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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>オースヴィーヴルという男

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●返せ
 ――「どうしてだ! 帝国は『また』我々を裏切り、陥れ、奪うつもりなのか!」

 それは今からすこしだけ前。旧ヴィーザル、オースヴィーヴル領の政治的中心。つまりはオースヴィーヴルの邸宅でのことだった。
 『雷槌の』ソルステイン。そして『不滅の』ヴァイヌという二人からの報告を受け、領主であるオースヴィーヴルは怒りに震えた。
 帝国の教団であるクラースナヤ・ズヴェズダー、そのなかでも皇帝に反旗を翻す革命派のかかげた『弱者救済』の主張は、これ以上血を流さぬようにと降伏の道を選んだオースヴィーヴルを共感させるに充分なものだった。
 そう、領に暮らす者たち。つまりは弱者を守るべく、彼はかつて自ら屈辱と喪失を受け入れたのだから。
 かつて帝国はヴィーザル侵攻を計画し、その規模を広げていったことがあった。
 今でこそ生きていくのに難しく資源も乏しい地域ばかりとなって、帝国は辺境伯をおき牽制するだけの対策に留めているが、彼らにも『可食部をはむ』という時期があったのだ。
 その対象となったオースヴィーヴル領はソルステインとヴァイヌという、カリスマも実力も豊かであった彼らと共に帝国の兵に抵抗を続けていた。
 しかし冬が近づくにつれ、その抵抗は弱まっていく。
 まるで冷たい暴風に火が消えていくように、互いの力は小さく小さくなっていったのだ。こういうとき、結局はより資源の多い方が勝つ。一人で何人もの帝国兵をなぎ払っていたソルステインも、僧院を拠点に帝国のチャリオッツを寄せ付けなかったヴァイヌも、餓えと乾きには勝てなかったのだ。
 次々に仲間が拘束されていき、彼らの処遇が生か死かという二極化された所にまで政治的に収束した頃、ついにオースヴィーヴルは領主として帝国に降伏を表明。
 全ての武器を下ろし、戦略図を差し出し、持ちうる物資を民が生きていける最低限を残し差し出した。
「あの夜、私達は降伏を選んだ。
 何も失いたくなかった。奪われるのが怖かったからだ。
 頭を下げて服従し、堪え忍んでいれば、多少の損はあれ平和な生活が戻って来るのだと思っていた」
 壁にかかった剣は、当時のものだ。
 あれから一度も抜くことはなく、そしてそうすることが許されなかったものだ。
「故に鉄帝による鉱山の占拠を黙認し、課税を受け入れ、皆の家族を鉄帝の兵士として送り出してきた。
 いつか信頼を勝ち取った暁には、鉄帝の民と同じように扱われる日が来ると信じて」
 あの最悪の夜のあと、幾度も冬を越えた。
 厳しい環境と細る資源。体力のある若者が徴兵されていく中、病や餓えに倒れる者は多かった。
 それでも生きていれば。
 生きてさえいれば、きっと未来がひらけるのだと。
 そう信じて、耐えてきた。
 献身が、いつか自分達を真の意味で『帝国民』にし、幸福な未来を開くのだと。
「その献身への答えが、これか」
 伏せていた顔を上げる。血に塗れたリボンがそこにあった。
 手に取り、怒りと悲しみに歪む顔へと近づける。こぼれた涙すら、熱を持っているかのようだった。
「親方。『革命派』は南方の村を根こそぎ喰らっていきがやった。冬の備えは持ち出され、住民は皆殺し。『遊んで』帰ったやつらまでいやがる。こんなこと許せるか!?」
「彼らは無関係だと主張しておる。新皇帝派の工作じゃと。介入したイレギュラーズに救われた者はそれを信じているようじゃが……」
「分かっている」
 オースヴィーヴルはリボンから顔をあげた。顔にべったりとついた血は、まさに民の流した血だ。
「友よ……」
 悲しく呟くヴァイヌに対してオースヴィーヴルの目はしかし冷徹だった。
 戦う事を決めた者の目であり、進む事を決めた者の顔だ。
「いずれにせよ、革命派をこれ以上信頼することはできない。そして、帝国にもこれ以上献身を捧げることはできない。
 我々は今こそ、立ち上がらなければならない」
 剣をとり、鞘から抜く。
 銀色の刀身に、うっすらと魔力の微光が宿った。
「『ルベン』……といったな。例の古代兵器が埋まっているのは」
「フェリクスの話に寄れば……。鉄道施設に利用されおるのはごく一部じゃ。より深部へと迫れば、その制御を奪うことができるじゃろう」
「充分だ。兵を集めるのだソルステイン。力を手に入れ、今こそ『奪い返す』のだ!」

 そうだ。奪い返せ。
 尊厳を返せ。
 家族を返せ。
 平和を返せ。
 あの夜から今に至るまで、奪ってきた全てを返せ!

 この日、オースヴィーヴル領は挙兵した。
 革命派が確保に向かう鉄道駅『ルベン』地下の古代兵器を手に入れるべく、乱入を決めたのだ。

●深部争奪
 戦いは激化の一途を辿っている。
 鉄帝鉄道主要駅のひとつである『ルベン』が新皇帝派に占領されてから暫くたち、その間に大量に配置されたとおぼしき天衝種(アンチ・ヘイヴン)の群れ。
 それらを革命派の僧兵たちと協力しながら撃破し、突き進む日車・迅(p3p007500)、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)たちイレギュラーズによる主力チーム。
「この先だ。偵察隊の話に寄れば――」
 長く、そして入り組んだ地下通路。それは地下迷宮と呼んでも差し支えないほどだったが、偵察隊によって地図を手に入れていた彼女たちならば最深部の古代兵器へとてをかけることができた。
 あと必要となるのは武力だけ。
「どっせえーーい!!!」
 メイスによってモンスターを殴りつけ、その横を迅が駆け抜け拳で粉砕する。
 最後の一体を倒し、ついにその扉を開いた。
「ここが――」

