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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>百本刀のくいな

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 百本刀のくいな。そう呼ばれる女がいた。黒髪の二刀流の剣士にして、大罪人。罪状は数えきれないほどの殺人、並びに強盗殺人。
 彼女はその名の通り背中に括り付けた大きな籠に、数えきれない程の刀を詰め込み、常に持ち歩いていたという。
 そして各地を放浪し、刀を持っている人間と見れば所かまわず襲い掛かり、斬り殺し、そして刀を奪う。刀を持っていない人間と見れば、気分次第で斬り殺す。
 そうして集めた刀の数は、くいなが捕縛された時点で百本に及んでいた。故に、百本刀のくいなと。そう呼ばれているのだ。
「だけど……だけど今は……アタシの背には100本どころか10本程度の刀しか挿さっちゃいねぇ!! アタシは優しいからちゃんと子分にも1本ずつ分けたしな、チクショウ!! 元々持ってた奴はパくられた時にぜーんぶ取られちまった!! アタシの気持ちがアンタに分かるかい!? なあ、なあ!!」
 くいなは今、とある小さな町の衛兵詰め所を、子分の囚人と共に襲撃していた。ここになら、刀を持っている奴もいるかもしれないと思ったからだ。
「知るか!!」
 衛兵はブンと斧を横凪に振るう。くいなは獣の様な体勢で身を屈めて刃を避ける。そのまま刀を手にし跳躍すると、衛兵の股から額まで通る二連の斬撃を刻み込んだ。
「真っ二つにしなかっただけ有難いと思いな……つーか、誰も刀を使ってないじゃないのさ!! なんなんだいこの詰め所はぁ!!」
「隊長!! 貴様ぁあああああ!!」
「怒ってんのはアタシの方だよ!!」
 激昂し、槍を突き出した衛兵の両腕を一瞬にして斬り落とし、くいなはその首にも刃を当てる。
「あんまりアタシをがっかりさせるんじゃないよ。泣けてくるじゃないのさ」
 言い捨て、音もなく首が飛ぶ。
「まとめて消えな、ボンクラ共がぁあああああああ!!」
 くいなは勢いよく地を踏みしめると、自らの身体を回転させながら刀を振る。剣先から放たれた斬撃の嵐は、衛兵たちを纏めて切り裂いた。
「ハッ、この程度……」
 くいなは吐き捨て、カチンと刀を鞘に納めた。
「これで全部かい……アンタら! 誰か刀を持ってた衛兵はいなかったのかい!!」
「へい、姉御。ああ……2本だけなら見つけましたが……」
「チェッ、しけてるねえ……まあいい、よくやった! こっちに寄越しな!」
 くいなは子分から刀を受け取ると、新しく手に入れた背の鉄籠に刀を納めた。
「あの、姉御……」
「なんだい?」
「なんというか、このやり方って非効率じゃないです? 刀が欲しいんならこんな場所じゃなくて、鍛冶工房とか武器屋とかを襲った方がいいんじゃ……」
「バッカお前、それじゃ意味がないんだよ意味が!!」
 くいなは子分の頭に強烈なげんこつを喰らわせる。
「誰かが手にして、生死を共にしてきた刀を集めるからこそ価値があるのさ! 分かるだろ!?」
「いえ、あんまり……イダッ!!」
「さっさと行くよ!! こんなしけた町にもう用はないからね!!」
 血の匂いが立ち込める詰め所を後にし、くいなたちは次の獲物を求めてさまよい歩くのであった。


「例の、新皇帝の恩赦によって解放された囚人達。その一部が徒党を組み、各地で暴れまわっている。今回君達に入った依頼は、そんな囚人の1人、『百本刀のくいな』と彼女が率いる囚人達の討伐依頼だよ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズ達に説明を始める。
「囚人たちは現在、サングロウブルク近隣の村や町を襲撃している。不思議な事に金品や食料等には大して手を付けず、立ち向かってくる相手を殺し刀を奪うことを重視しているらしい。何を考えているかさっぱり分からないけど、それはつまり戦闘を行える人間を積極的に殺して回っているという事。このまま蛮行を続けさせれば全体の防衛力も下りかねない。さっさと始末した方がいいだろうね」
 現在くいな率いる囚人一派はとある町での襲撃を終え、そこから近場のまた別の町へと移動している最中らしい。今から間に合えば、囚人達が襲撃を開始する前にその町に到着し、迎撃する事が可能だ。
「それでも、ギリギリだからね。戦場は町からすぐ傍の平野になるだろう。恐らく戦闘開始時刻は夕方だ。連中を1人残らず撃退、あるいは討伐するんだ」
 囚人達の正確な人数や武装は不明だが、襲撃の目撃者の証言によると、その全員が刀を所持していたらしい。それ以外の装備を持っているかは分からない。
「最も警戒すべきは、当然連中の親玉である百本刀のくいな。奴は元々、刀術の師範として活躍していたらしいんだが……何をどうして道を踏み外したのやら。今は刀を蒐集する事に憑りつかれた、ただの殺人鬼だ。しかし、その戦闘技術は折り紙付き。油断はしないでくれよ?」
 ショウはそう言い、説明を締めくくった。

