PandoraPartyProject

シナリオ詳細

もうふりかえらない

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●しらなかったの、こんなぬくもり
「つらかったろうなあ」
 そんなこと言ってくれたの、あなたが初めてだった。
「しんどかっただろ」
 主上だってそういうことはおっしゃってくれなかったわ。
「魔種になってもしょうがねぇよ」
 長い年月の中を、ひからびた精神でさまよって、戯れに契約をくりかえして。それだけだった私を、『私』を。あなたは見てくれた。
「ねえラウラン、私が死ねばあなたも死ぬのよ。イレギュラーズに与するのは遠回りな自殺よ?」
「それでも俺はイレギュラーズの側に回るけども。村や家族や、守りたいもんはたくさんあるし」
「あ、そう。好きにすれば、あなたの都合なんか私考えないわ、めんどくさいもの」
 だから私好きにしたわ。子供を集めて絶望を食らったわ。あなたの大事な村も家族も無茶苦茶にしてやったわ。
 なのにその憐れむような視線は何?
 ぎゅーってしないで。うっとおしい、うっとおしい。
「まあ最後の瞬間、俺くらいはそばにいてやるよ」
 うっとおしい、うっとおしい、うっとおしい男ね。愛して愛されて育ったあなたに私のことなにがわかるっていうのよ。でも……。

 ……嘘じゃないよね、ラウラン?
 契約は絶対よ。私は魔種で、あなたはただの契約者。私とあなたは魂がつながっている。それだけでいさせてあげる。呼び声も使わないであげる。狂気にも侵さないであげる。だからそばにいてよ。どこにもいかないでよ。

「まあ最後の瞬間、俺くらいはそばにいてやるよ」

 あなたから言い出した『契約』なのだから。


「うーん……」
 イシュミルはうつむいて顎に手を当てた。
 銀髪がさらりとこぼれて頬へかかる。その姿だけみれば並の女は腰砕けになるだろう。彼はイシュミル・アズラッド、アーマデルの保護者兼担当医である。専門は精神・薬事。魔種トリーシャとの対決の後、昏睡状態に陥ったラウラン・コズミタイドを診察していたのだが。
「イシュミル」
 アーマデルがイシュミルへ声をかける。彼の眉間には深い縦じわがある。答えを急ぐアーマデルの口元へ人差し指をかざして、イシュミルは口を開いた。
「いいニュースと悪いニュースがある」
「悪いニュースのほうが多いんだろう、どうせ」
「あたり。最近のアーマデルは人の気持ちを読めるようになったのかな? 喜ばしいことだ」
「茶化してないでさっさと吐け」
「あ、あんまり、怒らないで……」
 怒気を含んだアーマデルの声に、リュコスがおそるおそる声を押し出す。
「そうだぞアーマデル。それはそうと、イシュミルはアーマデルに近づきすぎじゃないか?」
 弾正がからかいながらもふたりを引き離した。アルトゥライネルはそんな三人に微妙な顔をしている。
(どういう関係なんだ? いや、まあ置いておいて)
「イシュミルとやら、ラウランはいったいどういう状態なんだ?」
「そうだね」
 イシュミルは腕を組んだ。
「悪いニュースから言おう。彼の魂はいまだ魔種トリーシャにとらわれている。正確に言うと、トリーシャが持っていた人間らしさ、その残骸がラウランの魂へこびりついて共存しているんだ」
「本体は倒したがラウランへ執着した部分はまだ生きている、と」
「そのとおりだ。アルトゥライネルだっけ。キミはなかなか聡いね。理解が早くて助かるよ、そこの誰かさんと違って」
「おい」
 アーマデルが尖った声を出す。弾正がその頭をポンポンと撫でる。
「そ、それで、いいニュースってのは?」
 リュコスが首を傾げた。イシュミルはすこしの間沈黙した。
「トリーシャをもういちどやっつければ、ラウランは助かるの?」
 あの激戦を思い出したのか、リュコスがぷるりとふるえる。
「いいや、この場合は逆かな」
「「えっ」」
 リュコスとアーマデルが目をぱちぱちさせる。
「いいニュースを言おう。トリーシャが取り付いている限り、ラウランの安全は保証される。つまり飲まず食わずでグースカ寝ていても平気ってことだ。診察してみたけれど、筋肉や代謝の衰えは見当たらなかったしね。これは魔種の強烈なホメオスタシスが……」
「すまないイシュミル、もうすこし噛み砕いて言ってくれないか」
 弾正が頭をかくとイシュミルはまた顎に手をやった。
「えーと、つまり目覚めるのを拒否しているのは、ラウランの方なんだよ。つまり彼は自ら進んでトリーシャにとらわれているってこと」
「やっぱり悪いニュースじゃないか」
 アーマデルが深い吐息をこぼした。
「だが一翼の蛇の使徒として、未練は引き剥がさなければな。このままでは……」
 アーマデルは真摯な瞳で、ひたり、とイシュミルを見据えた。
「トリーシャはラウランの魂をつかんだまま、永遠にさまよい続けることになる」
「御名答」
 イシュミルがゆっくりと拍手をした。
「そういうところだぞ、イシュミル。いいから今回の要点を言え」
 アーマデルがまた不機嫌そうなジト目に戻った。イシュミルはフラスコを取り出した。中にはこぽこぽと煙を上げる薬剤がつまっている。