 それは、広大な空間だった。
 等間隔に石の柱が並び、それは天井までのびている。
 ずっと奥には巨大な球状の物体があり、それがここルベンのエネルギー供給源として活用されていた古代兵器なのだという。
 であると同時に、ギアバジリカを拡張させることのできる『部品』であるとも。
「早いところ運び出しましょう。ここは危険です」
 迅が歩きだそう――としたその時。
「オラァ!」
 ハンマーが振り込まれ、迅の頭を狙う。
 咄嗟に飛び退くことで回避したが、堅い石の地面は放射状にヒビ入り砕けていた。
「あなたは――『雷槌の』ソルステイン! なぜここに!」
「気付いているはずじゃ。この駅には儂等オースヴィーヴル領の兵達が攻め込んでいることに」
 杖を手にし、ソルステインの肉体を強化する魔法を唱える『不滅の』ヴァイヌ。
 そして、剣を抜いたオースヴィーヴルが彼らの中心に立ってこちらに剣を向けた。
「この古代兵器は我々がもらう。奪われた全てのものを、返して貰う必要がある」
「待って下さいまし。それをギアバジリカに組み込めば今よりもっと――」
「黙れ!」
 ヴァレーリヤが呼びかけようとすると、オースヴィーヴルは怒りを露わに叫んだ。
「もう帝国は信じない。お前達も、所詮は帝国民だ。『弱者救済』を掲げても、他の弱者から奪い『手近な弱者』に与えるだけの偽善者であろうが!」
「まってください!」
 後ろから声と足音がして、ヴァレーリヤたちは振り返る。
 そこに立っていたのは。
「アミナ……」
 そう、司祭アミナ。革命派の実質的な代表にしてシンボル。
 彼女は自らの胸に手を当て、オースヴィーヴルを見つめた。
「私達は誓って虐殺など行っていません。貴方がたに協力を求めたのも、共に手を取り助け合うため。これから訪れる冬に向けて、皆さんを助けるためなのです。私達のもつ武力と、貴方がたの力をあわせれば、きっとこの苦難を――」
「黙れ、偽善者よ」
 オースヴィーヴルは剣を今度はアミナへと向けた。
 ヒッと喉を小さくならし、半歩後じさりする。
 だが彼女はそれ以上は下がることなく、小声でこう呟いた。
 ――『聖女さまなら』
「アミナ?」
 意図するところが気になったが、しかし座視できる状況でもない。
 ヴァレーリヤはアミナとオースヴィーヴルの間に割り込み、メイスを突きつけた。
「嫌でも話を聞いて貰いますわ。これは、新皇帝派の陰謀です」
「その証拠がどこにある」
「なくても、伝えることはできますわ」
 意志と。そして、覚悟を。
 やってみろ。オースヴィーヴルは低く唸るように呟き、ヴァレーリヤたちへと斬りかかった。

GMコメント

 ついにルベン最深部まで到達したイレギュラーズたち。
 しかしそこに待ち受けていたのは、新皇帝派の陰謀によって革命派へ憎しみを向けるオースヴィーヴルたちであった。
 彼らの狙いはルベンの古代兵器を手に入れ、帝国へ攻撃をしかけること。
 当然その犠牲は帝国の民たちへの被害という形で生まれるだろう。
 彼らを止め、そして今こそ解り合わねばならない。
 そう、刃を交え、殺し合う、いまこの瞬間にだ。

●エネミー
・オースヴィーヴル
 代々受け継がれた魔力を帯びた剣を用いて戦う、オースヴィーヴル領の領主です。
 個人戦闘能力はそれほど高いというわけではありませんが、彼の説得が今の状況において最も重要になるでしょう。

・『雷槌の』ソルステイン
 オースヴィーヴルを『親方』と呼んで慕う屈強な戦士です。
 このメンバーの中では最も高い戦闘力をもち、対抗するには相応の戦闘力と戦術を要するでしょう。
 主にハンマーを用いたパワフルな戦いを見せます。

・『不滅の』ヴァイヌ
 この戦いに参加した高名な僧侶です。かつて帝国軍相手に僧院を拠点にかなりの抵抗を見せており、戦闘能力もかなり高いでしょう。
 主に魔法による攻撃のほか、ヒーラーとしても優秀でありBSへの対策も高い人物です。
 『落とす・拘束するのが非常に難しいヒーラー』と考えればよいでしょう。

・オースヴィーヴル兵×多数
 勇ましきノルディアの戦士達です。
 オースヴィーヴルのために命を賭して戦う覚悟をきめており、戦闘力はそこそこですがその勢いを止めることは簡単ではないでしょう。
 ノルディア戦士の鎧と剣を装備し、あなたへと勇猛果敢に襲いかかります。

●味方
・アミナ
 戦闘力はありませんが、一緒に説得に参加してくれます。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <大乱のヴィルベルヴィント>オースヴィーヴルという男完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月10日 22時56分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
シラス(p3p004421)
竜剣
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
一条 夢心地(p3p008344)
殿
楊枝 茄子子(p3p008356)
純白の矜持
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
革命の医師

リプレイ

●主よ、聞こし召すならば
 本当は知っていた。こんな事をしても追いつけることなんでない。
 これは太陽を追いかけて地を走るようなものだ。走れば走るほど、求めれば求めるほど、足はもつれ息は切れていく。
 でもだからといって、動かないわけにはいかない。
 嗚呼、『聖女』様。あなたはこれも知っていたのですか。
 これも――必要な犠牲だというのですか!

