シナリオ詳細
<総軍鏖殺>撤退不可。或いは、この橋、渡るべからず…。
オープニング
●身命を賭して
「俺の治世(ルール)は簡単だ。この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ」
新皇帝バルナバスの放った勅令が、鉄帝全土を騒乱の渦へ叩き込む。
それは、首都スチール・グラードから遠く離れた南部戦線防波堤。城塞バーデンドルフ・ラインも例外ではない。
各地へ進行を続けるバルナバスの部下たちと、一進一退の攻防を繰り広げていた。
「なんっすか……これ?」
ところは城塞バーデンドルフ・ラインから遠く離れたとある渓谷。
煉瓦と鉄骨で作られた、幅の広い橋のたもとにいかにも粗末な砦があった。否、それは砦と呼ぶにはあまりにも小さい。そこらの廃材や土嚢、岩などを組んで辛うじて防壁と呼べる形に整えた程度のものである。
防壁の奥には幾つものテント。
それから、痩せて、怪我をした兵士たちの姿がある。
「少年兵……志願兵か、徴兵されたのか。お……大人はいないんすか? 指揮官は誰が?」
辺りを見回しイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は首を傾げた。
年の頃は10代前半から後半にかけて。装備は機関銃やボウガンを持っているだけ。数だけは、20名ほどと橋の1つを防衛するには足りる数だが、それにしたって兵士たちは若すぎる。
誰もが大なり小なりの怪我を負っているし、見たところ補給さえもままならない状態のようである。
「……バルナバスの軍人たちも、そう頻繁に攻めてきている風じゃないっすね。それでも、結構な戦闘があったみたいっすけど」
橋の長さはおよそ200~250メートルほどだろうか。
渓谷の向こうに見える明かりは、新皇帝派の軍人たちがキャンプでも張っているのだろう。
橋の中央付近は破壊の痕跡が色濃い。少し前に大きな戦闘があったのだ。よくよく見れば、地面には夥しい量の血の痕も残っている。
「えっと、そこな少年。この戦場は一体……指揮官、っていうか大人はいないんっすかね?」
イフタフは近くにいた少年兵に声をかけた。
壁に背中を預け、項垂れるように休んでいた背の高い少年だ。
「指揮官? 隊長なら数日前に死んじゃったよ。戦死者はまとめて向こうの穴に埋めてある」
やはり、と。
イフタフは歯噛みする。
「指揮官不在っすか? それで、どうして撤退しないんっすか? このまま戦い続けたって、補給もままならないようじゃ……」
「撤退? 俺らは孤児だから、撤退したって行く宛ては無いよ。この傭兵部隊が家で、部隊の皆が家族で、たぶんここが死に場所だもの」
それに、と。
すっかり疲れたように笑って、少年兵はこう言った。
「身命を賭して橋を守り抜け、って命令を受けているんだ。向こうに敵の姿も見えるし、俺らはまだ生きてるから、退けないんだよ」
●橋を守る
「というわけで、橋を守る任務っす」
そう言ってイフタフは、渓谷周辺の地図を地面に広げた。
橋の長さは200~250メートルほど。素材は煉瓦と鉄骨という非常に頑丈なものだ。道幅も馬車が4台は横に並んで走れる程度には広い。
渓谷を挟んで南側には、傭兵部隊の築いた簡易な砦がある。
そして、橋の向こうには鉄帝国軍人およびならず者の傭兵たちによる混成部隊が逗留している。
「敵の数は30人ほどっすかね? 軍人の指揮官はビルという男性っす。大戦斧を振り回して【必殺】【飛】を叩き込むって戦法を好む力自慢の男っすね」
ビル配下の軍人たちはおよそ20名。
残る10名はならず者の傭兵部隊だ。
「傭兵たちの指揮官は、フクロウの翼種っすね。名前は不明なんで、フクロウって呼んでおきましょう。脳筋揃いの軍人たちをサポートする、遠距離支援に長けた連中っすよ」
そこまで言ってイフタフは、数度ほど地図を指で叩いた。
それから彼女は、顎に手を添え首を傾げる。