「いまから君たちには、サイコダイブをしてもらう」

「AIOAIUってなに?」
 リュコスが困ったように質問を重ねた。聞き慣れない単語だったのだろう。それもそうだ。
「ああ、サイコダイブってのは他人の精神へ潜り込むことさ。本来なら特殊な訓練を受けた者でないといっちゃだめなんだけど、なにせ緊急事態だからね。それに、運命の特異点であるイレギュラーズ、キミたちなら問題なく行って帰ってこれるだろう。サポートは私が行うから大船に乗った気分でいてくれ」
「それで、どうすればいい?」
 アルトゥライネルは食い気味にイシュミルへ迫った。イシュミルはフラスコの中の薬をテーブルの上のコーヒーカップへ注いでいく。ちょうど、人数分。
「これを飲めばキミたちはおねんね。目が覚めた頃には一件落着という寸法だよ」
「過程をすっ飛ばしすぎだ、イシュミル。ようはその薬を飲んで、ラウラン殿の精神へ入り込む。そこで、ラウラン殿とトリーシャを引き離す。そういうことだな?」
「よくできました、アーマデル」
 イシュミルはにっこりほほえみ、白煙を上げるコーヒーカップをアーマデルたちへ配った。
「なにか気をつけることは?」
 アルトゥライネルの問いに、イシュミルが答えた。
「白兎を追うんだ。討つべき相手を迷わないようにね」

●しろうさぎの独白
 だれかたすけて。彼を。もう私にはどうしようもないの。彼にしがみつくことしかできないの。だから、だれか。だれか。彼を、私が取り込んでしまった彼を、この『契約』から解き放って。

GMコメント

おそくなりましたー!

ラウランさんを助けよう、拳で。
戦闘シナリオですが、どちらかというと心情よりです。

●エネミー
ラウラン・コズミタイド
 アーマデルさんの関係者です。トリーシャちゃんの「愛されたかった」という強烈な未練がラウランへ取り憑いています。そこへ魔種の契約者になっちゃったけど、それでも故郷も家族もなにもかも守りたいという彼の強欲が作用して思いもよらない状況に陥っています。具体的に言うとめちゃくちゃ強くなっていて、HPAPとEXAがべらぼうに高くなっています。ラウランの精神世界なので、主であるラウランが強いのはある意味当然なのです。
 なにもかも終わったのだ、このままではトリーシャともども不幸になるだけだと、きっちりわからせてやりましょう。拳で。
・レンジ無視・物理・麻痺系統BS矢
・レンジ無視・物理・毒系統BS矢
・レンジ無視・神秘・回復矢 HP回復大・AP回復大
・怒り無効
「俺がこいつを守らなきゃ、誰が守るんだよ!」

