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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>静かなる氷

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「進め! 進め! 進め――!」
 怒号、と言って良いようながなり声が響く。
「戦士たちよ、死を恐れるな! 我等の軌跡に同胞たちの未来がある! 進め!」
「おおおおおおおおおおおおお!!」
 声が、地を揺らす。
 ビリビリと震わす音が床に反響し、当局庁舎の廊下を揺らしたのだ。
 進めと叫びながら進軍する厳つい男たち。彼等は凍てつく峡湾を統べる戦闘民族『ノルダイン』の者たちだ。侵入を果たすまでは静かに行動していた彼等も、一度見張りに見つかれば後は勢いで攻め込むだけ。
 敵の大将首を落とし、当局庁舎を落とし、此処を足がかりにする。他の拠点にも仲間たちが攻め込んでいるはずだ。厳しい冬を凌ぐ為、彼等には此処が必要だった。

「――大佐!」
 当局庁舎の敷地内にみっつ程ある建物。そのとある一室に、兵が駆け込んでくる。
 纏う鎧は新皇帝派を示すものだが、声は実直そうな若者だ。
 押し寄せる侵入者たちを静かに窓から見下ろしていた白銀の騎士は、駆け込んできた兵に一瞥もくれることなく硝子を撫ぜた。
「報告します! ノーザンキングスと思しき敵が侵入! 現在対処に当たっております!」
 対する答えは「知っている」しかないのだが、若者もそれを知った上での報告だ。
 大佐と呼ばれた騎士は片腕を横に振るい、短く命令を伝える。
 ノーザンキングスという蛮族どもに、大抵のことでは兵等が押し負けることはないだろう。しかし、其れ以外にも懸念要素があることもまた、『知っている』。
 兵等で対処できれば良し。しかし、出来ないのならば――。
 騎士は大きな窓のある見晴らしの良い部屋――確かそれなりの地位の者が執務室としていた部屋――から移動を始める。迎え撃つのならば、動きやすい部屋が良いだろう。騎士の得物は長物ゆえに。
 騎士は静かに――鎧の音のみを響かせ、廊下を歩いていった。


 連日話し合われる作戦会議。
 その話し合いにより、ポラリス・ユニオン(北辰連合)は独立島アーカーシュの面々と協力し、『不凍港ベデクト』を攻略することとなった。
 調査によって入手が叶った地図は、主要施設、それからルートを考える面で非常に約だった。複製した地図を大きな会議机へと広げ、その上に幾つかの駒を散りばめて、北辰連合内でも日々話し合いを進めていた。
「やはり、当局庁舎と陸軍施設は抑えておくべきでしょうね」
 指先でコツンと駒に触れたリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)へ、「ああ」と顎を引くのは浅黒い肌を持つ鋭利な瞳の青年――ルカ・ガンビーノ(p3p007268)だ。ふたりは連日、ローレット銀の森支部へと顔を出し、アーカーシュ側の面々とも話し合いをしているが、北辰連合に持って帰ってからもまた仲間たちと話し合いをしている。
「不凍港にノーザンキングスの勢力も既に入り込んでいるようだ」
「……この奪還作戦は三つ巴となる可能性が高そうね」
 既に雪はちらついているが、直に厳しい冬の寒さが本格的になることだろう。それを知っているノーザンキングスの者たちも己が――家族や仲間を生かすために必死なのだ。彼等が引かないのであればそうなるだろうとレイリー=シュタイン(p3p007270)微かに眉を潜めて口にした。
 話し合いで何とかできれば良いが、此度はそうはいかない筈だ。場所は新皇帝派に占拠されてしまった不凍港ベデクト――戦場だ。戦場に、彼等は死を恐れずにやってくる。
 重い空気が会議室内を満たした時、見計らったようにコン、と軽く会議室の戸が叩かれる。
「作戦の日取りが決まったようだよ」
 既に入室しているものの、視線を集めるために戸を叩いた劉・雨泽(p3n000218)がローレットの方針と作戦決行日を告げるのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 こちらは北辰連合シナリオになります。
 不凍港ベデクトを奪還しましょう。