「これだけの人数がいて、少年兵で構成された部隊程度に手こずることも無いと思うんっすよね。たぶん、傭兵たちが軍人たちの足を引っ張っているんじゃないっすかね?」
何しろ、橋を超えてしばらく進むと城塞バーデンドルフ・ラインに辿り着く。
最前線の戦場へ進むことを、傭兵たちが忌避しているのではないか、とイフタフは予想しているのだ。
「この場でずるずる時間を浪費していれば、傭兵たちは安全に報酬が貰えますからね。少年兵たちに届く補給物資が少ないのも、傭兵たちのせいじゃないか……と思うんっすよ」
生かさず殺さず、進まず退かず。
時間だけを浪費して報酬を得るのが、傭兵たちの目的だろう。
「まぁ、私の予想に過ぎないっすけどね。ともかく、橋を守る必要があるのは事実っすから、イレギュラーズも手を貸しましょう」
成功条件は、敵戦力の壊滅および撤退、或いは橋の完全破壊ということになるだろう。
- <総軍鏖殺>撤退不可。或いは、この橋、渡るべからず…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●諦観の終点
湿った風が吹いている。
傷だらけの少年たちが、壁に背中を預けて地面を見つめていた。
身じろぎの1つもしない。けれど、肩はわずかに上下している。
少年たちを守るのは、1丁の銃と泥だらけの軍服、それから銃痕に塗れた防塁ばかり。幅の広い大きな橋と、その向こうには敵の部隊が控えていた。
前方には敵兵。
補給はない。そして、撤退の許可も出されていない。それゆえ彼らは、飢えた腹に泥水と雑草、ほんの僅かな麦粒を詰め込み、戦い続けることしかできない。
孤児を寄せ集めただけの傭兵部隊などそんなものだ。
彼らの命は、弾丸の1発より幾らか高い程度の価値しかないのだろう。
「本拠地に繋がる大規模な橋に、たったこれだけの兵士と、子供……食うに困る国が、戦争で勝った例ってあったかしら」
呆れたような呟きと共に、1頭の黒馬が現れた。黒馬・ラムレイに跨るのは小柄な女性だ。戦場に現れた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の姿を見て、少年兵たちがのろのろと立ち上がり敬礼を返す。
彼女の出で立ちや立ち居振る舞いを見て、自分たちの上官……それも遥か上の地位にいる者だと判断したのだろう。
仮にイーリンが軍部に属する者でなくとも、少年兵たちの立場を思えば、この世界には礼を失していい相手などほとんどいない。
「この橋が大事なのはわかるけど、こんな子達だけで守ってるなんて」
「死守命令かー。少年兵達には酷な状況だわね」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)と『狐です』長月・イナリ(p3p008096)。装備も統一されていないが、黒馬に乗った女性の仲間たちだろう。敬礼の姿勢を崩さぬまま、少年兵たちはまっすぐに真正面を見据えていた。
必死に背筋を伸ばしているが、例えば覇気や闘志といったものは一切感じられない。疲労困憊と飢え、ストレスによる身体的および精神的な衰弱が激しい。この状態で橋を死守できているのは奇跡に近い。
或いは、敵部隊に随行しているという傭兵たちの遅延行動が、よほどに上手く作用しているのであろう。
「ふむ、中々この現場は酷い有様であるな」
「子供がさ。此処を死に場所にするっていうくらい貧困としてるし、それでも新皇帝派が暴利を取る時代。そして勝てば勝つ程、より厄介な敵が出てくる。考えれば考える程馬鹿馬鹿しくなってくる内乱だな」
そこら辺に転がる岩を持ち上げた『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)と『ザーバ派南部戦線』解・憂炎(p3p010784)は、それを防塁に積み上げた。
防塁の上に腰を下ろして『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は橋の向こうに視線を向けた。橋の長さは200~250メートルほど。敵軍の数は30ほどか。