●Deus non habet personality
「征け! 今こそ取り返すのだ! 我等の歴史を、家族を、尊厳を! 奪われてきた全てのものを!」
 オースヴィーヴルの叫びと共に、全ての兵士が走り出す。鎧兜に覆われた、スリット越しの目には強い強い光がある。
 名も知らぬその一人一人でさえ、背負う家族が、背負う祖先が、奪われてきた歴史が灯っていた。
 それは正しく、怒りの進撃であった。
「アミナ、下がって!」
 大柄な戦士による、両手斧による強烈な一撃。それを『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は両手で水平に翳したメイスによって受け止めた。
 軸で受ければへし折られてしまうのではと思うほどの重さ。そして衝撃から伝わる怒りの感情。
「ウオオ――!」
 別の戦士のタックルによって突き飛ばされたヴァレーリヤに、オースヴィーヴルは剣を振りかざす。
「革命派――いや『帝国民』よ、我等の怒りを知るがいい!」
 掲げた剣に魔法の光が迸り、振り下ろしたそれを――『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の剣が受け止める。
「いらっしゃーい! 待ってたぞーぅ! 大丈夫! 私ちゃんが付き合ってって――ア・ゲ・ル♪」
 ウィンクをした咲耶はもうひとつの刀を繰り出すが、オースヴィーヴルの襟首を別の戦士が引っ張ることでそれを無理矢理回避させた。
 僧服を纏った戦士が杖を翳し、炎の魔法を詠唱、連続で発射してくる。
 咲耶はストライカーユニットから分離したガードビットを複数展開。シールドを形成して延焼効果をキャンセルさせた。
「やはり立ち塞がるか。我等が得ようとする自由も、立ち上がろうとする意志も奪うつもりか帝国民!」
「私ちゃん帝国民じゃないんだけど……あそっか、見えちゃってるんだねー、世界がオセロゲームみたいに」
 咲耶は戦争を知っていた。
 世界に『敵』と『味方』のどちらかしかいないと、人々がそう錯覚するさまを知っていた。まるでモノクロカラーの映画みたいに、世界はどちらかに塗り分けられる。
 けれど戦争が終われば呆れるほど、皆色彩に溢れるのだ。多様性。個性。思想。塗り分けようとするものを差別や偏見なんて呼び始めて、人は個々人が違うものだと再認識する。
 そしてどちらが『正しい』かなんて、決まっちゃあいないのだ。
「夢ちゃんこういうのどう思う」
「む――」
 『殿』一条 夢心地(p3p008344)は珍しく、その呆けた白塗りを忘れさせるほど真剣な目つきで戦士達の剣を刀で撃ち払っていた。
「謂れなき疑いも、数多の怒り哀しみも、この身ひとつで受け止めるのが殿的存在の責務よ。
 一度言って分からぬのであれば、二度三度四度五度、解り合うまで付き合おうではないか」
 戦争はむなしい。
 復讐はくだらない。
 話し合いで解決しよう。
 非常に御尤もだが、それで住むなら誰も剣などとらぬのだ。
「秋奈よ、わかるか。話し合うことを求めるならば――『話し合わねばならない』と認めさせるほかないのじゃ。そのためには?」
「相手をコテンパンにする?」
「それでは逃げるか自決するかされてしまうじゃろうな」
「なら……ああ、拮抗させ続けるのか」
 秋奈はなるほどねと呟いて、刀をくるりと裏返した。相手を斬り殺すのではなく、せめて殴り倒す程度で済ませるために。
「意志を折るのでも、黙らせるのでもない。対等に立たねば、対話はできぬ。それを無視して……人は悲しく争い死ぬものなのじゃ」
「ええ、その通り」
 『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は魔法を受けて燃え上がる夢心地の身体を治癒の祈りで消火させると、穏やかな微笑みの裏で考えた。
(他の弱者から奪い『手近な弱者』に与える……。至言ですね。世界の縮図が分かっている)
 オースヴィーヴルたちは、ある意味で革命派の存在意義を、そして活動の真意を理解しているように見えた。
 遙か遠く、地球の裏側にいる人間を無視して、目の前の子供にパンを差し出す。その余裕によって、はるか遠くで子供が死よりも哀れな目に遭っていたとしても。
 そして事実を知って嘆くのだ。はるか遠くへ飛んでいってパンを分け与えましょうと唱え、そのために誰かの時間を犠牲にして馬を走らせる。
 世界は犠牲でできている。誰かに新たに与えようとするなら、そのための犠牲を作らなければならない。
「誰もが『幸福な王子』にはなれないのですよ。それこそ、銅像にでもならなければね」
 茄子子は鋭く弓を射る戦士のそれを、矢避けの魔法で防御しながら呼びかける。よけきれなかった矢が肩を裂くが、気にしない。
「生きる為に頭を下げる。服従し、耐え忍ぶ。逃げて逃げて逃げて、それでも守る。素晴らしいですね。
 私は全を生かすために足掻く人が大好きです。
 だからこそ、奪うだなんてやるせない。今一度、剣を下ろしてください。
 私は、弱いままに生きることが出来る者は、強者よりも強いと思っていますから」