●目的
 当局庁舎の奪還

●シナリオについて
 フィールドは不凍港ベデクトです。
 西側の駅方面から出発し、当局庁舎の奪還を目指します。
 当局庁舎の敷地はかなり広く、大きな建物がみっつ程あります。他のシナリオにも出ているかと思いますが、敷地内の違う建物です。
 既にこの建物は敵の手に落ちていますので、建物内の敵の殲滅、もしくは撤退させることが目的になります。建物に被害が多いと、奪還しても機能しない状態になるかもしれません。壊さないよう、気を付けてください。

 出発時には無い情報ですが、庁舎近くまで行くとノーザンキングスと思しき者たちの姿を見かけるかと思います。彼らも庁舎を狙っています。イレギュラーズたちと接敵すれば戦闘になることでしょう。
 イレギュラーズたちの存在に気付いたとしても、彼らは庁舎攻略をします。どちらが早く庁舎を落とせるか、そして残った相手を退かせるか、のみを考えています。自分たちの犠牲は考えません。

 また、しっかりと隠密を心がけて行動すればするほど、庁舎侵入までに『どちらの勢力にも』気付かれない可能性が高くなります。

●敵
 ・『氷の騎士』
 新皇帝派で大佐の位を戴く騎士。とある一室に居ます。
 この庁舎を任された現場指揮官だと思われます。とても強そうです。
 庁舎を放棄した方が良いと思うような状況に陥れば撤退することでしょう。
 其れ以外の情報はありません。
 レイリーさんと相対しても、正体を明かすことはありません。

 ・新皇帝派兵 30名
 新皇帝派の兵たち。一般的な強さです。
 氷の騎士が撤退する際、生存している兵も退くことでしょう。
 彼らの生死は問いません。
 ノーザンキングス勢力たちも相手取ります。

 ・凍てつく峡湾を統べる戦闘民族ノルダイン 数不明
 厳しい峡湾に住む獰猛な人々です。
 人間種と海種で、屈強な体躯、鉄兜に鎖帷子、片手斧やウルフバート、丸盾等を装備しています。弓を扱う者も居ます。
 厳しい冬を凌ぐ為の重要拠点としてベデクトを制圧しようとしています。

●味方
 ローゼンイスタフ兵が10名ほど同行しています。
 強さは新皇帝派兵よりも少し弱いくらいです。
 指示を出せば従うことでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>静かなる氷完了
  • GM名壱花
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月08日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚

リプレイ

●quietwind
 海岸部の要所、不凍港ベデクト。
 常日頃より様々な音で溢れた賑やかな場所ではあるが、そこは今、騒ぎの最中にあった。
 駅から真っ直ぐ、頭へ叩き込んだ地図を頼りに進めば、ドン! と何処かで激しい音がして地が揺れる。直後に立ち上がり始める狼煙に、何処かの建物が爆撃にでもあったであろうことが知れた。
 騒ぎを起こしたのは――きっとノーザンキングスの手の者だろう。彼等も彼等で生きるのに必死だから、環境資源の奪い合いとなってしまうのは仕方のないことだ。
(生きる為にはコレだけがこの世の概ね大正義だもんな)
 髪から覗く片目で煙を見、然れども当局庁舎へと向かう足を止めずに『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)はそんなことを思った。
「また、ここに来たわね。今回はとうとう本番よ」
「ここを落とせばこうりゃくが楽に……よーし、がんばるぞー……!」
 見えてきたみっつの大きな建物を塀で囲った当局庁舎。それを視界に収めた『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)と『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)がぐっと拳を握り、眉を跳ね上げた。
 重要施設は既に、新皇帝側の手の内だ。
 そして新皇帝は冠位魔種である。
 彼等の思い通りにさせないためにも、重要施設はひとつでも多く奪還しておきたい。
「それでは、私たちはここで」
「ああ、頼んだ」
 此処で、イレギュラーズたちはふたつに分かれる。『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は夏子と『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)とともに正面玄関から突入し、狙うと決めた庁舎のひとつへと向かうことになっている。そうして彼等が新皇帝派とノーザンキングスたちを惹き付けている間に、こっそりと実動部隊として『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)等が潜入し、敵司令へと奇襲をかける作戦だ。
 リースリットとルカは視線を合わせ、こんと軽く手の甲を合わせて互いの向かうべき場所へと向かう。会議室で幾度も言葉を重ねてきたから、今ここで必要な言葉はない。信なぞ、とうにおいている。

