シナリオ詳細
<総軍鏖殺>えがおの道化師<大回天事業>
オープニング
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ナイフとボール、クラブにリング、それから、それから。
笑顔のピエロが機械の玉に乗って、様々なものをジャグリングする。ころころと玉を器用に転がしながら人々の間を進んでいくピエロは、涙を見せていた少年ににっこりと笑って――その首を投げナイフで断ち切った。
ケタケタ、ケタケタ。
「どんどん増やしていくのね! 私のすごいとこ、もっと見ていくのね!」
逃げようとする観客へ贈るナイフ投げ。拾った首はまとめて宙へ放られる。あがる悲鳴も断末魔も、ピエロにとっては見世物へ向けられた大歓声。
けれど、ヒトは有限だ。
「あれ? みーんな、いなくなっちゃったのね?」
唐突に気づいてきょろりと辺りを見まわすピエロ。ぼとぼとと回していた頭が周囲に落ちていくというのに、器用にナイフだけは手元でキャッチする。
辺りはどこもかしこも静寂に包まれていた。観客だった難民は全て頭や四肢といった一部分を切り落とされ、ピエロのジャグリングに使われていた。残った胴体をピエロの乗る蒸気式機動装甲球『ライド・オン』が引き潰す。ぐしゃりと潰れる音の後に、ライド・オンの通った道が赤く彩られた。
「んー、次はどこにいくのね?」
ころころころろん。ピエロはそんな惨状を気にした風もなく、ライド・オンをころころと転がして行き先を決めるようだった。その下で次々と引き潰している遺体には目もくれず「あっちなのね!」と方角を決める。
「次もたくさん、たくさん回すのね~!!」
ピエロはぱっかりと二つに割れたライド・オンの中に収まって、高速移動を始める。その道中に何が居ても止まることなく避けることなく、赤い花を咲かせながら――。
●
『大回天事業サーカス団』とは、いつぞやに鉄帝の監獄へ収容された死刑囚たちの集団である。そしてこの皇帝交代により監獄から釈放された者たちのことでもある。まさか彼らまで放たれているとは多くの者が思わなかっただろうが、それだけ皇帝の新ルールが深刻な問題であることを示す象徴ともいえる。
――新皇帝のバルナバス・スティージレッドだ。
諸々はこれからやっていくとして、俺の治世(ルール)は簡単だ。
この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ。
強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
どうした? 『元々そういう国だろう?』
正真正銘の弱肉強食――大回天事業サーカス団は強いから生き延びる。観客にさせられた難民たちは弱いから殺される。それだけだとも言えてしまう。
「だが、それを是とするわけにもいくまい」
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は険しい表情で報告書と、追加で寄せられた情報を睨みつける。
一度はイレギュラーズが退けた大回天事業サーカス団だが、完全に撃破できたわけではない。彼らは主要メンバー1人ずつと機械獣たちで分かれて『興行』を行っているという。当然、ただの興行であるわけがない。
フレイムタンおよびイレギュラーズたちが狙うのは『玉乗り道化師』クラウン。彼もまた、難民へ向けての興行を行っているそうだ。
「急ごう。準備は良いか」
イレギュラーズがフレイムタンの言葉に頷いた。難民たちの命を、えがおを守る為、残虐なサーカス団には改めて退いてもらわねば!