 いま、国は怒りに満ちている。
 特にこの場は、怒りが支配している。
 『竜剣』シラス(p3p004421)はオースヴィーヴル領の戦士達が見せる目の輝きを見て、バルナバスが国を支配したその日のことを思い出した。
「咲耶、気付いてる? いまここにある闘争が、鉄帝のいまの闘争の本質なのかもしれないって」
「む? それは一体……?」
 『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は絡繰手甲・妙法鴉羽『宿儺』を複雑に操作し巨大な手裏剣状に変形させると、回転によって無数の氷の矢をはねのける。
 魔法を唱えるオースヴィーヴル領の僧兵たちと、それを守る盾兵。そしてなによりも突出して襲いかかる『雷槌の』ソルステイン。穏やかな彼の表情の奥には、やはり自分達へむけた怒りがあった。
 『おまえたちのせいだ』。
 そんな、脳や心臓に突き刺さるような感情を察し、咲耶はぞくりと身を震わせる。
「俺たちは確かに、新皇帝派や魔物たちと戦ってきた。
 けど本質的に戦うべきなのは、この国に満ちて溢れようとしてる憤怒なんじゃないか。
 グロース将軍やギュルヴィたちのやり口だってそうだ。
 一見誰かを助けているようで、与えているようで、そのために不遇な誰かを作ってる。怒りを作り、それを煽ってばかりに見える。
 俺たちが本当に倒すべきなのは、この憤怒そのものなのかもしれない」
「しかし――感情は殺せぬでござる」
「だからこそ厄介なのさ。強すぎる力をもちながら、力で勝つことが出来ない」
「む」
 咲耶は一度だけ目を瞑った。
「この敵も味方も判らぬ中で相手を疑うのは無理からぬ事。然れどもそれで散りゆく命を放置は出来ぬ。必ずやこの疑い晴らしてしんぜよう」
「そう、その意気だ。俺たちは『敵を倒す』んじゃない。『世界を変える』んだ」
「その考え方は……なるほど、悪くない」
 『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は治癒の魔法を唱えて咲耶に刺さった氷の矢を溶かし傷口を止血すると、マスクの下で頷いた。
(死体の山を見て気が狂いそうになる心地は……分かるさ、こんな私でも)
 たとえばルブラット。彼が神の力を手に入れたとして、それを何につかうだろう。
 病に伏した人々を治療して周り、たとえ神の怒りを狩ったとて、彼らの寿命を延ばそうとするだろう。
 それだけ彼は人に寄り添い、生きてきた。その手段はある意味真逆のものであったし、なにより……。
(……血に染まった両手が人を救ってはならない、という決まりはこの世に存在しない。
 善行とはそれ自体が報いであって――同時に、それ以外の何物でもないのだから)
 ルブラットは息をつき、そして目の前の戦士達を見つめる。
 彼らがもしこの戦いに勝利し、自分達を打破して古代兵器を手に入れたとしよう。
 それで首都へ攻め入り、戦ったとしよう。
 多くの血が流れ、死が蔓延り、憎しみと怒りが連鎖するだろう。
 そして結局……彼らはこの先の冬に凍えて震え、飢えて死ぬのだ。
 何よりも『そうなってもいい』と覚悟してしまったのだ。
「そんな未来、あってほしくはないのだ」

 ヴァレーリヤが戦っている。戦って傷付き、悲しんでいる。
 『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)はそのことに嘆くと同時に……こうも思っていた。
「同じ国に住む人間同士がいがみ合い、憎しみ合う。これほど悲しいことはない」
 戦争なんて下らない。たとえそれが必要な手段であったとしても、最後の手段であるべきだ。
 そして彼らが『最後』だと思っているなら。
「『思い知らせて』あげる。未来も希望も、ちゃんとあるんだ。私は――私達は、知っている!」
 だから、止めるのは私達だ。
 これが最後じゃない。もう終わりじゃない。
「ヴァイヌ君! 君に伝えたいことがあるんだ!」
「話すことなどもうありはせんよ」
「いいや、聞いて貰う! 力尽くでもね!」
 マリアは赤い雷光を放ち駆け抜け、蹴りつける。
 大盾を持った戦士がそれを受け、体中を突き抜ける雷に苦悶の声を上げた。
「この女、力を奪う!」
「ヴァイヌ殿、下がって! この女は、あなたにとって危険すぎる!」
 下がろうとするヴァイヌを捕まえようと、『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)がまっすぐに突っ込んだ。
 盾兵がそれを阻もうと盾を翳すが、それを貫かんばかりの衝撃で拳を打ち込む。
「悪漢共がこれだけ暴れたのですから、やがて領主殿が出てくるだろうとは思っていましたが……」
「悪漢共だと? それは貴様のことだろうが! 言い逃れはさせんぞ!」
「オースヴィーヴィル殿の怒りと嘆きは当然のこと。ですが、このまま我らが傷つけあっても、得をするのは黒幕だけでしょう」
「でたらめを言うな! 我等の家族のために、同胞のために――!」
 盾で押し込むように迅をはねのける戦士。
 伝わってくる怒りと悲しみを……迅は一度経験していた。
 『祖国のために』と戦った、あの日の自分が目の前にいるようだ。
 迅は構え直す。過ちを正そうなんて、大層なことは言わない。
「まずは、受け止めましょう。その怒りを、覚悟を。そして……だからこそ聞いて貰います。僕たちの話を、僕たちという存在を!」
 交差する魔法。ぶつかり合う戦士たち。
 『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は精強に攻撃を続ける戦士達のそれをなんとかかわしながら、ビッと肉球のついた腕を突き出す。
「らいとにんぐすた〜りんぐ!」
 稲妻が空間をかき回し、それを受けた兵士達が身をすくめる。
 治癒の魔法が飛び彼らにかかった電撃を払いのけるが、胡桃の猛攻は止まらない。
(誤解を解くのは難しいかもしれぬの。
 でも、あきらめるわけにはいかないの
 わたしは、鉄帝の皆様が安心してご飯をいっぱい食べられる国にしたいという心に共感してここまできたの。
 それが悪意に負けてしまうのは、悲しすぎると思うから)
 きっと彼らは、これまで飢えてきたのだろう。
 我慢してきたのだろう。
 そんな彼らをさえ、胡桃は救いたかった。おなかいっぱいご飯を食べて、今日のことを過去にして、いつか笑い合う日をむかえるために。
「負けるわけにはいかないの」
 胡桃のパンチが、兵を激しく殴り飛ばした。

●今は亡き聖地への巡礼
 『聖女』様は楽園のために力へ手を伸ばしたのだと聞きます。
 子供達の涙を止めるために、飢えと貧しさに震える人々を満たすために作り上げられた大聖堂。
 愚かな反転だと笑うでしょうか?
 それでも私は、憧れて止まないのです。
 この私が少しでも、『聖女』様に近づくのならば……私は