●diversion Ⅰ
(不凍港を抑える。北辰決めた方針どおりやるだけだ)
 信頼する仲間たちへ背を向けた誠吾は、夏子とリースリット、ローゼンイスタフ兵とともに正面玄関を突破した。
 敷地内に入ればみっつの建物に向けて路が敷かれており、既にノーザンキングスの者等が入り込んでいるのだろう。あちらこちらで喧騒の音が聞こえていた。
 どの建物を抑えるかも、仲間たちで相談して決めてある。他の建物は他の作戦で動いているイレギュラーズたちが抑えることだろう。まずは確実にひとつを。三人は頷きあってそちらへと向かった。
「くっ、新手か! 増援を呼べ!」
「挟み撃ちだと!? 野郎ども、全員ぶちのめしてやれ!」
 建物の入口。そこでは既にノーザンキングス――凍てつく峡湾を統べる戦闘民族『ノルダイン』の者等が新皇帝派の兵と剣を合わせていた。新皇帝派の兵はイレギュラーズたちに対処すべく増援を呼び、ノルダインたちはイレギュラーズへ向き直り、戦闘の意思を示した。
「待ってください。此処は一時休戦とするのが貴方方にとっても良いかと思われます」
「何!?」
「ここは協力をし、新皇帝派を倒すのが良策でしょう。貴方方も挟み撃ちの形よりは良いでしょう?」
「うぅむ、確かに……」
 新たにやってきた者たちは、10名の兵を連れている。それなりに強い新皇帝派を相手にしつつ挟み撃ちとなっては、他にも隊がいるとは言え、自分たちが危ういだろう。ノルダインのリーダー格と思われる立派な顎髭の男は髭を撫ぜ、よし解ったとリースリットに応じた。
「戦士たちよ、聞け! この者等は現時点では敵ではない! 背を気にせず、眼前の敵を討つのだ!」
「それじゃあ、ま 当面の敵は一致するし 敵の敵は敵じゃないってコトで?」
「庁舎に向かう奴らの負担が軽くなるよう、暴れてやりますかね」
 話は決まった、と夏子と誠吾は得物を手に前へと出る。剣と槍を向けるは、わらわらと庁舎内から飛び出してきた新皇帝派。それじゃあ行こうと不敵に笑み、ふたりは地を蹴った。
 前へ立ってくれるふたりが飛び出すのと同時に、リースリットは片手を高く上げる。
「この一戦にベデクト奪還がかかっています。餓狼伯も前線に出ておられる――さあ、私達も参りましょう、ローゼンイスタフの勇者達よ」
 高らかに、澄んだ声を背後のローゼンイスタフ兵へと投げかけて。
 上げた手を、新皇帝派兵へと向け振り下ろす!
「北辰とローゼンイスタフの旗に勝利を!」
「おおおおおおおぉぉぉぉ!」
 充分な士気とともに、兵たちが駆けていった。

●covert action Ⅰ
 陽動として動くリースリット等とローゼンイスタフ兵と別れた後、建物の陰等に隠れ、常に何処からか見られていないかを意識しながら『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)等は静かに移動した。
 先行するのは、闇の帳を纏った『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)。他にも闇の帳を纏える『胃腸(重傷)』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)が後方、レイリーは風牙が離れた後の先頭で周囲に気を配り、風牙の合図で風牙の元へと距離を詰める。庁舎裏の出入り口はノルダインの戦士と新皇帝派の兵がやりあっていたため、侵入経路は塀を登ることになったが、素早さよりも見つからないことに入念に気を配って行動したため、そのお陰もあって、交戦すること無く七名のイレギュラーズたちは庁舎敷地内への侵入を果たしたのであった。
「もうノーザンキングスたちは侵入しているようね」
『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)の視線の先には、割れた窓があった。先に侵入したのであろうノーザンキングスたちは、裏口の窓を割って侵入したようだ。その窓をそのまま利用させてもらい、イレギュラーズたちも建物内へと静かに侵入する。
 庁舎内の廊下には、割れた硝子やノーザンキングスたちの足跡、そして昏倒しているノーザンキングスの戦士や新皇帝派の兵の姿が見えた。
 イレギュラーズたちは素早く近寄って、彼等の呼吸を調べていく。呼吸がまだあり目覚めそうであるのならば、再度眠ってもらう必要があるからだ。
 傅いて呼吸を確かめ、そうして顔を上げたイレギュラーズたちはみな、かぶりを振った。
 どの兵も戦士も、既に事切れていた。下手に生き長らえ、仲間の足手まといになるくらいなら……と自ら死を選んだ者もいたようだ。せめてとリュコスは掌で瞼を閉ざしてやり、一行は奥へと進んでいく。