魔種であった者 トリーシャ
 ラウランの後ろで泣いているだけの少女です。薄幸の美少女という面立ち。まっしろなブラウスを着ていて、長い髪は銀色です。泣きはらした瞳は、うさぎを思わせるかも知れません。
 自分からは攻撃しません。
 ・ダメージを受けた時、50%の確定ダメージ、追加で凍結系BSを与える
 ・怒り・精神系BS無効
「ごめんなさい、私には、もう……」

●戦場
 ラウランさんの精神世界です。いきなり戦闘から始まります。
 森の中の花畑が舞台ですが、1Tごとに背景が変わります。ただしフレーバーであり、ペナルティはありません。

 このシナリオは「ふりかえる気なんてなかった」(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8308)の続きですが、読んでおくとニヤリとできる程度です。

  • もうふりかえらない完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
冬越 弾正(p3p007105)
セクシーキング
アルトゥライネル(p3p008166)
努々隙無く
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ

「なー、もう泣くなって。俺のことはいいからさ。ほら」
『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)がまぶたを開いた時、最初に目に入ってきたのは涙をこぼすトリーシャと、その傍らにしゃがみ込んでいるラウランの姿だった。サイズは思わず自分の姿を確認した。本体である鎌は杖と化し、かりそめの肉体も魔道士のような姿となっている。
(うん……なんで僕が……? エラーが生じたのか? サイコダイブの影響か……まあ、問題ないか……)
 サイズは杖を構えた。
(やるべきことはひとつなのだから)
 ラウランが立ち上がった。
「なんでおまえらがここにいるんだ?」
「そりゃ助けに来たからにきまってるっス」
『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が問いかける。
「俺はトリーシャと心中したはずなんだが」
 いぶかしげな様子のラウランに葵はさらに言葉を吐く。
「アンタは生きてるっスよ。そこのトリーシャに守られて」
「……そうか。だけど悪い、帰ってくれ」
 キリリとラウランが弓を引く。
「――執着に、強欲か。複雑だね」
 勢いよく放たれた矢を片手でつかみ、『闇之雲』武器商人(p3p001107)は、溜息を零した。気持ちはわかる。ラウランも、トリーシャも。ソレにはよくわかる。わかってしまうのだ。強欲も執着も。身に覚えがあるのだから。それこそが武器商人をいまの姿たらしめているのだから。
 矢の雨の中、『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は果敢に叫ぶ。
「もう……起きる時間だよ!」
 そして唇を噛んだ。後悔の念がリュコスを後押ししていた。
(あのときはとどかなかった。トリーシャも心をひらきかけていたのに……あと少しで……。チャンスがあるのなら、今度こそ……ぼくは二人をたすけたい)
 それは憤怒と呼ぶにふさわしいのかもしれない。リュコスの心にうずまく感情は、あのときの自分へのわだかまり。
 矢を叩き落とし、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は眉をしかめる。
(ラウラン殿は俺にとって兄のような人だ。……そしてわりと常識人の枠だったんだが……?)
 見据えるもラウランの目に狂気は見えない。ただ深い溝は感じられた。
(イシュミルが言っていたな。目覚めるのを拒否しているのはラウラン殿のほうだと。ラウラン殿の強欲が今度はトリーシャへ向かっているのか?)
 思慮に耽るアーマデルの肩を叩く男がいた。『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)だ。
「アーマデル、ラウラン殿を迎えに行こう。トリーシャは俺達の想いに応えようとしてくれた。だからこうして好機が巡ってきたんだ。彼女が紡いでくれた希望の糸を、今度こそ掴んでみせる!」
 肩をぐっと握られ、アーマデルはかすかな笑みを口元へ浮かべた。
「行こう弾正。ラウラン殿をわからせ、トリーシャを送る為に」
 そうだそこからだ。自分が死んでいるか生きているかすらわかっていないような男に何が救えようか。すべてが手から零れ落ちていく哀しみを、味わうのは自分だけでいい。
「愛」
『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はそう口にした。
「一口に愛と言っても、友愛、親愛、色んな愛がある。無償だったり有償だったり、有償から無償になったり、狂った愛や殺し愛なんかのドロドロしたのもあれば、最初にあげた温かいものもある」
 そこでウェールは言葉を切った。
「生体兵器だった俺ですら、他者を、息子を、愛する事ができた。だからトリーシャの嬢ちゃんにもできたんだろう。ラウランさん。残念ながらその強欲が、今度はトリーシャの嬢ちゃんを破滅へ導いているのがわからないというなら……」
 鋭い矢が次々と棍棒のような腕へ突き刺さる。けれどもウェールはどうと言う事はないと言いたげに腕を振るった。パンプアップした体から矢が抜け落ちていく。
「俺達はなすべきことをなすだけだ」
 それを聞いていた『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)の頬へぴっと傷が走った。矢がかすったのだ。つと垂れた血をぬぐい、アルトゥライネルはラウランをにらみつけた。
「アンタは諦めてない。だが、俺もあきらめない。トリーシャが最後に救いたかったアンタを。理由なんてなんでもいい、贖罪でも自己満足でも、そっちへ行くと決めたアンタを殴ってでも村へ帰す」
 アルトゥライネルは紫染へ風を孕ませた。
「約束はまだ、有効だろう?」