●non est responsum in Bibliis
「よう、オッサン。話がつくまで俺に付き合えよ」
 シラスの挑発的な表情に、ソルステインは獰猛に笑みを浮かべた。
 フレンドリーなそれではなく、野獣が威嚇のために歯を見せるそれに近い。
「自信があるらしいな、『竜剣』」
 その伝説的ともいえる称号で呼んだことに、シラスは少なからず反応した、眉を動かす程度の小さなものだが、ソルステインはそれを敏感に察したらしい。
 笑みをより深く、より獰猛なものに変える。
 そして手にしていたハンマーを横薙ぎに振り込み、シラスの存在している地点そのものを破壊しにかかった。
 素早くバックスウェーで回避するシラスだが、かき混ぜられた空気によって強引にソルステインへと吸い寄せられる。
 そしてがしりとシラスの首が掴まれた。太く頑丈な腕だ。きっとコンバットナイフを突き立てたとて切れないだろう。刃が通るかどうかもあやしくおもえるほどである。
「確かに俺にお前は倒せないかもしん。実際手に余る。だが――」
 もがき離れようとするシラスを、石の柱へと投げつける。
 あまりの衝撃に柱が壊れ、シラスは粉塵にまみれながら転がった。
 いや、転がりながら、素早く地面を腕と脚で突いて回転を制御し、立ち上がった。
「お前を『押さえ込む』ことならできるつもりだ! 付き合って貰うのはお前の方だ、『竜剣』の勇者シラス!」
 再びのハンマーがシラスを襲う。
 今度は横薙ぎのそれではない、突進と同時にハンマーの打撃面を叩きつける絶妙な『突撃』だ。これを回避したところで先刻の二の舞になりかねない。意を決してシラスは両腕をクロス。ガードする。こらえきれない衝撃。すぐさま自らに治癒の術を発動させるが、それを上回るだけの破壊力によってシラスの骨にヒビが残った。
 もしこれがシラスでなければ、骨は砕け身体は見事に圧縮されていたことだろう。
「そして『話がつくまで』じゃねえ。親方が他の連中を倒しきるまでだ! お前は最後に囲んで潰す!」
「おいおい――」
 シラスは自分への『正しい評価』に冷や汗を流した。彼はローレットの中でもトップクラスの固体戦闘能力を誇る。そしてそれゆえに戦いのキーになりえる存在だった。ソルステインは直感的にか、それとも事前に情報を収集していてか、いずれにせよシラスの脅威を理解し押さえ込む選択をしたのだ。
「オッサン、革命派を疑ってるらしいな。
 本当にそうだと思うのか? 革命派が手を下したと吹聴するようなマネ、俺たちが選ぶと思うのかよ」
「ハッ!」
 ソルステインはシラスに追撃をしかけ、シラスはそれをスライディングによって回避。空気の圧縮による吸い寄せに対抗すべく、咲耶が放ってくれたチェーンに捕まって逆側へと引っ張って貰う。
「逆に問おう。なぜ『絶対にしない』と言い張れる。お前達は現に革命派を名乗り国に反撃し、死者も出しているだろう」
「ソレとコレじゃあ話が違わねえか」
「『やろうと思えばできた』と言っているんだ。それに、もしお前達がハメられただけだとしても同じことだ。そこを退いて、俺たちに『力』を渡せ。
 阻むのならいずれにせよ敵だ。我等の同胞にもたらした死を、死によって贖わなければならない。血の復讐の法に基づき、我等は――!」
 瞬間、ソルステインの身体に無数の鎖がまとわりついた。
 あちこちの石柱にひっかける形で伸びた鎖が手足を縛り、ソルステインを拘束する。
 咲耶が変形させた絡繰手甲によってはなった影の鎖である。
「発端となった件、もし革命派が行うならば鉄帝を奪還した後の民の反応も考えて全て新皇帝派に罪をなすりつけるべき。
 寧ろ態々革命派と判る姿で襲うという事は何より犯人が彼等ではない事の証明ではござらぬか? 新皇帝派が主犯である証拠もござる!」
「かもな。けどそれで、俺がとめられるのかよ。お前達が関わった! 同胞達が死んだ! これは事実だろうが! 少なくともお前らを排除すりゃあ、問題はひとつ片付くんじゃあないのか!」
「それでは敵の思う壺。拙者らを潰し合わせることが敵の狙いである可能性が高いでござる! 力を合わせ、グロース師団と戦うべきでござろう!」
「うるせえ!」
 ソルステインは強引に鎖を引きちぎり、咲耶へと殴りかかる。
 あまりの強引さに回避ができない。が、ルブラットが強引に間に割り込むことでその打撃を受け止めた。
 受け止めたといっても、ハンマーによって壁に思い切り叩きつけられる形で止まったにすぎないが。
 ミゼリコルディアに手が伸び、ソルステインの腕や脚に鋭い傷が高速ではしる。
 それでもソルステインはとまらず、ルブラットを壁にぐいと押しつけた。圧迫され仮面の下から血を吐くルブラット。
「鉄帝は広いぞ。
 全てを敵に回すのなら、相応の武力と兵站を要する。
 適切に運用出来るかすら不明の古代兵器に頼りたいなら、まあいいだろう。
 だが私が案じているのは貴方がたではなくて、貴方が守っている民のことだよ」
「なんだと?」
「一領主が無節操に敵を増やして、領地に及ぶ攻撃を全て護り切る自信があるのか?
 略奪を止められなかったというのなら、末端まで兵力が整えられている訳ではないのだろう?
 今この先にあるのは、ただ破滅のみだ。きっと、今よりも酷く……」
「その民を殺したのがお前達だろうと言ってるんだ!」
「違うと分かっているはずだ。その証拠をなぜ見ない。目をそらしているのか?」
「うる、せえ!」
 追撃をしかけようとするソルステインを、シラスと咲耶による連携攻撃が強引にはねのける。
 ルブラットは胸をおさえ、がくりと膝をちにつけた。
「だから。まずは冷静に、アミナ君達の話を聞いてくれ。
 ……お願いだ、頼むよ……」
 仮面の下に何を隠しているのだろう。溢れそうになっている殺意か。それとも相手の未来への嘆きか。
 シラスと咲耶も、ソルステインを見据える。
「俺らが憎けりゃ殺せばいい。けどそれが何になるんだ? 同胞が地獄で泣いて喜ぶのかよ。それともアンタがスカッとするのか? どっちでもねえよな、アンタは人を殺して喜ぶようなタマじゃねえ!」
「こうして力を交えればわかるでござる。同胞のために、その力となるために鍛え、戦う者の覚悟……。こうして怒鳴り合うだけで終えるにはあまりに惜しい」
「……っ!」
 ソルステインのハンマーを持つ手が、ぶるりと震えた。
「そんな、ことは……!」