前線に並んだ軍人たちの手前では、腕や脚に包帯を巻いた傭兵らしき男性が身振り手振りで何かを伝えているようだ。
「ん~成程ね……彼方さんの思惑はどうであれ……ちょっと気に入らないなぁ」
傭兵の歩き方を見れば、傷の程度もおよそ分かる。アイリスの見立てでは、傭兵の傷は決して深いものでは無い。斥候に出て、敵の軍勢に追い回されたとでも報告しているのだろうが……少年兵たちに、そのような力があるものか。
要するに、戦闘期間を引き延ばし、給金や補給物資を獲得するための偽装工作の一環だ。
「まぁ、そういう気質なのだろうからこの子達が生き延びれていたともいえるけどさ?」
敵傭兵たちの行為は気に入らない。けれど、その強欲と怠惰によって少年兵たちは今も命を繋いでいるのだ。
「子供は自由に遊んだり学んだりするのが仕事だ。戦時ってのは分かってるが……なるべく負担がないような状態に戦況を変えてやらなきゃな」
防塁の影から敵軍の様子を観察していた『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、溜め息混じりにそう言った。
孤児が生きていくための手段の1つが傭兵稼業だ。誰だって、恵まれた環境で生きていられるわけじゃない。父や母の庇護の下で勉学に励み、友と遊び、暖かい食事を採って、温かい布団の中で幸せな夢を見る。その程度のことでさえ、満足に享受できない立場の者もいるのだ。
「死ぬことを自分で決めたのならリッパな大人だけれど、選択肢すらなかったならあの傭兵たちはまだ子供だよ」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は上着を脱いだ。
それから彼は、防塁を跳び越え前線へ。
「そして、子供の代わりにカラダを張るのが大人の仕事さ! だから、今この場だけは格好イイ大人の背中を見せてやろう!」
そう告げて、彼はまっすぐに歩き始めた。
●大橋戦線
音の塊が迫る。
それは、都合20名による行軍の音だ。
隊列を組み、足並みを揃えた軍人たちが橋をまっすぐに進んでくる。
橋の半ばほとで足を止めたイグナートは、迫る軍人たちを見据えて拳を握った。
刹那、空気の弾ける音がした。
風船でも割れたような軽い音だ。
弾かれるように憂炎が数歩、前へ飛び出す。顔の前で交差した両腕で、憂炎は銃弾を受けた。衝撃が皮膚を貫き、骨まで響いた。
飛び散る鮮血。
けれど、致命傷にはほど遠い。
「っと、悪いね。この程度じゃ死なない」
憂炎は床に両腕を付けると、大きく口を開いて吠えた。
咆哮が空気を震わせる。
ほんのりと、燻された肉の臭いが……燻製の香りが漂った。
憂炎の雄叫びが開戦の合図だ。
怒号をあげて、軍人たちが駆け出した。その後ろ、20メートルほどの距離を開けて傭兵部隊が続いている。
「来たよ! あいつら、いつもあぁなんだ! 叫びながら突っ込んでくるけど、鎧が重いのか足が遅い!」
「総員、構え! 掃射! 掃射! いつもみたいに足止めをすれば、きっとあいつら引き下がる!」
口々に騒ぎ立てながら、少年兵たちが走り出す。
「まぁ、待つのである。少ない弾丸を無駄に減らすことは無い」
防塁に近づく少年たちを練倒が止めた。
既にイレギュラーズが前線に出ている。ここで少年兵たちが、いつものように弾幕を張れば、仲間たちの邪魔になる。
「なに、この覇竜一の知識人にしてスゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアであるこの吾輩がどうにかするゆえ少年達よ安心して今はゆっくりと休むが良い」
口の端から火を零し、練倒は笑った。
きっと、笑ったのだろう。少年たちに、竜の表情は読み取れないが、声音に滲む感情の色は理解できた。
「でも、ほら……いえ、しかし、端の方から傭兵たちが接近して来ます!」
「ふむ? インテリジェンスの欠片もない」
防塁に両腕を付いて、練倒は顎を全開にした。