「おまえらに何がわかるんだよ!」
 矢をばらまくラウランにウェールが「落ち着け」と声をかける。傷を負った獣とはよくいうが、いまのラウランはさしずめ子を守る親のようだ。そんな相手を攻撃しなければならない自分たちの業にウェールはかすかに目を伏せた。現状維持では何も進まないのだ。トリーシャを送るためにも。
 ウェールは両腕をかかげた。まるで降参したかのようなポーズに矢の勢いが衰える。しかしそれは白旗をあげるためではない、戦いののろしそのものだった。ウェールの両手の間に紫色の珠が生成され、鋭い針がラウランへ向けて飛んでいく。
 それを腕でガードしたラウランはじわりとにじむ痛みに顔をゆがめた。
「毒か」
「非礼ではあるが、まずはあなたに眠ってもらわなければ嬢ちゃんと話ができないのでな」
「はっ、やってみろ! おまえの思い通りになってたまるか!」
 強弓が放った一撃がウェールの心臓を射抜かんとした。するりと影が入りこみ、当然のようにそれを胸で受けた。けれどソレは痛みなど感じないのか、両手を前へ突き出して挑発する。
「お姫様を守るナイトの攻撃が、こんなに浅くていいのかい? 我(アタシ)も射抜けないようじゃウェールの旦那まで届きはしないよ。もっと本気でおいで、さあ、さあ、さあ!」
 ラウランは舌打ちして攻撃の的を変える。武器商人とのいたちごっこが始まった。
(ふむ、思ったより冷静だね。守るべき者を後ろに抱えているのだからある意味当然か)
「黄金のしらべよ、我が身へ続け、妖精の粉よ、我が身を包め、金色の成熟した智慧の実、あとは落ちるだけの身」
 自己強化を終えたサイズが地を蹴った。
「はなて、虚ろのアギトよ!」
 召喚された黒龍がラウランへ襲い掛かる。しかし衝撃を受け流したラウランは、その程度と言わんばかりに血の混じった唾を吐いた。
「タフだね。なんてやつだ。僕の一撃をくらって平気な顔をしているなんて」
 サイズは口をへの字に曲げた。その子供っぽい仕草が、逆にサイズの強さを表しているかのようだった。
 次々と攻撃がラウランへ叩き込まれていく。
「ラウラン……!」
「トリーシャ! 俺のことはかまうな! 危ないから後ろに隠れていろ、必ず守るから!」
 声をかける、その一瞬を利用して、リュコスは至近距離まで肉薄した。
「やあっ!」
 短い掛け声とともにラウランのわき腹がぱっくりと裂ける。
「ラウラン!」
「だいじょうぶだ」
 トリーシャを安心させるようにラウランは回復薬をわき腹へかけたが、傷が治る様子はない。はじめてラウランに焦りの色が見えた。
「ごめんね、回復されると厄介だから、呪わせてもらったよ……」
 リュコスは悲し気にそう言う。
「んな顔すんなよ、こっちもつらいだろ」
 リュコスへ矢を撃つと今度は身をひるがえして影から迫っていた弾正へ蹴りを入れる。
「ぐっ!」
「近寄ればなんとかなるとでも? あいにくと最低限の体術は師匠から叩き込まれてるんでね」
「いいや違う、俺はラウラン殿を迎えに来ただけだ」
「さっきもそれ言ってたけれど、俺はもう帰るつもりはない。トリーシャとかわした契約を守るためにも」
「ラウラン殿……」
 脇でそれを聞いていたアーマデルが奥歯をかみしめた。
(死者と生者の境界を保つもの、死者の未練に寄り添うもの、使徒として、彼らに縁あるものとして、俺に何ができる?)
「さてラウラン」