「確かに、革命派自体に悪意が入り込む余地はあったの。
 オースヴィーヴルの方たちの過酷な状況は仕組まれたのかもしれぬの。
 でもそれは、これからまた手を取り合えないということではないの」
 勇猛な戦士達による猛攻を、胡桃は激しく燃え上がる炎と火花で迎撃していた。
 両手斧による大上段からの一撃を横っ飛びに交わし、放つ炎に戦士が包まれている間に距離を詰め火花の散る拳で殴りつける。『こやんぱんち』こと爪つきグローブによって戦士が吹き飛ぶが、その戦士は口元の血を拭いながら立ち上がった。
「黙れ。お前達が、お前達が殺したんだ。殺される側になって、今更『違う』とは言わせないぞ!」
「それは誤解なの」
 戦士達の意志は強く、そして堅い。胡桃はこれまで色々な戦士と戦ってきたが、ここまでしぶとい戦士はそうそう見ることはなかった。
 単純な戦闘力で見れば胡桃は彼らを圧倒しているし、一対多でも勝利する目が充分にある。本来なら相手は引き下がり、逃げて然るべき状況だ。
 けれど、命を賭してでも、全身全霊を振り絞ってでもこちらを倒そうという意志が彼らを連携させ、死を耐えさえ、そして立ち上がらせた。
(このままじゃ、あっちの加勢に行くのはむずかしいかもしれぬの)
 オースヴィーヴル、ヴァイヌ、そしてソルステインと順番に倒して行くつもりでいた。普通の敵なら、一定まで損害を受ければ退くのが道理だ。こちらだってそうだ。仲間が半数死にかけたらそれをかばって撤退するだろう。
 けれど相手にはそれがない。本当に殺してしまうのでない限りは、よほどの『てかげん』をしない限り止めることができないのだ。
(けど、相手だって分かってるはずなの……)
 本当に革命派が彼らを追い詰めようとしているのなら、『こんな戦い』にはそもそもなるはずがない。きっと、前がみえなくなっているのだ。同胞を殺され、冬の蓄えを奪われ、視野が狭まり……前すらも見えなくなっている。
「止めないと」
 胡桃は己もまた覚悟し、戦士達を引き受けるべく火花を散らした。

「軍人である私が断言しよう! 戦争程くだらない物はない!」
 マリアの赤い雷撃を、ヴァイヌまで届かせないようにと盾兵が必死に間に割り込み続ける。
 それを払いのけるべく、迅の拳と蹴りが盾兵を押しのけにかかる。ヴァイヌは盾兵たちを治癒し、自らのスタミナも回復する。
 それが幾度も続きさしものマリアでさえ疲弊するような状況がやってきた。
 大粒の汗が顎へ流れていく。それを袖で拭い去り、マリアは呼吸を大きく整えた。
「君らは言葉を尽くしたのか? あらゆる手段を考慮したのか!? 戦争っていうのはね! あらゆる手を尽くして、お互いがもう話せることがなくなるほど話し尽くして! 最後の最後で選択する最悪の手段だと知れ!」
「それを先に仕掛けたのはそちらではないのかね?」
「確かめるための話し合いをすべきだと言っているんだよ! もし誰もが話しもせずに、まわりの疑わしいものを殺して回ったら、人類は誰も残らなくなってしまうじゃないか!」
 マリアは吠えた。相手の心に、それが届いていないはずはない。
 ヴァイヌとて、望んで戦いに民を投じたいわけではないはずなのだ。
「戦争を望むのはいつだって力を持つごく一部だ! 多くの民は平和を望んでいる! 何故それが分からない!?」
「わかっているさ……!」
 ヴァイヌの表情に初めて小さな歪みが生じる。
「だから儂等は帝国に攻め入ろうなどとしなかった。籠城し、抵抗するのみだった!
 戦争は無意味だ。流れた血は元には戻らず、死者は当然帰らない。
 憎しみばかりが膨らみ、畑は焼けて飢えるじゃろう。お主の言うとおり、愚かしいことじゃ。
 だから『我が友』はあの夜に降伏した。平和のために。平和を願って。それを――」
「待って下さい! この地を救おうとする者達が傷つけあう。これこそ無駄な血というものです!」
 迅が両手を開き、話し合いを求めるように腕を広げて見せた。
 戦争は愚かだ。戦争は無意味だ。『昔』の自分がそう言われたら、狂犬のように吠えて相手に噛みついていたかもしれない。
 祖国のために戦うことの何が悪いと、血を浴びながら叫べたかも知れない。
 けれど今は違う。違うのだ。
「信用出来ないのは承知しています。ですが少し……少しでいいのです。猶予を!」
 無抵抗な迅を、盾兵がメイスによって殴りつけた。
 迅が吹き飛び石の柱に頭をぶつける。
「迅君!」
 振り返るマリアに、迅は『大丈夫だ』といわんばかりに手をかざし、そして立ち上がる。
「マリア殿。あなたの言うとおりだ。『戦争なんてくだらない』……どんな目的であれ、戦争を手段にするなんてばかげてる。それによって、大切な人達の笑顔は失われるのですから」
「…………」
 マリアは迅のいわんとすることを理解できた。あの戦いに、マリアも参加していたからだ。
「ヴァイヌ殿。どうか聞いて下さい。アミナ殿やヴァレーリヤ殿の志は本物です。
 彼女たちは弱者を救うために、その力を尽くしています。それはオースヴィーヴル領の皆さんも含まれているのです。力をあわせましょう、ヴァイヌ殿!」
 迅の呼びかけに、マリアも頷きと共にヴァイヌを見据える。
「本音を言うなら、私はこの『紛争』に深く手を入れるつもりはないんだ。
 戦いが起きて、誰かが命を落とす。奪い合いが起きて、誰かが何かを奪われる。
 そんなことはどこの世界でも日常茶飯事で、私達はその全部に口を開いていられない。『本当に大切なもの』を守るために、見過ごすことは沢山あるんだ。
 けれどね。これだけは言えるよ。
 君は無理をしている」
「――ッ」
 ヴァイヌは杖を強く握りしめた。
「『本当に大切なもの』のために、見過ごそうとしたんだね。
 私にも大切なものができたからわかるんだ。
 けれど今は、無理をする必要なんてない。話をしよう。それだけでいい。
 それでも納得ができなければ、それこそ『最後の戦争』をしよう。私はちゃんと、受けて立つよ。
 対話をした者の、責任としてね」