ごう、とその喉奥で火炎が燃える。
地面を震わす衝撃と共に放たれた魔力の砲が傭兵たちを飲み込んだ。
魔力の砲に飲み込まれ、傭兵2人が地面を転がる。
1人は肩を押さえて呻き、もう1人は橋の欄干に手をかけて落ちないように藻掻いていた。
「なんだ? 攻城兵器でも持って来たのか?」
「んなわけあるか!? フクロウさんが補給を止めてんだぞ!」
悲鳴をあげる傭兵たち。
その眼前に、金色の影が駆け寄った。
まずは1人。肩を押さえた傭兵の頭部を木製の小刀で殴打すると、金色の影は次に欄干へと跳んだ。
「や、やめっ!」
「さぁ、この谷底に叩き落としてあげるわ! 即死出来たら幸せだろうけど、瀕死の重傷って状態ならこの後は悲惨よ♪」
青ざめた顔の傭兵へ……欄干を掴んだ汚い手へとイナリは小刀を振り下ろす。
傭兵の悲鳴が遠ざかる。
直後、再び空気の爆ぜる音が響いた。
イナリの肩に走る激痛。銃弾を撃ち込まれたのだろう。転がるように後ろへ下がるイナリを追って、さらに2発の銃弾が迫る。
片方は小刀で弾いた。
もう片方の弾丸は、イナリの脇腹を射貫く。
「っ! どこから!?」
「軍人どもの後ろだ! 騒乱に紛れて、安全圏から狙ってる! 突出すると撃たれるぞ!」
「ありがとうベルナルド君! ジグザクに動いて狙われにくくしよう!」
業火を纏った小さな影が、軍人たちの間を縫って疾駆した。振り回される斧を寸でで回避して、滑るように止まることなく焔は前進を続ける。
「よっ、と!」
ついでとばかりに、適当な軍人の腹へ向かって掌打を叩き込んだ。
ごう、と火炎が飛び散る。
衝撃に弾かれ、軍人の身体が後方へ飛んだ。呻き声をあげながら、軍人の身体が地面を転がる。欄干にぶつかって停止した軍人は、頭を振って落ちていた戦斧を拾い上げた。
なかなかタフだ。
「欄干が邪魔だけど……勢いよくぶつければいけるかな?」
装備の重たい軍人だ。
橋の端まで弾き飛ばせば、きっと復帰は難しい。
「オレはイグナート・エゴロヴィチ・レスキン! 子供相手に随分な働きだったそうじゃないか!」
イグナートの放つ殴打が、軍人の顔面を打ち抜いた。
頬骨の砕ける感触と、イグナートの拳を濡らす赤い血潮。舞い散る粉塵が、汗ばんだ肌を黒く汚した。
イグナートの左右を、イーリンとベルナルドが駆け抜ける。
通過の瞬間、ベルナルドは絵筆を振るう。飛び散った絵具は空中で複雑な紋様を描き、軍人の顔に張り付いた。
絵具に驚き踏鞴を踏む軍人が1人。
通過する2人を無視して、イグナートへと駆け寄る軍人が2人。
「オレにもキミたちの力ってヤツを見せてみなよ!」
斬撃がイグナートの胸部に2本の裂傷を刻んだ。
血を流しながらも、彼は前進を続ける。その前に1人、戦斧を手にして、戦鎚を背に負ったひと際巨大な男が立ちはだかった。
「いい気迫だな、青年! この俺が……“猛牛”ビルが相手になろう!」
隆々とした筋肉に、丸太のように太い手足。
ビルと名乗ったその男こそが、軍人たちの指揮官だ。
大上段から振り下ろされた戦斧へ目掛け、イグナートが拳を振るう。衝撃と轟音。両者の咆哮が響き渡った。
「正面から迎え撃つか」
「かっこいい大人の背中って奴を見せてやらなきゃならないんでね」
イグナートとビルの戦いを、少し離れて見守っている者たちがいた。
重装備に身を包んだ軍人たちだ。
「なぁ、今なら討てるんじゃないか?」
「隊長の獲物奪うのか?」
「構うもんか。討てる時に討たなきゃ、万が一ってこともある!」
軍人の1人が、戦鎚を高くへ振り上げた。
それから彼は、腰を落とすと……自分に向けて、戦鎚を振り下ろすのだった。
「……あ、あれ?」
「てめぇ、何考えてんだ? 頭だけでなく、目まで悪くなったんか?」
自分の頭部を自分で打って、軍人がその場に倒れ込む。
それを囲んで様子を見ていた軍人たちのすぐ後ろに、気づけば男が立っていた。彼の手には1本の絵筆。極彩色の絵具塗れのそれを虚空に走らせて、数人の背に簡易なマークを描いた彼……ベルナルドは言った。