 廊下も先導する風牙が、片腕を真っ直ぐと横へ突き出した。
『止まって』
 その意思を伝える腕に後続のイレギュラーズたちは息を潜め、耳聡い者たちは周囲の音へと耳を澄ませる。が、如何せん、静謐な環境ではないせいで音が多すぎる。小さな音を選んで拾えるわけではないため、正面玄関からの剣撃の音も、廊下を慌ただしく走る足音も、扉を破壊する音も、悲鳴も怒号も、その全てが耳に飛び込んできてしまう上に、大きな音は通常よりも大きく聞こえるものだから頭が割れそうなほどだ。
 それでも、耳を澄ます。
 大きな音は近く、小さな音は遠いか本当に小さい。
 聞こえるのは大きな音。
 直ぐ側だ。
 複数名の足音が、イレギュラーズたちへと近付いてきている。
 ルカが念話で交戦準備をと、イリスとレイリー、ライオットへ知らせた。
 一区画分先へ進んでいる風牙が指を5本立て、腕を動かす。
 同時に、何か見えないものに突き動かされるように、仲間たちが一斉に動いた。
 狭い廊下で識別出来ない範囲攻撃はどう頑張ったって仲間を巻き添えにするため、使えない。ルカは剣と拳でひとり伸し、レイリーが白のランスで当身を食らわせ、リュコスが赤い闘気を当て、イリスが神聖宿した三叉で攻撃し、ラダが殺人剣で斬り伏せた。
 進行方向から来たいつつの影――厳つい鎧を纏ったノルダインの戦士たちは、悲鳴ひとつあげることなくその場に崩れ落ちたのだった。
 彼等の目的が自分たちと同じであるはずだ。指揮官を倒し、庁舎を制圧する。そして指揮官を探して建物内を探索していた――となれば、彼等が向かってきた方角には指揮官が居なかった、と言える。
『あちらでは無いようだ』
 ルカと視線を合わせたラダが思念を伝えると、ルカも同意の意思を示した。
『新皇帝派の兵なら、口を割らせたんだが』
 一本ずつ指を折ったとしても口を割るかは定かではないが、何人かの内の一人くらいは割るかもしれない。冷めた視線でノルダインの戦士等を一瞥したルカは『先へ進もう』と仲間たちへ思念を送った。
『ちょっと待って』
 イリスが待ったを掛ける。
『そこの部屋、地図らしきものがあるみたいだよ』
 扉や壁を透かし見ることが叶うイリスの瞳には、直ぐ側の扉の奥も見えている。
 イリスの言葉に、風牙が扉のノブへと手を伸ばす。
 鍵が掛かっていたため、極力音がたたないように破壊する。
 室内は広い。書類が積まれた机が幾つも並んでいることから、平文官たちが事務仕事をするための部屋であることが知れた。
 そして壁には有事の際の避難経路を示す地図が掛けられてあった。
(指揮官がいそうな場所はどこッスかね)
 じっくりと見ずとも、怪しそうなのは二箇所だろうか。
『二階の部屋がふたつ怪しそうだな』
 ルカの指がふたつの部屋へと向けられる。
 二階の中央にある部屋と、隅にある部屋だ。
 中央の部屋は一等良い場所であるため、この建物の責任者の部屋と思われる。
 隅の部屋は広いため、会議室である可能性が高い。
 どちらも作戦本部等にしやすい部屋だ。
『此方側の階段から上り、中央の部屋前を通って奥へ行くのがいいかな』
 部屋の前さえ通れば、中の様子は透視で見える。
 イリスがルカに思念を伝えればハイテレパスで仲間たちへと伝えられ、全員がそろって顎を引き、同意を示した。