●
息を潜める。外を警戒し、武器になりそうなものを握りしめる。
そんな生活にシェルターの人々が疲弊するまで、十分な日々だった。
元々持っていた武器はここまで生き残るのに、あるいは誰かを助けるために摩耗して。もう刃こぼれだらけでロクな切れ味は期待できない。
食糧だって釈放された罪人たちがあらかた店から持っていってしまって、店を営んでいた爺は――その昔は軍属だったという話だったが――あっというまに捻り殺されてしまった。
ここにイレギュラーが起こったならば、疲弊から引き起こされるパニックは即座にシェルター内で伝播して、想像もつかない惨事を起こすだろうことだけは想定できる。
だからどうか、何も起きませんように。
そう願う彼らのシェルターへ向かって、複数体の駆動音が着実に迫りつつあるのだった。
- <総軍鏖殺>えがおの道化師<大回天事業>Lv:40以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年11月17日 23時20分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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「いやァ、『サーカスを名乗る不味い集団』を相手にするのも随分久しぶりだねぇ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)の言葉はいつかの――思えば、随分とあれから経ってしまった――幻想に現れたサーカス団を思い出させた。あの頃は召喚されていなかった者たちも、ローレットの片隅にある報告書を見たことがあれば、多少思い出すこともあるかもしれない。
「とはいえ、今回はかなり直接な殺戮のようだけれど」
「嫌な状況だ。弱いものから死んでいく」
ヒヒ、と感情の読めぬ笑い声を上げた武器商人。『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は渋い表情を浮かべた。
(あぁ、全く。グランギニョルとは悪趣味だ)
早く止めなければ、罪なき者の死体が積み上がる。彼らはその上で笑って――行き着く先なんてきっと、見てやいない。
(ぼくが、ぼくたちが、逃がしたから)
皆と共に駆ける『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はひっそりと落ち込んだ。
ふざけた道化師――クラウンとは、一度戦ったことがある。あの時は追い払えた。けれど本当は"追い払う"ではなくて"倒しきる"べきだったのだ。
追い払ってしまったから、彼らは『興行』などという人殺しパレードを続けている。あの時止められたなら、今も生きていたはずの人がいるのに。あの時、自分が、ちゃんと動けていたら。
そんな過去への後悔など、今を鈍らせる足枷にしかならない。リュコス、小さく息を吸って、吐いて、むんと気合を入れる。
すくえなかった命がある。まだ救える命がある。ならばこれ以上、取りこぼすわけにはいかない。
リュコスの表情に気づいた『焔の因子』フレイムタン(p3n00068)は安心したように一瞬だけ小さく笑みを浮かべ、真剣な顔つきで急ごう、とイレギュラーズを促した。
「先に行くね!」
『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が瞬間加速装置で先に飛び出していく。
(強いから生き延びる。弱い人は虐げられても仕方がない。命を奪われても、なんて――私は絶対に認めない!!)
どんな世界でも、どんな場所でも、命は等しく尊いのだ。無為に奪おうというのなら、止めることを躊躇する理由はない。
――見えた!
機械で出来た獣の群れ、大玉と、それに乗る道化師。そのど真ん中に飛び込むと「うひゃあ!」なんて間抜けな声が上がる。
「どうしても『興行』したいのなら、そんな芸見たくもないけど私が見てあげる! しばらく相手をしてもらうよ!」
「誰なのね? でもでも、見てくれるなら見てもらうのね!」
アレクシアの魔力が散る。花弁が綻ぶようなそれに獣たちが彼女を見る。道化師――クラウンはまだまだとぼけ顔、と言ったところか。
たかが一瞬、されど一瞬。確実に彼らの足を止めたアレクシアの背後から、追いついた仲間たちがクラウンたちを視界に入れる。
「もう、サツリクはさせない……ギセイもゆるさない!!」
リュコスが持ち前の五感でアニマールたちの位置を把握し、アレクシアの後ろへと抜けた個体を挑発する。こっちだと、シェルターとは別の方向へ誘導する傍らで『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)がクラウンへ肉薄した。
「――ここまで来る間、潰れた遺体を見たわ」
「んふふ、見てくれたのね? きれいなおはなが咲いたのね!」
楽しそうな、嬉しそうなクラウンにリアは怒りを覚える。ああ、こいつは悪いことをしたなんて微塵も思っちゃいないんだ!