「行動は慎重にな。分かるか? お前らもう詰んでんだよ」
手の中で絵筆を旋回させた。
「3秒だけやる。選べよ、降るかくたばるか」
練倒の魔砲が橋を揺らした。
焔の張った結界のおかげで、幸いにも端が倒壊することはない。
けれど、衝撃でイーリンの身体は橋から虚空へ投げ飛ばされた。
「っ……!? ぅぇ」
腰に括りつけたワイヤーが、イーリンの身体を虚空に吊り下げる。簡易飛行を使って、端へと戻るイーリンの前に黒い翼の男が1人、立っていた。
暗視ゴーグルに、肩に担いだ狙撃銃。
口元に浮いた軽薄な笑み。けれど、油断は無い。
「よぉ。一応聞いておこうと思ってな」
狙撃銃の引き金に、男……フクロウは指をかけた。
銃口をまっすぐイーリンの額へと向け彼は問う。
「戦争、いつまでやりたい? 俺はぁ、できればずっとやっててほしい」
傭兵たちの弾丸が、憂炎の胴を撃ち抜く。
よろけた憂炎へ武器を振り上げ、駆け寄っていく軍人たち。けれど、その足元をイナリの斬撃が薙ぎ払う。
踏鞴を踏んだ軍人の頭上を跳び越えて、焔が後衛の傭兵たちへ切り込んでいく。迎え撃つべく銃口が焔へと向いた。
けれど、しかし……。
「一応仲間の顔は立てるけど……ボクは咎人には情け容赦はしない気質だからね」
数多の鎖が傭兵たちの手足を縛る。
それはアイリスの影の内より湧き出たものだ。
片手に鎖を、もう片手には機械仕掛けのブレードを。飄々とした態度のアイリスを見て、傭兵の1人が目を剥いた。
「お前……さっき、撃ち落としたはずだろう」
「ん? あぁ」
呟いて、アイリスは腹部に視線を落とす。
薄い腹には2つの銃痕。血の代わりにオイルが滲んでいる。
「わざと落下したと思わせるために決まっているだろう?」
それで、と。
傭兵たちへ向けて彼女は問いを投げた。
「君たちは咎人かな?」
なんて。
人によく似た機械のような、自然であるがゆえに不自然極まりない笑い顔と口調でもって、アイリスはそう言ったのだ。
●最前線の決戦。或いは、その裏で
折れた戦斧を投げ捨てて、ビルは戦鎚を手に取った。
猛獣もかくやといった咆哮をあげたビルは、戦鎚を大上段へと振り上げる。踏み込みと同時に叩きつけられたそれが、イグナートの頭部を打ち抜いた。
脳を激しく揺らされて、イグナートの意識が途切れた。
【パンドラ】を消費し、飛びかけた意識を無理やり繋ぎ止める。空気の爆ぜる音がした。紫電がイグナートの右腕に走る。
鼻から流れる血もそのままに、イグナートは渾身の一撃をビルの胸部へ打ち込んだ。雷光がビルの胸を貫き、鎧の胸部を炭化させる。
「う……おぉおおおお!」
「っ、ぁぁああ!!」
嵐のように、ビルが戦鎚を振り回す。
雷光のような速度でもって、イグナートが殴打のラッシュを浴びせかけた。
打ち合いが続いたのは、ほんの数秒程度の時間だ。
やがて、口から煙を吐きながらビルは仰向けに地面へ倒れた。
「……さぁ、“猛牛”ビルは討ち取ったぞ! 投降すれば殺さない! 逃げるのなら追撃する! 最後まで戦い抜くって言うのであれば相手になってやる!」
黒腕を頭上へ掲げ、イグナートは声を張り上げた。
猛り狂う軍人たちを引き付けながら、焔は後退を開始した。
後を追って来る軍人の数は、残り10名にも満たない。ビルが倒されたことにさえ、気づいていないほど頭に血が昇っているのか。
「優勢になったし……そろそろ傭兵部隊と交渉してるころだよね?」
「君たちのリーダーは誰だ? これ以上の戦闘は無意味と判断している」
アイリスが縛る傭兵たちへ、憂炎はそう問うた。
機械のブレードを手元で回すアイリスと、傭兵たちを睥睨しているベルナルド。数の上では傭兵の方が多いものの、彼らの専科は遠距離支援だ。
「より強い者を求める新皇帝が時間延ばしのやる気なしに報酬を出すと思うかね。帰ったら首が跳ぶのがオチだぞ」
「まぁ、死んでしまえば報酬も何もないからな」
憂炎の言葉に、ベルナルドが口を挟んだ。
アイリスのブレードが、傭兵の首に突き付けられる。