●diversion Ⅱ
 ノルダインの戦士たちが、唸る嵐のような咆哮を上げている。
 鋼と鋼のぶつかり合う重い音と、動くたびに散る血と土埃。
「怯むな、死守しろ!」
「蛮族共め、ここは通さん!」
 新皇帝派の兵たちは多くの者が盾を構え、守りに回っていた。
 ローゼンイスタフ兵が上段から重く叩くように剣を振り下ろし、それを盾で受ける。そうして開いた横腹へ、槍を大きく振るった。
「――!?」
 槍が触れた瞬間、パァン、と何かが破裂するような音に驚いたのは、敵ばかりではない。なんじゃ、と片手斧を振りかぶった姿勢で止まるノルダインの戦士に、驚いた表情のローゼンイスタフ兵。槍を叩き込んだ男は驚いた表情のまま吹っ飛んでいった。
「はいはい 止まんないで 無理はナシで 味方の背は守る 1人の敵に2人で確実に 貴君等と肩を並べ戦える事 光栄に思うよ」
 大きな音と光に驚いてくれるのはきっと一度きりだし、その度に味方とノルダインの士気も下がる。けれどそれをリースリットが上手く指揮し、誠吾が勇敢に前線で立ち回り、兵等を鼓舞していく。
「大きな音と光に気を取られていてもいいのか?」
 はったりをきかせて余裕の笑みを浮かべるのも、上手になった……と、思う。
 この世界に来るまで、誠吾はただの男子高校生だったのだ。生きるために生きる術を学んで、そうして信頼できる仲間たちと出会えて、今、ここに立っている。
「ほいよ 誠吾」
「サンキュー、夏子」
 上手い具合に誠吾が纏めて攻撃できるよう、夏子が新皇帝派兵を飛ばしてくれる。
 ただの高校生だった誠吾は変わらず痛いのは嫌いだが、それでも怪我をするのには少し慣れた。怪我をしても、リースリットが治してくれる。治してくれる仲間がいるから、一時の痛みくらいはどうってことはない。
 とん、と夏子と背が当たる。
 目配せは一瞬。
 リースリットも視線を向けてくる。
 きっと、想いは同じだ。

 ――黒狼隊の強さ、見せてやろうぜ!

