソウルストライクが元囚人の足に叩き込まれ、一人を無力化させるも、それだけでは当然焼け石に水と言える。
 仲間たちも同様である。そもそも範囲攻撃がおよそ初撃にしか決まらないと推測されていた以上、以降元囚人たちを無力化する攻撃は単体攻撃のみにシフトしており、それを補うための降伏勧告が意味を為していないとなれば焦燥は必然。
「……枕木は?」
「壊れては無い……けど、逃げていく人たちが置いていくことも無い!」
 アッシュの言葉に対して、臍を噛むように返すウェール。
 幸いにも保護結界を展開したアリアを筆頭に、特異運命座標達から囚人を攻撃した折の枕木の損壊は微々たるものであった。
 だからこそ、依頼を達成するために必要な枕木の量は然程多くなく――残り逃げ往く者たちからどれほど多くの資材を奪還しうるかに全てがかかっている。
「彼らだって、これしかでしか生きられないと思っているからこそ」
 一心不乱に逃げる者たちへと、マリエッタが術式を織り、叫んだ。
「その道を、止めて上げないと……!」 


 特異運命座標らの作戦はシンプルなものであった。
 元囚人たちがひと固まりになっているうちに初動でほぼ全員が範囲攻撃を使用。これに際しアリアの保護結界等で枕木に対する被害が出過ぎないよう調整していく。
 以降、扇状に展開した仲間たちは敢えて完全な包囲陣形を取らず、敵の逃走経路を絞る形で促し、初撃後に散り散りとなった彼らの内、最も数が多いグループごとに散開して降伏勧告、応じないようであれば単体攻撃で無力化していくと言う流れであった。
 実際、この作戦は彼我の力量を噛みしても上手く機能している。問題は先述したように、奏功しすぎたがゆえに元囚人たちが降伏勧告に応じる可能性が限りなく低いと言う点だけであって。
 ――とどのつまり、特異運命座標達は「彼ら元囚人たちのこの後の生存を考慮しなければ、依頼を比較的容易に達成しうる」のだ。
「こちらには皆さんを殺さず捕まえず見逃す用意がある! 取引の為の資材なども用意してある!」
 それを、認められるものかと、イズマが叫んだ。
 事前準備の段階で馬車に積んでおいた薪や非常食等を見せつけるように展開する彼に対しても、逃げ惑う元囚人たちからの反応は芳しくない。
 彼らからすれば「突然仲間たちの多くを薙ぎ倒した者たちが、その後逃げ、隠れた者たちに優しく降伏を呼びかけている」のだ。信用する方が難しい。
 エルシアが歎息を漏らす。敵方の反応如何によっては色仕掛けで誘惑することも考えていたが、それも恐らく効果は無かろうと判断した以上、できるのは自前のスキルによる敵の無力化だけだ。
「せめて、燃やすことだけは果たしましょう……!!」
 ……敵が散開し、同様にそれを追う特異運命座標達も散開した以上、アリアが展開していた保護結界の範囲外に出た者も少なくはなかったのだが、エルシアを含め、それを気に留めておける者は多くなかった。
 時と共に、一人が倒れ、枕木を始めとした線路敷設のための資材が転がる。それの繰り返し。
「命には興味がない。さっさと失せる事だ」
 地に落ちた資材が無事な状態であるかは個々に因るものの、特異運命座標達は着実にそれらを回収し、依頼目標の達成を良しとしていた。
 ――――――ただ。
「は、あ……っ!!」
「………………」
 恐らくは初老の女性と思しき元囚人が、逃げ回る過程で落とした枕木を拾おうとしたとき、それを追うアッシュと目が合った。
「何も持ち去らぬと云うのであれば、我々は貴方がたを見過ごします
 ……ですが、そうでないと云うのなら」
「ひ、っ!」
 言葉を受け、そのまま資材を放置して逃げていく初老の女性。
 アッシュは無事に手に入れることが出来たそれらを拾いつつ――恐らくはこの後、逃げ果せた先で冬を越せずに死んでいくのであろう女性の後姿を目で追いながら呟いた。
「……私たちの行いは、許されるものなのでしょうか?」
「さてな」
 答えを期待して問うたわけではないそれに、しかし後から追い付いたエーレンは律義に応えた。
「俺達の行いによって救われる命があれば、奪われる命もある。
 確かなことは、依頼を請けた俺達には、これを成功させる義務があると言うことだけだ」
 ――善も悪も無く、ただ、為すべきを為すために。
 そう言葉を返したエーレンの後に、戦いの終わりを告げるウェールの大音声がスピーカーボムで鳴り響いた。
「捕えるべきは捕らえ、手に入れるべきは手に入れ終えた! 皆、どうか集合を!」


 少なくとも、その後の元囚人たちの待遇は悪いものではなかった。
「怯えなくていい、これは交換だ。俺の馬車に積んだ薪と非常食と金の全てと、貴方達が持ってる枕木と部品の全ての」
「お前たちが望むなら、俺は自分の領地へお前達を連れ帰り安定した生活を約束する。
 拒むのならこの地での良い働き先を共に探そう。改心しなくてもいい! 生きたければ俺を利用しろ!」
 イズマとウェールの誠心誠意の説得によって、最初は怯え切っていた元囚人たちも次第に態度を軟化させ、最終的にはほぼ大多数が彼らとの取引に応じる結果となった。
 無論、元々が犯罪者である以上、仕立てに出たイズマらに付け上がってより過剰な要求をする者が居なかったわけではないが。
「口は禍の元だ。死にたくなくば黙っておくことだな」
「この条件は、私達からの『温情』であることをお忘れなく」
 殺気を漂わせたライハと、妖艶な姿で炎をちらつかせたエルシアによって、直ぐに元の怯えた姿に戻ったわけだが。
「さて、この枕木を馬車に乗せて施設担当班の人に返してあげよう!」
 軈て、話が落ち着いた頃。アリアの号令によって元囚人たちを乗せた馬車が動き始める。
 向かう先はゲヴィド・ウェスタンを侵攻するザーバ派の簡易拠点だ。派閥内の監督官などに依頼の達成報告の後、彼らの雇用を検討してもらう旨を提案したアリアとアッシュが直接掛け合うためでもある。
「………………」
 市街地を後にする中、一度だけマリエッタが背後を振り返った。
 見えるのは市街地の外縁と、その向こうに続く雪が降り積もった森の姿だけ。
 資材を奪還するために襲撃した自身らに怯え、取る物も取らず逃げ出した彼らは、恐らくこの後越冬のための準備も出来ぬまま過酷な冬に相対することとなる。
 それを――憂うわけではないが、少しだけ見つめ続けていた彼女へと、気づいたエーレンが問うた。
「どうかしたか?」
「……いえ」
 救える者を救い、そうでないものを諦める。それは此処が冬季の鉄帝と言う環境でなくとも、彼らが特異運命座標でなくとも言える話。
 何故と言って、彼らは遍く救いを求める者に手を差し伸べることが出来る神にはなり得ないのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加、有難うございました。

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