返答次第では、帰る前に首が飛ぶ。
「……向こうだ」
諦めたように、傭兵の1人が欄干の外を指さした。
突きつけられた銃口を、イーリンは旗の一閃で払った。
口笛を鳴らしてフクロウは高度を上げる。距離を取るつもりなのだろうが、イーリンは虚空を蹴るようにして飛翔すると、一瞬の間にフクロウの懐へ潜り込んだ。
たなびく旗が、2人の姿を橋の軍人たちから隠す。
「戦争なんてすぐに終わらせたいわね」
「だろうな。さて、戦争がいつまで続くかはともかく……まぁ、指揮官があの様じゃ、後方に戻るしかねぇよなぁ」
狙撃銃を棍棒のように振り回しながらフクロウは答えた。
イーリンは狙撃銃による殴打を、避けることなく側頭部で受ける。側頭部に滲んだ血が頬を伝うが、その瞳には一切の恐怖などは浮かばない。
まっすぐ前だけを見て、先へと進み続ける者の眼差しだ。その意思を見て、フクロウは大きなため息を吐いた。
「そういう目をした奴とは喧嘩したくねぇな。きっとしつこいに決まってるんだ」
「ザーバ派は人道に基いて行動しているわ。『塊鬼将』の悪辣な噂を、この戦で聞いたことは?」
「さぁ、どうだったかな。あぁ、ったく……この辺で報酬だけいただいて、どっかに逃げちまうのがいいか」
狙撃銃を背負い直すと、フクロウはゆっくり高度を上げる。
それから彼は、戦場に響き渡るような大音声でこう告げた。
「おぉい! 撤退だ! 爆弾が仕掛けられている! 指揮官と、生存者を連れて本隊に戻るぞ!」
そう叫ぶフクロウの手には、イーリンから渡されたのだろう、1枚の金貨が握られていた。
「トーチカとか、塹壕とか欲しい所だけど、そこまで手は回らないわね」
簡易砦の修復作業を手伝いながら、イナリはそう呟いた。
額の汗を拭うイナリの周りには、少年兵たちが集まっている。
「吾輩のインテリジェンスによって書かれた報告書もってして必ずや少年達に補給の物資を送らせてやるである」
そう言って練倒は報告書に筆を走らせる。
物資の補給や援軍の到着を要請するのだ。それが成れば、少しは橋の保守もやりやすくなるはずだ。
とはいえ、しかし……。
「結局はまた攻めてくるまでの時間稼ぎにしかならないからね……どこもかつかつなのは分かっているけどさ」
アイリスの言う通り、戦争はまだ終わらない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
軍人および傭兵たちは、生存者を連れ撤退していきました。
暫くの間、橋の無事が確保されます。
また、報告の結果、少年兵たちは、後方の別部隊を配置を入れ替えられることとなりました。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
橋の防衛(敵兵の撤退or壊滅or橋の完全破壊)
●ターゲット
・鉄帝国軍人×20人ほど
ビルという軍人に指揮される血気盛んな部隊。重厚な鎧と、戦斧、大鎚を装備している。
移動速度が遅く、命中率も低いが【必殺】【飛】を伴う力強い攻撃を得意としている。
・ならず者傭兵部隊×10人ほど
鉄帝国軍に随行する傭兵部隊。
フクロウ(仮称)という翼のある男性をリーダーとする傭兵部隊で、遠距離からの狙撃を得意としている。
※イフタフの予想では、彼らの情報操作により鉄帝国軍は橋の防衛を突破できずにいるという。
●フィールド
城塞バーデンドルフ・ラインへ至る渓谷。
橋の長さは200~250メートルほど。
素材は煉瓦と鉄骨という非常に頑丈なもので、馬車が4台は横に並んで走れる程度には道も広い。
渓谷を挟んで南側には、傭兵部隊の築いた簡易な砦がある。
渓谷を挟んで北側には、鉄帝国軍人およびならず者の傭兵たちによる混成部隊が逗留している。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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