GMコメント

●成功条件
 囚人『百本刀のくいな』と、その仲間たちの討伐、あるいは撃退。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
  当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
  闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
  https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●フィールド情報
 戦場となるのは、町からすぐ傍の平野。町を背にした状態でしいな一派を迎え撃つ形となる。
 時刻は夕方で、目立った障害物等は存在しない。

●囚人たち
 10人程度はいると思われるが、正確な数は不明。
 目撃者の証言によると、全員が刀を所持していたらしい。
 くいながかつて刀術の師範だった事もあり、全員がそれなりの練度を持つ。『命中』のステータスが高く、『出血系列』のバッドステータスを伴う攻撃が可能。

●囚人『百本刀のくいな』
 誰かが持っている刀を奪うことに執心する、黒髪の剣士にして囚人。
 熟練の剣技と鍛え上げられた肉体を武器に、イレギュラーズ達に猛攻を仕掛ける。
『物理攻撃力』『EXA』の能力に秀でており、『防無』や『Mアタック』を伴った強力な剣技を駆使する事が確認されている。
 独自の剣技開発により、様々な距離に対応したいくつもの剣技を持っているらしい。

 以上です。よろしくお願いします。

  • <総軍鏖殺>百本刀のくいな完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
シラス(p3p004421)
超える者
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

リプレイ


「ああ、綺麗な夕陽じゃないのさ……ところで、町はまだかい?」
 見晴らしの良い鉄帝の平野を、囚人『百本刀のくいな』とその子分たちが突き進む。平野を照らし出す夕陽は、その寒々とした空気とは相反するように、赤々と平野を照らし出していた。
「ほら、もうすぐそこですよ姉御……ん?」
「なんだい、なにか……おっとこれは……」
 くいなの前方を歩いていた子分が足を止め、くいなもまた夕陽から視線を外して前を向く。
「お前が百本刀のくいなか。ここにも『刀』はあるが……奪ってみるか?」
 そうくいなに言い放ったのは、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)。『瑠璃雛菊』と『白百合』。2振りの刀を抜き、くいなに見せつける様に突き付けた。
「…………いいね。久しぶりに大当たりの刀だ……構えな、子分共……こいつらの刀を全部奪ってやろうじゃないの」
「やってみろ……できるものなら、な!」
 ルーキスが威勢よく声を上げるのとほぼ同時に、くいなは2本の刀を抜いた。
「今日は良い日だ……赤い夕陽には、紅い鮮血が映えるってもんさ! さあ、死闘の時間だ!!」
 そして戦いが始まった。