 オースヴィーヴルの繰り出す剣から、魔法の光が刃となって飛ぶ。
 無数に分裂したそれを、秋奈と夢心地は斬撃によって破壊した。
 わかれて後方へ散っていった衝撃は爆発となって現れ、彼らの影を複数に照らし出す。
 夢心地は真剣なまなざしでオースヴィーヴルを見つめた。
「帝国なぞ信じる必要はない。革命派を信じることも求めぬ。
 ただ、麿およびこの場にいる面々の言葉に偽りはない」
 斬りかかる夢心地の剣は鋭く、そして命を刈り取るに充分な技能をもっていた。
 オースヴィーヴル領の戦士達も相当な手練れだが、それでも夢心地にかかれば斬り殺せない相手ではない。刃を交えればそれがわかる。
 そしてその上で、夢心地は彼らを殺さない。話をしてもらうために間合いをとり、話を聞かせるために刀を合わせているのがわかるのだ。
「オースヴィーヴル様……この男達は……」
 ソルステインやヴァイヌだけではない。戦士たちも少しずつだが、夢心地たちの話を聞いてみたいと思うようになっていたのだ。
「ねえ、証拠を出すなら今なんじゃない?」
 秋奈が連続で繰り出される魔法の刃をギリギリでかわしながら問いかけてくる。
「証拠とな」
「ほら、グロース師団への命令書。最初に見せたら『にせもんだ!』で終わるかもだけどさ、タイミングってあるじゃん。『ひかえおろう』をするタイミングがさ」
 お約束というものはなにも無意味にあるものではない。一定の説得力がそこにはあるものだ。
「大体さー! 革命派は確かに武力バリバリのボリボリだけどさ! 難民ぎっしり詰めて備蓄集めて訓練してーの繰り返しなんだぜ? よそに出張して略奪カマしてる余裕なんてないなくない? 首都から近くてラドバウよりヤバそうなネームドいないからってすぐマトにされるしさ!」
「…………」
 少しは話を聞く気になったのだろうか。戦士達の動きが少しずつだが緩くなっていく。
 オースヴィーヴルはその責任からか決して剣を降ろすようなことはなかったが、しかしこちらの言葉を待っているようにも見えた。
 だから、茄子子は手を合わせて呼びかける。
「革命派は信じられませんか。それでもいいでしょう。ならば、私を、私達を信じてください」
 ヴァーレリヤやシラス、秋奈やルブラットたちを指し示す茄子子。
「今、この場で起こっている事実。それだけを見てください。
 この場の誰一人、死んでいません。我々は誰も殺しません。そして貴方達にも、私が殺させません」
 茄子子の主張は圧倒的なまでの『事実』だった。
 殺せるなら殺している。そう確信できるだけの戦力がローレット側にはあった。
 実際オースヴィーヴルの戦士の実力もかなりのものだったし、ソルステインやヴァイヌに至っては殺せる気がまるでしなかったが……周囲の名の知らぬ戦士達までもがそうであるわけではない。
 本来なら、もう何人も死に、あたりが血に染まっていておかしくないはずなのだ。
「今一度だけ、私達の話に耳を傾けてください。私達を信じてください」
 茄子子はそうとだけ言ってから、三歩下がった。
 もうこれ以上言うべきことはない。やるならやればいい。そんな意志を示すかのように。
 相対的に前に出ることになったのはヴァレーリヤだった。
 戦いによって早まっていた鼓動を、深く息を吐くことで収める。
 そして今こそ、秋奈たちの用意したグロース将軍からの命令書を取り出して見せた。
「兵を引いて下さいまし。オースヴィーヴル領での虐殺と略奪は、誓って私達革命派によるものではありませんわ。
 だって、これまでずっと助け合って来たではありませんの。
 今さらあんな真似をする理由なんてない事は、貴方も分かっているはずでしょう?」
 オースヴィーヴルの握った剣が、少しずつ下りているのがわかる。
「革命派の難民キャンプには、救助した貴方の領民も匿っていますの。その方からの証言も得られますわ。直接会って、話すことだって」
 オースヴィーヴルはちらりとヴァイヌを見る。ヴァイヌはそれに、小さく頷くことで返した。
 『ローレットに助けられた。あれは革命派の仕業じゃない』と主張する領民も、確かにいたのだ。
「私達が消耗すればする程、家も食料も失った方が増えて、時間を掛ければ掛ける程、救えるはずだった命が零れ落ちていく。少しでも多くを救いたいという願いは同じはず……ひとまず休戦にはできませんこと?」
 ヴァレーリヤがそこまで言うと、オースヴィーヴルは剣から片手を話し、自らの顔を覆うように当てた。
「だが、今更……。もう刃は交えてしまった。取り返しが――」
「いいえ、取り返しならつきます! 私達革命派も、同時に兵を退きましょう!」
 そこで声を上げたのはアミナだった。
 大きな青い球体。つまりは主要駅ルベンのエネルギー源であり、ギアバジリカの強化パーツとして有力視されている古代遺物。
 それを指さして、自らの胸にも手を当てる。
「これが欲しいなら差し上げてもいいんです」
「アミナ流石にそれは――」
「オースヴィーヴル領の皆様ごと、革命派が全て面倒をみます。物資の略奪を受け、冬を越えるのが難しいのでしょう。ならば難民キャンプに加わればいいのです。蓄えは充分にあります! もしそれが貴方がたから奪ったものだと思うなら、それをたらふく食べたらいいんです!」
 ドンと胸を張ってみせるアミナに、ヴァレーリヤは苦笑した。
「そういうことですわ。私達はこれからも助け合えます」
「帝国に降伏し、多くの大人達が飢えるはずだったあのときのように……か」
 オースヴィーヴルの呟きに、ヴァレーリヤはええと頷いた。
「親方……」
「友よ……」
 ソルステインもヴァイヌも、戦いの手を止めていた。
 場の緊張がほぐれていく。
 戦いは終わった。誰もが、そう思った。
 その時である。
「嘘だ!」
 誰かが叫び、そして飛び出した。
 戦いの混乱に紛れ身を隠し、奇襲の瞬間を待っていたのだろう。
 オースヴィーヴル領の若い一人の戦士が、アミナへと飛びかかった。
「やめろ!」
 オースヴィーヴルの制止もきかず、ナイフをアミナめがけて繰り出す戦士。アミナは押し倒され、そして。