●covert action Ⅱ
 二階の廊下を警戒しながらも、速やかに駆け抜ける。
 突然扉が開いてワッと襲撃に合う――等は御免被りたいため、風牙は常に聞き耳、イリスは常に透視をして廊下に並ぶ扉たちに意識を向けていた。
『中には誰も居ないみたいです』
 しかし、その何れにも人が居ない。
 全員が正面玄関を死守すべく動員されたか、別の場所でノルダインの戦士たちと交戦しているか、もしくは指揮官とともに居るのか。
 何れにせよ、居ないのならば先へ進むだけだ。正面玄関で戦ってくれている夏子と誠吾とリースリットたちの負担を減らすため、また彼等に報いるため、イリスたちは先を急いだ。
 会議室らしき部屋の前で、風牙が足を止める。
 耳聡い者にはその理由は解っている。
 室内で、鋼の音――甲冑を着た誰かの気配がしている。
 ――現場指揮官であろう。
 ハイテレパスを使用しなくとも、仲間たちは瞳で語り合った。
『室内に居るのは三名だよ。綺麗な鎧の人と、普通の兵って感じの人』
 イリスが念話でルカに伝えた内容は、そのままルカから念話で全員に共有される。
 扉への細工があるかどうかは解らないが、隙がなさそうな様子から此方も小細工を弄するよりも数で圧した方が良いだろう。
 イレギュラーズたちは頷き合い、風牙が扉へ手をかける。
 扉を勢いよく大きく開き、室内へとイレギュラーズたちが滑り込む!
「私の名はレイリー=シュタイン! 不凍港を鉄帝の元へ奪還しに来たわ」
 まずは高らかにレイリーが宣言して目を引いた。
「アンタがここのボスかい? 時間があれば茶にでも誘うところだが、あいにく急ぎでな」
 続くのはルカ。真っ直ぐに白銀の鎧を纏う騎士へと視線を向け、剣を片手に「早速だが退いてもらおうか」と不敵に声を掛けた。
「賊め……」
「ぞく? 新こうていの方が、よっぽどわるい人……だよね?」
 新皇帝派の兵が反応し、口にする。その言葉に、リュコスはこっくりと首を傾げた。国を豊かにするわけでもなく荒らす行為。それは賊とは言えないの? と。
 白銀の甲冑の騎士は反応しない。――否、観察するように『イレギュラーズ』を静かに見ている。
「退いてくれるのが一番だけれど、はいそうですかとは言ってくれないわよね?」
 ラダの言葉にも言葉は返らない。
 兵が剣を構えようとするのを片手で制して下がらせ、白銀の甲冑の騎士が一歩前へと出た。まるで『誰か』との一対一を望むように。
 しかし、イレギュラーズたちにはそれに応える道理はない。
 退く気がないのなら、叩きのめすか力尽くで退かせるだけだ。
 いつの間にか――或いは最初から――冷気が室内を満たしていることにイレギュラーズたちは気がついた。吐く息は白く、雪がちらつき出している外気よりもなお寒い。
「寒……氷を操るんっスね」
 ライオリットがぶるると巨体を震わせた。
 静かに。ただ静かに。白銀の騎士は氷を纏い――氷の騎士となった。
「多数対少数だけれど、此方にも退けない理由がある!」
 だから、行かせてもらう――!
 本当は、人間同士の勢力争いになんて関わりたくはないけれど。
 しかれども、今回の騒乱の一連には冠位魔種が噛んでいる。
(……まずは、今できることを)
 根本的な解決には、未だ遠い。けれど今、できることを。
 今はただ、不凍港の奪還を――!
 両頬をパンと叩いて気合を入れた風牙が飛び出し、全員を引っ張る。
 素早い風牙に引っ張られ、此処に集う全員が先制攻撃を取ることが叶った。
「私を倒さない限り、仲間へ攻撃はさせないわよ!」
 蛇のような、けれども自在に動かせる氷を操って攻撃を受けた氷の騎士の前に、力強い光を瞳に宿したレイリーが立ちはだかる。
 鋭く、素早く。穿つために突き出されるはずだった槍が、一呼吸分だけ遅れたような気がするが――気の所為だろう。イレギュラーズたちは氷の騎士とは初対面で、その手を見るのも初めてだ。
(……?)
 けれど、どうしてか。何故かレイリーは『あれ?』と思ったのだ。
「これでも喰らえっス! これは熱冷たいっスよ!」
 ライオリットが炎と氷のブレスを吐いた。それは氷の騎士のみならず、その場にいる殆どの者たちの動きを鈍くするものだ。室内を舐めるブレスに飲まれた仲間たちはたまらず眉を顰める。殺傷能力自体は低いことが、幸いであった。
「えーい、くらえー!」
 小さな体で、リュコスは果敢に前へと出る。
 リュコスの真骨頂は怪我を負ってこそだからだ。
 レイリーとイリスが仲間たちの盾となるべく動いてはくれているが、多を相手にする氷の騎士が複数を相手にする技を使用すると踏んでのこと。庇い手と回復手にギリギリまで不要の旨を伝えるのを忘れてしまったが、それでも少しは火力が増す。
「大丈夫。援護は任せて欲しい」
 ラダの降らせる鋼の驟雨が、仲間たちを避けて降り注ぐ。
 保護結界を展開しているとは言え、頼もしいことだとレイリーは口の端を開けて槍を握りしめた。
 同じ槍使いとして、僅かに高揚を覚えている。
 相手はどんな技を使うのだろう。どんな足捌きをして、槍を繰り出して――。
 一片の情報も逃さぬように、盾を構えて注視する。気付いた情報は、武器にもなるのだから。