「もう花を咲かせるのは……いいえ、何もさせない。あんたはここで終わるのよ」
何を言っているのだろう、というようにクラウンが首を傾げる。とぼけさせなどするものか。
「手早くカーテンコールといこう。二度と、興行などできないように」
「そうだね。シェルターを守り切ろう」
ジョージの放った黒の斬撃を死角とするように、『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)のケイオスタイドが発動する。シェルターへ近づこうとするアニマールたちが初手の斬撃を避けるも、泥に足を軽く取られた。
それに追い打ちをかけるように、遺失魔術のアミュレットが力を発揮する。マルクの生み出す泥がアニマールを捕らえ、思うように動かさない。
(そろそろ初動としては落ち着いたかな)
ぷるんと体を震わせた『頂点捕食者』ロロン・ラプス(p3p007992)。ぬるりとしたタコ成分を分泌し、アニマールの群れへ分身をけしかけていく。ぬるぬる塗れになったところへ『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)の放ったAGⅡが牙を剥いた。
「さぁ観客は此処です。最前列にいるんですから、間近で存分に見せて下さい」
機械仕掛けの動物芸。最も、すでに思うような『芸』の出来ない獣がいるようだが――ならば命尽きるまで存分に魅せてもらうとしようではないか。
「我(アタシ)たちが観客かい?」
「避難民を観客にさせるわけにはいきません」
道理だね、なんて呟く武器商人。その身が放った何かは機械で出来た命を不安へ駆り立てる。
「ヒヒ、極自然なことさ。さぁ、おいで?」
手を広げる武器商人は、されど彼らを迎え入れない。捉えようとすればその高熱は身を掠めるばかり。弄ぶ武器商人は、しかし鋭く飛んできたナイフに朱を散らす。
「っ……」
「あれ? 外しちゃったのね。ホントならその額にグサッ! と命中だったのね~」
ありゃあ、というように額を押さえるクラウン。そんな彼をアレクシアの魔力が執拗に突っつきせっついて、漸く視線を向かせる。
「アレクシアさん、」
「任せて! 大丈夫、油断はしないよ」
頷いたリアがクラウンから距離を取り、シェルターの方へと向かう。先んじてフレイムタンに向かって貰っていたが、何の障害もない状態ではどうしても――誰がいたとしても――心もとない、と言うべきか。
しかし、アニマールは仲間たちによって二重三重に抑えられている。乱撃を繰り出すリュコスは的確にアニマールの関節部を狙い、それを支援するようにマルクのケイオスタイドがアニマールたちを翻弄する。だがあちらも戦闘に長けた生命体、発熱した爪がジュウと火傷痕を付けた。
「この猛獣にはしつけが足りないようだな」
だが、そんな高温も者ともしない。ジョージの掌打が鋭くアニマールの1体へと刺さり、機械獣の身体は勢いよく転がった。
「どちらが格上か、その身に刻み込んでいけ!」
「ジョージの旦那、熱いねぇ」
武器商人はそう呟きながらすっと後ろへ下がる。丁度アニマールたちの興味が自分から失われたタイミングだ。武器商人はフレイムタンとリアの守るシェルターの方へと向かった。
「そんなに私の芸が見たいのね? 嬉しいのね、張り切っちゃうのね~!」
アレクシアへ張り切るクラウン――そう促されていると分かっているか、不明だ――は、何処からともなくジャグリングの道具を持ちだす。ナイフとボール、クラブにリング、それから、それから。生首。
「……まさか、それ」
「これ? これまでのお客さんが"くれた"のね」
にっこり笑うクラウン。くれたと言っているが、実際は奪い取った、だろう。乾き始めた血の臭いと、虚ろな瞳がアレクシアを向いている。
「ここにいるみんなのも欲しいのね!」
「上げないよ!」
アレクシアの放った魔力の花弁がクラウンを穿たんとする――が、それをひょいと器用に大玉の上でジャンプして躱してくる。だが、通すものかと身体を張るアレクシアによって、クラウンが進むこともまたままならない。彼女の攻撃も通りにくいが、まだ押さえていられる。それはクラウンが攻撃ではなく防御に長けていることも一因であろう。
一方、あらかたのアニマールが誰かに意識を向けたことを見てとったボディは、他の仲間と位置を調整し、より範囲攻撃に多くの機械獣が入るようにと調整する。当然、ボディへの攻撃がその間にやむことはない、が。
「っ……おひねりが欲しいなら、あげますよ」
高熱。それを感じ取ったボディは、すかさずカウンターを叩き込む。きゃん、と獣らしい鳴き声が上がった。
その足元をぴょんぴょんと、ロロンが跳ねる。充填の量を鑑みながら放たれるヌルヌルの分身は、良い具合にアニマールたちをすっ転ばせていた。そのぷるぷるボディは例え高熱を受けようとも簡単に溶けることはなく、攻撃の合間に抜けそうな敵を通せんぼにかかっていく。
「――こんなものかね」
「ええ、いいと思うわ」
武器商人の言葉にリアが頷く。その間に焔を纏った拳で敵を殴りつけたフレイムタンも、一瞥して問題ないと首肯した。
あちらが本気を出せば破られてしまうだろう、けれども多少の事であればやすやすとは突破できないバリケード。近くに瓦礫やら色々な物が転がっていたことも幸いして、材料集めにも時間はかからなかった。
「それじゃ、後は任せていいかい」
「ああ、任されよう」
フレイムタンは武器商人へ頷いて見せる。リアは安心できるわと小さく笑って、すぐさまその身を翻した。
(まずは誰から回復する? それとも攻めるべき?)