 矢の雨にも臆せず、葵が立ちはだかる。
「前回も正面からぶつかってたっスね。まったく……残りカスになっても厄介なもんっスねぇ、魔種ってヤツは」
「たとえ魔種だろうと、トリーシャはもう俺の大事な妹だ」
 その言葉にトリーシャが頬を染めた。大きな瞳に喜びがにじむ。そしてすぐに喜びは後ろめたさにとってかわられたようだった。彼がそういうのは、彼をそうしたのは、ほかでもない自分自身だから。
「アンタの願いは何スか、これからどうしたいんだ?」
「……え」
 トリーシャが顔を上げた。
「何も言えずに消えるだなんて、あんまりだろ?」
 葵の澄んだ瞳がトリーシャを見据える。
「わ、私は……」
 そのままうつむいていしまったトリーシャへまたも声をかける者が居た。
「嬢ちゃん」
 ウェールはやさしい声を出した。年相応の少女へかけるような声を。
「泣きやむのが無理でも、自身を愛してくれる男が嬢ちゃんの為に戦っているんだ。応援の一つくらいしてやろうぜ」
「そうだとも」
 武器商人もまた存外にやわらかな声音をだす。
「すまないね。ここにいる誰よりも、その執着がわかるのだけれど。本音は『上等じゃないか、居座ってやれ』と言いたいよ」
「……でも、そんなことをしたら」
「わかっているんだね。察しの悪い従者よりよっぽどできた主だ。ほら、主人はキミだろう・余り泣かずに健気な契約者に報いておやり。主人の務めだよ。何か遺せない? 最後まであがいてこその執着だ。そうだろう?」
 その言葉を聞いたトリーシャはぼろぼろと大粒の涙をこぼし始めた。震える声がラウランの名を呼ぶ。
「……ラウラン、私ね、ラウランとずっといっしょに居たい。時を止めていつまでもこうしていたい……!」
 鬼神の如く攻撃を裁いては反撃していたラウランが、またたきの合間、うろたえた。
「ぶべっ!」
 そこへ葵のGGが顔面へぶち当たる。
「確保っス!」
 弾正がタックルしてラウランを押し倒し、リュコスが矢筒を奪う。護身用の短剣を振り回すその腕をアーマデルが抑えつけた。
 トリーシャは泣き続けていた。体中の水分を押し出すような号泣だった。
「でも……だめなの、わかってるの、それじゃだめなの……私は……『いい子』だから、わかっているの!」
「よしよし」
 武器商人がトリーシャを抱きしめる。香のたきしめられた衣がトリーシャを包む。
 葵は地に伏したラウランを見つめた。
「ラウラン、アンタがその魔種を守る理由は何スか! ソイツを守った先に何を見てるんだ! 目先と曖昧な未来しか見てねぇクセに頑固になるのはバカのする事だぞ! 現にそうだろうが! こんな夢の中に引きこもって、たった一人……死んだヤツの残りカスに執着してるじゃないっスか。何が仲間だ、家族だ! 全部捨てちまってるじゃねぇか、それでいいのかよ!」
 駄々をこねる子供をしかりつける声で、葵は諭していく。
「サッカーは11人でやるもんだ、人ひとりが抱えられる重さは十分知ってる。あんまナメたことぬかすなよ……その内、冗談抜きで何も守れなくなるっスよ」
「まったくだ」
 サイズが言葉を継ぐ。
「守る守るといっているが、誰かを守るためにはまずは自分を守れなければならない。ここが夢の中、精神の中だというのは理解してあるかい、ラウラン? 混沌……現実のあんたは殺意あるやつに近寄られたら抵抗も出来ずに一撃で命を刈り取られる、誰かの保護が必須な状態だ……。そんな状態で惚れたかどうだかは知らんが、守る事をしてもかえって守るべき人の心は守れねーよ」