「さぁアンタら、刀をよこしな! 刀を持っていない奴はさっさと死にな!!」
「おいおい、刀だけなんてつれないこと言うなよ、こいつも喰らいな」
『竜剣』シラス(p3p004421)はくいなに向けて静かに掌を向けると、魔力を帯びた深紅の熱波がくいなの全身を包み、その能力を一気に封じ込める。
「死線を共にした武器には魂が宿る。その考えには同意するが……人を害して奪って良い理由にはならない。斃され、奪われた人々の無念……その身をもって知るがいい!」
 シラスの攻撃の直後、ルーキスは2本の刀を構え、くいなに勢いよく接近。そしてくいなの首筋目掛け、二連の刺突を打ち放った。
「チィッ!!」
 ガキンガキン、と甲高い金属音が鳴り響く。くいなはルーキスが放った刺突の矛先を刃で逸らしたが、逸らしきれずに肩を掠めた。
「いきなり首は獲らせないよ、バンダナ野郎」
「……急所は外したが……この刀技は、それでもお前を苦しめるだろう……!」
「何を……グッ!!」
 不意に全身に激痛が走り、くいなは数歩後ずさる。ルーキスが突き出した刃に込められた神経毒が、瞬く間にくいなの全身を蝕んだのだ。
「く……お礼をくれてやるよ!!」
 くいなは目を剥き、刀を大きく振り上げた。次の瞬間、超速度の斬撃の嵐がルーキスを襲った。
「唯の力任せじゃない……確かな技術がある……だが……!!」
 ルーキスは全神経を集中させ、終わらない斬撃を次々と弾いていく。その一撃一撃は重いが、それでも受け止め、逸らし続けた。
「武人から外道に身を堕としたお前の斬撃を、大人しく喰らってやる道理などない!」
 不意に斬撃を受ける手を止め、身を逸らしたルーキス。くいなの体勢が一瞬よろめいたその隙に、くいなの脇腹に鬼の力を宿した斬撃を叩き込んだ。
「…………!! 唯のなまくら侍ってわけじゃあなさそうだね……」
 くいなは少し驚いた様に目を見開くと、刀を構え直す。
「それは当然ですね。私たちはイレギュラーズ、一般的な兵士とは違います。むしろあなたの方こそ、その背に挿した刀は宝の持ち腐れなのではないかという疑念を抱いていた所です」
『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)は『AAS・エアハンマー』を構え、全力でくいな目掛けて振るった。放たれた衝撃波が、くいなの身体を強く打ち付け、よろめかせる。
「ぐ……強いね。アンタ達、死ぬ覚悟でやりな!」
 くいなの言葉に、子分達は威勢よく応えて刀を構える。
「どうやら、部下たちの士気はそれなりに高い様だ……なら、親玉の命令にも忠実だろうな」
『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は、厄刀『魔応』を抜き、その地の血の様に赤い刃をしいなの子分達に突き付ける。
「刀を持っているのは1人だけじゃない……僕からも、奪ってみるかい?」
「やってやるよこの野郎!!」
 子分の1人が刀を構え、シューヴェルトに突撃する。シューヴェルトは刃を納め、居合の型で待ち構える。
「………………ここだ」
 子分が振り下ろした刀が当たる直前、シューヴェルトは抜刀。高速で放たれた斬撃は、刀ごと子分の身体を斬った。声も無く、子分はどさりと地面に倒れた。
「数がそれなりに多い。まとめて切らせて貰おうか」
 シューヴェルトは攻撃の手を緩めず、自身の周囲に展開した子分達に狙いを定め、トン、と軽く跳躍。
「付け焼刃の刀術で、どこまで僕の技に耐えられるか、試してみるとしよう」
 そしてシューヴェルトが放った無数の斬撃。剣舞の型の1つであるその斬撃の軌道を目で捉える事も出来ず、子分たちの身体が次々と斬りつけられていった。
「あっちにもこっちにも中々に魅力的な刀が……こりゃあ負けられないないねぇ」
 くいなが、斬撃の竜巻を生み出し、広範囲のイレギュラーズ達を巻き込む。
「最初から負けるつもりなんてない癖に……まぁ、それは我(アタシ)達も同じだけど」