素早く見回して状況判断し、加護を贈るべき相手を決める。武器商人は敢えてその候補から除外した。あの人であれば放っておいても問題はないだろう、と。
「ヒヒ、信頼されてるね」
それじゃあ頑張りますか、と武器商人はアニマールたちを見渡す。さあさ、身の内に起こった不安のままに牙を剥くと良いよ。
マルクは障害物に守られたシェルターを横目に、アニマールたちを攻撃していく。その動きに跳躍の前兆がないか確認しながらも、シェルター内がどうなっているかという心配は尽きない。
(扉から離れるようには言ったけれど、落ち着いて待っていてくれているだろうか)
不安を感じないわけがない。恐怖を感じないわけがない。けれど恐慌状態に陥った集団は何を起こすか予測不可能で、危険だ。どうかそうなっていないようにと願いながら、マルクは残存するアニマールたちの動きを注視する。
「Urrrr――!!!」
リュコスの発した唸り声と共に、吐き出された闘気がアニマールたちを強かに打ちつける。すかさずジョージが掌打をくらわせ、1体を沈める。ボディは自らを修復すると、アニマールたちを見据えた。
「どれだけ群がられようが、爪牙を突き立てられようが、上等です」
負けるものかと構えるボディ。しかしその目の前で、突如アニマールが転倒する。ロロンがぽよんと震えた。
アニマールの数も減ってきた中、アレクシアは自身を回復しながらクラウンの攻撃を耐え忍ぶ。幸い、時間が経てば経つほど有利になるのだから、ここを耐えきれば一気に攻勢へ立てるはずだ。そんなアレクシアをリアの加護が癒していく。
あともう少し。もう少し。――最後のアニマールが、倒れる。
「もうみーんないなくなっちゃったのね!」
びっくり、と驚きの感情を全身で示すクラウンへ、リュコスが接敵する。
「ここでたおれてもらうよ!」
「ええ。下手な大道芸は、これ以上させません」
リュコスにボディも続く。道化が人を笑わせることを仕事とするならば、クラウンは道化師として三流以下だ。
「下手じゃないのね! むきー!」
じゃっと両手に投げ道具を持ちだしたクラウンが所かまわず投げまくる――の割には的確な投げ方だ。ジョージはそれをかいくぐりながらクラウンへと肉薄する。側面からの攻撃を受け、クラウンはよたよたと大玉の上でよろめいた。
「いたいのね!」
「当たり前だ」
ふんと鼻息を鳴らすジョージ。武器商人がすかさず魔剣を振りかざす。甲高い音と共に、確かな手ごたえが響いた。
「アレクシアさん、もう少し頑張って」
マルクのヒールを受けながら、アレクシアは自身を回復させる。が、ここまで1人で耐えてきた反動か。流石にジリ貧であることは否めない。
(それでも、まだ……もう少しだけ!)