 ――――
 ――

 イレギュラーズたちが打ち込む。
 その度に、キンと氷が受ける。
 隙のない槍さばきに、精錬された動き。
 しかし、長期戦に持ち込むのは、互いの利にならないはず。
 幾度か鐡や鋼、氷を交わらせて強さを示してから、ルカが薄い唇を開く。
「アンタは中々手練だが……ちっとばかし状況が悪いんじゃねえか?」
 ルカの言葉に寸の間、悩むような反応が開いた。境界を描くように針のような氷柱が床から生えた。
「聞こえているだろう、指揮官殿」
 ラダがその言葉に続く。
 耳を澄まさなくとも、外からの喧騒が聞こえてくる。
 外で、信を置く勇敢な仲間たちが、今果敢に戦ってくれている。
「私達は弱くはない。じきに玄関も制圧することだろう」
 それに、ノーザンキングスの勢力もこの庁舎を落とさんと戦っている。
 既に氷の騎士の側には二名の兵しかおらず、残りの兵は廊下や外で倒れているか、残り僅かな兵が正面玄関を死守している。それもきっと、長くは保たない。先が見えている。
 けれど、それでも、なお。
「最後のひとりまで戦うつもりなのかな、指揮官殿?」
 凛とした声を放つケンタウロスの女性の声に、氷の騎士は暫し考えたようだった。
 氷の騎士が本気を出して戦えば、ひとりでもこの場にいるイレギュラーズたちを退けることは叶うだろう。しかし、それだけだ。兵たちが居なくては、この拠点を機能させることは出来ない。そして、この庁舎敷地内の他の建物でも似たようなことが起きていると想定すれば――。
「――撤退だ」
 氷の騎士が槍を下げ、後方に控えさせていた新皇帝派の兵へ短く指示を出した。彼等を下げたのも、最初から撤退を視野に入れていたからだろう。己ひとりさえ無事であれば良いという思考ではないのなら、伝令役は必要だ。
 兵はイレギュラーズたちへと視線を向けたが、イレギュラーズたちが得物の切っ先を下げて傷つけない意思を見せれば、他の兵等に伝えるべく横をすり抜け、扉を抜けた。
 初めて発した氷の騎士の声は、高すぎることも低すぎることもない。ヘルムの中で反響しているのかくぐもっており、本来の声とは少し違うということだけが解った。
 それなのに。
(……どうして、私はこんな気持ちを)
 レイリーは何故だか『懐かしさ』に似たものを覚えた。
 本当はそれをずっと感じていた。
 ヘルムに覆われた騎士の視線から、足運びや槍運びから、そして些細な仕草から。
(昔、どこかで……)
 ふたり、懐かしい顔が思い浮かぶ。けれどもすぐに思考から追い払う。それは『あり得ない』ことだ。彼等は既に鬼籍に入っている。死者は生き返らない。それだけはこの世界の絶対の摂理。
 レイリーは、氷の騎士の背へ向けて声をかけた。
「ねぇ、氷の騎士さん。貴方の名前、なんて言うの?」
「…………」
 氷の騎士は応えない。
 けれど、一呼吸分だけ足を止めた。
 すぐに騎士はイレギュラーズたちが入ってきた廊下側ではない出入り口――バルコニーへと向かって歩いていき、その向こうへ姿を消した。飛び降りたのだろう、ガシャンと鋼の音がした。
(……貴方は誰なの? また、会った時は教えて)
 言葉でも、戦いでも。
 次に会ったらきっと、何か掴めるかもしれない。
 そんな気がするから――。