 武器商人は舞うような軽やかなステップで竜巻を回避。そのままくいなの子分達に接近すると薄く微笑み。子分たちの心が、武器商人への敵対心で支配された。
「本当に刀にしか興味がないんだね! 刀コレクションがしないのなら鉄帝じゃなくて豊穣にでも泳いで行って欲しいね!」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、拳を構えてくいなに言い放つ。
「それじゃあ、意味が無いんだよ」
「まあ……命を懸けて鍛えた刀に価値があるってのは分からなくもないよ? 命を懸けて鍛えた筋肉の方が実践で応えてくれるからね!」
「それと一緒にすん……いや大体一緒か」
「大体一緒だね! だけど決定的に違う点は、キミはメイワクをかけてるって事! そういう訳でぶっ飛ばさせてもらうよ! まずはキミの子分から!」
 イグナートが、気功術を用いて自らの肉体を硬化し、一気に囚人達の中心に躍り出た。
 子分の1人がイグナートの側面から、脳天目掛け刀を振り下ろす。
「ザンネン! オレの身体がもうちょっと柔らかければいけたかもね!」
「んな……」
 イグナートが咄嗟に構えた右腕に刀が当たった瞬間、硬い金属音と共に刀が折れて吹き飛んだ。
「コレで終わり? この際だからオレがキミたちを鍛え直してやるよ! 刀だけにね! 死にたいヤツからかかって来な!」
 イグナートは武器商人に惹きつけられていなかった残りの子分達を纏めて惹きつける。
「ちゃんと集まってくれるとは、中々の覚悟だね! それじゃ、まとめてぶっ飛ばさせてもらうよ!!」
 惹きつけられた子分共が攻撃を放つよりも早く。イグナートが拳の連打を放つ。全方位に放たれた拳は子分たちの鼻先を穿ち、鳩尾を抉り、顎先をぶっ飛ばし、側頭部を思い切り打ち――とにかく殴りまくって、言葉通りぶっ飛ばした。が、根性のある子分はまだ立ち続けていた。
「百本刀に、それなりに鍛えられたようだ、が。鉄を斬れる、か。星を落とせる、か。試してやろう」
 その直後、『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がそう呟くと。言葉通りに鉄の流星群が降り注いだ。鉄も星も切り落とす事が叶わなかった子分たちは、流星群に巻き込まれて吹き飛んでいった。
「あーあー……アタシの子分共に手酷くやってくれるじゃないのさ……」
 くいなは激しく刀を振るいながら呟く。
「悪行三昧はアンタらの方だからな。何を言われる筋合いもない」
『隠者』回言 世界(p3p007315)はくいなの言葉に淡々と返すと、魔瞳『Gazing Eyes妖精加護Ω』に魔力を込めていく。
 そして魔瞳が微かな光を帯びたかと思うと、対くいなの前線を張っていたルーキスの周囲に小さな魔法陣が展開。瞬く間にルーキスの傷が癒えていった。
「しゃらくさい事をしやがるじゃないのさ……」
「俺は俺の力で出来る事をやっているだけだ。アンタだってそうだろう。まあその力を使ってやるのが刀狩りとは…………」
「ハッ、別に理解する必要はないよ。されたくもないしね」
 吐き捨てるくいなを、世界は静かに見据える。
「そうか。なら残念な事にわからんでもない部分もある。扱った者の思いや魂が宿る武器は新品のそれらと違い唯一無二の代物だからな。そこに価値を持つというのはわからんでもない……だからといってそれを容認するつもりは更々ないけどな…………さて、と。世間話をしすぎた。そろそろ囚人共には退場してもらおうか」
 世界は視線をくいなの子分達に向ける。世界の魔眼に茨の文様が浮かび上がり、一気に魔力が解放される。世界の周囲に剣や槍や銃やナイフや――ありとあらゆる武器が幻術によって創造され、それらが一斉に囚人達に向けられた。
「安心しろ、痛くはない。苦しさはあるかもしれないけどな」
 そして一斉に放たれた。弾丸が、刃が、矢が子分たちに襲い掛かる。それは確かに彼らの肉体を傷つける事はしなかったが、纏わりついた炎、体内から消滅した血と代わりに生成された毒。それらすべてに蝕まれ、次々と倒れていった。
「やるね……ますます、アンタらの刀が欲しくなってきたよ」