足の力を振り絞るアレクシア。前に出るジョージが力強く掌打で仕掛ける。
「ここから先はチケット制だ。残念ながら売り切れているがな」
「この先には私の観客がいるのね!」
苛烈な攻撃に、しかしイレギュラーズは屈しない。マルクの破邪の結界がクラウンを閉じ込める。
「人を笑顔にするサーカスの装いで、これ以上の殺戮は絶対に許さない!」
「そのジャグリングしている首みたいに、仕留めたら有効活用してあげるよ。正直、機械は食べた気がしないんだけどね」
ロロンもまたクラウンの手元や足元が狂うようにと攻撃を加えていく。一筋縄でいかないのはさすがサーカス団の中でも名の知れたメンバーと言うべきか。
「さぁ、カーテンコールの時間だ!」
「まだまだおわらないのね! らいど・お~ん!」
ジョージの掌打を受けながらもクラウンが装甲球の中へと納まろうとして、しかしリュコスの攻撃に弾き飛ばされる。
「さいしょ見た時はびっくりしたけど……もう、見たことのあるわざだよ」
畳みかけるリュコス。命を奪う事を何とも思っていない道化師への鉄槌は、確実にクラウンの力を削る。
「楽しそうに……でも笑っていられるのももうおしまいだから!」
「おしまいじゃ! ないのね!」
ガシャンガシャンと機械の足を動かして、跳躍したクラウンが再びライド・オンの上に乗る。そして勢いよく転がってくる姿に、武器商人はすかさず攻撃をくらわせた。しかしクラウンは止まらない。リアが力強く踏み込む。
「罪なき人々の命を踏み躙る貴様らを、あたしは決して許さない! 装甲ごとぶち抜いてあげるわ!!」
一条の流星のように細剣が薙ぐ。深くクラウンの身を裂いたその攻撃は――しかし、クラウンを止めるには僅かに足りず。
「待って……!」
はっとアレクシアが気づいた時には、その勢いは止まらない。
「またの興行をおたのしみに、なのね~!!」
途中からぴょんっと跳ねたクラウンは、そこまで血の跡を残しながらもライド・オンに収まり、恐るべき速度でどこかへと消えていった。
●
張り詰めた空気。それを震わせるものがなくなって、人々はただ息を殺すことしかできなかった。
勝ったのは――生き残ったのははたして、どちらなのか。入口を開ける勇気はなく、誰もがじっとするしかできない。その終わりを告げたのは、"外から"入口を開けようとする音だった。
障害物でもあるのだろうか、シェルターの入口に到達するまでは長く。しかし確実に近づいて来る物音に、人々の手がすぅと冷たくなる。
どうか、どうか。助けに来てくれた彼女らであってくれと。そう祈るしかできなくて。
物音を立て、いよいよ入口が開かれる。ある者は我が子を抱きしめ、ある者は隅に縮こまり、またある者は持ってきた荷物を抱えて飛び出す準備をして。
「――戦闘終了しました。今、この時点の安全と安心を保障します」
ボディの姿と言葉に、限界まで張り詰めていたシェルター内の空気が解ける。部屋に積もるため息を感じながら、ボディは周囲を見回した。
(笑えやしないと思考します。鉄帝の現状を鑑みるに、安心安全なんて限定的だ)
今はしのげた。次はどうだろう。その次は?
鉄帝が新皇帝の発布した勅令に蹂躙されるか、皇帝が再び変わるまでは同じ状態が続いていくのだろう。
「あたしたちは特異運命座標よ! 外の連中は片付けました!」
「怪我をしている人はいないかな? 良かったら治療するよ!」
その後ろからにょきりと顔を見せたリアとアレクシア。程なくして奥の方から手が上がる。
「ばあちゃんが足を怪我してんだ!」
「今行くよ!」
アレクシアが人の間を縫うように進んでいく。瓦礫に足を取られてしまったのだという老女の足を魔法で治療すれば、次はとあちこちから手が上がり始めた。
「順番にね! 大丈夫、全員治療してあげるよ」
アレクシアの献身と、治療のあてが出来たことで人々の表情が柔らかくなる。ぽつぽつと喋る声も聞こえ始めた。そこに武器商人は混じって、前皇帝の行方について聞き込みを始める。自分達のことで精一杯で、知らない可能性が高いが――もしかしたら案外、掘り出し物があるかもしれない。
落ち着いてきた様子に、リアは精霊たちへ声をかける。
「綺麗に彩った、あたしの演奏を届けたいの」
リアの言葉へ、精霊たちは肯定するようにきゃらきゃらと笑って飛んでゆく。突如始まった幻想的なショーに、人々の視線は釘付けになった。
「……聞き込みは良いのか」
「ヒヒ。玲瓏の方にこうも惹きつけられちゃ、静かにしているしかないだろう?」
武器商人はフレイムタンに小さく笑う。彼はシェルターの中を見遣って、そうだなと呟きながら目を閉じた。