 ラウランはぐうの音も出ないようだった。
「それにこのままだと次に故郷や家族が何かに襲われたらどうする? 戦う力があるのに見捨てるのかい?」
「そ、それは……」
「どれだけ夢見ても時は、不可逆は逆巻かない……終わってしまった物語に執着してないで現実見な……守れなかった物に心を囚われてると残った物も守れなくなるよ? そうなってしまったら仕方ないですませるのか?」
「だけど俺はもう村には帰れない……。魔種の契約者だから」
「ラウランさんや、ぽっと出の部外者だから的外れなことかもしれないが……」
 ウェールが割って入る。
「ラウランさんなりに村を守ろうとしたことは聞いている。そんなラウランさんを誰が拒むだろう。勝手に悩んで自分で思い込んでやしないか? それよりも嬢ちゃんの墓でも立てて、お参りの度にこんな楽しいことがあったとか話しかけて、嬢ちゃんを愛し続けながら嬢ちゃんの分も幸せになる方がいいぞ」
 ラウランはふてくされた顔で聞いている。図星を刺されたのだろう。
「別れは終わりじゃない。ずっと想っていることが傍にいるってことだと俺は思う」
 大切な我が子の面影を胸に抱き続けるウェールならではの重いセリフだった。その言葉はラウランにも響いたようだった。
 アルトゥライネルがラウランの傍らへ座り込む。ちょうどあの日トリーシャの傍らへそうしたように。
「もう終わったんだ。これではトリーシャが苦しいばかりだ。孤独の中でも、最後の瞬間、共に在れた。それが嬉しかったんだろう。彼女は解き放つつもりだったんだ。今度はアンタが手を離してやらないと。送ってやろう、一緒に。ラウラン、頼む」
 アルトゥライネルは語った。彼女を討った時の激戦を。言いかけて叶わなかった最後の言葉を。アルトゥライネルにしか言えないことだから。彼女を討ったからこそ、その意味を知っているアルトゥライネルだからこそ。この場にいるのだから。けれど表情を変えないラウランにアルトゥライネルはつい声を荒げた。
「いつまで『縛り付ける』つもりだ! この狭い籠に閉じ込めておいて、今のトリーシャの気持ちに向き合わないのか! 俺達よりもずっと彼女に寄り添ったアンタが!」
「ヒヒ、そうとも。貴様が今この瞬間、そのコを危険に晒してるんだろう。ああ、全く。強欲なら強欲らしくグースカ寝てないでしっかり抱えて生きろよラウラン・コズミタイド。そんなだから我(アタシ)達が派遣されることになるんだよ」
 武器商人がダメ押しをする。ラウランの意外に端正な顔が苦渋に染まる。そろそろ抑えつけなくともよいかと判断した弾正がラウランを解放した。
「ラウラン殿に守りたい者がいる様に、俺にも守りたい人達がいる。その中には君も含まれているんだ! 音の精霊種の俺には異形創神で伝わる。トリーシャの涙は……ラウラン殿に生きて欲しいと願う涙だ!」
「トリーシャ……」
 ラウランが首をひねって魔種を見やる。武器商人の腕の中、小さな少女は何度も首を縦に振った。
「俺が彼女と出会った時、俺は歌の精霊種としての自信を無くして歌う事を恐れていた。今こうして力強く歌えるのは、君との闘いの中で成長できたからだ、トリーシャ」
 弾正はトリーシャをまっすぐ見て深みのある声をだした。まるでゆりかごのようなそれを受けて、トリーシャの泣き声が小さくなる。