 既にくいなの子分たちは倒れ、残るは囚人くいなただ1人。しかしくいなは激しい応戦を続けていた。
「囚人達を引き連れた大将というだけあって、中々の実力だ。だが、このまま攻め切らせて貰う」
 シューヴェルトは自らの呪いの力を開放し、赤い斬撃を放つ。くいなはその斬撃を受けきれず、身体が斬り裂かれた。
「チッ……アンタらの刀は魅力的だが、随分と危険な賭けだ……止めるつもりはないけどね」
 全く戦意が衰えないくいなを、ウルリカは静かに見据えていた。
「本当に刀に拘りがあるのですね。先程世界様が仰っていましたが、地球という世界でベンケイという方がしていたという……まあ、その拘りそのものが枷になっている分だけ、理性的といえるかもしれませんが」
「いやぁ、どうかねぇ。戦えるヤツばっかり狙うってのは正直それはそれで痛そうだけどねぇ……」
「……そこをしっかりと理解した上で蛮行を続けているのですね。まあ……今回の件に関してはあなたの望みが叶う形でしょうか? 私達が持つ刀は、高級品や愛用品ばかり。この力量になるまで共にした武器までありますからね」
「そういう事だ。だから寄越せ」
「お断りです」
 ウルリカは光剣を構える。くいなの一挙手一投足を冷静に観察しながら、機を伺い、一気に踏み出した。
「中々に隙の無い構え……ですが、残念」
 ウルリカは三連の斬撃を眼前のくいなに放つ。二度目の斬撃まではどうにかくいなは弾いたが、最後の一撃が胸に突き刺さり、光の刃はその傷口を焼いた。
「ガッ……!」
「まだ終わりませんよ」
 更にウルリカは刃を抜くと、立て続けに三連の刺突を容赦なく放つ。くいなの構えの隙を的確に掻い潜ったその刺突が、くいなを更に追い詰める。
「こちらとしても、これ以上の兵力をあなた方に割くるもりがございません。正々堂々力比べをして、神妙にお縄につけ、です」
「アンタらが先に武器を捨ててくれるなら、考えてやってもいいけどねぇ……」
「ですからお断りです」
「なら死ね!! 今のお返しだよ!!」
 不意にくいながウルリカに放った二連の斬撃。ウルリカは一本の刀を光剣で受け止め、二本目の刀が身体を斬りつけていたが、その表情は変わらない。
「斬られたんだからもうちょっと面白い反応は出来ないのかい」
「気が向けば次はそうします。多分次の機会は無いですけど」
 淡々と答えたウルリカがくいなの胸に蹴りを入れ、そのまま大きく距離を取った。
「これ以上、貴様に誰の刀を奪わせも、誰も傷つけさせはしない!」
 そこにすかさずルーキスがくいなの眼前に飛び出すと、鬼の力を宿した斬撃を振るう。重さと速度を兼ね備えた斬撃がくいなの身体を深々と斬りつけた。
「く……全く計算違いだよ……アタシなんぞに目を付ける輩がいるとは」
 くいなは小さくため息を吐く。
「そりゃあ戦える人間を殺して回られちゃあ、誰だって困るってものだよ。この覇権争いに決着が着いた後も、速やかに治安を安定させてくれなきゃ困るんだから」
 武器商人はそう語りながらも、くいなとの間合いを測っていた。
「悪いが治世には興味ないんだ……という訳で、死になぁ!!」
 くいなは全方位に滅茶苦茶に斬撃を飛ばしまくるが、武器商人はゆらりとした動作でくいなに接近する。一筋の斬撃が武器商人の肩を斬った時、武器商人は小さく呟いた。
「"火を熾せ、エイリス"」
 すると武器商人の全身に蒼い炎が纏い。武器商人の肉体も魔力も強化されていく。
「……まあ、残念だけど。我(アタシ)達はまだまだ死ねないんだよ。悪いがそっちが死ぬか、再度捕まるかしておくれ」
 武器商人は全身の魔力を握りしめた拳に収束させ、そして拳を開いた。そこに生み出された蒼い炎を纏った魔剣を取り、武器商人は一気に振りかぶる。
「お断りだね。地獄も塀の中も、どっちもアタシには退屈で仕方がないだろうさ」
「どうかな? 地獄の鬼と殺しあうのも、そう退屈な話じゃないかもしれないよ?」
 そして一気に振り下ろした。くいなは構えた二本の刀でどうにか魔剣を受け止めたが、その衝撃に両手が痺れ上がる。
「あら、防がれちゃった……『コレ』以外は」
 武器商人が呟いた瞬間、魔剣に纏った炎が更に激しく燃え上がった。そして眼前のくいなに蒼い炎が襲い掛かり、その全身を焼け焦がした。
「グア……おかしな真似を……!!」
「悪いけど、おかしな真似はまだ続くんだ」
 炎を振り払うように後ろに跳躍したくいなを見つめる世界。そして魔眼の魔力を再度解放。くいなの周囲の空間に直接干渉すると、突如としてくいなの身体焼き、凍り、呪われ、圧し潰された。
「百本刀……大層な呼び名を持っている様だが、つまるところは刀狂いの強盗、か……その実力と行動がどうで、あれ。終わりは近い様だ、な」
 エクスマリアは仲間に祝福の力を放ち、くいなに削られた仲間の活力を回復しながらそう呟いた。