●wirbelwind
「増援を……!」
 そう叫んだ新皇帝派の兵が、建物内から慌てた様子で駆けてきた仲間に何事か耳打ちされる。
 唖然と言っていい表情で固まった彼の姿を、リースリットは見逃さない。
 これ以上の増援が来ないことか、現場指揮官が撤退を命じたか。きっと何方かの報告なのだろうが、勇敢な仲間たちへ信を置いているリースリットは後者の方が確率が高いだろうと踏んだ。
 男の視線がイレギュラーズたちとローゼンイスタフ兵、ノルダインの戦士たちへと向けられ、ぐっと何かを飲み込むような苦い顔となる。
「っ、退け! 全員、撤退!」
 撤退、撤退、と兵から兵へ、声が小波のように広がっていく。
 動ける者は僅かだが、命ある者を抱えて新皇帝派の兵たちは撤退を始めた。
 リースリットは素早く声を張り上げる。
「庁舎を抑えます! ノーザンキングスを入れさせてはなりません!」
 リースリットの凛とした声にローゼンイスタフ兵たちは素早く庁舎を背にし、矛先をノルダインの戦士へと向けた。
「なっ、どういうことだ!?」
「ノルダインの戦士達よ、此処からは私達が相手です」
「当面 ってやつが終わった ってコトだよ」
「すまないが、此処からは俺たちはアンタたちの敵だ」
「退くのであれば、命までは獲りません!」
 できれば撤退して欲しい。そう祈りを籠めて、リースリットは真っ直ぐにノルダインの戦士たちを見据えた。
 しかし、彼等も退くわけにはいかないのだ。
 ぐっと得物を握りしめ、うおおおおおおおと雄叫びを上げて攻めてくる。
 仕方のないことだと解っている。ぐっと一度瞳を閉ざしてから、リースリットは彼等を戦闘不能にさせるべく神呪を放った。
「悪い、待たせた!」
 暫くぶつかり合っていると、唐突に上から声が降ってきた。
「ラダ!」
「ここはもう我々が制圧した。今日のところは諦めるんだな!」
 上階の窓から鋼の驟雨を降らせたラダの援護に、ノルダインの戦士たちが短く悲鳴を上げる。
「くっ……」
「最後までやるって言うのなら、俺たちもやるっスよ」
「ベテクトの庁舎はイレギュラーズが確保したわ!」
 上階へ意識を向けているばかりでもいられない。バタバタとライオリットやレイリーたちが正面玄関から駆け出てきて、イレギュラーズたちが全員、その場に集った。
 彼等の強さを、ともに戦ったからノルダインの戦士たちは知っている。司令部を落とされたのなら、別ルートで中へ入ったノルダインの戦士たちが既に機能していないということも悟った。此処に居るノルダインの戦士たちだけでは、眼前のイレギュラーズたちを倒し切るには戦力が不足していることを痛いほどに理解した。
 命を捨てる覚悟で来た。けれど、生き長らえた命は次に繋げられる。
 この場がダメでも、他の要所を抑えることが叶えば――。
「戦士たち、退くぞ!」
 悔しげに唇を噛み、ノルダインの戦士たちも撤退を決めた。
 イレギュラーズたちの、勝利である!
「我々の勝利です! ローゼンイスタフの勇者達よ、よくぞ戦い抜いてくれました!」
「おおおおおおおぉぉぉぉ!」
「ローゼンイスタフ万歳! ローレットの勇者たち万歳!」
 高らかに告げるリースリットの声に、幾つもの歓声が立ち上がる。
 鎧を鳴らし、武器を鳴らし、ローゼンイスタフの兵もイレギュラーズたちも、ともに喜んだ。
「お疲れ様、みんな。君たちの声、庁舎の中まで聞こえていたよ」
「みんな、がんばったね。とってもえらいよ」
 退いていくノルダインの戦士たちを見て、数名のイレギュラーズたちはふうと吐息を零した。命を奪わないで済むのならば、奪わないに越したことはない。戦いにおいてそれを甘いという者も多いだろう。
 けれどそれでも、と思ってしまうのだ。
「ひとまずは当局庁舎奪還、ですね」
「ああ」
 リースリットの声に、ルカが応じる。
 不凍港の他の要所でも、イレギュラーズたちは戦っている。
 まずは最小限の被害で確かにひとつの要所を抑えられた達成感を胸に、イレギュラーズたちは仲間やローゼンイスタフ兵の傷を癒やしていく。傷ついた者たちは多い。けれどみな、勇敢に戦った。
「他のイレギュラーズたちにも解るように、旗を掲げてくるな」
「俺も手伝うっス」
 庁舎の建物のひとつ。その建物の天辺。そこに、北辰連合とローゼンイスタフの旗が掲げられた。
 きっとそれは、違う戦場で戦う仲間たちの背を押すことだろう。

成否

成功

MVP

新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの

状態異常

なし

あとがき

庁舎のひとつの建物の奪還成功しました。
MVPは速やかな行動、そして潜入のために大きく貢献したあなたへ。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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