 リュコスもまたラウランへ問いを投げた。
「目を覚まさないのはトリーシャが可哀想だから……? ならなんで今泣いているトリーシャが見えないの? そうやってトリーシャも、自分も縛り付けて! 前に進まないことこそがトリーシャを傷つけてるってわからないの? トリーシャも、ラウランも、前へ進むために……解放して!」
「ラウラン殿、弟妹が待っているぞ。俺もラウラン殿の帰りをずっと待っていた。現状を選んだのは同情か? 愛か? それはどのような思いだ? ……俺は故郷で、兄のような人を亡くした。振り払って……俺がとどめを刺したようなものだ。ラウラン殿ににも、今のトリーシャにも、そうしたくはない」
 何かを振り払うようにアーマデルは深く息を吐いた。
「死者は往くべき処へ。残された未練もいずれ解かれねば。それらは巡り廻るが世界の理、逆らい留まれば淀んで歪むもの。トリーシャ、往くべき処へ逝こう、『トリーシャ』であるうちに。これほどの縁を結んだのだ、『次』はラウラン殿の近くに生まれてくるかもな」
「そう……ね……そうだと、いい……」
 武器商人はかがむとトリーシャの涙を拭いてやり、頬ずりをした。さよならの合図を。
「──”火を熾せ、エイリス”」
 武器商人の攻撃を受けて、小さな体躯が弾かれるように跳ねた。その体を抱き留め、リュコスはくしゃりと泣きそうな顔をした。
「ごめんね。あの時は仕方ないからって君を傷つけてそれきりだった。一部だとしてもちゃんとお別れが言えてよかった。前に進んだ先で今度こそ幸せになれますように」
「唸れ、縁を断つ僕の力、二度と交わることなき縁を裁ち切れ!」
 サイズの杖から雷が飛び出し、トリーシャを打った。まっくろの炭と化した体を、ラウランは呆然と眺めていた。
「ごめ、んね、ラウ、ラ……つぎは、あなたと、いっしょに……」
「ばいばい、またね」
 哀しみも愛しさも、万感の思いを込めて、リュコスはトリーシャへとどめを刺した。


「不可逆は逆巻かない…悲恋の呪いめ…こっちにも当てはまることを…」
 サイズは小さな声でつぶやいた。現実の世界に帰ってきた一行は、ラウランの目覚めを待った。すっと一筋涙が流れ落ちラウランが体を起こす。ナミダを流した方の瞳は、トリーシャと同じ赤い瞳に変じていた。
「きっとあいつの生きていた証なんだろうな。俺は忘れない。さみしがりの魔種がいたことを」
 それから彼は照れくさそうに笑った。
「助けてくれて、気づかせてくれて、ありがとう」

成否

成功

MVP

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼

状態異常

日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
冬越 弾正(p3p007105)[重傷]
セクシーキング
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切

あとがき

おつかれさまでしたー!

長らくおまたせしましたラウランさんのお話はこれでおしまいです。
ご参加いただき誠にありがとうございました!
MVPは鎮魂の大切さを説いたあなたへ。

またのご利用をお待ちしています。

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