「刀狂いの強盗……まぁ間違っちゃいないけどねぇ。しょうがないだろう、もうそれ以外に興味が持てないんだよ、アタシは」
「……何故そんなにも刀が、欲しい? 剣士なら、愛刀一振りで十分、だろう?」
 至極当然の疑問。エクスマリアの言葉に、くいなは小さく天を仰いだ。
「さあ……自分でももう分かんないよ。最初は決闘で打ち勝った自分の力の証明として集めていた気もするが……まあどうでもいいだろ、そんな事」
「そう、だな……そこにどれだけの悪意が、存在するか、あるいは、存在しないかに、関わらず。オマエは、マリア達に敗けるん、だ」
「やってみなよお嬢ちゃん……!」
「行く、ぞ」
 エクスマリアは両手に蒼い魔力を宿し、くいなとの間合いを一気に詰める。
「アレンジはしているが、ぱぱの……ごほん、蒼剣の秘技、だ。逃しはしない、ぞ」
 その手に剣は握られていなかった。しかしその手に纏った魔力が刃の代わりとなり、放たれた蒼い連撃がくいなの全身に叩き込まれる。眼に捉える事も難しい不可視の連撃が、くいなの全身を打ち付けた。
「ガハッ……!! 見事……ク……アタシもまだまだって事か……」
 くいなは地面に刀を突き刺し、どうにか立ち続ける。しぶとく戦い続けていたくいなの肉体も、いよいよ限界が近づいてきていた。
「そんなキミに大切な事を教えてあげるよ! 奪うのではなく自分で練り上げたモノじゃなきゃ、本当の力を引き出せないってことをね!」
 イグナートが、くいなの身体の中心に右の拳を鋭く放つ。くいなは血を吐きながら地面に叩き伏せられたが、すぐさま立ち上がった。
「へ……アタシとした事がつい弱気になっちまった……誰が負けるか!! アタシはまた百本刀を集めるんだよ!!」
 追い詰められたくいなが、ここに来て更に闘志を燃やす。イレギュラーズ達を睨みつけ、二刀流の構えを取る。シラスが、そんなくいなを正面から見据えていた。
「やる気があるのは結構だが。俺達だって覚悟を持ってここに立っているんだ。アンタは、絶対にここで倒す」
 呟き、シラスがくいなを指差した。ただそれだけで、くいなの足元にはどす黒い呪いの雲が広がり、その全身に纏わりついては動きを封じた。
「あぁ鬱陶しい!! さっきからアンタは……」
「アンタが口を開いている間に、ほら。もう手遅れだ」
 刀を振り上げたくいなの動きが止まる。止めたのではない、動かなかった。
 くいなの周囲には既にシラスが不可視の糸を張り巡らせており、その糸がくいなの動きを更に封じ、容赦なく全身を切り刻んでいた。
「こ、の……野郎……アタシの、邪魔を、するんじゃないよ……!!」
「するよ、何度だってね。アンタがその刃をこちらに向ける限りね」
「……んあぁ鬱陶しい!! 斬る!!」
 くいなは無理やり全身に絡まった糸を引きちぎると、血まみれの身体でシラスに突撃する。首を刈り取る、必殺の構えを取りながら。
「――――」
 シラスは一言も発しなかった。全神経を集中させていた。
「ダラァ!!」
 刀が振り下ろされた。シラスは退がらず、一歩前に踏み出した。刃がシラスの肩に深々と突き刺さった。大量の血が噴き出した。
 噴き出したが、それだけだ。死んでいない。死んでいないのなら問題がない。シラスは更に前へ踏み込む。素早くその側面に回り込み、手を伸ばした。くいなが背負った鉄の籠に。
 一振りの刀を、シラスは掴み取った。
「なぁ、アンタ。呪いは信じるかい?」
「……ッ!」
 くいながシラスに目を向けた時、既に刀は抜かれていた。刃が、すぐ目の前にまで迫っていた。
「俺は信じるよ」
 くいなには、そのシラスの動きを捉える事が出来た。なのに、何故かほんの一瞬だけ、身体が動かなかった。
 かつてくいなが斬り殺したダレカの刀が、くいなの心臓を貫いた。
「ガフッ……アタシは……信じないよ……アタシを殺したのはアンタだ……刀じゃない……」
「そうか」
 そしてシラスが刀を引き抜くと、大量の血を噴き出しながらくいながどさりと仰向けに倒れ。そしてその時には絶命していた。
 戦いが終わった。
 赤い夕陽が、紅い鮮血を彩っていた。

成否

成功

MVP

ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

状態異常

なし

あとがき

 百本刀のくいな、並びに複数の囚人が死亡。生存していた囚人達はイレギュラーズ達の手によって捕縛され、然るべき場所に連行される事となりました。
 また戦闘後、ルーキスさんはくいなが所持していた刀を『元居た場所』に戻す事を提案。それらの刀は近隣の町の自警団を中心に、必要とする人々の元へ届けられました。

 上記の結果を以て、本依頼の結果は成功となりました。おつかれさまでした。
 MVPは、くいなを長時間抑え続けたあなたに差し上げます。

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