 ぽたり、と血が落ちた。
 アミナの顔にかかる、熱い血。
 戦士はぐらりと傾き、崩れて転がる。
 その腹には、クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭が標準的に身につけている護身用の短剣が刺さっていた。
 アミナの一刺しで死ぬほどの戦士ではなかった筈だが、これまで『死なないように』とたたかってきたがため、ギリギリのところにあったのだろう。
 ルブラットが素早く駆け寄り処置を施そうとしたが、ゆっくりと首を横に振った。
 既に息絶えている、と。
「あ……」
 短剣を両手で握っろうとした形のまま、仰向けに倒れているアミナ。
「私、いま」
「「アミナ!」」
 彼女へヴァレーリヤやシラスたちが駆け寄る。

●奪って生き延びてしまったのは
 私は、『聖女』様の理想に殉ずるのが自分の運命だと思ったのです。
 あのひとはまっすぐで、誠実で、そして選択を迷わなかった。
 だから、私も

●orare et petere
 死した戦士の亡骸を、オースヴィーヴルは抱えて運んだ。
 奇跡的にと言うべきなのだろうか。いや、そのように彼らが望んだからというべきだろう。この戦いにおいて、オースヴィーヴル戦士の死者は『彼一人』だけだった。
「この男は、シヴィルという。
 私が領地を収めるようになった時から大の親友であったルッソという男の孫で、成人したばかりだった。
 羊飼いのミラーという娘と結婚する約束をしていてな。なのに、牧場が革命派を名乗る集団に襲われた。娘は死に、羊は殺され焼かれたという。
 己の無念に向き合うことができなかったのだろう。彼を……どうか許してやってほしい」
 一つだけの棺にルッソの亡骸をしまい、頭を下げるオースヴィーヴル。
 ルッソの死を悲しむ戦士たちも大勢いたが、誰ももう、アミナたちを責めなかった。
 アミナは祈るように手を合わせ、そして小さく『聖女様』と呟いて……目を開ける。
「いいえ。許しを求め、罪をおうべきは私です。
 私は、生き延びるために……志のために、彼を犠牲にしてしまった。それは、事実なのです」
 そして、強いまなざしでオースヴィーヴルを見つめた。
「だからこそ、お願いします。私達の難民キャンプへ来て下さい。
 家も食料も、それらを守る兵士達も約束します。もう、これ以上犠牲は出しません」
 未だ血にぬれた彼女の僧服。白いそれに、まざまざと赤く。
 オースヴィーヴルは決断するように目を閉じると、後ろに続く戦士達に、そしてソルステインやヴァイヌたちを見た。
「皆。私にもう一度ついてきてくれるか。革命派に加わろう。彼らと共に、真の敵を見つけ出し、戦おう。ルッソの死を、私は無駄にしたくない」
 静かに告げるオースヴィーヴルに、皆『ルッソのために』と呟いた。
 それはただ一人の青年を想ってのことではない。これまでの多くの犠牲。奪われた歴史。そして、自分達が怒りにまかせ傷つけようとしてしまったものを想ってのことだ。
 そしてあらためて、オースヴィーヴルはアミナたちへ振り返った。
「古代遺物の運び出しに協力しよう。罪滅ぼしになるとはおもわないが……そのあとで、ゆっくりと話し合おう」
 アミナはくしゃりと笑って、目尻をぬぐった。
「……はい!」

成否

成功

MVP

楊枝 茄子子(p3p008356)
純白の矜持

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 オースヴィーヴルの説得に成功しました。
 古代遺物の回収が始まります。

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