暖かな旋律が降り積もる。それは難民たちにとって久方ぶりに心を震わせるものだった。ようやく見えた笑顔にリアも顔が綻ぶ。
「皆、良かったらだけれど、ギア・バジリカに避難しない? あそこならもっと頑丈で、沢山の人と励ましあえるわ」
「そうだね、その方がより安全だとは思う。でも、もしそういう気持ちが起きないなら……私達はいつだって駆けつけるよ。だから安心して。
大丈夫、魔女は嘘はつかないものだから!」
「うそつかないの?」
舌足らずな子供がアレクシアに聞き返す。そうだよ、と頷いたアレクシアに、幼子はぱっと笑った。
「じゃあ、やくそくだね! まじょのおねぇちゃん!」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
アニマールは全滅、クラウンは大怪我を負ったようです。
GMコメント
●成功条件
『玉乗り道化師』クラウンの撃退、あるいは撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●フィールド
鉄帝市街。難民たちのいる避難シェルターの目と鼻の先であり、入口は開いていないため現時点では『難民の安全は保障されます』。ただし破壊されたならその限りではありません。
市街は破壊の痕が目立ち、空が広く見えるでしょう。最も破壊の痕はクラウンたちのものばかりではなく、もっと前に魔物が街を襲撃したと見られます。
障害物が多いです。生かすも殺すもその場にいるもの次第です。
敵を確認時、イレギュラーズたちとの距離は40m程となります。敵からシェルターまでの距離の方が若干近く見えます。
●エネミー
・『玉乗り道化師』クラウン
今回のボスエネミーです。『大回天事業サーカス団』のメンバーであり、改造人間です。常に笑顔を絶やさず、高難易度の技も軽々とこなします。喋り方などは、どこか無邪気な子供がはしゃいでいるような印象を受けるでしょう。
攻撃能力は高いですが、どちらかと言えば防御よりの戦闘を得意とします。彼を突き崩すのは難易度が高いです。
ジャグリングやナイフ投げなど、アクロバティックな動きが多いです。
また乗っている蒸気式機動装甲球『ライド・オン』は鉄壁の重装甲を誇り、その中にクラウンが入った状態で暴れまわることもあります。高速回転で迫ってくる装甲球は非常に危険です。蒸気を噴霧して短時間のジャンプも可能であり、クラウンはこれらを巧みに使ってきます。
・量産型機械獣『アニマール』×15
蒸気仕掛けのライオン。ベスティエの操るアニマールの量産個体です。クラウンが命令をする様子はありませんが、彼の意思に反する行動は見受けられません。
噛み砕くための牙や切り裂くための爪を搭載しており、攻撃時にはこれらが高温で発熱し、焼き切るような攻撃を繰り出します。シェルターの入り口も容易に破ってしまうでしょう。
攻撃性能・防御性能ともに高く、同個体同士で連携するような素振りを見せます。油断をすると体の一部を焼き切られてしまうかもしれません。
●友軍
・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
精霊種の男性。現在ローレット銀の森支部にいることが多く、今回もそこから皆様と共に現場へ向かっています。物理系ファイターでそこそこ戦えます。
基本的にアニマールへ攻撃を仕掛けますが、万が一にシェルターが突破された場合、難民を守るために動きます。
イレギュラーズからの指示があれば、可能な限り従います。
・難民たち×??
シェルターに避難する難民です。老若男女様々で、怪我人も、襲われてもすぐに逃げられない者もいます。
シェルター外の音に不安がっていますが、外へ出て様子を見ようという者はいません。入り口がこじ開けられた場合、パニックになることは想像に難くないでしょう。
●ご挨拶
愁と申します。
残虐なるサーカス団が難民たちを狙っているようです。止めなければ罪なき者が多く犠牲となるでしょう。
それでは、よろしくお願い致します。
●クラウン初登場シナリオ
『<総軍鏖殺>大回天事業サーカス団』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8444
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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